著者
吉村 太彦 久野 純治 棚橋 誠治 諸井 健夫 日笠 健一 福島 正己 福来 正孝
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

研究代表者の吉村は、宇宙論と素粒子物理の接点で焦眉の課題である、物質・反物質不均衡の問題をレプトジェネシス理論で解決するときの諸問題を整理して、今後、実験で解明すべき研究を明らかにするとともに、新たな実験原理を提唱した。特に、励起準安定原子のニュートリノ対生成のレーザー増幅過程が、ニュートリノ質量のマヨラナ性の確定と質量絶対値、混合角度の精密測定に有用であることを指摘して、大きな世界的反響を得た。諸井は、超対称模型に基づく宇宙進化のシナリオに関する研究を行なった。特に、宇宙初期に作られるグラビティーノが宇宙初期元素合成に与える影響を調べ、インフレーション後の宇宙再加熱温度の上限を求めた。この仕事は、関連する一連の研究の決定打として世界的に高い評価を得ている。久野は、超対称模型における暗黒物質探索のための理論研究を行なった。特に、暗黒物質と原子核との散乱断面積、暗黒物質の対消滅過程における量子補正の効果の評価を行なった。棚橋は、TeVスケールコンパクト化された余剰次元模型における電弱対称性の破れ(素粒子質量の起源)のメカニズムを考察し、いくつかの素粒子標準模型を超える模型を提唱した。また、これらの模型に対する現象論的制限を求めた。
著者
樺島 祥介 岡田 真人 田中 和之 田中 利幸 石井 信 井上 純一
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では,特定領域研究「情報統計力学の深化と展開」を円滑に推進するために,本領域全体の研究方針の策定,研究項目間の調整,国際研究集会・公開シンポジウム・講習会の企画実施,研究成果の広報,研究成果に対する評価・助言を行った.主な実績としては,計4回の公開シンポジウムおよび計6回の国際会議の開催,4冊のプロシーディングスの発行が挙げられる.これらの活動の成果は計280件を超える領域内から発表された原著論文等に反映されている.
著者
高倉 弘喜
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

まず、研究対象のデータとして、数Gbpsクラスの巨大なトラフィックデータを不正アクセス検知装置(IDS)で観測した警報を対象とした。京都大学に設置されたIDSでは、毎分200件程度の警報が出ている。ただし、このうちの99%は誤検知、あるいは、被害を生じない過去の脆弱性を狙った攻撃である。残り1%は、既知ではあるが脆弱性対応が不完全で被害を生じる可能性の疑われる攻撃、もしくは、攻撃の存在を遮蔽するため意図的に過去の攻撃を模倣した未知の攻撃である。また、大量の誤検知に埋もれてしまっているが、(D)DoS攻撃に関する警報も散発的に発せられている。本研究では、この1%の攻撃、あるいは、(D)DoS攻撃を抽出する手法を開発した。まずは、IDSに関するマイニングアルゴリズムのベンチマークデータとして広く利用されているKDDCup99データについて調査を行い、当該データがIDSの性能評価には不向きであること、特に、41次元データ中8次元程度しか有為な情報を持たないため、巧妙化・複雑化した最近の攻撃を反映できていないことを示した。次に、京都大学のIDSデータに対するマイニングアルゴリズムの開発を行った。前日、1週間前、1ヶ月前、3ヶ月前、6ヶ月前それぞれの警報データを全て正常データ、すなわち、誤検知として学習させクラスタリングを行なった。次に、生成されたそれぞれのクラスタを用いて、当日の警報データの判定を行った。さらに、異常データと判定された警報を、ハニーポットで検知された攻撃データと比較した。その結果、僅か十数件しかなかったが、マルウェアallapleのゼロディ攻撃が開始されたことによる警報であることが判明した。また、マイニング結果の可視化手法も開発し、上記allapleに起因する警報を強調表示したり、誤検知に埋もれていた(D)DoS攻撃を強調表示することで、攻撃を認識しやすい可視化を実現した。
著者
中村 振一郎
出版者
株式会社三菱化学科学技術研究センター
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

