著者
田中 真木 小西 恵美子
出版者
日本看護倫理学会
雑誌
日本看護倫理学会誌 (ISSN:24347361)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.51-55, 2021-03-20 (Released:2021-05-29)
参考文献数
7

「よい看護師国際共同研究プロジェクト」の一部として本稿の第一著者がインタビューした日本のがん患者14名の語りから、よい看護師が患者に向き合う姿勢を論考した。論考では、上記プロジェクトのデータ分析における抽象化の過程で沈んでいった患者の生の語りと、語る際に患者が見せた表情や口調、仕草に光をあてている。患者たちは、自分たちがおかれた立場がいかに弱いものかという心身両面での脆弱性を述べ、その脆弱性をポジティブな方向へ転換させてくれる看護師が、患者にとってのよい看護師であるとした。その語りは具体的かつさまざまな表現で、なぜその看護師をよい看護師と認識したのかを述べていた。看護ケアの受け手である患者の生の声は看護師が学ぶべきことを指し示しており、そこに光をあてる意義を論じた。
著者
茂呂 和世
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2018-06-11

2型自然リンパ球(Group 2 innate lymphoid cells:ILC2)は、IL-33によって活性化し、IL-2、IL-5、IL-6、IL-9、IL-13、GM-CSFなどの2型サイトカインを産生することで寄生虫排除に働く一方で、気管支喘息をはじめとするアレルギーを悪化させる細胞であることが分かっている。特発性肺線維症患者の肺胞洗浄液でILC2が優位に増加することが2014年に報告されている。我々の研究室で作製したIFNgR-/-Rag-2-/-マウスは、ILC2にとって抑制因子となるIFNgとTregが欠損することで恒常的にILC2が活性化するマウスであるが、このマウスでは肺線維症が自然発症することが明らかになった。これまで肺線維症の研究にはブレオマイシンやシリカなどを気管支内に投与する肺線維症モデルマウスが用いられてきたが、これらの実験系は人為的な線維化誘導マウスであり、線維化が持続しないことから、未病期や増悪期が解析できないことが問題であった。一方で、IFNgR-/-Rag-2-/-マウスは15週齢前後で100%のマウスが肺線維症を自然発症することから、線維芽細胞のコラーゲン産生が始まる前の未病期の解析をすることが可能であり、50週齢前後に呼吸困難により死に至るため、線維化が慢性化する理由を突き止めることが可能なマウスとなっている。本研究では、肺線維症自然発症マウスをscRNA-Seq解析によって解析することで、未発症→発症→重症化という線維化の流れにおいてILC2を中心に肺の細胞がどのように変化していくのかをダイナミックに描き出し、将来的に特発性肺線維症の新規治療法開発につながる研究基盤構築を目指す。
出版者
文藝レビュー社
巻号頁・発行日
1931
著者
小野 芳朗
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.76, no.659, pp.67-74, 2011-01-30 (Released:2011-03-07)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

After the Meiji-era, the forest around Shin-to shrine was refined as Shin-en (The forest for God) in order to keep shrine's authority. This Shin-en had also function as the Urban Park. This paper discusses an example of building of a shrine and a park in Okayama City. The Shokon-sha shrine (the Shin-to shrine dedicated the sprits of war dead soldiers) was built in 1869 on a hill Higashi-yama where the shrine dedicated Tokugawa Shogun from 1644 that was the most important memorial space for the governor Daimyo Ikeda. After the stationing of Army 17 division in 1907, the Shokon-sha shrine was rebuilt with the refined Shin-en Parks designed by the technocrat belong to Ministry of Imperial House as the authority for the sprit of soldiers of Imperial Army.
著者
松原 三郎 伊佐山 浩通 屋嘉比 康治
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.1186-1207, 2018 (Released:2018-06-20)
参考文献数
128
被引用文献数
1

