著者
岡田 陽平
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本年度は、国際機構の活動と国際責任の法理に関する研究(以下、本研究)の最終年度であった。三年間を通じて、とりわけ責任の発生段階に着目し、国連平和活動に適用される行為帰属規則について分析を行ってきた。今年度は、昨年度までの研究から得られた成果について、これを新しい法的問題へと応用する作業に取り組んだ。新しい法的問題とは、具体的にいえば、二重帰属の是非およびあり方、そして、国連以外の国際機構(とりわけNATO)への行為帰属である。第一の点について、二重帰属をめぐっては、先例の欠如ゆえに、学説上ようやく議論され始めた状況にある。国連平和活動に適用される行為帰属規則は、国際責任法と国際機構法のインターフェースに位置づけられるものであり、双方の法的必要性に基づいて成立・発展してきたものである。そこで、これまでの展開の延長線上に二重帰属の問題を位置づけ、いかに二つの法の要請を均衡させることが可能かについて分析を行い、適切と考えられる二重帰属のモデルを提示した。それによれば、たとえ二重帰属が認められうるとしても、被害者は、まずは国連の責任を追及するように求められる。さもなければ、すなわち、最初から国の責任を追及することができるとすれば、平和活動の自律性および実効性の確保という、これまでの実行を導いてきた法的必要性(これは現在も妥当している)を無視することになってしまう。第二に、NATOへの行為帰属に関しては、資料の入手困難性や先例の稀少性ゆえに、これまで本格的には研究されてこなかった。しかしながら、冷戦終結後の国連平和活動ではNATOが主要な役割を果たすことが少なくない。したがって、現行法の問題として論じることができる部分はきわめて限定的であるということは認識しつつ、現時点で可能な範囲で分析を加えた。以上をもとに、本研究の成果を博士論文としてまとめ、京都大学に提出した。
著者
郭 沛俊
出版者
横浜国立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成18年度から20年度までの間に主な研究成果が以下のようになる。(1)可能性区間回帰モデルの提案と分析(2)不確実性下の一回限りの意思決定問題において、新しい意思決定フレームワークの構築・分析と応用(3)区間確率の同定・結合及び意思決定モデルの構築と応用(4)ラフ集合に基づくデータマイニングシステムの構築・応用及び内的競争因子、外的競争因子、顕著度に基づくIF-THENルールの簡略化手法の提案と応用(5)ファジイDEAモデルの提案と応用
著者
名倉 豊
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

現在、最も安全な輸血とされている自己血輸血の問題として凝集塊形成による返血不能や、返血時の発熱反応・血圧低下などの非溶血性副作用の発生が挙げられる。これらの主な原因として、自己血中に含まれる白血球の関与が考えられる。同種血輸血製剤による非溶血性副作用の防止策として、赤十字血液センターでは全ての同種血製剤に対して、保存前白血球除去を導入している。本研究では、自己血の保存前白血球除去(以下、白除)の有用性について検討を行った。その結果、白除処理により白血球および血小板は効率よく除去されていた。一方、赤血球は白除処理の影響を受けず、高い回収率であった。白除した自己血では凝集塊形成を認めず、返血時に問題も認めなかった。自己血中のサイトカイン・ケモカイン濃度を測定したところ、白除処理により、不変のものから顕著な減少を示すものまで様々であった。さらに、これらのサイトカイン・ケモカインが血小板凝集塊形成に及ぼす影響を検討するため、白血球の存在下及び非存在下において血小板に添加し、凝集塊形成を評価した。その結果、白血球非存在下で血小板凝集は認めないものの、白血球の存在下でサイトカイン・ケモカインを添付すると血小板凝集が認められた。また、血小板と白血球の接着について検討を加えた結果、サイトカイン・ケモカイン処理により、接着率が増加した。このことから、サイトカイン・ケモカイン刺激による血小板凝集には、白血球の存在必要不可欠であることが確認された。したがって、自己血の保存前白除により、白血球および血小板が効率よく除去され、これらが産生するサイトカイン・ケモカイン濃度の上昇を防止することが可能であり、その結果として凝集塊形成の抑制及び非溶血性副作用の防止が可能と考えられた。自己血の安全性向上に、保存前白除の導入は重要と考えられる。
著者
井門 ゆかり
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.356-363, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
20
被引用文献数
3

