著者
加藤 内藏進 高橋 正明
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は,「季節サイクルの変調」という視点を新しい切り口として,異常気象や,温暖化などに伴う東アジアの気候変化予測のための基礎的知見を得ることである。主な成果は次の通り。1.大陸側の梅雨前線では,その南方での大きな水蒸気量の維持と前線北方への水蒸気侵入過程における熱い陸面の役割も重要なこと,梅雨期直前に前線北方で一且「不飽和度」が増すことに伴う前線での南北水蒸気傾度の更なる強化を受けること,等が分かった。また,九州北部の梅雨最盛期の総降水量の約20%は,梅雨前線への多量の水蒸気の通り道である暖域側で,梅雨特有のメソ降水系に伴って起きていた。一方,前線へ水蒸気を運ぶ下層南風は,秋雨期には平均場では梅雨期ほど強くないが,月平均場の年々変動や短周期季節内変動に伴って頻繁に強まることの重要性が示された。また,全国的な秋雨の前の8月下旬〜9月上旬頃,九州北西部では秋雨前線の暖域での過程に関連して降水極大期を経ることが明らかになった。しかも,1980年代後半〜1990年代にはこの移行過程の明瞭な年が少なくなる等の経年変動も見られた。このように,東アジア暖候期の降水やその変動には,前線帯暖域での大気過程が重要な一つの鍵となる点を明らかにした。2.夏の降水量の解析によれば,1980〜2000年頃にかけて,日本や中国の梅雨前線付近での降水量の増加とモンゴルやフィリピン付近での降水量の減少トレンドが見られた。これには,シベリアやチベットからのロスビー波伝搬の重要性も協同していることが,モデルでの応答実験により示された。また,夏の日本の天候を支配するオホーツク海高気圧形成に関連するブロッキング高気圧変動の力学的側面も検討した。3.(1)冬にシベリア高気圧が出現するモンゴル付近での発達した低気圧の出現頻度増加に伴って,4月はじめ頃に,気温の値自体は日本列島で大きく異なるものの全国的に同時に大きな昇温が起きること,(2)5〜6月頃でも台風が日本列島に接近しやすい異常気象に関連して,季節平均場の違いの中での亜熱帯高気圧のセルの振る舞いに注目すべきこと,(3)10月後半に日本列島に上陸した台風2004年23号時の降水分布に対して,秋が深まった時期の基本場故の特徴があったこと,その他,季節サイクル全体を見据えて得られた成果も踏まえながら,今後の更なる研究の発展の方向を検討した。
著者
住吉 和子
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.食事摂取量を把握するための質問項目と、認識を把握するための質問項目の抽出医学中央雑誌、Medlineを用いて「食事調査」「認識」について検索を行い、食事摂取量を簡単に把握するための質問紙の検討を行った。使い捨てカメラを用いて1週間分の食事をすべて撮影してもらい、終了時に作成した質問用紙に答えてもらい、質問紙の精度を確認した。認識については、文献の自尊感情など既存の尺度と昨年のインタビューの結果から検討し、糖尿病性腎症に特有な項目を加えて質問項目を抽出した。2.糖尿病外来における糖尿病性腎症患者の事例検討O大学附属病院の糖尿病外来に通院している糖尿病性腎症と診断された3名について、昨年のインタビューから得られた結果をもとに、介入を行った。認識について共通していたのは、この先どうなるのかという将来への不安、「不確かさ」であり、このことについては、医療者にも家族にも相談できないで一人で抱えていた。この不確かさが、内服を中止したり、食事を今までどおりの内容で摂取したりという行動に繋がっていることが明らかになった。3名のうち1名は、「不安はあるけどできるだけ生活を楽しみたい」と前向きに考えているため、病院で指導されたとおりでなく、まず食べたいものを少しは食べて、平均的に塩分の摂取量や蛋白質の摂取量を調節するなど工夫をしており、結果として病状は安定していた。糖尿病教室など患者間の交流が自己管理行動を継続するための大きな要素となるが、糖尿病性腎症を合併した人には患者がお互いに交流する機会がないことも自己管理行動の継続を困難にしている要因であると考えられる。また食事療法については、既存の報告と同様に、患者自身が受け入れて生活に取り入れるまで約3年の月日が必要であることが確認できた。3.今後の課題今後の課題として、保存期にある腎不全患者が、健康を維持するために医療者や患者間で気軽に悩みを話すことができる場が必要である。蛋白制限に変更になった患者に医療者の関わり方についても検討する必要が示唆された。
著者