理論計算が最大限に効果を発揮すれば実測では得難がたい展開が可能である。本研究は理論およびシミュレーション計算科学を活用し、実験との融合によってもたらされる知見を獲得し、過去、全く予想されなかったジアリールエテンの極限性能の発見につながる解析結果を提供することを目的として、フォトクロミック化合物の用途開発を目的として開始した。メモリー素子など既に試された用途でなく、隠れた特性を引き出すのは基礎研究であり計算科学である。最も大きな成果は、三重項を経てフォトクロミック反応が起こるという仮説を計算によって得られたポテンシャル面が検証したことである。系間交差を可能にする要因として、これまでに知られていた重原子でなく、蛍光色素にリンクしたベンゼン環の回転によってスピン自由度の交換が可能であることが示唆された。さらに穐田教授(同領域内の実験研究者)らが合成したFe, Ru錯体についても、三重項が関与して反応が進行していることを、おなじく非経験的分子軌道計算によって裏付けつつある。スピン-軌道相互作用、ポテンシャル面の詳細など、さらに幾つかの点の詰めが終ればこの結果から、磁性に深く関与した応用用途を提案できるであろう。現在執筆中である。次に来る成果は、宮坂らが観測している量子ビートQBの解析である。励起状態の半古典ダイナミクス計算によって、確かにS1励起状態がビートを与えるように振動していることが計算から明らかになった。置換基依存性、開閉反応の量子収率との関係を考察して執筆開始予定である。最後に、松下教授(同じく同僚域)のPt系が示すフォトクロミック反応のメカニズムについても解析を始めた。この課題はこの領域ならではの難問である。おそらく、これまでの既存のパターンの反応機構とは全く違うメカニズムが予想される。
著者
磯部 彰
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

明清時代以来、宝巻は民間秘密宗教の経典として見られて来た。そして、反体制の出版物であったがゆえに、原刻本は多く禁書とされたため、写本や清末民国の重刻本が残るにすぎず、出版文化史からは研究しにくい分野であった。しかし、実際に、中国やアメリカに残る明代の宝巻を調査すると、古宝巻は教派系と呼ぶ民間宗教経典と故事系と称する民間文学作品に大別され、明代前期以前は教派系宝巻が主流であったことが判明した。本計画研究の、前半2年間は、明代及び清初の教派系宝巻の原刻本の所在調査とその書誌研究に重点を置き、従来知られてはいなかった『普覆週流五十三参宝巻』という黄天道の教派系宝巻を発見し、その内容及びその製作者が華北の宣府(宣化県)出身で、出版は北京城内にあった経舗の一つ、党家に依託したことを明らかにした。後半2年の研究では、明刊教派系宝巻を刊行した版元の性格について分析を行なった。明代の宝巻は、かなりの種類が北京城内で出版され、版元は党家などの経舗が受け負い、施主は弘陽教の宝巻などが巻頭に記すような皇妃・宮女、皇親・官僚、或は、地方の地主や郷紳などが資金を提供しつつ、各教派の宗教活動を支援していたらしいことがわかった。経舗では、北蔵などの官版も印刷を受け負っていたので、宝巻と官版宗教経典とは版本としての体裁も似通うか、同類に属していた。つまり、版元から宝巻の性格を考えた時、明代から清初にかけて、経帖装の教派系宝巻は、王朝の出版統制の網にはかからず、禁圧されることになるのは、清の雍正時代以降のことであった。
著者
石黒 浩 中村 泰 岩井 儀雄
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

