著者
望月 祐志 中野 達也 坂倉 耕太 渡邊 啓正 佐藤 伸哉 奥脇 弘次 秋澤 和輝 土居 英男 大島 聡史 片桐 孝洋
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.106-110, 2022 (Released:2023-04-29)
参考文献数
33
被引用文献数
1

We have been developing the ABINIT-MP program for fragment molecular orbital (FMO) calculations over 20 years. Several improvements for accelerated processing were made after the release of Open Version 2 Revision 4 at September 2021. Functionalities were enhanced as well. In this short report, we summarize such developments toward the next release of Revision 8.
著者
水元 裕樹 池澤 秀起 光田 尚代 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.101-106, 2015 (Released:2016-01-06)
参考文献数
6

A stroke patient with left hemiplegia was at risk of falling to the right side when turning left, due to, lack of displacement to the left side of the center of gravity which resulted in instability to the right side when turning. Therapy was administered for the left hip joint abductor muscle, left obliquus internus abdominis muscle, and obliquus externus abdominis muscle, but this did not improve turning movements. Therefore, therapy then focused on the alignment of the upper trunk, right shoulder joint, and the right latissimus dorsi muscle. As a result of the new therapy, the center of gravity shifted to the left side thereby reducing the risk of fall. It is our opinion that the right lateral bending of the upper trunk was caused by hypertonia of the right latissimus dorsi muscle, and that hypertonia of the right latissimus dorsi muscle had prevented the patient from shifting her center of gravity to the left side.
著者
中里 理子 Michiko Nakazato
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.268-282, 2002-10

オノマトペの多義性についてその時徽を考え、一例を取り上げ実際に多義が派生しさらに解消されていく過程を考察した。まず、現代語の多義のオノマトペから意味相互の関連を考察し、(1)擬音と擬態の共通性、(2)様態の共通性、(3)感覚の共通性、(4)一般語彙との関連、(5)隣接オノマトペとの関連、(6)音の類似性、という六つⅥ特徴を見出した。次に近世・近代の「まじまじ」を取り上げ意味変化を見ながら、多義の派生とそれが解消される過程を検討した。「まじまじ」は、「目ぱちぱちさせる」という一動作とその動作を行う一般的状況を表したが、その状況が「眠れない」「平然と(見る)」「見ていて落ち着かない」に分化したとき矛盾する意味を含んでしまい、混乱を生じた末、一動作を表す意味「じっと見つめる」になり、本来のコ目をぱちぱち」という象徴性が失われた。「落ち着かない」意味は隣接オノマトペの「もじもじ」に、「眠れない」意味は語基が共通する「まんじり」にその意味が移行し、多義の縮小につながっている。形態による意味の分担も多義性の解消に関連すると思われる。
著者
ジャン ムンソン 森 郁恵
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.111-117, 2023 (Released:2023-04-21)
参考文献数
34

脳神経系は, 感覚, 思考, 学習, 感情, 行動などの私たちの日々の生活に重要な生命現象を制御している。脳の仕組みを解明するため, 多種多様な研究が世界中で行われているが, 近年, 腸など他の組織が脳機能に影響しているという新たな知見が得られはじめている。線虫Caenorhabditis elegansは, マウスやサルなどの哺乳動物の複雑な脳とは異なり, 際立って少数の神経細胞からなる脳を持ち, この線虫を用いることで, シングルセルレベルの解像度で脳の情報処理の全体像を研究することが可能である。これまでに, 線虫は化学物質や温度などのさまざまな刺激に走性を示すことがわかっているが, その走性行動は摂食状態, すなわち広い意味での栄養状態に依存して変化することも知られている。つまり, 線虫は, エサの有無といった栄養状態と刺激を連合学習し行動に反映することができる。学習により生成された行動にはRAS/MAPK経路やTOR, インスリン, モノアミンシグナル伝達など, ヒトまで進化的に保存された重要な分子が働いている。本稿では, 線虫の脳神経系が栄養状態に依存して行動可塑性を制御するメカニズムに関する遺伝学的知見を概説し, 記憶学習に関与する分子機構と, 感覚応答及び内部状態による行動制御機構について紹介する。
著者
飯尾 耕治 後藤 和義 萩谷 英大 小川 寛人 三好 諒 大塚 文男 東影 明人
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.248-255, 2023-04-25 (Released:2023-04-25)
参考文献数
19

