著者
相原 彩⾹ ⾕村 厚⼦
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.24, 2018

【⽬的】回復期病院に⼊院中の脳卒中患者を対象に⾯接を実施し,退院後⽣活に関する認識の要因を検討した1 事例を取り上げ報告する.【⽅法】回復期病院に⼊院し,⾃宅退院予定の50 歳代男性の初発脳卒中患者に対し,退院後⽣活の認識について半構造化⾯接を3 回実施した.データ分析には複線経路等⾄性モデル(Trajectory Equifinality model:以下TEM)を⽤い、退院後⽣活の認識を等⾄点として描いた.得られたデータを試作的なTEM 図として描き可視化し,2 回⽬以降の⾯接で対象者に呈⽰した.筆頭筆者の解釈に誤りがないか,不明確な内容や疑問点を対象者と確認・修正することでデータの信頼性を担保し,TEM 図を完成させた.【結果】対象者の語りから,Ⅰ期「社会と距離を置く」Ⅱ期「⼀度は改善を実感するが復職への不安が募る」Ⅲ期「外泊により退院後⽣活のイメージが具体的に湧く」Ⅳ期「障害を受け⼊れ付き合っていく」のⅠ〜Ⅳに区分されたTEM図が描けた.【考察】脳卒中患者の退院後⽣活の認識に関わる要因をTEM図で描くことで,⼼⾝機能の回復だけを⽬的とした⽀援を提案するのではなく,その⼈の社会との関わりや思いの変化の時期を理解し捉えた上で⽀援を提供する重要性,さらにその⼈が経験する出来事の気持ちの変化や受け⽌め⽅を捉え働きかけることが,退院後⽣活の認識を促進し,障害と向き合うことに繋がると考えられた.
著者
佐伯 覚 蜂須賀 明子 伊藤 英明 加藤 徳明 越智 光宏 松嶋 康之
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.411-416, 2019
被引用文献数
1

<p><b>要旨</b>:若年脳卒中患者の社会参加,特に復職は重要なリハビリテーションの目標であり,ノーマライゼイションの理念を具現化するものである.国際生活機能分類の普及に伴い,社会参加の重要性が再認識されている.また,政府が主導している「働き方改革」に関連した「治療と就労の両立支援」施策の一つとして,脳卒中の就労支援が進められている.しかし,脳卒中患者の高齢化・重度化,非正規雇用労働などの労働態様の変化は脳卒中患者の復職に多大な影響を与えており,若年脳卒中患者の復職率は過去20 年間,40%に留まっている.脳卒中患者の復職は医療だけでなく福祉分野とも関連し,職業リハビリテーションとの連携,さらには,復職予定先の企業等との調整など様々なレベルでの対応が必要であり,医療福祉連携を超える高次の連携が必要となる.</p>
著者
豊田 章宏
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.37-42, 2020
被引用文献数
2

<p><b>要旨</b>:わが国における脳卒中罹患労働者の復職率は30~50%であり,予測される機能回復に見合った数字には至っていない.就労支援を成功させる因子として,適切なアセスメントと患者自身の病状理解,復職を念頭に置いたリハビリテーションの実施,医療者の仕事に対する理解,職場との情報共有などが重要と考えられている.労働者健康安全機構では,平成26 年度から,患者に寄り添いながら適切な時期に必要な評価や情報提供を行う両立支援コーディネーターの養成を開始した.介入に同意した脳卒中罹患労働者に対して発症早期からの介入を行った結果,70%近い復職率が得られている.両立支援には職場側の理解や適切な配慮が必要であるが,罹患後の早期離職を防ぐためには,脳卒中診療に関与する医療者が急性期から関わることも重要である.</p>
著者
林 友則 保木本 崇弘 樋口 謙次 中村 高良 木山 厚 堀 順 来住野 健二 中山 恭秀
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.P-9, 2020

<p>【目的】急性期の脳卒中診療において、早期から退院の可否や転院の必要性などに関しての転帰予測が求められる機会は多い。現在までの脳卒中転帰予測に関する報告の中で、急性期の転帰予測をフローチャート形式にて示した報告は少ない。そこで本研究では、決定木分析を用いて初回理学療法評価から転帰予測モデルを作成することを目的とした。</p><p>【方法】対象は2012年7月から2015年4月までに当大学附属4病院に入院し理学療法が開始された脳梗塞,脳内出血患者496名とした。開始日が発症当日または発症後1週間以上経過している対象59例を除いた438例(男性315 例,女性123例,年齢69.3±13.0歳)を対象とし、退院群163名と転院群275名の2群に分類した。理学療法開始日数、NIHSS、GCS、上田式12段階片麻痺機能検査(以下、12グレード法)、ABMS各項目、年齢、病態(脳梗塞、脳出血)、性別、就労の有無、キーパーソンの有無、同居家族の有無、家屋環境をカルテおよび評価表より収集した。それらを独立変数として、退院、転院を従属変数とした決定木分析を実施した。統計解析ソフトはRを使用した。</p><p>【倫理的配慮】本研究は当大学倫理委員会の承認を得た上で、ヘルシンキ宣言に遵守して行った。</p><p>【結果】退院に関しては、NIHSSが3未満である場合(85 %)、そして、NIHSSが3以上であっても、12グレード法が9以上かつABMSの立ち上がりが2以上の場合(69 %)が退院となる決定木が得られた。転院に関してはNIHSSが3以上、12グレード法が9未満の場合(81%)と、NIHSSが3以上、12グレード法が9未満かつABMSの立ち上がりが2未満の場合(64%)が転院となる決定木が得られた。</p><p>【考察】退院の転帰予測には、NIHSSの点数に加え、分離運動の可否、立ち上がりの安静度が影響していると考える。今回の決定木による転帰予測モデルは、急性期の脳卒中診療において臨床的な判断基準を示すことが可能であり、転帰予測に有効であると考えられる。</p>
