著者
山里 純一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

琉球王国時代、久米村の蔡家(具志家)における冠婚葬祭等に関する家のしきたりを、1736年に11世の蔡文溥がまとめたものが『四本堂家礼』である。原本は失われているが、各地に全文および一部が写本として残っている。本研究ではそうした『四本堂家礼』の写本間の文字の異同を確認しながら、研究テキスト化を図った。
著者
大森 保 藤村 弘行
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

サンゴ礁における炭酸系変動の時系列観測により、瀬底島サンゴ群集は二酸化炭素濃度=945ppmvに達すると石灰化速度がゼロになること、および、アラゴナイト飽和度が1(平衡状態)となる結果が得られた。IPCC報告書の数値予測モデルによれば、早ければ21世紀末以降に、大気中の二酸化炭素濃度が950ppmvレベルに達し、アラゴナイト質骨格を形成する海洋生物の生存が極度に脅かされ、サンゴ礁生態系激変の可能性が示唆される。サンゴ飼育水槽実験により、光ストレス・農薬・有害化学物質ストレスに対する代謝応答(光合成・石灰化)、枝状サンゴの骨格形成における量元素(Sr, Mg, U)の取り込み応答、稚サンゴの骨格形成の応答等について解明した。さらに、サンゴの骨格形成における基質タンパク質の効果について解明した。
著者
小川 寿美子 等々力 英美 有泉 誠 吉田 朝啓 糸数 公 鄭 奎城 崎原 盛造
出版者
琉球大学
雑誌
地域連携推進研究費
巻号頁・発行日
2000

