著者
関口 章
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

ケイ素などの第3周期以降の高周期典型元素におけるπ電子系化合物(多重結合化合物)は炭素などの第2周期元素π電子系化合物に比べ、占有π軌道準位が著しく高く、非占有π*軌道準位が著しく低いという特徴を持つ。またケイ素-ケイ素σ結合(単結合)の軌道準位は炭素-炭素π軌道準位に匹敵するほど高く、ケイ素-ケイ素単結合で連なったポリマー(ポリシラン)では主鎖を形成するσ電子が、炭素π共役系におけるπ電子のように非局在化するσ共役を発現することも知られている。従って、ポリアセチレンのケイ素類縁体であるポリジシリンでは、高周期元素特有の非局在化したσ電子によるσ共役に加えてπ共役の複合化による新規な物性発現も期待される。本研究では、筆者らが初めて安定な化合物として合成・単離することに成功したケイ素-ケイ素三重結合化合物(ジシリン)の反応性を検討してきた。有機リチウム開始剤によるアニオン重合を行うべく、種々の有機リチウム試剤との反応を行ったところ、tert-ブチルリチウムでは1電子移動とそれに引き続く水素移動を経て、水素置換ジシレニルリチウム種を与え、単独重合は進行しなかった。また、ジシリンの重合活性の向上を目指して新規な置換基を導入したモノマー(ジシリン)の合成検討を行った。その結果、ジアルキル(アリール)シリル基を導入したジシリンは、spケイ素が空間的に接近するアリール基に対して反応活性であり、spケイ素が空間的に接近するアリールC-H結合へ挿入を経て異性化するため、ジシリン自体を安定に単離することが出来なかった。一方、トリアルキルシリル基を導入した第2のジシリンを安定に合成することには成功し、その分子構造を単結晶X線結晶構造解析で決定した。
著者
安井 弥
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

miRNAの面から食道扁平上皮癌、胃癌の発生・進展機構を明らかにした上で、これらの癌に対する新しい個性診断系を確立することを目的として、最終年度となる本年度は以下のとおり実施した。1)胃癌および正常胃粘膜における網羅的miRNA発現解析と機能解析約250miRNAのプローブを搭載したマイクロアレイおよび188mRNAを解析できる繊維型マイクロアレイ(三菱レイヨンMICH07)を用い、胃癌および正常胃粘膜の新鮮凍結組織を材料としてmiRNAの発現を解析した。胃癌と正常とで有意に発現レベルが異なっていたmiR-21等について、定量的RT-PCRにより発現の検証を行なった。さらに、組織型との関連ではmiR-100,miR-105等が、進行度との関連ではmiR-100,miR-125b等が発現が異なっていた。2)胃癌におけるmiRNAの標的遺伝子の解析miRanda、 TargetScan、 PicTarを用いてその標的遺伝子の候補を検索し、miR-21ではBCL2,CDC25A,E2F3,MADH7,PTEN等を、miR-125bではE2F3,MKNK2,SP1,STAT3等を抽出した。これらについて、miRNAの発現抑制による発現変化の確認を行なっている。3)胃癌特異的miRNAのエピジェネティック発現制御の解析胃癌細胞株をヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAで処理することにより、増殖・浸潤の抑制、p21等の発現の誘導がみられた。この細胞について、上記のマイクロアレイで発現が変化するmiRNAを解析し、1)で捉えた組織型や進行度、予後に相関するmiRNAリストと比較した。ここに得られたデータは、癌の個性診断、治療に直結した診断に有用な分子マーカーと考えられる。今後、これらを搭載した診断用miRNAミニアレイを作成し、診断の場に還元したい。
著者
岩宮 眞一郎 高田 正幸
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