著者
岸田 和也 石垣 智也 尾川 達也 松本 大輔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.G-67_2-G-67_2, 2019

<p>【はじめに,目的】</p><p> 訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)を終了した際,その後の経過を知る機会は少なく,良好な生活を継続できているかを把握することは難しい.そこで本事業所では,サービス終了後の利用者の不安軽減と,良好な生活を継続するための要因を把握するために,訪問リハ終了3ヶ月後の追跡調査を取り組みとして実施した.今回,その調査結果とともに,生活状況の変化が異なった2事例の比較からその要因についても検討した.</p><p>【方法】</p><p> 対象は目標達成にて訪問リハを終了した13名(男性4名,女性9名,平均年齢75.7±11.4歳)とした.訪問リハ終了3ヶ月後に居宅に訪問して質問紙への回答を依頼し,1週間後に質問紙の回収と生活状況の変化に関する詳細な聴取を行った.質問紙の内容は,終了時からの生活状況の変化,自主運動などの健康行動の実施とその頻度,活動量の変化などの項目から構成した.事例1は90代の女性で,独居であり屋内つたい歩き自立.家事などの自立,自宅前の歩行練習が定着し終了となった.事例2は右片麻痺を呈する60代の男性で,屋内四点杖歩行自立.外出はほぼなく低活動の状態であったが,最低限のADL動作の安定と屋内での自主運動の定着,近所の見守り歩行が可能であることを確認し終了となった.</p><p>【結果】</p><p> 生活状況の変化は「改善」8名,「変化なし」5名,「悪化」0名,健康行動の実施は「毎日」4名,「時々」7名,「非実施」2名,活動量の変化は「増加」6名,「変化なし」5名,「減少」2名であった.事例1は,生活状況は「改善」(家事などの継続),健康行動は「毎日」(自宅前の歩行),活動量は「増加」(家事や庭作業など)と回答し,活動量は高い状態で経過しており,生活は良好な状態で継続していた.事例2は,生活状況は「改善」(ADL動作等屋内の生活は転倒なく安定),健康行動は「時々」(週4回,屋内の立位運動),活動量は「減少」(外出機会や近所の歩行はほぼなし)と回答し,生活状況は保たれているものの低活動の状態が継続しており,屋外歩行機会は減少していた.その後徐々に動作耐久性の低下が生じ,終了14ヶ月後に通所リハビリテーションの利用を開始した.</p><p>【結論】</p><p> 質問紙では全対象で生活状況は維持・改善している結果であったが,活動量は減少している事例もあった.高い活動量を維持していれば,生活状況の維持・改善が見込めるが,低活動状態の継続もしくは活動量の減少により,生活状況の悪化を招く恐れがある.良好な生活を継続するには,高い活動量の維持や増加が重要であり,健康行動や家庭での役割などを終了後も定期的に継続できるよう,自己管理を行えるように教育的な介入が重要であると考えられる.しかしながら,介入によっても自己管理による定期的な活動の継続が困難な場合には,通所サービスや地域コミュニティなど地域資源への円滑な移行を図ることが重要であると示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者またはその主介護者に対して十分な説明を行い,同意を得た後に実施した.また,プライバシーおよび個人情報の保護には十分に配慮し,データの統合においては匿名化処理を行った後に実施した.</p>
著者
谷口雄太著
出版者
吉川弘文館
巻号頁・発行日
2019
著者
曽我部 知明 杉村 公也 川村 陽一 水谷 智恵美 渥美 峻輔 和田 美奈子 島崎 博也 辻野 陽子 近藤 真由 西垣内 美佳 山添 智子
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.23, pp.O018, 2007

【目的】脳卒中片麻痺患者が自動車運転を希望する例は少なくない。そこで、本研究は当院で実施している身体機能評価を用いて、自動車運転している群(以下運転群)、自動車運転を希望しているがしていない群(以下非運転群)の2群の各データから、脳卒中片麻痺患者の運転可否を判定するための判別関数を求めることを目的とした。<BR>【対象】対象は、本研究に同意が得られた脳卒中片麻痺患者20例(男性19名、女性1名、平均年齢58.4±6.6歳、発症までの平均運転歴378.4±94.7ヶ月、運転群11名、非運転群9名)であった。<BR>【方法】測定項目は、発症前運転歴、上肢、手指、下肢の運動麻痺の程度(Brunnstrom stage〔以下Br.stage〕)、上肢筋力(非麻痺側握力)、下肢筋力(非麻痺側下肢最大筋力を測定しピーク値を体重で除した値〔N・m/kg〕)、運動耐用能(6分間歩行距離〔以下6MWD〕)、歩行能力評価(10m歩行時間、10m歩数)、立位動的バランス能力指標(Timed Up&GO Test〔以下TUG〕)、バランス評価(Berg Balance Scale〔以下BBS〕)、ADL評価(機能的自立度評価法〔以下FIM〕)を用いた。