目的:簡便に認知機能低下の疑いのある患者を発見するためのスクリーニング検査(Imon Cognitive Impairment Screening Test:ICIS)を開発し,信頼性・妥当性を検討した.方法:検査は対面式で所要時間約3分,時間の見当識(年月日・曜日,各1点,計4点),3単語の遅延再生(各1点,計3点),柔軟性(語の流暢性)として,「か」で始まる言葉を1分間で出来るだけたくさん言う(2語以下0点,3~5語1点,6~9語2点,10語以上3点),構成失行の評価として,「指でキツネ・ハトの模倣」(キツネ左右各0.5点,ハトは迷わずできたもの1点,試行錯誤してできたもの0.5点,できないもの0点)を入れ,12点満点とした.対象は,健常高齢者(C群)30例,軽度認知障害患者(MCI群)34例,認知症患者(認知症群)76例(軽度51例,中等度18例,高度7例).結果:ICISの平均は,C群10.5点,MCI群8.3点,軽度認知症群5.5点,中等度認知症群3.0点,高度認知症群0.7点で,各群間で有意差を認めた.認知症群+MCI群を疾患群とし,ICIS 9点以下を検査陽性とすると,感度0.94,特異度0.93,正確度0.94,陽性尤度比14.0,陰性尤度比0.07であった.ICISとMMSEの得点には,有意な相関を認めた(r=0.82,p<0.0001).結論:ICIS 9点以下では,他覚的認知機能の低下があり,認知症精査に進む簡便な目安になると思われる.
著者
村井 吉敬
出版者
京都大学東南アジア研究センター
雑誌
東南アジア研究 (ISSN:05638682)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.29-46, 1983-06

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
内田 豊昭 足立 功一 青 輝昭 藤野 淡人 横山 英二 小俣 二也 吉沢 一彦 黒川 純 門脇 和臣 庄司 清 真下 節夫 遠藤 忠雄 小柴 健
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.890-896, 1993-05-20
被引用文献数
4 6

1971年8月から1991年7月までの20年間に北里大学病院泌尿器科において経験した経尿道的手術は3,215例であった.その内訳は,前立腺肥大症2,008例,膀胱腫瘍692例,前立腺癌258例,膀胱頸部硬化症167例,尿道狭窄38例,慢性前立腺炎20例,他の泌尿器疾患32例という順であった.このうち下部尿路通過障害を主訴としてTURPを施行した前立腺肥大症2,008例と前立腺癌258例の計2,266例について臨床統計的に検討した.2,266例の年齢は44歳から96歳(平均70.1歳)で,切除時間は最短9分から最長245分(平均73.0分)切除量は最小1gから最大177g(平均27.0g),使用灌流液量は最小4Lから92L(平均25.0L)であった.術後の膀胱カテーテルの留置日数は3日間から44聞間(平均4.1日間),入院日数は最短10日間から最長81日間(平均12.1日間),術中・術後合併症は合計308例(13.6%),輸血症例は305例(13.5%),死亡例は1例(0.04%)に認められた.それぞれの項目につき,疾患別,切除量別,切除時間別に検討したところ,疾患別では前立腺肥大症群が切除量,切除時間,灌流液量,術後カテーテル留置期問,合併症率が高く,前立腺癌群に入院期間と輸血例が多く認められた.また切除時間,切除量が増大するにつれ各項目とも比例増大した.
著者
都築 正喜 馬場 景子 市﨑 一章 神谷 厚徳 伊関 敏之
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