本研究は過去3年間の研究成果として、論文9本、学会発表17演題、図書3冊、視聴覚教材ビデオ8本、データベース(CD)8枚が産出された。特に最終年度には以下のような具体的な研究実績の収束に努めた。(1)第2回ケース・メソッド研修の実施(平成14年6月30日) 昨年度の第1回同研修に引き続き問題解決型開発教育モデル制作の研修を実施した。受講者は本研究協力者で、この研修後、6本のケース教材が完成した。同教材は、(5)のビデオ教材のジャケットに納める小冊子に添付され、国際協力用の教材として広く活用されている。(2)保健人材班ワークショップ開催(平成14年7月6/7日) 過去3年間でまとめた沖縄の保健人材に関する量的データを用い、システムダイナミックス・シミュレーションモデル策定のワークショップを開催した。結果は(7)で発表した。(3)国際協力への実用化-途上国の保健医療人に対する研修への応用(平成14年4月15/16日,平成15年1月17.23-25日) JICA(国際協力事業団)の研修へと多岐にわたり応用された。4月は九州・久留米市の聖マリア病院での地域保健指導者研修コースで、1月には沖縄国際センターでの島嶼保健医療政策研修コースにて、本研究にて作成された視聴覚教材とケース教材を用いた授業が展開され、受講生(途上国の医師・看護師・助産師)から好評を得た。(4)論文、学会発表、図書 今年度は本研究に関する論文が8本、学会抄録は8本、図書は1冊が産出された。これらは、初年度からの業績も含め、広く世界の研究者と共有すべく、英語に翻訳して、報告書並びに本研究のwebページで情報を開示する作業を進めている。(同年5月末完成予定)(5)視聴覚教材の制作 前年度の2本のビデオ制作に引き続き、今年度は6本のビデオを制作。ビデオ検討会議(各6本分のビデオに関する内容検討会議を、年3回、各6本分のビデオ開催)を経て、平成15年1月に日本語版と英語版が完成。JICA研修((3))をはじめ、日本や諸外国の大学・研究機関にて活用されつつある。(6)データベース(CD) 米国民政府の公衆衛生関連資料をまとめたDB、沖縄県復帰前の保健医療関連新聞記事をまとめたDB、昭和35年から現在までの衛生統計データをまとめたDB、今まで制作した計8本分のビデオ教材をパワーポイント化したDB、の計4種のCDに関して本科研費を用いて作成した。(7)国際シンポジウムの開催(平成15年1月24-26日) 過去3年間の集大成として、国際シンポジウム「沖縄における保健医療人材確保の経験から〜過去50年の検証」を開催。内外からシンポジストを迎え、ビデオ会議、同時通訳付で活発なる意見交換が行われた。同シンポジウムの本番記録は、本研究Webページで公開されている。また、現在、CDにまとめる作集を行っている。(8)最終報告書(英語版)の作成 計418ページにわたる報告書を英語版で作成し、3年間の研究・実践の成果を広く世界の研究教育機関にアピールする。
著者
菅野 聡美
出版者
琉球大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本年度の研究実施計画に基づき、上京しての資料調査、複写、及び資料の購入を行った。加えてこれまでに収集した資料を読み込み、研究を進め、その一端を論文の形で発表した。具体的には以下のとおりである。1、研究の実施結果(1)琉球レビュー、同時代の演劇・舞台関係資料の収集と研究。(2)琉球レビューの発案者である秦豊吉に関する資料収集と研究,(3)琉球レビュー上演の場であった日劇をはじめとする劇場各社の社史や、演劇史・芸能史の把握。(4)猟奇・変態雑誌に掲載された沖縄出身知識人の言説や沖縄に関する記述の収集と検討。2、研究成果(1)沖縄の文化(舞踊、演劇、音楽など)研究は、ともすれば「沖縄」という枠内で進められ、本土の芸能史との相互関係が考慮されてこなかった。日本の音楽史・芸能史といった文脈に位置づけることで今後の研究の可能性が広がった。(2)日本の文化・芸能の歴史を考察する上で、西洋文化の受容と影響は無視できない。つまり異文化接触やアイデンティティーの問題として芸術史を考察する必要に気づいた。(3)資料の検討により、国策協力、国家権力による規制と介入、文化の政治利用といった政治的な観点から、大衆娯楽や芸術を検討することの有用性を確信した。3、研究成果発表本研究で収集した資料を用いて「琉球レビューと額縁ショー」を執筆、単行本に掲載された。
著者
前城 淳子
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は琉歌の中でも詠み歌の琉歌作品の研究を進めるための基盤作りを目的としている。本年度は前年度までに行った(1)詠み歌作品の収集と整理、(2)各地に保存されている琉歌集の収集を引き続き行うとともに、研究の取りまとめを行った。(1)では大正期の新聞(『琉球新報』『沖縄毎日新聞』)に掲載された琉歌作品の収集とデータベース化を中心に行った。新聞に掲載された琉歌を、1結社詠(結社単位で新聞に発表されたもの)、2琉歌大会詠(全島規模で開催された琉歌大会の詠草が新聞に掲載されたもの)、3募集歌(新聞社側の募集に応じて天長節やお正月などに応募された作品)、4寄稿歌(主に個人で琉歌を新聞に寄稿したもの)の4つに分類し整理した。また、それぞれの分類ごとの特徴等について「大正期の琉歌-『琉球新報』『沖縄毎日新聞』をもとに-」としてまとめた。(2)では天理大学図書館、沖縄県立図書館や琉球大学付属図書館など沖縄県内の図書館に所蔵されている琉歌集の調査を行った。天理大学図書館に所蔵された「琉歌集」は琉歌を読むもの(文芸)として編纂したものであり、本研究にとって重要な資料である。春、夏、秋、冬、恋、雑、仲風の7つの部立をもつこの歌集は、同じ部立構成をもつ『古今琉歌集』との詳細な検討が今後必要であろう。また、琉球大学付属図書館に所蔵されている「喜納誌」と記された「琉歌集」は節名が記されていないことから詠み歌的な歌集であると思われるが、部立が示されていないためどのような方針で歌集が編纂されたか不明である。本研究によって大正期の新聞に掲載された琉歌約4,000首の収集と整理が行われた。これによって詠み歌琉歌研究の基礎資料が整ったことになる。また、各地に保存されている琉歌集の収集と整理が進められ、60余の琉歌集を確認することができた。
著者
林 泉忠
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は研究代表者が提起した「辺境東アジア」という東アジア研究の新たな地域概念(『国際政治』135号掲載)に基づき、「中心」と「辺境」、「近代」と「前近代」が交錯し衝突する過程において現出した「辺境東アジア」地域のダイナミックなアイデンティティ・ポリティクスを解明するため、17年から19年まで三年連続、沖縄、台湾、香港そしてマカオにおいて、住民のアイデンティティ構造・特徴・要因を中心に、国際調査を行った。この四地域においてアイデンティティに関する国際調査は初めてとされる。調査は、琉球大学のほか、香港大学、台湾政治大学の専門調査機関の協力を得て、毎年の11月に、同時に、18歳以上の現地住民を対象に、それぞれ20以上の設問(一部は共通質問)を設け、電話調査を行い、それぞれ1000以上の有効サンプルを集めた。調査から得た主な所見は、1.帰属意識の構造に関し、四地域は、共に、複合的アイデンティティをもつ社会である。2.地元社会のへ愛着度やエスニック・アイデンティティについては、四地域は共に強いが、沖縄の方が特に強い。3.自立意識やナショナル・アイデンティティに関し、台湾が最も高く、ほかの三地域に広い差を付けた。4.若い年齢層は、他年齢層よりアイデンティティの複合性と流動性が高い、などである。調査結果に基づいた分析は、アジア政経学会、台湾政治学会、ハーバード大学フェアバンク研究センターおよびイエンチン研究所、北京大学、復旦大学、台湾大学、台湾交通大学をはじめ、日本、台湾、香港、韓国、インド、アメリカ、スイスなどの20以上の学術機関において発表を行った。また、書籍(共著)5冊、学術論文8本、新聞・雑誌記事20本を日本語、中国語、英語で出版した。なお、社会に報告するため、毎年、調査を行った翌月に、沖縄、台湾、香港、マカオ四地域の主要メディアに公表し、高い注目を受け、反響を及んだ。
著者
背戸 博史 大桃 敏行 泉山 靖人 後藤 武俊 柴田 聡史 申 育成 高橋 文平 安住 真紀子 大迫 章史 高橋 望 下村 一彦 岡 敬一郎 高橋 哲 松井 一麿
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、市町村合併や緊縮財政によって行政手法の再考を求められた地方行政機構にあって、その変動の影響を最も強く受けている生涯学習(成人教育)の分野に生じた転換の動態を明らかにした。主な転換は、体制としては首長部局への補助執行や定管理者制度の導入、多様な主体のネットワーク化などである。また、事業目的の転換では自治体による個別化が進み、地域の拠点づくり、地域人材育成、就業支援などが多様化していることを明らかにした。
著者
仲地 博
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