22年度では,三者間の非言語コミュニケーションを用いた親和的な情報メディアの創出を目的として,病院の診察場面に陪席するアンドロイドを用いた実証実験に取組むと共に,ヒューマノイドロボットを用いたロボット演劇に取組み,アンケートを実施することで演出家による演技指導の中に含まれるロボットの自然な振る舞いについてのルールの抽出に取組んだ.さらに,小型で単純な構造を持つロボットを利用することで,人間がもつ対話に対する印象に与える影響を調査することで三者間でのコミュニケーションの仕組みの理解に取組んだ.これらの技術を支える動作認識機能を利用した動作生成メカニズムとして,視覚や聴覚に基づいた対話への陪席者として自然な自動動作生成法の開発も行った.病院での実証実験では,医師の後方に陪席アンドロイドを設置し,その振る舞いが患者の持つ診察に対する印象にどのような影響を与えるかを調査し,陪席者としてのアンドロイドが患者の笑顔や頷きに合わせてそれらの表情を表出することで,患者の診察に対する印象が向上することを明らかにした.この結果は,以前行った実験と整合性を取ることが可能なものである.また,以前の実験において課題となっていたアンケートの天井効果などの問題も克服した結果となっており,この知見に対する信頼性を向上することができた.ロボット演劇においては,動作生成システムに改良を加え,それを用いて40分の長編演劇である"森の奥"の上映を行った.アンケートにおいては特に共感性に着目した解析を行っており,人間の役者の共感に関わる評価と同様に,自身の共感性の高低によってロボットの共感に関する評価が分かれることが明らかになった.
著者
清水 厚志
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

1)データベースの構築1000個のカオナシ遺伝子についてデータベースを構築し相同性のある遺伝子および他の生物種の相同遺伝子のデータをBLASTを用いて集積するシステムを立ち上げた。ヒトカオナシ遺伝子に関しては、cDNAの増幅のために必要なゲノム構造の入力を行いプライマーの設計も自動で行うシステムを構築した。設計した20個のモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)の配列データおよび位置の登録を行った。RT-PCRの結果やメダカ胚の画像、条件などをインジェクション機器に付属したPCからデータベースにアップロードするシステムを構築した。さらに、これらのデータをウェブブラウザーで表示できるシステム構築を行った。2)カオナシ遣伝子に対するRT-PCR及びWhole mount in situ法による発生初期ステージの発現解析メダカの発生ステージごとに受精卵を100-1000個採取しmRNAを抽出しcDNAを合成した。これらのcDNAライブラリーを用いて130個のヒトカオナシ遺伝子のメダカオルソログのRT-PCRによる発現解析を行った。これらの発現情報をもとにMOが有効な初期胚から発現している遺伝子20個をノックダウン解析の対象遺伝子とした。3)ノックダウン法による機能解析2)で選択した20個のカオナシ遺伝子についてMOを作製しメダカ初期胚に対しノックダウンを行った。その結果、脳室の肥大、発生阻害、アポトーシスなどを引き起こすMOを得ることができた。これらのことから機能推定が全くできず逆遺伝学の対象から外れているカオナシ遺伝子の中に発生に関与する遺伝子が含まれていることが確認できた。一方で、より安価にノックダウン解析を進めるためMOの他に市販されているアンチセンスオリゴであるGripNAやLNAなどを用いてノックダウン解析を行ったがMOと同様の表現型を得ることができなかった。
著者
豊國 伸哉
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ゲノム情報の変化は発がん過程で重要な役割を果たしている。本研究においては、培養細胞や個体各臓器の細胞のゲノム配列において、紫外線・放射線あるいは鉄を介した酸化ストレスによってDNA塩基への傷害が起こりやすい部位をアレイ技術の応用により網羅的に同定し、その法則性を見いだすことを目的とした。これまでに、私たちは鉄ニトリロ三酢酸(Fe-NTA)腹腔内投与による腎発がんモデルを開発し、その病態に酸化ストレスが関与すること、主要な標的遺伝子にCDKN2Aがん抑制遺伝子やptprz1遺伝子などがあることを示し、ゲノムに酸化ストレスに対して欠損・増幅しやすい領域があることを報告した。今年度は遺伝解析より新たにalninoacylase-1にがん抑制遺伝子としての作用があることを見いだした。昨年度に引き続き、モノクローナル抗体で修飾塩基を含むDNA断片を免疫沈降する技術とマイクロアレイ技術を組み合わせることにより、ゲノム内の酸化ストレスに対する脆弱部位を網羅的に解析した。Fe-NTA腹腔内投与による腎癌モデル初期において代表的な酸化修飾塩基である8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)に対するモノクローナル抗体を使用した実験を反復した。対照のラット腎臓ならびにFe-NTA投与3時間後の腎臓からゲノムDNAを抽出し、制限酵素BmgT120Iで切断後,DNA断片の免疫沈降を行い,8-OHdGを含むDNA断片を回収した。DNA断片を蛍光色素でラベルした後CCGHのアレイにハイブリダイゼーションし解析を行った。すると、8-OHdGは非遺伝子領域に高密度に分布し、遺伝子領域には相対的に低密度に分布することが判明した。ゲノムの遺伝子密度と8-OHdGの存在頻度に有意な負の相関を認めた。分布のパターンそのものは対照と酸化ストレスのかかった状態でほとんど差が見られなかった。CDKN2A部位では酸化ストレス時に8-OHdGの増加を認めた。
著者
新宮 学 岡村 敬二 熊本 崇 谷井 俊仁 吉田 公平
出版者
山形大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

