著者
神代 健彦
出版者
一橋大学
雑誌
一橋社会科学 (ISSN:18814956)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.215-239, 2009-08

本稿は、近代日本における勤労青少年の教育訓練機関であった青年学校(一九三五~四七)について、そこで教育を遂行する教師たちに焦点を定め、その教育にかかわる認識論について考察することを目的としている。本稿では、研究史上で蓄積の薄い商業青年学校である東京市日本橋区第三青年学校を対象事例とし、そこで実行された生徒の生活・心理調査(以下『調査』)に通底する教師の認識枠組みを検討した。なお、分析に際しては、社会学者ニクラス・ルーマンのシステム論を援用しており、よって本稿は、この一般理論の個別具体的事例への適用という側面を備えている。得られた結論は、以下の通りである。一、二段構えの認識枠組み『調査』は、社会科学的・心理学的分析枠組みに加え、それを実践へと繋ぐための媒介として、哲学的、あるいは形而上学的な認識枠組みが同居して遂行されていた。そこには、<単純化>、<本質化>、<時間化>と本稿で名づけた、矛盾や飛躍、誤謬が存在した。二、教育の可能性の条件としての矛盾、飛躍、誤謬しかし、その矛盾や飛躍、誤謬は単なる偶発的な事象として理解すべきものではなく、むしろ、生徒=勤労青少年に対する教育が可能であり、且つ必要であると教師が考えうるための条件であった。これは換言すれば、ルーマンが言う<複雑性の縮減>や<媒質>などのキーワードに符号するものであり、まさに、彼が想定する教育システムなるものの、第三青年学校の教師たちによる教育の営為における個別具体的顕現であったと言える。
著者
秋山 礼子 岡本 裕樹 鳥 祐陛 新井 恒行 石井 雄大 安江 忠晃
出版者
法政大学懸賞論文審査委員会
雑誌
法政大学懸賞論文優秀論文集
巻号頁・発行日
vol.37, pp.1-18, 2015-05-29

2011 年の世界の喫煙者数はおよそ 14 億人に達し、世界の人口全体の 22.5%が喫煙をしている(WHO2011)。ベトナムにおける喫煙率は 23.8% と世界水準と同等であるが、男性の喫煙率は 47.4% であり、世界水準と 10% 以上の大きな差がある。一方で女性は、世界水準を大きく下回る 1.4% の喫煙率である。Ministry of Health はタバコ税を 2015 年に現在の 65% から 105% までに増税する提案をした。また、2018 年までに 145% から 155% に増税することも計画されている。増税によって喫煙率の減少は予測されるが、タバコには中毒性があり、喫煙者にとって禁煙はたやすいことではないのも事実である。ベトナム政府は増税の提案をしている一方で、年々上昇しているタバコの密輸への有効な政策を見出せていないことが大きな課題となっている。また、タバコ消費量の減少により、タバコ市場は縮小し、タバコ産業に従事している者は、雇用機会を失うことになるだろう。このような不利益がある中で、最も好ましい価格はいくらなのか。タバコの適正価格についての研究は未だ少ないが、後藤(1998)は、「社会コストを負担した均衡価格」の一般理論を展開していて、タバコの適正価格を算出している。これに対して河野(2008)は、後藤の算出方法、社会コストの定義に関して、経済学の視点からみると疑問が感じられると述べている。そこで本稿では、経済メリットと社会コストを用いて、最適なタバコ価格は 2.2 倍であると結論付けた。また、ベトナムの大きな課題となっている密輸は増税する際に考慮すべき問題ではないことを明らかにする。
著者
菅沢 龍文
出版者
法政大学文学部
雑誌
法政大学文学部紀要 = Bulletin of Faculty of Letters, Hosei University (ISSN:04412486)
巻号頁・発行日
no.70, pp.13-29, 2014

Kant hat in seiner im Jahr 1791 veröffentlichten Abhandlung „Über das Mißlingen aller philosophischen Versuche in der Theodizee" das Buch Hiob (Ijob) des Alten Testaments erwähnt und sein Verständnis für Hiob gezeigt. Was ist das Glück, das Hiob verloren hatte und ihm danach gegeben worden ist? Nach Kants Begriff des höchsten Guts ist man wegen seiner Tugend würdig, glücklich zu sein, und man kann die Hoffnung hegen, der seiner Tugend angemessenen Glückseligkeit dereinst teilhaftig zu werden. Was ist denn diese Glückseligkeit? Wie liest Kant dazu die Theodizee im Buch Hiob? Kant legt das Buch Hiob in seiner philo sophischen Sicht aus. Nach Kant nämlich zeigt das Buch Hiob allegorisch Kants authentische Theodizee.Unsere oben gestellten Hauptfragen und sonstigen Nebenfragen beantwortend werden wiram Ende darüber nachdenken, welche Sinne Kants Auslegung hat, was die Buße Hiobs vom Standpunkt Kants aus bedeutet und welche Tragweite die Theodizee Kants: die authentische Theodizee und der Gedanke Kants: das höchste Gut haben.
著者
深谷 笑子 武井 玲子 難波 めぐみ 佐藤 典子 遠藤 恵
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