全体像を示すものとして「沖縄自立構想の歴史的展開」を研究し、沖縄には自治の豊かな土壌があり、琉球王国、明治政府下の特別な扱い、米軍占領の歴史的背景の下で構想力豊かな自治自立の提言がなされてきたかを明らかにした。個別論点としては、「復帰」の意味を問うた「沖縄県の誕生」と故玉野井芳郎の提唱した「地域主義と沖縄自治憲章」について考察した。ヒヤリングは、島袋清徳(元伊江村長)、比嘉茂政(元琉球政府地方課係長、元恩納村長、元県副知事)、座喜味たけ好(元復帰準備委員会琉球政府代表補佐、元県副知事、元沖縄電力社長)に行った。
著者
田吹 亮一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究では琉球列島の浅海性の現生および化石貝形虫の殻に見られる捕食痕の形態の特徴と貝形虫種の生態との関連を明らかにするとともに、捕食痕を形成した捕食者の特定を試みた。具体的には、現生貝形虫として石西礁および瀬底島礁池からの貝形虫遺がいを、化石貝形虫として知念砂層(更新統)からの貝形虫化石を研究対象とした。捕食痕は貝形虫の殻の外表面から内側に貫通した穴で、その3次元的形態により、「パラボラ型」、「円筒型」、「不定形」に分けられる(但し、「不定形」は定まった形態を示さない捕食痕の集合体)。又、殻に捕食痕の見られる貝形虫は、生態的には、砂底種、泥底種、葉上種に分けられる。現生貝形虫では、葉上種に多く捕食痕が見られた。ボーリング痕であるパラボラ型、円筒型の捕食痕、さらには不定形(一部)のボーリング痕の形成者として、Naticidae、Muricidaeの肉食性巻貝が想定されているが(Maddocks,1998)、これら巻貝は砂泥底にのみ生息する事から、葉上種については、他にボーリング痕の形成者を探さなければならない。不定形の捕食痕の周辺の殻表面には、削り痕、引っ掻き傷、あるいは酸により溶かされた痕と見えるものが多い。このことから、不定形の捕食痕にはボーリング痕の他、(例えば、小型の十脚類などが)割ったり、突き刺したりした痕と考えられるものも含まれる。上記の選択的捕食者による3タイプの捕食痕とは別に、ナマコ等の非選択的捕食者の消化管内での溶解、又は無機的溶解の結果、貝形虫殻の一部に空いた穴も見られる。捕食痕を残した捕食者を特定するための飼育実験を水槽内で行ったが、残念ながら、捕食者の特定に至らなかった。今後の実験の課題として、飼育容器内の水質を良好に保つこと、捕食のための口器等を手掛かりに、捕食者候補を絞っていく必要があること等が挙げられる。
著者
佃 修一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