運転群、非運転群の2群を判別するために、多変量解析の判別分析を用い、線形判別関数を求めた。なお本研究は、当院倫理審査委員会の承認を得て実施した。<BR>【結果】分散共分散行列の等分散に関する検定は有意ではなく、等分散であったため、線形判別関数を、Z=17.90499*Br.stage手指+46.13531*下肢筋力-0.26896*運転歴+6.320207*10m歩行時間-17.2167*Br.stage上肢+3.262781*FIM-3.5203*10m歩数+2.330337*BBS-1.18787*TUG+0.09723*6MWD-2.2287*Br.stage下肢-0.17041*握力-425.2(Z≧0ならば運転群に判別、Z<0ならば非運転群に判別、正判別率1.00、誤判別率0.00013)と求めることが出来た。判別に大きく関っている項目は、Br.stage手指(P=0.012)、下肢筋力(P=0.013)、運転歴(P=0.025)、10m歩行時間(P=0.030)、Br.stage上肢(P=0.036)、FIM(P=0.036)であった。<BR>【考察】脳卒中片麻痺患者に対し、自動車運転可否の評価を試みた報告の多くが、発症後も運転を継続する可能性が高いのは上肢の麻痺が軽度、運動機能、ADLが高い傾向があると述べている。今回の結果から、運転可否の判別に大きく関っている項目にも同様の傾向がみてとれ、半側空間無視など明らかに自動車運転に支障をきたす高次脳機能障害がみられない場合において、運転の安全性を確認する上で身体機能についても評価していく必要があるといえる。<BR>
著者
佐藤 努 中島 望 長橋 厚 江井 邦夫 佐藤 幸一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P1200, 2010

【目的】<BR>近年,障害者の社会参加や生活の質の向上に向けた取り組みや促進が求められる中,職場復帰や積極的な地域参加などを念頭においた理学療法を展開していくことが必要である.その中で,障害者の自動車運転へ向けた取組みも十分に考えられる.当地域における,近隣への移動手段として自動車が一般的である.そこで今回,障害者の自動車運転再開へ向けた取組みおよびシステムの構築を目的とし,自動車教習所の協力の下,障害者を対象とし自動車運転体験を実施した.<BR>【方法】<BR>自動車運転免許を取得されており,且つ管轄の警察署にて適性検査を受講され,重篤な高次脳機能障害を呈さない脳卒中片麻痺患者3名を対象とした.対象者ごとに,運動能力(麻痺の程度,歩行状態等)や知能能力(高次脳機能,認知機能等)の情報を作成し,自動車教習所側に個別情報提供表として事前に提示した.自動車教習所では,基本走行や応用走行などの運転技術のレベルアップを目的として実施されている「安全運転講習」を個々の運転技術に沿って実施した.<BR>【説明と同意】<BR>今回の体験を行うにあたり,本研究に関しての趣旨を十分に説明し,被験者および自動車教習所側に同意を得た.<BR>【結果】<BR>症例1,67歳,女性,要介護2.平成14年に脳内出血による左片麻痺を呈する.以後,自動車運転は未実施.麻痺側上肢機能に関しては,Brunnstrom―Stage(以下Br―S略)3.今回の自動車体験においては,基本走行のみ実施.自動車への乗車時において座席への着座に不安定を認めた.座席調節の際は,非麻痺側上肢にて調節レバー,シートベルトやハンドブレーキ,オートマティックトランスミッションの切り替え等の操作が困難であり,介助を要した.走行検査においては,走行速度が平均約5km/h程度と低速走行であった.非麻痺側上肢によりハンドル操作を行なうも,直線走行時には中央線へのふらつきを認めた.また,カーブ走行時には急なハンドル操作や細かな修正困難が認められた.症例2,61歳,男性,要支援2.平成19年に脳内出血による左片麻痺を呈する.半年前に数回の運転経験あり.麻痺側上肢機能に関しては,Br―S5.今回の自動車体験においては,基本走行及び応用走行を実施.自動車への乗車動作や座席調節には特に問題なく,両上肢にて行なっていた.自動車走行に関しては,一時停止標識やカーブ走行時におけるブレーキの減速不十分を指摘されたが,口頭指示後に修正可能であった.また,ハンドル操作やトランスミッションの切り替え等も両上肢を使用し安定し可能であった.走行速度の変化におけるハンドル操作のタイミング等には問題なく,今回の運転技術において十分に路上での自動車運転再開が可能であると判断を受けた.症例3,48歳,男性,要介護3.平成16年に脳内出血による左片麻痺を呈する.数年前までは,障害者用自動車による運転経験を有するが,現在はセニアカーにて移動.麻痺側上肢機能に関しては,Br―S2.乗降動作において短下肢装具装着のためハンドル・座席間のクリアランスの問題にて介助を要した.今回の自動車体験においては,基本走行及び応用走行(坂道,S字,クランク等)をノブ付き自動車(片手ハンドル操作)にて実施した.方向転換やカーブの際における,方向指示器の操作時にハンドルのブレを認め指摘されるが,それ以外のアクセル調節,車両間隔,速度変化におけるハンドル操作等の運転技術等には問題なく,路上運転が十分に可能であるとの判断であった.<BR>【考察】<BR>今回の結果より,当地域における障害者の自動車運転再開において,各機関がそれぞれの役割を担う必要があると感じた.