著者
城間 祥之
出版者
札幌市立高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度は,まず,花形図形を基本パターンとするパターン生成プログラムを開発し,その花形図形に各種変換を施しイメージを変えるプログラムを開発した.ここでは,拡大・縮小・回転変換,せん断変換,三角変換などのプログラムを開発した.また,変換プログラムを複雑系手法に基づく抽象模様生成プログラムに適用することを目的として,まず,ベクトル画像として生成される抽象模様をビットマップ画像に変換するアルゴリズムを開発し,セル・オートマトン画像生成プログラムに組み込んだ.ここでは,セル・オートマトンの(1)1次元2状態3近傍の256ルール,(2)1次元2状態5近傍総和型の64ルール,(3)1次元2状態5近傍の43億ルール,(4)1次元2状態線形セルオートマトン,(5)2次元9状態5近傍線形セルオートマトンなどの関数プログラムに画像形式変換アルゴリズムを組み込んだ.平成12年度は,まず,(1)網目状カオスのような面積保存型,および(2)面積変化型円環状カオス,(3)翼状カオス,(4)チョーサとゴルビツキーの対称型カオスなどの関数形式描画プログラムを開発し,これらに上記の各種変換プログラムを組み込んだ.同様に,フラクタルについてもシェルピンスキー曲線,コッホ曲線などの描画プログラムを開発し,上記の各種変換プログラムを組み込んだ.次に,開発したシステムを基に生成した抽象模様パターンを各種デザイン業務に適用する応用実験を行った.ここでは,ボールペンの絵柄,ペットボトルのラベル,包装紙,ティッシュペーパー箱の絵柄,風呂場の大理石風壁模様,乗用車や飛行機のイスカバーのデザイン,化粧品ケース,ダイニングセット,CDジャケットの絵柄,金属製他コースター,ブックマークなどへ適用し,その有効性を確認した.今後は,開発したシステムを芸術・デザイン系高専での授業の中で活用していきたいと考えている.
著者
加藤 康子
出版者
梅花女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

近代以前の日本の子どもの読み物の中で、江戸時代中期から明治剛期にかけて出版された絵草紙には、「絵」という視覚的な要素と文章があいまって、読み物の内容を印象深く読者に伝える効果がある。近代以降の子どもの読み物でも、挿絵や絵本は同様である。江戸時代から現代までの子どもの読み物、特に絵草紙や絵本には、英勇譚が少なくない。ただ、近代以前には武士が登場してくるが、近代以降では武士の存在は次第に薄れ、価値観が変容していく。本研究では、江戸時代から現代の子どもの読み物の系譜を辿り、作品分析からその価値観について考察した。これよって、日本の子どもの読み物の中で、どのようなことが読者を夢中にさせたのか、また作り手と読み手のそれぞれが何を求めていたのか、を考えていくきっかけになり、近代以前日本児童文学と近現代日本児童文学の関係を密接にする手だてになり、未来を担う子どもたちの読み物や絵本の体験をどのようにするかという課題への示唆も得られるのではないかと思われる。研究の結果、近代以前日本児童文学では、絵草紙として、上方絵本、草双紙、豆本以外にも武者絵本などがあり、近代以後もそれらを踏襲したような絵本があるが、無学や今回の調査を踏まえれば、日本の英勇譚によく登場する人物は、源義経、源頼光、豊臣秀吉である。この中で注目されるのは、源頼光とその家来たちの英勇譚である。この物語は、個人の人生を辿った史実に近い逸話が物語化されているのではなく、史実とは異なる空想の物語がほぼ同じ内容で、類型化された絵と共に長く伝えられてきていることに特徴がある。また、頼光を中心にしているものの個人の活躍よりも四天王と保昌を加えた六人の集団が活躍するところにも特徴がある。これらの頼光を中心とした一連の物語は、日本の民族が長年にわたって培ってきた、民族の物語の一つといえる。また、史実とは異なる創作物語の英勇譚である江戸後期の『南総里見八犬伝』も集団の架空物語であり、大きな敵に向かって何度も挑戦していく構造に相通ずるところがある。この構図は読者を魅了し、現代の人々が魅了されている「ファンタジー」にも通じるところがあるのではないかと考えている。したがって、日本民族の物語は忘れられつつあるが、それを享受する素地はあり、時代に合わせた復権を試みる意義があると考える。
