著者
竜岡 久枝
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

新生児期以降の乳児期における児とその母親を対象とし、児のお昼寝・夜寝の睡眠パターンの変遷過程と栄養との関連性について明らかにすることを研究目的とした。乳児の睡眠覚醒リズムは生体時計25時間周期のフリーランリズムを経て発達する(Kleitman, 1953)。その後、視交差上核にある体内時計本来の25時間周期は、明暗周期や母親の生活リズム等の環境要因の影響(time cue)を受け、覚醒・睡眠時間が分岐し夜間の睡眠が統合されて24時間周期の1日リズム(サーカディアンリズム)に発達する(Moor, 1985)。その乳児の睡眠覚醒リズムの発達メカニズムは、上記の脳幹網様体賦活系による睡眠-覚醒サイクルや、松果体でのメラトニン分泌の概日リズムの関与が考えられている。メラトニンは生物の概日リズムを形成するホルモンであり、その合成は外界からの光刺激と中枢の内因性リズムによって調整され、概日リズムを形成している(生山,1995)。メラトニンは血漿、唾液、尿等といった生体物質中に存在し、それらは高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフ質量分析、及び放射性免疫検定法により定量可能である。生体試料によっては放射性免疫検定法による報告のみで、測定者への生体侵襲のない測定方法は報告が見あたらない。そこで今回、母親の生体試料中のメラトニン量の測定方法を確立することを課題とした。ELISA法による測定方法について検討したので報告する。メラトニン測定は測定キット(IBL社製)を使用した。生体試料からのメラトニン抽出およびメラトニン誘導体の生成はM.KollmanやH.Kimata等の方法を参考にした。メラトニン標準濃度をサンプルとして既知濃度をトレースし、測定可否を検討した。先行研究から生体試料中のメラトニン濃度は5.2pg/mLであることから、キットの検出限界および検量線から検出限界を測定すると、測定に必要な検出限界は3pg/mL、定量限界は300pg/mLとなった。また、測定に必要なサンプル量は5-10mlとなった。
著者
川田 都樹子
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

