1 0 0 0 理科会粋

出版者
東京大学
巻号頁・発行日
vol.日本醸酒編, 1883
著者
日比谷 紀之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、深層海洋大循環モデルを構築する上で不可欠な情報でありながら、観測の困難さもあり、未解明なまま残されてきた海底地形の凹凸から上方に広がる乱流ホットスポットに注目し、その鉛直構造を理論的および観測的に調べた。特に、海底地形の凹凸から上方に伝播していく内部波と深海の平衡内部波場との非線形相互干渉に関するアイコナル・シミュレーションを通じて、超深海乱流強度が、海底地形の凹凸の卓越波数、海底地形の高さ、潮流の強さ、密度成層などの物理量とどのように関連しているのかを力学的に明らかにし、海底地形の凹凸上で実際に観測された乱流混合強度の鉛直分布を定性的に再現することができた。
著者
塩谷 光彦
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、炭素やケイ素を鋳型とし、パーメタレーションにより金属多核クラスターを構築することを目指した。具体的には、炭素一原子を鋳型とする金属クラスター合成、およびベンゼン環をコアとする金(I)多核錯体合成を行った。その結果、N-ヘテロ環状カルベンを外部配位子とする炭素中心型金(I) 6核錯体の合成法、およびジフェニルメチルホスフィンを外部配位子とするベンゼン環の隣合う二つの炭素に金(I)イオンが結合した2核錯体の合成法を確立した。前者の合成研究において、6個の金(I)のうちいくつかが銀(I)や銅(I)イオンと交換し、ヘテロ金属クラスターを与えることを見いだした。
著者
豊田 太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,化学物質受容体やイオノフォアとして機能する膜タンパク質が,厚さ5nmの生体膜において如何に構造形成し,機能するかという非平衡系のダイナミクスを計測する手法の開発を目的とした.夾雑物のないモデル生体膜として袋状脂質二分子膜であるジャイアントベシクルに着目し,mRNAから膜タンパク質が合成される反応系の内封法を構築した.蛍光膜タンパク質の一つであるeGFP-BmOR1をGV内部で合成したところ、これが自発的に膜に組み込まれることを明らかにした.一方,厚み方向でナノメートルの分解能をもつ反射干渉顕微鏡を構築した.これにより,基板上に接着したジャイアントベシクル膜の非平衡状態における特異な変形を観測することができた.以上の成果は,生体模倣反応場であるジャイアントベシクルを用いて,膜タンパク質の形成過程や機能発現に分析化学的にアプローチできる要素技術として重要である.
著者
新谷 周平
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.51-78, 2004-01-31

フリーターやフリーター希望者に特徴的な意識として現在志向や「やりたいこと」志向が指摘され,それに対して,職業や将来への意識を高めるための施策が提起されている.しかし,それらの志向の内実は何であり,彼らはなぜそうした志向性を持つのだろうか.本稿では,フリーター選択プロセスを把握することにより,「やりたいこと」志向とされてきたものの内実を明らかにすることを目的とする.インタビューの分折からは,フリーターを選択し,その状態を維持する要因として,生活手段を獲得するための道具性だけではなく,情緒的安定を可能にする表出性が充足されていることを指摘することができる.「やりたいこと」志向とは,さしあたり表出性を求めながら,道具性の獲得を求めていることを対外的に示す言葉だと解釈することができる.それゆえ,彼らの表出性に配慮しない政策は,その有効性を主張することができないであろう.
