著者
安岡 正人 土田 義郎 平手 小太郎
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

近代文明の発展と共に、我々の身の廻りにインセンシブルな環境因子が生成され、様々な環境改変を生じ、人間を含む自然生態系に大きな影響を与えている。このような現状認識に立って、超音波や超低周波等の聴覚では直接捉えることのできない環境刺激の人体影響を、脳波、筋電、心拍、マイクロバイブレーションなどの生理量を検出することによって、明らかにするための基礎研究を進め、検出の可能性を確認できた。一方、情報化社会の申し子ともいうべき電磁波について、利用面のみならず環境因子としての視点から、既往の研究を調査し、問題の所在を明らかにした。それによれば居住環境における電磁波の実態、特に人体影響や建築空間、部位という側面では、ほとんど研究が行われていないことから、今回測定機器を導入して実測に着手した。本年度に得られた実績は、微々たるものであるが、今後継続的に建築環境の調査を進め、予測計算手法の確立につなげて行く予定である。また、人体影響についても前段の研究をベースとした被験者実験を進め、評価基準を見い出して行きたい。電磁環境については、日本建築学会に設置された安岡が主査の同名の小委員会で、広く、研究成果を持ち寄り、建築における電磁環境学の体系化を図り、諸外国との連携も深めている。これらの研究をスタートさせる上で、研究助成によって導入された装置による基礎的研究の寄与する処は大であった。
著者
石田 貴文
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

COS-7細胞での一過性発現と酵素免疫法によるcAMPアッセイの結果、ヒトでみつけた変異型は野生型よりも有意に低いcAMP産生能を示した。これらの結果から、野生型と変異型の分布頻度の差、そして機能的な差がヴェッダ、オセアニア人と他のアジア人との間に観察される皮膚色の相違の遺伝的背景であると考えられる。また、東北アジア人の間では非常に低い活性を示す変異が4種類同定された。この集団では、低頻度ではあるが金髪や非常に明るい皮膚色といった形質が確認されており、これら4種類の変異がこのような表現形と関連していると考えられる。スラウェシマカク7種は総じて黒い体毛色を呈するが、幾つかの種においては、体の全体あるいは一部分に著しい体毛色の明化が確認されている。このような体毛色の明化を示す種では、MC1Rの機能的に重要と予測されるアミノ酸置換が生じており、一方、著しい明化を示していない種ではこのようなアミノ酸置換は確認されなかった。テナガザルは種間、種内での体毛色多様性が著しく、性的二型が存在する種、性に関係なく多型的な種、そして単色な種が存在する。多型的な体毛色を示すシロテテナガザルについて、MC1Rのハプロタイプを決定した。その結果、MC1Rハプロタイプとシロテテナガザルの体色多様性との間に有意な関連性は見られなかった。しかし、in vitroにおける機能解析の結果、テナガザルのMC1Rは恒常的活性型に進化している可能性が示された。
著者
森元 庸介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

史料整理に注力した前2年度の成果に立脚し、今年度は、近世決疑論における藝術の位置づけについて、総括的な考察をおこなうことを主眼とした。その内容と意義は以下のごとくまとめられる。(1)藝術に対する寛解主義と厳格主義の対立は、一義的には道徳上の対立である。だが、この対立は、美学的な見地からするならば、作品を非実効的であるがゆえに安全とみなす「弱い」藝術観と、実効的であるがゆえに危険とみなす「強い」藝術観の対立として翻案される。(2)とりわけ前者、換言するなら藝術を形式主義的な相のもとで理解する態度について、思想史の通念は、それをもっぱら18世紀以降に成立したものとみなしてきたが、16-17世紀に全盛期を仰えた決疑論について精査することで、西洋における藝術観の変遷をめぐる時間的な見取りを再検討する必要を明らかにした。また、一般的には、上記の対立は、理念的には作品の間然することなき理解を前提する検閲という営為の逆説について再考をうながすと同時に、翻っては、表現の自由、さらには思想の自由が抱える消極性について一定の光を投げかけることにもなった。(3)また、本研究は、決疑論が依拠した法学的コーパス(主として教会法の領域)をつうじて、藝術の問題を法制史の文脈に位置づける道筋を実証的に示すとともに、中世に成立した法文書群の近世における持続的な効果を裏づけた点でも意義を有している。前2年の成果と併せ、以上の内容を、学会発表2点をつうじて公表した。
著者
玉井 克哉 川村 一郎
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

