著者
西川 広平
出版者
山梨県立博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

甲府盆地周辺地域を対象にして、人々が自らの生活基盤を守るために育んだ治水・利水技術の展開や、自然環境の変化の状況などについて考察した。この結果、甲斐国の代表的な治水・利水技術である牛枠類の使用は、甲斐国および天竜川流域を中心にして、天竜川流域からその西方を流れる豊川や木曽川の各流域へと広がったこと、また、江戸時代の甲斐国で実施された治水事業では、水害を被る村落間のネットワークが機能していたことが明らかとなった。そして、これらの技術や地域のネットワークをふまえて、17世紀初頭から継続した耕地開発と用水路建設にともなう畑地から田地への転換が、地域の景観に影響を及ぼしたことを指摘した。
著者
阿部 美香
出版者
昭和女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

東国の宗教文芸を解明する上で重要な安居院唱導資料の研究のうち、特に歴博本『転法輪鈔』については共同で翻刻と解題作成を行い、国立歴史民俗博物館の研究報告書にまとめることができた。その過程で重要な研究対象となった『融通念仏縁起』の研究は、国内外で諸本調査を積み重ね、鎌倉時代後期の正和本から、南北朝・室町時代の良鎮による勧進本の成立と展開の諸相を明らかにするとともに、勧進状絵巻としての比類無い独創性を解明し、その成果を国内外に広く発信することができた。
著者
田中 健一
出版者
電気通信大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

施設配置問題は,都市における様々な施設を対象空間にどのように配置すれば利用者や施設経営者にとって望ましいかを追求する問題であり,これまでに様々な研究がなされてきた.本研究では,施設配置問題に時間軸を導入し,時空間的な人の流れを所与とし,施設の配置の決定と同時に望ましいサービス提供時間帯も決定する新しいモデルを開発した.また,基本モデルのいくつかの拡張モデルを考案した.さらに,首都圏鉄道網を対象とし,実流動データを用いて,多くの人がアクセスし易いサービス提供方法の分析を行った.
著者
川田 菜穂子
出版者
大分大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

戦後日本の住宅システムは、世帯主である男性勤労者が持家を取得することを前提としてきた。しかし日本では結婚や家族形成のあり方が大きく変化し、離婚の増加が顕著である。本研究は、日本と異なる住宅システムとジェンダーの傾向をもつ欧州諸国を比較対象として、離別女性の住宅経歴の実態分析を行うところから、日本の住宅システムの実態と課題を明らかにするものである。国際機関が提供するパネル調査や独自調査の結果を分析したところ、住宅システムの違いにより、各国の離別女性の住宅経歴には異なる傾向がみられた。日本では離別時の女性の転居率が顕著に高く、移動を経験した女性は厳しい住宅条件におかれている。
著者
畑 憲治
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

森林生態系において優占する外来木本種の駆除は、生態系内の水循環を変化させる可能性がある。この仮説に基づいて、海洋島である小笠原諸島の森林生態系で優占する外来木本種トクサバモクマオウの駆除が、土壌含水量に及ぼす影響を野外実験的なアプローチから明らかにした。除草剤によってトクサバモクマオウを枯死させた調査区(以下駆除区)における土壌含水量は、隣接する対照区においてよりも有意に高く、これは駆除処理によって土壌含水量が増加したことを示唆した。また、この駆除処理による土壌含水量の増加は、降雨がない乾燥期間における土壌含水量の低下の程度が駆除処理によって緩和されることと関係していることが明らかになった。
著者
堀 潤之
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、ニューメディア以降の映像環境において諸メディアの収斂という事態が生じつつあるという現状を批判的に吟味するべく、デジタル・テクノロジーの登場以前にまでさかのぼって、(A)不動性をめぐる映像理論小史、(B)不動性の映画史、(C)現代美術の映像作品における運動と不動という3つのトピックを通じて、主として20世紀後半の映像理論および映画史・映像芸術史における「運動への抵抗」の系譜をたどったものである。
著者
志水 田鶴子
出版者
東北文化学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、生活モデル理論に基づくプログラムを実施している高次脳機能障害者の小規模作業所での実践を評価することで、生活モデル理論によるプログラムの有効性を実証し、高次脳機能障害者にとってより効果的な生活支援プログラムを開発することが目的である。昨年度末から今年度は、これまでの生活モデル理論に基づく高次脳機能障害者の生活支援プログラム評価に関する研究の成果を踏まえ、プログラムを途中で放棄(作業所を長期間休むなど)した利用者への支援と、就労支援のプログラムの評価を試みた。リハビリテーションプログラムを放棄する者は(1)通所開始間もない頃に「自分は(健常者であるので)他の障害者と一緒にされたくない」と、障害が認知できないことから早期にプログラムから離脱するケースと、(2)長期間リハビリテーションに参加し回復もみられるが、他の障害者が一般就労したといった情報や、家族等から回復を急がされる(「ずいぶんよくなってきたから、そろそろ就職できるんじゃないの」といった)言葉により、簡単に自分にとって必要なプログラムを見失うことが見受けられた。(1)の場合は、無理に通所開始を促すのではなく、自分なりに就労や復学をした結果やはりうまくいかないことを理解するまで待っしかない。しかし、(2)のケースでは、ある程度様々な状況や自分自身の障害も受け入れ理解することができるようになるため、今どのようなことで混乱し、何があるから慌てているのか、自分にとって何が必要なのか、今まで成功したことと失敗したことはどんな違いがあるかについて、繰り返し面接を行うことで、落ち着きを取り戻しプログラムに参加できるようになる。ただし、この面接を通じた支援が途切れてしまうとかなり長期間プログラムから離脱し、結果として混乱した状況も長期化する。電話などでも支援を行うが、直接面接し支援を行うケースよりもプログラムへの復帰率は低い。今後も引き続き、プログラムを長期離脱した利用者への支援のあり方を検討する必要がある。就労支援については、事例が1例みられたが、開始直後であるため評価には至っていない。しかし、復職に向けジョブコーチが復職先の上司と打ち合わせを繰り返し、試験的に受け入れてもらうなど進展は見られる。継続して就労支援プログラムについても研究する必要がある。
著者
児玉 年央
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