松木 武彦 今津 節生 桃崎 祐輔 岡林 孝作 鳥越 俊行
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

未盗掘の状態で発見され、そのままの状態で医療用ギプスに封入して取り上げていた岡山県勝負砂古墳の出土資料等を対象にして、3次元X線スキャナーによる内部構造の解析、付着有機質部材の構造と成分の分析、金属部分の構造分析や保存処理ならびに関連資料との型式学的比較検討を通じて、5世紀の古墳副葬品の当時の姿を復元した。また、石室や棺の形態と構造とを同様の方法を用いて復元した。この両者を合わせて、古墳副葬空間を再現した。合わせて、分析に用いた副葬品の系譜や年代についての知見を詳細化した。また、医療用ギプスによる遺物の取り上げと爾後の分析・保存・復元の作業の手順や方法を開発した。
著者
岡 剛史 吉野 正 大内田 守 佐藤 妃映
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)の発症機構をDNAメチル化状態、ヒストン修飾状態、miRNA発現、ポリコーム遺伝子群、クロマチン構造変換等エピジェネテイック異常の観点から患者検体・培養細胞等を用いて解析した。ポリコーム遺伝子群の発現の異常偏り、ヒストン修飾状態の大幅な変化、miRNAの異常発現, 様々な遺伝子の異常発現およびDNAメチル化異常が発症に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
著者
西垣 鳴人
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、民営化前の郵便貯金事業における免税等「官業の特典」額とユニバーサルサービスや官業の特殊性から生じる機会費用等「官業の制約」額とをそれぞれ推計、比較した。その結果、特典が次第に減少する一方で業務制限等による機会費用が急増し収益構造を大幅に悪化させている事実が浮き彫りにされた。諸外国の経験を合わせて考えれば、イギリスやニュージーランド等の様に業務制限を相当緩めない限り、将来、同事業におけるユニバーサルサービス等の民業補完事業は持続困難に陥る危険性が高い。
著者
坂本 竜哉
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

アユモドキの河川本流と産卵場所である氾濫原の間での回遊を見出した。これは淡水域に限られ、数kmと小規模である。野外調査から遡上と産卵を制御する環境-内分泌要因を示唆し、それを基に飼育下での行動の再現に成功した。現在、水没した陸地から生じる"におい"や、テストステロン、甲状腺ホルモンに絞りつつある。サケ科魚類等との比較から、これらは普遍的な回遊の制御要因である可能性がある。このシンプルかつコンパクトな「非通し回遊」は、回遊研究の魅力的なモデルであると思われる。
著者
坂本 竜哉
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、魚類の浸透圧調節ホルモン、特に昨年初めて鉱質コルチコイドの存在が示唆された副腎皮質ホルモンの作用を世界に先がけアップデートすることを目的としている。広塩性魚類の浸透圧調節器官の一つである消化管を用いる。消化管は海水中では上皮透過性が高まり水の吸収能が増大する。食道の分化におけるコルチゾルの作用機序を検討するため、器官培養系を確立した。分子レベルの解析のため遺伝子基盤の最も整った広塩性魚のメダカを選定した。アポトーシスはヌクレオソーム単位に断片化したDNAの酵素免疫法による測定から定量した。また、細胞増殖は代謝活性測定により定量した。血中濃度を反映した1〜1000nMのコルチゾルの効果を調べた。アポトーシスは10nMコルチゾル添加8日後に有意に誘導された。しかし、高濃度の100、1000nMでは効果が消えた。一方、細胞増殖はコルチゾルの濃度に依存して誘導され、1000nMの添加8日後で有意であった。これらの作用はいずれもGRのアンタゴニストによりブロックされた。また、DOCの効果は見られなかった。すなわち、コルチゾルは食道においてGRを介して、低濃度でアポトーシスを、高濃度で細胞増殖を誘導している。一方、DOC-MRの関与は少ない。従って、魚類ではミネラルコルチコイド系が同定されているが、グルココルチコイドが浸透圧調節の重役を担っていると思われ、副腎皮質ホルモン作用の進化の上で極めて興味深い。GRを介した双方向の作用は、コルチゾル-GRの標的遺伝子がコルチゾルの濃度により違うことによると思われる。現在メダカのオリゴヌクレオチドアレイによりその遺伝子の同定を進めている。