著者
荻山 正浩
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1.泉南地方の事例明治期における泉南地方の若年女性の就業態度をめぐって、綿布生産量など、各種出来高を通して分析すると、彼女たちは家族に対して強い愛着を有していたため、生家では勤勉に働いたが、家を離れて働く場合には逆に充分な働きをしていなかったことが判明した。こうした家族に対する愛着は、彼女たちを含めて、この地域の人々の就業行動にも相当な影響を与えていた。この点を実証するため、明治後期における泉南から他の地域への労働移動のあり方に注目し、寄留統計にもとづき、この地域の人々の多くは家族をともなって移動していたことを解明し、それを英文の論文にまとめ所属機関の紀要に発表した。また泉南地方の貝塚に所在した商家の廣海家には、同家の雇用していた家事使用人の記録を収めた史料が残されており、その家事使用人の雇用動向は、若年女性の就業行動を解明する貴重な手掛かりを与えてくれる。そこで、明治後期から大正期に至る同家の家事使用人の雇用動向を分析した論文を所属機関の英文のワーキングペーパーとしてまとめた。これについては、平成18年度に英国の学術誌に投稿する予定である。2.両毛地方の事例明治40年代に群馬県桐生に所在した桑原家の絹織物工場の史料を分析し、女工の絹布生産量の多寡から女工の就業態度を分析することを計画していた。だが、この地方では多種多様な絹布が生産されていた関係から、当初の予想と異なり、絹布生産量から女工たちの就業態度を分析することは困難であると判断し、同地方の研究を中断することにした。3.秋田県北部の事例平成17年度から、両毛地方に代わり秋田県北部の事例に対象を移し、若年女性の就業態度を分析する作業を開始した。具体的には、明治末期から大正期に至る秋田県北部の大館に居住した資産家である中田家の史料を使用し、同家が家事使用人として雇っていた若年女性の雇用動向を分析する作業を進めている。
著者
松田 一朗
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

旧世代の符号化方式で記録された映像コンテンツを、画質を保ったまま効率的に再符号化する技術の開発を行った。主に静止画像および動画像符号化の国際標準であるJPEGおよびMPEG-1方式を対象として再符号化アルゴリズムの実装と検証を行い、既存の映像データの符号量を10~30%削減することに成功した。この結果は、過去に記録された膨大な量の映像資産を、最新の符号化方式に匹敵する効率で蓄積・保存する手法を確立したことを意味する。
著者
土屋 俊 竹内 比呂也 佐藤 義則 逸村 裕 栗山 正光 池田 大輔 芳鐘 冬樹 小山 憲司 濱田 幸夫 三根 慎二 松村 多美子 尾城 孝一 加藤 信哉 酒井 由紀子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、今後の学術情報流通環境における大学図書館の役割を追求し、大学の教育研究の革新という観点から検討を行うとともに、それを実現するための要件を明らかにし、「2020年の大学図書館像」を描き出すことを目的とした。そのために大学図書館における情報サービス(NACSIS-ILL)と情報資源管理(NACSIS-CAT)の定量的、定性的分析を行い、時系列的変化を明らかにするとともにその要因について考察した。これらを踏まえ、さらにシンポジウムなどを通じて実務家からのフィードバックを得て、「2020年の大学図書館像」について考察した。
著者
久保 勇
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

当該助成研究開始前より整理済の延慶本『平家物語』における音楽記事一覧から、他の諸異本に共有されない独自な傾向を抽出、「読み本系」と称され、「読まれる」享受を前提とする該本本文に口頭(音声)伝達を意識されていると推される「音声字解(注釈)傾向」を指摘(「延慶本『平家物語』と<音楽>-巻六の音楽記事から叙述方法をさぐる-」2005・3)した。現存最古と見なされる「読み本系」の該本が如上のように、音声理解を前提とする本文を有している可能性があることから、「語り本」以前「読み本系」先行成立という通説に、未だ検討の余地が残されているという問題提起をおこなった。