著者
川井 智貴 浦辺 幸夫 前田 慶明 堤 省吾 沼野 崇平 小宮 諒 鈴木 雄太 藤下 裕文
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1274, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】近年,ダーツは生涯スポーツやレクリエーションとして注目されており,介護施設などでも取り入れられている。さらにダーツは身体機能回復の効果があるともいわれているが,どのような身体機能に対して効果があるかを示した報告は少ない。ダーツでは狙い通りにダーツを投げるために姿勢の安定性が重要なことから,高齢者でも楽しく実施でき,かつバランス能力改善を目的としたエクササイズとして使用できる可能性がある。本研究では,ダーツを継続することがダーツ投擲時の重心動揺にどのような影響を及ぼすかを若年者で検討し,今後高齢者がダーツを行うことの有用性について示唆を得ることを目的とした。【方法】対象は健常男性12名とし,ダーツ経験のない未経験群6名(年齢22.1±1.5歳,身長171.0±3.9cm,体重64.2±7.3 kg),2年以上の経験がある経験群6名(年齢29.8±5.3歳,身長165.2±7.4 cm,体重65.5±13.4 kg,経験年数3.4±1.1年)とした。対象は,裸足で重心動揺計(竹井機器工業)上のスローラインに立ち,前方237cm,上方173cmに設置したダーツボードの中心(直径4cm)を狙って,ダーツ投擲を20投刺さるまで行った。対象の利き手の肩峰,上腕骨外側上顆,尺骨茎状突起に直径20 mmのマーカーを貼付し,デジタルカメラ(Power Shot A2600,Canon)1台を25Hzに設定し,3m側方から撮影した。Image J ver. 1.48(NIH)で算出したマーカーの座標データをもとに,解析区間を肘関節屈曲開始時(投擲前のテイクバック開始時)から最大伸展時(投擲後のフォロースルー終了後)と定義した。分析項目は,ダーツボードの中心から刺さったダーツまでの距離(cm),解析区間内の単位軌跡長,前後方向単位軌跡長,左右方向単位軌跡長とした。統計学的解析は,各算出項目の群間比較に対応のないt検定を用い,危険率5%未満を有意とした。【結果】ダーツボードの中心から,刺さったダーツまでの距離は経験群が3.7±1.0 cm,未経験群が8.2±0.9 cmであり,経験群はより中心に近い位置に投げることができた(p<0.05)。ダーツ投擲時の単位軌跡長は経験群が26.6±5.9 mm/s,未経験群が38.0±10.6 mm/sとなり,前後方向単位軌跡長では経験群が20.5±5.4 mm/s,未経験群が30.6±8.6 mm/sであり,いずれも経験群が有意に小さかった(p<0.05)。左右方向単位軌跡長では経験群が14.6±5.5 mm/s,未経験群が17.4±4.5 mm/sであり,有意差はなかった。【結論】本研究から,経験群は未経験群よりダーツの成績がよく,ダーツの成績向上には前後方向のバランス制御が重要であることが示された。先行研究では,同一動作の反復により姿勢の安定性が向上するとされている(大畑ら,2003)。ダーツでは,上肢の投擲動作とバランス制御が要求される。ダーツ経験者は投擲動作時のバランス制御能力が高いことから,今後はダーツが高齢者のバランス能力改善目的のエクササイズとして有用かどうか確かめていく。
著者
大和 洋輔 長谷川 夏輝 藤江 隼平 家光 素行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】動脈機能の低下は,冠動脈疾患や脳血管疾患,末梢動脈疾患などの循環器疾患の独立した危険因子である。身体活動量の低下は動脈機能を低下させるが,習慣的な有酸素性運動は動脈機能を改善させることが知られている(Circulation, 2000)。近年,低強度運動であるストレッチ運動が動脈機能に及ぼす影響について報告されており,ストレッチ運動が動脈機能を改善するという報告や(J Cardiovasc Prev Rehabil, 2008)改善しないという報告(J Hum Hypertens, 2013)があり,その影響については一致した見解が得られていない。本研究では,ストレッチ運動による動脈機能への影響を明らかにするために,単回の全身ストレッチ運動が動脈機能(動脈硬化度)に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。【方法】健常成人男性26名(年齢:20.8±1.7歳,身長:171.5±5.9 cm,体重:63.5±6.3 kg)を対象とした。ストレッチ運動は,全身(上腕二頭筋,上腕三頭筋,前腕屈筋群,前腕伸筋群,体幹屈筋群,体幹伸筋群,体幹回旋筋群,大腿四頭筋,ハムストリングス,下腿三頭筋)に対して約40分間のストレッチ運動を実施した。ストレッチ運動の種類はセルフでのスタティックストレッチ運動とし,ストレッチ運動の強度は疼痛のない範囲で全可動域を実施させた。また,コントロール施行としてストレッチ運動と同じ体位変換のみを同時間実施させた。ストレッチ運動とコントロール施行は1週間の間隔をあけてランダムに実施した。全身の動脈硬化度の指標として上腕-足首間(baPWV),中心および末梢の動脈硬化度の指標として頸動脈-大腿動脈間(cfPWV)および大腿動脈-足首間(faPWV)の脈波伝播速度を施行前と施行直後,15分後,30分後,60分後に測定した。また,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数も同時に測定した。統計処理は反復測定の二元配置分散分析を用い,有意水準は5%とした。【結果】baPWVおよびfaPWVは,ストレッチ運動施行前に比較して15分後と30分後で有意に低値を示した(p<0.01)が,60分後には施行前まで値が戻った。また,施行前に対するそれぞれの変化率(%)をみたところ,baPWVとfaPWVは,ストレッチ運動施行前に比較して15分後と30分後で有意に低値を示し(p<0.01),どちらも30分後が最も低値を示した。cfPWVではストレッチ運動施行による有意な変化は認められなかった。収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数はストレッチ運動施行とコントロール施行間での有意な差はいずれも認められなかった。【考察】健常な若年男性における一過性の全身ストレッチ運動は,全身の動脈硬化度を改善させる可能性が示唆された。このストレッチ運動の効果には,中心よりも末梢の動脈硬化度の低下が関与している可能性が考えられる。これらの結果から,ストレッチ運動による動脈硬化度に及ぼす影響の機序として,ストレッチ部位の筋や動脈血管に対する伸張刺激が局所的に動脈機能を改善させたのかもしれない。【理学療法学研究としての意義】動脈機能を改善させる運動としてよく用いられるのは有酸素性運動トレーニングである。しかしながら,心血管疾患や脳血管疾患患者に対する急性期の理学療法では,早期から有酸素性運動を取り入れることは困難な場合がほとんどである。ストレッチ運動のような低強度の運動を早期の理学療法の運動プログラムに取り入れることで,有酸素性運動ができないような患者に対して動脈機能改善を目的としたアプローチが行える可能性がある。本研究は,臨床で動脈機能改善を目的とした運動プログラムとして活用するための一助になり得る結果であると考えられる。
著者
西沢 喬 今井田 憲 吉村 孝之 馬渕 恵莉 佐分 宏基 小田 実 長谷部 武久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0684, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】大殿筋は歩行の立脚相初期時に最も働くとされており,大殿筋の萎縮は,跛行の原因と報告されている。大殿筋筋活動を増加させる方法として,嶋田らはフォースカップル作用を狙い,腹筋群を働かせ骨盤後傾させる方法を報告している。大殿筋筋力強化・体幹安定化エクササイズとして臨床でブリッジ動作は多く用いられている。しかし,ブリッジ動作では腰背部痛が時折発生することがあり,ブリッジ動作時筋活動の特徴を知ることは重要である。ブリッジ動作の先行研究において股関節・膝関節の異なる角度での筋活動を比較した報告は多い。しかし,ブリッジ動作の骨盤肢位の違いによる筋活動の報告は,骨盤傾斜が背部筋筋活動に及ぼす影響の報告はあるが,背部筋と腹部筋の筋活動を検討した報告は少ない。そこで,腹筋群を活動させ脊柱起立筋の過活動を予防,大殿筋を活動させることで大殿筋の選択的な運動になると仮説を立てた。本研究は,健常成人男性を対象として表面筋電図を用い,骨盤肢位の違いによる大殿筋のフォースカップル作用を使ったブリッジ動作を行い大殿筋,脊柱起立筋,腹直筋,外腹斜筋の筋活動を解析し,特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は腰部・股関節に疾患のない健常成人男性20例(年齢28.95±5.4歳)。