(E)班「出版政策研究」では、昨年度の東洋大学で行った研究会(白山学会)につづき、平成16年10月にキャンパスプラザ京都で、(B)班「出版物の研究」と合同で研究会(下京学会)を開催した。全体で10本の研究報告が行われた。(E)班の班員の報告は以下のとおりである。報告1 清乾隆期にみる出版の権威性 谷井 俊二(三重大学)報告2 清代官界における先例情報の共有と出版 寺田 浩明(京都大学)報告3『皇明資治通紀』の禁書とその続編出版 新宮 学(山形大学)報告4 明代科挙における「試録」の「程文」をめぐる問題について 鶴成 久章(福岡教育大学)報告5 印刷文化の大衆化と地域社会の受容 五代 雄資(元興寺文化財研究所)報告6 「満洲国」の出版体制 岡村 敬二(京都ノートルダム女子大学)報告7 『欧陽文忠公集』の出版について 熊本 崇(東北大学)(E)班では、研究課題遂行のための研究方法として、それぞれの研究代表者の個別研究を基礎にしながらも、その成果を報告しあって課題の共有化を進めるための研究会を毎年に開催してきた。とくに最終年度となる今回の研究会では、研究代表者のほぼ全員が報告し、共同研究の進展と深化を図ることができた。そこで共有された認識の一端は、ニューズレター『ナオ・デ・ラ・チーナ』7号掲載の「出版政策史料集」としてまとめられている。本史料集は、時代や地域的な偏りが見られ必ずしも全般的なものではないが、これまで類例を見ない新たな試みである。さらに、その後の研究成果を補充した「東アジアの出版政策史料集」を、調整班(E)の成果報告書の中に収めた。
著者
三浦 定俊 早川 泰弘 木川 りか 佐野 千絵 宮越 哲雄
出版者
独立行政法人文化財研究所東京文化財研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

我が国の科学技術黎明期資料が、江戸時代から明治時代のはじめにかけて当時どのような材料と技術を用いて造られたかについて、これまでほとんどなされていなかった科学的観点からの実証的な調査研究を行った点が、本研究の特色である。幸いにも東京文化財研究所には、国立科学博物館に寄託されたトヨタコレクションが保管されていたので、コレクションをよそへ移動せずにその実証的な研究が可能となった。本研究では、資料のX線撮影にX線デジタル画像装置を利用した。この装置はダイナミックレンジが広く、通常の写真フィルムでは撮影が困難な、材質や厚みの著しく異なる資料の撮影に最適であった。また現像の手間が掛からないデジタル処理なので、点数が1,300点にも上るトヨタコレクションであっても効率的に研究し、本書に示すような成果を上げることができた。また今回の特定領域研究には大勢の研究者が関わっていたので、調査成果を速やかに整理して、デジタル画像をコピーして配布するなど、X線デジタル撮影の特長を生かして、本研究は「江戸のモノづくり」の特定領域研究全体に貢献することができた。この他、武雄市図書館・歴史資料館の所蔵する、二十人代武雄領主鍋島茂義(皆春齋、1800〜62)が収集した顔料の調査を行った。資料館の所有する茂義のコレクションの中には、当時の包みのままの絵の具が多数残されている。他に類例のない大変貴重なもので、資料館の協力を得て、それらの絵の具を整理・分類して分析し、当時どんな名称の下にどんな顔料が使用されていたか明らかにすることができた。
著者
和田 雄二 塚原 保徳 山内 智央
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