蜘蛛のような形をしたマシンが足先を固定されているときにとることの出来る状態のなす配置空間のおおよその形(安定ホモトピー型)を,いくつかの場合に決定した.またゲージ群とよばれる空間の,素数pごとに決まるおおよその形(pで局所化したホモトピー型)をいくつかの場合に決定した.
著者
田中 淳一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

沖縄沿岸のサンゴ礁トワイライトゾーンと呼ばれる水深40m以深の海底から底生生物を採集し、新規生理活性成分の探索を行った。海綿Suberites japonicusからは、強い細胞毒性成分としてseragamide A-Fと命名した一連のデプシペプチド類を見い出し、スペクトルデータの解析と誘導体作成などを通して化学構造を明らかにした。生理活性については、培養細胞の細胞質の分裂を阻害することからアクチンを標的にしていることが推定された。そこで、蛍光ラベル化したアクチンを使用した実験により、seragamide AのF-アクチン脱重合阻害作用とG-アクチン重合促進作用を確認した。次に海綿Dysidea dv.arenariaの毒性成分を検討したところ、spongian骨格を有する一連の新規ジテルペンを得た。構造はスペクトルデータの解析ならびに関連化合物との比較により決定した。また、この海綿については4つの場所で採集した標本について分析したが、含有しているspongian類に多様性が見られた。国頭村で採集したムチヤギEllisella sp.からもbriarane型ジテルペンを見い出し、それらの構造ならびに細胞質分裂阻害作用を報告した。この他にも沖縄本島恩納村沿岸でリブリーザーを使用して海洋生物資源(44種)の採集を行い、それらのスクリーニングを行った。現在までに強い細胞毒性を示し同定された化合物は、latrunculinなど既知の物質であるが、本研究期間終了後もこれらの生物から得たエキスの生理活性物質を分離しており、新しい物質を見い出せるものと期待している。また、これまでにサンゴ礁トワイライトゾーンを含めサンゴ礁生物から見い出したアクチン標的成分ならびにタンパク合成阻害成分の分子プローブ(研究試薬)としての活用を図った。
著者
吉永 安俊 酒井 一人 仲村渠 将 赤嶺 光
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ウッドチップを充填した浸透トレンチによる赤土流出防止対策を開発した.実験期間中の降雨条件下において圃場外への赤土流出量は70%以上削減され,高い対策効果が認められた.試験地の土壌条件下において浸透トレンチの貯水は速やかに地下浸透するため,浸透トレンチの貯水は作物栽培に影響しないと考えられた.浸透トレンチの維持管理や営農作業を考慮すると,圃場の末端部のみに大容量で設置する方がよいと考えられた.
著者
久保田 康裕 辻 瑞樹 唐沢 重考 榎木 勉 島谷 健一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