著者
飯泉 仁
出版者
東京大学
雑誌
東京大学海洋研究所大槌臨海研究センター研究報告 (ISSN:13448420)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.59-60, 2002-03-29

平成12年度共同利用研究集会「北海道, 東北沿岸の海草藻場ワークショップ」(2001年3月7日~9日, 研究代表者:相澤啓子)講演要旨Workshop of the studies on the seagrass beds in Hokkaido and Tohoku areas(Abstracts of scientific symposia held at Otsuchi Marine Research Center in 2000)
著者
市川 豪
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は、平成23年度にフランスのラウエーランジュバン研究所で17日間にわたって取得した実験データの物理的な解析を行った。超冷中性子の量子状態の位置分布を、凸面鏡を用いて拡大するというこれまでに前例のない実験手法であり、解析の方法についても、結果を実験的に確認したものが無いため、新たに考案する必要があった。中性子の分布が拡大円筒で反射されてピクセル検出器上で検出されるまでの過程は、鉛直方向の位置だけではなく運動量にもよるため、位相空間上の中性子分布を用いる必要がある。そのため、ウィグナー関数を用いて位相空間上の準確率分布を考え、ガイド端の位相空間上の点とピクセル検出器上での検出位置の対応関係を、古典力学による軌跡で近似することで、検出器上の中性子分布を与えるモデルを立てた。量子状態の各準位の確率は、古典力学と同じエネルギー分布を持ち中性子ガイド内に入射した超冷中性子が、ガイドの中で床と天井によって取り除かれていく、という過程を定式化して計算を行った。実験データの中性子分布と、量子力学に基づく計算による分布はよく一致し、特にはじめの数個の分布の濃淡が一致していることが確認出来た。これは、明らかに、古典力学に基づいた計算からは得られない結果である。中性子分布を測定する精度は、0.7マイクロメートルであると評価した。これまでの中性子の分布を測定する精度は、検出器単体の分解能の数マイクロメートルに限られていたが、この研究によって、これを越えるサブミクロンの精度で測定することに世界で初めて成功した。
著者
浦野 東洋一
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科教育行政学研究室紀要 (ISSN:13421980)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.1-18, 2001-03-27

この裁判の事案は,群馬県立桐生工業高校で起きた事件です。原告である松本先生は,この桐生工業高校の卒業生です。大学を出て教師となり,幸運にもというべきか母校である桐生工業高校に赴任しました。おそらく専門が染色学であったからだと思いますが,人事異動を経験することなく,桐生工業高校で定年退職を迎えることになりました。つまり松本先生は,生徒として3年間,教師として37年間,あわせて40年間桐生工業高校に"在校"したことになります。教師としての最後の年,松本先生は求められて「40年の回想」と題する一文(後掲資料)を生徒会誌に寄稿しました。回想文は生徒会誌に2頁(A5判)にわたり掲載されました。その内容の大半は同校の昔の様子と今の様子の違い,自分の専門,教師としての活動や成長についての記述です。また,分量としては4分の1ぐらいだと思いますが,自分の人生の回想として,勤評反対闘争,安保闘争,平和運動などに参加したこと,そこで学び考えたことについても記述されています。1995年度末に刊行されたこの生徒会誌は,からくも卒業式に間に合い,生徒全員に配布されました。生徒会誌を読んだ校長は,おそらく日米安保条約に触れている部分などを不適当と判断したのでしょう,(1)松本先生の了解を得ることなく,(2)生徒会の組織である生徒会誌編集委員会に問題を投げかけることもなく,(3)職員会議にきちんと諮ることもなく,生徒会顧問の教師に対し,まだ配布されていない生徒会誌から「40年の回想」を削除するよう命じました。校長は当初,配布済の生徒会誌の回収も考えたようです。顧問の先生は抗議の意思を表明したようですが,校長からの「職務命令」であるということで,残っていた何百冊かの生徒会誌から「40年の回想」の頁を切り取るという作業をおこないました。そして4月に入学してきた桐生工業高校新一年生全員に,切り取られた生徒会誌が配布されました。そのことを知った松本先生が,校長に謝罪等を求めておこした裁判が,この事案です。
著者
塚田 美紀
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.347-355, 1998-03-26

This paper examines art education of Kakiyama Ban-yu, who studied in the Art School of Tokyo founded by Ernest Fenollosa and Okakura Tenshin, and contributed to the birth of "art pedagogy" in primary education. Revealing the composition of drawing and painting technics in his "art pedagogy", this paper illuminates the structure of his systematization of art skills. The conception of "art pedagogy" was raised by professors of Art School of Tokyo and Teachers School of Tokyo, to construct a systematic teaching method in general education by integrating the technics of Western art and Japanese traditional art. Kakiyama actually tried to explore his own method by organizing the technics not from the teacher's viewpoint but from student's one as art creator. This Kakiyama-method succeeded to those of his antecedents and resembled to those of his contemporaries much in contents of the technics. Nevertheless the way of organizing drawing and painting technics as art creator was unique, and at this point he should be regarded as a pioneer of art education in general education, and as an educator quite different from the mainstream of "art pedagogy".