筋活動の比較には表面筋電図(Myosystem G2)を用い,測定筋は左側の大殿筋(仙骨と大転子を結んだ中央点),脊柱起立筋(第1腰椎棘突起から4cm外側),腹直筋(臍部外側1cm正中より2cm外側),外腹斜筋(臍より15cm外側)の4筋とした。測定肢位は背臥位,上肢を胸の前で組み,股関節内外転中間位,膝関節屈曲90°からのブリッジ動作とし,肩関節から膝関節まで一直線になる肢位で5秒静止した。測定条件は通常ブリッジ(以下,BR)と口頭指示による骨盤後傾位ブリッジ(以下,BTBR)の2種類とした。各条件の測定はランダムに行った。骨盤後傾の確認として,ブリッジ動作時をデジタルカメラで撮影し,上前腸骨棘と恥骨結合を結んだ線と大転子と大腿骨外側顆中心を結ぶ線の頭側になす角度を正とした。BR,BTBR時の骨盤後傾角度を画像解析ソフトImage Jを用いて測定し,骨盤傾斜角とした。また,BTBR時の骨盤傾斜角を同一検者が画像で確認し検者内信頼性を算出した。筋電図の測定区間は各条件の等尺性収縮5秒間のうち波形が安定した3秒間の積分値を算出した。最大等尺性収縮(MVC)はケンダルのMMT5を100%として正規化し,各条件での筋活動を%MVCとして算出した。さらに各条件で脊柱起立筋に対する大殿筋筋活動を大殿筋/脊柱起立筋比として表した。各条件における筋活動の比較には,対応のあるt検定を行った。統計学的分析にはSPSS12.0Jを用い,有意水準は5%とした。【結果】骨盤後傾の信頼性はICC(1,1)0.83であった。骨盤傾斜角はBR:4.8±8.4度,BTBR:12.9±12.4度であった。BTBRがBRと比べ有意に大きかった(P<0.05)。大殿筋筋活動はBR:10.26±6.1%,BTBR:20.13±10.8%,脊柱起立筋筋活動はBR:44.25±11.6%,BTBR:56.15±19.9%,腹直筋筋活動はBR:1.68±1.3%,BTBR:3.83±3.0%,外腹斜筋筋活動はBR:2.64±2.0%,BTBR:5.59±3.6%であった。全ての筋活動でBTBRがBRと比べ有意に高かった(P<0.05)。大殿筋/脊柱起立筋比はBR:0.23±0.1,BTBR:0.41±0.2であった。大殿筋/脊柱起立筋比はBTBRがBRと比べ有意に高かった(P<0.05)。【考察】大殿筋/脊柱起立筋比において,BTBRではBRに対し有意増加した。つまり,骨盤自動後傾させると大殿筋筋活動が脊柱起立筋筋活動に比べ相対的に増加したと考えられた。BTBRでは,自動で骨盤を後傾させることで,骨盤傾斜角が大きくなりフォースカップル作用にて,骨盤後傾主動作筋である腹直筋,外腹斜筋の筋活動が有意に増加し骨盤後傾したと考えられた。この腹筋群の相反神経抑制により脊柱起立筋の過活動が抑制でき,大殿筋/脊柱起立筋比が増加したと考えられた。ブリッジ動作での,大殿筋エクササイズはBTBRが大殿筋の選択的な運動になること可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】BTBRは,大殿筋選択的エクササイズとして有用であることが示唆された。臨床におけるブリッジ動作における殿筋筋力強化・体幹安定化エクササイズの一助として意義のあるものと考えられた。今後の展開として高齢者や疾患別に詳細な筋活動を分析することで,安全で有用なエクササイズにつながると考えられた。
著者
齋藤 成也 菅原 和広 徳永 由太 渡辺 知子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Aa0167, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 体幹の動揺を防ぐ姿勢制御メカニズムの一つにfeedforwardコントロールがある.このコントロールは,四肢筋の活動に先行して体幹筋が活動を始めることで,動作による体幹の動揺を防ぎ,脊柱の安定性に重要な役割を果たしているといわれている.また,feedforwardコントロールの発揮は予測の有無により決定され,予測不可能な外乱に対しては当てはまらないことが報告されている.しかし,これらの研究は外部から身体へ外乱を与えるものが多くみられ,自己意志による運動開始時と,視覚誘導性運動時の運動開始時を比較している研究は少ない. また,体幹筋の中で腹直筋はモーメントアームが長く,筋腹が3~4つに分けられるという特殊な形態であり,腹直筋の筋活動を上部線維と下部線維に区別した報告がいくつか存在する.そのため,姿勢制御の際に腹直筋上・下部の筋活動に違いがあるのではないかと考えられる.今回は,(1)上肢挙上時の運動発現要因が,自己の意志による運動と,視覚誘導性運動でのfeedforwardコントロールの違いについて明らかにすることと,(2)腹直筋を上・下部と分類し,両側の体幹筋を計測することで各筋線維の筋活動の特徴を捉えることを本研究の目的とし調査した.【方法】 対象は,神経筋骨格系疾患の既往のない健常右利き男性12名とし,身長は171.7±4.1cm(mean±SD),体重は61.5±5.3kg,年齢は21.3±1.2歳であった.測定筋は三角筋前部線維(Anterior Deltoideus:AD),両側腹直筋上部(Upper Rectus Abdominis:URA)下部(Lower Rectus Abdominis:LRA),両側脊柱起立筋(Erector Spinae: ES)の7ヶ所とした.対象者には,自分のタイミング(自己意志)と光センサーの発光後(視覚誘導性)にそれぞれ右上肢挙上を最大速度で行わせた.得られた筋電図はADの筋活動発現時間を0msとし,各筋線維の筋活動発現潜時を求め,ADの筋電図発現時間との差を算出した.自己意志時と視覚誘導性運動時の筋活動発現潜時の比較については,ウィルコクソン符号付順位和検定を用いた.また,それぞれの条件下での各筋線維間の筋活動発現潜時の比較には二元配置分散分析を行い,事後検定としてTukey-Kramer法を用いた.尚,有意水準は5%に設定した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に対しては実験前に口頭で本研究の目的及び内容を説明し,同意を得た.【結果】 自己意志時において左ESは-20.3±30.1ms,右ESは52.4±55.3ms,右LRAは141.5±65.6ms,左LRAは190.2±46.8msであった.一方,視覚誘導性運動時では左ESは51.2±29.6ms,右ESは91.1±56.7msであり,右LRAは176.3±61.2ms,左LRAは223.1±21.1msであった.自己意志時と視覚誘導性運動時の比較では,両側ES,両側LRAにおいて,視覚誘導性運動時が自己意志時に比べ筋活動発現潜時が有意に遅延した.各筋線維の筋活動発現潜時の比較においては,右ESが左ESに比べ有意に遅延した.また,左LRA,両側URAは右LRAに比べ有意に遅延した.【考察】 運動プログラミングには,中枢レベルで2つの回路が存在するとされ,基底核・補足運動野を含む内部回路と,運動前野・小脳を含む外部回路に分けられる.Gazzanigaらによると内部回路は自己誘導運動に働き,外部回路は視覚誘導性運動などに働くとされている.本研究において,自己誘導運動は自己意志時の運動に相当し,視覚誘導性運動は視覚刺激により誘発される視覚誘導性運動に相当する.これら2つの運動プログラミングの違いは,行為を意図してから連合皮質を経由し,運動選択の段階で内部回路と外部回路に分かれることである.その後,両回路の伝達は共に運動野に入力され,各筋群に信号を送る.本研究において,視覚誘導性運動時に体幹筋の筋活動発現潜時が遅延していることから,外部回路を経由する運動ではfeedforward コントロールは発揮されにくいことが示唆された. global muscleの活動は運動の方向性と関連し,垂直スタンスを維持するように重心を移動させるとされている.本研究では,右上肢を前方から挙上することで、重心は右前方に動こうとする.そのため,左後方へ重心を加速する力が必要となり,左ESの筋活動が最も早期に起こったと考えられた.また,拮抗する右LRAが左ESと共同して働くことで,脊柱の剛性を高めているものと考えられた.【理学療法学研究としての意義】 視覚誘導性の運動では,自己意志時に比べ体幹筋の筋活動開始のタイミングが遅延した.これは,外部回路を経由した視覚誘導性運動ではfeedforwardコントロールが発揮されにくいことを示唆している.また,feedforwardコントロールは腰痛症患者においても発揮されない症例が報告されている.そのため,腰痛症患者では運動プログラミングの段階から変化が生じていることが考えられ,今後更に調査していく必要があると考えられる.