従来のマスメディアは、不特定多数に対する一方的な情報提供であり、かつ、運営のために莫大な資金を必要とするため、国民の意見を政府にフィードバックする点で一定の限界があったが、インターネットをはじめとするコンピュータ・ネットワークは双方向性を有するなどこれらの限界を克服する可能性を有している。また、電話など従来の通信手段に比べても様々な点で独自の優位性を持っている。このため、コンピュータ・ネットワークを政治的な活動に利用することは集団の意思形成に要する取引費用を削減し、国民の政治参加への道が大きく拓かれることが期待される。さらに、国民の政治的な意思決定の手段である選挙にもコンピュータ・ネットワークを活用した電子投票システムの導入が考えられる。電子投票システムは、(1)投票所を設けて投票及び開票手続を電子化する方式と、(2)投票所を設けずにネットワークの上で投票を行う方式とに大きく分けられる。(2)ネットワーク上で行う方式には、投票者及び開票者以外の第三者が投票者の本人確認を行うとともに投票の秘密を担保する方式と、当該第三者が本人確認を行い、投票者自身が投票の秘密を担保する方式が考えられる。これらの電子投票システムを実現するためには、投票の秘密を確保することと、選挙が公正に行われたことを担保することが重要な課題である。近年、欧米諸国のみならず日本においても、国や地方の重要な政策の決定に際し国民投票や住民投票を行うケースが増えている。電子投票システムの実現は投票や開票に要する経費や時間を大幅に削減することが期待できるため、国民投票や住民投票を行うことを極めて容易にするものである。しかしながら、このような直接投票の結果は世論操作の影響を受けやすいなどの問題点がかねてから指摘されており、電子投票の場合その傾向がさらに加速されるおそれがあると考えられる。
著者
谷垣 真理子 塩出 浩和 容 應萸 林 少陽 日野 みどり 神長 英輔 山本 博之 山本 博之 陳 広漢 毛 艶華 程 美宝 魏 志江 黄 紹倫 鄭 宇碩 ポール・バン ダイク 飯島 典子 小川 正樹 和仁 廉夫 崔 学松 内藤 理佳 八尾 祥平
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本プロジェクトは華南を起点とする華人ネットワークが北東アジアから東南アジアまでをどのように結びつけ、ヒト・モノ・金・情報の交流が行われているのかを検討した。本プロジェクトは北東アジアを視野に入れたことが特徴であり、現地調査を大きな柱とした。具体的には、北洋におけるコンブ貿易、北海道華僑社会、東南アジア華人の複合的アイデンティティ、広東省関元昌一族、マカオのハブ機能、珠江デルタにおける人材交流、台湾の客家文化運動、珠海の三竈島についての研究が実施された。この間、中国の厦門大学と中山大学、香港城市大学香港大学との研究交流が積極的に行われた。
著者
白髭 克彦 広田 亨 須谷 尚史 伊藤 武彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

