著者
小塚 裕介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は酸化物薄膜のバルクにはない構造制御性を利用し、酸化物ヘテロ構造中に非自明な電子的・磁気的構造を実現し磁気輸送特性を用いてその起源を解明することである。本年度は、チタン酸ストロンチウム単結晶基板上にパルスレーザー堆積法を用いて二次元界面を作製し、界面での伝導特性を評価した。特に高磁場での磁気抵抗に注目し界面での電子の量子伝導性に注目した。まず、ドープされていないチタン酸ストロンチウム上に電子ドープチタン酸ストロンチウム薄膜を堆積し、最後にキャップ層としてドープされていないチタン酸ストロンチウムを堆積させた。この構造に対し電気抵抗の温度依存性を測定すると、非常に良い金属伝導を示し、さらに0.3K付近において超伝導を観測した。超伝導臨界磁場測定を行うことにより、ドープ層の厚さを変化させると、超伝導が二次元から三次元に転移していることがわかった。次に、高磁場を印加し磁気抵抗を測定すると、量子伝導を示唆するシュブニコフ・ドハース振動を観測された。さらに、試料を磁場に対して回転させてシュブニコフ・ドハース振動を測定すると、その周期は磁場の試料に垂直成分のみに依存しフェルミ面が二次元的であることを示している。このように超伝導を示す物質でその常伝導状態が高移動度二次元フェルミ面から成っている物質の観測は初めてである。以上の結果は、酸化物の多彩な物性を組み合わせてヘテロ構造を作製することによって可能となった。今回の成果は酸化物におけるメゾスコピック系という新しい分野の先駆的研究である。
著者
井伊 あかり
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度は研究をまり包括的かつ領域横断的なものとするために、問題意識の重なる他分野(歴史学、社会学、美術史、思想など)の文献を収集し、精読する作業を行った。ニューヨーク出張では、ヴィオネ作品に関しては2番目の規模を誇るコレクションを有すメトロポリタン美術館、および諸資料を所蔵するファッション工科大学(FIT)にて資料調査を行い、アメリカにおけるヴィオネ研究の現状を把握、自身の研究の参考とした。国内では関西に出張し、今春ヴィオネに関する展覧会を開催予定の神戸ファッション美術館、およびヴィオネ作品を数多く所有する京都服飾文化研究財団(KCI)にて調査を実施した。これらの資料調査で得たものを土台に論文執筆に取り組んだ(この作業は現在進行中である)。また執筆の作業と平行して、講演をする機会を複数得た。5月17日、IFI財団法人ファッション人材育成機構にて「マドレーヌ・ヴィオネ-身体とモード」という題目の発表を行った。マドレーヌ・ヴィオネの作品を、時代背景を考慮しつつ、おもに身体論の視点から分析するという内容のものである。これは本研究の主眼となるテーマである。さらにロレアル財団主催ロレアル賞連続ワークショップ2005(第1回「東京を色から読む」、11月24日)にて「東京ファッションの色」を発表、東京のストリート・ファッションを社会現象として読み解き、その特質を検証した。これは昨年刊行の著書『ファッション都市論』で展開した論をふまえたものである。またパネラーの森川嘉一郎氏(建築学者)、永山祐子氏(建築家)とともに東京という都市の独自性を色と言う切り口で分析するという内容のディスカッションを行った。
著者
鈴木 宏正
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究ではX線CT装置による実体計測技術をベースとした新しいエンジニアリングを実現するためのモデリング技術について研究している。特に、CTデータから物体の表面を表す3次元のポリゴンデータ(メッシュデータ)を生成する。このような処理を等値面抽出というが、平成15年度は、特に多媒質境界抽出手法を開発し、アルミ、鉄、空気の3媒質などの場合の多数の媒質が出会うところの非多様体を生成する手法を開発した。これは、CTデータから面貼りに必要な情報と領域を抽出する3次元の画像処理アルゴリズムと、それに対して面を生成するMarching-Cubeabilityという概念を創案し、新しいアルゴリズムを作った。16年度は薄板のCTデータから、その中立面ポリゴン生成機能を重点的に研究した。