著者
平田 郁恵
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本期間中には,回路素子として前期間に作製したトランジスタの動作特性の解明を行った.具体的には,自己組織化単分子膜の共吸着によって作製した自己組織化単分子膜(self-assembled monolayers; SAM)の表面形状と電位を測定し,トランジスタ特性の変化と比較した.また,共吸着されたSMA上の有機半導体の結晶構造の変化を観察した.まず,共吸着されたoctylphosphonic acid(HC8-PA)とperfluorooctylphosphonic acid(FC8-PA)の表面形状と電位をKFMによって観察した. FC8-PAの混合比であるχが大きくなるにつれ表面電位は平均的に上昇した.しきい値電圧の変化はビルトイン・ポテンシャルによって誘起される固定電荷をもとに考えるモデルに従うことがわかった.また,χが小さくなるにつれ,絶縁膜表面が平滑化されることがわかった.この結果は,SAM混合比と絶縁膜表面のトラップ密度との関係とも整合性がある.すなわち,FC8-PAの増加によって,表面の平坦性に起因するトラップ密度が減少したと考えられる.次に,共吸着したSAM表面に有機半導体であるdinaphtho[2,3-b:2’,3’-f]thieno[3,2-b]-thiophene(DNTT)を熱蒸着し,その結晶構造についてXRDを用いて観察した.その結果,混合比を変えることによって,特にb軸方向の結晶面間の増加が顕著となることがわかった.DNTT結晶でホール移動度について最も実効的であるのがa軸,次にb軸である.トランジスタとしての移動度の変化は,これに起因するものであると考えられる.
著者
谷口 将紀
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、戦後日本における価値変容を時系列的に分析する。経済発展は、直接民主政の安定をもたらすものではなく、市民文化の発達を媒介変数として相互関係にある。また、経済安定は人々の価値観を変え、物質主義的な価値に重きを置かない社会は低経済成長時代を迎えるという意味で、市民社会の価値観と経済もまた、相互関係にある。価値観研究は、現在に至るまでNPCなど新しい概念も生みながら、各国で繰り返し大規模比較調査が行われている、国際的な関心の高い研究分野である。短期間で大きな経済発展を遂げ、また新聞購読率が伝統的に高く、社会調査開始前に遡及した研究が可能な日本は、研究対象・方法の両面でもっとも本テーマに貢献しうるポジションにある。上記の問題意識に立脚して、本年度は以下の各項目について研究を行った。1.従来のワーキングペーパーを大幅に改訂の上、「戦後日本の価値観変化1945〜2000年--新聞社説を手がかりに」(小林良彰・任ヒョク=ひへん(火)に赤赤=伯編『市民社会における政治過程の日韓比較』慶應義塾大学出版会、2006年所収)として公刊した。同論文については、韓国語訳もまもなく刊行される予定である。2.これとは別に、英語論文"A Time Machine : New Evidence of Postmaterialist Value Change"を作成の上、米国・ワシントンDCで開催されたアメリカ政治学会(American Political Science Association)において研究発表を行った。3.学会発表・討論を通じて得られた知見をもとに、上記英語論文を改訂の上、現在海外の某学術雑誌に投稿中である。研究期間終了後速やかな公刊を期したい。以上の作業を通じ、国際比較を拡大させる一方で、研究開始時点以前に遡及できないという制約上従来不可能とされてきた時系列比較を可能ならしめたことにより、内外の価値観研究に新しい資料を提供できたものと思料する。
著者
上野川 修一 戸塚 護 八村 敏志 飴谷 章夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

アレルギーや自己免疫疾患など免疫系の異常で発症する疾患の激増は大きな社会問題となっており,その安全かつ有効な治療法の開発が熱望されている.本研究では,食品由来タンパク質・ペプチドおよびそのアミノ酸置換体を用い,これらの疾患をより根源的かつ安全に治療する方法の開発を目指した.1.基礎的知見として,アレルゲン,自己類似抗原に対するT・B細胞応答をマウスを用いて解析した.牛乳アレルギー患者に特異的なT・B細胞応答についても明らかにした.2.上記免疫疾患の抑制における抗原分子のアミノ酸置換体の利用について検討した.主要な牛乳アレルゲンであるβ-ラクトグロブリンの抗原構造を詳細に解析した.この知見をもとに抗原分子のアミノ酸置換体によるアレルゲン特異的免疫応答の抑制について検討し,その有効性を明らかにした.また,α_<s1>-カゼイン由来ペプチドのアミノ酸置換体によるCD8^+T細胞応答制御の可能性を明らかにした.3.上記免疫疾患の抑制における経口免疫寛容の利用について検討した.経口免疫寛容の誘導条件・機構を解析し,CD4^+T細胞,CD8^+T細胞およびB細胞の役割を明らかにした.また,抗原の投与量,投与条件と免疫寛容誘導の関係を明らかにした.さらに,T細胞抗原レセプタートランスジェニックマウスを用いて,経口抗原に対する免疫応答,腸管免疫系の応答を解析した.4.自己免疫疾患,アレルギーの新しい抑制法について検討した.アレルゲン,自己類似抗原由来ペプチドの投与による抑制法,抗T細胞応答を利用した抑制法の有効性を明らかにした.本研究で得た知見は,食品由来タンパク質・ペプチドおよびそのアミノ酸置換体によるアレルギー・自己免疫疾患の新規予防・治療法の開発のみならず,未だに不明な点の多い経口免疫寛容誘導機構,免疫系の抗原認識機構,および上記免疫疾患の発症機構の解明に大きく寄与すると確信する.