著者
西岡 あかね
出版者
岡山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度前半は主に、昨年度アメリカ合衆国で行った文書館調査(フランツ・ヴェルフェル関連資料と遺稿、カリフォルニア大学ロサンジェルス校及びペンシルヴァニア大学所蔵)の際に得た資料の整理と分析を行った。対象となった資料は以下の通り:1)フランツ・ヴェルフェルの書簡2)フランツ・ヴェルフェル宛ての書簡3)フランツ・ヴェルフェルの未発表原稿とノートこの資料調査・分析の結果の一部は、2007年10月にヴィラ・ヴィゴーニ、ドイツ・イタリアセンターでの国際シンポジウムで行った口頭発表の中で公表した。(この口頭発表の原稿は、来春出版予定のシンポジウムの論集に収録される。)また、この発表では公表しなかった資料については、今後、ドイツ表現主義の朗読理論や文学実践の諸相を研究する際に利用し、その成果は順次発表していく予定である。今年度の後半は、これまでの研究で得られた知見を様々な学会で口頭発表した。すなわち、上述のドイツ・イタリアセンターでの発表の後、日本比較文学会関西大会では、ドイツ表現主義の芸術実践と日本の大正期における新興芸術運動を、村山知義の初期戯曲を例に比較した。また、この発表から出発して、前衛運動の国際性に関する考察を、2008年3月、立教大学におけるフンボルト・コレークにおいて口頭発表した。その他、昨年度から進めていた、前衛芸術家の自己演出に関する研究を最終的にまとめ、この成果を、2008年3月、日本独文学会主催の第50回ドイツ文化ゼミナールで発表した。この発表原稿は今後、学術雑誌に投稿を予定している。
著者
高橋 英也
出版者
岡山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、魚類では不明のミネラルコルチコ千ド系の役割を、遺伝子変異メダカを用いて明らかにすることを目的としている。昨年度は、Targeting Induced Local Lesions In Genomes(TILLING)法によりミネラルコルチコイド受容体(MR)遭伝子を人為的に破壊したメダカの作製を試みた。MR-遺伝子の変異スクリーニング結果では、リガンド結合領域をゴードする第4エクソン上に3種のアミノ酸置換を生じるミスセンス変異(754番目のロイシンがプロリン(P754)、767番目のスレオニンがアラニン(A767)、770番目のアスパラギン酸がグルタミン酸(E770))が同定された。本年度は、同定されたこれら受容体の転写活性をレポーター遺伝子アッセイ法により解析した。コルチゾルや11-デオキシコルチコステロンなどの副腎皮質ホルモンに対して、A767は野生型と同程度の転写活性を有していたが、P754は野生型より強い転写活性を示した。一方、E770はいずれの副腎皮質ホルモンに対しても転写活性を喪失していた。以上より、リガンド結合機能が喪失した変異体の作出に成功した。また、MRはメダカでは中脳視蓋や小脳顆粒層に多く存在していることから、胚期のメダカの行動をモニターする装置を開発した。胚期のメダカが1時間あたり数回動くことを確認している。この装置を用いて、E770の行動を解析する予定である。
著者
成瀬 恵治 毛利 聡 中村 一文 竹居 孝二 山田 浩司 入部 玄太郎 片野坂 友紀
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

生体内では至るところで、重力・伸展や剪断応力といった物理的な機械刺激が生じている。細胞の機械受容システムを介して伝達されるこのような刺激は、単に生体にとって不利益なストレスではなく、発生過程や臓器機能発現に不可欠な生体情報であることが次第に明らかになってきた。本研究では、独自のメカニカルストレス負荷システムおよび評価系の開発を通して生体での機械受容環境を再現し、生体の巧みなメカニカルストレス応答機構を明らかにする。
著者
和田 倶典 FULGIONE Wal SAAVEDRA Osc GALEOTTI Pie 斎藤 勝彦 山下 敬彦 高橋 信介 中川 益生 山本 勲 井上 直也 岬 暁夫 WALTER Fulgi OSCAR Saaved PIERO Galeot
出版者