工業製品から発せられる音の感性的側面(音質)の経済的価値を評価するために,マーケティングリサーチの分野で用いられるコンジョイント分析を利用した検討を行った。本年度も,掃除機とドライヤーの稼動音を対象とした。先ず,市場調査により,これらの機械製品を特徴付ける属性(性能,デザイン,音,価格など)と水準を設定した。音属性の水準を設定する際には,A特性音圧レベルやシャープネス(音の鋭さの指標)の2種類の音響指標の値を基準としたが,A特性音圧レベルが変化したときにはシャープネスは一定であり,その逆も同様であった。全属性のさまざまな水準を直行計画により組み合わせた27種類の製品プロファイルを被験者に呈示し,各製品に対する選好度を回答させた。実験は2種類ある音属性を入れ替えて個別に行った。実験の際,音属性の各水準に対応する稼動音を被験者に聴取させた。実験には50名(男女各25名)が参加した。得られた選好度の回答結果にコンジョイント分析を適用し,製品を特徴付ける各属性の重要度や属性毎の各水準に対する効用値を求めた。各属性の重要度を比較すると,掃除機の場合,音属性をA特性音圧レベルおよびシャープネスとしたいずれの実験結果でも「価格」「付加的機能」「メーカー」の順に重要度が大きい。また,「タイプ」「集塵方式」「音」の各属性の重要度は「メーカー」属性よりもやや低い。ドライヤーの場合は「価格」「タイプ」「メーカー」「マイナスイオン発生機能」「音」の順に重要度が大きかった。音属性の1水準の変化に対する経済評価値を求めた結果,掃除機では5dBAのA特性音圧レベルの変化に対して3347円,0.25acumのシャープネスの変化に対して3692円と評価された。ドライヤーでは,6dBAのA特性音圧レベルの変化に対する評価額が591円であった。これらの評価額は価格属性4水準の平均の約11〜13%に相当し,昨年度行った仮想評価法による評価結果と近いものであった。さらに,稼動音を呈示せずに同様の実験を行った。得られた重要度や経済評価値と音を呈示した実験の重要度や経済評価値にはやや差があり,稼動音を聴取させる代わりに行った教示の影響が示唆された。
著者
小川 寿美子
出版者
名桜大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

平成19年度は研究の最終年度であったため集大成の結果を国際学会(21st Pacific Science Congress)にて合計四演題を口頭発表をした。第一の発表は、本研究課題のタイトルにもある「沖縄女性のエンパワメント」に関する考察結果の集大成である「Empowerment of Public Health Nurses in Post-WorldWar II Okinawa(第二次世界大戦後沖縄における公衆衛生看護婦のエンパワメントに関する研究)」という演題であった。第二の発表は、戦後沖縄の離島・僻地の地域保健・医療を支えた公衆衛生看護婦(現・保健師)や介輔(医師不足を解消するため戦時中、衛生兵の経験のある者などに離島や僻地など地域限定で一定の診療行為が認められた人)に焦点を当てた「Mid-Level Practitioners for CommunityHealth Services:Lesson-Learned from Post-War Okinawa(実践医療職による地域保健サービス-戦後沖縄の経験から学べる点)」という演題であった。第三の発表は、沖縄の僻地の中でも、特に沖縄北部地域に限定し、1960年代の母子保健事情をまとめたもので「Maternal Health Workforce in Northern Okinawa in the 1960's(1960年代の沖縄北部における母子保健従事者に関する研究:本報告者は共著者の一人)」という演題であった。第四の発表は、現代の沖縄女性でも、特に女性医師に焦点を当てた研究で、離島・僻地で働く医師が未だに不足する原因を、インタビューやアンケート票を用いてまとめた「Women Doctors and the Chronic Doctor Shortage in Remote Areas of Okinawa(沖縄離島・僻地における慢性的な医師不足と女性医師に関する研究)である。本研究を通じて明らかとなったこと、および以上の国際学会での発表の諸結論をまとめると、女性がエンパワメントを受ける強い要因として (1)男性との力関係を競わない条件(戦後沖縄の男性人口の減少)、 (2)職能集団意識(公衆衛生看護婦)、 (3)組織的な活動と後方支援との信頼関係(同上)、 (4)カリスマ的存在への憧憬と尊敬の念(米国民政府のワーターワース、公衆衛生看護の要、金城妙子女史)が条件であったという結論に達した。
著者
和田 修 喜多 隆
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

光通信の大容量化の要求に伴って100Gb/s超の超高速化が必要となってくるものと考えられる。この際に光信号再生機能(増幅+波形整形2R,時間同期も含めた3R)は極めて重要となるが、簡単かつ実用的なものはまだ実現されてない。本研究では、我々独自の原子層制御量子ドットにより、単一の素子で超高速光信号再生機能を有する垂直構造光信号再生デバイスを目指して、研究を行った。本年度は、量子ドット成長法に関しては、単一ドットの透過電子顕微鏡測定(HAADF-STEM測定)を行って量子ドット構成原子構造の正確な観測に初めて成功し、ドット形状制御における多元パラメータ制御の重要性が確かめられた。また、量子ドットの光学的特性に関しては、多層化量子ドット構造における量子ドット間の電子状態の結合効果を発光特性測定によって検討し、スペーサ層の厚さ(10〜40nm)の制御によって発光波長、強度、減衰時間など光学特性制御が可能であることを明らかにした。さらに、半導体多層膜反射鏡構造と量子ドットを集積化した基礎的な光変調デバイス構造を作製して光学特性を評価して基本的な反射特性を確かめ、この構造が変調特性等の高度な特性の評価に適用可能であることが分った。これらの結果を総合的に考慮し、我々独自の多元制御量子ドットが面型光信号処理デバイスに適用できるものと考える。
著者
丹野 浩一 佐藤 友章
出版者
宮城工業高等専門学校
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