ゼオライト細孔中へ機能を待った物質を導入することにより、それら個々の機能とは異なった新規の機能を創製するナノハイブリッドゼオライトは、光化学、光触媒、発光材料などの観点から注目されている。そこで我々は、溶液中とゼオライト細孔内における4-acetylbiphenylの光物性について、共存する金属イオンの効果の観点から系統的に調べた。4-acetylbiphenylのBlue発光は、単独溶液系やゼオライト細孔内に導入しただけでは発現しないことが明らかとなった。また、4-acetylbiphenylは共存金属イオンによってその光物性を変え、ゼオライト細孔内で特定の金属イオン(Gd(III))と共存した場合のみ、Blue発光(蛍光)とりん光を同時に室温において与えた。4-acetylbiphenylの光物性を詳細に検討することで、複雑なRGB発光機構の解析を行うことができ、なおやつこの系の発光色制御、しいては光を操るナノハイブリッド系の構築に結び付けたいと考える。さらに、ホスト材料して2次元制限空間を有する層状ケイ酸塩を用いて、構造と4-acetylbiphenyl発光挙動について検討したところ、層状ケイ酸塩のケイ酸骨格構造の変化が発光スペクトルに影響していることが分かった。また、層状ケイ酸塩に導入した4-acetylbiphenylは、室温下・空気雰囲気下でりん光発光を示した。
著者
小嶋 誠司 本間 道夫
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

細菌のべん毛モーターは、細胞表層に自己集合し、エネルギー変換を担う超分子複合体である。モーターの回転力は、エネルギー源となる共役イオンが固定子中を流れる際に生じる、固定子-回転子間相互作用により発生すると考えられている。回転力発生のメカニズムを明らかにするためには、モーターの心臓部である固定子の構造情報が不可欠である。本研究では、ビブリオ菌Na^+駆動型モーターの固定子PomA/PomB複合体の結晶化を試みた。今年度は、これまで困難であった複合体の膜からの抽出の際に、界面活性剤Cymal-5を用いることで可溶化と精製度の向上が見られたので、大量精製し結晶化のスクリーニングを行ったが、現在のところ結晶はまだ得られていない。我々は部分構造の結晶化も同時に行い、H^+駆動型のサルモネラ菌固定子蛋白質MotBのC末端ペリプラズム側断片(MotB_C)の結晶構造を分解能1.75Aで決定することが出来た。固定子はこの領域に存在する推定ペプチドグリカン結合(PGB)ドメインを介してPG層に固定されていると考えられている。またイオンの透過は固定子がモーターに設置されて始めて活性化される。本研究で用いたMotB_CにはPGBドメインだけでなく、ペリプラズム側において運動に必須な部分がすべて含まれている。MotB_Cは1つのドメインで構成され、二量体を形成していた。MotB_Cが予想以上にコンパクトな構造であるため、ペプチドグリカン層に作用し固定するためには、MotB_Cにおいて大きな構造変化が起こらなければならない。構造情報をもとに行った機能解析により、PGBドメインでの二量体形成が固定子のチャネル部分を形成する膜貫通ヘリックスの適切な配置に重要であること、MotB_CのN末端部分の大きな構造変化がPG結合とプロトンチャネルの活性化に必要であることが明らかとなった。
著者
富田 眞治 山口 和紀 岡本 敏雄 美濃 導彦 中西 通雄 永野 和男 今井 慈郎 岡部 成玄 三尾 忠男
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