当該助成研究開始前より着目していた『発心集』等、中世期の文芸思潮の中、「音楽」を考える上で重要な「数寄」の問題に着手、「数寄者」と称される人物の心象をめぐって、延慶本は「心」が「澄まされた」状態にあることを一つの価値として表象している点に注目、検証作業をおこなっている。(同上論文)中世以降の古典文学世界において、「延喜聖代」は理想的帝政期を表し、『平家物語』でも「秘事」として別巻に同章段名を掲げる諸本があるが、延慶本においては清盛死去関連記事群内に「延喜帝堕地獄説」が展開しており、一般に音楽をはじめとする理想的文化形象期とされる当該帝政期に、独自な価値認識が指摘できる。そこには、「高倉院≒堀河院」といった、延慶本の物語世界における理想帝政期の認識が基盤となっている傾向がうかがえる。具体的には巻六冒頭などに潜在する「礼楽思想」との関連において考究すべき問題が残されている。現状では、延慶本の成立と直接繋がらないが、『平家物語』と盲僧琵琶との関連について、当該助成によって調査をおこなっている。九州、筑前・薩摩に本拠を置く盲僧琵琶は、何れも天台宗の管轄となっており、自身の『平家物語』の天台圏成立説と関わりを有する。調査によって、島津久基氏「筑紫路の平曲」等の研究で注目された筑前地域の再検討の必要性が明かとなった。近時看過されている感のある、筑後一宮・高良大社伝来の覚一本の存在、筑前盲僧琵琶拠点・成就院の存在等々、当該助成期間内には成果を発表し得なかったが、追跡調査を進め、論文・HP等で順次公表していく予定である。
著者
吉川 茂 石井 望
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

正倉院尺八から現代尺八までの構造・設計上の変化を音響理論、音響実験、さらにはCT画像の解析を通して考察し、尺八変貌の過程を明確にした。特に、正倉院尺八における運指7(第3, 6孔を開けるクロス・フィンガリング)の問題点を指摘し、江戸・明治期の名管尺八では節の残し具合で調律していることが了解された。また、中国唐代の音楽に関する考察から、正倉院尺八の指孔は燕楽二十八調の音階を吹奏できるように配列されているとの知見を得た。
著者
佐藤 文信
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、X線マイクロビームを用いて、神経細胞め分化を制御し、人工的に配列された神経回路モデルを製作する。神経モデル培養細胞PC12は、放射線照射によってNGF成長因子を必要とせずに神経突起を成長させることが報告されている。卓上型のX線マイクロビーム照射装置を用いて、単一のPC12細胞に照射し、細胞の分化制御を行う技術を開発する。予備実験として、PC12細胞を培養シャーレで培養し、PC12のCo-60γ線照射を行った。吸収線量は最大10Gyで、細胞核内のDNA二重鎖切断の指標となるγ -H2AXの産生を蛍光抗体法で調べた。γ線照射直後では、γ -H2AXを示す応答が最大となり、24時間後には、修復作用によって10%程度まで減少していることが判った。また、4〜5日後より、神経突起を成長させる細胞が現れ、全体の20%のPC12細胞が分化することが判った。人工的に細胞を配列するためにマイクロチェンバーアレイチップを製作した。マイクロチェンバーアレイチップは、SU-8感光樹脂を用いてフォトリソグラフィーでガラス基板上に形成した。細胞を格納するための1個の容器の大きさは40x40μmで深さ15μmとなっている。また、オートクレーブで滅菌処理し、表面にゼラチン層を塗布した。マイクロチェンバー内にPC12細胞が培養されたサンプルを用意し、X線マイクロビーム照射装置を用いて最大10Gyまで照射した。γ線実験と同様に、照射直後では、γ -H2AXを示す応答が最大となり、24時間後には応答は小さくなっていた。ただし、神経細胞の分化については、ターゲット細胞の数%以下で見られ、γ線をもちいた場合と比較して、低い値となった。
著者
波照間 永子 花城 洋子 大城 ナミ
出版者
明治大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、琉球舞踊の技法「動作単元」のデータベース化を企図したものである。動作名称・動作特性・伝承方法等の総合的なデータを記録しているが、今回は、伝承方法に焦点をあて、5名の県指定無形文化財保持者およびそれに準じる者に聞きとり調査を実施した。その結果、1960年代初頭の流派発足以前は、複数の師から十八番芸を学ぶ「複数師匠型」の伝承スタイルであり、動作単元の定義や伝承方法に多様性が認められることが明らかになった。これらの多様性をも視野に入れたデータ内容の検討が必要である。
