著者
岡村 心平
出版者
関西大学大学院心理学研究科心理臨床学専攻
雑誌
Psychologist : 関西大学臨床心理専門職大学院紀要
巻号頁・発行日
vol.7, pp.29-38, 2017-03-18

本論文では、対人的な相互作用における交差に関連する「共に感じること(co-feeling)」という概念をめぐって、理論的な検討を行った。まずGendlin(1995)の記述する対人的な相互作用における交差の特徴と、その説明の中で引用されるGilligan and Wiggins(1987)の「共に感じること」という概念を取り上げ、この概念が従来の心理学的な「共感」概念と対比的に用いられており、そこに同一化が含まれるか否かの相違があることを示した。また、この「共に感じること」という概念がクンデラの小説『存在の耐えられない軽さ』から援用されたもので、「同情」という語のパラフレーズとして使用されていることを概観した。次節では、心理療法における共感概念、特にロジャーズの「共感的理解」とフロイトによる「共感」に関する記述を参照し、「共に感じること」との比較検討を行った。フロイトは共感を「同一化」と関連づけ論じており、一方でロジャーズの共感的理解と「共に感じること」は、同一化に基づかない点で共通していることを提示した。また、共感的理解の特徴である“as if” という性質は、「AをあたかもBであるかのように」理解するというメタファーにおける交差の機能やその仮想性にも見られ、この点においても、ロジャーズの共感的理解と、ジェンドリンの交差概念や「共に感じること」という概念との間に共通点が見出された。
著者
市川 順子 笠原 彩 西山 圭子 小高 光晴 小森 万希子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.381-386, 2019-07-15 (Released:2019-08-01)
参考文献数
5

過去3年間の血液製剤使用拒否患者を対象とした手術について準備書面,手術・麻酔状況などを調査した.緊急手術の1名を除き,8名全員から術前に本人による輸血拒否と免責に関する証明書が提出された.術前の予測出血量は少量から500mLであり,7名がアルブミン製剤投与,2名が回収式自己血輸血施行を承認していた.術中の出血量は少量から350mLであり,血液製剤を投与された者はおらず,予測出血量が少ないため術中に出血対策を施行された者もいなかった.相対的無輸血という対応指針のもと,予測出血量が少ない症例に限り絶対的無輸血治療方針で対応していた.回収式自己血輸血や血液製剤使用など同意範囲の拡大に努める必要がある.
著者
米山 多佳志
出版者
国士舘大学政経学部附属政治研究所
雑誌
国士舘大学政治研究 = Kokushikan University Political Studies (ISSN:18846963)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.85-116, 2020-03-16

目 次はじめに1.韓国軍の創設とその理念 1.1.韓国軍の創設過程 1.2.創設理念構築の背景 1.3.創設理念の形成過程 1.4.創設理念の具体化2.自衛隊の創設理念との比較 2.1.自衛隊の創設理念 2.2.日韓両国の創設理念の比較
著者
金沢 吉展 岩壁 茂
出版者
明治学院大学心理学会
雑誌
明治学院大学心理学紀要 = Meiji Gakuin University bulletin of psychology (ISSN:18802494)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.137-147, 2013-03-30

日本の心理臨床家が臨床家を志した当初の動機および現在臨床業務に取り組む動機について,日本語版「心理臨床家の成長に関する調査票」(DPCCQ-J)の自由記述回答を基に検討した。「臨床家になる元来の動機や理由とその動機をもった時期」に対する116名の回答と「現在心理臨床業務を行う動機」に対する115名の回答を,グラウンデッド・セオリー法と合議的質的研究法に基づく質的分析法により分析した。当初の動機としては,他者貢献への意欲が最も多く,次いで,心理学,心理療法,あるいは心の働きに対する知的・職業的好奇心が挙げられた。現在の動機にも他者を援助することへの意欲が最も多く挙げられたが,32.1%の回答は回答者自身にとっての臨床業務の意義について述べたものであった。業務上あるいは経済的な必要性も当初の動機・現在の動機ともに少なからずみられた。臨床家の教育訓練にどのような課題が示唆されるかについて論じた。
著者
高橋 慶一 山口 達郎 夏目 壮一郎 中守 咲子 小野 智之 高雄 美里 中野 大輔
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.467-474, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
17

