著者
羽藤 英二 朝倉 康夫 山本 俊行 森川 高行 河野 浩之 倉内 慎也 張 峻屹 高見 淳史 井料 隆雅 佐々木 邦明 井上 亮
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

プローブ技術を援用したデータフュージョン理論による総合的行動調査の高度化に向けて、1)行動文脈の自動識別アルゴリズムの開発、2)プローブデータを基本とした交通調査・管制システムの開発、3)これらを組み込んだモビリティサービスの実装研究を行ってきた。時系列に同一個人の行動データの蓄積が可能なプローブ技術を用いた総合的行動調査の可能性を示すと同時に、様々な交通施策評価や交通管制の効率化に向けたプローブ技術とデータフュージョン理論の可能性を明らかにすることができた。特にセンサー情報を利用した行動判別アルゴリズムでSVMにAdaboostアルゴリズムを組み合わせることで、大幅な精度向上が可能になり、加速度センサーを有するスマートフォンによって95%以上の確率で交通行動の自動収集判別を可能にすることに成功した.こうした技術とPT調査を組み合わせた総合的な調査プラットフォームを構成することで,従前のワンショット型の交通調査からAlltheyear型の交通調査への移行と,総合的調査技術を用いた交通計画の可能性を示した.
著者
中野 貴文
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

二年間にわたって続けてきた消息的テキストの文学史的な位置つげを明らかにする研究のまとめとして、消息的テキストの中心である『徒然草』の文学史的性格を闡明した。これまで論じてきた通り、『徒然草』の序段から三十数段までのいわゆる「第一部」には、「身ぬ世の人へ宛てた消息」という性格が濃厚であった。加えて、幾つかの章段からは、『源氏物語』、及びその強い影響下に成立した中世の王朝物語の類と非常によく似た表現・美意職が看取された。具体的に言えば、「第一部」には閑居の理想を説いた第五段や晩秋の美を説いた第十一段など、『源氏物語』の中でも「賢木」から「須磨」にかけての光源氏を彷彿とさせる章段が散見する。これは兼好が、失脚し閑居において無聊を箪で慰める源氏の姿を借りる(したがって著名な序段の「つれづれ」も、ある種の擬態・ポーズと見るべきであろう)ことで、『徒然草』という文学史的に特異なテキストを書き進める根拠としたためであると思われる。『徒然草』「第一部」の内容は、兼好固有の思想として即時的に理解されるのではなく、むしろこのような執筆姿勢によって規定されたものとして把握されるべきなのである。以上の内容をまとめた論文を『日本文学』に投稿し、二〇一〇年六月号に掲載されることとなった。『徒然草』は、「書く」という行為の次元において『源氏物語』と密接につながっており、さらに同時代の物語群とも強い関連を有している。同論文は、従来は指摘されることの少なかった古典テキストと『徒然草』との影響関係を解明したことによって、中世文学史の見直しの契機と成り得るものと確信する。また、共著『大学生のための文学レッスン古典編』を上梓し、『徒然草』の文学的性格を広く世に問うことにも貢献した。(733字)
著者
辻 宏一郎
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