岡山大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究は[LVD(Large Volume Detector)]実験と,[LMD(Large area Massive particlesDetector)]実験から成る。これらの実験の目的は大統一理論から予想される新しい粒子や物理学,また宇宙からのみ飛来することが期待される新粒子,天体物理学などである。これらの実現には人工加速器は無力であり,そのため非加速器物理が押し進められている。[1]LVD実験:特に,ニュートリノ反応や,新粒子の出現頻度はきわめて稀なため,大規模で極端に低いバックグウランド状態の実験所が必要となり,それらの条件を満たす実験所がイタリア,グランサッソ-に建設されイタリア国を中心にロシア,米国,日本,中国,ブラジル等の参加でLVD計画が始まり,日本は我々のグループが参加して,平成2年,3年,4年とLVD建設に協力してきた。LVDの第一期計画のタワー1が完成し,世界最大容積の液体シンチレータデータが取れるようになり,平成4年6月から測定に入った。これにより、LVD実験の目的である(a)星の重力崩壊からのニュートリノバーストの研究,(b)太陽ニュートリノの研究,(c)陽子崩壊の研究,(d)隠れたニュートリノ天体源の研究,(e)ニュートリノ振動の研究,などの成果が期待される。さらに,LVDとしてはタワー2,3の建設が始まっているところである。LVD実験は休みなく運転を続けており,現地グランサッソ-地下実験所にて装置の運転及び実験目的の解析を行うことが本研究の目的である。それらの目的を達成するため,平成6年以降,日本から現地(イタリア,グランサッソ-地下実験所)におもむき,装置の運転及び共同作業やデータ解析などを行ってきた。それらの成果は平成7年ローマで開催された第24回宇宙線国際会議で10編の報告を行った(10.研究発表の項目参照)。また,LVD装置の運転(シフト)業務は各国で分担しているが日本グループとしては年間,最低4週間(2シフト)従事することになっているので,この業務を最優先し,平成7年度は3シフト行った。また,日本グループ独自の解析を行うためのデータ転送,調整などの調査を行い,見とうしをつけた。[2]LMD実験:本実験の研究目的は(f)超低速・超重粒子の探索,(g)超高エネルギーミューオン物理学の研究である。LMD実験も平成6年9月に40平方メートルの改良型TLシートスタック[TLS]をイタリア,モンブラン地下実験所に設置したので,(f)超低速・超重粒子探索の可能性の検討が十分成しえるよう,(ア)現地モンブラン地下実験所及びトリノ大学にてTLSの回収と解析を行うことと,(イ)TLシートが超低速粒子に感度を持つか実験を行うことが本年度の計画であった。TLSはTLシートとX線フィルムを多数枚重ねたものからなるが,今回は改良型TLSで真空パックをした。(ア)は平成8年2月に回収を行い,40平方メートルX8枚のX線フィルムをすべて現象し,解析を行った結果,3例の超低速・超重粒子候補イヴェントを見い出した。ただちに,対応するTLシートの15箇所をTL読み取りシステムで読み取り,ビデオカセットに収録し,日本でも解析できるようすべてのテープをコピーした。現在,そのビデオテープから解析中である。(イ)の実験は低速アルゴン・イオンビームで行った結果光速度の一万分の一程度でもTLシートが感度を持つことが判明し,超低速・超重粒子がTLシートに入射した時の発光量も計算することが可能になった。計算から予想される粒子による発光がバックグラウンドによる発光よりも多くなれば検出がむつかしくなる。TL発光がそれほど多量ではないことが判ったので,モンブラン・トンネル内のバックグラウンドが大きく影響することになる。モンブラン・トンネルに比較してバックグラウンドが少ないと予想される(50%から10%)グランサッソ-地下実験所にTLSを設置すべく,準備を平成7年8月に始めた。バックグラウンド計測用TLシートをグランサッソ-・トンネル内のLVDタンク上に三箇所設置した。平成8年2月にTLシートの一部分を回収し,読み取りを行った。これらもテープをすべてコピーしたので,半年間でのグランサッソ-トンネル内のバックグラウンド量が計測でき,モンブラン・トンネルと比較できる。一年後のバックグラウンド計測と併せて、新しいTLSの設置場所を検討する予定である。
著者
深井 喜代子 前田 ひとみ 佐伯 由香 關戸 啓子 兵藤 好美 樅野 香苗 大倉 美穂
