著者
末柄 豊
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

室町時代の中後期に活躍した飛鳥井雅親・雅康という兄弟を中心に、和歌と蹴鞠を家業とした同家の活動について史料を収集するとともに、その史料に関する基礎的な研究をおこなった。とくに、室町時代の公家日記における飛鳥井家の者の所見5000件以上を索引形式でまとめて公表した。また、室町時代の和歌史の史料として注目すべきものでありながら、従来文学研究者によって注目されることの少なかった諸史料について、史料紹介を行った。
著者
栗林 香織
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、膜タンパク質の機能解析のためにマイクロ・ナノ加工技術を用いることによりこれまで実現の不可能であった直径の揃ったジャイアントリポソームを効率的に作製し、操作するマイクロ流体デバイスを実現することである。そこで、本年度は,主に下記の項目について研究を行ってきた。パリレンシートの穴あきシートに金を蒸着し電極基板を作製し、基板上に脂質膜のパターンニングを行いそれぞれのパターンからからジャイアントリポソームを作成する方法を検討した。これまで作成されてきたジャイアントリポソームでは、リポソームは閉じた系であるため作成後にリポソーム内の溶液を変えることはできなかった。本方法では、作成されたリポソーム内の溶液を小穴を通して変換することが可能である。脂質のパターンニングは、パリレンリフト法を用いて行い、エレクトフォローメーション法により作成された脂質パターンから均一径のリポソームを作ることが可能になった。さらに、作成されたリポソーム内に直径が200nm-1μmのビーズを注入することができた。ビーズをDNAや試薬等に変えることでドラックデリパリーシステムや生物系の観察などの分野での応用が可能である。一般的にエレクトロフォーメーション法で作製されたリポソームは基板上に固定されており、リポソームを単独で使用することはできなかったが、本デバイスでは、基板の小穴から溶液を流すことにより、リポソームを切り離すことができた。
著者
北 潔 原田 繁春 三芳 秀人 渡邊 洋一 網野 比佐子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

我々は回虫などの寄生虫と宿主であるヒトのミトコンドリアを用いて酸素適応機構の解明を目的として研究を進めている。その結果、寄生虫ミトコンドリアにおいて多様な嫌気的呼吸鎖が機能している事が判って来たが、中でも回虫で見い出したNADH-フマル酸還元系は多くの寄生虫に存在し、宿主体内の環境で中心的な役割を果している事が明らかになった。この系は複合体I(NADH-ユビキノン還元酵素)、ロドキノンおよび複合体II(ロドキノール-フマル酸還元酵素:RQFR)の3成分から構成され、NADHから最終電子受容体であるフマル酸への電子伝達を触媒している。その生理的意義は嫌気的グルコース分解系の最終ステップとして、無酸素下でも複合体Iの共役部位を駆動する事によりATPを合成できる点にある。そこで本研究ではNADH-フマル酸還元系の分子構築とその生理機能の特徴を明らかにする目的で研究を行っている。本年度は回虫ミトコンドリアを用い、以下の結果を得た。1)複合体I(NADH-ユビキノン還元酵素)および複合体II(RQFR)の分子構築と電子伝達機能に関しては、複合体Iの精製を目的として可溶化条件とこれに続くカラムクロマトグラフィーの条件を検討し、最適な界面活性剤を見い出した。また複合体IIに関してはその結晶化を試み、再現性の良い結晶化条件を見い出した。この条件で得られた結晶は3Åを切る解像度を与え、その解析からFAD、〓-イオウクラスター、ヘムの補欠分子族の位置関係を決定する事ができた。これらの分子間の距離と配置はそれぞれロドキノールからフマル酸への複合体内での電子伝達を可能にするものであった。2)ロドキノンおよびユビキノンの生合成機構と生理的役割に関しては、水酸化を触媒するCLK-1について調べる目的で組み換えタンパク質を合成し、抗体を作成中である。3)生活環における呼吸酵素群の発現制御機構に関しては、ウサギを用いて感染後の第三期幼虫ミトコンドリアの呼吸鎖の変動を調べる系を確立した。
著者
棚部 一成 遠藤 一佳 佐々木 猛智 白井 厚太朗 伊庭 靖弘 守屋 和佳
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