近年、VOC、室内感染症、高齢化に伴う介護環境問題、ヒートアイランド現象、多様なウイルス疾病など衛生環境の悪化が問題になっている。これに伴って抗菌・坑かび材料の開発が活発に行われ有機系材料については2億円市場にも成長している。最近は無機系材料の開発にも関心がもたれ、酸化チタンなど光触媒材料が市場化されている。しかしながら光触媒系が効力を発揮するためには光源が必要であり、使用環境が限定される。本研究では多様な環境下で抗菌効果を発揮できる材料の開発を目的として、光触媒、非光触媒系複合抗菌材料の開発に関する基礎研究を行った。本研究成果が対象とする分野は、緑化計画に伴う植栽によるビル外壁のクラックの汚染、内装建材、介護環境の抗菌、排水管の抗菌やバイオコロージョン防止、水質汚濁の防止などである。本研究では、光触媒から酸化チタンを、そして非光触媒から抗菌性が証明されている貝殻、抗菌性金属などを用い、これらの複合粒子を作成し、それを焼結した。基礎研究として粒子単体の抗菌性、複合粒子の抗菌性、焼結体の抗菌性についてそれぞれ実験し比較検討した。その結果、試料単体の抗菌性については従来公表されている結果とほぼ同等の抗菌性があることがわかった。また、複合粒子とした場合には各抗菌要素の相乗効果が作用し、紫外光の有無にかかわらず、ほとんどすべての試料について抗菌性の発現が認められた。これに対し、焼結した試料については抗菌性は試料によって大きく異なる結果を呈した。PH測定などの結果、焼結により組成の変化が生じ、場合によっては中和傾向となる様相を呈し抗菌性が低下することが判明した。なお、研究推進における調査過程で将来の応用を考えた場合に環境影響にも配慮することの重要性が指摘されたため、本来目的としていた要件のひとつであった金属元素の効力比較については今回の実施を見合わせた。
著者
金澤 章
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究では、二本鎖RNA分子が、植物のゲノムDNAに対して配列特異的なメチル化ならびに転写不活性化を誘導することを利用してエピジェネティックな転写不活性化(TGS)の系を確立すること、ならびに、その不活性化状態の維持機構を解明することを目的として研究を行った。CaMV 35Sプロモーターにより転写制御されるカルコーン合成酵素遺伝子を導入することで花色の変化を誘導した形質転換ペチュニアを用いた研究により、外来遺伝子がTGSを受けるためには、プロモーター近位配列が高い頻度でメチル化を受けることが関連していることを明らかにしていた。本年度は、外来遺伝子が転写不活性化されているペチュニア植物体に対して、DNAメチル化の阻害剤5-アザシチジンによる処理を行うことにより、TGSが解除されるか否か、また、その際にメチル化の程度、および、特定の領域の脱メチル化がTGSに影響を及ぼすか否かを検討した。その結果、TGSは部分的に解除され、その際に、転写開始点の上流約300 bpの領域においてメチル化の程度が低下した。同様な効果は、ヒストン脱アセチル化阻害剤として知られるトリコスタチンAによる処理によっても得られた。この実験と並行して行った、ウイルスベクターを用いてプロモーター領域に対する二本鎖RNAを産生し、その機能によるエピジェネティックな変化を誘導する実験により、このプロモーター領域の全域のメチル化はTGSに必ずしも必要な条件ではないが、部分的にメチル化が誘導されることがTGSと密接に関連することを見出した。以上の研究から得られた知見を総合し、高い効率でTGSを誘導するため、ならびに、それを維持するためには、このプロモーターの転写開始点から約300 bp上流の領域の一部に対して高い頻度でメチル化が誘導されることが必要であり、この領域全体にわたって高いメチル化が存在することは、世代を越えて安定にTGSの状態が伝達されるために十分な条件であるという結論を得た。
著者
安田 輝男 岡本 明 長岡 英司 生田目 美紀 井上 征矢
出版者
筑波技術大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1.19年度の実績・成果を踏まえ、20年度はさらに精度を高めた立体ポスターの制作とその展示、調査を積極的に行った。また、有効なサポート情報としての音声情報(聴覚情報)の開発も行った。2.立体ポスターの原画にあたるポスター制作に関しては、本年度も本学デザイン学科の学生を指導して制作。二科展デザイン部等へ応募して、入選・準入選等の成果を得た。3.「触って観る」アート(立体ポスター)は、つくば西武ホール(20年1月)、二科茨城支部展(20年5月)、二科展(20年9月)、筑波技術大学く日韓デザイン学術研究交流大会〉(20年7月)、いばらきデザインセレクション2008(20年10月)、筑波大学(20年10月)結城信用金庫(20年10月)、第23回国民文化祭・つくば美術館(20年11月)、水戸医療センター(20年12月)等で展示され、随時アンケート調査も実施。昨年に引き続き、展示場に訪れた鑑賞者からは深い理解を頂き、社会貢献の意義からも資するところ大であった。4.音声による画像情報支援システムによる「触って聴く」ポスターも随時展示し、強い関心を得た。(*協力:東京カートグラフィック(株)・(財)テクノエイド協会)。5.本研究チーム制作の「触って観る」ポスターとその活動に対して、第23回国民文化祭くつくば市議会議長賞〉、いばらきデザインセレクション2008知事選定、二科茨城支部感謝状が贈られた。6.本研究をまとめた小冊子「『触って観る』アートプロジェクトの歩み」(A5版28頁/英訳付き3000部)を出版。各方面に配布し、本研究の理解促進に供している。
著者
馬嶋 正隆 藤田 朋恵 林 泉
出版者
北里大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