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は,看護ケア技術の科学的根拠を明らかにし,看護界におけるEvidence-Based Nursing(以下,EBN)推進の一役を担うことであった。清潔ケア,感染看護,寝床環境,食のケア,そして痛みのケアのそれぞれの領域において,ケア技術のエビデンスを探究する研究を遂行した結果,以下のことが明らかになった。1)39℃の湯を用いた10分間の片手の手浴は,事後に保温することによって1℃以上の両手の皮膚温上昇と温感が手浴後少なくとも30分間は保たれた。2)手浴終了後の薬用クリームの使用で保湿効果が持続し,皮膚の生理機能が維持された。3)学生の手洗い行動を習慣化させるには,行動化に向けた教育方法の検討が必要なことが分かった。4)シーツ素材の吸湿性が低いと,寝床気候の悪化を招来することが示唆された。5)ヒトの話声は,話の内容に係わらず,70dB以上の大きな声の場合,不快感や交感神経系の緊張を高めることが明らかになった。6)欠食は疲労の原因になるほか,やる気や精神状態の安定にも影響を及ぼすこと分かった。7)一側の手の手浴で反対側の手の実験的疼痛閾値が上昇することが明らかになった。8)看護行為で発生する様々な音のうち,比較的持続時間が長く,大きな音は鎮痛をもたらすが,一時的にストレス性の生体反応を引き起こすので,看護行為中の不用意な音の発生を避けるとともに,事前に音についての説明を行うべきであることが提案された。9)4基本味うち,甘味と酸味にpricking painに対する鎮痛効果があることが分かった。10)温罨法の鎮痛効果は,皮膚温38℃以上の加温で始めて現れることが,実験的に誘発したpricking painで証明された。
著者
池田 直 森 茂生 吉井 賢資
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

RFe204は電子の密度分布で実現する誘電体(電子誘電体)であり既知の誘電体とその発現原理が異なる。またその特性が室温に置いても実現しているため、応用面においても新機能発現の期待が持たれている。本研究は発見されたばかりの物性を精査するため、RFe204試料について化学当量比と酸素欠損量をパラメータとして調整しながら試料合成を行い,強誘電特性発現条件を明確化し、さらに電子秩序強誘電性崩壊条件近傍にある非線形電気伝導特性を探索・解明することを研究実施目標に定めた。本研究の結果,気密天秤炉を用いることで,高品質なRFe204結晶作成に必要とされるパラメータが解明された。また高品位単結晶を作成するための溶融帯或法の様々な条件が解明され発見された。新たに開拓した手法で作成された単結晶は,電気抵抗率が著しく高くなる。さらにまた"不完全な電子強誘電性"とも言うべき電子相が存在していることを確かめた。この電子相は,電気電導率が非線形特性を示し,さらに結晶方位に対して異方的であることを発見した。さらに可視光照射に伴い電気電導率が向上し、同時に誘電率が低下する現象を発見した。室温における光照射に伴う誘電性と電導性の異常応答今までに見いだされている物質と光の相互作用の理解は,イオンに存在する核に束縛された一つの電子が,光から運動エネルギーを受け渡され,その束縛順位から開放される過程として記述されている。一方ここに発見された現象は,本来金属状態にある電子系が電子相関効果で形成する極性な電子集団の光応答であり、新現象である。電荷秩序状態の非線形融解現象の異方性本物質の電流電圧特性は非線形であることを見いだした。この現象の起源は,物質の中に内在する電気集団が電流により融解し,また自発的に電気分極を持つ状態に再凝縮するためにおこる。これは室温にみられる集団電子の融解と再凝集の新しい現象である
著者
汪 達紘 筒井 研 佐野 訓明 益岡 典芳 伊藤 武彦 荻野 景規
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、酸化的ストレス誘発有害物質の評価法の開発とその実用化を目指している。平成17〜19年度にわたってマウス由来のカタラーゼ変異遺伝子導入大腸菌(Cs^a:正常カタラーゼ活性菌、Cs^b:低カタラーゼ活性菌)を用い、CAT Assayにより化学物質の細胞毒性等について検討し、以下の成績を得た。市販の染料であるヘンナ製品(タトゥーや髪染め等)及びその抽出物であるローソンを各菌株に曝露させると濃度依存的な細胞障害を示され、その障害が各菌株のカタラーゼの活性とは負の相関であった。また、ローソンの曝露濃度依存性にH_2O_2の生成上昇を確認した。更に抗酸化物質catalase、 capsaicin、 ascorbic acid等で前処理された菌株にヘンナ製品及びローソンの投与により細胞毒性は減少した。