著者
金井 昭彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D2(土木史) (ISSN:21856532)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.12-27, 2017 (Released:2017-04-20)
参考文献数
44

19世紀のヨーロッパにおいては,大都市の駅舎にはトレイン・シェッドが建設され,駅空間のシンボルとして君臨してきたが,現在においてもその圧倒的な存在感は失われていない.この技術空間であるトレイン・シェッドは,列車や旅客防護等の基本的な機能に加え,ホーム上のすべての移動を妨げないようにスパンを増大し,蒸気機関車の排出する煤煙を処理することが求められた.しかしながら,本研究では,この機能的側面に加えて,当時の技術や時代背景,鉄道の大衆化や国際化に伴う都市の玄関ホールとしての役割などを,エンジニア・建築家の言説,あるいは芸術家たちの描写から読み取ることによって,トレイン・シェッドの象徴的側面を明らかにし,その存在理由を総括的に考察することを目的とする.
著者
大野 友則 大山 浩代 別府 万寿博 塩見 昌紀
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集A (ISSN:18806023)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.875-888, 2008 (Released:2008-11-20)
参考文献数
24

煙火工場等の火薬類を貯蔵する火薬庫の建設においては,万が一の爆発に際しても周辺への安全を確保する必要性から保安距離が定められている.保安距離は自由空間中における爆発事象を基準として定められているが,堅固な鉄筋コンクリート造の周囲を覆土した覆土式火薬庫の内部爆発事象は自由空間での爆発とは異なるはずである.本研究は,爆発実験室で模型火薬庫を用いた爆発実験を行い,構造物の破壊や爆風圧の大きさに及ぼす覆土の効果について検討を行っている.模型火薬庫試験体は実規模の約1/20の縮尺とし,C4爆薬を試験体内部で爆発させた.実験では,覆土の厚さおよび爆薬量をパラメータとした.実験結果に基づいて覆土の有無や厚さが爆風圧に及ぼす効果を考察し,換算距離と最大爆風圧の関係を求め,現行の保安距離に係る規定との比較を行った.
著者
中川 善典 重本 愛美
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.304-323, 2016
被引用文献数
1

高齢者による運転事故を予防するため,自動車運転免許の自主返納が推奨されている.免許返納によって高齢者は移動の不便を余儀なくされるが,その不便を引き受けて返納することが返納者にとってどのような意味を有するかを理解することは,返納者の支援策を検討する上での出発点である.本論文は,二名の免許返納者の人生史研究に基づき,返納者の人生史全体を参照しない限り返納者にとっての返納の意味が理解できないケースが存在することを例証した.さらに,これら二名にとっての返納の意味の共通部分を抽出することで【自分の信念を貫いて人生を完結するための決意表明】としての免許返納という概念が構築された.最後に,運転免許の返納を検討する高齢者の家族が,どのような姿勢で高齢者に接する必要があるか等の実践的含意について論じた.
著者
川村 志麻 三浦 清一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集C(地圏工学) (ISSN:21856516)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.643-657, 2012 (Released:2012-10-19)
参考文献数
39

海岸斜面の侵食およびそれに起因する被害が,世界的にも数多く報告されている.特に,英国や米国,カナダに分布する氷成堆積土や,未固結な地盤から構成される海岸崖では,波の侵食作用により崩落・崩壊が生じており,重要課題として取り沙汰されている.本研究では,低気圧などの暴風時の波浪によって突発的に侵食が進行するケースを対象とし,未固結な地盤からなる海岸斜面の波の侵食作用に起因する斜面崩壊の可能性を調査している.はじめに波の侵食作用が著しい北海道東部の海岸斜面の力学挙動を解明し,次いで1G場および遠心力場の模型実験から,波の侵食作用による斜面後退距離の推定と崩壊機構を検討している.得られた結果と考察から,波の侵食作用に起因するノッチの後退距離を考慮した斜面安定評価法を提案している.
著者
小滝 省市 高山 純一 中山 晶一朗 埒 正浩
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.I_723-I_733, 2014 (Released:2015-05-18)
参考文献数
10
被引用文献数
2