目的:家庭科の最も重要な特徴は、生活に密着していることである。また、生活という概念は、住むこと、生きること、暮らすことと大きくかかわっていることであり、それは、家や家族に人間が護り護られてこそ成り立つことでもある。そこで、家の役割と家族の意義について,東日本大震災に関する調査から家庭科「家族・家庭」の学習内容を検討することを目的とする。方法:1.2012年7月本学生311名を対象にアンケート調査を実施、2.学生の震災体験記録 3.2012年8月にKGCサマーリフレッシュプログラム(教員免許状更新講習)の教員を対象にしたアンケート調査 4.県内の高等学校家庭科教員対象アンケート調査の実施 結果及び考察:1.本学生を対象にしたアンケート結果から1)震災時、どのようなことを考えたか、の自由記述で一番多かったのは、「家族・友人の安否」「自宅の心配」と、自分自身のことではなく他人、身内などの安否を心配していたことがわかった。2)震災前後の意識の変化では、家族を思う気持ちが強くなった、が7割以上であった。このことから普段家族は空気のようなものだが、困難な時ほど家族の存在が大きいことがわかった。2.本学生の震災体験記録から1)大変なときこそ家族といることが安心だと実感した。2)家族と連絡が取れなかったが、家族は家があることで、遅くなっても帰ってきた。家は家族が帰ってくるところ、家があることのありがたさに気づかされた。3)家があるとことは、家族がひとつになれることでもある。4)家に家族がいたから安心だった。5)家に一人でいたので怖かった。6)家族間に政治の話題が多くなった、など家族を守る器として、また住むということは、どこに出かけてもまた戻ってくる所で根を張っている住まいと家の役割があげられていることがわかる。3.サマーフレッシュから(児童・生徒の変化)1)小学校教諭からは、家族を大切に思う子が増えた。2)中学校教諭からは、日々の生活に感謝。防災意識が出た。3)高等学校教諭からは、子供の生活に変化が見られなかったのは、母親がずーとそばにいることができたおかげと思う。4)特別支援学校教諭からは、何かあれば家の人を思い出し、助けてくれる頼りになる人は家の人、など生徒は、日頃考えないことが、この時を境に家族や防災意識そして正常の生活に感謝する気持ちがわいたことがわかった。4.家庭科教員対象アンケート調査結果から1)緊急時は夫婦それぞれ実家を優先に行動した。2)家や家族の大切さを改めて感じた。3)家族を大切にするようになった。4)より団結力が強くなった。5)連絡が密になったなど、教員自身も実家の親を心配したリ家族を意識したり家族の存在の大きさを実感したことがわかった。体験記録(2名)から1)津波の予測で避難所へ、その後まもなく原発で避難場所を次々移動、現在も落ち着いた生活ではなく、5人がばらばらに生活している。2)地震当時頭をよぎったのは、家族、友達、生徒のこと。生活の基盤は家族。離れ離れになった家族がたくさんいることは胸が痛い。家族と共に普通の生活を送ることがいかに幸せなことなのかを感じることができた。いずれも、福島県が他と異なる東日本大震災の特徴である、地震・津波・福島原子力発電事故によって、家族がバラバラに過ごさざるを得ない不安定な状況が述べられている。 今後の課題: 高校『家庭基礎』の内容を見ると、家や家族の意義についての記載が乏しい。そこで、家や家族の存在について、住むことの本質と上記のような非日常的なときこそ強さを持つ家族についての説明、そして体験記録の掲載を期待する。
著者
益子 博貴
巻号頁・発行日
2013

筑波大学修士 (図書館情報学) 学位論文・平成25年3月25日授与 (30948号)
著者
深澤 透 堤 崇史 東海林 茂 荏原 絋 丸山 武紀 新谷 イサオ
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 = Journal of Japan Oil Chemists' Society (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.247-251, 1999-03-20
参考文献数
11
被引用文献数
18

