著者
西 亮介 野中 一誠 中澤 里沙
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.H2-153_1-H2-153_1, 2019

<p>【はじめに、目的】投球肩・肘障害の要因の1つに不良な投球フォームが挙げられる.臨床上行われる,投球動作分析の多くは1回の動作を評価対象とし,高速な運動である投球動作において不十分であると考えられる.また,Early-Cockingは意識下の運動,Accelerationは無意識の運動とされており,上肢運動の速度も異なる.そのため,動作分析の対象となる相によって動作分析の測定回数を変更する必要があると考えられる.そこで本研究は,三次元動作解析装置を用いてFoot-Plant(以下,FP)・Maximum-External-Rotation(以下,MER)・Ball-Release(以下,BR)の3時点における肩・肘関節角度の再現性を求め,測定値の十分な信頼性を得るために必要な測定回数を検討した.</p><p>【方法】過去3ヶ月以内に投球に支障をきたす外傷・障害の既往がないオーバースローもしくはスリークォータースローの甲子園出場レベルの健常高校野球投手9名を対象とした.動作解析には三次元動作解析装置(アニマ社製 ローカス3DMA-3000)および床反力計(アニマ社製 MG-1060)を使用した.対象者の全身のランドマークに反射マーカーを貼付した.動作課題はセットポジションから4m先のネットに向け直球の全力投球3回とした.貼付した反射マーカーを基にFP・MER・BRの3時点の肩・肘関節の関節角度(肩関節外転・肩関節水平内外転・肩関節内外旋・肘関節屈曲)を算出した.信頼性の指標には級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient;以下,ICC)を使用し,ICC(1,1)を算出した.Spearman-Brownの公式よりICC(1,k)が0.9以上になるkの値を求めた.また,各相の各関節角度の変動係数(Coefficient of Variation;以下,CV)を算出した.なお,統計処理にはIBM SPSS statistics Ver.23.0 for Macを用いた.</p><p>【結果】ICC(1,1)は概ね0.9以上であった.しかし,FP時の肩関節外転に関してはICC(1,1)が0.79であった.Spearman-Brownの公式を用いたkの値はFPで3,MERで2,BRで2となった.また,MERおよびBR時の各関節角度のCVは0〜15%以内であったがFP時の肩関節外転に関しては最大で25%を示した.</p><p>【結論(考察も含む)】投手の投球動作の肩・肘関節角度は必ずしも一定していないことが明らかになった.特にFPはMERやBRと比較して上肢運動の速度は遅いにも関わらずCVが大きく,信頼性が低い傾向を示した.その要因の1つに意識下の運動であることが挙げられる.意識下の運動は自分自身でコントロールすることになるため,動作にばらつきが生じたと考えられる.臨床上,FPに着目することが多く見受けられるが,1回の動作分析では不十分であると考えられる.本研究の結果から臨床上の投球動作における動作分析は解析したい相によっては2〜3回の動作分析評価を行う必要性が示唆された.また,本来の投手板からホームベースまでの18.44mと比較し本研究における投球距離は4mと短い.そのため,今後は,投球距離別の信頼性を検討することが必要である.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,東前橋整形外科倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2017-04).また,すべての対象者には,ヘルシンキ宣言に従い,本研究の目的,方法,利益,リスクなどを口答および文書で説明し同意を得た.同意は本人とともに保護者もしくは保護者と同等のもののサインをもって研究参加を同意したものと判断した.なお,同意の撤回は,いつでもできることを口答および文書で説明した.</p>
著者
倉山 太一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1338, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】ヒトはある程度の騒音の中にいても,遠方から友人の声がすれば無意識的に反応し,注意を切り替えることができる。カクテルパーティ効果などと呼称されるこの能力は,外部刺激に対する自動的な脳内情報処理機構として動物が自然界で生き延びるための生来的な能力の一つと言われている。ミスマッチ陰性電位(Mismatch negativity:MMN)はこのような注意に関連した認知機能を反映する事象関連電位として,認知神経科学の分野で多く研究されている。本研究では二重課題歩行が,ヒトの注意機能に与える影響を明らかにすることを目的とし,歩行中のMMNについて検討した。【方法】対象は健常成人24名とした。計測課題はA1:坐位で無声動画を見ながらのMMN計測,A2:自由歩行にて無声動画を見ながらのMMN計測,およびB1:水運搬課題(水の入ったカップを把持し,こぼさず歩く)にてMMN計測,B2:粘土運搬課題(粘土の入ったカップを把持して歩く)にてMMN計測,の4つの課題を被験者ごとに擬似ランダムな順序で実施した(歩行速度は至適速度で統一した)。課題に先立ち5分以上の準備歩行を実施すると共に至適速度を定めた。カップは透明なものを用い,底部から上縁までの80%の高さまで水を入れ,左手で胸骨から真っ直ぐ前方へ30~50cmの持ちやすい位置で把持させた。粘土は水と同じ重さとした。歩行中は加速度計(TSND121,ATR-Promotions)を左手首・第三腰椎に装着し運動学的解析を行った。同時にヘッドフォンを通じて0.5秒間隔の音刺激(75ms)を通常音(1000Hz)と逸脱音(1000±100Hz)が5:1の割合となるよう1200回与え,脳波計(32ch Active-two system,Biosemi)によりMMNを計測した。実験終了後に各課題中に被験者が感じた難易度,覚醒度,集中度などについてvisual analog scale:VASを用いて質問した。脳波データは1-20Hzのデジタルバンドパスフィルターを適用後,音刺激をトリガーとして加算波形を作成した。統計解析は課題A1とA2の間でMMN振幅と頂点潜時,および課題B1とB2の間でMMN振幅と頂点潜時,および運動学的指標(躍度,歩幅,ケイデンス,歩行周期変動),またVASの平均値について,対応のあるt検定を実施した。MMN成分について有意差が認められた場合,Loreta解析を用いて脳活動部位の違いについて推定した。有意水準は5%とした。データ解析にはMatlab 2012aを,統計解析にはSPSS ver19.0のソフトウェアを用いた。【倫理的配慮・説明と同意】本研究は倫理審査会の承認を受けており,対象者への説明・同意の上,実施された。【結果】手先躍度,重心位置躍度,歩行変動性は水運搬課題に於いて自由歩行,粘土運搬課題に比べて有意に低下した。ケイデンスはほぼ一定であった。MMN振幅は,水運搬課題において粘土運搬課題に比べて有意に高い値となった。MMN潜時について有意差は認められなかった。課題中の主観的な難易度,覚醒度,集中度は水運搬課題で最も高かった。Loreta解析の結果,水運搬課題ではBrodmann area 6,32,24,4,8における有意な脳活動が推定された。【考察】MMN振幅は粘土運搬課題に比べ,水運搬課題で有意に高い値を示した。このことから二重課題歩行においては外部環境音に対する注意状態が高まることが示唆された。またLoreta解析により複雑運動に関与するとされるBrodmann6野,stroop課題など二重課題で活動する32野の活動が高まった。水運搬課題に於いては,水をこぼさないよう手先の制御に集中するほか,手先の位置を安定させるための滑らかな歩行が要請されたことが,被験者の感じる課題への集中度や覚醒状態が上がったことの要因と考えられた。なお水面の状態を常時確認するため,必然的に視線は水面に集中するが,このような状態で外部環境に対応するためには,聴覚的な注意機能を高める必要性が生じることも要因として考えられた。二重課題歩行(B1およびB2)にてMMNに差が生じた要因として以上のような注意・覚醒度の上昇,また視覚情報の制限などが挙げられた。【理学療法研究としての意義】脳波計測は非侵襲的で計測も簡便である一方,アーチファクトの問題により歩行中に実施することは難しく,これまで主に坐位,立位,歩行準備期など,静的な計測条件に限定されてきた。しかし近年,計器性能の向上により実用的なデータが得られることが示されてきており,臨床応用の可能性が広がっている。高齢者や各種疾患を有する人々に於いては,注意機能などの低下が転倒因子の一つと成ることが示されているが,これまで歩行中の注意機能について脳機能計測を用いた直接的な検討は非常に少ない。本研究は脳波計測を歩行中の脳機能評価として応用できる可能性を示した点に於いて意義があると考えている。