著者
漆原 あゆみ
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

電離放射線により引き起こされる様々な影響の中でも、放射線発がんにつながると考えられている遺伝的不安定性の原因因子を特定する事は、放射線の生物影響を明らかにするだけでなく発がん過程を解明する上でも重要である。本研究は、遺伝的不安定性の誘発原因を明らかにするため、電離放射線によって生じるDNA損傷の中でも非DSB型のクラスター損傷に着目し、その遺伝的影響について、染色体異常を指標とした解析を行った。
著者
橋本 温
出版者
阿南工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

都市部の下水および河川水から検出されたクリプトスポリジウムオーシストを顕微鏡下でマニピュレートして単離し,オーシスト1細胞からDNAを抽出して,18S rRNA遺伝子領域の一部を標的としたPCR法でDNAを増幅した。増幅したDNAはシーケンスして塩基配列を明らかにし,検出されたクリプトスポリジウムの種・遺伝子型を調べた。下水からは239個のクリプトスポリジウムオーシストを単離し,そのうち121個(62%)の遺伝子型が明らかになった。最も検出頻度が高かったものはCryptosporidium parvum genotype1で,78個(33%)で,ついでC.parvum genotype2 16個(7%),C.meleagridis 13個(5%)であった。下水では人への感染が報告されているこの3つのタイプがほとんどであった。河川水については,遺伝子型の解析が困難であったものの割合が下水よりも多く,71個のクリプトスポリジウムオーシストを単離したうちの23個(32%)についてのみ,遺伝子型が明らかになった。このことは,河川水中で検出されるオーシストが下水中のものよりも感染者より排出されてからの時間が長いなどによって,DNAの保存性が低くなっていることが一つの要因として推測された。河川から単離されたクリプトスポリジウムも下水同様にC.parvum genotype1の割合が最も高く18個(23%)であった。さらに豚を由来とするC.sp PG1-26が3個(4%)であった。オーシストのDNAの保存性についてFISH法を用いて調査する手法について検討したところ,精製水中では保存性は高いものの,下水に暴露させたオーシストでは2日程度でFISH法の染色性が著しく低下した。このように,FISH法を生育活性の評価に用いるための基礎的な情報を得ることができた。
著者
西村 直子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,ヤジュルヴェーダサンヒター冒頭のマントラ(祭詞,祝詞)集成とそのブラーフマナ(マントラの解釈,意義付けと神学議論)のローマ字テキスト作成,翻訳と注解,並びに分析を行い,ヴェーダ祭式における穀物祭の本祭前日に成される準備儀礼について全容を解明することを目的として出発した。内容は「放牧」「敷き草刈り」「搾乳と酸乳製造」という3つの表題に分けられ,研究全体は「総論」「テキスト」「翻訳」「各論」の4部構成を取る。本年度は「搾乳と酸乳製造」の「各論」後半部分に着手し,酸乳製造の由来を伝えるタイッティリーヤサンヒターII5,シャタパタブラーフマナI6,4と,他派に対応のないマントラを集めたタイッティリーヤブラーフマナIII7,4以上の文献箇所のテキスト作成と翻訳・注解を行った。これらの箇所は文献成立史と祭式の整備過程を解明する重要な典拠となる。しかし,それ故に一つの単語の意味を確定するのにも細心の注意を払わねばならない。また,各文献におけるマントラの扱いに関しては,後代の儀規文献(シュラウタスートラ)への展開の跡付けにもつながる問題を孕んでいる。中でも,先に挙げたタイッティリーヤブラーフマナIII7,4のマントラの殆どは,タイッティリーヤ派から分派した一学派であるアーパスタンバ派のシュラウタスートラにしか採用されていない。当該箇所を,ヴェーダ文献全体の歴史という大きな枠組みから検討し直す必要のあることも明らかになった。本研究を通じ,タイッティリーヤ派とヴァージャサネーイン派とがヴェーダ祭式を大きく転換させる原動力となったことが更に明らかとなった。それは,両派より古層にあるマイトラーヤニーヤ派,カタ派の議論が前提となっていることは明らかである。その過程の解明には,ヤジュルヴェータ学派全体のマントラ集とヴラーフマナとの精査が必要不可欠である。