大腸NET(neuroendocrine tumor)の外科治療で局所切除を行うか,リンパ節郭清を伴う腸管切除を行うかしばしば術式選択に悩む.リンパ節転移の危険性が高ければ,後者の手術が必要になる.術前CTでの転移リンパ節は直腸癌に比べて小さい傾向があり,術前に転移リンパ節を的確に指摘することは困難である.そこで,リンパ節転移予測危険因子を国内のアンケート調査387例で検討し,腫瘍径10mm以上,表面陥凹あり,NETG2,pT2以深,脈管侵襲陽性の5つの因子が抽出された.これらの因子数別のリンパ節転移率は,予測危険因子なし:0.7%,1因子:19.1%,2因子:20.7%,3因子:61.9%,4因子:75.0%,5因子:75.0%で,3因子以上では高いリンパ節転移率を示した.大腸NETの外科治療ではこれら5つのリンパ節転移予測危険因子を念頭に置き,手術方法を決定することが推奨される.
著者
斉藤 裕輔 藤谷 幹浩
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.458-466, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
24

大腸,特に直腸の黄色調の粘膜下腫瘍をみた際にはneuroendocrine tumor(NET)は一番の鑑別にあがり,色素散布を行い超音波内視鏡検査を併用して診断することが望ましい.大きさ10mm未満で表面に陥凹や潰瘍を認めず,T1(SM)に留まっている病変は内視鏡切除の適応である.大腸NETに対する内視鏡切除法として通常のスネアポリペクトミーやEMRは垂断端陽性率が高率となるため適さない.2-チャンネル法,キャップ法(EMRC),結紮法(ESMR-L),さらにはESDによる切除が推奨される.施設や施行医の技量を十分考慮した上で,それぞれの内視鏡切除法の利点を生かした治療法を選択する必要がある.内視鏡切除後はリンパ節転移の危険因子について評価し,患者の年齢,全身状態・合併症を考慮した上で追加治療の是非を決定する.NETに対する内視鏡切除は適応病変において良好な成績と予後が報告されている.
著者
河内 洋
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.452-457, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

本邦の大腸NETは後腸系に属する直腸原発が90%以上を占め,Chromogranin Aの陽性率が低いなど,中腸系NETとは異なる免疫組織化学的特徴がある.2019年に発刊された消化器WHO分類にてNET亜分類の変更が行われ,旧版の増殖指数によるものから,細胞異型度や組織分化度などの組織学的所見と増殖指数を組み合わせたものへ変更された.これにより,増殖指数の高いNETと,ゲノム異常や薬物治療反応性の異なる高悪性度の神経内分泌癌とが明確に区別された.本邦の大腸癌取扱い規約では,以前から両者を明確に区別する立場をとっており,新WHO分類は本邦の立場に近くなった.近年では,増殖指数以外のバイオマーカーの報告も散見され,多因子の解析による,適切な治療戦略の確率が期待される.虫垂杯細胞カルチノイドは,新WHO分類では虫垂杯細胞腺癌に名称変更され,NETとは別の腫瘍であることが明確になった.
著者
小林 清典
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.442-451, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
24

本邦では大腸Neuroendocrine tumor(NET)の病変部位は直腸に多く直腸下部に好発する.50歳台に多く,性別は男性優位である.大腸NETに特徴的な自覚症状はない.直腸NETは10mm以下の小病変で,粘膜下腫瘍様を呈し無茎性隆起の場合が多い.内視鏡所見では,腫瘍は黄色調で,表面血管の拡張を伴う場合が多い.超音波内視鏡では,内部が低~等エコーで境界明瞭な腫瘤像として描出され,深達度診断に有用である.直腸NETは,肉眼型や腫瘍径が深達度やリンパ節などへの転移の危険性と密接に関係しており,亜有茎性の肉眼型や中心陥凹,腫瘍径が10mm以上の場合は,固有筋層以深への浸潤や転移の危険性が高まる.直腸NETは単発が多いが,多発する場合もあり注意が必要である.予後については,直腸NETより結腸NETのほうが不良との報告があるが,今後多数例での検証が必要であると考える.
著者
関口 正宇 関根 茂樹 松田 尚久
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.457-469, 2020 (Released:2020-04-20)
参考文献数
59
被引用文献数
1

内視鏡医が日常診療で遭遇する機会の増えている直腸神経内分泌腫瘍(NET)であるが,診断,治療から治療後の対応に至るまで,十分にコンセンサスが得られていない事項が多く,その取り扱いに苦慮することが経験される.内視鏡治療適応についても,腫瘍径1~1.5cmの病変の扱いなどさらなる検証を要するが,少なくとも,最も高頻度に遭遇する,粘膜下層にとどまる1cm未満の直腸NETが内視鏡治療の適応であることについてはコンセンサスが得られている.そのような病変に対する内視鏡治療手技としては,有効性,安全性,患者負担の観点から,ESMR-LやEMR-Cといった通常のEMRに工夫を加えた手技が推奨される.内視鏡治療後には,切除病変の病理評価に基づき追加手術の必要性を判断するが,細胞増殖能や脈管侵襲などの結果によって判断に迷う症例も多い.特に脈管侵襲については,病理における免疫・特殊染色の使用に伴い,粘膜下層にとどまる小さなNET G1病変でも脈管侵襲陽性例が高頻度に見られることが報告されており,その取り扱いについてさらなる議論が望まれる.
著者
大橋 広好 大橋 一晶
出版者
植物研究雑誌編集委員会
雑誌
植物研究雑誌 (ISSN:00222062)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.224-227, 2022-08-20 (Released:2022-11-18)
参考文献数
16