著者
村川 佳太 上原 光司 重留 美咲 米田 哲也 欅 篤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C-92_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】 近年、介護予防分野や老年医学分野では「フレイル」が注目されている。フレイルは大きく3つに分類され、身体的フレイル、精神・心理的フレイル、社会的フレイルがある。フレイルの原因とされている老化は氷山の一角に過ぎず、その背景に潜む因子との関係を明らかにすることが、介護予防対策を進めるうえで重要となる。フレイルの第一段階とされているのが、社会的孤立などの社会的フレイルであり、今回、当院初期もの忘れ外来における社会的孤立の発現率、社会的孤立者の歩行能力について検討する。 【方法】 2012 年7 月から2016年6月の間に、当院初期もの忘れ外来を初回受診された187名(男性79名、平均年齢77.4歳±5.3)。社会的孤立を日本語版LSNS-6にて評価し、12点未満を孤立群、12点以上を非孤立群とした。評価項目は性別、年齢、世帯、BMI、転倒歴、運動習慣、診断名、10m歩行、TUG、MMSE、LSAとし比較。さらに、目的変数を孤立群、非孤立群とした単変量ロジスティック回帰分析を行い、p<0.1であった、運動習慣、10m歩行、TUG、LSAを説明変数として多変量解析を実施した。なお、10m歩行、TUG、LSAにおいては中央値で2値に分類した。 【結果】 社会孤立発現率は32%(60/187)であった。なお、診断時、正常加齢とされた者の孤立者は0%であり、統計解析の対象からは除外した。孤立群と非孤立群の2群比較では10m歩行(p<0.005)、TUG(p<0.05)、LSA(p<0.005)、運動習慣(p<0.005)となった。ロジスティック回帰分析では、性別と年齢を調節因子とした結果、10m歩行6.5秒以上(OR:3.24、95%CI1.25-8.38、p<0.05)、運動習慣なし(OR:2.12、95%CI1.04-4.34、p<0.05)となった。 【結論】 社会的孤立、活動範囲の狭小化、身体機能低下が負の連鎖となる可能性が考えられた。反対に活動範囲を維持、拡大することが、社会的孤立や身体機能低下を予防する一つの手段になることが示唆された。このような社会的背景を考慮した場合、臨床での介入のみでは限界があり、地域をも巻き込んでの包括的にアプローチしていく必要がある。多職種や地域と連携し、予防の視点を患者、家族へ伝えていくことが今後一層重要になってくると考える。 【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、各対象者には本研究の施行及び目的を説明し、研究参加への同意を得た。なお、本研究は社会医療法人愛仁会高槻病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2016-36)。
著者
佐々木 沙織 奥井 友香 川越 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1012, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】膝関節前十字靭帯(以下,ACL)は,膝関節安定性において重要な役割を担っており,ACL損傷時には安定性が低下し,合併症を生じることが多い。合併症の有無は,受傷機転解明の一助となったり,再建術後の治療経過に影響を及ぼすと考えられ,ACL損傷時の合併症について認識しておくことが重要である。そこで,本研究の目的は,ACL損傷時の合併症について調査することとした。さらに,合併症の種類や合併症に対して行った観血的治療内容の相違が,その後の治療経過に与える影響について調査することとした。【方法】対象は,2007年4月から2013年8月までに,当院にてACL再建術を施行した,中学生から大学生までの103件とした。手術記録から,術中に確認された合併症,半月板の損傷部位について調査し,割合を求めた。また,再建術後スポーツ復帰に至るまで経過観察が可能であった70件を対象に,合併症の種類と合併症に対して行った観血的治療内容について群分けした。合併症の種類は,外側半月板(以下,LM)単独損傷群,内側半月板(以下,MM)単独損傷群,LMとMMの合併損傷群,膝関節内側側副靭帯(以下,MCL)損傷群,合併損傷なし群の5群とした。また合併症に対して行った観血的治療内容は,縫合群,切除群,処置なし群の3群とした。診療記録から,各群における再建術施行からジョギング開始までの日数,再建術施行からリハビリテーション終了までの日数を調査し比較した。統計学的解析にはSPSS ver.21.0 for Windowsを使用し,クラスカル・ウォリスの検定を用いて各群の比較を行った。有意水準は5%とした。【結果】ACL再建術中に確認された合併症は,LM単独損傷が55件(53%),MM単独損傷が12件(12%),LMとMMの合併損傷が6件(6%),LMとMCLの合併損傷が1件(1%),合併損傷なしが29件(28%)であった。半月板の損傷部位は,LM損傷では全62件中,後節損傷が50件(81%),中節~後節損傷が9件(14%),中節損傷が2件(3%),前節~後節損傷が1件(2%)であった。MM損傷では全17件中,後節損傷が12件(71%),中節~後節損傷が4件(24%),前節損傷が1件(5%)であった。また,各合併症の再建術施行からジョギング開始までの日数は,LM単独損傷群が99.9±28.3日,MM単独損傷群が105.6±12.9日,LMとMMの合併損傷群が86.7±17.6日,MCL損傷群が95日,合併損傷なし群が116.7±32.1日であり有意差はみられなかった。さらに,再建術施行からリハビリテーション終了までの日数は,LM単独損傷群が268.1±57.2日,MM単独損傷群が270.2±49.4日,LMとMMの合併損傷群が252.0±39.2日,MCL損傷群が275日,合併損傷なし群が282.6±68.7日であり有意差はみられなかった。合併症に対して行った観血的治療内容で群分けした各群の再建術施行からジョギング開始までの日数は,縫合群が102.5±16.1日,切除群が103.1±39.5日,処置なし群が106.3±30.5日であり有意差はみられなかった。さらに,再建術施行からリハビリテーション終了までの日数は,縫合群が274.6±62.0日,切除群が270.0±51.8日,処置なし群が273.5±61.6日で有意差はみられなかった。【考察】ACL損傷時の合併症については,LMの後節損傷が最も多い結果となった。これは,ACL損傷の受傷肢位は膝関節外反損傷が多く,受傷時外反ストレスにより外側関節面が圧迫されるためLM損傷が生じやすいと考えられる。先行研究からもACL損傷後3ヶ月以内ではLM損傷の方が多いと報告されており,同様の結果となった。また,合併症の有無や合併症に対する観血的治療内容によってスポーツ復帰時期の遅延を予想していたが,いずれの比較においても有意差はみられなかった。これは,ACL再建術後の後療法が,半月板切除,縫合などの後療法よりも時間を要するものであり,スポーツ復帰時期には合併症の影響は出にくかったものと考える。ACL再建術後の理学療法において,合併症を考慮した対応が必要だが,スポーツ復帰時期に大きな影響を与えないため,術後の経過不良例は,合併症以外の要因について検討することが重要である。【理学療法学研究としての意義】本研究結果から,ACL損傷に伴う合併症は,術後の治療経過に大きな影響を与えないことが示唆された。本研究の結果は,ACL再建術後の理学療法において,有益な資料となり得ると考える。
著者
田邊素子 庭野賀津子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第50回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