多くのグラム陰性病原細菌は3型分泌装置を使って、エフェクターと総称される病原因子を直接宿主細胞に注入することで、病原性を発揮する。申請者はこれまでに食中毒原因菌である腸炎ビブリオの3型分泌装置の一つであるTTSS2が本菌の下痢原性に必須であることを明らかにしてきた。しかしながら、このTTSS2依存的な下痢原性に寄与するエフェクターは不明であった。本研究では、TTSS2依存的な下痢原性に寄与する新規エフェクターとしてVopE を同定した。VopEは構造的にN-terminal domain、long repeat (LR)domain、C-terminal domainに分けられる。申請者はLR domain、C-terminal domainがそれぞれ独立してactin 結合活性を持つこと、これらの結合がVopE の下痢誘導活性に必要であることを見いだした。さらに、TTSS2やVopEはnon-O1/non-O139 V. choleraeの下痢原性にも寄与していることを明らかにした。これらの結果により、VopEはF-actinを標的とする新規エフェクターであり、TTSS2を保有する病原細菌の下痢原性に寄与していることが示唆された。
著者
谷口 和弘
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

我々は,使用者が機器操作を目的として意図的に行うこめかみの動きを機器制御信号として利用することで使用者が常時利用でき,日常の生活に支障をきたすことなく,ハンズフリーで使用でき,小型軽量安価で製造可能な,機器制御を意図した動き以外の会話や食事などの日常的な動作には反応しない,ウェアラブルコンピューティングのためのヒューマンマシンインタフェースを開発した.本インタフェースは,左右のこめかみ付近に専用の取り付け具で配置した左右1つずつの光学式距離センサと1つのシングルチップマイコンで構成されている.
著者
東原 真奈
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

【目的】小児神経筋疾患の診断にClustering Index(CI)法の有用であるかを検討する【方法】対象は神経筋疾患の患児39名(神経原性疾患15名,筋疾患24名,年齢8.8±4.1歳).前脛骨筋における1秒間の随意収縮活動記録(epoch)を1名につき20~50個記録し,CIおよびareaを算出した.【結果】神経原性疾患836 epochと筋疾患992epochを解析.本法により神経原性疾患7名,筋疾患14名を正しく診断可能で,特に脊髄性筋萎縮症で7名中4名,Duchenne型筋ジストロフィーでは12名中9名が判別できた.【結論】CI法は小児神経筋疾患の鑑別診断において有望な方法である.
著者
鈴木 絢女
出版者
同志社大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、開発志向国家における財政と民主主義の関係をテーマとしている。1990年代に高度経済成長や健全な財政政策に成功したとして称揚されたマレーシアにおいて、アジア通貨危機以降、財政赤字が持続し、政府債務が拡大している。この背景として、①通貨危機時に景気浮揚策として拡大した財政が、長期政権を担う与党国民戦線の指導者の政治的資源となることで、財政の出口の改革が困難になったこと、他方で、②与党が有権者の支持を失うことを恐れ、増税による歳入基盤の強化が遅れたことが指摘できる。出口改革の遅れは有権者の増税に対するさらなる抵抗感の拡大をもたらしており、財政赤字や累積債務の解消はさらに困難になりつつある。
著者
江口 亨
出版者
横浜国立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、改修された建物を対象とし、寿命を決定づけた物理的、社会的要素を分析して、長寿命化のための維持改修プロセスに必要な事項の整理である。明らかになった課題は、物理的要素について、既存ストックの情報を集約し管理していない点、外装材を交換できるよう設計しても施工精度が高い必要がある点などがある。また、社会的要素については、改修を行う事業者は、これまでとは異なるサービスも提供する必要がある点、個人的なつながりが改修の機会を増やす点などがある。
著者
佐々木 晶子
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