著者
寺田 悠紀
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究は、テヘラン現代美術館の設立(1977)と変遷を事例として調査し、近代の概念・施設と言われる「ミュージアム」(美術館)を通して、イランにおける「近代」の受容と反発について理解を深めることを目指している。また、公共空間に展示される美術品の内容の変遷に注目しながら、「美」という概念と社会政治的要因の関わりについて明らかにすることを目的としている。今年度得られた成果は以下である。今年度はイラン・イスラム共和国テヘランを訪れ、1)昨年度収集することが出来なかった雑誌等のアーカイブの収集と、ペルシア語の資料を精読し用語の使い方等についての分析をすること、2)イランにおける「ミュージアム」の形成を更に深く理解するため、美術館だけでなく他多数の博物館の展示内容にも注目することを計画していた。1)についてはテヘラン現代美術館の付属図書館、ホセイニーイェ・エルシャード図書館、マレク国立図書館と博物館、イラン文化遺産・手工芸・旅行業協会などの機関を訪れ、革命後の博物館について書かれた専門誌「ムーゼハー」をはじめとする政府の文化政策の変遷を明らかにするための関連文献を収集した。また、1979年のイラン革命前に刊行されていた雑誌「タマーシャー」のバックナンバーやシーラーズ芸術祭(1967年から1977年までペルセポリスにて開かれた祭典)のために特別発行された新聞を入手した。これらのペルシア語の資料は、革命前後の変化を明らかにするために重要だと考える。2)については、2012年に建設された聖なる防衛博物館(イラン革命とイランイラク戦争に焦点を当てた展示)や旧アメリカ大使館の内部に設けられた博物館など、政府の政治的メッセージが強く打ち出されている施設に現代美術作品が展示されるという最近の傾向を概観し、調査対象の美術館への理解が深まった。
著者
岩本 通弥 KIM H.-J. KIM H.-J 金 賢貞
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究「文化遺産ガバナンスと社会関係資本の構築と実践に関する民俗学的研究」の目的は、日本のローカル社会における綿密なフィールドワークに基づき、文化遺産に関連する政策の形成・実施・管理をめぐる多様な主体たちの実践を「文化遺産ガバナンス」というパースペクティブから分析するとともに、この社会的現象のダイナミズムが「社会関係資本」の構築にいかにつながっているのか、そのメカニズムのあり方を民俗学的に検討することである。具体的には、1)日本のローカル社会における「文化遺産ガバナンス」の実態の究明と、2)土着の文化遺産、地域固有の経験知と市民的公共性の構築の可能性の検討とに二分できる。以上の目的を達成するため、最初予定していたとおり、フィールドワーク地の埼玉県秩父市に居住地を移し(平成23年8月末)、以下に示す手順に従って現地調査を実施した。まず、平成23年度の4月から9月までのあいだ、第2次集中的現地調査(Second Intensive Fieldwork)を通して、秩父夜祭における中核的祭礼集団としての「中町」にフォーカスを合わせて主要なインフォーマントや、祭りの維持・管理におけるコアー・アクターたる人物を対象にインタビュー調査をした。ほかにも、地元の観光化を推進する行政主体として秩父市の産業観光部観光課や秩父観光協会や秩父商工会議所において聞き取り調査を行った。また、文化財行政のあり方を把握するために、秩父市の教育委員会文化財保護課についても同様に聞き取り調査を実施した。この一連の調査を通して、かなり規模の大きい秩父夜祭の伝承と維持・管理の体制がある程度明らかになったと考える。ほかにも、本研究における主要な方法論であり、かつ認識論的側面をなしている「社会関係資本」の構築の現状を考察するために、このような文化遺産ガバナンスに密接にかかわっている人々、とりわけ、中町などの地元住民たちが、土着の文化としての秩父夜祭の持続と管理以外にも別のネットワークを通して社会と関係を結んでいるのか、また、それが、当該地域社会における公共的生活をめぐる種々の情報の交換や共有、地域社会において生じるトラブルの解決のための協力・協調のネットワークを作り上げるのに、本研究において文化遺産ガバナンスと位置づけた秩父夜祭の伝承と維持・管理に関連する諸実践が役立っているのかを検討するため、地元の住人に焦点を当ててその人間関係や地域生活の実態を調べた。