【はじめに,目的】近年増加している虐待の背景には育児ストレスが要因とされている。育児ストレスについて母親の報告は多いが父親では少なく,実際の虐待者が両親であることを考慮すると,男女双方の育児ストレスを検討することは重要である。これまで我々は乳児の2種類の表情認知時の若年成人の脳活動を計測し,泣き場面の方が前頭前皮質の賦活が高いことを明らかにした。また実際の育児では乳児の表情観察に加え,あやす声掛けが必要である。乳児への発話は対乳児発話(IDS:infant-directed speech)と呼ばれ,対成人に比べ,ピッチが高い,誇張されたイントネーション,遅い発話速度,などの特徴がある。IDSは母親だけではなく父親でも観察されているが,育児経験のない若年者での検討は少ない。以上から,乳児の表情視聴時およびIDS時の脳活動の性差を検証し,表情認知とIDSの脳活動にどのような傾向があるかを明らかにすることとした。【方法】被験者は健康な大学生24名(男女各12名,平均年齢21.3歳,全員が右利き)である。実験は,防音室にて実施し,背もたれのある椅子によりかかった安楽な姿勢とした。乳児の表情は刺激を統制するため録画した動画を用い,刺激呈示は26インチの液晶モニターを使用した。実験は安静・刺激を各20秒,3回繰り返すブロックデザインとし,刺激条件は乳児が泣いている場面(cry),機嫌の良い状態(non-cry)とした。乳児表情視聴時では,刺激は「乳児が何を伝えようとしているかを考える」,安静は画面上の固視点を「何も考えずに注視する」と教示した。IDS時では,刺激は画面に映る「乳児に対してあやすように発話する」,安静は画面に表示される「あいうえお」の発語と教示した。脳活動はNIRS装置(日立メディコ社製,ETG-4000)にて計測し,国際10-20法のFp1-Fp2ラインに最下端のプローブを配置した。指標はOxyHb(mM・mm)とし,刺激条件ごとに加算平均した。安静,刺激とも開始5秒後からの15秒間を解析対象としOxyHbの平均値を算出した。計側部位は前頭前皮質(PFC)の19チャンネル(Ch)とした。統計解析は,視聴時,IDS時ともに,各チャンネルのOxyHb値について,性別・刺激条件について2要因分散分析を実施した。有意水準は5%未満とし,統計ソフトはSPSS Statistics17.0(SPSS. Japan. Inc.)を用いた。【結果】表情視聴時は,性別の主効果が眼窩皮質(OFC)に相当するCh39,50であり女子学生の方が男子に比べ,cry,non-cry条件ともに有意にOxyHbが高かった。前頭極(FP)に相当するCh38では刺激の主効果があり,cry条件が男女とも有意に高かった。Ch37(FP)は女子のみcry条件が有意に高かった。IDS時は,性別の主効果は全ての部位で有意ではなかった。刺激の主効果は背外側前頭前野(DLPFC)とFPに相当する9個の部位(Ch.24,25,26,27,28,35,38,39,49)で,non-cry条件が有意に高かった。【考察】OFCは報酬に関連する部位といわれ,母親の愛着とも関連するといわれている。視聴時,刺激条件に関わらず女子の脳活動が高かったのは乳児の表情を認知する過程で報酬に関連する賦活があった可能性が考えられる。IDS時には,性差はなかった。今回の対象は男女とも育児経験がないため,影響しているかもしれない。今後,育児経験のある成人でIDS時の脳活動を比較する必要がある。またIDSではcryに比べnon-cry条件でDLPFC・FP領域で脳活動が高かった。DLPFCは発動性や注意,FPは共感に活動する部位であり,乳児が泣いている場面より,機嫌が良い場面の方が発動性・注意,共感の作業を脳内で行い,声掛けをしようとした可能性が考えられる。視聴時とIDS時の比較では,IDS時が脳活動の部位が多く,乳児への発話時は,他者への共感に関連するFP,注意を担うDLPCFがより活動したと推測する。【理学療法学研究としての意義】乳児の表情の視聴時・IDS時の脳活動を検討することは,育児負担が高い障害児を持つ両親の育児ストレス対策および親性の涵養のための有益な資料となる。謝辞:本研究は,JSPS科研費(課題番号24530831 研究代表者 庭野賀津子)の助成を受け実施した。
著者
石阪 姿子 田中 彩乃 八木 麻衣子 西山 昌秀 岩﨑 さやか 立石 圭祐 大沼 弘幸 清水 弘之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI2198, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 変形性膝関節症(以下,膝OA)における股関節周囲筋筋力増強は膝関節負荷軽減や膝関節痛軽減,運動機能向上などの効果が得られたとする研究が散見され,トレーニングプログラムの一つとして行われることが多い.しかし実際に膝OA患者の股関節周囲筋の筋力水準を提示した研究は少なく,健常者と比較してどの程度の筋力水準なのかは不明である.よって運動処方の際に,目標とする筋力水準を設定出来ない現状がある. 本研究では膝OA患者の股関節周囲筋の年代別筋力水準を提示し,筋力低下の有無や程度を検討することを目的とした.【方法】 対象は当院に人工膝関節全置換術目的に入院した重度膝OA女性患者71名(以下,OA群)と過去6ヶ月に1週間以上の臥床経験が無く独歩可能で日常生活活動が自立し,さらに骨・関節疾患,脳血管障害,神経・筋疾患の既往や認知症が無いという取り込み基準を満たす女性56名(以下,コントロール群)の合計127名である. 筋力測定は等尺性筋力測定装置μ-Tas(アニマ社製)を使用し,股関節外転,伸展,膝関節伸展筋力を約5秒間の最大努力により2回測定,その最大値を記録した.OA群は手術予定側,コントロール群は全例右下肢の筋力値を採用,体重で除した値を用いた. 統計解析には統計ソフトSPSS(Ver.12.0J)を使用した.属性の比較,OA群とコントロール群の筋力値の水準比較には対応のないt検定を使用,筋力値に対する体重の影響を検討するために体重を共変量とし,共分散分析をおこなった.OA群,コントロール群各々における各年代間の筋力値の比較は一元配置の分散分析を使用した.なお,統計学的判定の有意水準は5%とした.【説明と同意】 倫理的配慮として当院倫理委員会の承認を得た(承認番号第1313号).対象者には研究についての適切な説明を行い十分に理解した上で同意を得た.【結果】 属性において両群の体重に有意差を認めたが,共分散分析を行った結果,筋力値に対する体重の影響は棄却された. 年代別筋力値の体重比(単位kgf/kg)を60歳代(OA群13名/コントロール群18名),70歳代(48名/20名),80歳代(10名/18名)の順に述べる.膝関節伸展筋力はOA群では0.26±0.10,0.27±0.09,0.24±0.05,コントロール群では0.47±0.14,0.39±0.09,0.38±0.10, 股関節外転筋力ではOA群では0.23±0.11,0.22±0.08,0.20±0.08,コントロール群0.33±0.08,0.28±0.05,0.27±0.09, 股関節伸展筋力ではOA群では0.23±0.11,0.23±0.08,0.23±0.07,コントロール群0.40±0.11,0.31±0.09,0.27±0.12であった.OA群とコントロール群との比較では80歳代の股関節外転,伸展筋力以外すべてにおいて有意にOA群の筋力が低値であった(p<0.05). また,コントロール群とOA群各々における各年代の筋力値の比較ではコントロール群の股関節伸展筋力にのみ60歳代から80歳代にかけて有意な筋力低下がみられたが(p<0.01),OA群では60歳代から80歳代にかけての筋力値に統計学的な有意差は見られなかった.【考察】 OA群ではコントロール群と比較し,従来から筋力低下がおこるといわれている膝関節伸展筋力のみならず,股関節外転,伸展筋力にも筋力低下を生じていることがわかり,その予防対策やトレーニングの必要性が示唆された.トレーニングプログラムとして股関節周囲筋の筋力増強を図る場合には,今回の結果から得られたコントロール群の年代別筋力値を目標値の一つとして使用できると考える.しかし,今回は筋力値とパフォーマンスや疼痛との関連,また,下肢のアライメントや身体活動量の違いなどとの関連は検討しておらず,今後の課題である. また,OA群ではコントロール群に見られる加齢による筋力低下の傾向が見られなかった.疾患由来による筋力低下が60歳代においてすでにみられるが,その後,加齢による筋力低下は見られない.重度膝OA患者ではあるが全例歩行が可能であったことから,今回得た筋力値は日常生活維持可能な最低限の筋力水準であることが予想された.高齢女性では予備体力低下が問題であり,今後は筋力低下を生じる前に予防策を講じる必要性があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 本研究の意義は膝OA患者において膝関節伸展筋力とともに,股関節周囲筋にも筋力低下を生じていることを示した点、またその水準を示した点である.股関節周囲筋の筋力トレーニングを実施するにあたり、目標値を設定する一助となると考える.
