著者
上尾 真道
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文学報 = Journal of humanities (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
no.109, pp.1-32, 2016

本論は, フロイトの代表的著作である『夢解釈』の冒頭にかかげられた銘, 「天上の神々を説き伏せられぬのなら, 冥界を動かさん」から出発して, 精神分析の始まりを印すフロイト思想に新たな光を投げかける試みである。第一節では, 『夢解釈』が出版される一八九九年以前のフロイトに着目しつつ, この著作の執筆が, 神経症論の著作の断念によって可能となったものであることを確認する。またそこでは, 上記の銘の由来であるヴェルギリウスの『アエネーイス』を参照しながら, 『夢解釈』の執筆が, この断念に対する一種の復讐であり, 一般的神経症論の転覆を企図するものであったことを確かめる。そこにおいて我々は, 正常と異常のあいだの分断を撹乱し, これに代えて諸葛藤の平面の理論を構築しようとするフロイトの姿を認めることとなる。続く第二節では, このようなフロイトの姿を『ヒステリー研究』における抑圧理論との関連から吟味する。そこでは連続的な表面のうえを伝播する力としての抑圧概念の意義が確認される。さらに第三節では, 『夢解釈』におけるフロイト独自の叙述スタイルが, 臨床的な夢解釈のスタイルと平行的であることを論じ, その特徴としての多重性について明らかにする。第四節においては, 上記のような視座を反映するものとして, 迷宮状の心的構成を描き出す『ヒステリー研究』の一節を検討するとともに, 同時にそれとは異なる理論化の方向性との関係を見る。この後者とは, 心的構成を階層化によって整理しようとするものであり, 力の伝播の問題を垂直的な分断性に変換するものと考えられた。最後に第五節では, この後者の理論化の方向性を, 『夢解釈』の背景でフロイトが取り組んだ父性の問いとの関連で考察する。そこでは父への「畏敬」との関連のもとで, 夢の荒唐無稽性が, 諸葛藤の平面としてではなく, 地下性として上層に対立するようになることを確認した。こうして本論はフロイトが, 深層を理論化するにあたり二重の立場のあいだで揺らぎつつ, 思考していることを明らかにした。This paper will try to shed a new light onto Freud's thoughts that mark the birth of psychoanalysis, by rethinking the epigram of his The Interpretation of Dreams, Lectere si nequeo superos, acheronta movebo. In the first section, it will be argued that Freud's renouncement to write a book on the topic of neurosis allowed him to engage in another project, a philosophical work about dreams. According to the original context of the epigram, Virgil's Aeneid, this book could be thought of as revenge as well as a subversion of general neurological discourse of that era. Here we can find Freud disrupting the division between normality and abnormality, and constituting a surface of plural conflicts. In the second section we reconsider the notion of "repression" in his Studies on Hysteria, in order to clarify the significance of this notion as a force circulating on the continuous surface. In the third section, we take a closer look to Freud's discursive style in The Interpretation of Dreams, which would be parallel to that of clinical procedure of interpretation of dreams, featured by overdetermination. In the fourth section, we examine several passages from Studies on Hysteria illustrating psychical arrangement like labyrinth, as well as another type of organization considered opposed to the former. Finally, in the fifth section we consider the problem of paternity in order to see how it would make it possible to reorganize the absurdity of dreams as undergroundness. We will thus find two alternating figures of Freud theorizing "the depth".
著者
平川 善之 原 道也 藤原 明 花田 弘文 森岡 周
出版者
日本疼痛学会
雑誌
PAIN RESEARCH (ISSN:09158588)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.23-32, 2013-03-10 (Released:2013-04-04)
参考文献数
29
被引用文献数
2

