著者
松澤 通生
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.402-412, 1986-05-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
47

常識に反して, 異常に膨脹した原子がこの世の中に存在する. 一つの電子が高い主量子数を持つ軌道に励起された状態にある原子を高リュードベリ原子と云い, これが上記の膨脹した原子の正体である. 原子の世界での最も簡単な系でもある. 静かにそっとしておくと寿命は長いが, 他粒子と出会うとすぐこわれやすい. 超高真空が実現している星間空間では半径0.02mm程度の原子が存在する. 地上でも 10-4cm 程度の半径の原子を実験室で作れるようになった. この励起原子は風変わりな存在で, 原子の世界でのスケールから大分かけ離れた挙動を示す. 本解説ではこの励起原子のいささか "非常識" な振舞について解説し, その正体を明らかにする.
著者
竹田 琢
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.23, no.Special, pp.S133-S140, 2024 (Released:2024-03-20)

大学の授業で行われるグループワークでは,しばしば雑談が行われている。雑談は関係構築機能を有するが,授業内グループワークにおいては学習目標を阻害するものとして扱われ,雑談に焦点を当てた検討はほとんどなされず,その相互行為の内実は明らかにされていない。そこで本研究では相互行為分析の手法を用いて,グループワークにおける雑談に焦点を当て,学生がグループワークにおける雑談を通じて何を達成しているのかについて検討を行う。対象は短期大学の授業における最終回で行われた振り返りを目的とするグループワークである。分析では,まず雑談がグループワークにおいて頻繁に発生していることを検証した。次に相互行為分析により,雑談の前後を含む場面の検討を行った。その結果,学生は雑談することで志向を共有し,全員で新たな話題に参加していることが明らかになった。学生はグループワークを全員が参加できるものにするために,雑談を利用している可能性が示された。
著者
尾木 竜司 池田 大輔
出版者
計量国語学会
雑誌
計量国語学 (ISSN:04534611)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.571-585, 2023-03-20 (Released:2024-03-20)
参考文献数
8

文章には書き手の個性が表れ,その個性は大きく変化しないこと(個人内恒常性)が知られている.逆に,メンタルヘルスの異常など書き手の内面の大きな変化が恒常性の崩壊につながることを示せれば,文体的特徴の変化から内面の変化を検出できるようになる可能性がある.特定の個人に対し,内面の大きな変化によって文体的特徴が変化することが示されているが,内面に同じ変化を持つ集団を集めるのは困難であり,統計的には示されていない.本研究では,出産は内面に大きな変化を与えると考え,出産経験のある女性らのブログの文体的特徴を調べた.単語の使用率など文章の内容に依存する特徴を用いると,書き手の内面の変化ではなく生活環境の変化を検出してしまう.そこで,非内容語の使用率や品詞のbigramの出現率などの,文章の内容に依存しない特徴を用いた.検証した全ての特徴において,出産を経ることで通常の変動よりも変化することがわかった.
著者
神前 英明
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.129-135, 2022 (Released:2022-12-28)
参考文献数
47