セントウソウ属Chamaele Miq.(セリ科)をエゾボウフウ属Aegopodium L. に含めたZakharova et al. (2012) の説を採り,セントウソウの学名をAegopodium decumbens (Thunb.) Pimenov & Zakharovaに改めた.また,これまでに記録されているセントウソウの種内分類群の中からオオギバセントウソウとヒナセントウソウを独立の品種として認め,それぞれA. decumbens f. flabellifoliolatum(Y.Kimura) H.Ohashi & K.Ohashiとf. gracillimum(H.Wolff) H.Ohashi & K.Ohashi の新組み合わせを発表した.また,その他の種内分類群,ミヤマ,ヤクシマ,イブキの各セントウソウをセントウソウの異名とみなした.
著者
瀬在 明 高山 忠輝
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.241-245, 2020-08-01 (Released:2020-09-30)
参考文献数
13

Japan is at the forefront of super-aging societies worldwide, and a “heart failure pandemic (HF)” is predicted for the near future under the current medical system. This “pandemic” is not temporary but ongoing. We need to work hard to prevent and treat HF throughout the region. We report the importance of regional cooperation for preparedness for a HF pandemic and our University activities. Our hospital established a HF team and conducted regional collaborative activities. Since December 2018, the heart failure team has been upgraded with hospital support and going the following; 1) After the establishment of the heart failure nursing clinic within the heart failure outpatient clinic. 2) HF case conference. 3) HF interdisciplinary conference. 4) Ventricular Assist Device conference. 5) Establishment of study groups in each local medical association (Itabashi, Toshima, Nerima, and Kita). 6) Lecture activities at each branch of the Alumni Association of Nihon University School of Medicine. 7) Mobilization of doctors to each facility. 8) Outpatient hANP treatment was conducted as a multi-center study. 9) continuous positive airway pressure (CPAP) or adaptive servo ventilation (ASV) was actively conducted. 10) Medical Care Stations, a social networking service (SNS) for medical fields, were introduced. 11) HF Registry (SAKURA-HF). To prepare for a HF pandemic, it is important to clarify the role of each facility and share information when engaging in treatment and prevention. University hospitals should take leadership to establish regional collaborations for HF. Information and communication technology (ICT) is considered an effective tool to strengthen such collaboration.
著者
本多 牧生 Makio Honda
出版者
海洋研究開発機構
巻号頁・発行日
2004

北太平洋時系列観測研究
著者
渡邊 謙太
出版者
独立行政法人 国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校
雑誌
沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:24352136)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.31-45, 2022-08-31 (Released:2022-10-03)

異型花柱性は、被子植物に見られる性的多型で、長花柱花と短花柱花からなる二型花柱性と、それに中花柱花を加えた三型花柱性が知られている。花のタイプは遺伝型により決まり、一般に同じタイプの個体間の受粉では、種子を作らない(同型花不和合性)。そのため繁殖は送粉者(花粉の媒介者)に強く依存している。このような複雑な性表現である異型花柱性は、自殖を防ぎ、他殖を促進する植物の工夫と考えられている。チャールズ・ダーウィンによる1862 年の論文「On the two forms, or dimorphic condition,in the species of Primula, and on their remarkable sexual relations」以来160 年もの間、多くの研究者がこの現象を研究してきたが、今なお未解決の問題が多く残されている。 本総説では、まず異型花柱性について基本的な情報を解説し、続いてこれまで世界で展開されてきた異型花柱性に関連する研究テーマについて整理して紹介した。さらに、日本の在来植物を対象とした異型花柱性研究の文献についてシステマティック・レビューを行い、対象分類群の年代による変化や地理的傾向を示した。最後に日本の在来植物を対象とした異型花柱性に関する研究の主要なテーマになると考えられる異型花柱性の「適応的意義と維持」と「進化的崩壊」について、今後の研究課題を検討した。 南北に広がる島嶼国日本では、冷温帯から亜熱帯までの気候があり、一つの植物種が地域によって異なる送粉者と共生関係を結んでいる例もあり、繁殖生態や花形態の地域間比較等、今後も様々な研究の展開が考えられる。