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的パンデミックにより,医療機関において新興感染症に対する検査体制を整備することの重要性が再認識された。特に短期間で変異を繰り返すSARS-CoV-2のモニタリングとして,次世代シークエンス(NGS)解析が非常に有効なツールであることが立証された。国内におけるCOVID-19に対するPCR検査体制は,迅速かつ操作性が簡便な自動PCR装置の普及により,早期診断と迅速な感染対策が可能となったものの,ゲノム解析実施数は世界的に見ても少なく,積極的疫学調査が十分行えているとは言えない。今後COVID-19を含めた新興感染症の流行を正確に把握し適切な感染対策を講じるためには,変異の発生や頻度を可能な限り早期に把握するため,ゲノム解析を通じたウイルス変異株の同定と分析を迅速に行う体制整備が求められている。今回,我々は院内臨床検査室でも実施可能な全ゲノム解析アプローチの手法を構築することを目的として,高性能でありながら低コスト・簡便性の特徴を持つOxford Nanopore社のMinIONを用いて,日常業務において実践可能な全ゲノム解析のためのプロトコール作成に取り組んだ。実験材料の入手や感染症遺伝子検査に精通した人材の育成などの課題はあるものの,臨床検査室の日常業務にシーケンシング技術を取り込むことにより,新興感染症の疫学解析に貢献するのみならず,細菌の同定や薬剤耐性菌の遺伝子学的解析など今後さらなる臨床微生物学への応用が期待される。
著者
河合 康 Yasushi Kawai
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.381-397, 2007-02

本稿では,イギリスにおけるインテグレーション及びインクルージョンに関する1970年代以降の施策の展開を検討した。その結果,1970年代以降,政府の諸文書や法令においてインテグレーションやインクルージョンの促進が明示されてきてはいるが,実際の統計データにおいてはインクルージョンが進展しているとはいえない状況にあること及びインクルージョンの実態についてはかなりの地域差がみられることが指摘された。さらに,イギリスでは特別学校の存在が否定されてはいるわけではなく,むしろ1970年代から特別学校がインクルージョンを進展させるために重要な機能を果たす存在として認識されていることが明らかにされた。さらに,1970年代から今日まで,インテグレーション及びインクルージョンを実施するための条件が明示されており,この条件の検討が今後の課題である点が指摘された。
著者
渡辺 茂
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.7-13, 2019 (Released:2021-07-28)
参考文献数
15