上気道における代表的な好酸球性炎症,アレルギー性炎症をきたす疾患として好酸球性副鼻腔炎,アレルギー性鼻炎があげられる。好酸球性副鼻腔炎は,手術後も再発が多いため,難治性疾患として扱われている。その病態として,抗原の感作なしに2型炎症を誘導する自然型アレルギーの関与が強いことが知られている。上皮細胞から産生された上皮由来サイトカイン(TSLP, IL-25, IL-33)は,2型自然リンパ球(ILC2)や病原性記憶Th2細胞を介して大量の2型サイトカイン産生を誘導し,好酸球浸潤,ムチン産生,杯細胞の過形成など,好酸球性副鼻腔炎に特徴的な組織像が形成されると考えられる。近年,病態の解明に伴うバイオ製剤の登場により,恩恵を得られる患者が増えている。アレルギー性鼻炎は,世界中で患者が増加しており,本邦では人口の半数が罹患していると推定される。アレルゲン免疫療法は,アレルギー性鼻炎に対する高い有効性が示され,長期的な寛解や治癒が期待できる唯一の方法である。アレルゲン免疫療法の作用機序は,IL-10,IL-35,TGF-β,IgG抗体の増加および制御性T細胞の誘導によって特徴づけられる免疫寛容の獲得に基づいている。しかしながら,アレルゲン免疫療法を行うことでなぜ長期寛解が得られるか,その全貌はまだ明かにされていない。いずれも2型炎症またはIgE依存的アレルギー炎症が特徴となる疾患で,これらの炎症を制御することが治療につながると考えられる。我々が行ってきた研究を中心に,好酸球性副鼻腔炎の病態と,アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法の作用機序について解説する。
著者
上山 隆大
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.370-373, 2024-02-29 (Released:2024-03-07)

The Council for Science, Technology, and Innovation (CSTI) requires high-quality evidence to effectively function as the government's central coordinating body. To aid in its strategic planning and allocation of resources, CSTI has formed a specialized team and developed the e-CSTI system. This system includes a comprehensive database designed to analyze the distribution of the national budget, university operating costs, competitive funding, and the correlation between researcher productivity and outputs like academic papers and patents. Additionally, e-CSTI facilitates the identification of priority areas through detailed analysis of research outcomes, funding allocation, and expert assessments. The 6th Science, Technology, and Innovation Basic Plan has introduced a proposal for creating a Think Tank dedicated to Safety and Security, and preparations for its establishment are currently underway. I would like to extend my sincere thanks to everyone involved for their significant contributions to the development of e-CSTI.
著者
寺﨑 昌男
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.7-21, 2010-05-25 (Released:2019-05-13)
参考文献数
15
被引用文献数
2

職員の組織的な能力開発(SD)は,その必要性と重要性にもかかわらず,効果的なプログラムの実現,体系的なカリキュラムの編成の面で多くの課題を抱えている.本稿では,現在日本の大学で実現されている五つの能力開発ステージを取り上げて,おのおののメリットとデメリットを点検し,今後の活用方法を考察する.次いでSD のミニマム・エッセンシャルズを,①大学の本質への理解,②自校理解の形成,③大学政策への理解という3点に絞って提言する.さらにSD の目標は企画能力の養成にあるのではないかという観点から,職員のライフステージに即応したSD プログラムが必要ではないかと論じ,さらにFD と結合したSD のあり方を論じ,職員の専門性を保障する人事コースをどのように創るかというテーマについて提案を試みる.
著者
蛯谷 孟弘 加藤 拓巳
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.21-29, 2024-03-19 (Released:2024-03-19)
参考文献数
22

近年,商品機能を過剰に表現した「過剰広告」が散見される。それら過剰広告が消費者の知覚に及ぼす影響については,これまで盛んに議論されてきた。既存研究の多くは過剰広告の負の影響について論じたものだが,以下2つの条件では正の影響を及ぼす;(1)消費者がブランドに好意的な態度を有する,(2)過剰さを受容しやすい国民性を有する。しかし,これら既存研究は消費者の態度や属性に依拠しており,消費者に魅力的に映る過剰広告の要素についての議論は乏しい。そこで本研究は柔軟剤広告を対象に,過剰な要素として香り(私益)とエシカルさ(公益)を挙げ,各要素を過剰に訴求した場合の広告の魅力について,以下2つの仮説を導出した。H1:柔軟剤広告の香り要素(私益)の表現は,過剰と知覚された場合,広告の魅力に負の影響を与える。H2:柔軟剤広告の過剰なエシカル要素(公益)の表現は,過剰と知覚された場合,広告の魅力に正の影響を与える。ランダム化比較試験の結果,2つの仮説は支持された。よって,消費者の知覚する広告の魅力を高めるために過剰広告の公益要素は効果的であり,企業は積極的に消費者に訴求すべきである。
著者
金 昭英
出版者
University of Tokyo(東京大学)
巻号頁・発行日
2015