この中立面生成機能では、従来の等値面抽出法を適用することができないプレス部品のような板構造を扱う。そのために板の中立面に相当するボクセルからポリゴンを生成する方法を開発した。また、精度評価のための試験用サンプル部品を作成し、実際にCTデータを計測によって求めて、その評価を行った。その結果、我々の手法で作成された中立面は、マーチングキューブによって作成した表面メッシュとほぼ同等の精度を持つことが確認された。一方、薄板部品ではその強度が問題になる。そこで中立面に対して板厚も計算し、薄板の板厚分布を求める手法を提案した。また、より複雑な薄板構造物では、溶接によって複数の板が組み合わされる場合が多い。そのため、溶接部分を認識して、複数の部品に分解する方法を考案した。これによって溶接されている場合でも、それを複数の部材に分解して中立面を求めることができるようになった。
著者
重田 勝介
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、初中等・高等教育初任者教員の不安・孤独感やバーンアウトの緩和を目指すハイブリッド型対話支援システムを開発し評価するものである。そのために、初任者教員が日頃の教育研究の活動状況をオンラインで共有するSNSを活用し、オフラインでも情報交換や交流を行った。初中等教育初任者教員に対して、聞き取り調査やワークショップを実施し、教員用SNSの導入を行った。高等教育初任者教員について、平成21年度に実施した実践の評価を継続して行い、成果をまとめた論文が論文誌に掲載された。
著者
岡部 繁男
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

興奮性シナプスはシナプス後部側の細胞質構造として、樹状突起スパインとシナプス後肥厚部(PSD)を持つ。この二つの構造は興奮性シナプスの機能発現において重要である。生体内でのシナプス発達過程においてスパインとPSDがどのように形成され、また両者の形成過程にどのような関連があるのか、その詳細は明らかになっていない。本研究ではフィロポディアの形成、スパインの発達とPSDの動態を同時に個体内で観察することを目的とした。まず子宮内電気穿孔法を利用して蛍光蛋白質標識されたPSD分子を大脳皮質錐体細胞に発現させる系について検討し、PSD-95に比較して単一PSDからの蛍光シグナルが強いGFP-Homerlcをin vivo観察用の蛍光プローブとして選択した。GFP-Homer1cは培養細胞での分布と同様に細胞体と樹状突起に局在しクラスターを形成した。さらに成熟したマウス個体の大脳皮質ではGFP-Homer1cはスパインの頭部に局在した。以上の分布様式から、GFP-Homer1cはPSDの存在部位を示す蛍光プローブとして利用できることを確認した。次にGFP-Homer1c分子の大脳皮質錐体細胞の発達過程における変化を解析する目的で、GFP-Homer1c分子とDsRed分子を大脳皮質で発現させた幼弱なマウス(生後1-2週間)を対象として、両者の蛍光の同時励起を二光子顕微鏡により行った。大脳皮質浅層の6時間程度のタイムラプス画像を取得し、樹状突起から形成されるフィロポディア・スパイン構造を同定し、このような新規のフィロポディア・スパインにほぼ同時にGFP-Homer1c分子が集積することを確認した。PSDの集積のダイナミクスに関する結果は、我々が以前分散培養系で観察したスパインシナプス形成の時系列データに一致するものであり、個体レベルでもフィロポディアの樹状突起からの伸長が興奮性シナプス形成の初期段階であることが示された。
著者
高井 まどか
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008-04-01

本研究では、材料表面へのタンパク質の吸着とそれを介した細胞接着を、様々な材料表面を用い、水晶振動子マイクロバランス(QCM-D)法を用いて評価することで、初期接着挙動を解析するデバイス創製を目的とした。QCM-Dを用いることで、タンパク質が材料の吸着し細胞が接着する一連のプロセスを同一パラメータで解析することができた。また細胞接着密度の異なる接着細胞数では、接着している細胞数が多いと、吸着と伸展の挙動は検出されるが、リモデリングは観察されないという差異をQCM-Dで解析することができた。細胞と材料表面の接着挙動を動的に解析するデバイスとしてQCM-Dが適応できることを明らかにした。