Ⅰ.なぜネズミで研究するのか 共感は現在最も注目を集めている現象の一つである1)2)。他人の不幸に共感したり、逆に、不公平であることを嫌悪したり、他人を嫉妬したりするのは人間の自然な感情であり、いわば、人間の人間らしい面だとも考えられる。なぜ、この現象を動物で研究する必要があるのだろうか。18世紀の大生物学者であるルイ・ビュッフォンは「もし動物がいなければ、人間の本性はさらに一層不可解なものとなるだろう」と述べている。つまり、人間のことは動物と比較することによって理解が深まる。共感や嫉妬は人間の自分の気持ちを他者と比較することによって生じる情動である。人間で見られるそのような情動がネズミでも見られれば、その進化的起源が明らかになるばかりでなく、人間ではできない実験的研究が可能になり、その神経基盤の解明が可能になってくる3)4)。 Ⅱ.共感を単純化して考える 共感については哲学者、社会心理学者などが様々な定義、分類、理論を展開してきた。これを動物実験で研究するには、なるべく単純化することが必要である。前提としては、まず自分と他人のすくなくとも二人(動物では2個体)がいることである。つまり、共感は個体が複数いることによって成り立つ個体間現象なのである。共感については、相手の気持ちがわかるという認知的側面を強調する立場と、相手の情動によって自分も快感を感じたり、逆に不快を感じたりする情動的側面を強調する立場があるが、まずは他者の情動表出によって起きる情動反応と考えよう。どのような情動が起きるかについても様々な意見があるが、単純化すれば、快か不快か、ということに還元できる。そう考えれば共感は図1のように表すことができる。 幸せな人を見て自分も幸せになるのを「正の共感」としておこう。ヒトではごく普通に見られる現象で人間の基本的な共感と思われるこの正の共感は、動物では案外見つけにくい。逆に、他者の不快が自分の不快になることを「負の共感」とする。この正の共感、負の共感に共通する特徴は他者の状態と自己の状態が一致していることである(状態一致性といわれる)。この「同じ気持ちになる」二つの共感が狭い意味での共感と言われるものである。 しかし、自分の情動は他者の情動と一致するものばかりではない。他者の幸福がむしろ不快に感じられる場合も考えられる。いわゆる嫉妬などはこれに含まれる。これは狭い意味の共感としてあげたもの以上に人間の行動を支配している情動のようにも思われる。まことに人間の暗い側面のように思え、ヒトの発達した社会性が生み出した負の遺産のように見えるが、のちに述べるように動物にもその原始的なものが認められる。ということは、この情動もヒトの文化が独自に生み出したものではなく、なにか生物学的な意味のある情動だと考えられる。ここでは、この情動を「不公平嫌悪」としておこう。 さらに複雑なものに他者の不幸を快とする場合もあり、日本語での「他人の不幸は蜜の味」ということに相当する。日本語あるいは英語の単語でこの情動を表すことばはないが、ドイツ語ではシャーデンフロイデ(Schadenfreude)という単語がある。 さて、このように考えてくると共感とはまことに矛盾した情動だということになる。同じ他者の不幸があるときには悲しみに(負の共感)になり、別の場合には快感(シャーデンフロイデ)になる。他者の幸福も喜び(正の共感)になったり、不公平嫌悪になったりする。 Ⅲ.正の共感 「貧苦は共にできても、富貴は共にできない」というくらいで、他者の幸福を自分の幸福とするのは他者の不幸を悲しむより難しいことかもしれない。しかし、友人や家族の幸福を祝福し、一緒に喜ぶというのはヒトでは普通に見られる。しかし、幸福の共感の動物研究は例が少ない。ひとつには動物の快感の測定が難しいという問題がある。 中枢作用を持つ薬物の中には快感を起こすものがあり、それらの薬物の中には社会的促進があるものが知られている5)。薬物による快感の測定方法としては条件性場所選好(Conditioned Place Preference: CPP)がよく用いられる。環境の異なる区画(たとえば白い部屋と黒い部屋)からなる装置に動物を入れて自由に行き来させ、予めそれぞれの区画での滞在時間を測定しておく。ついで薬物を投与してある区画(たとえば白い部屋)に閉じ込め、別の日には溶媒を投与して別の区画(たとえば黒い部屋)に閉じ込めるということを繰り返す。その後、動物を自由に動き回れるようにしてそれぞれの区画での滞在時間を再び測定する。投与薬物が何らかの快を引き起こしていれば、その投与と結びついた区画での滞在時間が増加するはずである。 マウスを使ったCPPでこの強化効果の社会的促進を検討する。1個体でなく2個体同時にメタアンフェタミン(ヒロポン)を投与する。つまり、仲間と一緒に覚せい剤を投与する。生理食塩水投与の日には2個体とも生理食塩水を投与される。この手続きを繰り返した結果、アンフェタミンの区画の滞在時間が1個体で実験した場合より増大することがわかった6)。つまり、他者と自己が同じ快の状態であると、薬物の強化効果は強くなるのである。 社会的促進の簡単な説明としては、薬物自体の効果と薬物を投与された個体の強化効果が加算された結果だというものがある。このことを解明するためにマウスを2群に分け、一方の群はヒロポン投与の経験をさせておく7)。他方の群は生理食塩水投与の経験をさせておく。ついで、ある種のCPPを行うが、被験体のマウスは薬物の投与を受けるのではなく、薬物を投与されたケージ・メイトと一緒に一方の区画に入れられ、翌日は生理食塩水を投与されたケージ・メイトと一緒に他方の区画に入れられる。つまり、薬物の強化効果を調べるのと同じ方法で薬物投与されたケージ・メイトの持つ強化効果を調べたのである。その結果、事前にヒロポンの経験をさせた群ではヒロポン投与個体の強化効果が認められるが、ヒロポンの経験がない群ではヒロポン投与個体の強化効果は認められなかった。このことはヒロポン強化効果の社会的促進は薬物投与の共通経験を介したものであることを示唆する。面白いことにモルヒネではこのような効果は観察されない。 Ⅳ.負の共感 同種の他個体の負の情動表出が嫌悪的なものであることはヒト以外の動物でも広く認められている。心拍などの自律反応でも他個体の情動反応で変化が生じることがわかっているが、行動指標でこの共感を明らかにした最初の研究はチャーチ8)のものである。彼はまずラットにレバー押しのオペラント条件づけを訓練した。反応が安定したところで、実験箱の隣で他のラットに電撃をかける。電撃をかけられたラットは痛覚反応を示す。するとレバーを押していたラットはレバー押しをやめてしまう。つまり反応が抑制されてしまう。この抑制は繰り返しによって消失する。わたしたちの実験室では同じような現象をハトのオペラント条件づけで確認した9)。 他者の嫌悪反応は自分の嫌悪的経験の信号であり、他者の嫌悪反応によって事前に逃避すれば、自分の嫌悪経験を避けられるかもしれない。これには個体発生的な経験(学習)で獲得されるものがある。先ほどのハトやラットの実験で、他個体に電撃がかかると、それに続いて自分にも電撃がかかるように条件づけをする。この場合、隣の個体の痛覚反応が条件刺激(CS)、自分の電撃が無条件刺激(UCS)になる。この後、ハトを再びオペラント箱に入れて隣で別のハトに電撃をかけると、オペラント反応は再び抑制される。これは、条件づけをしたのだから、当然のことである。別の個体には、このような条件づけをしないで、ただ電撃をうける経験だけをさせる。条件づけをしていないにもかかわらず、この同じ経験を持つ個体でも隣のハトの痛覚反応でオペラント反応が抑制されるようになる。すなわち、条件づけではなく共通経験が共感を促進したことになる。 他者の負の情動表出が嫌悪的であるということは道徳の起源であるとも考えられる。他者を傷つけることに負の情動が伴うことは、文化、時代による程度の差はあってもヒトに共通しており、そのことから、マーク・ハウザーはヒトが民族や時代を超えて共通の普遍文法を持つように、ヒトに共通する普遍道徳があるのではないかと考えた 10)。 (以降はPDFを参照ください)
著者
鈴木 久晴
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2017-MUS-115, no.6, pp.1-2, 2017-06-10