著者
尾関 圭子 飯田 博己 岩本 賢 中路 隼人 三浦 祐揮 梶田 幸宏 村松 由崇 木村 伸也 岩堀 裕介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1269, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに】近年,野球競技への女性参加が増え,その競技レベルは向上しつつある。野球選手の身体特性については,男性を対象にした報告は多数あるが,学童女子に関する報告は少ない。我々は,2014年から学童女子野球選手を対象にメディカルチェックを行っている。そして,2015年スポーツ傷害フォーラムにおいて,学童女子選手は男子と同等の肩後方タイトネスを有していることを報告した。今回は,学童女子野球選手における肩・肘及び下肢の関節可動域を,男子と比較し報告する。【方 法】対象は,女子は2014~2016年度ガールズベースボールトーナメントに参加した,愛知県代表選手43名(平均年齢11.3±0.5歳)とした。男子は2015年度名古屋市小学生軟式野球選手の野球検診で,当院の検診に参加した67名(平均年齢11.9±0.4歳)とした。方法は,ROM測定を以下の項目について両側行った[肩関節:90°外転位外旋・90°外転位内旋・90°屈曲位内旋・水平屈曲,肘関節:屈曲・伸展,股関節:内旋・伸展・SLR]。90°外転位外旋と内旋の和をTotal Arcとして求めた。各測定項目を,男女間および投球側と非投球側間で比較した。統計処理には,Mann WhitneyのU検定を用いた(p<0.05)。【結 果】1.男女の比較:90°外転位内旋・Total arc・水平屈曲・股関節内旋・股関節伸展・SLRにおいて,投球側・非投球側ともに女子の方が有意に大きかった。また,非投球側の肘関節伸展は,女子の方が有意に大きかった。2.投球側と非投球側の比較:男女ともに投球側の90°外転位内旋・水平屈曲・90°屈曲位内旋・肘屈曲が有意に小さかった。女子では,投球側の肘伸展が有意に小さかった。また,男子では投球側の股関節内旋が有意に小さかった。【結 論】男女ともに投球側の肩関節90°外転位内旋・水平屈曲は減少しているが,女子の方がROMは大きかった。つまり,一見ROMが良好に保たれている女子においても,男子と同等に投球側の肩後方タイトネスを生じており,注意を要すると考える。肘関節伸展可動域について,男女の比較では,女子の方が非投球側が大きかったが,投球側は男子と差がなかった。また,投球側・非投球側の比較では,男子では差がなく,女子では投球側が減少していた。つまり,女子の方が投球側の肘屈筋群にタイトネスを生じていることが示唆された。下肢のROMは,女子の方が男子よりも全て大きかった。また,女子では左右差を認めなかったが,男子の股関節内旋は投球側で小さい,あるいは非投球側で大きかった。総じて,女子で上肢のROM左右差が男子より大きく,下肢では左右差を生じていなかった。以上から,性差の他に,女子の野球動作が上肢に依存している可能性も考えられた。今後は,動作分析を加えてさらに検討していきたい。
著者
井上 雅之 中井 英人 永谷 元基 清島 大資 佐藤 幸治 林 満彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.632, 2003 (Released:2004-03-19)

【はじめに】下肢骨折や骨関節疾患などの術後患者に対する理学療法において,段階的な歩行獲得を図るために部分荷重訓練が必要であり,多くの施設で施行されている.しかし訓練後の不適切な荷重は,治癒過程の阻害や再骨折などを引き起こす恐れがあり,治療スケジュールの遅延につながる為,効果的な荷重コントロールが行われなければならない.そこで今回,下肢部分荷重訓練装置を使用して動力学的な部分荷重訓練を実施した後,床反力計を用いて時間の経過に伴う荷重量の変化を測定し,短時間における学習効果や訓練の有効性について検討したので報告する.【対象】下肢に障害の既往のない健常成人20名(男性12名,女性8名),平均年齢25.6±4.1歳,平均身長169.8±9.0cm,平均体重65.5±17.1kgであった.【方法】歩行形態は片松葉杖,2/3部分荷重による2動作歩行とし,測定前に部分荷重訓練装置(アニマ社製MP-100)を用い,20分の部分荷重訓練を実施した.装置の目標値を体重の2/3に設定し,目標値を超えた場合には警告音で知らせ,聴覚からのフィードバックを与えた.また、全ての被験者が時間内に2/3部分荷重を獲得したことを確認後,測定を開始した.被験者は左右独立式床反力計(アニマ社製MG-1120)上を初回,15分後,30分後,45分後,60分後の計5回歩行し,各測定間の休憩は15分間の椅子坐位とした.各回の踵接地期(以下HC),立脚中期(以下MSt),つま先離地期(以下TO),各回における最大の荷重量(以下最大値)の4項目の荷重量を測定し,目標値に対する荷重量の割合の平均値を算出した.なお,統計学的処理は反復測定分散分析を行った後,FisherのPLSDを用い,有意水準は5%未満とした.【結果】初回と60分後の比較では,HC,MSt,TO,最大値のいずれも荷重量が減少していたが,HC,最大値においては有意差はみられなかった(p>0.05).また初回のHC,最大値を除く全ての回において,荷重量は目標値を下回っていた.HC,MSt,TOの荷重量は,初回から60分後までのいずれにおいてもHCが最も大きく,次いでTO,MStの順であった。【考察】今回の測定結果から,訓練後1時間以内では荷重量は目標値を大きくは超えないことが明らかとなり,部分荷重訓練の短時間における学習効果が認められたが,これには部分荷重訓練装置の聴覚へのフィードバック効果の影響があったのではないかと考えられる.また,清島らによると,理学療法士の最も多くが部分荷重の許容できる誤差範囲を±10%以内と考えている,と報告しており,今回の結果は1時間以内における荷重量と目標値との誤差が,実際にこの範囲内であることも示した.しかしHC,最大値では一度荷重量が減少し,60分後に再び増加する傾向がみられたことから,数時間後あるいは数日後といった長時間における学習効果についての検討の必要性が示唆された.
著者
今泉 史生 金井 章 蒲原 元 木下 由紀子 四ノ宮 祐介 村澤 実香 河合 理江子 上原 卓也 江﨑 雅彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】足関節背屈可動性は,スポーツ場面において基本的な動作である踏み込み動作に欠かせない運動機能である。足関節背屈可動性の低下は,下腿の前方傾斜が妨げられるため,踏み込み時に何らかの代償動作が生じることが考えられ,パフォーマンスの低下やスポーツ外傷・障害につながることが予想される。スポーツ外傷・障害後のリハビリテーションの方法の一つとして,フォワードランジ(以下,FL)が用いられている。FLはスポーツ場面において,投げる・打つ・止まるなどの基礎となる動作であり,良いパフォーマンスを発揮するためにFLは必要不可欠な動作であると言える。しかし,FLにおいて足関節背屈可動域が動作中の下肢関節へ及ぼす影響は明らかではない。そこで,本研究は,FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響について検討した。【方法】対象は,下肢運動機能に問題が無く,週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者40名80肢(男性15名,女性25名,平均年齢17.6±3.1歳,平均身長162.9±8.4cm,平均体重57.3±8.7kg)とした。足関節背屈可動域は,Bennellらの方法に準じてリーチ計測器CK-101(酒井医療株式会社製)を用いて母趾壁距離を各3回計測し最大値を採用した。FLの計測は,踏み込み側の膝関節最大屈曲角度は90度と規定し,動作中の膝関節角度は電子角度計Data Link(バイオメトリクス社製)を用いて被験者にフィードバックした。頚部・体幹は中間位,両手は腰部,歩隔は身長の1割,足部は第二中足骨と前額面が垂直となるように規定した。ステップ幅は棘果長とし,速度はメトロノームを用いて2秒で前進,2秒で後退,踏み出し時の接地は踵部からとした。各被検者は測定前に充分練習した後,計測対象下肢を前方に踏み出すFLを連続して15回行い,7・8・9・10・11回目を解析対象とした。動作の計測には,三次元動作解析装置VICON-MX(VICONMOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い,足関節最大背屈時の関節角度,関節モーメント,重心位置,足圧中心(以下,COP),床反力矢状面角度(矢状面での垂線に対する角度を表す),下腿傾斜角度(前額面における垂線に対する内側への傾斜)を算出した。統計解析は,各算出項目を予測する因子として,母趾壁距離がどの程度関与しているか確認するために,関節角度,重心位置,COP,床反力矢状面角度を従属変数とし,その他の項目を独立変数として変数減少法によるステップワイズ重回帰分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施にあたり被検者へは十分な説明をし,同意を得た上で行った。