著者
山本 裕二 木島 章文 福原 洸 横山 慶子 小林 亮 加納 剛史 石黒 章夫 奥村 基生 島 弘幸
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では,スポーツにおける対人運動技能の制御・学習則を解明する.対人運動技能とは,眼前の他者と連携や駆け引きを行う技能と,連携や駆け引きを通して互いに成長し続ける技能の両方を指す.これは様々なスポーツに共通の重要な技能であると考えられるが,従来は個の運動技能のみが扱われており,対人運動技能の制御・学習則は未知である.そこで本研究では,二者が連携や駆け引き,二者が連携して他の二者と駆け引きする対人運動技能の制御・学習過程の調査・行動実験からそこに潜む規則性を見つけ,数理モデルを構築して制御・学習の本質を理解し,ロボットに実装してその妥当性を検証する.
著者
益川 敏英 山脇 幸一 棚橋 誠治 原田 正康 野尻 伸一 前川 展祐 早川 雅司 戸部 和弘 酒井 忠勝 野中 千穂 青木 保道 松崎 真也 柴田 章博 曽我見 郁夫 深谷 英則
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2010-04-01

質量の起源を担うヒッグス粒子が発見されたが、その本性は未解決のままである。本計画は「はしご近似」や「ホログラフィー」の模型的計算に基づき、ヒッグス粒子が「ウォーキングテクニカラー理論」で予言された軽い複合粒子「テクニディラトン」として説明できることを示した。一方、第一原理計算方法である格子QCDの計算機シミュレーションにより、フレーバー8のQCDが「ウォーキングテクニカラー理論」の候補となること示し、他のグループも追認した。さらに、フレーバー12(複数の他グループが追認)とフレーバー8において軽いフレーバー1重項スカラーメソンを発見した。後者は「テクニディラトン」の候補である。
著者
門脇 誠二 西秋 良宏 キリエフ ファルハド マハール リサ ポルティヨ マルタ
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

西アジア北端のコーカサス地方における農業発生のプロセスを明らかにするために、アゼルバイジャン共和国の初期農村遺跡(ギョイテペとハッジ・エラムハンル、約7,500-8,000年前)を発掘調査し、この地域に世界最古の農業が普及したタイミングやプロセスについて研究を行った。具体的には、穀物管理に関わる道具(穀物の収穫・加工具)や貯蔵庫の発達過程を調べると共に、初期家畜ヤギの骨からDNAを増幅し、系統解析を行った。その結果、南コーカサスへの農業普及は約8,000年前に急速に始まり、農業先進地であるメソポタミア(肥沃な三日月地帯)の北部から穀物管理具の影響や家畜ヤギの運搬が生じていた可能性を指摘した。
著者
周藤 芳幸 金山 弥平 長田 年弘 師尾 晶子 高橋 亮介 田澤 恵子 佐藤 昇 大林 京子 田中 創 藤井 崇 安川 晴基 芳賀 京子 中野 智章
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

当該年度は、前プロジェクト「古代地中海世界における知の伝達の諸形態」の最終年度に当たっており、そこで既に策定されていた研究計画を着実に進めるとともに、現プロジェクト「古代地中海世界における知の動態と文化的記憶」の本格的な展開に向けて新たな模索を行った。具体的には、図像による知の伝達の諸相を明らかにするために、図像班を中心に研究会「死者を記念する―古代ギリシアの葬礼制度と美術に関する研究」を開催し、陶器画による情報の伝達について多方面からの共同研究を行った。また、9月3日から7日にかけて、国外の大学や研究機関から古代地中海文化研究の最先端で活躍している13名の研究者を招聘し、そこに本共同研究のメンバーのほぼ全員が参加する形で、第4回日欧古代地中海世界コロキアム「古代地中海世界における知の伝達と組織化」を名古屋大学で開催した。このコロキアムでは、古代ギリシアの歴史家の情報源、情報を記録する数字の表記法、文字の使用と記憶との関係、会計記録の宗教上の意義、法知識や公会議記録の伝承のメカニズム、異文化間の知識の伝達を通じた集団アイデンティティの形成、神殿などのモニュメントを通じた植民市と母市との間の伝達など、古代地中海世界で観察される知の動態をめぐる様々な問題が議論されたが、そこからは、新プロジェクトの課題に関して豊富なアイディアと示唆を得ることができた。これについては、その成果の出版計画の中でさらに検討を重ね、今後の研究の展開にあたって参考にする予定である。これに加えて、当該年度には、知の伝承に関する基礎データを獲得するためにエジプトでフィールドワークを行ったほか、9月にはダラム大学名誉教授のピーター・ローズ博士、年度末にはオックスフォード大学のニコラス・パーセル教授の講演会を企画・開催するなど、国際的なネットワークの強化にも努めた。
著者
小杉 智規 丸山 彰一 佐藤 和一 佐藤 和一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