高等教育機関は独立行政法人化を含めた大学改革の中に在り、「教育」「研究」「社会貢献」の3つの課題に対し、鋭意検討中である。大学教育・研究の高度化・個性化と共に組織の活性化の中で、IT革命への積極的な対応を求められている。これはマルチメディア環境を多用することを念頭に置いており、目指す方向は、我々の研究領域と合致する。本研究組織も現状と今後を眺望し、(1)情報リテラシ教育、(2)専門課程教育、(3)教員養成向け教育、(4)新教育方法、の4つのグルーブを編成し、以下の多くの成果を得た。(1)は工学的な技術論理、情報倫理の基本理念の提言、情報リテラシ教育授業の研究、情報処理教育用適応型教材に関する研究、PC教育教材のDVD試作およびWebベースで行うe-Learningのコース設計・開発・管理を行う統合ソフトに関する研究などの成果を得た。(2)については、学部向け情報リテラシ教育の最適化の研究、学部に適合した高度情報リテラシ教育教材の開発、専門科目の高度教材開発研究をマルチメディア環境の基で行って成果を得た。なお、これらの研究は実践教育の評価を踏まえた統合的な研究である。(3)の分野では、高校の情報教育の目標、担当教師の職能、教師向けの情報教育素材の開発・研究、情報科教員を目指す受講学生の知識と情報教育内容を連携させる知識ベースシステムの開発など、マルチメディア環境を活用した研究成果を得た。(4)の新しい教育方法では、情報教育に止まらず、大学教育全般を対象とした遠隔教育についての研究を推進し、受講対象を大学以外に拡げ、Web環境を活用した講義・個別・探求型・グループなどの学習に適したe-Learning環境の開発、同一大学内におけるWeb環境下での遠隔教育実践に対する評価、他教育機関と連携した所謂バーチャルユニバーシティにおける遠隔連携ゼミでの相互の学生の意識解析。さらにマルチメディア環境を活用した国際的な遠隔双方向講義の実施結果から、受講学生の意識調査に基づく遠隔講義システムの研究・評価などの成果を得た。なお、本研究の一環として、一般情報教育の高度化を目指したテキストを現在作成中である。
著者
中川 裕 稗田 乃 中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

前年度までに蓄積してきた、コイサン諸語コエ語族ガナ語群の統語論、音韻論、声調論の資料を総合し、それらの重要な側面を記述した。また、日本国内のコイサン研究者を訪問して、ガナ語群グイ語の語彙に関する情報交換や討議を行い、その結果(とくに意味記述に関する情報と討議結果)を、構築進行中のグイ語語彙データベースに組み入れた。さらに、この語彙データベースの意味記述の重要な部分を英訳し、英語による公開の準備に着手した。以上に加えて、研究協力者をナイジェリアとウガンダに派遣し、以下(1)(2)のような調査研究を行った。(1)ナイジェリア北部に分布するチャド語系少数民族語であるブラ語の記述調査:主にブラ語の名詞形態論の解明を目的とした調査を行い、特に可譲渡/不可譲渡性がこの言語における名詞分類の根幹を成すこと、また屈折的な形態論を持つ多くのチャド諸語に対し、この言語が主に膠着的な手法で語形成を行い、さらに語形成の方法として重複が重要な機能を果たしていることなどを説明する論文を作成した;またブラ語の語彙調査も継続して行い、音声の録音資料などを収集した。(2)ウガンダのにおける言語使用と言語態度についての調査:首都カンパラの7つの地域およびウガンダ東部のトロロ・ディストリクトのブタレジャで社会言語学的調査を行った。その結果、各調査地点でのリンガフランカ(ガンダ語)と民族語の使用についての諸側面が明らかになり、また、それらの言語に対する言語態度(とくに重要なのはリンガフランカヘの反対意識と民族語保持意識)の実態が明らかになった。
著者
武田 重信 小畑 元 佐藤 光秀
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

西部北太平洋に降下する黄砂などの大気エアロゾルから溶け出す微量金属元素が、海洋植物プランクトンの増殖に及ぼす影響について調べた。大気エアロゾルがアジア大陸から北太平洋に輸送される過程で人為起源物質の影響を受けると、鉄など微量金属元素の溶解率が高くなり、溶解した鉄の濃度に応じて植物プランクトンの増殖が促進されること、火山灰も大気から海洋への微量元素の供給源として重要であることなどが明らかになった。
著者
蔵 研也 松葉 敬文 佐藤 淳
出版者
岐阜聖徳学園大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

