- 著者
-
笹原 亮二
- 出版者
- 国立民族学博物館
- 雑誌
- 萌芽的研究
- 巻号頁・発行日
- 1999
本年度の調査は、前年度までの調査成果を踏まえて、未調査の地域の祭や民俗芸能、及び補充調査の必要な地域の祭や民俗芸能について実施した。本年度新たに調査を行ったのは、岩手県の三陸海岸地方南部で行われている虎舞である。虎舞は宮古市域や釜石市域を中心に20ヶ所以上で行われている芸能である。虎舞は、文楽や歌舞伎で有名な国姓爺合戦に因んだもので、中国を舞台として和藤内の虎退治の話を仕組んだストーリーが演じられるものである。同様の内容を有する芸能は神奈川県三浦半島や瀬戸内地方にも若干見られるが、分布の密度は三陸地方のほうがはるかに濃い。また、三陸地方の虎舞の芸態や音楽が、他地域の虎舞よりも三陸や岩手に多数分布している剣舞や山伏神楽とむしろ共通性を感じさせる。三陸地方の虎舞の調査研究はそれほど進んでおらず、関連資料の蓄積があまり見られない。従って、どのようなかたちで現在の分布状況や芸態が掲載されたかは、今回の調査では明らかにすることができなかった。基本的なデータの集積が待たれる。補充調査としては、南九州の琉球人踊について調査を行った。本年度は、琉球人踊の分布が知られていたにも関わらず、昨年度まで調子をしていなかった種子島の琉球人踊について調査を行った。従来の研究では、鹿児島本土では琉球から島津家にやってくる使節に因んだ琉球人踊が行われているのに対し、種子島では一般の人々が江戸期から盛んに琉球と行き来してきたということがあり、そうした直接交渉に因んだ琉球人踊が行われているとされてきた。確かに、鹿児島本土とは異なるかたちで種子島の人々が琉球人に扮した踊が行われていたが、琉球の人々を写実的に真似たのではなく、鹿児島とは異なるかたちでではあるが、かなり変形した奇妙なかたちで琉球人の姿態を演じていた。直接的な琉球の人々との交渉が相当ありながら、何故こうした変形させて演じられているのか、興味を惹かれるところである。また、種子島では、北部の西之表市から南部の南種子町まで各地に琉球人踊に類するものが分布していて、内容は場所によってかなり違っていた。更に詳細な実態調査の必要性を感じた。本年度はそのほか、長崎地方の獅子浮流、佐賀地方の面浮流、伊勢地方の唐人踊と鯨船神事、沖縄地方の唐踊と獅子舞などに関する調査を実施し、関連資料を収集した。