尚,本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されている。【結果】母趾壁距離が抽出された従属変数は,床反力矢状面角度,足関節背屈角度,股関節内転角度であった。得られた回帰式(R≧0.6)は,床反力矢状面角度(度)=0.015×重心前後移動距離(mm)+0.299×母趾壁距離(cm)-0.211×膝関節屈曲モーメント(Nm/kg)-12.794,足関節背屈角度(度)=33.304×体重比床反力(N/kg)+0.393×足関節内反角度(度)+0.555×母趾壁距離(cm)+1.418,股関節内転角度(度)=0.591×下腿内側傾斜角度(度)-0.430×足尖内側の向き(度)+0.278×股関節屈曲モーメント(Nm/kg)-0.504×母趾壁距離(cm)+1.780であった。【考察】FLにおける前方への踏み込み動作において,母趾壁距離の大きいことが,床反力矢状面角度の後方傾斜減少,足関節背屈角度を増加させる要因となっていた。これは,足関節背屈角度が大きいと下腿の前方傾斜が可能となり,前脚に体重を垂直方向へ荷重しやすくなったことが考えられた。また,母趾壁距離と股関節内転角度との間には負の関係が認められた。これは,足関節背屈角度の低下により下腿の前方傾斜が妨げられるため,股関節内転角度を増加させて前方へ踏み込むような代償動作となっていることが原因である考えられた。この肢位は,一般的にknee-inと呼ばれており,スポーツ動作においては外傷・障害につながることが報告されているため,正常な足関節背屈可動域の確保は重要である。【理学療法学研究としての意義】FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響を明らかにすることにより,スポーツ外傷・障害予防における足関節背屈可動域の重要性が示唆された。
著者
伊藤 浩充 瀧口 耕平 小野 くみ子 松本 慶吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cd0833, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 足関節の捻挫は、スポーツ外傷の中で最も多い外傷の一つである。サッカー選手にとって足部・足関節の外傷は、スポーツ選手としての選手生命に大きく影響する。しかしながら、本外傷はスポーツ選手や指導者には比較的軽視される傾向にあり、また、本外傷の発生因子については未だ十分解明されていないため、予防に関しても十分な対策がとれていないのが現状である。そこで、本研究では、高校サッカー選手の足関節捻挫の発生要因を明らかにすることを目的とした。【対象と方法】 対象は、高校男子サッカー部員71名である。対象者の選択基準として評価時に四肢関節に痛みなどの急性症状および著しい筋力低下の無い者とした。方法は、平成23年3月12日から3月20日までの間にフィジカルチェックを実施した。調査項目は、問診にてボールをける時の利き足と外傷の既往歴を聴取した。次に、関節可動域と筋硬度を計測した。関節可動域は、股関節の外転・内旋・外旋・屈曲・伸展の可動域、膝関節屈曲・伸展の可動域、足関節背屈可動域、体幹の前屈・後屈・側屈の可動域を傾斜計(MITSUTOMO製)および紐付き分度器とメジャーを用いて測定した。筋硬度は、大腿筋膜張筋・中殿筋・長内転筋・下腿三頭筋を筋弾性計PEK-1(株式会社井元製作所)を用いて測定した。また、足部アーチをFeiss線により判定し、後足部の内外反肢位の判別も記録した。フィジカルチェック後3か月間の外傷発生調査を週2回の頻度で実施した。そして、足関節の内反捻挫、外反捻挫、底屈捻挫を受傷した者(A群)としなかった者(B群)とに分類し、フィジカルチェック時のデータを比較分析した。統計学的分析には、JMP ver 6.0を用い、マンホイットニーU検定、分散分析、カイ二乗検定を行った。有意水準は危険率5%未満として判定した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、本研究の実施に際して、甲南女子大学研究倫理委員会の審査ならびに承認を得た後、対象者およびサッカー部所属の監督とコーチには、事前にフィジカルチェックの目的と内容、実施計画を文書及び口頭により説明し、同意を得た。【結果】 足関節の捻挫を受傷したA群は14名で、内反捻挫7名、外反捻挫4名、底屈捻挫3名、B群は57名であった。A群においてフィジカルチェック時の測定項目を受傷下肢と非受傷下肢との間で比較すると、股関節外旋可動域は受傷下肢の方が有意に小さく(A群40度:B群45度、p<0.046)、股関節内旋可動域は受傷下肢の方が有意に大きかった(A群40度:B群36度、p<0.038)。また、股関節内旋と外旋の可動域の差をみると、非受傷下肢よりも受傷下肢の方が負の値を示して有意に小さく(A群-1度:B群9度、p<0.016)、内旋可動性優位であった。さらに、股関節外旋可動域の左右差についてA群とB群を比較すると、A群のうち利き足を受傷した者は、股関節外旋可動域の左右差がB群に比べて有意に大きかった(A群14度:B群0度、p<0.0345)。つまり、受傷下肢が利き足の場合は外旋可動域が相対的に小さかった。【考察】 過去の我々の調査では、サッカーによる足関節の捻挫は、走行時の方向転換、ジャンプの着地、スライディング、相手とのボールの同時キック時などでよく発生していた。足関節の捻挫は、足部が地面に接地する時の身体重心による外力や相手から受ける外部外力が距骨下関節軸より離れているほど発生しやすい。つまり、股関節にかかる荷重ベクトルが距骨下関節軸から遠いか近いかによって発生率が左右されると考えられる。本研究では、股関節内旋可動性優位になりやすい者ほど足関節の捻挫を生じやすいことが明らかとなった。これは、股関節内旋位になった場合には身体重心が距骨下関節軸より外側偏倚傾向を示すことから内反捻挫を誘発しやすくなることが推測される。また、外旋可動域が相対的に狭いことから下腿外旋で代償し外反捻挫を受傷することが推測される。したがって、股関節の内外旋方向の可動性の左右差が大きすぎたり、股関節の内外旋差の絶対値が大きいと足関節の捻挫が生じやすくなると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 足関節捻挫の発生要因は様々であるが、足関節だけでなく股関節にも発生要因が存在することが明らかとなった。股関節の内外旋可動域の左右差と股関節内外旋差を少なくするようにコンディショニングをし、動作練習をすることにより運動時にかかる足関節への偏った負荷が軽減でき、足関節捻挫発症の予防につながると考えられる。そして、スポーツによる足関節捻挫の発生予防プログラムの効果検証にも役立てることができる。
著者
中川 朋美 山本 圭彦 坂光 徹彦 堀内 賢 林下 智惠 福原 千史 浦辺 幸夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0352, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】 我々は円背姿勢に対する背筋エクササイズ(以下、Ex)として、腹臥位での上体反らし運動を行ってきた。しかし、この運動が十分に行えない高齢者も多い。本研究の目的は椅座位で行えるExを実施し、円背姿勢が変化するかを検討することで、このような方法が運動療法として有効であるかを確認することである。【方法】 対象は本研究の趣旨に賛同が得られた外来通院中の女性患者26名とし、明らかに座位姿勢で円背が認められる円背群13名と、円背を認めない非円背群13名に分けた。平均年齢は円背群で80.3歳、非円背群で74.3歳、平均身長は円背群で148.1cm、非円背群で148.8cmだった。Exは両上肢を大腿部の上に置き、上肢で支えながら円背をできるだけ修正させた姿勢(修正椅座位)を10分間保持させた。その際、なるべく上肢に頼らないよう指示した。Ex前に安静椅座位と修正椅座位での座高と脊柱の彎曲角度を、Ex後に安静椅座位での座高と脊柱の彎曲の角度を測定した。座高はメジャーで、脊柱彎曲はSpinal Mouse(Idiag AG,Switzerland)を用いて測定し、Th1~S1の各椎体間がなす角度の和を算出した。【結果】 円背群のEx前の座高の平均(±SD)は73.8±2.5cm、非円背群は75.6±1.7cm、円背群の脊柱全体の彎曲角度は66.5±17.5°、非円背群は22.3±12.4°であった。円背群の修正椅座位での座高は79.7±1.3cm、非円背群は77.9±1.6cm、円背群の脊柱全体の彎曲角度は29.5±7.5°、非円背群は14.2±9.7°であった。修正椅座位での円背群の座高は安静座位に比べて平均5.9±2.3cm増加し(p<0.01)、非円背群は2.3±1.5cm増加した(p<0.01)。円背群の脊柱の彎曲角度は-33.8±18.7°(p<0.01)、非円背群は-8.8±10.6°(p<0.01)の減少がみられた。座高の変化と脊柱の彎曲角度の変化量に有意な相関が認められた(r=0.42,p<0.05)。Ex後に、座高は平均1.2±0.8cm増加し、脊柱の彎曲角度は-6.2±0.7°になりEx前とEx後の間に有意差が認められた(p<0.05)。【考察】 円背姿勢は骨自体の変形、靭帯や関節包などの静的支持組織の変化、脊柱起立筋などの動的支持組織の弱化など様々な因子が影響している(金子,2005)。今回Ex後に円背姿勢が改善したことから、静的支持組織を補助するだけの背筋筋力が向上すれば円背姿勢を修正できる可能性があると考え、座位でのExも円背姿勢の改善に対し有効であるとことが推測された。しかし、この効果が持続するかを検証することが必要である。【まとめ】 今回、椅座位にて簡便に行えるEx方法を実施し円背姿勢の改善効果を検討した。Ex後は座高が高くなり、円背姿勢の改善効果があると考えられた。