本研究では,地方都市の中心駅の駅前広場を対象として,都市計画現況調査1)のデータや都市計画部局職員へのアンケート調査,実地調査の結果を元に,駅前広場の整備の実態と容量不足の要因について分析し,面積算定基準において具体的な方針が示されていない一般車用施設の規模算定方法に関する課題を明らかにした.その結果,中心駅の駅前広場の約89%が整備中または整備済であり,内,約67%が混雑し,約51%が一般車用施設が不足するとしている.また,駅前広場における一般車用施設の容量不足の要因は,経年などによる想定以上の交通量の増加や,待合車両の対応を計画に見込んでいないことから,平均停車時間の計画値と実態値の乖離にあることを明らかにした.
著者
八重樫 咲子 細川 大樹 渡辺 幸三
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.III_139-III_147, 2017 (Released:2018-04-01)
参考文献数
22

NGS解析を用いた水中の環境DNA解析は生物採集を行わずに生物の群集構造と生息個体数をモニタリングできる手法として注目を浴びている.しかし水生昆虫を対象とした場合には群集構造の評価にとどまる.そこで本研究では,環境DNAのNGS解析から得られた各水生昆虫科の群集構造およびそのDNA配列数と,従来型の定量採集で得られた群集構造と生息個体数の関係性を比較した.まず,愛媛県重信川水系の12地点で河川水を,11地点で水生昆虫の定量採集を行った.次に河川水から得られたDNAに対して昆虫のCOI領域を対象にしたNGS解析を行い,環境DNAの由来となった科の検索を行った.その結果,環境DNAの配列数と個体数の間に有意な正の相関が見られ,環境DNAのNGS解析から分類群数のみならず生息数が評価できる可能性が判明した.また,流水性以外の科や渓流に生息する科も検出され,環境DNAにより幅広い地域の群集構造を明らかにできる可能性が示された.その一方で,研究対象分類群以外の情報がかなり多く検出された.今後,水生昆虫のDNA情報を効果的に回収する手法開発が求められる.
著者
波床 正敏 吉村 晟輝
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.I_991-I_1004, 2018

ドイツでは高速新線の開通にあわせて1991年にICEが運行開始され,在来線改良区間も活用しながら,現在ではほとんどの主要都市に対してICEのサービスが提供されている.本研究では,ドイツにおける高速新線建設や在来線改良に伴う影響を分析するため,日本の東海道新幹線開業とほぼ同時期の1963年以降概ね10年ごとに2015年までの6年次について,主要都市間の各種所要時間指標を計測し,その特徴を考察した.<br>その結果,広域的には東西ドイツ統一が都市間の所要時間変化に大きな影響を与えたこと,東西統一以前は速度向上と運行頻度や乗り継ぎ利便性向上がともに行われていたが,近年は運行頻度や乗り継ぎ利便性向上が重点的に実施されており,スイスのBahn 2000政策と同様の鉄道システムが導入されつつあることがわかった.
著者
石原 成幸 河村 明 高崎 忠勝 天口 英雄
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.I_291-I_301, 2017 (Released:2018-01-15)
参考文献数
35

渋谷川は東京都管理の二級河川であり,渋谷駅上流部が暗渠化されたことで夙に知られている.渋谷駅周辺では現在,複数の再開発事業が相互かつ緊密に連携しながら進行中であり,これら再開発の一環として渋谷川でも河川敷地占用許可準則の特例占用を活用した親水施設整備など,河川と街づくりが一体となった沿川環境整備が進められている.本論では同駅周辺の再開発を契機として,豊かな環境空間が甦るに至った渋谷川における河川改修と下水道整備計画の変遷のとりまとめを通じ,これまで余り知られていなかった事実関係,また従来注目されてきた河川の下水道幹線化計画とは別次元で河川の覆蓋化計画が検討されたが,開渠のまま残された背景などを新たに明らかにした.さらに今後の都市河川における河川環境の再生方策等についても言及を試みたものである.
著者
岩田 遼 佐藤 啓央 中山 恵介
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.I_769-I_774, 2019