昨年度から、ホルモンや神経伝達物質と、経済行動との関係を調査している。本年度のプロジェクトとして、女子短大生80人程度を被験者として、彼らにグルコースを経口投与することで、テストステロン濃度を意図的に下げ、それによってリスク行動が変化するかを確かめた。テストステロン濃度の高さは、女性においてリスク選考を高めているという報告があるためである。その結果、被験者の唾液中のテストステロン濃度は有意に下がったものの、その濃度とリスク選好には相関は見られなかった。しかし、これは30分程度の間隔をおいて計測したものでしかないため、テストステロン濃度の変化が神経作用を十分に発現するには、あまりに短時間だったと考えられる。また36名の大学院生集団を被験者として、経済行動の質問票に答えてもらうと同時に、その唾液によってテストステロンを、血液採取によって、トリプトファン体内濃度の代理変数として血中セロトニンを計測した。これによってセロトニンと主要な経済行動の分析を行った。これまでにセロトニンの高さは、時間選好に影響しており、より持久的になるという報告がなされてきた。しかし我々の実験では、これは確認できなかった。血中のセロトニン濃度と、リスク選好、時間選好、独裁者ゲームの分配、美人投票ゲームの予想、など主要な経済行動の変数との関係はまったく見いだせなかった。しかし唯一、独裁者ゲームのペアの相手に、金銭分配権を譲るという行為は、高いセロトニンと相関していた。あるいはこれは、精神的な安定の度合いが、対人的な配慮となって現れているのかもしれない。
著者
湯淺 太一 近山 隆 上田 和紀 森 眞一郎 八杉 昌宏 小宮 常康 五島 正裕
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本研究では,計算機システムが備えている広域性と局所性の両方に対応できる適切な計算量モデルとソフトウェアシステムの構築を可能にするために,計算連続体と呼ぶ概念に基づいて,さまざまな観点から,計算に関する既存概念の再検討,統合,および発展を図ってきた.主要な研究成果は次のとおりである.1.計算連続体モデルによる計算量解析本プロジェクトでは,単一計算機内のメモリ階層から計算機間のネットワーク遅延の差異までを,統一的に,かつ簡潔に表現できる計算量モデルとして「計算連続体モデル」を提案し,このモデルに基づいた計算量解析結果が,従来方法よりも現実の計算に近いものであることを示した.また,複雑な並列アルゴリズムに対しても,その振舞いが把握できるように,計算連続体モデルの仮想機械を設計し,実装した.2.並行言語モデルLMNtalに関する研究また本プロジェクトでは,階層グラフの書換えに基づくスケーラブルな並列言語モデルとしてLMNtalを設計し,このモデルの改良を進めてきた.このモデル上でプロセス構造の解析技術を確立するとともに,実用に供するプログラミング言語としての実装を行った.階層グラフ書換えは,多重集合書換え計算モデルや自己組織化に基づく計算モデルなどを特別な場合として含んでおり,既存の多くの計算モデルの架け橋となることが期待できる.3.局所性を重視した処理系実装方式の研究プログラミング言語の実装において,特に局所性を重視することによって,実行性能が飛躍的に向上することを実証した.その例として,階層的グループ化に基づくコピー型ごみ集めによる局所性改善をあげることができる.これは,スタック溢れに備えたキューを併用することにより,少量のスタックで大部分を深さ優先順にコピーするごみ集め方式のさらなる改良の提案であり,仮想記憶の局所性だけでなく,キャッシュの局所性も考慮した実装となっており,実際の計算機上で極めて効率の良い処理系を実現できる技術である.
著者
戸谷 友則 太田 耕司 岩室 史英 秋山 正幸 田村 直之
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

現在の最新宇宙論における重要問題はいくつかあるが、その最大のものは「宇宙のダークサイド(暗黒面)」という言葉で以下の三つにまとめることができる。すなわち、(1)宇宙を加速膨張させる「ダークエネルギー」、(2)宇宙の重力を支配する「ダークマター(暗黒物質)」、そして(3)宇宙の晴れ上がりから最初の天体形成と宇宙再電離をつなぐ「ダークエイジ(暗黒時代)」である。その中でも、ダークエネルギーは現代物理学の根源的な改訂につながる可能性すら秘めた、とくに重大な問題として認識されている。すばる望遠鏡の新観測装置FMOSを用いたバリオン振動探査計画により、このダークエネルギーに迫る事ができると期待されている。本研究の目的は、このバリオン振動探査計画のサーベイデザインを検討し、FMOS完成の際にすみやかに観測提案書を作成する準備を進める事にある。この目的のため、戸谷を中心に分光ターゲット銀河選定の手法や実現性を詳細にしらべた。「すばるディープフィールド」や、「すばるXMM-Newtonディープフィールド」と呼ばれる領域のすばる望遠鏡を中心とする膨大なデータをもとに、バリオン振動探査に使用できる銀河が十分に存在するかどうかを精査した。その結果、バリオン振動探査に十分な数の銀河があり、また、イメージングサーベイデータから測光的赤方偏移計算の手法により効率よく選択できる事も判明した。また、メンバーがハワイに集まってミーティングを開催し、FMOS装置に対する理解を深めるとともに、今後の問題点を洗い出して計画の推進に役立てた。国際的な注目も高く、国際会議で進捗状況を報告した。
著者
曽良 一郎 沼地 陽太郎
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