氷室時代の現世と温室時代の白亜紀の軟体動物(貝類)を対象として、貝殻の成長縞解析と地球化学的分析を行い、海洋環境に対する生活史形質の応答様式を解析した。その結果、北西太平洋の貝類の個体としての寿命が100年以上と長く、全球規模での海洋環境変動の記録を貝殻に保存していることが明らかになった。また、保存のよい浮遊性有孔虫、底生有孔虫、貝類化石の酸素同位体比分析から、白亜紀後期の北米内陸海や北西大西洋の陸棚は温室期の白亜紀中期に比べてやや寒冷化し、低層水温には季節変動があったことが示唆された。また、これら海域の貝類は現世の温暖な海域の貝類と似た生活史形質を持っていたことがわかった。
著者
西野 嘉章
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

平成15年度に開始された本研究で、1910-1930年代に欧米で刊行されたアヴァンギャルド美術諸誌紙(雑誌・新聞・年鑑)379件について、邦訳名、表題原綴(含副題)、創刊者・編者・主筆・編集委員、発行地、発行者、発行年・月日、解題、参考文献の諸項目の書誌学的な記載を行うことができた。ただし、上記の年代、地域に収まらぬものの、内容的に関わりが深いと思われる文献についても、適宜選択の上でリストに加えることとした。また書誌解題とは別に、本研究のもうひとつの研究課題となった、イタリア未来派の伝播普及の問題については、イタリア国内における未来派出版物の書誌解題を行った上で、イタリア未来派の日本国内での受容様態について、詳細な編年と研究を行った。この後者については、森鴎外、高村光太郎、木村荘八、東郷青児、神原泰、平戸廉吉、柳瀬正夢、村山知義という、イタリア未来派受容の系譜を明らかにすることができ、また、大正初期から昭和初期にかけて公刊された日本近代詩のなかで、未来派領袖フィリッポ=トマーゾ・マリネッティの唱える「自由語」の造形的言語表現形式が受容され、展開されてきたのか、という問題についてその道筋を明らかにすることができた。従来の研究を縛ってきた造形と詩歌、文学史と美術史、海外と国内、欧文献と和文献といった対立的な枠組みを超えて、統合的・俯瞰的な視座から前衛芸術のグローバルな展開を顧みることができたというのが、本研究の最大の成果と結論づけることができる。上記の研究成果は、『平成15年度-平成17年度科学研究費補助金(萌芽研究)研究成果報告書』として刊行されると同時に、デジタル・テキスト情報としていつでも利用可能な状態にあり、研究期間中に蓄積された書影のデジタル画像情報と組み合わされ、CD-ROM版の資料集成(コーパス)として、機会を見て公刊したいと考えている。
著者
桑原 里紗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

近年頻発している地震の被害を教訓に,被災した建築物の復旧に要する費用などの修復性能,および被災した建築物に残存する耐震性能(残存耐震性能)をともに満足する合理的な設計手法の確立が重要な課題となっている。その中で,地震応答終了時の残留変位は構造物の耐震性能を把握する際の重要な指標の一つである。残留変位は,地震動の位相特性や構造物の非線形性に依存するため,従来は非線形地震応答解析により直接計算するか,あるいはあらかじめ異なる周期ごとに残留変位を求める残留変位スペクトルを用いるなどして推定するしかなかった。研究代表者は,地震動の位相特性のうちどのような因子が残留変位に影響を与えるのかについて解析的な検討を行い,また通常の弾性応答スペクトルに加えて,最大応答経験後にそれと符号を異にする最大値をプロットした応答スペクトルを新たに定義することにより,弾性応答スペクトルを用いた簡便な手法による残留変位の推定についての研究を進めている。本年度に実施した残留変位の推定における検討結果より,(1)正負最大ピーク(第1,第2ピーク)だけでなく,後続の第3ピークを用いた推定により格段の精度向上がみられること,また(2)既往の応答スペクトル法に,第2,第3ピークスペクトルが適応可能なこと,よって(3)PCなどを用いた解析によらなければ推定できなかった残留変位について,第2,第3ピークスペクトルと建物の耐力性能曲線を用いて,最大応答変位のみならず残留変位も推定可能であること,が示された。加えて,弾性応答スペクトルを用いた残留変位の推定手法を構造設計へ応用・展開させるべく,時刻歴応答解析同様の物理的意味を付与させた,新たなる簡便な残留変位推定方法の開発に取り組んでいる。
著者
三浦 正幸
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