出芽酵母、分裂酵母を用いた解析により、基本的な染色体情報解析システムのパイプラインは構築され、染色体の基本的な構造、染色体機能の制御、そしてその連携機構についていくつもの新しい発見があった。特に、本研究が契機となりひと染色体構造の解析技術を構築できた意義は大きい。興味深い発見につながったものとして、1)ヒトに於いて、ChIP-chip解析が可能となったこと、および、2)ヒトコヒーシンのChIP-chip解析から明らかとなったコヒーシンの転写に於ける機能の発見、があげられる。当初、本研究を開始した時点では、ヒト染色体でChIP-chip解析を行うことは、ゲノムの5割を超える繰り返し配列がPCRで増幅する際のバイアスとなるため不可能であった。そこで、この増幅法の検討を重ね、DNAをin vitro transcriptionにより、RNAとして直線的に増幅し、リピート配列によるバイアスを抑制することで、ヒト染色体構造もChIP-chip解析可能な系を構築することが出来た。さらに、この技術を用いて、コヒーシンについて、効率の良い染色体免疫沈降が可能な抗体を取得し、ヒト染色体上における局在解析を行った。その結果、染色体分配に必須の役割を持つコヒーシンがヒトではその機能とは独立にインシュレーターとして転写制御に機能していることが明らかとなった。
著者
廣瀬 憲雄
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度の研究目標は、特に隋代から宋代にかけて東アジア諸勢力間の外交関係として散見される「擬制親族関係」に注目して、東アジア地域の外交関係を検討することに加え、特別研究員としての研究成果全体をもとに、外交を通じた東アジア地域の連関を明らかにして、日本史を中心にした各国・各地域の歴史を、「東アジア」という地域の中に改めて位置付け直すことである。まず前者に関しては、以前に行った隋・唐代、および日本-渤海間の擬制親族関係についての予備的な検討をもとにして、時期を宋代にまで広げ、対象も中国王朝と西方・北方の諸勢力間や、日本-渤海間以外にも広げて擬制親族関係の事例を集積して、東アジア地域における実際の外交関係の全体像を明らかにした。その結果、従来説かれてきた日本・中国・朝鮮を中心とする、いわゆる「東アジア世界」に関しても、より広く中国の北方・西方を加えた「東部ユーラシア」という視点や、より狭く日本と朝鮮の類似性に注目するなど、複数の枠組を利用することで、より多様な理解が可能であることを提示した。また後者に関しては、宋代の外交文書・外交儀礼についての新たな研究を土台として、来る5月に歴史学研究会日本古代史部会において、「倭国・日本史と東部ユーラシア-6~13世紀における政治的連関再考-」と題する大会報告を行う機会を与えられた。当該報告では、従来「東アジア」という地域設定のもとに、西嶋定生・石母田正両氏の枠組で説明されてきた、7・8世紀を中心とする「東アジアの中の日本(史)」に対して、「東部ユーラシア」という新たな地域設定と、宋代を加えた新たな時期設定から再検討を加えていく。さらにこの作業を通じて、日本史も含めた広域の地域世界像についても言及していく予定である。最後に、今年度は中華人民共和国・北京大学中国古代史研究中心主催の国際シンポジウムに招かれ、本研究全体を通じた重要な検討課題である、日本-渤海関係の報告を行ったことを付記しておきたい。
著者
寺尾 美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

アメリカの内部告発者保護に関係した法制度につき、連邦法・州法、制定法・判例法、一般法・個別法につき、総合的考察を行いアメリカ法の特徴を明らかにしたとともに、アメリカにおいて内部告発者保護法制発達の社会的背景を探りつつ、内部告発者保護法制の目的や、内部告発に孕む諸種の問題点に関する考察も行った。
著者
西山 功一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

これまで血管内皮細胞にHLH転写因子Id1を過剰発現させることにより、増殖能、遊走能が増強され、in vitroおよびin vivoでの血管新生作用が亢進することを解明してきた。本研究においては、Id1の血管新生作用に関与する分子メカニズムに関し検討を行った。H18年度の研究において、1)マトリゲル上でのin vitro血管新生評価系において、血管形態形成過程ではId1は核から細胞質に局在を変化させ(核-細胞質移行)、2)この核-細胞質移行にはcAMP-protein kinase A (PKA)系にて制御されるCRM-1/exportinシステムが関与しており、3)Id1の5番目のセリンのリン酸化が重要である可能性があることを示した。これにより血管新生におけるId1の新規制御メカニズムの一つとして、血管形態形成過程にけるId1の上流の調節機構を見出し得た。平成19年度の研究においては、特に、Id1結合ターゲット分子、下流分子とその生理的意義に焦点を絞り研究を行った。その結果、1)マウス大動脈片のタイプ1コラーゲン内3次元培養系による血管新生評価系にて、新生血管内皮細胞におけるId1の核内発現強度は均一でなく、その発現には空間的周期性があることが解った。血管形成過程にてのこのような制御を受ける分子としてNotch/Hey経路が示されていた為、Id1とNotch/Hey経路のクロストークを推定し培養細胞系にて検討を行った結果、2)Id1はHLH転写因子Hey2を含めたいくつかの重要なNotch下流分子を負に制御していることが解った。3)さらに、その制御にはHey2の発現上昇が関与していた。これらの結果はId1とNotchシグナル経路のクロストークによる新規血管新生制御メカニズムの可能生を示唆するものである。また、Notch/Hey2経路は動脈内皮細胞分化にも重要であることが解っており、Id1が同経路を制御することで動静脈分化機構にも関与する可能生をも示唆するものであり大変興味深い知見であると考えられる。
著者
東畑 郁生 GRATCHEV Ivan Borisovich BORISOVICH Gratchev Ivan
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