著者
椿 淳裕 森下 慎一郎 竹原 奈那 德永 由太 菅原 和広 佐藤 大輔 田巻 弘之 山﨑 雄大 大西 秀明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0413, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】有酸素運動の急性効果に関して,運動後に認知課題の成績が向上することが報告されている。我々は,有酸素運動後も運動関連領野の酸素化ヘモグロビン濃度(O2Hb)が高値であることを報告している。認知に関与する前頭前野においても有酸素運動後にO2Hbが高値を維持すると仮説を立て,これを検証することを目的に本研究を行った。【方法】健常成人9名(女性5名)を対象とし,自転車エルゴメータによる中強度での下肢ペダリング運動を課題とした。安静3分の後,最高酸素摂取量の50%の負荷で5分間の定常負荷運動を実施し,運動後には15分間の安静を設けた。この間,粗大運動時のモニタリングに最適とされる近赤外線分光法(NIRS)により,脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用しO2Hbを計測した。国際10-20法によるCzを基準として30mm間隔で送光プローブと受光プローブを配置し,全24チャネルで測定した。関心領域は,左前頭前野(L-PFC),右前頭前野(R-PFC),左運動前野(L-PMA),右運動前野(R-PMA),補足運動野(SMA),一次運動野下肢領域(M1)とした。同時に,NIRSでの測定に影響するとされる頭皮血流量(SBF)と平均血圧(MAP)を計測した。また,酸素摂取量体重比(VO2/W),呼吸商(RQ),呼気終末二酸化炭素濃度(ETCO2)をブレスバイブレス法で測定した。領域ごとのO2Hb,SBF,MAPは,安静時平均値に対する変化量を算出した。中強度運動5分目の1分間の平均値と,運動後安静11~15分の5分間の平均値を求め,対応のあるt検定により比較した。【結果】O2Hbは5分間の中強度運動中に徐々に上昇し,運動終了直後に一時的に減少したものの,2~4分で再度上昇し,運動後15分目まで安静レベルに戻らなかった。一方SBFおよびMAP,VO2/W,RQ,ETCO2は,運動終了直後より速やかに安静レベルまで低下した。領域ごとに運動中と運動後安静中のO2Hbを比較した結果,L-PFCでは運動中0.025±0.007 mM・cm,運動後安静中0.034±0.008 mM・cm(p=0.212),R-PFCでは運動中0.024±0.008 mM・cm,運動後安静中0.028±0.009 mM・cm(p=0.616)であり,運動後11~15分であっても運動中と差がなかった。また,L-PMA,R-PMA,SMA,M1においても,中強度運動5分目と運動後安静11~15分との間に有意な差を認めなかった(p=0.069~0.976)。SBF,MAP,VO2/W,RQ,ETCO2は,中強度運動5分目に比べ運動後安静11~15分では有意に低値であった(p<0.01)。【結論】5分間の有酸素運動によって,運動中に上昇したO2Hbは,運動後安静中も15分間は運動中と同程度であることが明らかとなった。またこのO2Hbの変動は,SBFやMAPなど他の生理学的パラメータの変動とは異なることが示された。
著者
對東 俊介 堂面 彩加 高橋 真 関川 清一 稲水 惇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O2017, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】運動は健康維持に重要な役割を果たしており,疾病予防や治療手段として有用である.しかしその一方で,高強度有酸素性運動負荷にて血中の酸化ストレスが増加することが報告されており,運動には負の側面も存在する.この酸化ストレスは,活性酸素の産生とその活性酸素を還元する抗酸化物質の量のバランスによって決定される.もし抗酸化物質による防御能が活性酸素の産生増加に適応できなかった場合,そのバランスが崩れ,活性酸素が高まった状態となり,この活性酸素は種々の疾患の病因と関連があると報告されている.運動という言葉は一般的に有酸素性運動を指すことが多いが,無酸素性運動もあり,スポーツや日常生活活動においては有酸素性運動と無酸素性運動の2つの側面を組み合わせた身体活動が行われている.先行研究では無酸素性運動後の酸化ストレスについて報告しているものは少なく,不明な点が多い.そこで本研究では,30秒間の無酸素性運動であるWingate Anaerobic Testを実施し,その前後で活性酸素の指標として血漿中ヒドロペルオキシド濃度を,抗酸化物質の指標として血漿中抗酸化力の変化を検討し,無酸素性運動負荷後に生体における酸化還元反応の全体像を明らかにすることを目的とした.【方法】健常若年者11名(年齢: 21.4±1.7歳,身長: 171.6±7.4歳,体重: 58.8±5.7kg)を対象とした.無酸素性運動負荷として,無酸素パワー測定用自転車エルゴメータ(POWERMAX-VII; Combi)を使用し,Wingate Anaerobic Testを実施した.対象者は体重の7.5%の負荷にて30秒間の全力ペダリング運動を行い,無酸素性運動能力の指標であるパワーとピーク回転数を測定した.対象者は,十分な安静の後に運動負荷前,運動負荷直後,運動負荷15分後に指尖より採血を行い,血中乳酸測定器(Lactate Pro; Arkray)にて血中乳酸濃度を測定した.また,フリーラジカル評価装置(Free Radical Elective Evaluator; Diacron)を使用して,derivatives of reactive oxygen metabolites テストにより血漿中ヒドロペルオキシド濃度を,biological anti-oxidant potential テストにより血漿中抗酸化力を測定した. 【説明と同意】測定の趣旨・方法について口頭および書面にて説明を行い同意を得た.本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座研究倫理委員会(承認番号:0906)の承諾を得て実施した.【結果】対象者の最大パワーは480.7±55.9 wattであり,最大回転数は139.0±13.5 rpmであった.また,安静時および運動負荷直後の血中乳酸濃度は,それぞれ2.0±1.3 mmol/L,14.6±2.3 mmol/Lであった.血漿中ヒドロペルオキシド濃度は運動負荷前後で有意な変化を認め(P = 0.024),運動負荷前と比べ運動負荷直後(P = 0.005)と運動負荷15分後に有意に増加した(P = 0.034).一方血漿中抗酸化力も運動負荷前後で有意な変化を認め(P < 0.001),運動負荷前と比べ運動負荷直後(P < 0.001)と運動負荷15分後に有意に増加した(P < 0.001).血漿中ヒドロペルオキシド濃度と血漿中抗酸化力の関連を検討した結果,いずれの測定時間においても有意な相関を認めなかった.【考察】本研究の結果から30秒の無酸素性運動負荷は運動直後の血漿中ヒドロペルオキシド濃度を増加させ,その増加は運動終了15分後も継続していることが明らかとなった.これは無酸素性運動負荷による血中乳酸濃度の上昇が一因となり,活性酸素の産生増加に影響したと考えられた.また,抗酸化力も同様に運動負荷直後に増加し,15分後も運動負荷前と比べ有意に高値を示した.これは,無酸素性運動負荷によって上昇した血漿中ヒドロペルオキシド濃度の増加に対応するため,抗酸化物質が増加した結果であると考えられた.一方,いずれの測定時間においても血漿中ヒドロペルオキシド濃度と抗酸化力に有意な相関関係を認めなかったことから,それぞれの指標の変化には運動負荷前の酸化ストレスの個体間差が影響している可能性が考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究により30秒間の無酸素性運動負荷は,活性酸素の産生と抗酸化物質を増加させることが明らかとなった.またその関係は運動負荷15分後も変化しないことが明らかとなった.この結果は運動負荷による酸化ストレスの変化の一端を明らかにし,酸化ストレスを増加させない運動療法を考案する一助となる研究である.