カスパーゼは細胞死のメディエーターとして機能するシステインプロテアーゼであり、生体防御機構においても重要な役割を担うことが知られている。そこで、カスパーゼの活性化を可視化するツールとして、FRETを用いたインディケーター、SCAT3(Sensor for activated CAspases based on FRET)を発現するショウジョウバエ系統を作製した。ショウジョウバエの脂肪体は感染時に抗菌ペプチドを産生する器官として知られている。我々は、ショウジョウバエの遺伝学的手法(GAL4/UASシステム)を用いてショウジョウバエの脂肪体にSCAT3を発現させ、感染後のカスパーゼ活性検出を試みた。ショウジョウバエ腹部にE.coliをマイクロインジェクションした後に、時間経過毎に脂肪体を取り出し、単一細胞レペルでのカメパーゼ活性を観察した。その結果、E_coliの注入後30分の間において、脂肪体細胞の一部の細胞で、細胞死を誘導するのに十分なカスパーゼ活性が観察された。感染後の免疫担当細胞におけるカスパーゼ活性化動態の単一細胞レベルでの観察はこれまでに報告が無く、新しい知見である。カスパーゼ活性が観察されたのは一部の細胞だけではなく、それ以外の細胞においても、微弱な、あるいは一時的なカスパーゼ活性が検出された。この活性が、持続し細胞死を誘導するものかどうかについて、E_coli注入後6時間の脂肪体細胞を観察したところ、活性化が見られなかったことから、感染後初期に誘導された一時的な活性化であることが考えられ、E_coliの感染初期においてカスパーゼが何らかの生理機能を果たしていることが示唆された。
著者
三浦 篤
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は19世紀後半の日本とフランスにまたがる美術交流の実態を、双方向的な視野の下に三つの側面から総合的に解明しようと企てた。すなわち、第1段階として、日本美術からフランス美術への影響現象であるジャポニスム(日本趣味)を研究が進んでいないアカデミックなサロン絵画を中心に調査した。フィルマン=ジラールのような重要な画家の例を発掘したほか、オリエンタリズムの延長としての異国趣味的なジャポニスムが広く存在したことが明らかになった。他にアジアの寓意像、絵の中の文字、陶磁器についてもジャポニスムとの重要な関連性が見出された。第2段階として、アカデミックな画家の中でも好んで日本の美術工芸品を蒐集し、かつ日本近代洋画家たちの指導者でもあったラファエル・コランについて分析した。その結果、コランのジャポニスムは異国趣味とは異なり、印象派のような造形的なジャポニスムとも異質であることが分かった。春信、光琳、茶陶への趣味が物語るように、それは日本美術と本質的に共鳴する美意識に基づく特異なジャポニスムである。その意味で、コランが日本人の弟子を多く育てたことは決して偶然ではない。そして第3段階として、逆にフランス美術の日本美術への影響現象である、フランス留学した日本の洋画家たちにおけるアカデミスム絵画の摂取について研究した。山本芳翠や黒田清輝を始めとする渡航画家たちは、ジェローム、ボナ、コラン、ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ、バスティアン=ルパージュらから、アカデミスム、古典主義、自然主義など多様な絵画様式を摂取して帰国した。日本近代洋画の礎となった画家たちの個性的な受容の有り様が見えてきた。以上のように、従来は別個に研究されていた三つのテーマを相互に連関させながら調査することで、日仏美術交流史の重要な断面をダイナミックに浮かび上がらせることができた。研究に新たな1頁を付け加えることができたと確信する。
著者
池田 華子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