理学療法士としては,歩行能力や高次脳機能障害の状態,自動車教習所側が実車講習を行うため必要となる留意事項(乗降動作,シート上での動作状況,シートベルトの着脱などの細かな機器の操作など)の運転評価表の作成・指導,またその情報の共有が必要であると感じた.基本的動作や状況判断能力(反応の速さ,注意力の左右差)などの観点から理学療法士としての関わりの重要性が示唆された.このように,身体状況や運転技能に合わせた実車講習を通し,より安全な運転再開にむけた評価機関が必要であると思われた.さらに,制度上の相談,情報提供などの窓口の設置が必要であると感じた.今回の試みを通し,各機関における連携や地域の環境作りの重要性が示唆された.自動車運転は,便利な反面,リスクと社会的責任をともない安全運転技術の修得および家族を含めた検討については,今後の課題のひとつである.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>理学療法士の職域は広がりをみせており,身体機能面や日常生活動作面などへの理学療法に限定されず,それぞれの地域性に応じたアプローチが求められており,今回の試みもそのひとつと言える.
著者
北井 玄 原田 伸吾
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.2, 2010

【はじめに】<BR>CVAを発症し左片麻痺、高次脳機能障害を呈したA氏を担当する機会を得た。A氏の希望は、企業への復帰であった。A氏と労働組合と共に復職に向けて働きかけたところ企業側は難色を示した。復職の実現に向けて働きかけたプロセスを紹介し、その中から見えてきたPT・OTの役割について考察する。<BR>【事例紹介】<BR>40歳代男性。<BR>生活歴:発症前は営業職のマネージャー。現病歴:平成19年8月右被殻出血。平成20年2月通所リハ利用開始。週4回利用で要介護1。<BR>ADL:FIM 120/126移動:階段歩行・屋外歩行共に自立(短下肢装具使用)Brunnstrom stage:上肢_III_下肢_IV_手指_III_。感覚:中等度鈍麻 高次脳機能:左半側空間失認が認められる。<BR>【評価】<BR>A氏の不安:身体のこと(麻痺の回復・応用歩行・持久力)能力のこと(制服・運転)AMPS:Motor Skillsが1,41logits、Process Skillsが0,95logits。Time up & go test:平均15秒。更衣(制服)自立。自動車免許は更新できた。<BR>労働組合の依頼により評価結果を企業に提出した。その後、企業とA氏との話し合いが続いたが難航し、企業が解雇の意向を示したことで裁判となった。<BR>【介入の基本方針と介入経過】<BR>復職の為に、企業が難色を示す理由を明確化し、それに対する評価結果を数値化して復職が可能なことを企業に示すこと。また、企業が難色を示す理由に対して介入することとした。<BR>解雇理由は、会社がバリアフリー構造でない。体力上フルタイム勤務は困難ではないか。(身体機能面への理由)一人で業務を遂行できるのか。業務中フォローする人材と時間の不足。(作業遂行の質に関する理由)であった。<BR>介入結果は、Time up & go testが平均13秒。持久力として屋外歩行2kmコースを連続歩行可能(所要時間約50分)となった。また、AMPSではMotor Skillsが1,92logits、Process Skillsが1,18logitsとなった。<BR>これらを企業に提出した結果、裁判はA氏の要望が通る形で和解し、復職が決定。PT・OTの評価は裁判の資料として取り扱われた。<BR>復職後、労働組合の担当者は「PT・OTの作成した書類は、結論を先延ばししようとする企業に対して非常に効果的だった。おかげで話が前に進んだ」と語った。<BR>【考察】<BR>当初、復職に至らなかったことに関して、A氏同様、企業の不安も明確化し、双方に介入する必要性があったと考える。また今回の事例では、企業の雇用継続に関して不安な点として、身体機能面と作業遂行の質に関する面に分けられた。これは、就労にまつわる多くの事例に共通する不安と推測する。<BR>上記2点において、PT・OTが協働して企業側が示す不安を解消し得るデータとフォロー方法を提示することが重要であり、それがPT・OTの役割であると考える。
著者
上田 将吾 高木 泰宏 村部 義哉 谷口 芙紗子 塚田 遼 加藤 祐一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】把握動作の制御には,対象の大きさに対応するオンライン制御と,記憶に基づくオフライン制御が存在(Goodale, 2011)し,把握動作では前頭頂間溝にて視覚と体性感覚の統合がなされる(Karl, 2013)。今回,左脳梗塞により右片麻痺を呈し,把握動作と書字動作に困難さを訴える症例を経験した。オフラインでの視覚と体性感覚の統合を意図した介入を実施した。結果,把握動作時の拇指-示指間開口幅が改善し,書字動作の速度が改善したため報告する。【方法】対象は左脳梗塞により右片麻痺を呈し,発症後1年半が経過した60歳代の女性であり,日常生活動作,家事や車の運転は全て自立していた。Brunnstroms Recovery Stageは上肢VI,手指Vであった。手掌の触覚検査は10回法と10点法ともに10/10であった。各指の運動覚検査は10回法で10/10であった。