コカイン報酬効果の検討では、いずれかのモノアミントランスポーターが欠損しても他のトランスポーターが補う可能性が示唆され、脳内微少透析法による検討では、ドーパミントランスポーター(DAT)欠損マウスにおいてコカイン投与により線条体の細胞外ドーパミン(DA)が上昇したが、DAT欠損マウスにセロトニントランスポーター(SERT)欠損が加わったDAT/SERTダブルKOマウスでは、その上昇が観察されなかったことから、SERTがDA再取り込みを補完したと考えられた。この対応しないモノアミントランスポーターによるモノアミンの取り込みをin vivoで確認するため、SERT欠損マウスを用いて、免疫組織化学染色法によりDAニューロンへのセロトニン(5-HT)取り込みがみられるか検討した結果、DAT,5-HTの二重染色により、特定の脳部位でDAニューロンに5-HTが取り込まれていることが確認された。モノアミントランスポーター欠損マウスを用いて、選択的5-HT取り込み阻害剤(SSRI)投与時の前頭前野皮質(PFc)、線条体(CPu)におけるモノアミン動態を脳内微小透析法により測定し、モノアミントランスポーターの代償機構を検討した。フルオキセチン投与時、DAT/SERTダブル欠損マウスにおいて、PFcの細胞外DA,ノルエピネフリン(NE)が上昇したことから、Fluoxetineがノルエピネフリントランスポーター(NET)に作用した可能性と、同部位でのDA制御へのNETの関与が示唆された。CPuではDA上昇は認められず、前頭前野皮質のモノアミン神経伝達は線条体とは異なったメカニズムにより情動機能を制御していると考えられた。以上、異種同属トランスポーターによるモノアミンの代償的取り込み機構の存在を支持する結果が得られた。
著者
樋口 俊郎 鈴森 康一 横田 眞一 黒澤 実 服部 正 則次 俊郎 黒澤 実 服部 正 則次 俊郎 横田 眞一 吉田 和弘 山本 晃生 神田 岳文
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

本研究課題は,特定領域「ブレイクスルーを生み出す次世代アクチュエータ研究」の総括班としての活動に関するものである.この特定領域は,新しい高性能アクチュエータの実現が,社会の様々な局面において今後ますます重要となることを鑑みて活動を開始したものであり,これまで異なる分野で個別に研究されてきたアクチュエータ研究者に共通の活動の場を与えることなどをめざし,平成16年度より平成20年度まで5年間にわたり研究活動を実施してきた.特定領域しての主な研究活動は平成20年度をもって終了しているが,本年度は,これまでの5年間にわたる研究成果をとりまとめ広く公表することを目的として総括班活動を実施した.本年度の中心となった活動は,一連の成果を英文の書籍として出版することであった,特定領域で活動した研究者らにより執筆された原稿をとりまとめ,世界的に著名な出版社であるSpringer社より,Next-generation actuators leading breakthroughsと題する総ページ数438ページに及ぶ英文書籍として2010年1月に出版した.また,2010年1月には,この英文書籍の一般への配布をかねて,この特定領域最後のシンポジウムとなる,3rd International Symposium on Next Generation Actuators Leadin Breakthroughsを東京工業大学大岡山キャンパスにて開催した.シンポジウムでは,出版した書籍の内容に即して,各研究者が研究成果の発表を行った.