膜貫通型糖蛋白質CD147/Basiginは、細胞の生存や浸潤・転移に重要な役割を果たす。しかし、糖尿病や自己免疫性疾患にてCD147を含む分子機構は解明されていない。本研究においてCD147は活性化制御性T細胞(Treg)の誘導に関与する事を明らかにした。更に、IL17産生性T細胞(Th17)やTregはループス腎炎(LN)において重要な役割をはたしており、CD147の欠損はSTAT3活性化を介してTh17の分化を促進し、LNを増悪させる事を示した。一方、CD147は炎症細胞浸潤の促進を介して糖尿病性腎症による組織炎症にも関与していた。この検証は今後の腎疾患の抑止につながる。
著者
遠藤 知弘
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では、未臨界状態において直接測定しやすい量を有効活用することで、数値計算による核燃料の臨界安全性(実効中性子増倍率keff)の予測精度を向上することを目的とし、研究期間全体を通じて以下で述べる研究に取り組んだ。まず、遅発中性子先行核の効果を陽に取り扱ったω固有値方程式に対して一次摂動論を適用することで、任意の核データに対する即発中性子減衰定数αの感度係数について効率的な評価手法を新たに考案した。自作のエネルギー多群拡散計算およびSn法に基づく中性子輸送計算により、直接摂動法による感度係数の参照値と比較することで提案手法の妥当性を確認した。次に、運転停止中の京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)で測定された原子炉雑音(中性子計数の時間的揺らぎ)に対して、ブートストラップ法を活用したFeynman-α法によりα測定値を求めた。こうして得られたα測定結果を活用したデータ同化(バイアス因子法、炉定数調整法)により、核データに起因したkeff予測結果の不確かさが低減でき、数値計算における入力パラメータの一つであるウラン235核データ(核分裂スペクトル、ν値)の不確かさも低減できることを確認した。また、中性子計数率の時系列データを活用したデータ同化として、粒子フィルタ法による未臨界度の逆推定について検討した。粒子フィルタ法では、逆推定したい状態パラメータ(未臨界度など)にシステムノイズを与えた上で、一点炉動特性方程式に基づいた数値計算による予測を多数回実施し、実際に測定された中性子計数率との尤度が高くなるように、ベイズ推定により状態パラメータを逐次更新する。近畿大学原子炉およびKUCAで測定された中性子計数率の時間変化に対して本手法を適用することで、制御棒操作などに起因した未臨界度の変化を逆推定できることを確認した。以上の研究成果より、本研究の目的を達成することができた。
著者
中野 知子
出版者
名古屋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

周産期医療が発達しているにも関わらず、早産の合併症による新生児死亡や脳性麻痺の発生率も改善していない。早産の病態に炎症が関与すること、さらに酸化ストレスや炎症性サイトカインが児の予後に影響することが報告されている。今回我々は近年抗酸化作用や抗炎症作用があるといわれている分子状水素に着目し、炎症性早産モデルマウスにおける効果について検討した。その結果受傷前に50%飽和水素水を母獣に投与した群では妊娠期間の延長を認め、また子宮組織の炎症性サイトカインなどの早産に関わる因子の発現を有意差を持って抑制した。また50%飽和水素水母獣投与による胎仔催奇形性は認めず、安全に母体へ投与できることを証明した。
著者
水野 さや
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