マウス皮下組織にsarcima-180あるいはNFSA腫瘍細胞株を接種するとゆっくりとした腫留の形成が認められる。これらの動物にACE阻害薬のリジノプリルあるいはAT1受容体格抗薬のTCV-116を投与すると、血管新生および腫瘍増殖は強く抑制された。腫瘍周囲ストローマを含む試料でAT受容体サブタイプの発現解析を行うと、AT2およびAT1bは全く検出されず、AT1aのみ検出された。免疫組織化学でAT1の組織内発現を調べると、AT1を発現しているのは腫瘍細胞ではなくむしろ腫瘍周囲めストローマであった。致死量の放射線をWTのC57BL/6に照射し、WTあるいはATlaノックアウトマウスめ骨髄細胞を尾静脈より移植し、その後LLCを接種すると、AT1aノックアウトマウスの骨髄細胞を移植したマウスで、腫瘍増殖および血管新生の著しい抑制がみられた。AT1aノックアウトマウスには、欠損する遺伝子にLacZ遺伝子を導入しているので、β-galの免疫組織化学をおごなうと、確かにAT1aノックアウトマウスの骨髄細胞を移植したマウスで、ストローマ部位で陽性像が認められた。さらに同部位でVEGFの発現を調べると、AT1aノックアウトマウスの骨髄細胞を移植したマウスで、減少していることが判明した。骨髄より間質に浸潤するストローマ細胞のAT1aを選択的にノックアウトすることで、がん依存性の血管新生、増殖が抑制され、遺伝子を改変した骨髄細胞移植が固形腫瘍の治療になりうることを示すことが出来た。
著者
北村 正敬 前田 秀一郎
出版者
山梨大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