視覚障害のある学生の英語教育において、音声の取り扱いはかなり難しく、教育の現場では試行錯誤を続けてきた。発音記号やイントネーション符号などのプロソディの取り扱いは暗中模索の状態であった。本研究は、従来ほとんど取り組まれてこなかった視覚障害のある学生の英語発音を改善するための指導法と教材研究に特化して研究を行った。その結果、今回導入した、点字プリンタ「ロメオアタッシュ」を有効活用することにより、英文教材の点字化を推し進め、先行研究で一部稼働に成功していた、音調文字式符号と音調音符式符号の併用を可能とした。視覚障害のある学生のための英語補助教材も点字式補助符号を併記して有効活用への道を開いた。
著者
井上 正志
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.16, pp.58-64a, 1979-06-30

筆者は現在,日本産バッタ科(Acrididae)の細胞学的研究を続けているが,各地から得た短翅フキバッタ類(Podismini族)については,種々な核型があることがわかった。この類は短翅のために分散力が弱く,地理的に分化する傾向が強いのではないかとも考えられる。従来mikadoとされてきたものについても,原産地(北海道)のものと西日本のものを比較すると多くの形態的特徴において,かなり異っていて種の同定すら困難であった。そこで筆者はこれまで,日本各地で採集された材料に基づいてこの類の分類学的研究を行っているが,今回は西日本産Parapodisma属の下記2新種について記載し,faurieiを除く本属の既知種を含めて検索表を作成した。1.Parapodisma setouchiensis sp. n.セトウチフキバッタ(新称)。模式産地:広島県御調郡御調町大字市。本種は雄の亜生殖板の背面の前縁中央に明らかな突起をもつ点でP.dairisamaと似ているが,尾毛の先端が偏平でわずかに内に向って曲がっていること,雌雄ともに前翅が大きく,しかも背面で重っていること,さらに幅に対する長さの割合が大きいことなどによって明らかに区別できる。2.Parapodisma niihamensis n. sp.シコクフキバッタ(新称)。模式産地:愛媛県新居浜市大字河又。本種は雄の亜生殖板の背面の前縁中央に突起を持たない点でP.mikadoと似ているが,亜生殖板の先端突起が短いこと,尾毛が長くその先端の縁が非常に丸いこと,雌雄ともに前翅が非常に大きく,その上背面で重っていること,さらに幅に対する長さの割合が大きいことなどによって明らかに区別できる。なお前翅が背面で重っている点でP. setouchiensisと似ているが,雄の亜生殖板,尾毛および上陰茎の形態の相違によって区別できる。
著者
近藤 広紀
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

少子高齢化が進展していく経済において,家計の立地選択と,産業の立地選択を分析した.まず,親子世代の居住形態(同居か地域を移動して別居か)の決定について分析した.少子高齢化経済においては,家族の居住形態は,一つのパターンが繰り返されることを明らかにした.これにより地域間人口移動はより一層限定的となる.このモデルを教育投資と,人的資本水準が重要な産業の立地を含むモデルへと拡張した. 大学進学率の地域間差異を説明できる. また,産業集積のパターンは,従来の新しい経済地理モデルよりも,より多極的となりやすいことが示された.
著者
中島 義道
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.p127-132, 1979-12
著者
池上 素子
出版者
北海道大学留学生センター = Hokkaido University International Student Center
雑誌
北海道大学留学生センター紀要
巻号頁・発行日
vol.3, pp.15-29, 1999-12

「けれど」も「のに」も逆接確定条件を表す接続助詞とされている。しかし、両者は完全に交替可能ではなく、固有の性格を持っている。本稿では、両者に共通の機能を「話し手の発話の前件から導かれる聞き手の『(「PならばQ」から導かれる)PだからQ』という推論を制限すること」とし、相違点は、その推論「PだからQ」の前提となるP、Qの捉え方から導かれるものという考えに沿って両者の比較検討を行う。すなわち、「のに」文の場合は「PならばQ」が必要十分条件であるため、そこから導かれる推論は「当然~であるはずなのに~」という当てはずれの感情を伴うが、「けれど」文の場合「PならばQ」は可能性のある一つの条件に過ぎないためそのような感情は伴わない。また、他にも可能性があるがその中の一つを選ぶ結果、「けれど」文には聞き手の思惑を計るという聞き手中心の傾向が現れるが、「PならばQ」を必要十分条件と見なす「のに」文の場合聞き手の思惑を計る余地はなく、話し手中心の傾向が出る。さらに、「けれど」文に前置きなどの周辺的な用法があり、「のに」文に周辺的用法がないのは、そのような各々の性格が背景にあるためと考える。
著者
堀田 香織
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.73-84, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
66