〈芸術諸学と芸術批評と芸術作品の関わり〉美学の自律性を確立したカント、これを発展的に継承し、純粋視覚の理論を用いて芸術学を美学から独立させる方向を見いだしたフィードラ-、これを受け継いで、美術史を視覚の歴史と定義し、様式史としての美術史を提唱したブェルフリン。独における、ある意味では、フォーマリズムの系譜とも言えるこの芸術諸学の展開を根底に持ちつつ、米20世紀半ばのフォーマリズム批評を代表するC.グリーンバーグは、同時代の芸術諸作品の評価・分析を行う。彼にとって、先駆となる美術批評は、イギリス20世紀初頭のR.フライである。フライのフォーマリズムとは、まさに、仏のフォーマリスティックなモダン・アートが、それまで文学色の濃いラファエロ前派などを主流としていたイギリスに上陸してくる時代に不可欠のものであった。さらにフライが、影響を受けた批評家とは、独のマイヤー・グレーフェ、仏のモ-リス・ドニであるが、前者は独の芸術論に関わりながらも、むしろその観念論の性質を受け継ぎ、フォームの問題に留まるよりむしろ、作者存在に留意するものだった。後者は、自身も仏のモダン・アートの作者であり、極めてフォーマリスティックだが、芸術諸学との関連はうすい。この両者を止揚しつつフォーマリズム批評を成立させたのがフライだったのである。グリーンバーグは、アメリカ抽象表現主義の作品に対する批評において、フライに倣いつつフォーマリズムを見事に適応させたが、しかし、それ以後の現代芸術への適応は不可能であった。というのも、現代において芸術作品も芸術諸学もフォーマリズムから離れていたためである。フォーマリズム超克の試みは、現在、様々になされているが、むしろ独の芸諸学においてフォーマリズム超克に成功したハイデガ-にまで逆上り、芸術存在の本質から問わねばならないだろう。
著者
古川 敏明 土肥 麻衣子
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は危機言語の再活性化運動の成功例として論じられてきたハワイ語研究に相互行為の視座を導入することである。ハワイ語あるいは英語中心に展開する多言語会話を対象にして、会話の参加者が何を成し遂げたか分析した。その結果、分析者の視点からすると、複数の言語の要素を含んでいるように思われる発話行為であっても、会話の参加者は言語要素の切り替えに毎回、意味づけを与えるわけではなかった。つまり、主にハワイ語に帰属する資源を用いて話し続けて英語の要素を織り交ぜることも、その逆も、混淆した言語実践であり、参加者の視点からするとどちらも「ハワイ語する」ことであると結論づけられる。
著者
石井 正子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、フィリピン南部の紛争アクターのうち、1)モロイスラム解放戦線(MILF)、2)モロ民族解放戦線(MNLF)EC15派、3)MNLFミスワリ派の3つに注目し、主に関係者へのインタビュー調査を通じて、その動向を分析した。MNLFと政府との和平合意の行方が混迷するなか、MILFは支持者を増やし、MNLFは分裂弱体化している実態が理解できた。一方、MILFも政府との和平交渉が進まないなか、支持者の裾野は広げつつも、内部に意見相違があることが分かった。これらの研究調査により、紛争が長期化する原因について理解を深めた。
著者
好井 千代
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、平成13年度から平成15年度にかけての3年間、19世紀末から20世紀にかけての世紀転換期のグローバリゼーションの諸相を同時代のアメリカ文学の作品を通して考察したものである。グローバリゼーション研究は社会学や経済学政治学、更には文学研究など様々な領域において最近10年間ほどの間に隆盛になったが、現代社会や現代文学を議論の中心に置くことが多かった。本研究は、グローバルな現代社会の原型は100年前の世紀転換期に培われたという立場から、こうした現代寄りのグローバリゼーションの議論を100年前の世紀転換期の社会とアメリカ文学に応用し、当時のアメリカの代表的な小説家でコスモポリタンを自認していたHenry Jamesの諸作品を通じて、当時のグローバリゼーションの諸特徴を明らかにした。具体的にいえば、国境を超えた世界の一体化と大きく定義づけられるグローバリゼーション現象の大きな原動力が資本主義であることや、そうした資本主義が支配するグローバリゼーションとは全く別の形のグローバリゼーションを異種混交の開かれたコスモポリタニズムの典型としてのクレオール文化が表していることなどを、Jamesの代表的な諸作品を分析しながら考察した。更に、9・11テロ以降「グローバリゼーション」研究から「グローバリゼーション」をふまえた上での「(アメリカ)帝国」研究へと批評が大きく推移しつつある動向と連動しながら、グローバリゼーションと帝国主義との関係にも着目し、様々な国家や文化の共存を促進するとともに多国間、多文化間の序列化、主従関係をも生むグローバリゼーションの特質にまで考察を深めた。
著者
青木 伸一 北田 敏廣 井上 隆信 加藤 茂 横田 久里子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

三河湾を対象海域として、気象、海象、陸域流出、内湾水質の4つの側面から総合的に温暖化影響について検討した。気象変動については、地表面近くの大気の安定成層化が夜間から早朝で進み化学物質の滞留が起こりやすいことを明らかにした。海象変動については、台風の大型化を見据えて2009年の高潮の特性を詳細に検討し、風場の急変が高潮の増幅要因となることを示した。陸域流出については、モデルを用いて地球温暖化による異常気象により栄養塩の流出が増大するこ可能性を示した。内湾水質については、観測値から0.024~0.06℃/年の水温上昇トレンドを示すとともに、貧酸素水塊の浅海遡上に対する風の影響を明らかにした。
著者
大野 恭秀
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

現在最も移動度が高いグラフェンをチャネルとしたトランジスタを用いたバイオセンサの開発を行った。作製したデバイスは溶液のpHを0. 025の分解能を持って検出することが可能であることが分かった。また、抗体を用いたバイオセンシングは電界効果トランジスタを用いたセンサでは難しいため、代わりにアプタマーまたはフラグメント抗体を用いたバイオセンシングを行い、グラフェンがバイオセンサに適していることを証明した。
著者
越山 顕一朗
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-11-18