著者
澳 昂佑 福田 章人 奥村 伊世 川原 勲 田中 貴広
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0525, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】本邦の変形性膝関節症患者数は約3000万人と推測され(平成20年介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会-厚生労働省),膝関節機能不全によって,歩行能力の障害を呈することが多く,生活機能の低下を引き起こしてしまう。このため,膝OAの病態を把握し,適切な理学療法を模索することは重要である。とりわけ内側型変形性膝関節症(膝OA)患者の立脚期における膝関節内反モーメントの増加は膝関節内側のメカニカルストレスや痛みの増加に関与していることが報告されている(Schipplenin OD.1991)。これに対して,外側広筋は筋活動を増加することによって側方不安定性に寄与し,膝関節内反モーメントを制動することが知られている(Cheryl L.2009)。一方,股関節は体幹を立脚側に側屈することにより,立脚側へ重心を保持する代償動作を行い(Hunt MA.2008),股関節内転モーメントが減少することが知られている(Janie L.2007)。さらにこの戦略によって股関節外転筋は不使用による筋力低下を引き起こし,二次障害を誘発すると考えられている(Rana S.2010)。これらの知見は膝OA患者に対して膝関節のみではなく,股関節の筋にも着目したトレーニングを行う必要性を示唆している。しかしながら,膝OA患者において歩行中の股関節の筋活動の特徴は明らかとなっていない。そこで本研究の目的は膝OA患者における歩行中の股関節の筋活動の特徴を明らかにすることとした。【方法】対象者は健常成人7名(25歳±4.5)とデュシェンヌ歩行を呈する片側・両側膝OA患者4名(85歳±3.5)とした。膝OAの重症度はKellgren-Lawrence分類(K/L分類)にて,IIが4側,IIIが1側,IVが2側であった。対象者には筋電図の記録電極を外側広筋,中殿筋,内転筋に設置し,足底にフットスイッチを装着させた。筋活動の測定には表面筋電計(Noraxson社製MyoSystem1400)を使用した。歩行中の筋活動の測定は,音の合図に反応して快適な歩行速度で歩行させた。歩行計測終了後,各被検筋の最大随意収縮(Maximal Voluntary contraction:MVC)を等尺性収縮にて3秒間測定した。解析は得られた波形を整流化し,5歩行周期を時間にて正規化した。各筋の1歩行周期における平均EMG振幅,MVCの平均EMG振幅を算出した。各歩行周期の平均EMG振幅は%MVCにて正規化した。統計処理は健常成人とOA患者のEMG振幅をMann-Whitney U-testにて比較した。健常成人,OA患者それぞれの外側広筋と中殿筋,内転筋のEMG振幅をPaired t-testにて比較した。OA患者のEMG振幅とK/L分類の関係をSpearmann順位相関係数にて検証した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,阪奈中央病院倫理委員会の承認を得て実施された。被験者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】OA患者における外側広筋,中殿筋,内転筋のEMG振幅は健常成人と比較して有意な増加を認めた。健常成人の外側広筋と中殿筋,内転筋のEMG振幅は有意差を認めなかった。他方,OA患者は外側広筋と比較して,内転筋のEMG振幅は有意な増加を認めた。OA患者のK/L分類と外側広筋(r=0.79,p>0.05),内転筋(r=0.83,p>0.05)のEMG振幅は有意な正の相関関係を認めた。【考察】健常成人は外側広筋と内転筋,中殿筋の筋活動に差がないにも関わらず,膝OA患者においては外側広筋の筋活動より,内転筋の筋活動が増加した。これは健常成人と膝OA患者の歩行中の筋活動パターンが異なることを示している。OA患者の外側広筋の筋活動が増加し,K/L分類と相関関係を認めたことはOAの進行による側方不安定の増加に対して外側広筋が制動に寄与しようとした結果であり,先行研究(Cheryl L.2009)と一致した。OA患者の内転筋の筋活動が増加し,K/L分類と相関関係を示したことは膝OAの進行による側方不安定の増加に対し,内転筋が遠心性収縮に作用することによって,体幹を立脚側に側屈(デュシェンヌ歩行)し,メカニカルストレスを軽減しようとした結果であると考える。しかしながらこれらの結果は筋活動であり,筋力を反映していないため,今後,筋活動と筋力の関係を調査する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】膝OA患者の歩行中の外側広筋と内転筋が同時に代償的に活動していることは新たな知見であり,理学療法として膝関節のみではなく,股関節の筋活動にも着目したトレーニングを行う必要性が示唆された。
著者
田村 正樹 中 優希 久保 有紀 渕上 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1149, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】複視とは,脳血管障害などが原因で物体が二重に見える症状である。物体の見えにくさから日常生活動作(以下,ADL)に支障をきたすが,具体的なリハビリテーション介入に関する知見は少ない。今回,複視を呈した症例に対して,自動車運転の獲得を目標にレーザーポインターやミラーを用いた眼球運動課題を考案し介入したことで退院後に目標達成に至ったため,報告する。【方法】症例は59歳,男性。診断名はクモ膜下出血と右視床梗塞。発症2週後の眼科受診で右外転神経麻痺と診断された。発症4週目に当院入院となり,入院当初から運動麻痺や感覚障害は認められず,ADLは歩行で自立していた。その他の所見として,Berg Balance Scaleは56/56点,Mini Mental State Examinationは30/30点,Trail Making TestはPart-A36秒,Part-B81秒であった。職業は内装業であり,復職と自動車運転の獲得を希望されていた。発症9週目で内装業に必要な動作が獲得できたため,眼球運動課題を開始した。このときの眼球運動所見は,peripersonal spaceの物体を正中から右側に20cm以上,左側に30cm以上追視した際に複視が出現し,10分程度で眼精疲労が確認された。さらに,personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行うと,複視により3分程度で気分不良が確認された。複視は右側のextrapersonal spaceへの追視の際に著明であった。眼球運動課題はレーザーポインターを用いたポインティング課題,ミラーを用いた識別課題を方向や距離,速度,実施時間を考慮して行った。レーザーポインターを用いたポインティング課題では前方と側方の安全確認と信号の認識を想定し,頭頸部回旋運動を取り入れてレーザーの照射部位を追視するように教示して実施した。ミラーを用いた識別課題ではバックミラーとサイドミラーに映った自動車の認識を想定し,各3方向のミラーに映った対象の詳細や距離について正答を尋ねた。【結果】発症11週後には,peripersonal spaceにある物体の追視では正中から左右ともに35cmまで複視が出現せず可能となった。peripersonal spaceでの眼球運動は40分程度,personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行う眼球運動では30分程度問題なく行えるようになった。発症12週目に自宅退院となり,最終的には自動車運転の獲得に至った。【結論】本症例は右外転神経麻痺による両眼球の共同運動障害により複視が生じていた。personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行うレーザーポインターやミラーを用いた眼球運動課題を組み合わせることにより,複視の改善に至ったと考える。
著者