Total knee arthroplasty (TKA) is a surgical treatment for conditions such as knee osteoarthritis; the treatment aims to relieve knee pain and improve quality of life. Treatment outcomes are stable; however, it has been reported that postoperative pain becomes chronic in 15 - 20% of cases. The aim of this study was to examine the factors involved in the chronicity of postoperative pain by investigating the effects of cognitive and psychological factors on postoperative pain at 3 weeks, 5 weeks, and 4 months post-operation. Subjects were 50 patients who underwent TKA (8 men and 42 women, mean age: 74.8 ± 6.5 years). Cognitive factors in this study comprised an assessment of neglect-like symptoms; such symptoms included decreased “cognitive function regarding the existence of one's own limbs" or “cognitive function regarding the motion perception of one's own limbs." The severity of these symptoms was assessed using the method described by Galar et al. Psychological factors comprised assessments of anxiety and catastrophic thinking about pain. Anxiety was assessed using the state-trait anxiety inventory, while catastrophic thinking about pain was assessed using the pain catastrophizing scale (comprises categories of helplessness, magnification, and rumination). Postoperative pain was assessed using a visual analog scale (VAS). Multiple regression analysis by using VAS as the dependent variable and all other factors as independent variables showed the following factors to be significantly correlated with VAS: neglect-like symptoms at 3 weeks, 5 weeks, and 4 months post-operation and rumination at 3 weeks and 4 months post-operation. Sensory integration becomes difficult because of decreased sensory function in neglect-like symptoms; this is thought to be caused by body image becoming inaccurate. On the basis of these findings, it is considered necessary to approach for the improvement of sensory function in postoperative rehabilitation. In addition, rumination is persistent in pain, which is believed to result in a prognosis of a psychological state of severe anxiety. Therefore, methods for dealing with postoperative pain and giving patients a prognosis that is as precise as possible are thought to be necessary. These measures are thought to be factors in relieving postoperative pain and preventing it from becoming chronic.
著者
藤掛 英夫 曾田 田人 滝沢 國治 菊池 宏 河北 真宏 米内 淳
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. C, エレクトロニクス (ISSN:13452827)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.165-169, 2000-02-25
被引用文献数
5

ポリマー分散液晶のポリマー形成機構を探るため, 液晶含有率が高い光重合相分離において, 多様な分散形態が得られるチオールエン系ポリマーの自己組織化現象を, 環境制御型電子顕微鏡により観察した.その結果, 液晶含有率の増加に伴って, ポリマーが泡膜状から, 微粒子の凝集したネットワーク繊維状へと変化する現象が初めて確認された.それらの形成には, 重合途中の液状ポリマー若しくは混合液の界面張力が関与した可能性が高く, 相分離に伴う過渡的で不安定な分散形態が, その後のポリマー硬化により急速固定されたものと推察される.
著者
藤本 篤士
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.369-372, 2007-03-31 (Released:2011-12-05)
参考文献数
3
著者
秋山 卓美 清水 久美子 藤巻 日出夫 内野 正 最上(西巻) 知子 五十嵐 良明
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-250, 2014 (Released:2014-08-26)

【目的】4-(4-Hydroxyphenyl)-2-butanol(ロドデノール)を配合した美白化粧品の使用者に白斑が生じる事例が多数発生し,大きな問題になった.我々はロドデノールが皮膚のメラノサイトやケラチノサイトを傷害している可能性があると考え,ロドデノール及び製造原料である4-(4-hydroxyphenyl)-2-butanone(ラズベリーケトン)が各種細胞に与える影響を調べた.また,これら化合物の細胞内酵素による化学変化についても検討した.【方法】ロドデノール配合製品にメタノールを加えて超音波処理した後,キラルカラム及びODSカラムを装着したHPLCに供した.ロドデノール,ラズベリーケトン及びそれぞれの酸化体を市販正常ヒトメラノサイトまたはHaCaT細胞に添加し,ATP量を指標に細胞生存率を求めた.培養上清及び細胞破砕液についてLC/MS分析を行った.さらに,これら化合物の水溶液を酸素ガスでバブリングし,マッシュルーム由来チロシナーゼを加えて反応させた後,LC/MSで分析した.【結果及び考察】製品に使用されていたロドデノールは光学異性体混合物であり,R:S存在比はほぼ1:1であった.ロドデノール中のラズベリーケトン,製品へのラズベリーケトンの混入はごくわずかであった.ロドデノールの酸化体はメラノサイト及びHaCaT細胞のいずれに対してもロドデノール及びラズベリーケトンに比べて強い細胞毒性が認められた.ロドデノール及びラズベリーケトンを添加した細胞の培養上清中にはそれぞれの酸化体が検出された.またこれらの化合物はチロシナーゼを直接処理すると酸化体に代謝されることを確認した.以上の結果より,ロドデノールはチロシナーゼ等により酸化体に代謝され,これらがメラノサイトの細胞死に強く関わることが示された.
著者
日本ビクター和洋合奏団
出版者
ビクター
巻号頁・発行日
1928-05
著者
前野 竜太郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3198-E4P3198, 2010