著者
岡田 養二 榎園 正人 増澤 徹 近藤 良 松田 健一
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

(1) モータと磁気軸受を一体化する浮上モータで、浮上性能と回転性能の両立するローレンツ型を研究してきた。今回はこれに磁束集束技術を応用し、きわめて高性能なセルフベアリングモータを開発した。(2) 応用としては、非接触型の人工心臓ポンプと、歩行補助ロボットなど小型で高トルクモータをターゲットに開発した。
著者
田島 照久
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、キリスト教による再解釈によってゲルマン的民間習俗が現在のキリスト教文化圏とくにドイツ語文化圏に残存している状況を、調査を通じてうかびあがらせ、さらに教会暦のうちに取り込まれたゲルマン的要素をキリスト教の祝祭の調査分析を通じて明らかにすることができた。さらにキリスト教の現代におけるヨーロッパ土着化の姿を神学思想面および図像学的側面から跡づけることも試みることができた。平成13年度はキリスト教文化圏の中に公然として残存しているゲルマン的習俗の代表とも言うべきファストナハト(謝肉祭)について現地調査と映像資料の収集を中心的に行った。2月にドイツのアレマン地方の古習俗の残存するエルツァハの伝統的仮面行列、さらにフライブルク市の「バラの月曜日の大仮面行列」、オッフェンバッハの「魔女集会」などを現地調査することができた。平成14年度は春から初夏にかけて行われる、「春祭り」、「五月祭」、「聖ゲオルゲ騎乗」などの伝統的習俗を、ハスラッハ、ニュルティゲン、オクセンハウゼンで現地調査した。さらに夏から秋にかけてドイツ、スイスの各地で行われている「ワイン祭り」をとくにライン河、モーゼル川地域を中心に調査した。この調査ではドイツで最古の「ワイン搾り機の中に立つキリスト像」をモーゼル川河畔の村エディガー・エラーの聖マルティン教会で調査することができた。平成15年度は北ドイツ、オーストリアを中心とした民間習俗調査を実施した。ツェレ、ゴスラールでは木組み家屋の銘文の調査、オルデンブルクでは「マリア生誕市」、ゴスラールでは年一度の町祭りなどを調査した。オーストリアではザルツブルク、アルプバッハ、レッヒ、サン・アントンで民俗資料の収集を兼ねて民間習俗の現地調査を行った。以上の現地調査によって得られた成果は「宗教民俗学資料データベース」(責任者田島照久)に加えWeb上で一般公開をすでに一部行っている。神学思想面からの成果としては、「キリスト洗礼図」をめぐる「キリスト教のヨーロッパ土着化」と見られる現代的シンクレティズムといえるものを確認できたので、研究成果のひとつとして報告書にまとめた。
著者
竹村 明洋 RAHMAN Saydur Md. RAHMAN M. S.
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

サンゴ礁魚類に特徴的に多い月齢同調性産卵現象の生理学的側面からの解明で、魚が月からの情報をどのように体内リズムに転換しているかについて主に研究を行った。いくつかある月が地球に及ぼす環境変化のうち、特に月光に焦点をあてて以下の研究を行った。月光変化に伴うメラトニン受容体発現量の変化ゴマアイゴ(Siganus guttatus)の脳からメラトニン受容体遺伝子(MR1)をクローニングし、その発現量変化(日周変化と月周変化)をRT-PCR法で調べた。その結果、松果体を含む視葉部位にMR1遺伝子発現量の顕著な変動が見られ、明期に高く暗期に低くなった。また満月時(0時)のMR1遺伝子発現量が新月時(0時)より高くなった。これらの結果から、メラトニン受容体遺伝子発現量に変化のあった部位に月齢認識に関わる処理部位があると考えられた。メラトニンの生殖活性への関与ゴマアイゴの卵巣でのステロイドホルモン合成能に及ぼすメラトニンの効果を調べた。卵巣片をメラトニンとヒト繊毛性ゴナドトロピンと共に培養したところ、卵黄形成前期においてはEstradiol-17βとTestosteroneの産生量は増加した。高濃度のメラトニンは卵黄形成後期において性ホルモン産生を阻害した。以上のことからメラトニンが生殖活性の制御に関わっている可能性があった.。