金属キレート剤であるジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)をローソンと一緒に各菌株に曝露するとDTPAの曝露濃度が高ければ高いほど各菌株の生存率が上がり、量-反応関係が見られた。ジチオトレイトール(DTT)は、チオール性抗酸化物質として広く使用されているが、活性酸素種を産生し酸化促進剤として作用することも報告されている。CAT Assayでは、Cs^a、 Cs^bともDTT濃度依存性の細胞毒性が見られ、両者の間には有意な差異が認められた。Catalaseの添加により、DTTの細胞毒性を完全に抑制され、ascorbic acid、 catechin及びresveratrolもDTT毒性の予防に有効であった。CAT Assayの実用性について、医療廃棄物の処理残渣及び一般廃棄物の焼却灰を用いて検討した。3種類の有機溶媒及び滅菌水を用いて試料の抽出方法について比較した。水及びメタノールの抽出物による各菌株の増殖抑制はカタラーゼ活性と負の相関があり、検体の曝露量が高ければ高いほど各菌株の生存率が下がり、カタラーゼ活性に依存していることが示唆された。アセトン及びヘキサンの抽出物は各菌株に影響を示さなかった。本研究で確立したCAT Assayは、酸化的ストレス誘発有害物質の評価法として応用が可能であると考えられる。
著者
内田 和子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ため池卓越地域においては、その決壊に備えるためのハザードマップ作成が重要である。筆者は全国都道府県対象にため池ハザードマップ作成状況の調査を行い、作成例が?なく、作成方法や活用方法も多様であることを明らかにした。次に、その中から先進事例について現地調査を行い、マップ作成の成功要因や留意事項を明らかにした。結果は、ハザードマップ作成は行政が主体と成らざるを得ない、想定区域の想定手法は何種類かあり、行政の予算に応じた方法を選択すべきである、行政と住民が連携したマップ作りが効果的であるが、ファシリテーターと住民の危機意識が鍵となる等である。マップ作成は地域性に応じた方法を考慮すべきであって、作成マニュアルが必要であり、その作成も可能であることが明らかとなった。
著者
近藤 勲 木原 俊行 長畑 秀和 山本 秀樹
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、平成6、7、8年度の3カ年にわたり、情報教育普及をめざし現職教員向け研修プログラムの開発を目的に実施された。開発理念としては、"情報教育=コンピュータ教育または情報処理教育"という図式から脱却して、情報教育を教員の基礎教養と見なした。つまり、市販のコンピュータソフトの利用技術の習得だけでなく、情報の概念・性質などの他、情報教育の必要性が理解できるよう意図した内容と構成とした。以下に3カ年の研究の経過並びに成果を整理する。1)中学校技術・家庭科の「情報基礎」の学習内容をFCAIにより自作CAI教材化し、中学生に試行させ学習効果を見た。つまり、中学2年生と3年生を対象に、自作CAI教材の学習効果を測定し、プリ・ポストテストの得点をもとに学習効果を測定したところ、顕著な学習効果が見られた。この結果をもとに、あわせて教師による自作教材の必要性の可否を検討し、操作技術・制作技術・企画構成技術は、調和を持って習得することが不可欠であるとの結論を得た。2)中学校教員及び中学生を対象にインターネットを含むコンピュータへの関心の程度及び現状の意識を質問紙法によってアンケート調査した。この調査結果を分析した結果から、教師及び生徒のパーソナルコンピュータへの期待や意識の実情を把握し、研修用プログラムパッケージ作成に反映させた3)自作CAIソフト作成のため、市販ソフト、例えば、「ハイパーカード」、「ディレクター」による学習ソフトの自作に必要な解説書とビデオソフトを制作した。4)自作した解説書並びにビデオソフトを学生並びに現職教員を含む大学院生に試用させ、その有用性・改良点について、口頭または記述によって回答を求めた。
著者
本間 弘次 中村 栄三 加々美 寛雄