大気大循環モデル(AGCM)で解像できる重力波の運動量フラックスが、熱帯域下部成層圏において東西方向に非対称な分布をしている原因について調べた。東半球の正の運動量フラックスは、夏季インドモンスーンによる強い平均の東風シアーとの相互作用によって東向き伝播の重力波が生成されることで出来ていた。西半球での負の運動量フラックスは、平均風と波の相互作用よりむしろ、太平洋や大西洋における大規模な(1000km-)cloud clusterの伝播方向に大きな東西非対称性があることが原因と考えられた。西進する雲クラスターが東進するものに比べ卓越しており、この西進する雲と、西向き伝播の重力波の間に強い関係性があると考えられる。以上の結果については、2004年度春季気象学会で発表を行った。さらに、論文として現在投稿中である。また、より長い周期を持つ波動についても同様の解析を行った。1980年から1999年まで20年分のECMWFデータを用いた統計的解析を行った。大気の変動成分を3日以下、3日から10日、10日以上の3成分に分け、各成分毎に運動量フラックスの地理的分布及び季節変化を調べた。どの成分においても、東半球において正の運動量フラックスが卓越していた。3日以下成分では、上部対流圏における、モンスーンによる東風が強い地域で正の運動量フラックスが卓越していて、AGCMにおける重力波分布と矛盾しなかった。3日から10日周期成分では、正の運動量フラックス分布はWheeler and Kiladis(1998)に見られるケルビン波の活動度分布と似ており、西半球まで正の値が広がっていた。10日以上周期成分では、赤道域を中心とする正の運動量フラックスが南北方向にも広がっており、季節内振動の影響が示唆された。
著者
宮崎 雄三
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究では昨年度に引き続き、2001年春に行われたNASA航空機観測キャンペーンTRACE-Pで研究員自身が測定を行った窒素酸化物の組成データや、他の研究グループから提供される大気成分データを用いることで、窒素酸化物の収支について解析を行った。その結果、西太平洋域の大気境界層(高度0-2km)及び下部自由対流圏(高度2-6km)で観測された総窒素酸化物(NO_y)は個々に測定された気相の窒素酸化物成分の総和と比べて系統的に10-20%高く、考えうる気相成分以外の成分がNO_y測定へ寄与していることが示唆された。そこで、同時測定された微小モードの硝酸エアロゾルと、この差を詳細に比較した。その結果、NO_y測定器が微小モードの硝酸エアロゾルを検出していたことが明らかになり、そのほとんどが硝酸アンモニウムの形態で存在していたと推定された。NO_y測定器による硝酸エアロゾルの直接測定は過去の航空機観測では報告されておらず、本研究による報告が初めてである。これらの結果は硝酸の大気中における寿命、さらには対流圏オゾンやエアロゾルの収支を考える上で非常に重要である。さらに他の物質との相関解析や後方流跡線解析から、東南アジアでのバイオマス燃焼と中国での化石燃料の燃焼が、微小モード硝酸エアロゾルの主要なソースであることが明らかになつた。微小モード硝酸エアロゾルのNO_yへの寄与は高度0-4kmで最も大きく、10-20%を占めたことが明らかになった。また、航空機搭載型の二酸化窒素(NO_2)測定器の高精度化のための室内予備案験を行った。具体的には、測定時の干渉成分除去や冷却等によるNO_2光解離システムの安定化を行った。その結果、測定の不確定性を18%以下、検出下限を6pptv(体積混合比1兆分の6)までに抑えることに成功し、航空機観測におけるNO_2のより高精度での測定が実現可能になった。
著者
坪木 和久
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本課題では日本海上に発生したポーラーロウについて、数値実験を行なった。また、総観場の特徴、降水系のレーダーから見た特徴を調べた。より解像度の高いモデルにより日本海西部に発生したポーラーロウについて数値実験を行ない、その詳細な構造を調べた。解像度をあげることにより、ポーラーロウの発生した収束帯の詳細な構造が見られた。この収束帯は大陸東岸にある山体によって形成されたものであるが、収束帯上には正の渦度と負の渦度を持つ直径100km程度の渦が列状にならんだ構造が見られた。ポーラーロウはそのほぼ南端に発達し、大きな正の渦度を持っていた。日本海西部のポーラーロウについては傾圧性の他、海面からの顕熱・潜熱による加熱が擾乱のエネルギー源になっていること、北海道西岸のものについてはこれらだけでなく上空にある寒冷渦が下層のポーラーロウとカップリングしていることなどが明らかになった。カナダ東岸のラブラドル海に発生するポーラーロウについても数値実験を行なった。この数値実験にはまず総観規模の低気圧をシミュレートすることが重要で、その擾乱のサブシステムとしてポーラーロウが発生することが明らかになった。数値実験でシミュレートされたポーラーロウは上空の寒冷渦の下にあり、北海道西岸のポーラーロウとよく似た特徴を持つものであることが明らかになった。日本海上のポーラーロウの数値実験については、比較的良く現実を再現するものが得られた。これは日本付近のデータが豊富にあることが結果を良くしていると考えられた。これらから日本海上のポーラーロウについてはその構造が、かなり明らかにされてきた。一方で、カナダ東岸のものについては、数値実験によりポーラーロウに近い物は再現できたが、初期値を変えると発生しなかったり、現実のものほど強いものが再現されなかったりで、初期値・境界値の与え方に問題が残った。特に初期値の初期化において発散場が必要異常に弱められる点が問題と思われる。これらを解決するために非断熱加熱を初期に取り入れるための改良を行なった。これを観測された事例に適用しさらにシミュレーションをおこなう予定である。
著者
木村 龍治 坪木 和久 中村 晃三 新野 宏 浅井 冨雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本課題の重要な実績として、梅雨期の集中豪雨をもたらしたメソ降水系のリトリ-バルと数値実験を行ないその構造と維持機構を明らかにしたことと、関東平野の豪雨をもたらしたレインバンドの発生機構を明らかにしたことが挙げられる。1988年7月に実施された梅雨末期集中豪雨の特別観測期間中、梅雨前線に伴ったレインバンドが九州を通過し、その内部の風と降水のデータがドップラーレーダーのデュアルモード観測により得られた。このデータにリトリ-バル法を適用することによりレインバンドの熱力学的構造を調べ、維持機構を明らかにした。これにより対流圏中層から入り込む乾燥空気がメソβ降水系を形成維持する上において重要であった。またこの結果を2次元の非静力学モデルを用いて数値実験により検証したところ、この結果を支持する結果が得られた。さらに3次元の数値モデルを用いて降水系を再現し、その詳細な構造を明らかにした。関東平野において発生したメソ降水系のデータ収集とその解析を行なった。1992年4月22日、温帯低気圧の通過に伴い関東平野で細長いメソスケールの降雨帯が発生した。その主な特徴は、弧状の連続した壁雲の急速な発達により降雨帯が形成された点で、他の例に見られるような多くの孤立対流セルの並んだ降雨帯とは異なるものであった。この降雨帯は、それ自身に比べてはるかに広く弱い降雨域の南端に発達したもので、Bluesteinand Jain(1985)の分類では"embedded-areal-type"に属するものであった。最終年度には、メソ降水系の中でも特に梅雨前線に伴うメソβスケールの降水系について、平成8年6月27日から7月12日まで、北緯30度46.8分、東経130度16.4分に位置する鹿児島県三島村硫黄島で観測を行った。この観測期間中には気象研究所、名古屋大学大気水圏科学研究所、九州大学理学部、通信総合研究所など他の研究期間も同時に観測をしており、結果として大規模な観測網を展開したことになった。これらの研究機関の間ではワークショップを開きデータ交換も行なわれた。
著者
新野 宏 伊賀 啓太 柳瀬 亘 伊賀 啓太 柳瀬 亘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