安静時,各指の屈筋の筋緊張はModified Ashworth Scale(以下MAS)で0であったが,手指の自動運動後は2であった。把握動作は,拇指と示指の対立で8cmのブロックまで可能であったが,9cm以上は拇指-示指間開口幅が不足するために把握が困難であった。5周の螺旋模様を鉛筆でなぞる課題に1分48秒を要し,手指の屈筋に過剰な緊張が生じるために持ち直す回数は6回であった。課題として,あらかじめ視認した1cm間隔の5つのブロックに対し,閉眼にて他動で拇指-示指間開口幅を合わせ,どのブロックに合わせたかを回答するよう求めた。回答後,視覚的に正誤を確認した。開始当初の正答率は3~4/10であり,2cm間隔の認識は可能だが,1cm間隔の認識が困難であった。介入頻度は1回/週,介入時間は60分,介入期間は2ヶ月間,回数は8回であった。【結果】課題では1cm間隔の認識が可能となり,正答率は9~10/10となった。手指のMASは自動運動後も0となった。拇指と示指の対立で10cmのブロックの把握が可能となった。螺旋模様をなぞる課題を42秒で完遂可能となり,持ち直す回数は1回であった。日常生活場面において,「名前とか住所を書くのが速くなった」との発言が得られた。【結論】本症例は対象物に対する拇指-示指間開口幅の適切な制御が困難であり,把握動作時には手指の屈筋群に過剰な収縮がみられた。把握動作時の拇指-示指間開口幅の形成において,オンライン情報処理はオフライン情報処理によって調整される(castiello, 2005)。本症例では,課題を通して拇指-示指間開口幅をオフライン処理で調整するための内部モデルが形成されたと考える。結果,把握動作における拇指-示指間開口幅の制御が改善したと考える。また,書字動作時にオフラインでの制御が可能となることで,鉛筆の太さに対して拇指-示指間開口幅を適応させることが可能となり,書字動作の速度が向上したと考える。
著者
粟飯原 里美 鹿島 恵理 松田 直樹 稲田 亨
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【目的】現在,通院されている脳卒中者の内,約23%は65歳未満が占める(平成25年度国民生活基礎調査)。この比較的若い世代の脳卒中者が後遺症を抱えつつも,活力ある地域生活を継続するためには,高齢者以上に行動範囲,すなわち生活空間の狭小化の予防が重要である。生活空間の代表的な評価であるLife Space Assessment(LSA)は,活動量の頻度・自立度・活動範囲の定量化が可能な質問紙である。在宅脳卒中者におけるLSAに関連する要因は,これまでいくつか検討されている(田代ら,2014.福尾ら,2014)が,対象者は65歳以上の者となっており65歳未満の者を対象とした報告はない。よって,本研究では,65歳未満の在宅脳卒中片麻痺者と65歳以上の在宅脳卒中片麻痺者において,それぞれの生活空間に関連する要因を抽出し,65歳未満特有の要因を検討する事を目的とした。【方法】対象は当院外来リハビリテーションに通院し,屋内歩行が自立している脳卒中片麻痺者69名とした。その内,65歳未満の者を若年群,65歳以上の者を高齢群に割り付けた。評価は1)LSA,2)快適歩行速度,3)Functional Reach Test(FRT),4)6分間歩行距離(6MD),5)modified-Gait Efficacy Scale(mGES),6)リハ・福祉サービス利用目的の外出頻度(リハ等外出頻度),7)運動習慣の有無,8)趣味活動の有無,9)車の運転の有無,10)就労の有無とした。統計学的解析は,若年群・高齢群それぞれ1)LSAと2~6)の項目でSpearmanの順位相関係数を算出した。また,7~10)は実施の有無でさらに2群に割付け,2群間のLSAスコアに対し,対応のないt検定を行った。LSAスコアを従属変数,独立変数をLSAスコアと相関を認めた項目および実施の有無による群間比較で有意な差を認めた項目とし,ステップワイズ法による重回帰分析を若年群・高齢群それぞれ実施した。有意水準は5%とした。【結果】若年群は38名(年齢52.1歳±10.8歳),高齢群は31名(年齢70.8±4.4歳)であった。若年群ではLSAスコアと快適歩行速度,FRT,6MD,mGESとの間に有意な正の相関を示し,リハ等外出頻度との間には有意な負の相関を示した。車の運転の有無では運転実施群のLSAスコアが有意に高かった。また,若年群のLSAスコアに関連する要因としてmGES,車の運転の有無が抽出された。高齢群ではLSAスコアと快適歩行速度,FRT,6MD,mGESとの間に正の相関を示し,LSAスコアに関連する要因として快適歩行速度が抽出された。【結論】若年群は高齢群と比較して,身体機能よりも歩行の自己効力感や車の運転の有無といった要因が生活空間に強く関与することが示された。また,若年群において車の運転の有無が生活空間に強く関与したことは,本研究実施地域の特徴であると考えられる。
著者