【目的】静岡県中部地域では,1997年より「外国人のための無料健康相談と検診会」を同実行委員会の主催のもと行っている.検診会を続ける中で,特に2002年度より3年間,受診者の最も訴えの多い症状は腰痛であった.このため2006年度より,腰痛対策として腰痛教室を行ってきた。そこで集められたデータをもとに今回,1.静岡県中部在住の外国人の腰痛の現状を明らかにし,2.通訳を交えて母語による腰痛教室を行った効果について検討したので報告する.<BR><BR>【方法】無料健康相談と検診会」の腰痛教室に参加した対象者に,母語に翻訳されたパンフレットを用いた腰痛体操指導や,日常生活動作指導の効果について,また,腰痛と日常生活動作との関係,腰痛への対処方法,予防などについて,自己記入または通訳者代筆記入による質問紙調査(スペイン語,ポルトガル語,英語,日本語)を行った.腰痛教室の方法としては, 1.個別に腰痛予防としての日常生活動作の指導を逐語訳にて説明しながら,2.通訳による問診にて,腰痛の症状や部位,頻度などを確認した後,3.個別に腰痛体操を処方した.4.体操の内容は,ストレッチング,腹筋筋力強化,背筋筋力強化の3種類であり,各1種類,計3種類の体操を処方し,5.会場内のリハ室にて個別に通訳付でPTが指導を行い、体操を実践してもらった.<BR><BR>【説明と同意】アンケートに関しては,事前にアンケートの説明を行った後,協力いただける場合のみ回答してもらった.また、回答したくない項目には空欄としてもらい,通訳を介して記入する場合は,事前に通訳者が記入してよいか事前承諾をお願いした.アンケート自体に回答したくない場合は,アンケート回答は強制しない旨通訳を交えて説明を行った.<BR><BR>【結果】1.基礎データ›日時:2006年10月30日,2007年11月11日,2008年11月9日.会場:静岡厚生病院(静岡市).対象者:腰痛患者のべ38人(男17人,女20人,不明1人).年度毎にそれぞれ19人(2006),9人(2007),10人(2008)であった.国籍;ブラジル11人,ペルー8人,フィリピン6人,中国3人,モンゴル,日本各2名の順に多数を占めた。ブラジル人とペルー人その他中南米系外国人が最も多く、22人と全体の57.8%を占めた.毎年、スペイン語,ブラジル(=ポルトガル)語の通訳付きで腰痛教室を受けたものが50%以上を占める.全外国人のうち、年齢別に最も多かったのは30歳代15人(39.4%)で,次いで40歳代11人(26.3%),20歳代8人(21.1%)の順で,合わせて86.8%を占めた.‹2.腰痛の現状›「普段の生活で、どのような姿勢の時に、痛いか」,「中腰」18人(47.4%),「寝ているとき」15人(39.5%),「椅子に座っているとき」11人(28.9%).「どのような作業の時に、痛みが増強するのか」,「立った姿勢での労働作業」31人(81.6%),「重いものをもって運ぶ」20人(52.6%).「痛くなった時の対処方法」,「安静にする」20人(52.6%),「市販薬を使う」15人(39.5%).「腰痛をおこさないために、日頃から、行っていることがあるか」,「特に何もしていない」15人(39.5%),「運動をする」14人(36.8%),「姿勢に気をつける」11人(28.9%).また、BMI25以上の者は,16人(42.1%)であった.‹3.指導効果›「腰痛体操は、役に立った」31人(81.6%),「毎日の生活の中で腰痛体操はできる」32人84.2%),「今後、腰痛体操、生活の仕方等の指導が必要」28人(73.7%).<BR><BR>【考察】1.腰痛は,国籍に関係なく20代後半~40歳代の働き盛りの成人に多い。2.また作業時、「立った姿勢での労働作業」時や「重いものをもって運ぶ」時に、痛みが増強する者が多く、それが非作業時にも慢性痛として影響を及ぼしている可能性がある.3.腰痛時には,何らかの自己対処を行っているものが多く,腰痛予防について,軽い運動をする者が見られる一方で,何も行わない者も多い. 4. 腰痛を抱える者の半数近くが肥満であったが,日頃から体重を増やさないように肥満対策をしている者は2名と少ない.5.事前の腰痛対策の有無のアンケート結果から見て,母語を用いた逐語通訳による腰痛体操指導,日常生活指導パンフレットを用いて,通訳を交えて行った腰痛教室は効果があった.6.また腰痛予防の意識付けとして日常生活動作指導には効果が見られ、その結果は、更なる自己対処法の要求へとつながっていた。7.しかし、腰痛体操指導は、ほとんどの者が通訳を必要としており、結果個別対応で施行せざるを得ない現状であり、有効なチャートの作成など集団への対応が今後の課題である.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】1.労働条件・環境ともによいとは言えない成人外国人の腰痛の現状を明らかにできた。2.外国人に腰痛教室や日常生活動作指導を行うことが有効であり,継続していく必要があることが明らかとなった。
著者
"大倉 充/塩野 充/橋本 禮治" "オオクラ ミツル/シオノ ミツル/ハシモト レイジ" "Ohkura Mitsuru/Shiono Mitsuru/Hashimoto Reiji"
雑誌
岡山理科大学紀要. A, 自然科学
巻号頁・発行日
vol.30, pp.319-327, 1994