他者の運動が自身の運動に及ぼす影響を調査するために、他者の運動の観察による印象評定についての研究を更に進めた。更に複数の他者の動作を知覚する際の視覚的特性を検討した。平成23年度の本研究員の成果は以下の通りである。(1)受け渡し動作における丁寧さの評定:本研究では人が物体を他者に渡す際の渡し方について、丁寧さの印象に関わる要因について検討し、特に受け手の性別による違いについての影響を分析することを試みた。被験者は渡し手が丁寧に物体を差し出す場合と普通に物体を差し出す場合のビデオ映像を観察し、各動作について印象評定項目に回答した。印象評定項目得点の分析の結果、受け渡し動作について丁寧さの印象を判断するために男性は女性に比べると運動の特性や機能的側面により敏感で、女性ではその魅力といった対人的な特性を重視する傾向にあった。この成果は今年度開催の国際学会KEER2012において発表され、発表内容は同学会論文誌に掲載される予定である。(2)他者の歩行方向判断における周囲の人間の動作の影響の検討:集団の中で特定の他者の運動を特定する際の知覚の特性について、周辺視野で複数の物体が固まって提示されると個々の物体の同定が困難になるというクラウディング効果を利用して研究を行った。実験では歩行している人間の関節運動情報のみから構成されたバイオロジカルモーション(BM)刺激を複数体、周辺視野で観察させ、その中の1体の歩行方向を判断させた。その結果、観察者はターゲットの歩行方向を正しく回答することが困難になった。更に、ターゲットとなるBMの歩行方向の回答は、近接する妨害BM刺激の歩行方向の影響を受けた。以上から、人が他者の動作を認識する時には対象に近接する人間の動作から妨害を受けかつ動作の影響をも受けるということが示唆された。この成果は今年度開催の国際学会ECVP2012において発表される予定である。
著者
酒井 寿郎 川村 猛 油谷 浩幸 眞貝 洋一 桜井 武
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2010-04-01

生活習慣病発症には遺伝的素因とともに、環境因子が大きく関与する。環境からの刺激はDNAメチル化やヒストン修飾などのエピゲノムとして記憶される。我々は、脂肪細胞における研究から、エピゲノム修飾酵素が形成する新規のクロマチン構造を発見し、これが前駆脂肪細胞の未分化性を維持すること、また、寒冷刺激を感知するエピゲノム酵素複合体の発見し、環境変化に対する初期応答にはエピゲノム修飾酵素の翻訳後修飾が鍵となることを明らかにした。
著者
伊藤 洋一
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.39-66, 2006-01-31