著者
櫻井 捷海 三井 隆久
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、半導体レーザー(LD)をヘリウム温度にまで冷却し、電子緩和時間が非常に長くなった状態での超低電流でのレーザー発振を実現し、発振スペクトル解析、端子電圧の解析、および、発振光自体をプローブ光として半導体レーザー媒体(主としてGaAs、AlGaAs,AlGaInP系)のLD発振現象と低温物性の研究を行うことを目的としている。ヘリウム温度下で量子構造半導体レーザーに磁場を加え、メゾスコピック物理系と光の相互作用系として極低温の磁場下での半導体レーザー発振を見直すことによって、新しい物理が開けることを期待した。極低温でLDのV-I,P-I特性の磁場効果などの多数のパラメータを同時測定できるコンピューター制御の計測システムを製作し、実験した。AlGaInPの量子井戸構造LDで、励起電流を一定して、出力光を内部フォトダイオード(PD)で測定しながら、磁場掃引したところ、多くのLDで出力の増加する共鳴ピークを0.3-0.4T付近に観測した。共鳴の幅は4Kで0.1-0.15Tであり、温度上昇ともに広がり、20K程度で共鳴は消失する。この共鳴の磁場ではサイクロトロン共鳴周波数とモード間ビ-ト周波数とが等しい。結晶の対称性よりモード間ビ-ト電場が接合面に平行となる。また、量子井戸構造のためにサイクロトロン運動は接合面に閉じこめられる。磁場と接合面とのなす角に対する共鳴の依存性がこれらの事実から予想される形を示したので、非線形効果によるモード間ビ-トとサイクロトロン共鳴とが結合したモード同期現象の1つであると結論づけた。しかし、この結論は、本年2月の最終のだめ押しの発振前の低励起のLD実験でこの現象が見つかっり、さらに外部から光励起された弱励起LDとPDでも見つかり、覆された。また、低電駆動のLDの端子電圧Vが磁場に関した部分dV/dBにも共鳴的な振る舞いが観測された。これらの原因は今のところ不明であるが、この新現象の解明の実験を行っている。
著者
三宅 弘恵
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

動力学的な震源モデル(応力ベース)の特徴を生かした運動学的な震源モデル(すべり量ベース)の記述方法として「擬似動的震源モデル」が提案されている.擬似動的震源モデリングとは,震源における動的破壊計算で確認された理論式と経験式をもとに,最終すべり量・静的応力降下量・破壊エネルギー・破壊開始時刻・最大すべり速度・ライズタイム・強震動パルス幅といった断層破壊にかかわる一連のパラメータを,摩擦構成則にしたがう断層破壊の計算を行うことなく導出する方法である.平成16年度はM6.5,M7.0,M7.2の3つの地震規模に対して10ケースづつのシナリオ地震を想定し,擬似動的震源モデルの構築と広帯域強震動予測を行った.動的および擬似動的震源モデリングでは,破壊エネルギーの不均質性に基づいて断層パラメータが構築されるため,破壊開始点がアスペリティ内に位置する場合,大きなすべり速度と短いすべり継続時間を有する領域がアスペリティ端部に見られ,時に大振幅をもった鋭いパルス波が震源ごく近傍で生成される.このような地震波は,従来の運動学的震源モデルから想定される経験式を上回る偏差を示し,動的破壊過程に起因する極大地震動と考えることができる.本年度は,2004年新潟県中越地震や2003年イラン・バム地震などで得られた近年の大地震動成因の解明を目的として,極大地震動に関する研究に着手した.また,地震学的に興味深い現象として,Mw6.5-7.0クラスの断層から生成される地震動レベルは,Mw7.0-7.5クラスの断層から生成される地震動レベルよりも大きい(Somerville,2003)という,地震動パラドックスが挙げられる.本研究では,破壊エネルギーの地震モーメントのスケーリングにみられる地表断層地震と地中断層地震の違いに着目して,動力学的震源モデルに基づくすべり速度時間関数を構築し,地震動パラドックスを解明するための強震動予測手法のプロトタイプを提案した.