5種類の有機リン系農薬 (ジクロルボス, パラチオンメチル, マラチオン, クロルピリホス及びクロルフェンビンホス) を大豆油に添加し, 脱ガム, 脱酸, 脱色及び脱臭工程を行った後の精製油中の農薬残留量を測定した。得られた結果は次のとおりである。 (1) 脱ガム処理では原油中の各リン系農薬はわずかに減少した。 (2) 脱酸処理では脱ガム油中のジクロルボスは明らかに減少したが, 他の農薬は約80%以上残存した。 (3) 脱色処理では吸着剤による脱酸油中のジクロルボス及びクロルフェンビンホスの減少率はそれぞれ約70%及び60%であった。一方マラチオン及びクロルピリホスの減少率はそれぞれ約30%及び5%であった。パラチオンメチルは活性炭を含む吸着剤を用いると極端に減少した。 (4) 260℃の脱臭処理により全農薬が完全に除去された。 (5) 原油中のリン系農薬 (ジクロルボス, パラチオンメチル, マラチオン, クロルピリホス及びクロルフェンビンホス) は一般の精製処理により完全に除去されることを確認した。
著者
蔵楽 正邦 大倉 与三郎
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.25, no.11, pp.790-794, 1976-11-10
被引用文献数
1

有機リン系農薬4成分(パラチオン,メチルパラチオン,EPN及びメチルジメトン)の同時抽出,クリンアップ及びガスクロマトグラフ定量法を確立した.すなわち,10%クロロホルム含有n-ヘキサンで抽出し,濃縮後ガスクロマトグラフ(FPD検出器)に注入し,上記4成分を同時定量する.本法によれば,水質試料200mlにつき,定量下限は0.001ppm,又はそれ以下である.又,底質,産業廃棄物,工場排水などの汚濁の激しい試料の場合には,上記の濃縮液を活性化フロリジルカラムに注入し,2%アセトン含有n-ヘキサン,次いでアセトンーn-ヘキサン混合溶媒(1:2)で順次展開することによりクリンアップし,脱水,濃縮してガスクロマトグラフに注入する.固体試料(10〜20)g,排水200mlについてクリンアップ操作を経た場合の回収率は,前三者で(85〜95)%,メチルジメトンで(55〜60)%であった.
著者
WATANABE Toshikazu
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.1229-1235, 2013-03

本稿では『プラマーナサムッチャヤ』第3章でディグナーガが行う,サーンキヤ学派のavita説批判を検討し,(1)ディグナーガの理解するavitaの構造は,サーンキヤ学派の提示する本来のそれを大幅に改変したものであり,prasangaを証因の三条件説に組み込むことに成功している(2)ディグナーガによるavita解釈が,ダルマキールティが用いるprasangaviparyaya,そしてバーヴィヴェーカがブッダパーリタを批判する際に用いるviparyayaと同じ構造である という二点を明らかにした.(1)ディグナーガの理解するavitaは,vitaと同じ主題(A)について,vitaでの遍充関係(B→C)の対偶(¬C→¬B)を用いて望ましくない帰結を導くものである.vita:A(B→C) avita:A(¬C→¬B)) ∧¬¬B∴ ¬¬C 従って,avitaはvitaに変換され,同じ内容を表すものと理解される.このことは,prasangaも証因の三条件説の枠内に収まるということを意味し,さらには正規論証(sadhana)へ変換されうる可能性を示唆するものである.(2)ダルマキールティおよび彼の注釈者達によるprasangaとprasangaviparyayaの関係は,前者がディグナーガのvitaに,後者がavitaに対応する.また,バーヴィヴェーカの提示するviparyayaへの変換も,バーヴィヴェーカは否定(¬)をparyudasaで理解しているのに対してディグナーガのそれはprasajyapratisedhaであるという点は異なるが,ディグナーガがavitaをvitaへ変換した手順と構造的に同じである.
出版者
日経BP社
雑誌
日経アーキテクチュア (ISSN:03850870)
巻号頁・発行日
no.1045, pp.34-38, 2015-04-10

リスクを承知で、工事を続行しているところもある。大阪府枚方市の枚方寝屋川消防組合新消防本部庁舎もその1つだ。同庁舎には、19基の不適合品が使用されている。完成予定は今年5月で、3月20日の段階では内装の仕上げ工事が本格化していた。
著者
小林 正英
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.23-38, 2004-09-30

EUの安全保障政策形成は憲法条約における集団防衛条項の取り込みによって完成しつつあるが、NATOとの「棲み分け」という観点からは、EU安全保障戦略に見られるような新たな質的役割分担を目指していると思われる。
著者
畠 修一 鷲見 順教 大井 美知男
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.197-202, 2002-03-15
被引用文献数
1 11

南オーストラリア海岸由来ポシドニア(Posidonia australis Hook. F.)乾燥粉末および抽出物は根こぶ病菌(Plasmodiophora brassicae)胞子の発芽を促進した.この乾燥粉末および抽出物は, おそらく発芽促進作用に基づいて, ハクサイにおける根こぶの形成を抑制し, 根こぶ病の予防に有効であることを示唆した.