近年の都市再開発では、従来存在していた工場などから廃棄物が地中に浸透して地盤汚染を起こしていることが、しばしば発見されている。この問題への対処としては、汚染物質の除去あるいは封じ込めが想定されてきた。環境的な視点に立つならば、このアプローチは妥当である。しかしそれに加え都市の再開発を考えるならば、地盤の剛性や支持力のような力学的性質が化学物質の浸透によってどうに変化するのか、という問題意識を欠くことができない。さらに、地球温暖化に伴って海水面上昇が議論され、電解質である塩水の浸透によって粘土地盤の地盤沈下の可能性も、考慮しなければならない。このような視点から本研究では、全国各地から粘性土のサンプルを集め、これに酸性流体や電解質流体を浸透させる装置を製作し、粘土の剛性や沈下などの力学的性質に起こる変化を測定した。まず酸性流体の影響を調べるため、中性およびpHの小さい流体を浸透させ、その後一次元圧縮実験を行なって粘土の持つ剛性を測定した。当初、酸性流体は粘土の圧縮性を高め、剛性を減少させると予想していた。しかし実際には剛性が増加する粘土と減少する粘土とが存在し、その原因としてモンモリロナイトのような粘土鉱物の含有量が想定された。すなわち酸性流体廃棄物の浸透によって地盤沈下を起こしやすい地盤とそうでない地盤とが存在する。次に電解質であるが、真水で飽和した粘土試験体に、海水程度の濃度の塩水を浸透させ、体積収縮を測定した。粘土鉱物間の流体のイオン濃度が上昇すると電気二重層が収縮して鉱物同士が接近し、体積収縮につながるものと予測していた。使用した粘土は東京下町の有楽町粘土であり、東京における海水面上昇の影響を想定した。実験結果によれば電解質の浸透は体積収縮をあまり起こさなかった。これは当該粘土が本来海水中で堆積したものであり、塩水の影響はすでに完了しているもの、と考えられる。
著者
高橋 進 元田 結花 安井 宏樹 小舘 尚文
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.政権交代の政治学の狙いは、主として2つあった。一つは戦後西欧諸国の政権交代の事例研究を実証的に行なうこと。2つめは、政権交代に関する政治理論を考察することであった。2.第1の目的については、「東京大学COE先進国における《政策システム》の創出」と協力し、試論的に考察した(本プロジェクトの研究分担者以外にも協力者も求めた)。その成果は、COEのOccasional Paper「政権交代の政治学」として刊行済みである。その後研究会を重ね、修正の後、今年度又は来年度に東京大学出版会から本として刊行される。扱う国は、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダであり、それに理論編が加わる予定である。3.2つ目の目標は、現在研究代表者である高橋 進が、その理論モデルを研究中であり、先の東京大学出版会から刊行予定の本に収録する。内容は、レジーム変動と政権交代の中間にあるセミ・レジーム変動といえる政権交代を抽出することにある。そのため分析レベルを3つに区別し、第1のレベルとして、政治的思潮の変化(例えばサッチャリズムから第3の道へ)がどのように生起するのかに焦点をあてる。第2のレベルとして政党システムの再編成を扱う(例えば日本の55年体制の崩壊とそれと同時に起きた政党システムの再編)、第3のレベルは政策の問題であり、与野党間の政策距離の違いが政権交代にどのような影響を与えるのかというのが具体的内容である。4.以上の研究に付随して、先のCOEとも協力して、COEのOccasional Paperとして「変調するヨーロッパ政治」を刊行。加えて、これもCOEと協力してEUに関するシンポジウムも開催(2005年9月)し、それもCOEのOccasional Paper, EU Symposium : The EU Constitutional Treaty and the Future of Projectを刊行した。〔以上〕
著者
深沢 克己 齊藤 寛海 黒木 英充 西川 杉子 堀井 優 勝田 俊輔 千葉 敏之 加藤 玄 踊 共二 宮野 裕 坂野 正則 辻 明日香 宮武 志郎 那須 敬 山本 大丙 藤崎 衛
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