「中国・韓国・日本における八部衆像の研究」と題し、平成13年度から15年度にわたり研究を行ってきた。その過程で、八部衆(阿修羅、竜、迦楼羅などで構成される)という護法神の枠組みは中国で成立したものであることを明らかにしてきた。もちろん、八部衆を構成する阿修羅などの尊像は、インド、東南アジアにおいても確認され、中国で八部衆像としてグループ化される以前から信仰されてきた神々である。本年度は、このような単独で信仰されてきた阿修羅(アシュラ)、竜(ナーガ)、迦楼羅(ガルダ)などの作例を視野に入れ、これらの神々が単独で造られ、信仰されている場合の図像と、八部衆像として造られた場合の図像とでは違いがあるのかないのか、あるのであればどのような違いなのか、考察を広げてみた。阿修羅像については、八部衆における阿修羅像は日・月、曲尺、天秤などの持物を執ることが、本研究者のこれまでの研究により明らかになっている。河南省竜門石窟賓陽北洞(7世紀中頃)などの中国の初期の作例から、慶尚北道慶州昌林寺址三層石塔(8世紀後半)など、韓国の統一新羅後期から高麗前期に至る作例など、いずれの八部衆における阿修羅像にも必ず確認できる持物である。一方、八部衆ではない単独の阿修羅像には見いだせないものが多い。日・月などの持物も、中央アジアから中国において付加された持物と思われる。それには、阿修羅像が仏教に取り入れるまでの重層的な流れが反映されている。一つは西アジアにおける最高神アフラ・マズダーの一性格としてのアスラである。最高神であり司法神であるアスラが中央アジア経由で中国に直接もたらされ、天秤・鋏・墨壺を持つことが多い中国古来の天地創造の神々のイメージと重なり、阿修羅の図像が形成されたと考えられる。その一方で、西アジアのアスラはインドにおいて軍神インドラに敵対するアシュラとなり、ヴューダ聖典、仏教経典において、インドラに調伏される荒ぶる神々として認識されるようになる。中国、韓国、日本にみられる、怒りのイメージを思わせる赤の身色、荒々しい表情をもつ阿修羅は、ここに起因する。このように、東アジア以外において単独で信仰されている神々の図像との比較により、八部衆に取り入れられた各尊像が、その形成過程でどのようなイメージを強く受け、どのような役割を期待されて組み込まれたのか、その一端を考察する資料となった。
著者
中井 俊樹
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

大学教員の教育と研究の葛藤はどの国においても大きな課題である。イギリスの高等教育アカデミー、アメリカの学生研究体験協議会などにおける研究と議論を中心に分析した結果、教育と研究の関連性を高めるための方策を明らかにすることができた。特に教育と研究の関連性を高める有効な形態の一つとして、学生の研究体験(Undergraduate Research)が注目されており、日本の大学のカリキュラム、教授法、FDの内容にどのように反映することができるのかについて示唆が得られた。
著者
松下 千雅子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1990年代にはカミング・アウトしたレズビアン作家やゲイ作家によって書かれた作品のアンソロジーが多く編纂された。それと平行してキャノンに属する過去の作家たちについても、これまで気づかれなかった同性愛的傾向が文学批評においてクローズアップされるようになった。そして、これらの批評の多くが「クィア・リーディング」と呼ばれた。この手法では、歴史上のゲイ/レズビアンや、これまでストレートだと思われていた人たちの中に隠されたホモエロティックな欲望を可視化することに成功したが、しかし、クィア理論において「クィア」という語に込められた意味を十分に満たしているとは言えない。テクストにある同性愛のコノテーションを見つけ出す読み方は、一見すると解放主義的かもしれない。しかし、実際にはクローゼットの中に隠れている同性愛者を外に引っ張りだしているにすぎず、見つけられた同性愛者は、結局は正常な異性愛/異常な同性愛という不平等な二項対立の図式に回収されていくことになる。そもそも、「クィア」という言葉が批評理論に導入された背景には、異性愛/同性愛の二元論を脱構築するという明確な意図があった。その意図に忠実であろうとするならば、隠れた同性愛を明るみに出すような「アウティング(外に出すこと)」の読みでは、「クィア」という批評概念に基づく読解とは言えないはずである。それゆえ、「アウティング」に頼らないクィア・リーディングの方法論を確立することは急務であった。本研究は、その課題を遂行するために行ったものである。アーネスト・ヘミングウェイとウィラ・キャザーの文学テクストについて、「アウティング」が行われる際、いかなる力関係が介在するのかを、物語論や精神分析を用いて分析した。もし、文学の読みにおいて、テクスト内の登場人物の性的な欲望や行動が描写され、そのことによりホモセクシュアルであると決定されうるとしたら、それはどのようにして可能になるのか。そうした描写は誰に帰属するのか、誰がその描写の意味を解釈するのか、そしてその人物のセクシュアリティを判断する決定権を持つのは誰なのか。本研究では、これらのことを明らかにし、同性愛者がクローゼットの中にいるのか外にいるのかという議論ではなく、クローゼットそのものがどのようにして構築されていくかを明らかにした。それゆえ、本研究では、テクストに込められた性的な意味を、言説の外に存在するものの反映ではなく、あくまでも言説的な経験、すなわち、作者、語り手、読者の間で取り交わされる言語行為として捉えることが可能になった。