著者
廣野 喜幸 石井 則久 市野川 容孝 金森 修 森 修一 山邉 昭則 渡邊 日日 関谷 翔 高野 弘之 花岡 龍毅
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

国際比較の観点から、公衆衛生・医学研究に関する日本の医療政策の形成過程の特徴を明らかにするため、医学専門雑誌、審議会の議事録や裁判記録等の資料分析を中心に調査し、その成果を論文・口頭で発表した。また各年度、医学・医療行政の専門家に対してインタビュー形式の調査を実施した。調査を通じて積極的な意見交換を行いながら、日本の医療行政の仕組みやワクチン・インフルエンザ等の政策の歴史の把握、最新情報の収集に努めた。
著者
村上 新 北堀 和男 本村 昇 宮田 祐彰 高本 眞一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

JCCVSD(日本先天性心臓血管外科手術データベース)は2008年8月にweb-base登録を開始、2011年3月時点で参加施設数(希望を含む)は98施設、累積登録手術件数は1,1000件に達し、国内の主要施設はほぼ全て参加し、national databaseと評価されるまでに急速に成長した。医療の質向上に資する目的で、2008年~2009年に登録されたデータを解析しリスクモデルを作成、これに基づきrisk-adjustmentを行ったbench-mark reportを、2011年2月に千葉で開催された第41回日本心臓血管外科学会において、初期参加25施設に手渡し配布した。今後も同様のreportの配布を続けて行く予定である。2011年から、日本小児循環器インターベンション学会、以下JPIC、と日本成人先天性心疾患学会、以下JSACHDが、JCCVSDと同一のインターネット環境を用いたデータベース構築を希望し、現在準備を進めている。JCCVSD-JPIC-JSACHD DBの構築は、小児循環器領域の横断的・網羅的解析を可能とする世界初の試みを可能とする。また、対象の多くが小児であることより、フォロー・アップDB、或いはpatient identifierを用いた施設間医療情報の提供を視野に置いており、今後展開を予定する。
著者
猪木 慶治 ZWIRNER Fabi ALVAREZーGAUM ルイス VENEZIANO Ga ELLIS John 加藤 晃史 小川 格 川合 光 風間 洋一 江口 徹 NARAIN Kumar SCHELLEKENS バート ALTARELLI Gu MARTIN Andre JACOB Mauric ALVAREZ Gaum 北沢 良久
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

1.現在、素粒子物理学の中で最も重要な課題の一つに電弱相互作用の自発的対称性の破れの起源という問題がある。標準模型においてはSU(2)×U(1)ゲ-ジ対称性の破れは、素のヒッグス場によって起こるとされているが、本当に正しいかどうかの実験的な確証は得られていない。ゲ-ジ対称性の破れを調べるための鍵として、W_LW_L散乱(W_Lは縦波のW)の研究が重要と考えられる。それは高エネルギ-(E≫m_W)においては、W_Lが等価定理によって南部ーコ-ルドスト-ン(NG)ボソンのようにふるまうからである。標準模型においてはヒッグスの自己結合定数はヒッグス質量の2乗に比例するのでヒッグス粒子が1TeV以下に存在しなければ摂動論は適用できない。猪木は日笠(KEK)と協力して、W_LW_L散乱の分部波振巾を、ヒッグス粒子ドミナンスと破れたカイラル対称性に基づく低エネルギ-定理という一般的要請をつかって、ユニタリティ-を満たすように決定した。