"Handwritten HIRAGANA characters are classified according to whether they have DAKUTEN (or HAN-DAKUTEN) or not by the 3-layer neural networks. The input data to the networks is 25-dimensional local mesh-feature extracted from an original character pattern. The numbers of units of three layers are 25 (input-layer), 25 (hidden-layer) and 2 (output-layer). The numbers of training and unknown samples used in a classification experiment are 6900 and 5000,respectively. The average classification rate of 94(%) for the unknown samples is obtained."
出版者
日経BP社
雑誌
日経食品マーケット
巻号頁・発行日
no.2, pp.14-16, 2003-08

マイカルの経営破たんに伴い、関連会社で、東北に7店舗を持つダックビブレ(当時)も連鎖倒産した。約1年後の2002年5月。民事再生法による再生計画の認可が決まり、企業再建ファンドの支援で、同社は本格的な再建に乗り出した。9月には社名を「さくら野百貨店」(仙台市)に変更し、地域密着型の百貨店として再出発した。

2 0 0 0 OA 社会廓清論

著者
山室軍平 著
出版者
警醒社書店
巻号頁・発行日
1914
著者
河野 隆二
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.87, no.5, pp.396-401, 2004-05-01
被引用文献数
12

Ultra Wideband(UWB)無線技術は,ワイドバンドCDMAによる第3世代移動通信システムIMT-2000やIEEE802, 11a, b, gの無線LANなどの広帯域無線に比べて,はるかに広帯域を用いることにより,マイクロ波帯の無線PAN (Personal Area Network)では超高速(100Mbit/s以上)伝送を実現し,ユビキタスでブロードバンドな無線アドホックネットワークをサービスすることができる.UWB技術は超高速伝送ばかりでなく,超高分解能な測距測位が実現できるため,今後の高度無線アクセスのコア技術として期待される.