当初の研究計画に即して、国際ワークショップと国際シンポジウムを3年連続で組織し、第一線で活躍する合計14名の研究者を世界各国から結集して、キリスト教諸宗派、イスラーム、ユダヤ教などを対象に、広域的な視野のもとで異宗教・異宗派間の関係を比較史的に研究した。これにより得られた共通認識をふまえて、研究者間の濃密な国際交流ネットワークを構築し、研究代表者を編集責任者として、全員の協力による共著出版の準備を進めることができた。
著者
野田 裕紀子 (村本 裕紀子)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

インフルエンザウイルスの最大の特徴は、ウイルスゲノムが8本のRNA分節にわかれていることである。しかし「8本にわかれたゲノムRNAをどのようなメカニズムでウイルス粒子内に取り込むのか?」というゲノムパッケージング機構の謎はほとんど明らかにされていなかった。これまで、インフルエンザウイルス粒子にゲノムRNAが取り込まれる際に、8種類の遺伝子分節間にパッケージングシグナルを介したなんらかの相互作用が存在することが示唆された。つまり、パッケージングシグナルが遺伝子分節間の相性の良し悪しに関与していると予想される。そこで本研究では、遺伝子分節間の相性の良し悪しを指標として、どの遺伝子分節同士が強く相互作用しているのかを明らかにすることを目的としている。ヒトインフルエンザウイルス由来もしくは鳥インフルエンザウイルス由来のパッケージングシグナルをRNA分節の両末端に持ち、その内側には実験室株の全翻訳領域を持った変異分節をそれぞれ作製し、変異分節1分節と実験室株遺伝子7分節からウイルスレスキューを試みたところ、NP遺伝子またはM遺伝子に変異を入れると、それがヒトウイルス由来の遺伝子であっても、鳥ウイルス由来の遺伝子であってもウイルスがレスキューできないことがわかった。NP遺伝子やM遺伝子はインフルエンザウイルス蛋白質のうち、もっとも発現量が多い蛋白質である。また、パッケージングシグナルはウイルス遺伝子のプロモーター領域・ターミネーター領域にまたがる領域である。したがって、パッケージングシグナルの変異(重複)により、蛋白質発現が影響された結果、ウイルスレスキューされないと考察できた。つまり、本研究において、パッケージングシグナルを重複させると、遺伝子によってはウイルス遺伝子として機能できないことが明らかになった。
著者
邑田 仁 東馬 哲雄 田中 伸幸 秋山 弘之 林 蘇娟 米倉 浩司 菅原 敬 根本 智行 永益 英敏 遊川 知久
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

ミャンマーに延べ6回18人を派遣し合計5282点の標本資料を採集した。その他地域から補足的に収集した標本、および従前の「南ヒマラヤの植物多様性」調査で収集した標本資料等を合わせて分子系統解析を含めた系統分類学的解析を行い、新分類群を含む多数のミャンマー新産植物を発見した。このうち45新産植物、1新属、6新種はすでに論文等で公表した。この結果南ヒマラヤ地域の植物相は日華区系の西端としての特徴を示すと同時にインド区系の東端やインドシナ区系の北西端としての性格をもっていることが再確認され, 区系地理学的境界領域としてのより精度の高い解析の必要があることが明らかとなった。
著者
板木 拓也
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度は,学振特別研究員の採用最終年度として,これまでの成果をまとめつつある.論文発表としては,第一著者,共著ふくめて7編の原稿を学会誌に投稿し,そのうち4編が受理された(3編については現在審査中).6月に島根で行われた古生物学会では,シンポジウム「日本海の生物相の変遷と環境変動〜過去,現在そして未来へ向けて」を共同企画し,その成果を特集号として学会の邦文誌「化石」に掲載予定である.このシンポジウムでは,これまでに十分に整理されていなかった鮮新世から更新世における日本海の生物相変化を総括し,新たな研究の発展性が期待された.また,まだ不足している試料およびデータの収集を行った.5月に秋田の男鹿半島で行った野外調査では,これまでデータが得られていなかった中新世および鮮新世の微化石(放散中・珪藻)試料を採取した.10月下旬〜11月上旬には,日本海と東シナ海の間にある対馬海峡からプランクトン(放散中・有孔虫)の試料を採取した.これらの調査で採取された試料の処理はほぼ終了し,現在データの解析を行っている.近い将来,これらの成果について論文を執筆する予定である.この他,6月には熊本大学で共同研究者との研究の打ち合わせを行い,また,熊本大学所有の最新の顕微鏡画像解析システムを用いて,微化石標本の写真撮影を行った.この顕微鏡写真は,学会発表などで既に用いられ,また現在執筆中の論文にも掲載される予定である.
著者
幸山 正 滝澤 始 出崎 真志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