すなわち、W_LW_L散乱においてtー、uーチャネルにヒッグス粒子を交換することによってsーチャネルに同じ量子数をもったヒッグス粒子があらわれるという要請をおき、低エネルギ-定理をつかって、I=J=0振巾をヒッグス粒子の自己結合定数λのみであらわすことができた。そしてλ→小のときは標準模型に一致し、λ→大になると標準模型からのずれが大きくなることが分かった。このような理論的予測をLHC/SSC、更にはJLC等の加速器で調べることにより、標準模型をこえた理論をさぐるための突破口としたい。2.LEPの実験結果は、超対称性を持った理論が統一理論の候補として有望であることを示唆しているが、これまでの超対称理論の予言は、摂動の最低次の計算に基づいていた。Zwirner等は近似を進めて中性Higgs粒子の質量および混合角を1ーloopでのふく射補正まで計算し、LEP IおよびLEP IIでのHiggs粒子生成の可能性を分析した。3.Wittenは昨年度、2次元のブラックホ-ルのモデルが可解な共形場の理論の一種で記述される事を示した。こうして得られる2次元のブラックホ-ルは、中心にある特異点においても理論は整合的で破綻せず、特異点と事象の地平線を入れかえるduality変換をもつ、という特有の性質をもっている。2次元ブラックホ-ルを記述するゲ-ジ化されたWessーZuminoーWitten模型は、特異点付近で平坦なU(1)ゲ-ジ場を記述する位相的場の理論に近づく。江口はこの事情をより詳しくみるためにWessーZuminoーWitten模型を超対称化し、これを更にtwistして位相的場の理論を作りその性質を調べた。位相的場の理論はBRS不変性をもつために、経路積分がBRS変換の固定点からの寄与で支配される。ブラックホ-ルのモデルでBRS変換の固定点は中心の特異点に一致する。従って時空の特異点が位相的場の理論で書き表される事がわかった。4.Wittenによって始められた位相的な場の理論は、多様体の位相的構造を調べるための新しい強力な手段であるにとどまらず、2次元量子重力理論が共形不変性を持った位相的な場の理論とみなしうるという発見にともない、物理理論としても非常に重要な性格をおびてきている。通常位相的共形不変理論は、風間・鈴木モデルを代表とするN=2超共形不変理論から江口・梁のtwistingによってえられる。風間は最近、位相的共形代数の一般的構造を調べることにより、今まで知られていなかった新しい位相共形代数を見いだし、位相共形代数の枠を広げた。さらにこの代数が隠れたN=1超共形対称性をもった理論のtwistingにより得られることも示した。5.川合は福間(東大)、中山(KEK)と協力して2次元の重力理論を連続極限として持つようなランダム面の理論を考え、その母関数が満たすべきSchwingerーDyson方程式を調べた。その結果、2次元量子重力や紐の理論の背後にはW_∞という大きな対称性が隠されており、その帰結として、SchwingerーDyson方程式がVirasoro代数やW代数の形式的真空条件として統一的に記述されることがわかった。
著者
高森 昭光
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

第2種高温超伝導体バルクに生じる「ピン止め効果」を応用して浮上支持した永久磁石を参照振子とした、地震の回転成分を測定する回転地震計の研究開発を行った。実際にプロトタイプ回転地震計を製作し、各種ノイズの評価や実験室内で実際の回転地震波の試験的観測を行った。実験期間の制約から長期にわたる実際の観測所での観測は実施できなかったが、実験室内での試験観測によってほぼ目標の分解能を達成したことを確認できた。