加えて、土着文化としての秩父夜祭とは直接的なかかわりを持たずとも、地域生活の質の向上や問題解決のためにアソシエーションを作って活動する人々のネットワークや実践のあり方をも調べるために秩父ボランティア交流会など、NPO団体についても調査を行った。次に、同年度の10月から翌年の2月まで第3次集中調査(Third Intensive Fieldwork)を実施し、以前の調査のフォローアップを図った。その結果、秩父夜祭の中核的祭礼集団ではなくても不可欠の参加集団であり、にも拘らず、常に周縁に位置づけられる秩父歌舞伎の伝承団体の正和会を新たに調査した。最後に、もともと平成24年度の3月にドイツ民俗学の現状を視察する調査を予定していたが、諸般の事情により中止した。
著者
永田 俊 WYATT Alexander WYATT Alex
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は、サンゴ礁に対する窒素や炭素の負荷機構としてこれまで見逃されてきた、粒子態有機物の寄与を明らかにし、サンゴ礁における物質動態と生態系維持機構に関する理解を深化することを目的とし、以下の研究を進めた。沖縄県八重山諸島の調査サイトにおいて、平成24年度に引き続き現地調査を実施した。具体的にはGPS搭載ブイを用い、礁内での海流に沿った各種生物地球学的パラメータ(水温、塩分、溶存酸素)の観測を行った。また、各種安定同位体トレーサの分析に供するための海水試料のサンプリングも行った。一方、人為影響の程度が異なるフィリピンのサンゴ礁を比較対象として調査を実施した。外洋水や河川水の流入に伴って輸送される有機物や栄養塩類の質や負荷規模が異なる定点を設定し、サンプリングと各態有機物・栄養塩類の分析を行うことで、サンゴ礁に対する各態有機物の負荷の概要を査定した。また、有機物や栄養塩類の安定同位体比の測定を進め、サンゴ礁内部の窒素循環を新たな同位体バイオマーカーを用いて解析する方法を検討した。また、サンゴ礁の生物生産に依存する高次栄養段階生物(脊椎動物)を指標生物として用い、その動物が有する同位体バイオマーカーを用いて、食物連鎖を通しての窒素伝達の機構を査定するための方法論を検討した。以上の結果から、粒子状有機物の動態が、サンゴ礁の生態系と生物地球化学的な循環の制御において重要な役割を果たしていることが示唆された。これらの成果を学会で公表した。
著者
辻井 潤一 米澤 明憲 田浦 健次朗 宮尾 祐介 松崎 拓也 狩野 芳伸 大田 朋子 SAETRE Rune 柴田 剛志 三輪 誠 PYYSALO SAMPO Mikael 金 進東 SAGAE Kenji SAGAE T. Alicia 王 向莉 綱川 隆司 原 忠義
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は、文解析研究で成功してきた手法、すなわち、巨大な文書集合を使った機械学習技術と記号処理アルゴリズムとを融合する手法を、意味・文脈・知識処理に適用することで、言語処理技術にブレークスルーをもたらすことを目標として研究を遂行した。この結果、(1)言語理論に基づく深い文解析の高速で高耐性なシステムの開発、(2)意味・知識処理のための大規模付記コーパス(GENIAコーパス)の構築と公開、(3)深い文解析の結果を用いた固有名、事象認識などの意味・知識処理手法の開発、(4)大規模なテキスト集合の意味・知識処理を行うためのクラウド処理用ソフトウェアシステムの開発、において世界水準の成果を上げた。(2)で構築されたGENIAコーパスは、生命科学分野でのテキストマイニング研究のための標準データ(Gold Standard)として、国際コンペティション(BioNLP09、BioNLP11)の訓練・テスト用のデータとして、採用された。また、(1)の研究成果と機械学習とを組み合わせた(3)の成果は、これらのコンペティションで高い成績を収めている。また、(1)と(4)の成果により、Medlineの論文抄録データベース(2千万件、2億超の文)からの事象認識と固有名認識を数日で完了できることを実証した。その成果は、意味処理に基づく知的な文献検索システム(MEDIE)として公開されている。