佐藤 努 佐藤 絢 木幡 修 鈴木 宏幸 坂田 真也 大波 清貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>目的</p><p></p><p>脳卒中片麻痺患者における就労支援や社会参加を促していく上で,移動手段の選択は重要であり,その後の活動範囲に大きく影響を及ぼしている。自動車運転は,移動手段のひとつを担っているが,心身機能等の状態や制度上の問題により,積極的な運転再開と至っていないのが現状である。今回,アンケート調査を実施し自動車運転再開における現状を把握することを目的とした。</p><p></p><p>方法</p><p></p><p>2014年4月から2016年3月までに脳卒中片麻痺を呈して,当院回復期病棟へ入院した148名中,当院が独自におこなっている自動車運転評価を実施し,自宅退院となった37名を対象とした。方法としては,郵送にて対象者に対し調査目的,調査対象などを書面により十分に説明し,同意が得られた場合に限り返送してもらうこととした。アンケート内容に関しては,退院後における自動車運転の実施の可否など,12項目について質問形式にて実施し,2016年5月から7月末までの2ヶ月間を回収期間とした。</p><p></p><p>結果</p><p></p><p>回答数は,81.0%(30名/37名中)であった。アンケート結果は,自動車運転免許の保有者は24名,退院後に更新手続きを行った12名,入院中および退院後に臨時適正検査を受けた15名であった。自動車運転に関しては,現在も自動車運転を行っている者は21名であり,毎日運転をしている16名,週の半分程度1名,週に1回程度2名,月に1回程度2名であった。さらに,自動車運転の目的においては,仕事12名,買い物16名,移動手段14名,用事12名,趣味活動9名,特に目的は無い2名であった。運転を行っていない者は9名であり,入院前から1名,退院後から6名,半年前から2名であった。運転を行わなくなった理由に関しては,運転操作が困難のため1名,運転免許を有していないため1名,自動車が無いため1名,退院時に運転許可が出なかったため1名,特に理由は無い1名,家族の同意が得られないため3名であった。また,自動車運転における必要性に関しては,生活で必要であると答えた者25名であり,必要理由として,仕事の継続のため13名,楽しい生活のため12名,1人で自由に移動するため17名,便利だから14名であった。必要性が無いと答えた者3名の理由としては,自動車運転を諦めた1名,送迎サービスを利用1名,生活の中で必要性が無い2名,家族の協力があるため3名であった。</p><p></p><p>結論</p><p></p><p>日常生活における必要性だけではなく,社会参加や就労促進において自動車運転の可否は,移動手段として大きな影響を与えていることが推測された。自動車運転を取り巻く社会情勢の変化や道路交通法の改正により,障がい者における自動車運転の再開には,多くの課題がある。今後,自動車運転再開を円滑に遂行するにあたり,運転技能等の心身機能面や事故回避能力等の高次脳機能面などの関連性も含め検討し,障がい者の自動車運転支援プログラム確立へ向け,関係機関や家族との連携を図り,安全な移動の保障を進めていく必要性が示唆された。</p>
著者
向井 陵一郎 奥野 浩和 中川 博貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.G-71_2-G-71_2, 2019

<p>[目的]</p><p>&nbsp;脳卒中患者の就労に関する問題点は、運動麻痺や高次脳機能障害などの機能障害に加え、通勤手段や職場環境、仕事内容など多岐にわたるため、就労の意思があっても実現できない場合が少なからず存在する。今回、右被殻出血により左片麻痺、半側空間無視を呈した症例に対し、長期に渡り訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)を提供し、限定的ではあるが復職が可能となった症例を担当した。その経過について報告する。</p><p> [方法]</p><p> 症例は2014年11月に右被殻出血を発症し、開頭血腫除去術を施行。左片麻痺、半側空間無視を呈した50代の男性で職業は観光バスの運転手であった。2015年1月に急性期病院から回復期リハビリテーション病棟を有する当院に転院し同6月に退院。直後より当院による訪問リハが開始となった。開始当初の移動能力は、長下肢装具を利用しての自宅内T字杖歩行は見守りが必要で、屋外は車椅子介助であった。</p><p> [結果]</p><p> 1回40分の訪問リハを週3回34か月実施した。復職に必要な動作を調査したところ、自宅車庫までの歩行、屋外不整地歩行、自動車の運転が必要であった。これらの動作の自立を目的に神経筋再教育や立位荷重練習、屋外歩行練習、階段昇降練習を実施した。開始3か月後にはT字杖+短下肢装具(以下SLB)見守りとなったが開始9か月後も自立しなかった。そこで4点杖やロフストランド杖、松葉杖での歩行を評価し、最も安全性、安定性に改善がみられた松葉杖を使用することにした。開始11か月後から松葉杖+SLB歩行練習を開始し、開始19か月後には自立した。開始30か月後にはSLBなしでの歩行も自立した。また、松葉杖使用により立位可能時間が増加し、立位時に手掌で自重を支える必要もないため右上肢の自由度が増した。自動車の運転は開始時から自立していた。開始20か月後から職場での不整地歩行練習、トイレ動作練習を実施し複数回の練習の結果自立した。上記の動作は自立したが、観光バスの運転手復帰は困難であるため、病前の知識を活かし運行管理や社用車の車検取得、簡単な整備、必要書類の記入、提出などの業務を不定期ではあるが行っている。</p><p> [結論]</p><p> 本症例の復職には自宅内から車庫までの移動、屋外不整地歩行、自動車の運転自立が必要であった。これらの動作の自立には安定性、安全性の確保が重要であるが、残存能力を考慮するとT字杖の使用ではそれらが確保できなかった。そこで松葉杖を使用したところ安全性、安定性が大幅に改善し自立に至った。また、松葉杖の使用により立位可能時間が延長され、立位時に右上肢も使用できるようになったため役所等での書類の提出や立位での作業に有用となった。さらに、車の乗降、運転が自立したこと、職場が協力的だったこともあり復職がかなった。復職への課題は多岐に渡り短期間では解決できない点が多いため、長期的に訪問リハなどの支援を継続させることが重要だと思われた。</p><p>[倫理的配慮,説明と同意]</p><p>症例には本報告の目的、趣旨、個人情報の保護に関する説明を口頭と書面にて行い、本人の署名をもって同意を得た。</p>