傾圧性と積雲対流に伴う凝結加熱の両方がその発達に重要な役割を演ずるハイブリッド低気圧の実態と構造及び力学を事例解析、線形安定性解析、数値実験により調べた。その結果、梅雨前線上に生ずるメソαスケールの低気圧や冬季日本海を含む高緯度の海洋上にに発生するポーラーロウ、日本付近に豪雨をもたらす温帯低気圧などの低気圧の特性や力学が環境場の構造や凝結加熱によりどのように変化するかが明らかになった。
著者
岩坪 威 富田 泰輔
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究において、我々はプレセニリン(PS)を触媒サブユニットとするγセクレターゼ複合体の構成成分と形成機構の分子細胞生物学的研究を総合的に行った。γセクレターゼ複合体の必須構成因子としては、研究開始直前に蛋白化学的解析によりnicastrin(NCT)が見出され、2年度の平成14年、線虫を用いた遺伝学的スクリーニングによりAPH-1,PEN-2が同定された。しかしこれら3つのコファクター蛋白質の個々の機能は明らかでなかった。申請者らは主としてショウジョウバエ細胞を用い、RNAi法を駆使して、APH-1ならびにNCTがγセクレターゼ複合体の安定化、PEN-2が最終的な活性化を担うこと、ならびにPS, NCT, APH-1,PEN-2の4者がγセクレターゼの必須成分であることを示し(Takasugi et al. Nature 422:438-441,2003)、γセクレターゼの形成・作用機構解明の研究領域をリードする成果を挙げることができた。また有機合成化学者(福山透教授ら)との共同研究によりDAPTをプロトタイプとした低分子のγセクレターゼ阻害薬リード化合物の創製をも手がけた。特筆すべきこととして、非ステロイド系抗炎症薬sulindac sulfideがγ42切断を優位に阻害するγセクレターゼ阻害剤であることを実証した。これらの研究から、Aβ、特に凝集・蓄積性の高いAβ42分子種の生成機構が明らかになり、その産生を特異的に阻害することによりADの最初期過程を阻止・遅延させる予防・治療薬の開発が実現されるものと期待される。また発生・分化に重要なNotch,癌転移に関与するCD44などのI型膜蛋白に共通に生じる"膜内蛋白切断"の分子機構の解明につながる成果も得られた。
著者
高杉 展正
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