栁澤 千香子 押見 雅義 鈴木 昭弘 齋藤 康人 高橋 光美 鹿倉 稚紗子 洲川 明久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1117, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに】当センターは高度専門医療を担っており一般病棟268床の他,第二種感染症指定医療機関として51床の結核病床を有する。結核患者に対してのリハビリ介入も行っており,理学療法部の24年度新規依頼件数1223件のうち結核患者27件であり,全件数の2.2%を占めている。結核患者の理学療法実施にあたり,N95マスクを装着し他患者との接触を避けるため隔離病棟でのベッドサイド対応で感染予防を行っている。N95マスクの使用頻度は高いが,装着方法についてはマニュアルに記載されている程度で十分教育されてはいない。N95はフィルターの性能を示すものであり,装着後のマスクと顔の密着性は保証されていないため,米国では最低年1回のフィッティングテスト実施を勧告している。感染リスク抵減のため,N95マスクの正しい装着方法をマスターする事・自分の顔に合うマスクを見つけることを目的として,フィッティングテストを行う事が必要である。今回リハビリ部門において,N95マスクを使用しての定量的フィッティングテストを施行し教育効果の検証を行った。【方法】対象は当センターのリハビリスタッフ7名(PT6名・リハ医1名)。N95マスクは2種類使用した(マスクA:3M三つ折りマスク,マスクB:KOKENハイラック350型)。定量的測定は,労研式マスクフィッティングテスターMT-03型を使用(大気じんを使用してマスク内外の粉じん量の測定により漏れ率を測定)した。漏れ率5%以下で適合すると判定した。1回目の測定は,全員にマスクAを通常使用している方法で装着してもらい行った。2回目の測定は非適合の者に対し装着の方法・息の漏れがないか確認するためのユーザーシールチェック方法の指導後行った。3回目の測定は全員にマスクBを使用して行った。1回目の測定の際,装着方法が正しいか・ユーザーシールチェックを行えているか観察した。また,アンケートを行い基本的な装着方法を知っていたか・N95マスクの交換頻度等について調査した。【説明と同意】対象者には施行内容について主旨の説明後,同意を得て実施した。またアンケートは個人情報に配慮した。【結果】1.マスクAでは7名中3名が適合した。適合者平均0.88%(0.7~1.11%)・不適合者平均7.97%(5.02~9.99%)であった。不適合者の指導後の再測定では全員適合であった(全体平均1.52%)。2.マスクBでは全員適合した。全体平均0.54%(0.38~0.88%)。3.観察にて装着そのものができていなかったのは2名・装着やユーザーシールチェックまでできていたのは4名であった。できていた4名のうち不適合は2名であった。4.アンケートでは,N95マスクの装着方法を知っているは2名・だいたい知っている4名・知らない1名であった。ユーザーシールチェックまで意識して行っているのは1名・行っていない(知らない)3名であった。N95マスクの交換頻度は毎日5名・1週間ごと2名であった。【考察】マスクAでの適合者は,ユーザーシールチェックを意識して行えていた者・無意識で行っていた者・装着もできていなかったが偶然顔の形で適合した者が1名ずつであった。マスクBでは,装着方法の指導後の結果であったため適合者が増えた結果となった。ユーザーシールチェックに関しては,4名が行えていた。意識して行っているのは1名で他は無意識で行っていた。無意識で行っていたうち適合したのは1名であり,しっかり意識付けして行う事が必要である。N95マスクの交換頻度は,使い捨てが原則であるが実際にはばらつきがあった。衛生面でも統一した知識の共有が必要である。当センターでは,N95マスクを3種類採用しているが装着感のみで自己選択している現状である。しかし1種類のもので検証した結果,適合の割合は個々の顔の形や大きさにより8~9割程度のみとの報告もある。自分にフィットする製品を知っておくことも必要である。アンケートより今回定量的測定を行った事で,漏れを数値で確認でき客観的にわかりやすかった・結果が良かったので安心した・ユーザーシールチェックを行うことで,漏れる場所のポイントが分かり漏れが改善した等の反応があった。国内での結核罹患率は欧米諸国と比べると依然として高く,未だ年間2万1千人以上が新規に登録されている。また結核病床を有する病院での医療従事者の結核罹患率は,一般の発生率の3倍とされている。感染予防のためにも正しいN95マスクの装着方法について継続的な教育が大切である。【理学療法学研究としての意義】N95マスクの装着に関して定量的なフィッティングテストを行う事で,視覚的に正しい装着方法を学習できる。感染リスク軽減のために正しいマスクの装着についての教育・啓発は必要なことであると考えられる。
著者
中山 陽平 喜多 一馬 小島 一範
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D-39, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】日本は2040 年までに医療福祉職の人材が200 万人超の増加が必要と経済財政諮問会議で発表された。その中で,数だけでなく質の確保が急務とされている。そして,質の確保のためには思いやりを持つ重要性が示唆されており(福間2012),これからの医療福祉職には思いやりを育む教育や環境の整備が課題になる。これは在宅分野の理学療法士でも同様である。しかし,思いやりの育み方については,教育関連における報告は多いが(山村2012,三浦2013),医療福祉職における報告は見当たらない。他方,思いやりは様々な人間関係の中で育まれるものであり(植村1999),職員と上司の関係性はその一つとして重要と考えられる。本研究の目的は,職員が上司から感じている思いやりと,職員が利用者に意識している思いやりとの関係性を明らかにすることである。【方法】対象は,本法人のうちデイサービス(3 施設)と老人ホーム,居宅介護支援事業所のいずれかに所属する職員33 名(男性7 名,女性26 名,年齢47+12.4 歳)とした。なお,職員の職種は,ヘルパー,介護福祉士,看護師,柔道整復師,理学療法士であった。対象者には,紙面によるアンケート調査を実施した。アンケート項目は,上司から感じている思いやりについて「上司はあなたが困っている状況を話すと理解してくれる」など4 つの設問を設定した。利用者に意識している思いやりについては「あなたは利用者が困っている状況を理解しようと意識している」など4 つの設問を設定した。各設問に対し,①そう思う(1 点)から,⑤そう思わない(5 点)の5 件法にて回答を得ることとした。分析方法は,回答を点数化し,上司からの思いやりの合計点と利用者への思いやりの合計点との関連を,スピアマンの順位相関係数を用いて検討した。【倫理】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の趣旨,目的,内容,方法などの説明を行い,対象者の同意を得た上で実施した。なお,対象者の個人情報が特定されぬよう,アンケートの回答は無記名にする等の配慮を行った。【結果】上司からの思いやりの合計点の中央値は6(5 ‒ 8),利用者への思いやりの合計点の中央値は6(5 ‒ 7)であった。スピアマンの相関係数が中等度の正の相関(r = 0.478, p < 0.05)を認めた。【考察】結果より,職員が上司から感じている思いやりと,職員が利用者に意識している思いやりには,関係性があることが示唆された。これは,思いやりを感じる力と思いやりを持つ力は共感する能力に起因して生じた可能性がある。上司からの思いやりを感じるには,前提条件として,上司が思いやりを持っていることに対する共感が必要となる。また,他者への思いやりは共感から生じるものであり(満野ら2010),利用者への思いやりも共感をもつことが前提となる。つまり,2 つの質問の性質は両方とも他者への共感に基づくものであったといえる。よって,思いやりを感じる力を育むことは,他者に思いやりを持つ力を育むことと同意となる。思いやりは後天的な遺伝的要因以外の部分のほうが影響するといった報告がある(Varun Warrier 2018)。また,米グーグル社は2012 年から始めた研究(プロジェクトアリストテレス)でも思いやりに近似する心理的安全性がサービスの質を向上させると結論づけ,その形成に効果が証明されているマインドフルネスなど内観的プログラムを開始している。このような報告を応用し,在宅分野の理学療法士を含む医療福祉職における思いやりを育む教育を実践し,その効果を検証することが今後の課題である。【結論】職員が上司から感じている思いやりと,職員が利用者に意識している思いやりには,関係性を認めた。
著者