著者
伊能 良紀 崎山 加奈 本間 昌大 西原 美樹 比嘉 育子 長尾 浩志 清水 かつみ 矢崎 真一 波照間 光茂
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.E1650, 2008

【はじめに】当院は、平成18年10月に八重山諸島唯一の回復期リハビリテーション(以下、リハ)病棟28床を開設した。八重山諸島は、周囲を海に囲まれ、石垣島を中心に大小8の有人島からなり、沖縄本島から約400km離れている。この地域は、医療・介護保険下のリハサービスの量が不足しており、また退院後の生活をサポートする環境が十分ではない。今回、このような地域での回復期リハ病棟の現状及び課題について報告する。<BR>【対象】平成18年10月1日から平成19年9月30日までの1年間に当院回復期リハ病棟を退院した患者104名(男性31名、女性73名)を対象とした。平均年齢は、79.4±12.4歳(男性72.4±14.9歳、女性82.7±9.8歳)であった。<BR>【現状】当院回復期リハ病棟は、専従医師1名、専従PT3名、専従OT1名、ST1名で行っている。発症から入院するまでに要した日数は37.0±13.4日、平均在院日数は87.5±42.2日であった。紹介元は石垣島内の急性期病院が87.5%と多く、沖縄本島の急性期病院からの紹介もあった。対象疾患別では骨折等49.0%、脳血管疾患等39.4%、廃用症候群10.6%、靭帯損傷等1.0%であった。退院先は、自宅51.0%、施設21.2%、療養病床13.5%であり、その他は急変等であった。ADL評価はBarthel Index(以下、BI)を用いた。退院時BIは、自宅退院群70.9±25.5、施設退院群39.3±34.3であった。<BR>【問題点・課題】最大の問題点は、自宅復帰率が低いことである。自宅復帰には患者の能力や認知症の有無等様々な要因に影響されるが、家族環境にも影響される。親族(二親等内の介護が可能な者)の石垣島在住者数をみると、自宅復帰群の退院時BI40以下(7名)は5.3±2.0人、一方施設退院群のBI85以上(4名)は3.7±1.2人であった。統計的な優位差はなかったが、親族が患者の身近にいる事で自宅復帰しやすい傾向にあるといえる。特に八重山諸島は他の地域と陸続きではないため、沖縄本島や本土にいる親族が介護のために八重山諸島へ帰るという事は経済的負担が大きいので難しい。よって地域内に親族が多い事が、自宅復帰の大きな要素の1つと考える。また、退院後の自宅生活を支援するサービスの量が圧倒的に不足している。昨年報告したようにPT/OT/STの人員不足と、通所リハでは一事業所あたりの利用者が、八重山諸島では26名(全国:9.6名)と多いことなど、サービス面の不足があげられる。これに加えてさらに、低い平均所得、高い物価、高い共働き率、地域の施設依存心もこの地域の在宅復帰率を下げる要因となっている。<BR>【終わりに】この地域では、家族環境や高い共働き率による介護力の低さ、高い施設依存心という問題点を抱えている。今後の課題として、自宅復帰率を増加していくために、早期から家族及びケアマネージャーと連携し自宅復帰を意識させたり、少ないサービスや介護力を有効に使い自宅復帰可能な環境設定を提供していく必要がある。
著者
濱中 康治 丸山 仁司 室生 祥
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B3O2101, 2010

【目的】<BR> 脳血管障害(以下、脳卒中)患者に対して急性期から効果的・効率的なリハを実施するためには、その症例の予後を正確に予測したうえで介入することが求められる。また、転帰先・転帰時期を決定するためにも発症後早期から予後を予測する必要がある。<BR> 脳卒中の予後予測に関して、Koyamaらによる対数モデルを用いた予後予測方法が報告されている。この方法は脳卒中の機能回復が自然対数曲線に類似していることに着目し、機能的自立尺度(Functional Independence Measure:以下、FIM)を複数回測定してその変化分を対数変換することで予測式を算出し、将来のFIM得点を予測するというもので、FIMの得点変化のみを用いるため臨床的に簡便で優れた方法である。ただし、この研究は発症後30日以上経過して回復期リハ病院に入院した症例を対象としており、急性期患者への適応の可能性は検証されていない。<BR> そこで今回の研究では、この対数モデルを用いた予後予測式の急性期への適応の可否を検討する。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は、2008年4月から2009年4月までに当院脳神経外科および内科に入院した脳卒中片麻痺患者で、その後回復期リハビリテーション病棟に転科、リハを継続して3ヶ月以上実施した29名(脳卒中再発・くも膜下出血を除く)。