センサー配列DRE(dioxin-responsive elemen;ダイオキシン応答配列)の下流にレポータータンパクSEAP(secreted alkaline phosphatas;分泌型アルカリフォスファターゼ)をコードする遺伝子を挿入した遺伝子構造を作製し、芳香族炭化氷素群に属する有害化学物質に反応するトランスジェニックセンサーマウスを作製した。樹立したDRE-based sensing via secreted alkaline phosohatase(DRESSA)マウスに5μg/kg体重の2,3,7,8-TCDDを強制経口投与したところ、血中のSEAP活性はべ一スの100倍以上に増加した。DRESSAマウスにおけるダイオキシンの検出限界は、2,3,7,8-TCDDを指標にした揚合、0.5μg/kg体重(強制経口投与)であった。また、雌雄差を比較検討したところ、雄のDRESSAマウスは雌のそれに比し高い反応性を示した。タバコ煙にはダイオキシンをはじめとするハロゲン化芳香族炭化水素や多環芳香族炭化水素など、ダイオキシン受容体を活性化する物質が数多く含まれる。われわれはまず遺伝子組換えセンサー細胞を用い、タバコ煙が極めて高レベルのダイオキシン受容体活性可能を有することを明らかにした。次に樹立したDRESSAマウスに能動喫煙の形でタバコ煙を曝露し、その後血中のSEAP活性を測定した。その結果、喫煙により有意かつ持続的な血中SEAP活性の上昇を認めた。同様の結果は、受動喫煙のモデルにおいても得られた。これらの検討結果は、樹立したセンサーマウスが環境モニタリングにおいて有用であること、すなわち有害化学物質を含む外気や室内空気に反応してSEAPを発現産生することを強く示唆するものであり、現在実験的喫煙環境および市中幹線道路近傍大気を用い、センサーマウスによる大気汚染検出の試みを継続中である。
著者
松井 知己 吉瀬 章子 宮代 隆平 宮本 裕一郎
出版者
中央大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1.一様な巡回トーナメント問題に関する近似法 本拠地間の距離が一様な巡回トーナメント問題に対し、移動距離(回数)最小化問題に対するトーナメントスケジュールの作成法を、平成18年度国際会議の論文特集号(Lecture Notes in Computer Science)に本年投稿し、採択された。本手法は,カークマンスケジュールと呼ばれる特殊なスケジュールを改変することで,2重総当たり戦の移動回数最小化問題の良質な解を構築する.本手法によって、最適解に非常に近い解が得られることを,理論的に保証した.提案手法により,2重総当たり戦の移動回数最小化問題について,チーム数22,28,34,40,46の場合には既存の世界記録を凌駕する新たな解が得られ,さらに得られた解は最適解であることを保証することに成功した。2.半正定値計画緩和に基づく試合場決定問題の解法試合場決問題について、半正値計画緩和と、形計画緩和に基づく解法の提案を行った。(この結果は、Pacif1c Joumal of Optimizationに採択されている。)両手法について、1重と2重総当たり戦の両方の問題に適用する計算実験を行った。その結果、1重総当り戦では、線形計画緩和に基づく方法は、殆どの問題例において最適解を生成する事が確認された。2重総当たり戦では、線形計画緩和に基づく方法では、劣悪な解しか得られないことが判明した。これに対し半正定値計画緩和に基づく方法は、どの問題例でも高品質の解を生成することが確認された。半正定値計画緩和は、計算時間の短縮が検討課題として残されている。
著者
樫尾 直樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は、現代の宗教性を個々人の宗教意識の中に見、その宗教意識を摘出するために、現代的宗教性を表現する言葉として「スピリチュアリティ」を選択するとともに「スピリチュアリティ」を主題とした映像作品を制作し、視聴者がその映像作品を鑑賞した後、制作者と作品について対話するという実践から生成された言説を解釈、分析するものである。諸作品は、民俗や伝説、人工的生命としてロボットを題材としたドキュメンタリー、様々な素材のコラージュによって映像化した前衛的作品などがあり、それぞれの作品の表現していると考えられる「スピリチュアリティ」の像をめぐって対話が行われた。まず主題に関しては、神霊や無機物のいのちや偶然や縁あるいはトランスが主題とされており、いずれも一言でまとめれば、「超人間的なもので人為によって操作することのできない何ものか」を「スピリチュアリティ」の意味内容として考えられているという点である。対話が実質的に可能だった作品とそうでなかった作品とがあったが、対話が成立したものはいずれも、制作者の意図したところを視聴者が探りあてようとし、それを受けて制作者が説明するという流れで展開された。神霊がスピリチュアリティ言説のひとつの核となっている点は、伝統的であるとされる表象文化を背景としている点では異なっているものの、昨今の「スピリチュアル・ブーム」と称される文化的動向と共通している。無機的ないのちと有機的な人間存在との絆という関係性はそれに対して新しいスピリチュアリティ言説である。しかし、不可視の動態と人間の諸動作に対する反応というコミュニケーション的観点からすれば、人間間あるいは人間とペットなどの生命体との関係性と相似的である。対話はある意味で主題の確認と解釈として成立し、「超人間的なもので人為によって操作することのできない何ものか」という意味での宗教的聖性を現代的素材で反復している。
著者
上野 行一 坪能 由紀子
出版者
高知大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