坂田 裕美 徳田 良英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0471, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】運動負荷後の血圧変動,疲労感を生じやすい症状などへのリスク管理が問題となる例が多い.ところで近年芳香を持つ植物から抽出した精油を使って、心身の自然治癒を高めるアロマセラピーの応用が多分野で活用されるようになった。リハ現場における匂い環境を整備することによる臨床応用の可能性を模索することを念頭に、香りのリラックス効果について運動負荷後の血圧回復の観点から検討することを目的とした。【方法】対象は既往歴の無い成人男女6 名(男性3 名,女性3 名,平均年齢:22.3±1.03 歳)とした.運動前に血圧,脈を計測し,その後運動負荷を行った.血圧・脈の測定には自動血圧計(OMRONデジタル自動血圧計:HEM-6011)を使用した.運動負荷についてはトレッドミル(CYBEX 900T)を使用した.5 分間,10km/h前後の速度で,Borg 指数13~15 程度となるよう調整した.終了後,血圧,脈を1 分間隔で5 回計測し,アンケート調査も行った.この実験をグレープフルーツの香りを与えた群(以下GF 群),ラベンダーの香りを与えた群(以下LV 群),および対照群として芳香刺激を与えない群(以下NG 群)と分け,各群日を変えて実験した.統計解析はWilcoxon 検定を用い,有意水準を5%未満とした.解析にはSPSS for Windows を用いた.【結果】1)生理的変化についての比較:収縮期血圧において,1 分後,2 分後,3 分後,4 分後についてGF 群はNG 群と比較し有意に回復速度が速かった.拡張期血圧においても,1 分後,2 分後,3 分後,5 分後について同様であった.LV 群にも低下傾向が見られ,脈の変動についても,NG 群と比較し若干低下傾向にあった.2)精神的変化についての比較:アンケート調査結果では,実験後の疲労度において調査したところ,NG 群と比較しGF 群,LV 群において有意差は見られないが(p>0.05),疲労度,気分がリラックスしている傾向が見られた(GF群<LV 群).また,アロマテラピーに肯定的な考えを持っている方が6 名中5 名であった【考察・まとめ】アロマテラピーは運動後のリラックス効果について有用であるといえる.特にLVについては精神面でのリラックス効果が得られた.GF についても,運動後の血圧を有意に低下させるなど,身体面においてのリラックス効果が得られた.リハの場面においても芳香刺激を利用することで,患者のリラックス促進効果など期待できると思われる
著者
中野 愛美 宇谷 知紘 中島 美里 村尾 昌信 中嶋 正明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0970, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】ヒトの体幹筋は,動的活動時における主動筋としての作用のみならず,常に抗重力位に晒される脊柱の安定化筋としての作用も有する。体幹筋は,機能や構造などの違いから,ローカル筋とグローバル筋とに大別される。ローカル筋は個々の腰椎に分節的に付着し,分節的な動きの制御において重要な役割を持つ体幹深層筋である。一方,グローバル筋は原則的に腰椎をまたいで付着し,大きなトルクを発生させる体幹浅層筋である。通常ローカル筋とグローバル筋は互いに協調し,脊柱の安定性を維持・調節していると報告されている。一方,高齢者や腰痛患者に多く認められるグローバル筋の過活動は,ローカル筋が担う脊柱の分節的安定性を阻害する因子となりうる。しかしながら,随意的に分節的な脊柱の運動を得ることは難しく,ローカル筋とグローバル筋の協調性を再教育させるための有効な運動療法の報告はほとんどない。我々は,ピラティスの体幹のコアマッスルの活動を刺激するとされる「ショルダーブリッジ」というエクササイズに着目した。ショルダーブリッジによってローカル筋の活動が賦活されれば,不要な代償活動から解放されたグローバル筋のスティフネスが抑制され,結果的に脊柱の可動性が高まる可能性がある。本研究の目的は,ショルダーブリッジが,グローバル筋のスティフネスに与える影響を明らかにすることである。【方法】対象:腰部および下肢に整形外科的既往のない大学生17名を対象とした。運動課題:通常のブリッジ(以下,N-Bridge)と脊柱を分節的に動かすショルダーブリッジ(以下,S-Bridge)を運動課題とした。各運動課題の開始肢位は,セミファーラー肢位とした(膝屈曲120°)。N-Bridgeは,脊柱を直線状に保持した状態で臀部を挙上・下制するものとし,挙上・下制は各々1秒で行わせた。S-Bridgeは,脊柱を分節的に動かすことを意識させたブリッジ動作とし,挙上・下制ともに各8秒間かけて行わせた。挙上は,先ず骨盤を後傾させ,下部腰椎から上部頚椎に向けて椎体を順に床からはがしていくようにして臀部を挙上させた。下制は,逆に上部頚椎から下部腰椎に向けて椎体を順に床に降ろしていき,最後に骨盤をニュートラル肢位にさせる。両課題は挙上・下制を1セットとし,8セット行わせた。評価課題:脊柱柔軟性の評価は,指床間距離(Finger Floor Distance:FFD),胸椎および腰椎の前屈可動域とし,胸椎および腰椎の前屈可動域の計測にはスパイナルマウス(Index Co, Ltd)を用いた。測定は直立位,前屈位にて行った。胸椎後弯角および腰椎前弯角について,それぞれ前屈位と直立位における角度の差【前屈-直立(°)】を求め,胸椎および腰椎の前屈可動域の指標とした。統計処理:N-Bridge群とS-Bridge群との比較にはMann-Whitney U testを用いた。統計処理にはStatView 5.0を用い,検定の有意水準は5%とした。【結果】FFDは,運動課題実施前でN-Bridge群3.8±7.2cm(Mean±SD),S-Bridge群1.0±5.4cm(N.S.:no significant),運動課題実施後でN-Bridge群4.5±7.5cm,S-Bridge群3.0±6.4cmとなった(N.S.)。胸椎前屈可動域は,運動課題実施前にN-Bridge群39.1±23.9°,S-Bridge群30.0±25.3°で,運動課題実施後にN-Bridge群41.8±18.9°,S-Bridge群16.8±8.9°となりS-Bridge群で有意に大きい値を示した(P=0.0033)。腰椎前屈可動域は,運動課題実施前にN-Bridge群69.4±12.9°,S-Bridge群66.6±13.4°となった(N.S.)。運動課題実施後にN-Bridge群69.3±13.5°,S-Bridge群69.3±14.2°となった(N.S.)。【考察】本結果から,脊柱を分節的にコントロールするS-Bridgeを行うことにより胸椎前屈可動域が増加することが明らかとなった。FFDにおいて両群間に差が見られなかったのは,FFDが胸腰椎の前屈可動性の因子に加えてハムストリングスの伸張性因子を含んでいることによると考える。胸椎前屈可動域に差はあったが腰椎前屈可動域に差がなかったのは,S-Bridgeにおいて腰椎よりも胸椎の動きが大きいことによると考える。随意的に脊柱の分節的コントロールを最大限に要求される運動を行うことで体幹のグローバル筋とローカル筋の協調的制御能が賦活されグローバル筋の過緊張が修正されたのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】脊柱の分節的運動による筋緊張調整効果が明らかとなれば腰痛や頸部捻挫における筋緊張亢進に対する新たなアプローチ方法の開発につながる。
著者
高橋 堅 千田 佑介 丸山 智栄 佐々木 幸絵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0647, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】訪問リハビリ(以下「訪問リハ」)では要支援1から要介護5までの回復期から生活期の利用者が対象となり,個々の利用者が目標とする機能や活動も広範囲に及ぶ。そのため,定型評価を行う場合,病院や老健で一般に使用されている評価指標で利用者の運動機能・能力・生活活動(以下「生活機能」)の変化を定量的にとらえるのは難しい。当院では院内研究で,当時使用していた定期・定型評価指標では利用者の生活機能の変化を数量化できていないことを明らかにし(2011),次年の院内活動で新たな生活機能評価指標を調査検討しBedside Mobility Scale(以下BMS),機能的自立度評価法(以下FIM),E-SAS,豊浦フェイスアナログスケール(以下T-FAS*)を併用することとした(2012)。今回の研究活動の目的は,決定した新たな生活機能評価指標を実際に運用し,当院訪問リハでの使用が妥当かどうかを検証することである。(*T-FAS:フェイススケールとVASを応用した当院独自の利用者による自己評価指標)【方法】当院訪問リハ利用者のうちPT・OTが介入している全利用者を対象とし,7か月間指定の評価指標(BMS,FIM,E-SAS,T-FAS)を運用した。並行して,当院のリハ科スタッフによりデルファイ法*を用いて各評価指標が適当かを判断するための評価項目を決定した。①評価時間②再現性③訪問リハの目標との関連性④全体像の把握に役立つか⑤状態変化が数量変化として表れるか⑥目標の達成度が家族・本人にわかりやすいか,の6項目で,これらにより各評価指標を5段階評価した。再びデルファイ法を応用し,5段階評価-討論-再評価を期間をおいて3度繰り返して各評価指標の運用妥当性を検証した。(*デルファイ法:意見を聞くべき人に自由に討論してもらった結果をフィードバックしながら結論を詰めていく方法)【結果】4つの評価指標の検証結果として,BMSでは「評価時間が短く,再現性が高い」「目標との関連性の低い対象者も多い」「天井効果で変化が現れない対象者も多い」となった。FIMでは「評価時間が長く家族・利用者にわかりにくい」「全体像の把握に役立つ」「目標との関連性は対象者による」「天井効果・床効果で変化が現れない対象者も多い」となった。E-SASは「評価項目が多く,項目によっては評価時間が長い」「目標との関連性は対象者による」「床効果で変化の現れない対象者も多い」「検者間の再現性が得られにくい」となった。