著者
坪井 祥一 淺川 義堂 田中 利典 森 憲司 岩砂 三平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Bb1420, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 大脳基底核は脳出血の好発部位でもありながら,大脳皮質や脳幹と強い機能的連結を持ち運動プログラムの生成や随意運動の実行,姿勢制御プログラムおよび自動歩行運動の制御を担う(高草木2009,花川2009)など,理学療法において最も重要な脳器官の一つであると考えられる.大脳基底核は直接路や間接路,ハイパー直接路からなる回路構造を持ちその内部で大脳皮質および脳幹から得た情報を元に,抑制増強と脱抑制を相互に用いながら(南部2009),運動の開始・切り替え・終了といった随意制御を担っているとされている.また,特に補足運動野との機能的連結によって記憶誘導性運動を,一方で同じ高次運動野でも運動前野は視覚誘導性運動を担っている(乾2001)とされている.この双方の比較的相反する機能を応用し,パラレルニューラルネットワーク(彦坂2003)が運動学習理論として提唱されている.今回左被殻出血を呈した患者様に対して上記メカニズムを応用した理学療法を実施し,得られた結果,その一考察を報告する.【方法】 症例は60歳代女性,右利き,病前ADLは自立,特筆すべき既往歴はなし.MRI所見として,主に左被殻後部・放線冠を中心とした損傷と内包後脚方向への血腫による圧迫を認めた.尾状核,被殻前部の直接的損傷は免れていた.当院入院当初(第37病日後)重度右片麻痺SIAS-motor0-0-2-1-0,表在・深部感覚重度鈍麻,筋緊張は弛緩性であった.神経心理学的所見としては伝導失語,軽度の失行,軽度の注意障害を認めた.機能的制限として,座位保持は自立であるが,起立・移乗は軽介助,立位保持は後方へ倒れやすく中等度介助,歩行は右下肢の振り出しが自己にてわずかにできる程度,右膝関節の膝折れ著名であり中等度介助を要した.本症例に対し,大脳基底核を中心としたメカニズムを応用し理学療法を実施した.視覚情報を用い随意運動を制御するため,姿勢矯正鏡の前で1日40分程度の動的立位,バランスex.(起立動作,スクワット,左右への重心移動,踵上げ,ステップ動作,リーチ動作を各20回程度),および20分程度の歩行,階段昇降ex.等を実施した.その際,本症例の能動的視覚性注意が保たれ,十分な視覚情報が随意運動・姿勢制御に寄与するよう,指差し指示やセラピストの視線等を有効に用い,姿勢矯正鏡に写る症例自身の身体関節運動を注視させ,視覚的注意対象を限定させた.また必ずジェスチャーにてセラピストがやって見せ,動作理解が行えた事を確認しながら行なった.その後,課題動作が概ね監視あるいは自己にて可能なレベルまで改善されたことを確認し,同様の動作を閉眼位にて行なった.【倫理的配慮、説明と同意】 本症例に対し,研究に関する趣旨を説明し,同意を得た.【結果】 第78病日後,SIAS-motor1-0-3-2-1,表在・深部感覚重度鈍麻,筋緊張は弛緩性であった.神経心理学所見として特筆すべき変化は認めなかった.動作能力としては起立動作,立位保持は自立,歩行はT字杖および短下肢装具着用下において二動作前型歩行を獲得し,病棟歩行が自立となった.【考察】 今回,左被殻出血を呈した重症片麻痺症例に対し,大脳基底核を中心とする脳機能メカニズムを応用した理学療法を試みた.今回損傷された被殻を中心とする大脳基底核は,補足運動野との機能的連結により,運動の開始・切り替え・終了を随意的に制御し,内発的かつ記憶誘導性の運動制御を担っていると考えられる.一方で同じ高次運動野でも運動前野は頭頂連合野,小脳との機能的連結により,外部情報を起因とする視覚誘導性運動を担っているとされている.またパラレルニューラルネットワークの概念図より,新しい運動を学習する運動学習初期段階では,後方線条体を中心とした体性感覚情報と比較し,より前方線条体を中心とした視覚情報を元に運動学習が行なわれるとしている.これらのことから被殻後部を損傷した本症例に対し,体性感覚情報を用いた随意運動制御と比較して,視覚矯正鏡等を用いた視覚情報による随意運動制御を行なった方が,小脳-頭頂連合野-運動前野系経路による視覚誘導性運動をより賦活することになったと考えられ,理学療法介入初期において,より運動学習が行なわれやすかった可能性が示唆された.また本症例にとって,視覚情報による運動制御がある程度成立した後に,閉眼位課題を導入することで,視覚情報と体性感覚情報の異種感覚統合がより行なわれやすくなり,更なる運動学習が進んだ可能性があることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 本症例において大脳基底核を中心とした脳機能メカニズムの理学療法応用は有用である可能性が示唆された.
著者
森田 とわ 山口 智史 小宅 一彰 井上 靖悟 菅澤 昌史 藤本 修平 飯倉 大貴 田辺 茂雄 横山 明正 近藤 国嗣 大高 洋平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ea0348, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 膝蓋骨骨折や膝蓋腱断裂,大腿四頭筋断裂などでは,膝伸展筋の機能不全によって歩行時に膝折れを呈し,膝伸展位保持が困難になる.この膝折れを防止するために,膝伸展位保持装具(以下,膝装具)が使用されることがある.支持性の良い膝装具は膝伸展筋力を代償するだけでなく,他の関節周囲筋の筋活動を変化させる可能性がある.しかしながら,膝装具使用時の歩行時筋活動量について言及された報告はない.本研究では,膝装具が歩行時の下肢筋活動量へ及ぼす影響を検討した.【方法】 対象は健常成人9名(年齢:24.4±2.8歳,身長:1.73±0.04m,体重61.2±6.3kg)とした.課題は20m/minに設定したトレッドミル上での膝装具装着および非装着の2条件の歩行とした。膝装具は,両側支柱付きのニーブレース(アルケア株式会社)を使用し,十分な練習後に装着非装着での歩行,装具装着での歩行の順番で課題を行った. 表面筋電図の測定には,筋電図記録用システム(Delsys社)を使用した.記録筋は,両側下肢の大殿筋(GM),内側ハムストリングス(MH),大腿直筋(RF),ヒラメ筋(SOL),前脛骨筋(TA)とした.電極は,筋腹上に能動筋電を貼付し,サンプリング周波数は1kHzで記録した.また,両側の母趾球部と踵部にフットスイッチを貼付し,歩行周期の特定および時間距離因子(重複歩幅,歩行率,立脚期割合)の算出をした.得られた筋電図波形は、全波整流後30歩行周期分を加算平均して平滑化した後,フットスイッチの情報から,立脚相と遊脚相に分け,それぞれの積分値(μVs)を算出した.また歩行時の重心動揺を計測するため,小型加速度計(ワイヤレステクノロジー社)を使用した.加速度計は,第三腰椎棘突起部に伸縮ベルトで固定し,サンプリング周波数60Hzで記録した.加速度データは,10歩行周期分のデータを加算平均し平滑化した後,時間で2回積分し変位を算出した.その変位から1歩行周期における左右移動幅を算出した.統計解析は,装具の有無による各筋活動量と時間距離因子,重心動揺の違いを検討するため,対応のあるt検定を用いた.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 所属機関の倫理審査会により認可され,事前に全ての対象者に研究内容を説明し,同意を得た.【結果】 装具着用により,装着下肢の立脚相においてGM,MH,RF,TAの筋活動量が有意に減少した.装具着用側の立脚相における各筋の平均積分値は(装具あり条件、装具なし条件)で,GM(6.33μVs,7.98μVs),MH(4.22μVs,5.39μVs),RF(1.43μVs,1.80μVs),TA(2.71μVs,3.53μVs)であった.一方,SOLについては,装具あり条件7.79μVs,装具なし条件7.88μVsで統計的有意な差を認めなかった(p=0.783).遊脚相においては,いずれの筋でも筋活動量に有意な差を認めなかった.また,装具非装着側の立脚相および遊脚相においては,いずれの筋でも装具着用の有無による有意な筋活動量の差を認めなかった.時間距離因子については,装具着用の有無による有意な差を認めなかった.重心の左右移動幅は,裸足歩行17.7cm,装具歩行23.8cmで装具装着により有意に増加した.【考察】 膝装具は,膝伸展筋以外の筋活動量も減少させることが示された.GM,MH,RFの筋活動量の減少は,膝装具によって体重支持に必要な筋活動が代償されたためだと考えられる.重心の左右移動幅が増大したが,これは膝関節を伸展位に保持したことにより,下肢を振り出すために生じた体幹側屈や分回し歩行などの代償動作が影響していると推察される.分回し歩行では,初期接地において通常より底屈位での接地になり,このことが,荷重応答期におけるTAの筋活動量が減少につながった可能性がある.また,立脚相のSOLにおいては,有意な変化を認めなかったことから,SOLの役割である下腿が前方へ倒れていく速度の制御に必要な筋活動は,膝装具によって影響をうけないと考えられた.しかしながら,本研究においては各関節の関節運動に言及することはできないため,今後,三次元動作解析装置などを用い検討する必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 膝装具を使用することにより,膝関節周囲筋だけでなく股関節や足関節の筋活動量も減少することが示唆された.膝装具を適用する際には,他の下肢筋の負荷をも軽減できる一方で,筋力低下の誘引にもなると考えられ,十分な配慮が必要である.