年齢は64.6±10.9歳、男性21名、女性8名、脳出血例20名、脳梗塞例9名であった。<BR> Koyamaらの対数モデルを用いた予測式とは、発症A日目のFIM総得点はFIM(days A)=βln(days A)+定数 に近似することを利用するもので、FIM得点変化ΔFIM=βln(Day B)-βln(Day A)=βln(Day B/Day A) β=ΔFIM[ln(Day B/Day A)]<SUP>-1</SUP> 発症X日におけるFIM予測値=FIM(Day A)+βln(Day X/Day A) (lnは自然対数)の計算式で算出する。<BR> FIMの採点はリハ介入開始時(発症から5.2±1.3日)、介入から2週時、1ヶ月時、2ヶ月時、3ヶ月時に実施した。リハ介入開始時と2週時のFIM実測値から2ヶ月時、3ヶ月時のFIM予測値を、2週時と1ヶ月経過時のFIM実測値から2ヶ月時、3ヶ月時のFIM予測値を算出し、病型別に各時期の予測値と実測値を比較した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象者には、本研究の主旨と方法について説明し、非侵襲性の評価であり治療上の効果判定の一環として実施する旨を伝え、同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 脳出血例において、リハ介入開始時と2週時のFIM得点から得られた予測値と実測値は、2ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.666、3ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.660、2週時と1ヶ月時のFIM得点から得られた予測値と実測値は、2ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.886、3ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.734となった。脳梗塞例においては、リハ介入開始時と2週時のFIM得点から得られた予測値と実測値は、2ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.910、3ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.837、2週時と1ヶ月時のFIM得点から得られた予測値と実測値は、2ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.921、3ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.872と高い相関を示した。<BR><BR>【考察】<BR> 今回の結果から、対数モデルを用いた脳卒中患者の予後予測方法は、脳出血・脳梗塞、どちらの病型においても、急性期からの予後予測が一定水準以上の精度で可能であると言える。しかし、脳出血例ではリハ介入開始時のFIM得点を用いた場合は予測精度がやや低下した。これはリハ介入開始時に意識障害を伴う症例も多く、2回のFIM採点の間に認知FIM項目が大きく改善したために予測精度が低下したものと考えられる。また、急性期は医学的管理のために症例の活動が制約されていることも予測精度の低下につながっていると思われる。ただし、おおよそ医学的管理上の活動制限が解かれたと思われる2週時と1ヶ月時のFIM得点を用いた場合は予測値と実測値が高い一致率を示しており、予後予測の精度は概ね保障されたと言える。今後は医学的管理上の制限が無くなった時点で初回のFIMを採点し予測に用いることで、更なる予測精度の向上が望めるのではないか。また、この予測方法を脳卒中急性期に導入した場合、多くの症例で実測値が予測値を上回る傾向があったため、臨床的には有益で導入しやすい方法であると考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 急性期脳卒中患者に対しての適応が証明されることで、簡便な方法で正確な予測が可能となり、早期から予後を見据えた介入が可能となるため、臨床的に有意義な研究であると考えられる。
著者
岡崎 哲也
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.164_0-164, 2011

回復期リハビリテーション病棟では高齢者が多く、脳血管疾患、運動器疾患にかかわらず認知機能の把握を求められます。初心者を対象として高齢者への施行を念頭に比較的簡便な認知機能の評価について概説します。
著者
中沢 洋三
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

FLT3/ITD遺伝子変異を有する急性骨髄性白血病(AML)患者の生命予後は不良である。FLT3/ITD遺伝子変異AML細胞株(MV4-11)はGM-CSF受容体(GMR)を高発現する。そこで、GMRと特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)を構築し、GMR CARを発現する遺伝子改変T細胞を樹立した。GMR CAR-T細胞とMV4-11細胞を1:5の比で混合し5日間培養したところ、GMR CAR-T細胞はMV4-11細胞の98%を死滅させた。GMR CAR-T療法はFLT3/ITD遺伝子変異陽性AMLの治療に有用である可能性が示唆された。