T-FASは「簡便で利用者・家族にもわかりやすい」「心理面の変化も数量変化として表れる」「説明の仕方で再現性が左右されやすい」「目標との関連性は高いが全体像の把握には不向き」「利用者・家族の主観的評価として使用できる」となった。【考察】評価指標の運用方法は,3か月ごとにT-FASで目標生活機能についての自己評価をしてもらい,同時に利用者の生活機能レベルに応じてBMS,FIM,E-SASの中から目標に適合した指標を選び客観的評価を行うのに加え,訪問開始時と終了時には全員にFIMも使うというものである(2012)。今回この方法を運用してみると,FIMとT-FASの組み合わせでは,FIMで低かった評価項目をT-FASで補うことができ,BMSとT-FASの組み合わせでは,BMSの低かった評価項目をT-FASで補うことができることが示された。E-SASとT-FASの組み合わせでは,どちらも全体像の把握がしづらく再現性が低かったが,FIMを加えることで全体像の把握ができ再現性が得られていることが示された。これらより,個々の評価指標で見ると十分ではない評価項目もあるが,各評価指標を組み合わせて使用することで評価項目をすべて満たすことが示された。また,T-FASを使うことで,これまで行われてこなかった「患者報告アウトカム(PRO)」による評価も行われた。これらのことから,現在使用している生活機能評価指標とその運用方法が,当院訪問リハにとって妥当であると考えられる。今後は評価実績を積み,データベース化することで当院訪問リハの効果検証に繋げていきたいと考えている。また,個々の利用者に対してFIM,BMS,E-SASのような客観的な生活機能評価と,T-FAS,E-SASの一部のような主観的な生活機能評価の結果を比較して,定期的に行っているリハ目標の見直しにも役立てていきたい。【理学療法学研究としての意義】定型的評価でのアウトカムの数量化が難しい訪問リハの効果の有無を,複数の評価指標を併用することによってある程度明確に示せることが示唆された。この運用方法は,訪問療法士にとってはより質の高いリハビリの遂行につながり,同時に,対外的には訪問リハの効果を示すことが可能なツールになると思われる。
著者
笠野 由布子 三上 章允
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0079, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに】変形性膝関節症の発症と進行には,肥満や年齢,職業や栄養の他,下肢のアライメントや筋力等の要因も関与していると考えられている。特に足部や足関節のアライメントは膝関節や股関節に運動学的な代償の連鎖を引き起こし,関節症発症に関与する可能性がある。我々は第49,50回大会において内側縦アーチ高率,外反母趾角と歩行時下肢関節モーメントの相関関係等を解析し,外反母趾角が大きい人ほど歩行時の下肢関節モーメントは低下する歩行様式をとることを報告した。本研究の目的は,横アーチの低下いわゆる開帳足が歩行時の下肢関節モーメントに与える影響を検討することである。【方法】対象は若年健常女性23名(平均年齢21.1±1.6歳)とした。開帳足の指標として足長(mm)に対する足幅(mm)の占める割合によって横アーチ長率(%)を算出した。足幅は荷重立位時の第1趾側中足点と第5趾中足点間の距離,足長は荷重立位時の最も長い足趾先端から踵先端までの距離とし,人体測定器を用いて計測した。歩行解析は,三次元動作解析装置(ANIMA,WA-3000)と床反力計(ANIMA,MG-1090)を用い,被験者任意の歩行速度による裸足歩行を計測した。貼付する反射マーカーは,左右の上前腸骨棘,大転子,大腿骨外側顆,外果,第5中足骨指節間関節の10点とした。得られた床反力垂直成分のデータから,立脚期の2つのピークを第1ピーク,第2ピークと規定し,解析区間を1)全立脚期:踵接地~足趾離地,2)第1期:踵接地~第1ピーク,3)第2期:第1ピーク~第2ピーク,4)第3期:第2ピーク~足趾離地の周期に分類し各区間における平均関節モーメントを算出した。関節モーメントは,三次元解析システムから得られた三平面(矢状面,前額面,水平面)におけるモーメントと総合モーメントを用いた。解析は横アーチ長率と各関節モーメントの相関関係についてPearsonの相関係数を用いて検討した(p<0.05)。【結果】全立脚期および全ての区間で股関節屈曲伸展モーメントは横アーチ長率と負の相関関係をみとめた。また,全立脚期,第1,2期において横アーチ長率が高値であるほど膝関節外反モーメントと総合モーメントが高い値を示した。また,横アーチ長率が高値であるほど,全立脚期,第1,3期の股関節外転モーメントと,全立脚期,第3期の股関節総合モーメントが高い値を示した。その他足関節および膝関節矢状面,水平面,股関節水平面のモーメントに有意な相関関係をみとめなかった。なお,関節モーメントは内部モーメントとして表記している。【結論】横アーチの低い人,つまり開帳足の傾向のある人では,外反母趾における研究と同様に立脚期の矢状面における股関節モーメントを減少させる歩行戦略が用いられていた。しかし,開帳足による影響はそれだけでなく,立脚初期から中期にかけての膝関節内反ストレスと立脚初期と終期の股関節内転ストレスの増大を引き起こしていた。
著者
中宿 伸哉 林 典雄 赤羽根 良和 山崎 雅美 吉田 徹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.C0982, 2005

【はじめに】梨状筋症候群とは、梨状筋をはじめとする股関節外旋筋と坐骨神経との間で生じる絞扼性神経障害である。殿部痛と共に坐骨神経症状を呈するため、腰部椎間板ヘルニアと混同されやすい。一部には仙腸関節炎や椎間関節障害を基盤に発症するとの報告はあるものの、その発症機転を含めてまとまった報告はない。我々は、当院で扱った梨状筋症候群の初診時理学所見を検討し、その発症機転についてタイプ分類を試みたので報告する。<BR>【対象】平成14年4月から平成16年9月まで当院を受診し、最後までfollow upが可能であった86例87肢、右側40肢、左側47肢、男性34名、女性52名、平均年齢55.6±15.1歳を対象とした。なお、来院までの期間は平均10.7週であり、明らかな股関節疾患、梨状筋ブロックにて疼痛の消失が得られた症例は除外した。<BR>【理学所見】殿部痛があるものは86肢、下肢痛があるものは60肢、腰痛があるものは30肢であった。平均SLRは、68.6°、内旋SLRに伴う疼痛の増強は56肢に認められた。圧痛は梨状筋に83肢、双子筋に30肢、大腿方形筋に20肢、多裂筋に41肢、仙腸関節に68肢認められた。Freiberg testは75肢に陽性で、骨盤固定下では14肢に疼痛の軽減を認めた。Patric testは27肢に陽性で、骨盤固定下では全例に疼痛の軽減ないし消失を認めた。<BR>【考察】我々は梨状筋症候群の発症機転について、大きく3つに分類した。1つ目は仙腸関節由来の梨状筋症候群である。仙腸関節における圧痛を約8割に認めた。仲川らによると、仙腸関節の前方はL4・L5・S1神経前枝が支配し、後方はL5・S1・S2神経後枝外側枝が支配すると述べている。仙腸関節に生じた何らかの侵害刺激は、L5・S1・S2に支配される梨状筋、双子筋、大腿方形筋に反射性攣縮を生じさせたと推察した。また、同時に同神経により支配される仙腸関節を支持する多裂筋の反射性攣縮の増強は、仙腸関節自体の感受性を高め、一層梨状筋の反射サイクルを助長していると考えられた。梨状筋症候群の大部分はこのタイプに区分されると考えられる。2つ目は椎間関節由来の梨状筋症候群である。椎間関節は脊髄神経後枝内側枝に支配される。内側枝の第1枝は、隣接する椎間関節包の下部を支配する。第2枝は多裂筋を支配し、第3枝は、1つ下位の椎間関節包上部を支配する。L5・S1の椎間関節に生じた何らかの侵害刺激はL5内側枝を介して、外旋筋群に反射性攣縮を生じさせたと推察した。また、同神経に支配される多裂筋にも反射性攣縮が生じたと思われた。腰椎の合併例で、かつ仙腸関節の圧痛がないものは、このタイプが多いと推察した。<BR> 3つ目は梨状筋単独の梨状筋症候群である。この場合、ブロック注射もしくは梨状筋のリラクゼーションのみで疼痛が消失すると考える。
著者