地球温暖化に伴う生態系の応答を評価することは、地球環境科学の大きな研究テーマである。私達の研究グループは、過去10年間にわたる島嶼生態系の維持機構に関する基礎研究を行う過程で、生態系が最近の大型台風で壊滅的に撹乱され、そのインパクトが島嶼生態系の自律的な修復能力を凌駕している可能性を認識するようになった。本研究は、台風撹乱が島嶼亜熱帯林の生物多様性と機能に及ぼす影響を定量化することを目的とし、温暖化に伴う台風の巨大化や頻度変化によって島嶼生態系が転移するリスク及びそのシナリオを予測した。具体的な研究成果は以下の通り:1)台風攪乱の強度や頻度の変化は亜熱帯林の優占種の交代を促して群集の機能的構造を改変し、生産量・物質循環過程のような生態系機能に影響を及ぼす可能性がある;2)台風攪乱による森林構造の改変は、森林性の野生生物(大径木に依存した希少な着生植物やマングース等の外来種)の分布に影響を及ぼす可能性がある;3)亜熱帯林の適応的な森林管理(持続的な木材生産と生物多様性の保全)を考える場合、攪乱体制の変化は重要な要素になる。
著者
平良 勉 金城 文雄 真栄城 勉 金城 昇
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

明治10年代より急激に学校設置されていくが、それは民衆の教化・統合と日本資主義経済の発展に伴う学力及び軍事力の養成ということが内外情勢のうちに支配層をして緊急の課題として強く意識されていた。明治12年清国政府が廃藩置県につき日本政府に抗議するという事態は、そのことを一層推進していく必要にかりたてた。御真影や教育勅語下賜記念運動会,日清・日露の戦勝奉祝運動会は、天皇制教化の一翼を担わされていたと考えられる。だが、そのことがその地域独自の生活や文化と何んの矛盾もなく浸透していったとは考えにくい。少なくとも就学率の状況はその現われとみることができる。さらにまた,沖縄に存在してきた独自の運動文化の盛衰は朝鮮や台湾などの調査研究とともに改めて検討されなければならない。大正期から満州事変頃まで“スポ-ツの黄金時代"ともいえる様相を呈する。野球や庭球など近代スポ-ツの種目の大会も開催され、新聞社や青年会主催の競技会なども盛んになってくる。青年会やスポ-ツ組織の設立もこの時期には際立った特徴となっている。それは、同時に大正5年内務・文部省訓令にみられるように、青年会をはじめとして社会教育団体の統合支配の再編過程でもあったと考えられる。しかしまた,民衆における一定の学力・教養の高まりは、内に自覚的主体の形成の可能性も孕む。自由民権運動や大正デモクラシ-,労働運動の高揚は,結社・表現の自由に基礎づけられ,スポ-ツ・芸術の本質が逆にその基礎に働きかえしていく過程の吹き返しの可能性を一定の規制を伴いながらももつ。野球部廃止をめぐる男子師範生のスト(大8)や宮古の運動会官僚統制に対する論争(昭3)などはこの時期の一端を示している。しかしこの時期以降、日中戦争,国家総動員法,翼賛県支部結成へと展開していくなかで,スポ-ツは自由主義,合理主義の温床であるとして一転して変質・排除され,あるいは実用的に国防競技化する。
著者
小川 由英 HOSSAIN Rayhan Zubair
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

現在我々は、消化管からのシュウ酸吸収に影響する各種物質に関して実験し、ビタミンB6欠乏食で飼育したラットにおいてシュウ酸前駆物質投与による内因性のシュウ酸合成について検討した。カルシウムと同様の実験系で、マグネシウムが消化管からのシュウ酸吸収へ与える影響を検討し、マグネシウム投与により消化管からのシュウ酸吸収が減少し、尿中シュウ酸排泄が減少することがわかった。また我々の動物実験系で内因性のシュウ酸合成に関連するいくつものシュウ酸前駆物質を投与し、実験した。グリコール酸、グリオキシル酸、ハイドロピルビン酸、ハイドロオキシプロリン、エチレングリコールが尿中シュウ酸を増加させる重要なシュウ酸前駆物質であり、そのシュウ酸合成がビタミンB6欠乏食群でより促進され、その原因はグリオキシル酸解毒酵素であるAGTとGRHPRの機能不全によることがわかった。さらに、ビタミンB6欠乏状態にすると尿中クエン酸排泄にも影響がでる。ビタミンB6欠乏は短期間投与でも低クエン酸尿をきたし結石形成危険因子となることがわかった。またビタミンB6欠乏による低クエン酸尿がアルカリの負荷により是正されるかも検討した。た標準食とビタミンB6欠乏食においてアルカリの急速投与が尿中クエン酸に与える影響を比較し、その両者において急速なアルカリ投与が尿中クエン酸を増加させるがその影響は標準食を与えた群がより著明であった。原因としてビタミンB6欠乏は腎のクエン酸排泄を障害する可能性があり、低クエン酸尿の原因として独立したものである可能性が示唆された。過シュウ酸尿症と尿路結石の研究において多くの動物実験系を報告してきた。我々の実験系では3%のグリコール酸食の投与で過シュウ酸尿症とシュウ酸カルシウム結石を形成させることができた。この結石形成動物モデルは再現性がよく、多くの結石形成に関与する可能性のある物質の影響を調べることができ、結石の再発予防法の研究に役立つと考える。
著者
大角 玉樹 多賀 寿史
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