家族性アルツハイマー病(FAD)病因遺伝子presenilin(PS)の変異によりADが発症する機序として、アミロイドとして蓄積性の高いAβ42ペプチドの産生亢進が報告され、ADの根本的治療法の創薬ターゲットとして注目されている。PSの正常機能については不明な点が多いが、PSはβアミロイド前駆体蛋白(βAPP)や細胞分化に重要な役割を果たすNotch受容体の膜内配列切断を行う新規アスパルチルプロテアーゼγ-secretaseの活性サブユニットである可能性が示唆されている。これまでに我々は、断片化したPSは安定化され、高分子量複合体を形成すること、この複合体が活性型γ-secretaseの本態であることを明らかにしてきた。私はγ-secretaseの分子的実態を明らかにすることを目的として、分子遺伝学的解析法の確立されているショウジョウバエを実験系として用い、ショウジョウバエプレセニリン(Psn)の解析を行った。ショウジョウバエ由来シュナイダー(S2)細胞において内因性Psnは断片化、安定化を受け高分子量複合体を形成しており、S2細胞にβAPPのC末端断片(C100)を発現させるとAβが産生され、Psnがγ-secretaseとしての活性を持つことを明らかにした。一方マウス由来N2a細胞にPsnを発現させた場合にも、哺乳類PSと同様に安定化、高分子量複合体を形成し、γ-secretase活性を示した。これらの結果はPSの安定化、高分子量複合体形成機構が遺伝的に保存されており、S2細胞及びショウジョウバエPsnを用いた系がγ-secretase活性を評価するモデルとして有用であることを示している。現在このS2細胞を利用した実験系により、γ-セクレターゼの新たな構成因子候補として同定されたNicastrin、Aph-1、Pen-2について解析している。
著者
桜井 万里子 橋場 弦 師尾 晶子 長谷川 岳男 佐藤 昇 逸身 喜一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