著者
小長井 一男 東畑 郁生 清田 隆 池田 隆明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

2005年10月8日パキスタン・インド国境近くのカシミール山岳地でM7.6の地震が発生した。実数は9万人を超えると推測され、この地震がパキスタン社会に与えた影響が極めて深刻であることは言うまでもない。しかし同時にこの地震は、その後長期に継続する地形変化の引き金となり、被災地の復興に様々な問題を投げかけている。本年度で実施した研究の実績は主に以下の2点に集約される。(1)Hattian Ballahに出現した巨大な崩落土塊の変形については前年度までにをモンスーンの前後で精密GPSによる計測を行って、この土砂ダムの決壊にいたる懸念があり万が一の決壊時の流出解析を行い、この結果はState Earthquake Reconstruction & Rehabilitation Agency(SERRA)やMuzaffarabad市、そしてJICAにも報告されていた。この決壊は2010年2月9日に現実のものとなり、下流部に最高17m程度の洪水が押し寄せ30余りの家屋が流された。男子1名の犠牲者が報告されたが警戒していた住民の避難があったことが犠牲者を最小限に抑えたものと思われる。決壊に至った詳細を現地計測をもとにとりまとめ現地機関に報告するとともに、International Jopurnal "Landslides"にも2編の投稿を行っている(1篇は登載決定)。(2)カシミール地方の中心都市Muzaffarabad東側に南北に走る断層背面に露出したドロマイト混じりの斜面から流出する土砂はこれまでに谷沿いの家屋の多くを1階~2階レベルまで埋め尽くしていた。今年度はパキスタンが未曾有のモンスーン豪雨被害を受け、対象地域の様相は激変した。砂防堰堤の作られた沢とそうでない沢の被害の様相は大きく異なりこのような状況を調査し更なる対応への提言としてとりまとめている。
著者
中村 仁彦 山根 克 杉原 知道 岡田 昌史 関口 暁宣 大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2003

1.力学的情報処理理論力学敵情報処理を行うメカニズムの設計法として,多項式および物理的力学系を用いた手法を確立した.また,力学系の可塑性パラメータを導入し,その可塑性に基づく学習と発達のモデルを構築するとともに,力学的引き込み現象としてのコミュニケーションモデルを実現した.2.ミラーニューロンの数学モデル隠れマルコフモデル(HMM)を用いたミラーニューロン数学モデルとその計算法を確立し,HMMの多重階層化による行為の抽象化を実現した.また,常識データベースをもつ言語解析システムと多重階層化ミラーニューロンモデルとの結合を行った.3.ヒューマノイドロボットによる行為の受容と生成の実験従外力運動をするヒューマノイドロボットの試作を行い,人間動作計測に基づいて動作パターンを獲得して制御系を設計する手法を開発した.また,ヒューマノイドロボットと力学情報処理および言語解析システム,行動受容生成システムの結合実験を行った.4.人間の筋・骨格詳細モデルによる大規模センサリ・モータ系のシミュレーションモーションキャプチャデータに基づく筋張力の推定と動力学シミュレーションを行う手法を開発した.また,人間詳細モデルの動力学計算の並列計算による高速化を実現した.大規模センサリ・モータ系としてのヒューマンキデルシミュレータを開発し,力学的情報処理モデルとの結合を実現した.