平成16年度は、研究課題の第一に関して、平成15年度に引き続き実地調査(東京都現代美術館、ポーラ美術館、宇都宮美術館等予定)を行い完了させた。英国における創造的な芸術教育プログラムの調査結果を考察した結果、1989年に学校教育に導入されたナショナル・カリキュラムの目的・内容を忠実に採り入れたものであることが明確となった。これまで英国の社会教育は、インフォーマルな教育の場として学校教育とは峻別してとらえられがちであった。そのことが英国の教育の特質という見方が濃厚でもあったが、ナショナル・カリキュラムの導入による学校教育の基準化は、意外にも社会教育の場にまで浸透しているということである。研究課題の第二(プログラムの構築と検証)に関して、平成16年度は、研究成果を報告書にまとめるとともに、各地の公立文化施設におけるテキストとしての実際的な活用を考慮し、CD-ROMによる映像記録を中心にした創造的な芸術教育プログラムを作成した。プログラムは美術館が所蔵する作品を基本とした美術鑑賞教育用のものとした。創造的な芸術教育プログラムを実施する公立文化施設は高知県立美術館とし、11月12日第1回の実施がされた。一階のギャラリーを専用スペースとして借り、横尾忠則、クレメンテの作品を高知大学教育学部附属小学校5年生が鑑賞学習した。これは、第46回高知県造形教育研究大会の公開授業とも位置づけられた。学校教育における研究・公開授業が公立文化施設でおこなわれ、学校教育と社会教育が融合した事業となった。
著者
山口 健二 赤木 里香子
出版者
岡山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

三年間の研究の最終年度である本年度は、美術館ワークショップの調査として、大原美術館の夏休み子ども向けイベントである、チルドレンズ・アート・ミュージアムの来館者を調査した。これは三年間の継続課題であり、総括作業を経たのちに、成果はおって報告する予定である。本調査により、美術館ワークショップ経営を実証的見地から改善支援をするという本課題の目的にとって、基礎的データが得られることが期待される。さらに本年度は、岡山大学の附属図書館と共同開催した子ども向けワークショップの総括事業に重点的に取り組んできた。同図書館では、池田家文庫と呼ばれる江戸時代の古書籍・絵図を多数収蔵している(研究代表者はその普及活動を企画する委員会に参加してきた)。連携協力者である、赤木里香子准教授(岡山大学)とともに、ワークショップ・プログラムの内容、広報体制、ワークショップ支援員としての大学生の教育などについて精査した結果をふまえて、国際美術教育学会(InSEA)と、岡山大学ユネスコチェア事業として開催されたシンポジウム(「文化財の複製を活用した教育普及を考える」)で問題提起し、討議をおこなった。先駆的な取りくみを見せる美術館のケース・スタディも三年間で蓄積が進んだ。昨年度までの訪問館に加え、名古屋市美術館、三重県立美術館、滋賀県立近代美術館、長崎県美術館などで教育普及活動実践から、今後のアウトリーチ活動のあり方について指針をえた。さらに本研究を通じて共同研究を深めてきた岡山県立美術館での動きとして、来年度より学校と美術館の連携関係構築のあり方を検討する委員会が立ち上がった。研究代表はその設立準備に関わるとともに、新たに立ち上がる委員会の委員に任じられることとなり、これまでの研究を踏まえた参画が可能となった。本研究の社会還元的な面での成果といえよう。
著者
加藤 浩 三輪 眞木子 近藤 智嗣
出版者
独立行政法人メディア教育開発センター
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、博物館学習における効果的な学習支援の学習支援モデルを構築し、その効果を検証することを目的とした。本研究では、提案する学習支援モデルとして、自立的な解釈の前提となる、展示のテーマ、見るポイント、作品間の関連性をあらかじめ学習させることによって、展示室での自立的な展示解釈を支援するCognitive Orientation of Museum(COM)モデルを構築した。その効果検証のため、千葉県立美術館の常設展「浅井忠とバルビゾン派」をテーマにし、COMモデルの教授過程にのっとったCOM教材を開発し、実際の美術館において美術鑑賞初心者を対象に効果検証実験を実施した。その結果、COM教材を利用すると、教材利用後は展示鑑賞の見るポイントが絞れ、さらに鑑賞体験を重視する傾向が生まれることが明らかになった。また教材利用後、鑑賞体験を行うと、展示室滞在時間が延び、独自の解釈が増え、鑑賞後は満足感が高まり、再来館への動機付けが高まることが分かった。COMモデルにのっとったCOM教材が事前学習に効果的なことが明らかになったので、次に館内支援と連動させる館内外における連携的学習支援システムを開発した。館内外における連携的学習支援システムは国文学研究資料館の特別展「源氏物語-千年の輝き-」をテーマにし、ウェブベースのCOM事前学習教材とPDAベースの館内ナビゲーション教材を開発した。その後、実際の資料館において国文学資料に詳しくない初心者を対象に効果検証実験を行った。COM教材と連動させる館内ナビゲーション教材は、事前のCOM教材で学習した内容の中で、利用者の興味に従いテーマを選択すると、解説する展示、紹介順、解説内容が変化する仕組みになっている。実験で本システムを利用してもらった結果、館内ナビゲーション教材は展示鑑賞中の行動に沿って開発しなければならないという課題が見つかった。
著者
時野 隆至 古畑 智久
出版者
札幌医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