著者
齊藤 匠 土居 健次朗 河原 常郎 大森 茂樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0599, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】筋出力に影響する要因は,神経と筋肉の2つに分けられる。我々は第49回全国理学療法士学術大会において,神経モビライゼーション(以下NM)が筋出力向上に影響することを報告した。一方,ストレッチングにおいても,筋出力向上に影響があると報告した研究は多い。臨床においてストレッチングやNMは多く用いられる手技だが,筋出力に対する各々の効果は明らかではない。本研究はNMとストレッチングが筋出力に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,健常成人男性13名(24.5±1.9歳)とし利き足側の下肢に対し計測を実施した。使用機器は,イージーテックプラス(Easy tech),ストップウォッチ(CASIO),メトロノーム(KORG)とした。膝関節屈曲・伸展の筋出力計測は等尺性収縮,等速性収縮の2つの収縮形態で行った。筋出力は等尺性収縮の屈曲最大トルク,等速性収縮の屈曲・伸展最大トルク,屈曲・伸展最大パワーを評価した。等尺性収縮は計測肢位を股関節90度,膝関節60度に設定し,10秒間収縮を行った。等速性収縮の設定では,反復回数を5回,角速度を屈曲・伸展90度と設定した。各測定は開始5秒前から声掛けを行い,測定中は必要な声掛け以外行わず,静かな環境で行った。筋出力はNM,ストレッチング前後で計測した。検者はベッド上にて体幹,非検査側の大腿部,足部をベルトで固定しNM,ストレッチングを実施した。NMは坐骨神経を対象とした。Maitland Conceptのgrade4を参考に,膝関節伸展位,股関節屈曲位にて,足関節背屈を行い,2Hzの反復伸張刺激を10秒間与えた。ストレッチングは,ハムストリングスを対象とした。股関節・膝関節90度屈曲位から膝関節伸展を行った。伸張度は,痛みを感じない最大伸張位を至適強度とし,時間は6秒間保持した。解析は,各パラメータでNM前後とストレッチング前後の筋出力の差を算出し2施行間で比較した。また,NMとストレッチングで最大トルクと最大パワーそれぞれの屈曲と伸展に及ぼす差を検討するため,NMとストレッチングの差分を屈曲トルク・伸展トルク間,屈曲パワー・伸展パワー間で比較した。統計は二元配置分散分析にて検討した。測定した筋出力の値は体重で正規化した。Bonferroniの多重比較検定を実施し,有意水準は5%未満とした。【結果】等尺性収縮において,最大トルクはストレッチング-0.014±0.29N/kg,NM0.013±0.18 N/kgで有意差は認めなかった。等速性収縮において最大トルク(屈曲/体重)はストレッチング0.013±0.129 N/kg,NM0.024±0.139 N/kgで,有意差を認めなかった。最大トルクは(伸展/体重)ストレッチング0.025±0.153N/kg,NM0.044±0.248 N/kgで有意差は認めなかった。最大パワー(屈曲)はストレッチング7.3±22.7 N/kg,NM2.4±19.6 N/kgで有意差は認めなかった。最大パワー(伸展)はストレッチング-0.4±15.4 N/kg,NM9.6±31.07 N/kgで有意差は認めなかった。ストレッチングとNMの差分において最大屈曲トルク-0.0108 N/kg最大伸展トルク-0.018N/kgで有意差を認めなかった。最大屈曲パワー4.9N/kg最大伸展パワー-10.15 N/kgで有意差を認めた(P<0.05)。【考察】等尺性収縮においてストレッチングとNMの影響に違いは認めなかった。等速性収縮においてもストレッチングとNMの影響に違いは認めなかった。ストレッチングとNMが主動作筋である屈曲筋力と拮抗筋である伸展筋力に及ぼす作用でみた場合,最大屈曲パワーと最大伸展パワーに有意差を認めた。ストレッチングは膝関節伸展パワーと比較し膝関節屈曲パワーに有効的に働き,NMは膝関節屈曲パワーと比較し膝関節伸展パワーに有効に働くことが示唆された。最大トルクに対しては屈曲と伸展による差はなかった。パワーは単位時間あたりの筋発揮であり,速度を要する動作においてストレッチングとNMを有効的に使い分けることが可能だと考えた。NMは神経線維の緊張が弛み,神経伝導速度は低下すると言われている。介在ニューロンに対して刺激を与え,前角細胞の電位を下げ,膝関節屈曲筋活動を抑制し,伸展筋力が増加傾向になると示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究よりハムストリングスのストレッチングは膝関節屈曲の筋出力に対し有効な結果をもたらし,NMは膝関節伸展の筋出力に有効な結果をもたらす事が示唆された。ストレッチングとNMは分けて行う事で,治療の幅を広げる事が考えられる。スポーツ現場では,双方を調整する事で効果的な筋出力向上が考えられる。今後はNMの変化・対象について,検証する必要があると考えられる。
著者
山本 尚司 赤木 家康
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C1000, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】足部のアライメント評価として、下腿と踵の肢位関係をみるLeg-Heel angIe(以下LH-A)と、踵の鉛直垂線からの変位をみるCalcaneus ang1e(以下C-A)がある。これらの後足部の評価は、足底板などによる下肢荷重連鎖へのアプローチに際して重要な指標となる。今回、LH-AとC-Aの関係性について分析し、内外側Heel-Wedge(以下M・L-HW)の後足部アライメントにおよぼす影響について報告する。【方法】後足部アライメントの基礎データは、健常成人17名34肢(男性8名、女性9名、平均年令20.12±11.1才)にて行った。足部評価は、シンワ社製Dial S1ant Ru1esを使い、立位安静位にてC-Aと下腿傾斜角を測定し、LH-Aを算出した。また、膝関節障害患者5名10足(変形性膝関節症4名、膝蓋骨亜脱臼1名)を対象に、HWによる踵骨内外反位の補正効果を調査した。測定はフルインソール上での安静立位から、暑さ2mmのEVAパッドを踵底部の内外側に随時1~2枚挿入し、後足部のアライメント変化を検討した。【結果】LH-Aにおいては1肢を除く33肢が外反位であり、C-Aの打ち分けは20肢が内反位、11肢が外反位、2肢が中間位であった。C-Aの内外反とLH-Aの内外反角度に高い相関がみられ(右足r=0.78、左足r=0.68)、C-Aがより外反位になればLH-Aも外反位になる傾向がみられた。膝関節障害患者5名のうち4名7足のC-Aが内反位であり1名2足が外反位であった。外反位の1名においてはM-HW2mmにて、内反位4足はL-HW、内反位3足はM-HWにて、補正効果がみられた。【考察】後足部アライメント評価であるLH-AとC-Aは、関節肢位と鉛直垂線からの変位という異なった指標からの評価であり、併せて評価していくことで足部アライメントと姿勢制御の関係についての示唆を与えてくれるものと思われる。横江によると、起立時のLH-Aは、歩行時、ランニング時の動きと高い相関があることを報告しており、足底板の作成などにおける評価として有用であると考えられる。また、今回の結果からLH-AはC-Aとの相関が高いことからも、重力線との関係を考えるうえではC-Aを指標としてHWで対処することは有効であろう。しかしながら、同一被験者であっても左右差、およびC-AとLH-Aの関係は画一的ではなく、踵骨内外反を正中化させるためのHWも多様であるため、臨床においては姿勢制御といった観点から個別に対処していかなければいけないものと思われる。【まとめ】1.後足部アライメント評価としてC-AとLH-Aの関係性を検討した。2.C-AとLH-Aの内外反に相関がみられた。3.HWによる後足部アライメントの変化を膝関節障害患者にて検討した。4.踵骨内反位の補正においてL-HW・M-HWともに効果がみられた。
著者
中岡 伶弥 櫃ノ上 綾香 羽崎 完
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1071, 2011

【目的】<BR> 筋連結とは,筋と筋のつながりのことを指し,隣接する筋の間は筋膜,筋間中隔などの結合組織や互いの筋線維が交差している。筋が連結している部位では,片方の筋が活動したとき,その筋に連なるもう一方の筋にまで活動は伝達するとされている。このことは,PNFやボイタなどの治療法にも応用されている。しかし,筋が連結しているかどうかについては,解剖学的な考察や経験に基づいており,筋の機能的な連結については明らかではない。そこで本研究では,前鋸筋と外腹斜筋に着眼し,この2筋間に機能的な筋連結が存在するのかを明確にすることを目的とした。<BR>【方法】<BR> 対象は健常成人男子大学生14名 (平均年齢21.1±0.7歳,身長172.4±5.6cm,体重62.4±8.4kg)とした。測定方法は,ベンチプレス台の上で背臥位になり,肩関節90°屈曲位で肩甲帯を最大前方突出させた。その肢位で,自重(負荷なし),体重の30%負荷・60%負荷をベンチプレスで荷重し,5秒間保持させた。施行順はランダムとした。測定は第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,外腹斜筋の3箇所とし,前鋸筋は肋骨上で皮膚表面から視察・触察できる位置に,また,外腹斜筋は腸骨稜と最下位肋骨を結ぶ中点から内側方2cmの位置に筋線維の走行に沿って電極を貼った。筋活動の導出には表面筋電計(キッセイコムテック社製 Vital Recorder2)を用い,電極(S&ME社製)は,電極間距離1.2cmで双極導出した。サンプリング周波数1kHzとした。基準値を設定するために,徒手抵抗による最大等尺性収縮(Maximum Voluntary Contraction,以下MVC)時の表面筋電図を記録した。