著者
岡崎 寛徳
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本年はまず、大名の遊びを中心とした分析を進めた。特に鷹狩や花見・湯治、また武芸などについて、弘前藩津軽家や彦根藩井伊家を事例として取り上げた。また、論文3本と書評1本を発表する機会を得た。論文の1本目は、那須資徳に関するもので、旗本那須家の再興と交代寄合への昇格について分析を行った。そこでは実父津軽信政や幕府実力者柳沢吉保に対する運動が功を奏して叶ったことを明らかにした。相応の運動を展開すれば、限度はあるが、いつかは必ず再興や格が叶うという意識が当時の武家社会の底流にあったと考えられるのである。また、信政が江戸滞在中に運動が展開されていたことも注目に値する点であろう。論拠史料は主に津軽家文書と那須家文書を扱ったが、那須家文書は分析が進められていないばかりではなく、所在自体もあまり知られていない。2本目は旗本遠山金四郎家に関する論文である。前年度に名町奉行として有名な遠山左衛門尉景元に関する論文を発表しているが、これはその続編に相当する。景元の息子景纂と、孫の景彰について、安政二・三年の二年間を対象とした。安政二年は遠山家にとって激動の一年で、景元の死去に続き、景纂も江戸城内で倒れたままその日の内に死去してしまった。その跡目は景彰が相続したが、この年は江戸で安政大地震が起こり、遠山家も被害を受けている。論拠史料は大倉精神文化研究所所蔵の遠山家用人の日記が中心で、知行地のある上総国夷隅郡(現千葉県岬町)や下総国豊田郡(現茨城県下妻市)を訪れ、旧名主家の史料を調査・分析した。3本目は幕末の青年大名井伊直憲の食生活に着目したものである。彦根城博物館に現存する献立日記や周辺史料から、食生活と行動について分析を進めた。
著者
吉田 謙一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,静的な3次元シーンにおいて,全体として不自然にならないような非透視投影図を半自動的に生成するシステムを作成することである.この非透視投影図の歪みの知覚は,人間の投影図中の奥行き手がかりの知覚と関連性が深い.なぜならば,人間は奥行き手がかりを元に3次元シーンを復元し情報を読み取っているからである.そこで,本研究では,3次元シーン中の奥行き手がかりの配置と非透視投影図の歪みの知覚との関係性を,視覚心理学実験を通して調べて行き,その結果から得られた知見を利用した非透視投影図設計システムを作成した.昨年度は,相対的大きさ手がかりが線遠近法手がかりの配置に与える制限を調べる実験を行ってきた.本年度では,その実験の測定精度を上げるため,実験方法,解析方法の改良を行ってきた.さらに,線遠近法手がかりの配置から投影図の歪みを生成するアルゴリズムの改良を行い,より複雑なシーンについても適切な歪みが生成されるようになった.また,本システムによって生成された画像の注視点分布を計測することにより,その有効性を検証した.本システムを用いて生成した歪みを全体として不自然にならないように補正した画像の注視点分布は,補正を行わない画像と比べて,透視投影図に近い注視点分布が得られていることが確認できた.また,この評価実験を通して,逆に注視点分布からその注視点分布に見合った非透視投影図の歪みを推定するという新たな方向性を見出している.
著者
難波 謙二
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究では底沸点有機ハロゲン化物のうち金属の洗浄剤などとして用いられてきたトリクロロエチレン(TCE)の定量を行った。TCEは揮発性の発ガン性のある有機溶剤で,地下に浸透し,地層を汚染している場所がある事が知られている。この様な場所ではTCEが地下水から検出され,重大な問題となっている。TCEは工場排水や地下水等を通じて,河川・沿岸環境に流入している事が知られているため,堆積物の前に水中での分布をまず調べる事にした。分析装置としてはガスクロマチグラフ-FIDを用いた。溶存揮発性有機物の濃縮装置を作成したが,環境水に適用すると,メタンなど通常の炭化水素のピークによってTCEの検出が妨害される。これに対処するには,FIDに代えてBCDを検出器とし用いることがまず考えられるが,本研究では,ヘッドスペース法によって環境基準よりも二桁低いnM程度の濃度までは定量できることが分かったので,試水のヘッドスペースをFIDによって分析した。カラムはChromosorb AW-DMCS 60/80を用いた。夏期の浜名湖の湖央で水深別に採水し,測定を行った。