癌遺伝子の増幅や癌抑制遺伝子の欠失を伴う染色体変化はがん細胞の特徴である.本研究では短いゲノム断片を解析しゲノム上のDNAコピー数以上を示す領域を検出する方法としてデジタルゲノムスキャニング(DGS: Digital Genome Scanning)法を開発し,胃癌細胞株におけるゲノムコピー数異常の検出を試みた.胃癌細胞株ゲノムDNAを制限酵素処理した断片を回収し,連結したクローニングしたDNA断片の塩基配列を決定した.取得した塩基配列をヒトゲノム上にマップし,ゲノム上での断片の分布密度をもとにコピー数異常を示す領域を推定した.DGSで予測されたゲノム増幅領域に存在する癌遺伝子の候補については,次に,Southern blot, FISH, real-time RT-PCR, Western blot法などの分子生物学的手法で検証を行った.このDGS解析により,胃癌細胞株の第12番染色体短腕約0.5Mbのゲノム増幅が同定され,同領域に存在する癌遺伝子K-rasのゲノム増幅を確認した.K-ras領域のゲノム増幅は胃癌細胞株18種中4種で,また臨床胃悪性腫瘍50例中4例で検出された.また,K-rasの遺伝子増幅を示した胃癌細胞株ではMAP kinase(ERK1/2)の恒常的活性化が観察された.以上より,DGS法はがんを代表とするゲノムコピー数異常を呈する疾患の原因遺伝子探索において有効な手法となりうることを実証した.
著者
田中 裕美子 前川 喜久雄 石田 宏代 入山 満恵子 柴 玲子 兵頭 昭和
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

H21年度は、これまでに作成した発話誘発課題を用いて文法習得を評価するための具体的な指標を構築し、さらに、臨床像を掘り下げるために新しい発話誘発法を作成し、検討を試みた。1.ナラティブのミクロ構造指標の構築と躓きの判定成人(10名)、学童(10名)、幼児(10名)の「カエルの話Frog,where are you?」(Mayer,1969)の再生発話の分析に用いてきた構造指標T-unitに加え、従属節などのComplexity指標や、語の総数や異なる語数などのproductivity指標を加えるとともに、5人の分析者が95%の一致を認めるためのトレーニング作業を行った上で、ナラティブ再生発話を分析した。その結果、学童期から発話に関係節や従属説などの複雑指標が増すこと、また、productivityは幼児<学童<成人となり、文法発達の躓きを判定するための指標が得られた。2.受動態・使役態文を誘発する課題を用いた文法の問題特性の解明臨床家が印象として持つ「文法の問題」とは具体的にどういうことかを検討するために、斎藤氏の構文検査(試案)を応用し、複数の言語発達障害児から受動態・使役態文を誘発した。その結果、学齢期になっても受動態・使役態文を構成する際に、動詞の活用に音韻の誤りもしくは不確かさが認められる場合、文法の問題に音韻が介在する可能性が示唆された。また、構造化された誘発課題では受動態・使役態文が言えるが、ナラテイィブの中ではできないなど、文脈によるパフォーマンスの違いが明らかになり、日常の場面で使用できるかどうかを確認するための誘発方法を作成することが今後の課題である。最後に、人物の特性や状況を加味した受動態・使役態の理解課題を考案し、健常児・障害児への実施を行い、表出できないときの背景を探り始めた。
著者
田中 幸弘 伊藤 壽英 橡川 泰史
出版者
新潟大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