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1。薩南諸島海域の火山島・海底火山の岩石のRb・Sr・NdとSmの含量、およびSrとNdの同位体比を分析・測定し、一連の火山岩の成分変化の主要部分がマグマの分化によるものであること、島弧横断方向における微量元素を中心とする化学的変化が、マントルペリドタイトの部分溶融度の差にもとづく初生マグマの違いを反映するものであること、Sr-Nd同位体システマティックスは単なる2成分混合モデルでは説明できず、MORB源-堆積岩源スラブ成分からなるマントル源混合と島弧型マグマ-地殻岩石からなる地殻内混合の組み合わせ=2段階2成分混合モデルを考えなければならないことを明らかにした。2。琉球島弧系の新生代火山岩類では、後期更新世以降の、火山前線と背弧海盆の火山岩類はマントル配列を右上側に離れしかも高^<87>Sr/^<86>Sr低^<143>Nd/^<144>Nd比で特徴づけられる。硫黄鳥島の含石英安山岩はマントル配列のやや近くに位置する。一方第三紀のもの(トカラ列島平島のものを含む)はマントル配列に近い組成をもつ。尖閣諸島の現世アルカリ岩類はホットスポット型で、マントル配列上ないしその左下方に位置する。高苦土安山岩は比較的に海嶺玄武岩に近い同位体組成をもつ。これら同位体的特徴とその多様性は、1次的なものであり基本的にマグマ源物質の性質を反映している。マグマ源の性格は古第三紀から現世まで、それぞれの地質セッティングによって変化している。現世島弧-背弧系火山岩類のSr-Nd同位体システマティックスでの2成分混合モデルによれば他の島弧火山岩に比べ琉球系火山岩の^<87>Sr/^<86>Sr比が高く^<143>Nd/^<144>Nd比が低いのはスラブを構成する堆積物が大陸起源成分に富むことおよびマグマの変化の1部に地殻岩石が関わっているためである。これらは琉球島弧系が大陸縁にある若い沈み込み帯であってしかもやや厚い地殻をもつことと密接な関係にある。
著者
岡本 秀毅
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

トリフルオロアセチルアミノ基を持つフタルイミドおよび, ナフタルイミド誘導体はアミドプロトンの解離により単一クロモフォアでマルチカラー発光を示すことを見いだした. このプロトン解離は, I-と紫外光照射でも誘起される意外な現象を発見し, I-検出および生成したアミドアニオンの陽イオンへの応答により, マルチセンシングの可能性が示された. また, 6-アミノフタリドにピコリルアミノレセプターを導入し, アミノフタリド色素を持つ初めてのセンサーを合成することができた.
著者
十川 千春
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、モノアミントランスポーター発現動態の解析を申心に、疼痛に関わる下行性抑制系神経におけるモノアミントランスポーターの役割と疼痛制御への関与について検討し、歯科領域で問題となっている神経因性疼痛の有効な治療法の開発基盤を得ることを目的とする。われわれはこれまでに、ヒトDAT(hDAT)およびヒトNET(hNET>には、末梢組織においてエクソン6を欠失する新規のスプライシングバリアントが存在することを見出してきた。さらに、今年度はこれらのバリアントの発現および機能調節について検討を行った。hDAT、hNETの野生型(FL)およびエクソン6欠失バリアント(-EX6)をCOS-7細胞にそれぞれ形質導入し、3^Hラベルした基質の取り込みにより基質輸送活性を、また、ウエスタンブロッティング法および免疫染色法にて細胞局在について検討を行った。さらに免疫沈降法によりFLと-EX6の相互作用についても検討を行った。hDAT-EX6およびhNET-EX6はいずれも、基質輸送活性が著しく低下しており、hDAT-EX6はコカインのアナログであるWIN35,428の特異的結合がみられなかった。また、ウエスタンブロッティングの結果より、両バリアントともに膜への移行が著しく低下しており、hDAT-EX6はFL-hDATよりも膜への移行が著しく遅いことが分かった。さらに、hDATについて免疫染色の結果より、FL-hDATはC末端領域が細胞内へ存在するが、hDAT-EX6はC末端領域が細胞外へ局在していることが示唆された。次に、FLと-EX6の相互作用について調べるため、FL-hDATとhDAT-EX6を共発現させた場合、基質輸送活性のVmaxが著しく低下し、km値も低下していた。また、膜への発現も低下しており、FL-hDATとhDAT-EX6は細胞内でヘテロ二量体を形成することが明らかとなった。以上の結果より、ヒトカテコラミントランスポーターのエクソン6欠失バリアントは野生型と結合して野生型の膜移行を制御し、発現・機能調節に関与していることが明らかとなった。神経伝達物質であるノルエピネフリンおよびドパミンの再取り込み機構をつかさどるNETおよびDATの発現調櫛がアイソマーム間の相互作用により制御されている可能性が示唆された。