本稿では, 2010年7月からの1年間に発表された臨床心理学領域の論文を概観し, 今後の課題を探索した。まず, 2011年3月東日本大震災が人々の心身に甚大な傷を残したことを受けて, 被災体験, 喪失体験, 心的外傷に関する心理学的研究を概観した。今後, 被災者支援のために長期に渡る実践と研究が必要である。次に, 様々な精神症状・心理的不適応の心理治療・援助に関する論文を概観した。子どもに関しては, 不登校, いじめ, 攻撃行動に関する論文が数多く掲載された一方, 虐待は我が国の喫緊の課題であるにもかかわらず, 論文数が少なかった。今後の研究が期待される。また抑うつや社会不安・無気力の心理的症状が低年齢化し, 小中学生を対象にした研究も見られる。より早期の治療援助, 予防が必要だろう。青年期では人格障害・摂食障害など困難な事例の治療に関する研究が多かった。一般学生を対象にした質問紙調査では, 不安, 抑うつ, 攻撃, アパシー, ひきこもりなどが取り上げられた。また, 実践研究, 面接調査の質的分析による研究は, 臨床領域ではまだまだ数が少なく, 今後より一層の発展が期待される。
著者
玉山 昌顕 角田 晋也 都留 信也 木本 研一 深尾 徹 鳴尾 真二 石井 三雄 北見 辰男 高木 清光 一之瀬 快朗 町田 道彦
出版者
日本マクロエンジニアリング学会
雑誌
MACRO REVIEW (ISSN:09150560)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.65-70, 2006 (Released:2009-08-07)
参考文献数
11

他研究グループと当学会合同研究会との討論会の基礎的項目の構築を図る。貨物と旅客の優先性、国家百年の計なのか、着工待ったなしなのか、ビジネスジェット機受入は、中継ハブ空港なのか、真のハブ空港にするための国家戦略は何か、24時間営業の空港がなぜ首都圏に必要か、必要ならばその機能と運用方法の整備、新幹線駅と地方空港間の交通の利便性、東京湾の環境保全・海運、埋め立てに反対、補償問題・騒音問題等々が議論された。結論は無く、継続審議の価値ある主題である。
著者
平本 健太 小島 廣光 岩田 智 谷口 勇仁 岡田 美弥子 坂川 裕司 相原 基大 宇田 忠司 横山 恵子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究によって解明された戦略的協働を通じた価値創造は,21世紀の社会の課題に挑むための方法の1つである.この戦略的協働は,今日,世界中で急速に増加しつつあり,多元的な社会的価値の創造に対して大きな潜在力を秘めている.3年間の研究プロジェクトの結果,戦略的協働を通じた価値創造に関する7つの協働プロジェクトの詳細な事例研究を通じて,戦略的協働の本質が明らかにされた.われわれの研究成果は,18の命題として提示されている.これら18命題は,(1)参加者の特定化と協働の設定に関する命題,(2)アジェンダの設定を解決策の特定化に関する命題,(3)組織のやる気と活動に関する命題,(4)協働の決定・正当化と協働の展開に関する命題の4つに区分されて整理された.本研究の意義は,大きく次の3点である.第1に,戦略的協働を通じた価値創造を分析するための理論的枠組である協働の窓モデルが導出された.第2に,戦略的協働を通じた価値創造の実態が正確に解明された.第3に,戦略的協働を通じた価値創造に関する実践的指針が提示された.