古代ギリシア世界、とりわけポリス市民共同体において、前古典期までに成立、発展してきた社会規範と公共性概念に関して、その歴史的発展の様相を明らかにするとともに、古典期におけるそれらのあり方、とりわけ公的領域と私的領域の関係性を、法や宗教など諸側面から浮かび上がらせた。
著者
李 廷秀 浅見 泰司 高木 廣文 下光 輝一 梅崎 昌裕 山内 太郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、国内で初めて客観的な物理的環境指標による居住地域環境が人々の身体活動行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。研究初年度の文献研究の結果、複数地域の複数集団を対象とすること、居住地域環境因子としては客観的、主観的な種々の因子についての検討が必要であること、身体活動については各種構成要素(移動・余暇・総身体活動)を包括的に網羅した検討が必要であることが明らかになった。身体活動に影響を及ぼす可能性のある居住地域環境の評価法としては、物理的環境をGIS(Geographic Information System)を用いた客観的な方法による実測で評価する方法と、住民の主観的認知指標調査法によって評価する方法を提案することができた。作成したGISデータベースによって、地域環境指標(世帯数、道路総延長、土地利用状況など)を対象者ごとに数値化することが可能であった。住民側の環境認知を評価する質問紙としてはAbbreviated Neighborhood Environment Walkability Scale(ANEWS)日本語版を作成し、国際比較も可能とした。住民の日常身体活動量は加速度計、歩数計等を用いた客観的な測定と、身体活動量調査票(International Physical Activity Questionnaire)による方法を用いて、その妥当性を検討した。文化的・社会的背景の異なる国内地域として、都心部1ヶ所、地方都市2ヶ所において、身体活動を推進する物理的環境要因について検討した。居住地域環境と身体活動との関連は、地域や性別による違いがみられた。住民の身体活動を推進する都市基盤整備には、地域の特性を活かした進め方が必要と考えられた。さらに、個人の行動パターンを時間、位置、身体活動レベルの3つの側面から関連づけて分析するために、小型GPS(汎地球測位システム)と加速度計を同時に装着し、GISとともに3つのデータを統合する方法を提案した。今後はこのシステムを利用することで都市の土地利用分類ごとの身体活動パターンの特徴を明らかにし、健康増進につながる都市空間創造の基礎データを蓄積することが可能になる。
著者
ホーンズ シーラ 丹治 愛 丹治 陽子 アルヴィ 宮本なほ子 矢口 祐人 土田 映子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

2001年度-04年度までの科学研究費(基盤B「19世紀末英米文学における都市の表象に関する新歴史主義的研究」)の成果をもとに、英米におけるユートピアニズムに関するテクストと実践を研究することを目的とした.海外の研究者らと共同して、文化地理学、空間理論、マテリアル・カルチャーなどの知見を援用しながら、ユートピアニズムの表象を政治批評的に研究することで、この英米の思想史における重要な概念を、きわめて国際的・学際的な視座で考察することができた.
著者
安田 一郎 日比谷 紀之 大島 慶一郎 川崎 康寛 渡辺 豊
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

H19年度においては、昨年度に引き続きロシア船を傭船し、約1週間(2007年8月下旬から9月上旬)にわたり千島列島海域の乱流計を用いた乱流直接観測を行うことができた。本年度観測では、昨年度機器の故障により十分な深さまで観測ができなかったブッソル海況西水道において1日連続観測を行うことができた。また、深い混合が予想されたブッソル海況東水道の1点、昨年度オホーツク海側で実施したウルップ海況太平洋側の3点、及び、ムシル海況4点で1日連続観測を行ったほか、重要な観測点で乱流・CTD観測を行うことができた。これらの観測により、千島列島海域には、一般的な中深層での乱流強度の約1万倍にも及ぶ1000cm2/secを越える鉛直拡散が起きていることが実証された。一方、1日の中でも潮汐流に応じて乱流強度は大きく変化すること、また、場所ごとに大きく変化することが明らかとなった。今後、さらに観測を行うとともに、長期観測データやモデルなどを用いてこの海域全体の寄与を明らかにしてゆく必要があることもわかった。また、これら乱流の直接観測データとCTDで取得された密度の鉛直方向の逆転から得られた間接的に乱流強度を比較した結果、乱流強度1桁の誤差範囲で間接的に乱流強度を見積もることができる手法を開発することができた。さらに、木の年輪から得られた長期気候指標北太平洋10年振動指数PDOに有意な18.6年潮汐振動周期を見出し、潮汐振動と気候との位相関係を明らかにした。これにより、日周潮汐の強い時期に、赤道域ではラニーニャ傾向、日本東方海域では高温、アリューシャン低気圧は弱い傾向になることがあきらかとなった。また、千島列島付近の日周潮汐が強い時期に表層の層厚が薄くなり、それが日本南岸まで伝搬することに関連して、本州南岸沿岸海域の栄養塩が上昇する傾向があることが明らかとなった。このように、千島列島付近および亜寒帯海域の潮汐混合は、広く北太平洋に大きな影響を与えていることが示唆された。
著者
小野 靖 河森 栄一郎 小野 靖
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