<p> 湖沼や沿岸域で密度差や水温の違いから生じる密度成層場において,風や潮汐などの外力が作用することで内部波が発生する.特に安定して進行することが知られている内部ソリトン波では,plunging breaker,collapsing breaker,surging breaker,fission breakerの4つの砕波形態があることが知られており,各砕波形態によって物質輸送の特徴が異なると考えられている.これまでの研究で,密度界面が薄い場合における砕波形態の分類指標は示されているため,本研究では密度界面が厚い場合においても現在の指標が適用可能かどうかについてFantomを用いて解析を行った.その結果,collapsing breaker,surging breakerではほぼ変化はなく,残りの2形態でも大きな変化は見受けられなかった.砕波位置においては,層厚変化に伴う変位は微小である一方で,遡上距離はfission breakerにおいて違いが見られた.以上のことから層厚が変化しても現在の砕波指標は適用可能な一方,変化する点も存在することが結論として導かれた.</p>
著者
宮下 秀樹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D2(土木史) (ISSN:21856532)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.104-115, 2013 (Released:2013-10-18)
参考文献数
33
被引用文献数
1

裾花川末流部は,近世初頭に松平忠輝と家臣団により大規模な河川改修が行われているが,これは口碑伝承のみで確かな史料が存在しない.近年の都市開発により,現在の裾花川流域には慶長期の河川構造を確認できる痕跡は少ない.本稿では,地元に存在する江戸時代の古文書と,大正末期の長野市全図で確認できる河道の姿に明治初期の行政文書を加味して,帰納法的に慶長期における煤鼻川開発初期の形態の同定を試みた.その結果,煤鼻川は二線堤構造や霞堤を配置した甲州流の治水技術の流れを汲む工法が用いられていて,甲州系代官衆らにより進められた開発であったと推定できる.同時に旧煤鼻川氾濫地帯に北国街道丹波島・善光寺宿ルートが開設されるともに窪寺堰が開鑿されていることから,これらは治水・利水・街道整備を含めた総合開発であった.
著者
能島 暢呂 加藤 宏紀
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集A1(構造・地震工学) (ISSN:21854653)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.I_121-I_133, 2013 (Released:2013-06-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

東日本大震災により影響を受けた高速道路網の日交通量のデータを入手し,時空間的な変動を可視化するとともに,災害対応オペレーションと関連付けて高速道路機能の分析を行った.地震直後,約2,300kmにわたって通行止めの措置がとられ,緊急交通路指定による交通規制が続いたが,それらの解除とともに交通量は迅速に回復し,約2週間で震災前の水準に戻った.長期的にみるとその後も主要路線で交通量は漸増し,2011年7月~10月の間に1.6~2倍に達した.阪神・淡路大震災で大被害を受けた高速道路網の月平均日交通量のデータについても,同様の観点から時空間的分析を行った.また高速道路網の施設水準と機能水準を表す3種類の指標を算出し,両震災で比較を行った.
著者
長谷川 弘忠 山崎 文雄 松岡 昌志 関本 泉
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
地震工学研究発表会講演論文集
巻号頁・発行日
no.25, pp.1097-1100, 1999

兵庫県南部地震による建物の被害状況について, 地震後の空撮映像を利用した複数人による目視被害判読を行い, 判読者の違いが建物被害抽出結果に与える影響について検討を行った. 空撮映像はハイビジョンカメラにより上空から斜め下方を撮影したものを使用した. 結果の評価には, 建物1棟ごとの被災度調査データと, 被害地上写真を利用した. この結果, 被害の有無については, 個人差および判読時間の影響を受けず, 概ね同程度の抽出が可能であることが解った. ただし倒壊建物の抽出を行う場合には, 判読者の個人差の影響が顕著であり, 空撮映像上での倒壊判読基準の統一が必要であることが明らかとなった.
著者
清水 吾妻介 平田 輝満 屋井 鉄雄
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.851-862, 2010
被引用文献数
1