気管支喘息基底膜の肥厚が喘息の病態に関わることが報告され、肺線維芽細胞の過剰反応の関与が示唆されている。老化がリモデリングにはたす役割の変化を明らかにするために、若年細胞としてはWI-38細胞のPDL (population doubling level) 23-27を、老化細胞としてPDL39-45を使用した。気管支喘息におけるエフェクター細胞の一つである肥満細胞から産生され、喘息の病態形成に重要とされるヒスタミンやPGD2の老化細胞に対する効果の変化を検討した。前年度はBoyden blind well chamberやGel Contraction法で老化細胞の遊走能、収縮能を検討したが、今年度は蛋白産生能について検討した。組織の細胞自身が産生するサイトカインに引き寄せられる、好中球、好酸球などの炎症細胞による末梢組織に対する効果はリモデリングを検討するうえで重要であることから、今回は老化線維芽細胞からのIL-8の産生能の違いについて若および老化細胞で比較検討した。老化細胞は若年細胞よりIL-8の産生能は低かった。しかしアレルギー炎症に関与するヒスタミンやPGD_2に対する反応には大きな差を認めなかった。これらのことから老化肺では線維化過程自体が減弱していることが示された。この研究から気管支喘息を含めリモデリングが病態形成に関わる疾患は老化に伴いその病勢は低下する可能性が示唆された。
著者
神田 秀樹 岩原 紳作 山下 友信 神作 裕之 藤田 友敬
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

消費者信用取引の規制のあり方は, 欧州や米国の規制がそうであるように, 商品やサービスの販売に伴う与信契約か単純な金銭の貸付かを問わず, 横断的・統一的に規制すべきである。その際, 私法的規制, 監督法上の規制および市場法的な観点から, それぞれの有効性と限界を常に意識しつつ, 統合的かつ公正な規制体系を構築するとともに, 法規制のみならず自主規制などの非法的規制との最適の組み合わせを探る必要がある。
著者
岩村 正彦 太田 匡彦 笠木 映里
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1.本研究は、地方公共団体(および地方レベルの公法人等)に焦点を当てて、医療制度、公的医療保険、公的扶助、社会福祉等の社会保障各領域に関する地方公共団体等の役割とその変容を分析し、地方公共団体等の社会保障に関する役割の構築について、法的に見て合理的といいうる方向性を模索するものである。2.本研究の柱のドイツ、フランス両国の公的医療保険法制、公的扶助法制および社会福祉法制(高齢者の介護サービス・障害者福祉を含む)について、その沿革・動向や近年を中心とした制度改革に関するわが国の既存の業績(図書、雑誌論文、各種資料)および前記両国の文献・資料を収集した。また、近年のわが国の公的医療保険法制、生活保護法制および社会福祉法制の政策・法制度の動きを跡づけるために、これらに関する図書・論文・資料等の収集作業を行った。3.ドイツ・フランス両国について現地での調査・資料収集を実施した。ドイツについては太田(研究分担者)が、フランスについては笠木(研究分担者)・永野仁美(研究協力者)が、資料収集および行政担当者、研究者等との面談を行った。4.収集した国内外の文献・資料などの整理、その一部のデジタル・データ化を行った。5地方公共団体(福岡県及び福岡県・北海道の市)を訪問し、医療制度・医療保険制度の改革への取り組み、生活保護、とりわけ自立支援プログラムに関する市の対応状況について、聞き取り調査をし、あわせて資料を収集した。6以上の研究の成果をもとに、研究代表者、研究分担者および研究協力者(永野)がそれぞれ論文・著書を執筆した。
著者
山下 英俊 蕪城 俊克 山本 禎子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