最終年度である本年度は、レーザー誘起蛍光(LIF)に用いる高速波長掃引(RAFS)色素レーザーの実用可能性の検証を行った。また、高速光強度計測系及びモノクロメーター系を構築し、東京大学球状トカマク装置UTSTにおいてプラズマ流速計測を試みた。レーザーパルス1ショットで流速ベクトル計測を行う場合、波長掃引の時間が必要なこと、プラズマイオンの蛍光の寿命等の理由により、RAFS色素レーザーのパルス幅は長いことが望ましい。そこで、色素レーザーを励起するNd-YAGレーザーの長パルス化を、Qスイッチのオフアライメントにより行った。また、レーザーエネルギーとパルス幅の計測を行い、計算から見積もった、LIFに必要なエネルギーと比較した。その結果、長パルス化は、目標値100nsに対し20-30nsが限界であることがわかった。そのため今回は、レーザーパルス幅は長くせず、色素レーザー内蔵の回折格子の角度制御をレーザーのショットパイショットで行うことによる波長掃引とした。UTSTにおいて、ポロイダル流速計測用高速光計測系及びトロイダル流速計測系を構築し、ワッシャーガン生成プラズモイド、オーミック生成トカマクに対して流速計測を試みた。トロイダル流速計測精度は、音速の1/2~1/3程度であった。結論として、LIFに用いる波長掃引レーザーでは、時間分解能は落ちるが、ショットバイショット計測(現状で〜数十Hz)で行う方がよいこと、色素レーザーの代わりにダイオードレーザーを用いる選択もありうることがいえる。RAFSレーザーで、シングルショットでの波長スキャンも可能だが(PZT駆動エタロンで波長掃引速度は達成可能)、波長モニタ、メンテナンス等に問題が多い空間二次元トロイダル流速分布の導出は本手法で十分可能である。ただし、レーザーの迷光の除去が完了せず、ポロイダル流速の導出に対する評価までには至らなかった。
著者
宮下 陽子 (2009) 関口 陽子 (2007-2008)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

申請者は研究実施計画に基づき、以下の研究を実施した。現代トルコの右派民族政党である民族主義者行動党(MHP)の組織とイデオロギーに関する研究を前年度及び前々年度に行い、主に論文の形で発表してきたが、今年度はMHPと思想的傾向は類似しつつも国家政党として長らくトルコを支配してきた共和人民党(CHP)を研究対象とした。その際、CHPのイデオロギーにおけるナショナリズム認識の変化はやはり既に確認したため、そのイデオロギー変化を実施した党エリートの変遷の有無について今年は確認し、学会発表の形で発表した。発表では、党イデオロギー変化の起こった時代、同時並行して党幹部の顔ぶれにも明確な変化が起こっていたこと、それは明らかに党内の権力闘争に起因することを明らかにした。前々年に行った党イデオロギーに関する研究成果と併せて、党内の権力闘争が党イデオロギーの変化に便乗し、党幹部の変化をもたらしたこと、それが第二共和制下での政党再編に繋がったと結論付けた。年度末に行った海外調査ではトルコ国外(主に中央ユーラシア諸国)における団体の活動に関する新聞や雑誌記事の収集、刊行物の購入を目的とする資料収集をイスタンブル市にて行った。これらの資料から、90年代以降国外での諸団体の活動が活発化したこと、それらは学校の開校や企業進出といった民間団体の活動に拠るところが大きいことが判明した。また、中でもイスラーム色の強さが特徴であることが分かった。
著者
真鍋 陸太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度は、1つの共通するインターネット上の地図を複数の団体が使用でき、必要に応じて複数の団体の情報、すなわち異なるテーマの情報を重ね合わせて表示して議論できるようなシステムとした(=18年度成果)、インターネット上の双方向・開放型の地理情報システムである「カキコまっぷ」(以下、新カキコまっぷ)を、複数の団体で試用して、システムの意義・課題を検討した。具体的には、東京都23区全域を対象とするベースマップ(地図)を用意し、子育て支援関連の情報を発信している「ママパパぶりっじ(せたがや子育てネット)」、世田谷区若林地区でまちづくり活動をおこなっている「若林マップを作ろう!」プロジェクト、東京山手線程度の広さを対象として自転車に関する情報交換をおこなっている「東京バイカーズ」の3つの既存のカキコまっぷ使用団体の情報を「新カキコまっぷ」に再掲載し、さらに範囲全域を対象とした「何でも投稿」、文京区本郷地区を対象とした「本郷マップ」の2つの新しいレイヤー(=テーマ)も設定し、東京23区を対象とした多層型のインターネット地図型掲示板の運用実験をおこなった。結論として次の3点が明らかとなった。1点目は趣味的な自転車とベビーカーといった日常では同じ場面で議論することが少ないテーマが1つの地図上に掲示され投稿者が相互の情報に触れることで特定の場所・事象に関してこれまでには発想しづらかった新しい観点からの考察が可能となった。2点目は、対象範囲が共通でテーマが異なるインターネット地図掲示板を想定して研究を進めたが、個別テーマを扱う団体にとっては他の情報に触れたいという動機が低く、本システムに対する満足度は高くなかった。また、3点目として、使用できる地図の範囲は東京23区全域であったが、個別団体が扱う範囲はそれぞれ異なることから、システム利用初期に表示される地理的範囲の設定についての自由度が課題となった。
著者
酒井 寿郎 田中 十志也 川村 猛
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