著者
西村 直子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,ヤジュルヴェーダのマントラ(ヤジュス:個々の行作に伴って唱える祭詞)と,これに対するブラーフマナ(マントラの解釈,意義付けと神学的議論)の翻訳・精査を通じ,古代インドの祭式文献及び祭式の展開を最古層から解明することを目的としている。特に「搾乳と酸乳製造」に関わる諸問題を精査・解明し,穀物祭の準備儀礼に留まらずヴェーダ祭式全体との関連の中で解明することを目指した。本年度は,インドラによるヴリトラ殺しの後日譚を中心として研究を進めた。この神話は,ヤジュルヴェーダ文献の古層以来,特別な新月祭の供物であるサーンナーィヤと結びつけて議論が重ねられてきた。その展開を辿り,ヴァージャサネーイン派のシャタパタブラーフマナに至って,ソーマの循環理論の整備を促したことを指摘した。サーンナーィヤは,酸乳と熱した牛乳とを献供の直前に混ぜ合わせたものである。本祭前日(ウパヴァサタの日)の晩に搾乳した牛乳を酸乳にし,本祭当日の朝に搾乳した牛乳を加熱する。従来は朔の夜に先立つ日中にウパヴァサタを行っていたものと思われるが,ヴァージャサネーイン派は,月の満ち欠けと神々の食物たるソーマが循環するという観念とを連動させ,新月祭のウパヴァサタを朔の夜が明けた日中に行うべきであると主張する。地上の草や水に宿ったソーマを牛達に回収させ,牛乳として手に入れ,献供することによって月を天界に返すことになる。しかし,この新たな方法は貫徹せず,ヴァージャサネーイン派の人々も朔の夜に先立つ日中にウパヴァサタを行っていたことが贖罪法の議論から推測される。その背後にはソーマの循環理論の整備が関与しており,後の五火説を準備する基盤の一つとなっていたことが窺われる。
著者
野田 智子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

古代インドの宗教儀礼であるシュラウタ祭式の新月満月祭(DP)の歴史的発展の跡を辿り、その背景にある宗教思想の変化を明らかにするべく、ヴェーダ文献を以下のように分析した。学会誌に投稿する予定である。1.DP一般に関して新月祭満月祭ともにその主要供物は二つのケーキである。新月祭においてはサーンナーイヤという乳製品の供物が献じられる場合もある。このサーンナーイヤは、これまで酸乳と加熱された乳の混合物であると定義されてきた。しかし、この語の祭式綱要書での用例を検討し、混合物という説明が不適切であることを明らかにした。サーンナーイヤとは酸乳と加熱された乳を供物として飽くまで概念上合わせたものであり、またその準備段階の生乳をも意味し、混合前の状態でサーンナーイヤと呼ばれていることを示した。さらに新月祭においてこのサーンナーイヤが献じられる場合には、それは二つ目のケーキの代わりに献じられるというのが学会の定説であるが、それは少なくとも古層、中層の祭式綱要書においては誤りである。サーンナーイヤの有無に関わらず新月祭においてケーキの数は二つであり、サーンナーイヤが献じられる場合にはそれは二つのケーキに加えて献じられるのである。2.ヴァードゥーラ派の新月満月祭について祭式綱要書を研究することによって、同派のDPに固有の特徴を見いだした。まず「低声の献供」と呼ばれる献供の際に飯を供物とする点、アグニホートラ祭の規定を取り入れている点、雨乞いの儀礼を取り入れている点、他派においては祭式要素と見なされている荷車を用いない点等が特異である。さらに主要献供規定の整合性に欠ける点も注目される。3.DP規定から見える各学派の影響関係各文献のDPに関する規定及び用いられるマントラを比較することによって、学派間の影響関係を考察した。
著者
上原 剛 MD.SIRAJUL Islam ISLAM Md.Sirajul
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