わが国の産学官連携政策の焦点は、単なる技術移転から総合的な知的財産マネジメントに移行しており、沖縄においても、沖縄TLOの設立や沖縄地域知的財産戦略本部の設置など、数多くの施策が実施されている。しかし、本土と比較して、高度知財人材が不足しており、今後、沖縄の地域特性である亜熱帯島嶼資源及びIT施策の戦略的マネジメントを迅速に確立し、地域イノベーションを創出することが期待されている。
著者
横田 昌嗣 傳田 哲郎
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

固有種を中心に琉球列島産のガガイモ科植物の染色体数の算定を行った.中琉球固有のヒメイヨカズラ(ガガイモ科)の外部形態と分子系統樹を解析し,この種はこれまで考えられていたイケマ属ではなく,オオカモメヅル属に属し,遺存固有種的な性質を多く持つ種であることを示した.琉球列島内で著しい種内倍数性を示す琉球列島固有種のミヤコジシバリ(キク科)は,雑種起源であること,その起源は複数回あることを分子系統学的な手法で証明し,ミヤコジシバリの著しい種内倍数性は琉球列島の地史と深い関わりがあり,遺存固有種的な性質を示すことを細胞地理学的に示した.アカネ科のサツマイナモリ属とボチョウジ属の染色体数を算定し,琉球列島固有のアマミイナモリは近縁なサツマイナモリの倍数体起源であることを明らかにした.分子系統学的な解析により,アマミイナモリは日本および台湾産のサツマイナモリよりも系統的に古い時代に分化した遺存固有種であることが判った.琉球列島産のヒサカキ属の分子系統学的な解析の結果,中琉球固有のクニガミヒサカキは,日本産ヒサカキ属では最も遺存的な種であり,クニガミヒサカキと同種とする見解がある南琉球固有のヤエヤマヒサカキは,クニガミヒサカキとは明瞭に異なる独立種であること,中琉球固有のマメヒサカキは,ハマヒサカキから派生した新固有の分類群であることが判った.日本では沖縄島北部にのみ産するイワヒバ科ツルカタヒバと,その異名とされることもある沖縄島固有のコクラマゴケ,沖縄島から近年日本新産として報告されたミタニクラマゴケの形態を観察した.その結果,ミタニクラマゴケはコクラマゴケにすぎないこと,ツルカタヒバとコクラマゴケは連続的に変異し,現段階では区別できないことが判った.
著者
新本 光孝 新里 孝和 安里 練雄
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1.琉球列島総合植物目録及び特定植物群落目録の作成沖縄県の島嶼の沖縄島,宮古島,石垣島,西表島を対象に,既往の著書・報告書を用いて植物分布の差異を明らかにし,さらに,特定植物群落の分布の特性を類型化し、それぞれ「琉球列島総合植物目録」、「特定植物群落目録」としてデータベース化をはかった。2.沖縄島、石垣島、西表島の天然林の資源植物分類各調査地に出現した全植物について、資源植物分類を行った。利用率が高いのは木本植物で、I類では幹の部分がよく利用されている。II類は防風防潮林、屋敷林、公園樹、庭園樹などに利用される木本植物も多い。末経済植物の比率は草本植物、シダ植物で高かった。3.沖縄島北部における天然林固定試験地の森林遷移森林・林分の遷移は3プロットの1980年、1995年、2005年の毎木調査結果に基づき分析を行った。3林分とも本数は減少傾向にあるが、林分材積は全体的には増加傾向にあり,出現樹種は樹種により消滅・新加入の入れ替わりはあるが樹種数に大きな変化はなかった。イタジイはどの林分でも主体をなしており、経年的に本数は減少しているが材積は増加している。4.亜熱帯林の非木材林産物資源としてのリュウキュウイノシシ西表島におけるイノシシ猟は、圧し罠猟,イヌ猟,ハネ罠猟,銃器猟と変遷している。現在は,ハネ罠猟が普及している。ハネ罠猟ではシマミサオノキ他20種の弾力性の強い樹種が利用されている。猪垣は,石塁や斜面掘削,木柵などがあり,石塁の材料には砂岩,サンゴ,木柵にはサガリバナが利用されている。持続的なイノシシ猟を行うためには、島の生態系の維持・環境保全を考慮することが重要であろう。
著者
加藤 祐三 新城 竜一 林 大五郎
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