1.ヒアリング本研究課題のため本年度は以下の主体へのヒアリングを実施した。(1)みずほ銀行グループ等いわゆる「サブプライム問題」が本年度7月以降、マーケットで顕在化したことで、証券化商品及び地方債について保証業務を行っているいわゆる「モノライン」会社の信用リスクが顕在化し、当初想定していた地域の再生のために必要なインフラとしてのわが国における証券化型地方債モデルの枠組みの再考が必要となったため、みずほ銀行グループ等、海外・国外におけるCDO等の証券化商品及び地方債を手がける当事者に対して聞き取り調査を実施、解決を要する事項の法的検討を行った。(2)日本格付研究所トムソンフィナンシャル、他日本格付研究所トムソンフィナンシャル等、サブプライム問題による仕組み債、地方債の格付け実務への影響と今後の実務の枠組みの変容の可能性についてのヒヤリングを実施し、上記サブプライム問題顕在化によるマーケット環境の激変に対してどのような問題が地方債及び地方再生の法的枠組みに生じうる課について、投資家サイド(特に地銀)の地域再投資とバーゼルIIの枠組みとの関係、解決を要する事項の法的・実務的検討を行った。2.研究会及びとりまとめ研究分担者3名による研究会を3回実施した。本年度は昨年度の成果を踏まえ、分担者による実地調査の内容の報告と分析及び日本法における地方再生の法的枠組みの検討の論理的な問題・論点のまとめを行う予定であったが、年度中に起きたサブプライム問題による研究テーマへの影響と枠組みの再構築を考えざるを得ず、これに必要なテーマについて整理を行った。各回のテーマは以下の通り。わが国における地方再生の法的枠組みのあり方について・・・証券化型地方債モデルの可能性と法的留意点・いわゆるサブプライム問題の法的構造と地方債モデルにおけるモノライン会社の役割への影響・いわゆるMBS、CDO等の証券化商品の時価評価の枠組みと今後の証券化型地方債モデル構築の際の留意点
著者
吉田 香 川添 禎浩 寺本 敬子
出版者
京都光華女子大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

微量元素はヒトや動物が生体を正常に維持する上で必要なものが多く、ヒトは生命を維持していく上で適量摂取していく必要がある。微量元素が不足すると欠乏症状が生じ、体調に異変が生じる。しかし、これらの元素を過剰摂取すると健康被害を起こすことも知られている。アルミニウムはわずかな過剰摂取のために神経障害などの健康被害をひき起こす可能性がある元素である。近年、人々の健康への関心が高まり、種々の健康食品を利用する人が増えている。そのため、食品のみから摂る場合には注意する必要のなかった栄養素の過剰摂取が食品とサプリメントを合わせて摂ることにより、起こる可能性がある。昨年度の研究の結果、サプリメントの中には非常にアルミニウム濃度が高いものがあった。そこで、今年度は種々のサプリメントについて微量元素量を測定した。その結果、野菜、ビール酵母、ウコンなどの天然原料由来のサプリメントでアルミニウム含有量が高いものがあった。また、これらのサプリメントの中には、アルミニウムと同時にマンガン、鉄および亜鉛量なども高いものがあった。天然原料由来のサプリメントの摂取によるアルミニウムを含めた微量元素の過剰摂取が健康に及ぼす影響に注意する必要がある。そのひとつの例として、アルミニウム過剰摂取が動物の行動へ与える影響を調べるため、マウスに飲料水として乳酸アルミニウム溶液を与え、マウスの行動(回転カゴ)に及ぼすアルミニウムの影響を観察した。その結果、行動の低下が観察された。ただし、個体差が大きかったため、以後継続して観察を行う必要がある。
著者
芦田 信之 竹村 匡正
出版者
甲子園大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

平成18年度、19年度に引き続き、認知症高齢者の専用フロアをもつ精神科病棟にて、認知症高齢者の意思決定代理人のインフォームドコンセントによる許可を得たのち、施設利用者および介護職員(フロア担当者等、昼夜交代あり)にICタグを装着して、行動観察を行った。居住スペース内のベッド、トイレ、廊下、いこいの場などにトリガー領域を設置し、長期間、昼夜24時間連続モニタリングを実施し、行動観察をおこなってきた。利用者の毎日のベッド内滞在時間、トイレ回数、歩行距離などの行動パターンと病態との関係を把握することが可能となり、徘徊行動のおこるパターン解析、徘徊行動をおさえるための介入研究をおこなった。また、1日の行動記録の自動化を試み、自動日報作成のための生活行動分類をおこなった。また、介護者の行動の記録をとるために、ICレコーダで介護行為を記録することとした。しかしながら、現在の音声認識技術では、会話文の自動テキスト化は困難であったので、介護者と利用者の会話を定型化することを考えて、介護現場で必要な「声掛け運動」を提唱し、いろいろな場面での会話を体系化した。このことは、単に、自動記録ができるだけでなく、介護者と利用者のコミュニケーション(必要な場面で、必要な言葉をかける)のに役立ち、さらに、介護者が質の高い介護を実践するための研修にも役立つことがわかった。