超音波作用下で細胞膜に働く張力の周期的な変化を再現する分子動力学シミュレーションコードを開発し,チャンネルタンパク質,コレステロール,イオンを含む脂質膜分子モデルに応用した.これより,張力変動下での, 脂質膜での孔構造の形成,チャネルタンパク質の不感受性,イオンの孔構造透過パターンの変化,コレステロール・リン脂質膜の相変化を明らかにした.さらにin vitro超音波ニューロモジュレーション(NM)実験装置を開発し,装置における音場制御がNMが生じるより正確な超音波条件を見積もる上で重要であることを指摘した.
著者
マイヤー ノーバート ミヒャエル
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.試作機による実験実験環境は終了しました。傾斜および全ての必要設備は2007年度の財政で終了しました。また安全面についても考慮しました。一つの重大な危険性はローターによるものです。ほとんど起こりえないことですが、ローターが突然押さえられ、外枠が急速に回転を始める可能性があります。この目的のため、足はそれぞれ外枠から独立に動かせるように外枠に取り付けられています。外枠の急速な回転は足の動きや損害、傷害の原因にはなりえません。更なる安全強化のために、試作機が倒れて地面にぶつけるのを避けるために、スチールワイヤーによるケーブルカーのような構造を設計しました。構造は試作機の普通の運動時には妨げにならないように出来ていなければなりませんでした。ジャイロの初期構造はモーターの耐え切れない侵害となっていました。(今年の初めの月に3個のモーターが壊れました)この問題は機械的にギアのペアによってモーターの軸とローターの軸を離すことによって解決されました。実験は明らかに試作機のヨーとロール回転を安定化しましたが、他の機械のパーツにまだ問題があることがわかりました。一つの問題は足裏の形状によって足を地面に擦るフットスカッフィング現象が起こり、歩行を不可能なものにしました。結果として、最初の形状から足に接着物を取り付けて修正しなおしました。現在、明らかな問題は不安定な振る舞いの原因になっている膝の設計にあります。2.会議とジャーナルでの以前の結果の流布以前の結果はジャーナル誌および、会議の議事録誌などに出版されました。この論文では、ジャイロのダイナミクスがいわゆる2次元受動歩行ロボットに比べ、特に膝なし形状において安定化されることを議論しています。これはポワンカレマップのようなカオス理論による手法で行われています。また、膝ありロボットによる結果についてもこれらの出版物に要約されています。
著者
荒瀬 尚 香山 雅子 末永 忠広 平安 恒幸
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

我々は、ミスフォールドしたMHCクラスI分子を細胞外へ輸送する分子としてMHCクラスII分子をクローニングした。そこで、他の蛋白質を解析したところ、卵白リゾチームや抗体の重鎖、さらに、リポ蛋白質の一つであるβ2GP1がMHCクラスII分子に結合することで、細胞外へ輸送され、関節リウマチや抗リン脂質抗体症候群で産生される自己抗体の特異的な標的抗原になっていることが判明した。一方、ミスフォールド蛋白質輸送分子を明らかにするために、細胞表面のミスフォールド蛋白質に会合している分子の検索を行った。その結果、質量分析によって、いくつかの候補分子が同定された。
著者
中道 正之
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

ニホンザルのメスは、生涯を生まれ育った集団で暮らす。このようなニホンザルメスの加齢に伴った行動変化、特に20歳を超える高齢個体の行動に焦点を定めて、2つの集団で行動観察を実施した。高齢個体の中で、老眼になっているものがいることを発見した。毛づくろいは、毛を分ける手指近くに目を近づけるのが一般的であるが、25歳前後の個体の中には目の位置を手指から離す個体がいる。これは老眼であると推測される。高齢メスは社会的孤立傾向が目立つが、特に優劣順位が低い個体において、毛づくろいを受ける個体が少なくなるなど顕著であった。他方、親しい個体を亡くした高齢メスが新しいパートナーを見つける柔軟性も保持していた。
著者
土岐 祐一郎 宮田 博志
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

マウスの実験系を確立した。NY-ESO-1 発現 CT26を移植後5-FU を投与したマウスにマウス抗NY-ESO-1 抗体 E978を静注すると、72時間後に NY-ESO-1 抗原抗体複合体を観察し、抗腫瘍効果は Fc依存性であった。 研究室において樹状細胞を混合培養した場合、効果は飛躍的に亢進した。これらより、抗癌剤併用抗体療法は、腫瘍内抗原が特異抗体と複合体を作り、抗原提示細胞にFc受容体を介してとりこまれ、CD8T 細胞を抗原特異的に誘導・活性化し、抗腫瘍効果をもたらすことが証明された。
著者
豊田 新
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