初学者の方向けに,音圧,粒子速度とインテンシティについて定義に触れ,測定方法について解説を行う.
著者
田村 治美
出版者
国際基督教大学キリスト教と文化研究所
雑誌
人文科学研究(キリスト教と文化) = Humanities: Christianity and Culture (ISSN:00733938)
巻号頁・発行日
no.49, pp.77-121, 2017-12-15

18世紀において、「科学」をめぐる諸状況は変化し、宇宙や自然現象、そして身体に対する眼差しが大きく変わってきた。それと共に健康や疾病の観念も変化し、音楽と身体の関わりもまた変化してきた。 これまで自然科学と音楽の関わりについては、主に、音響学理論が直接反映している調律法や和声理論について研究が積み重ねられてきた。近年では生理学や医学、精神医学、電磁気学などもまた音楽観や音楽現象に影響していることが指摘されている。 本稿では、18世紀後半に人々を魅了し大流行したにもかかわらず、健康をそこね死に至らしめるとまで噂されて音楽界から姿を消し、今もなお不思議な伝説の謎から解き放たれていない楽器「アルモニカ」について論述した。 アルモニカは、大きさの異なる複数のガラスの椀の縁をこすって音を発生させ、音楽を奏でる楽器である。この楽器の特異な点の一つは、18世紀、「科学」の転換期に、近代科学に重要な成果を残した二人の人物が、パリの社交界を舞台にそれぞれ独自の科学理論を掲げてその楽器に関わったことである。一人はアルモニカの発明者であり、雷の正体が電気であることを証明したベンジャミン・フランクリン、もう一人は近代力動精神医学の祖とされ、治療プロセスでアルモニカを用いたフランツ・アントン・メスメルである。ところが、二人はメスメルの理論体系をめぐって科学的対立軸に位置することとなり、メスメルの失脚によってアルモニカもその運命を共有することになった。 これらのいきさつについて、本稿では18世紀の神経学や電気の理論の進歩による生命観のパラダイムシフトを主軸に、音楽の心身への影響、フランクリンの電気理論、メスメルの動物磁気理論との関わりを調査し、それらがアルモニカの興亡にどのように影響したのかを分析した。その結果、アルモニカの流行と不名誉な噂の中での凋落が、18世紀の「生命科学」と音楽観との関係の中でうまれた必然的な帰結であることが指摘された。 18世紀以降、科学と音楽は専門分化の道をたどってきたが、共に自然や人間を対象にし、時代思想や社会の産物として照応関係にあると思われる。アルモニカの運命は、音楽が、生命をめぐる諸科学、すなわち医学、生理学、心理学、そして電気・磁気学とも深い相互関係をもっていることを教えてくれる。
著者
大矢 幸久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.92-109, 2023 (Released:2023-04-29)
参考文献数
58