審査委員会委員 : (主査)東京大学教授 影浦 峡, 東京大学准教授 李 正連, 東京大学教授 小国 喜弘, 東京大学教授 秋田 喜代美, 東京大学客員教授 根本 彰
著者
坂本 亘 井筒 理人 白旗 慎吾
出版者
日本計算機統計学会
雑誌
計算機統計学 (ISSN:09148930)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1-2, pp.55-94, 2009-05-31 (Released:2017-05-01)
参考文献数
100

スプラインによる平滑化の研究の近年の動向を概説する.平滑化(罰則付き)スプラインが混合効果モデルで表現できるという点が注目されている.打ち切りベキ基底を用いる罰則付きスプラインは,そのまま混合効果モデル表現に帰着され,スプラインや罰則項の複雑な計算を回避することから,とくに有用である.罰則付き回帰問題とBayes流接近法との関連も重要である.罰則付きスプラインの滑らかさを制御する平滑化パラメータの選定問題では,従来は(一般化)交差確認法の利用が主流であった.しかしながら,混合効果モデルの分散パラメータの推定問題に帰着されうることから,制限付き最尤推定法(REML)またはこれと同等な経験Bayes法がより有用であり,実際に主流になりつつある.罰則付きスプラインによる線形(多項式)回帰仮説の検定は,ランダム効果の分散が0であるか否かの検定に帰着され,制限付き対数尤度比統計量が有用とされている.ただし,その帰無分布は漸近的には得るのが困難であり,乱数を用いて再現される.シミュレーションにより,対数尤度比統計量よりも平滑化パラメータのREML推定量自体が高い検出力を与えることが示される.最後に,罰則付きスプラインは諸種の回帰モデルへの拡張が可能であり,その推測方法は混合効果モデル表現およびBayes流接近法により展開される.
著者
大橋 真也
出版者
一般社団法人 CIEC
雑誌
コンピュータ&エデュケーション (ISSN:21862168)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.18-23, 2022-06-01 (Released:2022-12-06)
被引用文献数
1

新学習指導要領の共通教科情報において,データサイエンスが新出項目として導入される。情報におけるデータサイエンスの扱いは,「情報Ⅰ」においてはデータの整理や分析,可視化の手法を中心とした内容であり,「情報Ⅱ」においては,機械学習などAIの基礎を学ぶ高度なプログラミングも含まれている。ここでは,共通教科情報と大学の情報教育との接続についてや現場である高等学校における現状について,新学習指導要領および教科書等をもとに考察した。
著者
今村 洋一
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画報告集 (ISSN:24364460)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.598-603, 2024-03-11 (Released:2024-03-11)
参考文献数
47

本研究では、甲信越三県の国立大学(山梨大学、信州大学、新潟大学)を対象に、旧軍施設の転用実態を整理する。山梨県では、罹災した山梨師範学校と山梨工業専門学校が、近隣接する旧軍施設(旧歩兵第49連隊)に移転し、新制移行後、その校地と元の校地の一帯に集約移転した。長野県では、非罹災の松本医学専門学校が、郊外の旧軍施設(旧歩兵第50連隊)に移転し、新制移行後、松本市内に限っては、その校地及び隣接地に集約移転した。新潟県では、新潟第二師範学校が、隣接する城址の旧軍施設(旧第13師団司令部)に女子部を開設して校地を拡張した。また、非罹災の新潟青年師範学校や新潟県立農林専門学校は、他都市の旧軍施設(旧歩兵第16連隊、旧歩兵第16連隊第3大隊)に移転した。新制移行後は、新潟市郊外の新たなキャンパスへの集約移転が進められた。
著者
今村 洋一
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画報告集 (ISSN:24364460)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.592-597, 2024-03-11 (Released:2024-03-11)
参考文献数
59