将来首都圏空港容量が不足する可能性に備えた長期的な視点での検討として,東京湾内において再拡張後の羽田と独立に運用することができる新滑走路整備の可能性について,羽田再拡張後の飛行経路および環境制約を前提に飛行方式設定を中心とした技術的な検討を行った.その結果,羽田からの離陸初期段階で比較的低高度での水平飛行などの条件が必要ではあるものの,海ほたるから木更津沖周辺でD滑走路と平行な新滑走路か,または,都心からやや距離があるものの,観音崎付近でA, C滑走路とほぼ平行な独立新滑走路を配置することが可能であることが分かった.更に可能配置例の必要航法精度や既存経路と環境への影響等について比較評価を行った.
著者
柳川 篤志 川端 祐一郎 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.I_351-I_368, 2020

<p><tt>現在わが国の人口は東京へ一極集中しており,世界の先進諸国と比較しても東京への集中度合いは非常に高い.人口の一極集中には地方の衰退,首都における災害等への脆弱性という弊害が存在しており,東京一極集中は是正されるべきであると考えられる.一極集中の是正へ向けてはその要因を検証していくことがまずもって必要である.国内外の既往研究においては,一極集中の要因を巡る研究がなされてきたが,定量的な分析に基づく実証研究は十分になされていない.そこで本研究では,鉄道整備が人口の一極集中に与える影響を明らかにすることを目的とし,国内外のデータを利用し実証的な分析を行った.その結果,鉄道インフラの偏在が人口移動に影響をもたらし,鉄道整備の東京圏への一極集中が,人口の東京圏への 一極集中をもたらす可能性が示唆された.</tt></p>
著者
高田 知紀 近藤 綾香
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.20-34, 2019 (Released:2019-07-20)
参考文献数
27

本研究の目的は,日本の地域社会のなかで人びとが語り継いできた妖怪を,防災減災における知的資源として捉え,その利活用方法を提案することである.妖怪伝承のなかには,地震や津波,洪水,水難事故といった災害と関連するものが多数存在する.そのなかでは,妖怪の働きが,災害の誘発要因,災害の予兆前兆,災害状況の説明,災害の回避方策,災害履歴の伝達,という5つの類型で語られる.リスクの伝達装置としての妖怪伝承の構造をふまえ,社会実験として,子どもたちが新たな妖怪を考え出す作業を通じて,地域の多様な危険を認識し,その対策を検討する「妖怪安全ワークショップ」を展開した.その成果として,子どもたちが経験したことのないような大規模自然災害のリスクも適切に把握し,危険を回避するための方法を導き出すことができた.
著者
澤井 泰基
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B3(海洋開発) (ISSN:21854688)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.I_827-I_832, 2017 (Released:2017-08-22)
参考文献数
8

造成したアマモ場をモニタリングにより事業評価し,その結果を後々の造成活動に反映していくことは重要である.アマモ場のモニタリング手法は,コドラード法による調査手法が用いられるが広大な群落をモニタリングするには労力が大きい.これに対して,衛星リモートセンシング,航空機,バルーンやドローンによる空撮画像から藻場を分類する研究が取り組まれている.RGB画像からアマモ場を判別する際には教師付分類による閾値法が用いられるが,計測者の経験に依存する部分が大きく,藻場抽出に時間的な労力を要する.本研究ではドローンによる空撮画像からのアマモ場抽出について従来の手法で問題となっていた解析時間と人為的な誤差を,領域ベースのSnake法を用いることで短時間かつ人為的誤差の少ない高精度な解析手法を検討することを目的とする.
著者
西村 和記 土井 勉 喜多 秀行
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.I_809-I_818, 2014 (Released:2015-05-18)
参考文献数
12
被引用文献数
4

地方部の公共交通利用者は減少傾向が続いていることから維持が困難な状況となっているため,補助金という形で行政支援がなされている.しかし,行政側も財政難から公共交通に対する財源確保が困難な状況である.また,これまでは公共交通の価値や必要性を交通分野単独で検討していることが多く,収支を重視した評価を行う結果,公共交通の価値や必要性が小さく評価されている面もある.そこで本稿では,交通分野だけでなく他の行政分野も含めて社会全体の支出の削減を目的として,公共交通の価値や必要性をクロスセクターベネフィットの考え方から整理した.公共交通が関係する12分野において,公共交通が担っている役割・効果,そしてその価値を算出した結果,公共交通が地域社会に果たす役割は大きいものであることが本稿により明らかになった.