各筋のMVCの数値を100%とし,各負荷における数値を除した%MVCを算出した。解析方法は,第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,外腹斜筋それぞれにおいて,自重,30%負荷,60%負荷の3群をFriedman検定を用いて比較し,多重比較検定としてScheffeの対比較検定を用いた。また,有意水準を5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> すべての被験者に対し,本研究の趣旨を口頭および文書にて説明し,署名にて研究協力の同意を得た。<BR>【結果】<BR> 第6肋骨前鋸筋の筋活動量の50パーセンタイル値は,自重で30.8%MVC,30%負荷で40.0%MVC,60%負荷で52.9%MVCであり,Friedman検定の結果,自重より60%負荷が有意に高値を示した(P<0.05)。第8肋骨前鋸筋の筋活動量においても50パーセンタイル値は,自重で22.5%MVC,30%負荷で22.9%MVC,60%負荷で24.7%MVCであり,自重より60%負荷が有意に高値を示した(P<0.05)。外腹斜筋の筋活動量の50パーセンタイル値は,自重で12.6%MVC,30%負荷で17.1%MVC,60%負荷で26.3%MVCであり,自重より30%負荷・60%負荷の2群で有意に高値を示した(P<0.05)。いずれの筋においても30%負荷,60%負荷の間には有意な差は認められなかった。<BR>【考察】<BR> 前鋸筋と外腹斜筋の関係については,これまでに荒山らによって検討されている。彼らは,体幹筋強化トレーニングとして用いられるTrunk Curlを使用して,前鋸筋と外腹斜筋の筋連結を検討することを目的にしていた。それは,1)肘伸展0°,肩90°屈曲位で,最大努力で肩甲帯前方突出を行いながら,上体を起こす。 2)肘伸展0°,肩90°屈曲位で肩甲帯前方突出をせずに,上体を起こす。3) 胸部前面で,腕を組み上体を起こす。という3種類の上体起こしにより関係を示している。その結果として,前鋸筋の活動は外腹斜筋の活動を高めることが示唆され,付着部を共有し,筋線維走行の方向が一致する筋の相互作用を期待したエクササイズの有効性が示唆されたとしている。しかし,この方法では,上体を起こすことによって直接的に外腹斜筋を働かせているため,機能的な筋連結を明確にするという点では不十分である。そのため,本研究では外腹斜筋の作用である体幹の反対側への回旋や同側への側屈,前屈が起こらないように,被験者には背臥位でベンチプレスを荷重させた。直接的に外腹斜筋を活動させる条件下でないにも関わらず,前鋸筋の筋活動量が増すにつれ,外腹斜筋の筋活動量も増加した。肩甲帯の前方突出により前鋸筋が収縮すると,肩甲骨は外転し,胸郭は上方に引き上げられる。しかし,前鋸筋が最大筋力を発揮するためには,胸郭の固定が必要である。そのため,胸郭を下方に引き下げる外腹斜筋が固定筋として作用したため,外腹斜筋の活動がみられたと考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究で得られた結果は,治療にも役立てられるのではないかと考える。例えば,翼状肩甲の治療には前鋸筋のトレーニングが必要だといわれている。しかし,翼状肩甲の治療において筋連結を考慮すると,前鋸筋へのアプローチだけでなく,それに併せて外腹斜筋へのアプローチも行うことで,より肩甲骨の安定性は増すのではないかと思われる。
著者
加藤 秀卓 田中 尚喜 金 景美 高橋 剛治 室生 祥
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P2385, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】骨粗鬆症における脊椎圧迫骨折(以下圧迫骨折)患者は高齢者に多い.臨床症状は、無症状のものから日常生活動作に障害をきたすものまで様々である.当院では保存療法,体幹装具着用下にて可及的早期に離床させることを目指しているが、起き上がり時に強い腰背部痛(以下疼痛)を訴え、プログラムが停滞することが多い.我々は疼痛が起き上がりを阻害し長期臥床を生じさせていると考え、今回、圧迫骨折患者の起き上がり方により疼痛及び起き上がり自立までの日数に差異があるか否かを検討した.【対象】2008年3月から10月の間に当院にて新鮮圧迫骨折と診断され入院し、本研究の趣旨を説明し、同意を得た患者18名(男性4名,女性14名、平均年齢73.7±11.7歳、体幹装具軟性12名,硬性6名、受傷椎体第8,11,12胸椎,第1から第4腰椎).神経症状を伴う者は対象から除外した.いずれの対象者も鎮痛消炎剤を服用しており、受傷前には起き上がりが自立していた.【方法】体幹装具着用下に患者にベッド上仰臥位から端坐位まで起き上がりを行わせた.口頭指示及び介助は行わなかった.測定項目は起き上がり方法,起き上がり時の疼痛,起き上がり自立までの日数とした.起き上がり方法は、仰臥位から側臥位を経て端坐位になる方法(以下側臥位法)と仰臥位から長坐位を経て端坐位になる方法(長坐位法)の2つに大別した.起き上がり時の疼痛はVASにて測定した.起き上がり方と疼痛,起き上がり自立までの日数をMann‐WhitneyのU検定を行い危険率5%未満を有意とした.【結果】起き上がり方法は側臥位法11名61%,長坐位法7名39%であった.起き上がり方法と疼痛,起き上がり自立までの日数において有意な差は認められなかった.【考察】今回の検討では、圧迫骨折患者における疼痛が少ない起き上がり方法,早期に起き上がりが自立できる方法は見出せなかった.圧迫骨折の疼痛に対し、直接的に除痛を図る運動療法についての報告は見当たらない.体幹装具は起き上がり時に対する制動低下が疼痛を誘発する一つの要因と考えられる.また起き上がり方法は、筋力,バランス能力,可動性が関与し、加齢による退行現象があると言われている.体幹装具着用での起き上がり動作は受傷以前の起き上がり方法を阻害するのではないかと考えられる.今後は各身体部位の使いかたが起き上がり動作に関連しているものと考え、圧迫骨折患者の安静期間および理学療法の介入方法についての調査を行い、早期離床を図れる方法を検討していきたい.
著者
内田 学 山口 育子 月岡 鈴奈
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C-107_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】パーキンソン病(Parkinson disease:以下PD)は中脳黒質のドパミン作動性有色素神経細胞が脱落し,線条体でのドパミン消失によって安静時振戦・筋固縮・無動・姿勢反射障害等の症状が現れる.PD患者の嚥下障害は予後に関係する重要な因子であり,経過中90〜100%に出現し死因の25%は肺炎で,肺炎の発症のリスク因子として誤嚥は重要である.PD患者の嚥下障害に対する治療法としては薬物療法が選択され,L-dopaなどが代表的に用いられている.治療効果として口腔期の異常は改善させるが食物移送に関与する咽頭期の異常に対して効果が不十分である.間接的介入として摂食・嚥下リハビリテーションが併用されているが代表的な治療法はShaker exerciseである.この介入効果は舌骨上筋に対する筋力増強が目的であり主として顎二腹筋などの筋萎縮に対して実施される.PD患者の嚥下障害はドパミン欠乏による咽頭や喉頭筋群の固縮によって咀嚼や嚥下,喉頭蓋の閉鎖不全が起こるにも関わらず嚥下筋の筋力を焦点にした介入が実施されている.我々は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会にて舌骨下筋に対する超音波療法(Ultra sound:以下US)が嚥下クリアランスを改善させることを報告した.その検討は温熱効果の介入効果のみであることから,プラセボ群との対比を用いることでUSの効果を明確にすることを本研究の目的とした.【方法】対象は, PDと診断され日常的に嚥下障害を呈している者19名とした.Head dropping testが陽性を示し頸部筋の固縮を認め嚥下障害の指標となる相対的喉頭位置が49%以上であることを統制条件とした.乱数表を用いてUS介入群10名、プラセボ群9名をそれぞれ割り付けた。US介入群は甲状舌骨筋を対象筋としてUSを実施した.出力周波数は3MHZ,照射時間率は,照射時間/(照射時間+休止時間)で設定し50%,BNRは3.5±30%,治療頻度は3回/週×2セット(合計6回)とし10分間実施した.プラセボ群はUSの出力をOFFにした状態で同一筋に対して同条件下の時間頻度で回転法を実施した.測定項目としては,嚥下機能を評価するために改訂水飲みテスト(modified water swallow test : 以下MWST),相対的喉頭位置,嚥下時における嚥下関連筋の表面筋電図(振幅,活動時間),食事摂取時に出現する顕性誤嚥の回数を測定した.両群共に全ての測定を介入前に実施し,2週間の介入後に再測定を実施した.統計的手法としては,群内におけるMWST,相対的喉頭位置,筋電図学的解析,顕性誤嚥回数の介入前後の差についてMann-Whitney's U testを実施した.【結果】US群では,MWST,嚥下筋活動の振幅,活動時間,相対的喉頭位置,誤嚥回数が介入後に有意な改善を認めた.一方でプラセボ群では全ての項目に統計学的な差は認めなかった。【結論】PDの誤嚥に対するUSは,固縮による異常な筋緊張を抑制し咽頭部における活動性をより改善させた.プラセボ群では変化を認めないことから,舌骨下筋に対するUSは誤嚥の予防効果として有効であることが示された。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は東京医療学院大学研究倫理委員会の承認(17‐37H)を得たのちに実施した.すべての対象者には視覚材料を用いて研究内容を十分に説明し,書面にて同意を得た後に測定および介入を実施した.