本研究では、北陸三県の国立大学(富山大学、金沢大学、福井大学)を対象に、旧軍施設の転用実態を整理する。富山県では、罹災した富山師範学校が、郊外の旧軍施設(旧歩兵第35連隊)に移転し、新制移行後30年以上かけて、その校地及び隣接地に集約移転した。石川県では、非罹災の金沢高等師範学校や石川青年師範学校が、郊外の旧軍施設に移転した。一方、占領軍の方針もあり、城郭部の旧軍施設が新制金沢大学のメインキャンパスとなり、集約移転が進められた。福井県では、罹災した福井師範学校が、郊外の旧軍施設(旧歩兵第36連隊)に移転した。また、後の福井地震で罹災した福井青年師範学校も郊外の旧軍施設(旧歩兵第36連隊)に移転した。新制移行後は、福井市内の工学部周辺への集約移転が進められた。
著者
百鳥 直樹 小泉 公乃
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.24-41, 2024 (Released:2024-02-29)
参考文献数
73

本研究の目的は,2000 年代前半の国立大学改革によって変化した国立大学図書館組織を類型化したうえで,その特徴を解明することである。現在の国立大学図書館組織を8 つに類型化し特徴を明らかにした。組織分類の特徴から,1)法人化前の組織形態を継続する組織,2)学内の他部門と統合した組織,3)図書館以外の業務も担当する組織と,組織が多様化していることを確認した。また,法人化前後の比較や学部数による大学規模の分析から, 大規模な国立大学(8 学部以上)が法人化前の組織体制を継続しているのに対し,中小規模の大学(7 学部以下)では他部門組織との統合,統合に伴う管理職数の削減,図書館管理職の職位の格下げが行われていることが明らかになった。そして,これら組織再編の多くが,大学全体の業務の合理化・集約化を目的に行われた。
著者
服部 恒明 廣原 紀恵
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.127, no.2, pp.73-79, 2019 (Released:2019-12-18)
参考文献数
31

戦後日本人の身長が年年増加を続けたことは多くの時代差研究で明らかにされてきた。この伸長化の傾向は1994年から2001年あたりをピークに終了したとされ,高径のプロポーションは今後変わることはないだろうという指摘がされている。本研究は,学校保健統計調査報告書(文部科学省)のデータを用いて,成人値に最も近い17歳の日本人青年における座高と下肢長の変化を戦後から現代までBody Proportion Chart法によって観察した。このチャート法により,身長,座高,下肢長および座高に対する下肢長の比の経年変化を同時に観察した。その結果,現代の青年は身長の増加は止まったが,座高の増加と下肢長の減少が同期してみられることから,高径のプロポーションは今なお変化していることが明らかになった。この経年変化は,対象集団の中で座高が高くなる資質をもった人の割合が増加したことに起因する可能性がある。それをもたらした要因として,対象集団の親世代において,長胴傾向にある女性で出産割合がより高いことなどが推測された。日本の青年の高径比率が依然として変化していることを考慮すると,今後その変化の要因を検証するうえでも,座高の測定は学校保健調査の一環として再開されることが望まれる。
著者
前田 勇樹 川畑 宗太
出版者
国公私立大学図書館協力委員会
雑誌
大学図書館研究 (ISSN:03860507)
巻号頁・発行日
vol.125, pp.2161, 2024-03-31 (Released:2024-03-01)

琉球大学附属図書館では,2021年度からYouTubeによる情報発信を行っている。所蔵する貴重資料やデジタルアーカイブに関するコンテンツを中心にこれまでに100本以上の動画を公開した。本稿では,琉球大学附属図書館のYouTubeを活用した広報事業について,その経緯やコンセプトおよび実施中の事業を詳述し,現段階での外部からの評価をもとに課題を提示した。