EU憲法条約は,2005年5月29日のフランス国民投票による批准否決により,殆ど「死んだも同然」の状況になった.しかしながら,憲法条約に関するフランス国民投票論議は,ヨーロッパレヴェルにおける基本権保障につき,若干の教訓を残した.国民投票論議の中では,Convention方式の民主的正統性が,批准反対派により争われた.EU基本権憲章の「憲法化」は,憲法条約におけるEU法の優越規定新設と相まって,フランス憲法院に対して深刻な憲法問題を提起することとなった.一般論としては,ヨーロッパレヴェルでの基本権保障の強化は歓迎すべきことであるものの,加盟国の憲法裁判所にとっては,EU法と国内憲法規範との抵触の可能性ゆえに,常にそうであるとは限らないからである.本稿は,加盟国が各国の「憲法制定権力」を援用できる限り,たとえEU憲法条約が発効したとしても,基本権保障問題に関して,EU法の絶対的優越が達成され得ないであろうことを論じるものである.
著者
西野 嘉章
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、1910-40年代のドイツで、まったく世に出ることなく構成主義的なコラージュを制作し続けた芸術家カール・ワルドマンについて、現在までにその存在が確認されている作品の物性解析・図像分析を行い、それらの編年作業を通じて、両大戦間ヨーロッパ前衛芸術運動史のなかに、この芸術家を位置づけることを目指して始められたものであり、次のような暫定的所見を得るに至った。1)コラージュに関する文献を渉猟しても「ワルドマン」の確かな存在証明は得られなかった。研究者のあいだで「ワルドマン」捏造説が唱えられる所以である。そのため、国内に将来されているミクストメディア・コラージュ作品2点(個人蔵)について、セルロースと有機系素材のサンプルを抽出し、東京大学のタンデム加速器を用いて、放射性炭素の残量の解析を行った。結果、作品に使われている素材は戦前のものであり、真作としての必要条件を満たしていることは判明したものの、材料の固定に使われた有機媒材を分離抽出することが出来ず、真贋判定について結論を得るには至らなかった。2)図像学的な研究では、1930年代の左翼社会主義運動のなかで生み出された同時代のコラージュ作品に較べて、ナチス・ドイツを標的とする政治諷刺、さらには人種、わけてもアジア系人種や、公衆衛生、スポーツ祭典のテーマに、コラージュ作家としての特徴が発揮されており、まさにその点で他の同時代の美術家たちと一線を画していることが判った。とはいえ、1910年代のロシア構成主義、第一次大戦直後のベルリン・ダダ、さらに1920年代後半以降のソヴェト・ロシア生産主義、ポーランドの構成主義の影響を受けた「ワルドマン」作品群と、『ドイツ労働新聞』、『国際赤旗』、『世界の鏡』、『グラフ新報』、『眺望』、『ソ連邦建設』など、独仏露のグラフ雑誌の誌面を飾ったジョン・ハートフィールド、ウンボ、エル・リシツキー、ハンナ・ヘッヒら、同時代のコラージュ作家・フォトモンタージュ作家との、総体における近縁性には否定しがたいものがある。以上のことから、本研究は真贋論争について結論を保留するが、かりに捏造であったとしても、真性の素材を用いた、高い技術、深い学識に基づく贋作であると見なさねばならないことは間違いない。
著者
石田 浩 佐藤 博樹 苅谷 剛彦 本田 由紀 玄田 有史 永井 暁子 白波瀬 佐和子 佐藤 香 三輪 哲
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、若年者を対象としたパネル(追跡)調査を2007年から毎年実施した。同一の個人を何年にもわたり追跡して調査することにより、(1)学校から職場への移行、(2)初期のキャリア形成と転職、(3)離家と異性との交際・結婚、(4)意識・態度、価値観といった多様な側面から若年者のライフコースを総合的に捉え、その変化を跡付ける分析を行った。
著者
小塚 裕介
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は電気抵抗を測定することで、酸化亜鉛における二次元電子の金属状態から絶縁体状態への転移を観測することである。極低温中において酸化亜鉛二次元電子に強磁場を印加することで、電気抵抗が急激に増大し、金属絶縁体転移が観測された。しかしながら、この抵抗増大の前後でキャリア濃度を反映するホール抵抗に異常は見られず、量子ホール絶縁体と呼ばれる、高移動度の低キャリア濃度系に特徴的な状態が実現されていることが明らかとなった
著者
森本 淳平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

申請者は、生体の翻訳の機能で炭素-炭素結合を形成させることで、多様な構造を有するライブラリの構築およびスクリーニングをmRNAディスプレイ法によって可能とすることを目指した。初年度の前半でこの研究を追求したが達成には至らなかったため、側鎖に特殊な構造を有するアミノ酸が導入されたペプチドライブラリを構築・スクリーニングする、という研究へと方向転換し、初年度の後半および第2年度の研究を通してこれを達成した。本年度は、前年度の研究で得られたヒト脱アセチル化酵素SIRT2の阻害ペプチドをさらに深く評価する研究を行った。まず、SIRT2阻害ペプチドS2iL8およびS2iD7のいくつかの変異型を合成してSIRT2への結合能および阻害能を評価することで、これらペプチドの強力な結合能の構造的基盤を明らかとした。この結果は学術誌へ論文投稿し掲載された。また、本研究の基盤技術となるフレキシザイムというリボザイムについての総説も学術誌に掲載された。また、阻害ペプチドの分子構造の徹底的な改造を行なうことによって、IK^<Tac>TY(K^<Tac>=チオアセチルリシン)というペプチドを創出し、10μMで細胞内のSIRT1を阻害し、p53のアセチル化レベルを亢進させることに成功した。この成果は現在論文投稿準備中である。さらに、東京大学の濡木研究室との共同研究を通してSIRT2阻害ペプチS2iL5とSIRT2との共結晶構造の解明にも成功した。この結果から、in vitroでの活性評価の結果を裏付けるデータだけでなく、SIRT2の基質特異性に関わるような新たな知見も得られた。これら結晶構造解析の成果についても、現在論文投稿準備中である。このように、本年度の研究を通して、一報の論文掲載とさらに二報分の論文の研究成果をあげた。三年間の研究を通じて、当初の目的であった炭素-炭素結合を形成することはできなかったものの、特殊なペプチドライブラリの構築およびスクリーニング技術の発展に貢献し、興味深い構造を有する強力な阻害剤の獲得に成功した。
著者
竹内 郁雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