火山豆石の内部構造は同心円構造が発達したもの(CONC)と、これが認められず不規則なもの(RAND)の2群に大別される。いずれが含まれるかは各火砕物固有の性質である。火山豆石が形成されるとき、構成粒子を結びつける膠着剤が氷の場合がCONC、水の場合がRANDになると考えられる。この推定は後者の場合について、1991年雲仙火山で降下した火山豆石の研究で立証された。火山豆石の内部構造の観察、直径・形状・間隙率・比重の測定を行い詳細に検討した結果、これらの性質と火砕物の噴出様式の差、すなわち降下堆積物(fall)/火砕流堆積物(flow)/ベースサージ堆積物(surge)の別とは密度な関係があることが明らかになった。CONCにはfallとflowの双方が、RANDにはfallとsurgeの場合がある。また、RANDはCONCよりも、間隙率と直径が小さい/見かけ比重が大きい/結晶と岩片が多くガラス片が少ない、という傾向が認められる。沖縄島呉我の火砕物には、一般的な例と異なりCONCとRANDの双方の火山豆石が共存している。含まれるガラスの化学組成を比較すると、基質はRANDと一致しCONCとは異なる。このことから、CONCは別の噴煙柱で生じ、火山豆石だけがこの火砕物に混入したものと推定される。火山豆石は火砕物中に頻繁に産出するので、個々の火砕物を理解するにあたって重要で、豆石の内部構造と諸性質を詳しく調べることによって、火砕物の生成機構が推定できる。
著者
比屋根 照夫 前門 晃 赤嶺 守 渡名喜 明 仲地 博 森田 孟進 HIYANE Teruo 小那覇 洋子
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1992

本研究は、復帰後20年を迎えた沖縄の政治・社会変動と文化変容の実態を総括的、構造的に把握することを試みたものである。その結果、明らかとなった成果の概要は次の通りである。政治・社会(1)復帰後もなお基地が沖縄社会を特徴づけるものであり、今なお米国の東アジア戦略に規定されるという点が、復帰20年を含む沖縄の戦後の変わらない実態であることが明らかとなった。(2)復帰前沖縄の社会制度はさまざまな面で「本土」と異なっていた。本土化は画一化を意味するが、沖縄の歴史、文化との葛藤がさまざまな矛盾を生み、そこに新しい可能性も見出されうることが明らかとなった。(3)復帰の結果、沖縄への公共投資は急激に増加し、自然環境が大きく変化した。文化(1)米軍基地の存在は、沖縄の文化にも強い影響を残した。それは、住民の心理のありようにまで及んだ。米軍人と住民のコミニュケーションは、米国文化の受容をもたらし、復帰後もそれは沖縄の中に定着した文化となっている。(2)復帰後の急激な「近代化」のなかで、もっとも基礎的な土着信仰も変容しつつ、なお根強く生き残っている状況が明らかとなった。総体として言えることは、伝統的な文化と社会構造が、米軍占領によって大きな影響を受け、さらに復帰によって急激に変動したこと、それらを含み沖縄の特質は、本土を照射する地位を占めていることを本研究は明らかにしている。