河口干潟の高い生産性を支える有機物源の一つとして陸上植物の落葉に着目し、その分解過程と大型底生動物による利用状況の解明を目的とした。野外調査と室内操作実験からは、河口干潟に供給された落葉が比較的速やかに分解されることが示された。また、現地に試験的に設置した落葉には、特定の動物群の出現が確認された。これらの大型底生動物が落葉を摂食している可能性を検討した結果、餌資源としての寄与は小さいことが明らかとなった。以上のことから、河口干潟では供給された落葉の滞留は長期には渡らないが、ある動物群に生育場所を提供している可能性が示された。
著者
堤 仁美
出版者
昭和女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

新型インフルエンザをはじめとした感染症の流行の際には、患者を診察する医療従事者への感染が大きな問題となる。本研究では、医療福祉施設において、感染症患者の咳による医療従事者に対する感染リスクを低減する建築・設備の提案に向け、模擬咳気流発生装置開発、感染対策手法の感染リスク低減評価、CFDによる気流解析、診察・診療行為の動作範囲測定、医療福祉施設における感染リスクの評価方法の提案を行った。
著者
松井 有恒
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

口腔病原性細菌群に対する免疫応答評価ならびにバイオフィルム構築等の細菌の活動性を評価する際、円筒型のPDMS製チャンバー(Pore size100-200um)が最も効率良く細胞回収、評価ができることを確認した。本デバイスでは特に好中球の挙動観察に有利であった。チャンバー内部のバイオフィルムの形成状況を評価すべく、ホルマリン固定の上パラフィン包埋し評価を行ったところ、チャンバー内表面よりバイオフィルム様の構造を確認しそれらは24hの時点で4種の細菌を混合した系においては、コントロール群と比べ肥厚している傾向を呈した。定量化および安定した構造解析にはなんらかの内表面処理が必要なことが示唆された。
著者
多田 達哉
出版者
独立行政法人国立国際医療研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

2011年に日本の医療施設から収集した多剤耐性緑膿菌300株を解析した結果、新規アミノグリコシド耐性因子AAC(6')-Iajを同定した。AAC(6')-Iajは日本で広く分離される多剤耐性緑膿菌が保有するAAC(6')-Iaeに比べてアルベカシン耐性度が高かった。また、2012年度に分離された多剤耐性緑膿菌300株を解析した結果、IMP-typeメタロ-β-ラクタマーゼの新規バリアントIMP-43およびIMP-44を同定した。これらのIMPバリアントはよりカルバペネム分解能が高いことが明らかとなった。
著者
大島 幸代
出版者
龍谷大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、中国において多様に展開した護法神像の造形化について、その理由と歴史的背景を解明しようとするものである。現地調査による造像作例の所在・基本情報の獲得と、文献・石刻史料にみられる造像記録等の博捜・収集を通して、その後の分析につなげるための基礎資料データの集成を目指した。その過程で、南北朝時代から隋唐代にいたる護法神像の全体像を構築する糸口として、1.唐代以降に姿を消した正体不明の護法神の位置づけ、2.インド・西域と中国との間を往来した伝法の高僧と護法神との関係、3.高僧信仰・羅漢信仰の文脈との照合によって、仏教の外に存在する神々と護法神との関係、という3つの視座を得た。
著者
飯島 一智
出版者
独立行政法人国立成育医療研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

バーキットリンパ腫 (BL) において特異的に発現するZinc Finger型タンパク質ZNF385Bの発現と機能を解析した。ZNF385BはBLのnormal counter partと考えられている、胚中心のB細胞において発現していた。薬剤依存的にZNF385Bを発現誘導可能なB細胞腫瘍細胞株を作成した。最も長いアイソフォーム (IF-) 1がアポトーシスを誘導するのに対し、N末のZinc Fingerドメインを欠くIF-2/3はB細胞受容体に対する抗体刺激やCD20架橋刺激によって誘導されるアポトーシスを抑制した。ZNF385Bは成熟B細胞においてp53と結合し、FAS/CD95, PERPの転写活性を変化させることでアポトーシス制御に関与していることが示された。
著者
福井 幸太郎
出版者
立山カルデラ砂防博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

現在の日本の山岳には、多年性雪渓(万年雪)は存在するが、氷河は存在しないとされていた。本研究では、飛騨山脈剱岳の小窓雪渓、三ノ窓雪渓、立山の御前沢雪渓で氷体の厚さと流動の観測を実施した。その結果、各雪渓は厚さ30 m以上、長さ400~1200 mに達する巨大な氷体をもち、氷体は1ヶ月あたり5~30 cm流動していることが明らかになった。したがって、小窓,三ノ窓、御前沢雪渓は日本では未報告であった1年を通じて連続して流動する現存する「氷河」であると考えられる。
著者
菊谷 竜太
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

インド密教において観想法を説く成就法(sadhana)文献は、マンダラ儀軌(mandalavidhi)と密接な関わりをもつことが知られている。後期密教において最も長い法灯を維持し続けたジュニャーナパーダ流の伝統を、最初期のジュニャーナパーダ(ca.750-800)から最晩期のアバヤーカラグプタ(ca.1080-1120)の時代に至るまで『四百五十頌』を中心に個々の儀礼とがそれぞれどのように形成され伝承されていったのか、両実践を系統別に類型化し,さらに密教周辺の儀礼文献をも視野に入れ包括的に解析することによって密教儀礼の背後にある教理内容を明らかにしようと試みた。