その結果,TCEと保持時間が同じピークが現れ,20nMと定量された。また,鉛直的には2m程度の水深で最も高くなることが観察された。なお,TCEはメタン資化細菌によって分解されることが知られているので,メタン添加実験を行った。しかし,細菌の増殖はなく,TCEの分解は促進されなかった。浜名湖周辺には工場の立地もあるので,このTCEの由来を今後広範囲に水平的に調べていきたい。東京湾湾奥花見川河口付近で汚染地下水由来と思われる環境基準と同程度の数百nMのTCEが定常的に検出されている。海洋に近づくと濃度が低下する傾向があること,鉛直的には表層で低濃度になることから,表層では大気に拡散するほか紫外線による分解を受けているものと考えられる。
著者
保立 道久 林 譲 山家 浩樹 原田 正俊 田中 博美 末柄 豊
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

古文書学的な調査が相対的に遅れていた禅宗寺院文書について、寺院の歴史という観点からの古文書学研究と、古文書料紙の自然科学的研究の二つの要素をもって研究をすすめた。報告書は、第一部を大徳寺・鹿王院等の禅院の歴史、第二部を大徳寺文書を中心とした古文書学的研究、第三部を古文書料紙の物理的研究としてまとめた。また、本年開催の国際シンポジウム「禅宗史研究の諸課題と古文書」では、欧米の代表的な禅宗史研究者2名を交えた有益な議論を組織することができた。これらを通じ、当初の目的であった室町期国家の禅宗国家というべき様相の解明について、充実した研究を実現しえた。また、大徳寺の開山宗法妙超・一世徹翁義亨についても必要な研究をおさめることができた。かかるプランを構想できたのは、京都大徳寺の御理解によって文書原本を史料編纂所に借用し、詳細な調査が可能となったためである。大徳寺文書は、中世の禅宗寺院文書の中でも量質ともに一級のものであり、本調査をも条件として、本年3月に重要文化財に指定されたことも報告しておきたい。その調査の成果が、同文書の全詳細目録(報告書付録、590頁)であり、紙質調査を含む詳細な原本調査カードである。また、調査に際し、東京大学農学部磯貝明教授・江前敏晴助教授の協力をえて、200枚をこえる透過光画像を素材としてフーリエ変換画像解析による簀目本数計算を行ったこと、繊維顕微鏡画像を採取し澱粉など不純物の定量分析の方法を検討できたこと、それらにもとづく料紙分類論を展開できたことなども特筆したい。詳細は報告書を参照願いたいが、上記目録不掲載の情報についてもデータベースの形式で記録を残したので、可及的速やかに学界に提供するようにしたいと考えている(なお、当初の予定通り、『鹿王院文書』、『蔭涼軒日録』(2冊分)のフルテキストデータベースを作成したことも附言する)。
著者
上田 博人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

今回の研究の目的は,現代スペインの演劇作品の語彙総合コンコーダンスを完成させることにある.これは全部で12の冊子(1冊600頁)からなる大部のものであるが,すでに3冊は刊行されているので,残りの9冊を1年につき3冊ずつ刊行することとなった.平成6年度.スペイン現代演劇の30作品の総合コンコーダンスの第4分冊(E),第5分冊(F〜K),第6分冊(L〜M)を完成した.現在,他のコーパスによる分析資料との比較検討を行った.平成7年度.総合コンコーダンスの第7分冊(N〜O),第8分冊(P),第9分冊(Q〜R)を完成した.動詞活用形認識プログラムの開発に着手した.平成8年度.総合コンコーダンスの第10分冊(S),第11分冊(T〜U),第12分冊(V〜Z)を完成した.動詞活用形認識プログラムのバ-ジョン1を完成した.これまでのスペイン語研究の資料は,母国語話者の直感や面接方式のチェック,文学作品などの用例採集,そして一部の研究者によるフィールドワークに基づくものであった.近年コンピューターが言語研究に使用されるようになって,コーパス言語学という新しい方法が注目されるようになったが,コーパスそのものは個人の研究の範囲内に留まり,あまり公開されてこなかった.また,その規模も小さかったことも問題点として挙げられるだろう.この研究は現代スペインの30の演劇作品全体を扱い,50万語の言語コーパスと総合コンコーダンスを完成させるという規模の大きなものである.今回,科学研究費の助成によって完成したスペイン語言語資料な内外の研究者に供されて,今後のスペイン語の言語研究や辞書学の発展に寄与できるものと信じている.