これまで地誌学習において,カリキュラム作成者や授業者によって恣意的・主観的に設定された「地域性」や「地域的特色」を子どもに無批判にとらえさせる危険性が指摘されてきた.本稿では,地域を社会的に生産された構築物としてとらえ,それを吟味・批判し,地域像の再構成や新しい地域像の創造を目指す地誌学習の授業構成を明らかにした.イングランド地理教育研究やジオケイパビリティ・プロジェクトの成果を踏まえると,社会構成主義的アプローチだけでなく,知識の実在性を重視する社会実在主義的アプローチに基づく地誌学習の構想が求められる.検討の結果,学術研究の成果に基づく学問的知識と子どもの生活経験に基づく日常的知識を問いによって結び付けて地理的概念の獲得・伸長を図る「構築物–再構成型地誌学習」の構成原理および授業過程モデルを提起した.
著者
宇多 高明 五十嵐 竜行 立石 賢吾 繁原 俊弘 芹沢 真澄 宮原 志帆
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.I_745-I_750, 2017 (Released:2017-10-17)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

既往研究によれば,森戸川河口に隣接する西湘PA沖の-100 m付近には海底谷谷頭部を縁取るほぼ垂直に切り立った崖があり,また,森戸川河口沖の海底谷の西端と東端の急斜面上には海底谷へと続く流跡模様が残され,その状況から海底面を土砂が滑り落ち,海底を侵食しつつ流れ下っていると推定された.しかしこれらと海岸から深海への土砂落ち込みとの因果関係は明らかでなかった.本研究では,BGモデルを用いた数値計算により,海底谷谷頭部では急勾配斜面を経た沖合への土砂落ち込みが起こり得ることを示した.
著者
花田 智
出版者
首都大学東京
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2017-06-30

今までアンモニアから亜硝酸・硝酸への酸化は硝化細菌によって酸素存在下で進行するプロセスと考えられてきた。しかし、酸素非発生型光合成細菌は亜硝酸だけではなくアンモニアも光合成電子伝達の電子供与体に成り得ると考えられるが、アンモニアを嫌気的に酸化できる酸素非発生型光合成細菌は未だ発見されていない。本研究において海洋や温泉といった環境から無酸素条件下でのアンモニア酸化能を有する海洋性または好熱性の酸素非発生型光合成細菌の培養に成功した。これら細菌のアンモニア酸化に伴う中間産物が何であるかは明らかとなってはいないが,世界で初めての培養例であると言える。
著者
西館 有沙 徳田 克己 水野 智美
出版者
富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センター
雑誌
教育実践研究 : 富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要 (ISSN:18815227)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.27-33, 2015-12

中学生を含む青年前期の子どもには,特に女児において,価値観や好みを共有できる少人数の仲間集団をつくる傾向が見られる(石田,2002)。石田・小島(2009)は,児童期から青年期にかけて多くの時間を共有し多くの活動をともにする仲間集団は,彼らにとって重要な意味を持っていると述べている。一方でこの時期には,グループの外にいる子どもたちを寄せつけないような強い排除が生まれやすいとされている(有倉,2011;有倉・乾,2007)。この発達段階にある中学生が,クラスメートである発達障害児の特性を理解し,良好な関係を保っていくために,教員はどのような指導を行うべきであろうか。本稿では,発達障害児に関するクラスメートの理解を促すための指導を,障害理解指導と呼ぶ。発達障害児の学級適応を図るにあたり,教員が発達障害児に対して,その特性に応じた支援を行う必要があることは言うまでもない。しかし,発達障害児への指導のみでクラス内の子どもたちの関係を良好に保つことはむずかしいのであり,クラスメートへの障害理解指導のあり方についても検討を進めていく必要がある。
著者
桜田 真理絵
出版者
駿台史学会
雑誌
駿台史學 (ISSN:05625955)
巻号頁・発行日
vol.156, pp.51-76, 2016-02-29
著者
永井 拓生
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.66-78, 2023-04-25 (Released:2023-04-29)
参考文献数
28

ヨシ群落の適切な管理保全を達成するために,ヨシ(Phragmites australis)の活用法の確立は重要な課題である。本研究では,将来的なヨシ活用の実現を目標とし,ヨシ稈の形状と力学的特性について基礎的な調査を行った。ヨシ稈の比重・曲げ強度・曲げヤング係数には互いに強い正の相関が確認された。これらの特性値はいずれも根際と穂先あたりでは相対的に小さく,中腹の胸高さあたりで最大となる。また,この付近では節同士の間隔が他部位よりも相対的に大きく,節の数が少ない。つまり,材質の強化による補強が行われている。一方,根際付近では稈断面寸法が他部位より大きいことに加え,節同士の間隔が詰まっており,形状操作による補強が行われている。このように,ヨシ稈においては草丈に亘る質量の増加を防ぎつつ各部の補強がなされており,構造力学的に非常に効率的な材料配置となっていることが確認できた。