角膜の透明性維持のためには角膜内皮細胞及び上皮細胞の構造、機能が保たれていることが重要である。本研究では上記2種類の細胞の機能制御におけるサイトカイン、増殖因子の影響を検討するためにTGF-βスーパーファミリーの各因子及びその受容体の発現を観察した。角膜上皮、内皮両細胞ともに、TGF-β1、2、3を発現していた。さらに受容体としては、TGF-βI型受容体,II受容体、アクチビンI、IA型受容体,II受容体、骨形成因子(BMP)IA、IB型受容体,II受容体、ALK-1が発現しており、多くの因子によりその機能が多重に制御されていることが示唆された。角膜上皮細胞を剥離してその創傷治癒モデルをラット角膜で作成し上皮細胞の再生過程でのTGF-βスーパーファミリーの働きを検討したところ、上皮細胞が遊走、進展する際にはTGF-β1、2、3および受容体は発現しているが、上皮が創傷部を覆った時期には一時的に受容体の発現が低下し、上皮の層状化に際しては再び受容体が発現することが示された。これらのことより上皮創傷治癒過程においてTGF-βは初期の細胞遊走進展及び後期の上皮細胞の分化に関与することが示された。角膜内皮細胞は角膜透明性維持のためには主要な働きをしている。コンフルエントな条件ではG0/G1期で停止している。その制御メカニズムを検討した。細胞周期をG0/G1期からS期へと進行させる因子としてTGF-β1、2が有効でありアクチビンAは促進、抑制双方の作用が見られなかった。TGF-β1、2が細胞周期進行の作用機序としてはPDGFを介する二次的な作用であることが分かった。機能分子としての水及びイオンチャンネルのクローニングは牛角膜内皮細胞ライブラリーから現在塩素イオンチャンネルの一部フラグメントがPCR法を用いた研究から得られて、その全長を得るべく研究が進行している。角膜内皮細胞が何らかの因子を分泌する機能を有することが示唆されている。
著者
今泉 飛鳥
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、第二次世界大戦以前の東京府の機械関連工業を対象に、経済発展に産業集積の存在がもたらした効果とその変化を明らかにすることである。本年度は分析結果を博士論文等の形でまとめる計画であった。実際に11月末に博士論文を提出し、3月に学位の認定を受けた。今年度中の研究の具体的内容は主に以下の4点であり、すべて上記博士論文に収録されている。(1)先行研究のサーヴェイと研究枠組みの整理本研究の土台となる先行研究整理を行った。そこでは特に人文地理学の分野の研究を参考にしながら、空間経済学と近年の産業集積論双方に目を配り、集積地から集積内企業が受け取り得る効果を「集積のもたらすメリット」として総合的に整理した。比較的狭い範囲の産業集積内部に注目してきた従来の集積論を客観化することにより、産業集積と広域の工業分布や「都市化の経済」との関係を論じる足掛かりをも得ることができた。(2)産業集積の実態東京市芝区に存在した機械工場(大塚工場)の経営資料を用い、産業集積内に立地する企業がどのような取引ネットワークを構築していたかを明らかにした。この成果は4月と9月のコンファレンスにおいて報告した。また、1910年代に相次いだ東京における機械工業関連の組合の結成過程を分析し、産業集積との関連を考察した。(3)危機に際する集積の効果の働き方1920年代に開始された都市計画用途地域制を事例に、産業集積が突発的なショックや継続的な制約に対して示した反応の解明を通して集積のメリットの実証を試みた。この成果を『経営史学』に発表(掲載決定済)した。(4)長期的・全国的俯瞰1902年から35年の4冊の『工場通覧』を包括的にデータ化し、戦前期日本の産業立地とその決定要因を分析した。この結果は8月の国際経済史学会(於ユトレヒト)において報告した(なお、同様のデータを用いた共同研究2つにも参加し、現在論文を作成中である)。