(1)相手の行動の観察を、その能力を判定できるエージェントを開発した。これは異種のエージェントが導入されたのに伴い、正しく異種エージェントに対応するために必要である。(2)2人または3人がやや長い時間連携するようなチームプレイを発動する短いかけ声を開発した。これは、これまでの反射的な行動を促すかけ声に対してより高度なチームの協調行動系列を促す、進化したかけ声である。(3)RoboCupサッカーシミュレーションの対外試合等で時折観察される、開発者の意図しないエージェントの不審な行動をどのように修正するかを検討した。その結果、エージェント内に自分の一連の行動を結果として評価するモジュール(エージェント内エージェント)を組み込んで、自己監視または自己評価させる方法を採用し、どの程度の効果が得られるかを確認する予備実験を行なった。エージェントの中にエージェントをもう1個置き、自己の異常行動コマンドを発行直前に検出し、それに対する応急措置を主エージェントに要請するとともに、異常行動をもたらした状況について開発者に詳しくレポートさせた。実験結果から、個々のエージェントの内省と、チームの協調行動としてのいわば群内省に関して、新しい研究方針を固めることができた。(4)3次元サッカーシミュレーションに対応するための研究を行なった。現在球形である選手を、人間のモデルとしてより自然な円柱としてモデル化する検討を行ない、物理シミュレーションと整合させる技法を開発した。
著者
大堀 研
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

地域デザインの一環としての環境政策の形成および展開過程を、岩手県葛巻町、福井県池田町を対象に社会学的・実証的に検討した。社会課程の相違点として、開発政策の有無など初期条件の違いにより、展開される政策内容に違いが出ることが明らかとなった。また、両町に共通の要素として、町の特性を意識した環境政策の展開、柔軟な住民参加手法の採用の二点を把握することができた。
著者
中山 幹康 RARIEYA Marie RARIEYA Marie Jocelyn
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究課題「持続的な開発と福祉に向けて:複合農業経営の新たな枠組み」の事例研究地域である西部ケニアのヴィクトリア湖流域に於いて,現地調査を実施すると共に,現地の関係機関を訪問し,情報を収集した.西部ケニアでは,従来観察されていた「大雨期」と「小雨期」のうち,近年では,本来は「小雨期」に該当する時期においても降雨が殆ど観察されないなど,気象の変化が観察されている.当該地域の農民は,そのような変化に対応すべく,各種の自助努力を試みている.人間の安全保障の観点からは,収入源を多様化し,特定の農業セクターあるいは作物に依存することに起因するリスクを軽減することが,賢明な対応と考えられる.そのために,当該地域における複合農業経営を推進し,気象状況の変化に適合し,リスクの低減を図ることが重要な課題になっている.設定した3つの事例地域(Vihiga District, Siaya District, Kisumu West District)において,土壌流出,害虫の蔓延,植物病虫害などの自然環境の悪化に加えて,資金提供メカニズムの欠如,市場へのアクセスの困難,インフラ整備の不足,情報へのアクセス不足などの社会的な条件が,気象条件の変化を克服し,円滑な農業経営を維持する上での障害となっていることが判明した.これらの制約要因には,農民の自助努力で克服可能な事柄も含まれるが,地方政府や中央政府による行政的な対応,あるいは国際社会による助力がその克服には不可欠な項目も少なからず存在し,従来的な「閉じた社会」の枠組みでは解決は困難であることが示唆された.
著者
石原 直 山口 浩司 割澤 伸一 ドロネー ジャン・ジャック 米谷 玲皇
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

21世紀の先端ハードウエア技術(先端ものつくり)の根幹を支えるナノテクノロジーは,ナノ構造が発現する新たな物性を利用して新しい"もの"を創造することが重要なポイントである.本研究では,ナノテク時代の機械工学「ナノメカニクス」を開拓することを目標に,三次元ナノメカニカル構造としてナノ振動子を取り上げ,振動子の設計法,三次元ナノ構造作製技術の開発,機械振動測定法の開発と共振特性の解明,およびそのセンシングデバイスへの応用などナノ振動子の創製とその機能化のための基盤技術の構築を進めた.