石英中の格子欠陥のうち熱的に安定な酸素空格子に注目することにより、数百万年から十億年範囲のESR年代測定法の開発を試みた。申請者の昨年度までの研究により、この年代範囲において火山岩中の酸素空格子の量と年代の間によい相関のあること、また生成過程については以前に提案された石英中のα反跳核種よりも外部からのβ及びγ線による可能性の方が大きいことが示されていた。以下の3点について本方法の実用化に向けて問題点の検討を行った。1.年代を求めたい石英そのものをキャリブレーションに用いた。もとの信号の大きさと加熱後の照射で再生した信号の大きさが同じとなるγ線量に相当する年代が、即知の年代と一致するか否か調べた。約十億年の試料については一割以内で一致する年代が得られたが、二千万年から三億年の試料三点については、いずれも予想される年代の半分から5分の1の値となった。2.不対電子間の距離の相対的な違いを調べるために、パルスESRによる緩和時間の測定を試みた。しかし、自然の石英と人為的にγ線を照射して酸素空格子を生成させた石英とで、差があるのか否かを結論できる結果は得られなかった。3.ウラン鉱床中から抽出した直径約0.5mmの石英について、フッ化水素酸で処理する時間を変えることによって取り去る層の厚さを変えて酸素空格子濃度の変化を調べた。取り去る厚さを大きくするほど酸素空格子濃度は減少し、半減するのは0.2mm程度のところであるとわかった。この結果はβ線の寄与が大きいことを示しており、β線とγ線で酸素空格子の生成効率がことなる可能性をも示唆する。酸素空格子を用いたESR年代測定を実用化するには、測定例を増やすと共に、生成過程の解明が急務である。
著者
座古 勝 吉川 秀樹 菅野 伸彦 倉敷 哲生
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2004

材料設計の可能な繊維強化複合材料を用いた人工股関節を提案し, CT画像に基づき患者の骨の力学特性を計測して設計に反映する人工股関節設計手法を開発した.さらに, 損傷異方性を考慮したマルチスケール解析手法を開発した.実際に複合材料製ステムを製作し, 実験・解析によりその有効性を示した.本成果は, 従来品よりも高性能なテーラーメード複合材ステムの実現化に大きく貢献すると考える.
著者
稲場 圭信 櫻井 義秀 濱田 陽 金子 昭 関 嘉寛
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、環太平洋のアジアの国々(具体的には、日本、台湾、韓国、タイ、シンガポール、インドネシア、オーストラリア)を調査地域とし、宗教NGOの社会的活動、弱者救済活動、災害支援活動を実地調査した。様々なネットワークが交錯するグローバルな地域間連携が存在する環太平洋において、宗教NGOはローカルからトランスナショナルの様々なレベルで他の市民セクターと連携するネットワーク型へと変容し、市民社会を作る社会的アクターとして機能している実態が明らかになった。
著者
上田 新也
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

本研究は近世ベトナムにおける集落の成立過程と地方有力者の検討を目的とし、ゾイテー集落において野外調査を行い、以下のことを明らかにした。第一にゾイテー集落は清化集団の一員である張雷の一族が入植することにより15世紀に成立した田庄であった。17世紀前半には張族の田庄経営は崩壊したが、その後も張族は集落の徴税請負人として影響力を維持している。第二に17世紀中頃の碑文に現れる張曰貴は、上記の張族の子孫である。この村には彼を祀ったデン(神社)が20世紀前半まで存在しており、そこでは彼は張族の祖先神としてではなく、集落全体の守護神として祀られていた。これらは、清化貴族集団の土着化を示す一事例といえる。
著者
卜部 格 根来 誠司 島 康文 四方 哲也
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