芳田 なおみ 宮本 忠司 大串 幹 水田 博志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0490, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】鎮痛目的の電気刺激療法には脊髄電気刺激療法,脳深部刺激療法,大脳皮質運動野刺激療法など様々な治療方法があるが,非侵襲かつ簡便さにおいては臨床では経皮的電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:以下TENS)が頻用されている。TENS使用の際には周波数や波形,パルス持続時間,強度や治療時間などのパラメーターや電極位置が効果に影響すると言われ,強度によりAβ線維やAδ線維の活性化,周波数により内因性オピオイド放出に関与すると報告されている。一方,電極位置に関しての報告はまだ少ない。また伝統的に疼痛部位に電極を直接貼付することが多いが,創外固定器や熱傷などの創部状態や幻肢痛などにより直接的なアプローチが困難な場合がある。我々は予備実験として疼痛部位と関連のある遠隔部位に電極貼付することにより疼痛が軽減することを認めた。今回は,同様に疼痛部位に関連した遠隔部位に電極を貼付し,疼痛の種類により効果の発現に違いがでるかを検証した。【方法】対象は当院リハビリテーション部を受診し疼痛を有する患者21名,26部位を対象とした。電極位置は疼痛部位に関連のある経穴もしくはデルマトームおよびスクレロトームとし,対象者ごとにランダムに選択した(経穴群9名12部位,デルマトーム群12名14部位)。また痛みの病態により侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とに分類した。TENSは低周波治療器(伊藤超短波社製,Trio 300)を用いた。刺激はパルス幅50μsec,周波数10Hz及び100Hzにて2つのチャンネルにより電気刺激を20分間与えた。電流は対象者が心地よいと感じるところまでとし刺激強度として記録した。疼痛評価は日本語版Short-Form McGill Pain Questionnaire(以下SF-MPQ)及びVisual Analog Scale(以下VAS)を用いた。SF-MPQは治療開始および一週間ごとに経時的に評価し,各治療前後で即時効果としてVASを評価した。得られたデータは経穴群とデルマトーム群にて病態分類別に治療前後で比較し,また刺激強度についても比較検討をした。【結果】経穴群のうち侵害受容性疼痛は7部位,神経障害性疼痛は5部位であった。一方,デルマトーム群では侵害受容性疼痛は10部位,神経障害性疼痛は4部位であった。治療開始時および終了時のSF-MPQは経穴群の侵害受容性疼痛にて13.0から4.2へ,神経障害性疼痛も10.4から6へ減少した。デルマトーム群においては侵害受容性疼痛が14.1から7.3,神経障害性疼痛は20.3から19.7にとどまった。各治療前後のVASにおいて,経穴群では侵害受容性疼痛は21.4から10.9へと減少し,神経障害性疼痛でも26.4から19.2へと減少した。デルマトーム群においても,侵害受容性疼痛は35.3から19.4と減少し,神経障害性疼痛も43.4から36.9へと減少を認めた。刺激強度については,10Hzで経穴群は28.2mA,デルマトーム群は41.7mAで,100Hzでは経穴群で19.0mA,デルマトーム群では29.4mAでいずれも経穴群が小さかった。【考察】疼痛部位ではない遠隔部位へのTENSは経穴およびデルマトーム両群において疼痛を即時的にも経時的にも軽減させた。侵害受容性疼痛はAδ線維やC線維の終末に存在する侵害受容器を興奮させて生じる痛みであるため,TENSにてそれらを抑制するAβ線維の活性化することにより,疼痛を軽減させたと考えた。さらに,神経障害性疼痛への効果が低かった原因としては,TENSによって生じた内因性オピオイドの放出やAβ線維の活性化が,末梢性や中枢性の神経系の損傷や機能異常がある部位への抑制刺激としてはまだ不十分だった可能性がある。また経穴は少ない強度でも十分な疼痛軽減効果が得ることができたのは,トリガーポイントやモーターポイントと類似した電気を通しやすい部位であるためと考えた。【理学療法学研究としての意義】疼痛部位に直接的なアプローチが困難な場合でも,関連のある遠隔部位へのTENSにより疼痛が軽減することを認めた。選択的なTENSの施行により効果的に疼痛を軽減し患者のQOL向上につながることが期待される。
著者
水上 優 建内 宏重 近藤 勇太 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0088, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腸腰筋は股関節屈曲の主動作筋であり,股関節疾患をもつ患者においてその機能改善は重要である。従来,腸腰筋は侵襲的な方法でしか測定できないとされ,その作用に関する報告は限られていたが,近年,表面筋電図での測定が可能であるとの報告がされた。本研究の目的は,股関節の運動方向が腸腰筋を含む股関節屈筋の筋活動に与える影響を筋電図学的に分析し,腸腰筋の筋作用と他の股関節屈筋と比べ選択的に活動する運動方向を明らかにすることである。【方法】対象者は健常男性20名(年齢22.7±2.6歳)とした。課題は背臥位での等尺性股関節屈曲運動とし,基本肢位は両膝より遠位をベッドから下垂した背臥位で,股関節以遠を10°傾斜させ股関節伸展10°とした。測定筋は利き足の腸腰筋(IL),大腿直筋(RF),大腿筋膜張筋(TFL),縫工筋(SA),長内転筋(AL)の5筋とした。ILの電極貼付部位は鼠径靭帯の遠位3cmとし,超音波画像診断装置(フクダ電子製)で筋腹の位置を確認し電極を貼付した(電極間距離12mm)。筋活動の測定は筋電図計測装置(Noraxon社製)を用いた。各筋の最大筋活動を測定した後,各課題での測定を無作為な順序で行った。課題は,股関節屈曲0°,内外転・内外旋中間位での保持(屈曲),同肢位で大腿遠位に内側または外側から負荷を加えた状態での保持(各屈曲・外転,屈曲・内転),同肢位で下腿遠位に内側または外側から負荷を加えた状態での保持(各屈曲・外旋,屈曲・内旋)の計5種類とした。負荷には伸長量を予め規定した(3kg)セラバンドを用いた。各筋とも各課題中の3秒間の筋活動を記録した。ILの3試行の平均筋活動を最大筋活動で正規化した値(%MVC)と,ILの%MVCを5筋の%MVCの総和で除した筋活動比にILの%MVCを乗じた値を選択的筋活動指数と定義し,解析に用いた。統計解析には,一元配置分散分析およびBonferroni法を用い,ILの5種類の運動時の筋活動と選択的筋活動指数を比較した(有意確率5%)。【結果】ILの筋活動は,屈曲・外転(21.6:%MVC)が他のどの運動よりも有意に大きく,屈曲(18.6)は屈曲・内転(14.9)よりも有意に大きかった。屈曲・内転,屈曲・外旋(15.9),屈曲・内旋(16.1)の間には有意差が無かった。選択的筋活動指数は,屈曲・外転(7.9)が,屈曲(6.5)を除く全ての運動で有意に高かった。屈曲は屈曲・内転(4.3),屈曲・内旋(3.8)よりも有意に高かった。屈曲・内転,屈曲・外旋(4.8),屈曲・内旋の間には有意差は無かった。【結論】本研究の結果,ILは屈曲・外転で他の運動方向よりも有意に筋活動が大きくなり,また屈曲・外転や屈曲が他の運動方向よりも選択的に筋力発揮しやすい傾向を示した。本研究結果は,腸腰筋の選択的な運動を行う際に有用な知見であると考えられる。
著者
川端 哲弥
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0587, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】入谷式足底板は、種々のテーピングやパッドを用いて評価し、足底板の形状を決定することが大きな特徴である。その中で入谷式後足部回外・回内誘導テーピングは、伸縮性テープを用いて、ほとんど伸張をかけずに誘導することが通常のスポーツテーピング等とは異なる点である。この関節の可動性を制限しない方法でのテーピングによって、片脚立位の安定性が変化するかを、重心動揺計を用いて検討した。【方法】対象は健常成人20名(男性7名、女性13名)、平均年齢28.5±4.5歳とし、全員について右足に回外誘導テーピング(回外)、回内誘導テーピング(回内) を行い、右片脚立位時の重心動揺を測定した。テープは伸縮性のあるニトリート社製EB-50を使用した。測定肢位は非支持側膝を90度屈曲位、上肢はかるく体側につけ、5m前方の1.5mの高さの目印を注視させた。重心動揺はZebris社製のWinPDMを使用し、裸足、回外、回内の3条件で片脚立位になった5秒後からの30秒間を計測した。計測パラメータは総軌跡長、外周面積、前後方向動揺の標準偏差(前後動揺)、左右方向動揺の標準偏差(左右動揺)とした。計測パラメータごとに、裸足と回外、裸足と回内の平均値の差についてt-検定を用いて比較した。【結果】裸足と比較し回外では総軌跡長(p<0.01)および左右動揺(p<0.05)が減少した。回内では総軌跡長(p<0.01)が減少した。その他では差は認められなかった。【考察】回外と回内で異なった結果となったのは、回外で左右動揺が減少したことである。後足部回外が、横足根関節での距舟関節と踵立方関節の関節軸を交差した位置関係にし、強固な足部にするとの報告から、その作用により重心動揺が減少したと考えられた。しかし、前後動揺では差がないことから、前後の安定は前足部や距腿関節等の他の要素が関与しているのかもしれない。一方、総軌跡長は回外、回内ともに減少していたことから、関節肢位の影響とは考えにくい。キネシオテープは入谷式同様、伸張をかけないで使用するが、皮膚及び腱等の皮下組織への感覚入力を増加させ、神経筋を促通させるとの報告がある。入谷式は、皮膚および足アーチ保持に重要な腓骨筋腱、後脛骨筋腱に沿った走行であり、テープが前記の作用を起こさせ、神経筋を促通し総軌跡長を短縮させたと考えられる。また関節の可動性を制限しないことから、単一の筋ではなく複数の筋の共同した反応が起こりやすいのではないかと考えられた。しかし、皮下組織との関連等、推察の域を超えないことから今後、検討が必要だと考えられた。