著者
小寺 彰 伊藤 一頼 塚原 弓 玉田 大 林 美香
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本プロジェクトは、現代国際法学において流布し国家責任条文草案でも前提とされている、あらゆる義務違反は責任を生じさせるという「一般法としての国家責任法」を観念し得るのかという問題に、歴史的・分野横断的観点から迫ってきた。本年度は、プロジェクトの集大成として、国家責任法の歴史、実定法としての国家責任法の評価に関わる報告及び総括を行う研究会を行った。第一に、「第一次大戦以前の国際法・国際法学における『責任』―国際法における国家責任法成立」と題する報告が行われ、19世紀以前には、正戦論において戦争の正当原因の一つとして賠償義務の存在が想定されていたこと、また、正戦論を前提としなくとも、慣習法たる責任法が戦争回避の手段として否定されていたわけではないことが確認され、国際法の国家責任法が成立したのは19世紀後半以降であるという従来の理解に修正を迫ることが出来た。また、19世紀の学説、実行共に、その適用対象を外国人損害に限定していたわけではなく、そうした観念は、むしろ戦間期に成立した可能性が指摘された。第二に、「国際法における緊急避難の考察」と題する報告が行われ、国家責任条文草案成立以前の実行における緊急避難法理には、権利として存在する「自衛型」と義務違反の存在を否定する「不可抗力型」のものが存在し、一般法を志向し二次規範として機能する条文草案上の緊急避難とは異なり、事案に応じて一次規範のレベルで機能していたことが指摘された。本プロジェクトによって、「一般法としての国家責任法」という観念が歴史的に一貫して採用されてきたわけではないこと、また、「責任」の意味や効果も個別の分野によって変わりうることが浮き彫りにされたことが大きな成果と言える。このことは、一般法としての国家責任法を想定すること自体検証を要することを意味し、条文草案の評価及び国家責任法の解釈論に大きな影響を与えるものである。
著者
長尾 桓 渡辺 建詞 冨川 伸二 三田 勲司 井上 純雄 杉本 久之
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

移植医療が現在直面する問題の1つにドナーの不足がある。すでに欧米ではドナー臓器の不足から移植を受けられないまま待機中に死亡してしまう患者が数多く出ている。この問題を解決する方策の1つとして異種移植、すなわちヒト以外からヒトへの移植が追究されている。しかし異種移植における免疫学的障害は大きく未だ動物実験の域を出ないのが現状である。今回の研究では大動物を用いて異種移植を行い、その長期生存を目指した。異種移植における免疫学的障害の最も大きいものは自然抗体の存在であり、その制御を如何に行うかが移植の成否にかかわる。筆者らは自ら開発した新しい吸着剤PC-1による自然抗体の吸着除去を試みたが、PC-1の吸着特異性に問題があり本法による抗体除去は困難であった。ついで既に確立した抗体除去法である血漿交換を行ったが、肝移植のような侵襲の大きい手術の前後に血漿交換を行うことは動物の循環動態を著しく悪化させ生存を難しくした。今後は吸着療法、血漿交換、免疫抑制剤の組合せによるより副作用が少なく、より効率のよい併用療法の検討が必要であろう。
著者
韋 冬
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

計測現場における計測精度の向上を図るためには、光周波数コムに直接リンクした長さ計測技術を開発する必要がある。光周波数コムを用いた長さ計測の精度を向上させるために不可欠な空気の揺らぎ補正を取り上げ、構築した光学システムを用いて空気の揺らぎによる誤差を補正する技術要件を検討し、高精度で絶対的長さを計測できる方法を用いて提案法の検証を目標に研究を進めた。