競争的共存が起こる簡単化した系を用いて、タンパク質分子に対して変異と選択を繰り返すと、それをコードしている塩基配列や機能は変化することができるのだろうか。このことをE.coli内の1遺伝子であるグルタミン合成酵素遺伝子に対して変異と選択を繰り返す実験室内進化系を構築することによって観察した。そして、その遺伝子に対する分子系統樹を作成し、塩基配列および分子機能の変化過程を観察した。また、どの配列をもったものが全体の何割を占めるのかという情報から、集団構造の変化を示した。その結果、グルタミン合成酵素をコードする塩基配列と活性は集団内に2種類以上の異なった配列、違った活性を保持しながら変化し、多様化していくことが観察された。集団構造の変化から、それぞれの配列を持つ菌体の増殖速度は、集団がどういった配列を持ったもので構成されているかによって変化することが示された。さらに、実験室内進化系では、その時々の株を-80℃で保存することが可能である。そのため、一度実験室内進化系で消失した株をその後の変異と選択との繰り返しで残った集団と競争実験することが可能である。そこで、実験室内進化系の途中段階で消失した変異体と後の世代の集団と競争させた結果、実験室内進化系の途中で消失した株は、後の世代の集団と安定して共存した。このことは、個々の菌体が持つ増殖能が培養に用いた培地、温度等の外部環境によって決まっているのではなく、集団構造に依存して変化することをより強く示している。本研究では、E.coli内のグルタミン合成酵素に変異と選択をかけるサイクルを繰り返す実験室内進化系において、その酵素が多様性を保ちながら変化することが観察された。
著者
山内 直人 松永 佳甫 西出 優子 金谷 信子 石田 祐 田中 敬文 奥山 尚子
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

社会のダイバーシティ(多様性)が、ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)をもたらすメカニズムを解明するとともに、ダイバーシティをポジティヴに評価・活用して、社会の活力維持につなげるための公共政策のあり方について研究を進めた。各国社会のダイバーシティおよびソーシャル・エクスクルージョンの状況と、各国の経済成長、起業、犯罪など、様々な社会経済パフォーマンスとの関係を定量的に分析した。
著者
小林 和夫
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

昨年度に引き続き、ロンドンで在外研究を行った。国立公文書館と大英図書館、LSE図書館を研究の中心拠点として、大西洋貿易に関する統計資料やマニュスクリプト、二次文献調査を行い、ロンドン大学キングズ・カレッジのリチャード・ドレイトン教授らとの意見交換を行った。研究の目的は、18世紀大西洋経済を大きく支えていた黒人奴隷貿易を成り立たせていた対価となった商品(具体的には、インド産綿織物)とその流通過程を、私商人の史料をもとにして明らかにすることであった。とくに、18世紀末から19世紀初頭にかけて、インド産綿織物の卸商人として活躍していたトマス・ラムリー商会の販売記録簿や往復書簡を分析した結果、インドから輸入された綿織物が、ラムリーを介して、リヴァプールの奴隷商人の手に渡り、西アフリカに再輸出されていたのか解明することができた。それによって、イギリスの大西洋奴隷貿易の終盤においても、アジアと大西洋を結ぶ商業ネットワークが重要な役割を果たしていたことを明らかにすることができた。大西洋経済における金融制度の研究課題が残っていたが、ロンドン大学政治経済学院(LSE)の博士課程に進学することになったため、2011年9月をもって、日本学術振興会特別研究員を途中辞退することになった。研究成果としては、4月末にカナダ・モントリオールのマギル大学インド洋世界研究所で開催された国際会議で口頭発表を行った(報告題目:Indian Cotton Textiles as a Global Commodity:The Case of the British Atlantic Slave Trade)。他方、研究ノート「イギリスの大西洋奴隷貿易とインド産綿織物-トマス・ラムリー商会の事例を中心に-」が、『社会経済史学』第77巻3号に掲載された。本稿では、イギリスの大西洋奴隷貿易が大きく成長した理由を、黒人奴隷の対価となった商品の供給の面から分析し、とりわけインド産綿織物の流通に関わった商業ネットワークを論じたものである。
著者
田中 仁 許 衛東 宮原 曉 山田 康博 堤 一昭 秋田 茂 青野 繁治 片山 剛 三好 恵真子 今泉 秀人 大谷 順子 竹内 俊隆 高橋 慶吉 木村 自 思 沁夫 西村 成雄 丸田 孝志 江 沛 許 育銘 周 太平 李 朝津
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

(1)統合後の大阪大学における現代中国研究の部局横断的プラットフォームとして、中国文化フォーラムを改組した。(2)中国南開大学・台湾東華大学との研究セミナーの共同開催をふまえて、東アジア学校間交流の定例化をめざした。(3)『大阪大学中国文化フォーラム・ディスカッションペーパー』を刊行した。(4) 本研究の成果を、時間軸・社会空間軸・日中関係軸の三部構成とし、各部で歴史学と諸ディシプリンとの対話を提示する『共進化する現代中国研究』としてとりまとめた。