研究期間2年の初年度(平成16年度)は、主として沖縄島のフタバカクガニ(Perisesarma bidens, Pb)の雌雄の生殖巣の発達の程度を生きた状態で光学顕微鏡下で月ごとに1年間しらべたが、成熟未受精卵と生理的成熟精子がとれず、人工受精実験はできなかった。初年度の観察結果とこれまでの経験から生殖シーズンが5月-12月である事が予測できたので、最終年度(平成17年度)は、特に満月・新月の頃に、交尾行動を示した雌雄のペアーの個体を採集して実験室に持ち帰り野外に近い環境条件に近いコンテナで飼育して、雌雄の交尾前行動と交尾時間を観察した。このような飼育下での交尾時間はおよそ6時間で、その後雌雄を別々にして、特に雌において、受精がいつ、どこで、どのようにおこなわれるかを調べた。交尾を終えた後、およそ46時間後に腹側に出てきた成熟未受精卵を集めて80%海水に移し保存した。他方精子については、未受精卵が体内から腹部(abdominal cavity)に出た後すぐに雌を切開して体内から貯精のうを取り出し80%海水に移し保存した。しばらくして、同じく80%海水下で両者をゆっくりと混ぜ(人工媒精)、水温25度で70ml容器で飼育観察した。未受精卵の様子、媒精後の卵の形態変化(外被膜の形成)から観察例は少ないけれども、人工受精が成功したものと確信している。そのことは、その後の卵割の様子や、胞胚期・のう胚期をえて孵化前の第1ゾエア期、孵化後の各ゾエア期をおえてFirst-crabまですべて健康に育ったことによっても示唆される。別の言葉で言うと、この種では完全な体内受精ではなく、腹部のabdominal cavityで受精が起き、この状態で受精卵から孵化するまでの幼生期がおよそ16日間維持されていることがわかった。このことから、この種では完全な体外受精でもない両者の間にある受精様式と発生方式を獲得していて、今後マングローブ域の環境に適応したカニ類を全容を明らかにする上でも興味深い。受精からその後の発生の全容は光学顕微鏡レベルではほぼ明らかになり、2005年11月に開かれた第43回日本甲殻類学会(奈良女子大学)で発表した、しかし、受精の詳細な観察と人工授精についてもまだ十分とは言えない。幸いにも研究期間の間、実験補助として手伝ってくれたDr.MD.Moniruzzaman Sarker(本学の外国人特別研究員)が興味を持ってくれているので、足りない分のデータを追加し、平成18年度内には論文にする予定である。
著者
米谷 淳 棚橋 美代子 大野 雅樹 猪崎 弥生 西 洋子
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

平成19年度も昨年度に続き国内外の調査研究と実践的研究の2本柱で、子どもの情緒と社会性の発達支援に関する予備的研究を進めた。小児病棟における子どもの発達支援に取り組む保育士や英国チャイルドプレイスペシャリストやチャイルドライフスペシャリストについて、その現状と教育システムについて、兵庫県立こども病院、浜松大学付属病院、英国キングフォード病院の担当者にインタビューをした。また、日本初のチャイルドプレイスペシャリスト養成コースを立ち上げた静岡県立大学短期大学部のコース責任者や、英国マンチェスター市ボルトンコミュニティカレッジの養成コース責任者と会い、プログラムの詳細と今後の展開について意見交換した。これらの作業を通して、日本の病院に適した保育専門職の養成のためには、さまざまな資格や背景をもって日本の病院の小児病棟に務めている保育者が互いに交流しながら、研究者とともに教育プログラムの研究開発を進め、独自なものをつくりあげていくべきことが示唆された。保育者養成プログラムに関する実践的研究としては、京都女子大学発達教育学部の「保育技能実習」における専門家による人形劇指導と、棚橋ゼミ生を中心とした人形劇団「たんぽぽ」の巡回公演等を観察し、指導者と学生へのインタビューを行った。また、子どもの情緒と社会性の発達支援としての人形劇の意義と可能性を検証するために、専門家(人形劇人)が幼稚園・保育園で公演した人形劇を鑑賞している園児をビデオ撮影して分析した。こうした作業の結果、専門性の高い保育者としての資質を高める上で人形劇の実習と実践が非常に有効であるだけでなく、保育に人形劇を活用することは子どもとのコミュニケーションや子どもの情緒や社会性の発達を促進する上でも有効であることが確かめられた。また、子育てサークルづくりの観察を通して子育て支援の方法、とくに、ファシリテーターの役割を検討した。