脂肪細胞分化において、分化誘導のマスターレギュレータPPARγが分化を完成させるメカニズムの一端として、ヒストン修飾酵素の発現を制御し、エピジェネティックな制御機構を担うことを解明した。また、Wntが脂肪細胞分化を抑制する機構として、核内受容体COUP-TFIIの転写を促進し、これがPPARγの転写調節領域に結合し、ヒストン脱アセチル化複合体を介してPPARγ発現を抑制するメカニズムを解明した。
著者
金道 浩一 長田 俊人 徳永 将史 大道 英二 網塚 浩 海老原 孝雄 北澤 英明 杉山 清寛
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

非破壊100T領域でのスピン科学を展開するために、マグネットの開発を行った。新たなマグネットにより研究が進展したテーマは、「強磁場ESRおよびNMR」、「SPring-8における放射光X線を用いた実験」と「J-PARCにおけるパルス中性子源を用いた実験」である。また、非破壊100T発生および超ロングパルス磁場発生のためのモデルコイルのテスト実験に成功し、実用型のマグネットの製作が始まっている。
著者
大沼 保昭
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

平成20年度は、平成19年度の活動内容を踏まえ、過去3年間の共同研究によって得られた共通の理解を前提としつつ、個別報告及び討論を中心に活動を行った。各個別報告の報告者及びテーマは以下のとおりである。(1)垣内恵美子氏(政策研究大学院大学)「文化遺産の便益評価-誰がどのように保護するべきか-」(4月7日)(2)一寸木英多良氏(国際交流基金企画評価部)「国際文化交流事業に関する評価手法研究の現状と展望について-韓国及びドイツにおける定量・定性的評価調査の事例をもとに-」(5月26日)(3)中川勉氏(外務省広報文化交流部文化交流課長)「外務省・文化外交の現状と課題」(6月27日)(4)篠原初枝氏(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)「文化遺産レジームの史的変遷-何から何を保護するのか-」(9月1日)(5)立松美也子氏(山形大学人文学部法経政策学科)「紛争下における文化財保護の国際法」(11月28日)(6)中村美帆氏(東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究専攻博士課程)「文献購読(Lyndel V. Prott and Patrick J. O'Keefe, "` Cultural Heritage' or ` Cultural Propery' ? ")」(12月16日)。(7)稲木徹氏(中央大学大学院法学研究科公法専攻博士課程)「『国際文化法』を構想する諸説について」(2月24日)。以上のような専門の研究者・実務家による個別法告および討論によって、現行文化遺産保護体制の具体的諸問題がさらに明確化するとともに、現行制度の諸問題に対して具体的な制度設計の指針や政策面での提言を与える基礎となる学際的な理論的研究の現状について共通の理解をさらに深めることができた。以上の研究成果は、今後予定される公表作業にとって極めて重要な意義を有するであろうと思われる。