急性胆嚢炎に対する内視鏡治療には,ERCP下に行う経乳頭的アプローチ(ETGBD)とEUSを用いる経消化管的アプローチ(EUS-GBD)がある.ETGBDは胆嚢管を突破するという技術的困難さから成功率は若干低いが,PTGBD不能例に対する代替治療として確立されており,また内瘻化することで胆嚢炎再発に対する長期予防効果も期待されている.EUS-GBDは2007年に始まった新しい方法であるがそのエビデンスの量はETGBDをすでに凌駕している.高い成功率と安全性を有し,長期予後も良好であり,さらに使用するステントによっては結石除去まで行うことが可能である.今後PTGBDに代わる第一選択の治療法となる可能性を秘めている.本稿では,ETGBDおよびEUS-GBDについて,適応,方法,短期成績,長期成績,偶発症,PTGBDとの比較などについて最新のエビデンスに基づき解説する.
著者
鄭 恩禎 桐谷 滋
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.64-70, 1998-08-30 (Released:2017-08-31)

In this paper, I show that pitch patterns influence native speakers of Korean in their perception of voiced and voiceless sounds in Japanese. It is shown that speakers of Korean, a language which does not have the contrast between voiced and voiceless sounds, rely on the difference of the pitch patterns rather than the voicing sounds. More specifically: 1. It was confirmed that, roughly speaking, higher pitch occurs in association with voiceless sounds, while lower pitch occurs in association with voiced sounds. 2. It was confirmed that Korean speakers have little problem perceiving voiceless sounds when they are accompanied by a clear high pitch, and voiced sounds when they are accompanied by a clear low pitch. In other cases, the rate of perception errors was high. 3. In a follow-up experiment, the pitch pattern of voiced sounds was substituted with that of their voiceless counterparts and that of voiceless sounds with that of their voiced counterparts. The results showed that Korean speakers are apt to perceive voiceless sounds as voiced when the accompanying pitch is low, while they tend to perceive voiced sounds as voiceless when the accompanying pitch is high. Japanese speakers showed the same tendency, but with a lower rate of errors in perception.
著者
阿部 俊夫 坂本 知己 田中 浩 延廣 竜彦 壁谷 直記 萩野 裕章
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.147-156, 2006-01-30 (Released:2009-01-19)
参考文献数
27
被引用文献数
7 4

河川への落葉供給源として必要な河畔林幅を明らかにするために,森林内の落葉散布パターンを実測し,さらに,風速変動を考慮した簡単な物理モデルを用いて落葉散布の推定が可能かを検討した.落葉広葉樹林において,谷の両側斜面に単木的に分布するクリの木(両側各1本)を対象として,落葉散布を実測したところ,斜面から谷への方向では,落葉の散布距離は,最大で約25mであり,ほとんどの落葉は15m以内に落下することが分かった.モデルによる落葉散布推定の結果,一方のクリでは,樹冠近傍を除き,モデル推定値と実測値がよく一致した.累積落葉密度は,モデル,実測とも,距離15mで約90%に達した.もう一方のクリでは,モデルによる散布距離の推定値はやや過大となった.モデル推定値と実測値の比較の結果,林内風速が正確に測定できれば,本研究で提案したモデルを用いて落葉散布パターンを推定できる可能性が示唆された.しかし,林内では,樹木や地形の影響で局所的に風の吹き方が異なり,これがモデルの推定精度を下げる要因になっていると思われる.一方のクリで,モデルと実測が一致しなかったのも,この風速の不均質性が原因と推察された.ただし,大まかな落葉散布範囲は,河畔域の代表的な地点で風を観測することにより十分推定可能と思われる.また,本モデルは,その性質上,樹冠近傍の落葉密度を過小評価してしまう.しかし,落葉の累積%が80~90%に達する距離は,モデル,実測ともほぼ同じであり,落葉供給範囲を推定するという目的を考えれば,この違いは大きな問題ではないといえる.以上から,本モデルは,現時点での検証が不十分であるものの,今後,河川への落葉供給源の推定に有効なツールになりうると思われる.
著者
中川 絢太 佐藤 直之 池田 心
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:21888736)
巻号頁・発行日
vol.2016-GI-36, no.20, pp.1-9, 2016-07-29

ゲームを人間がプレイするとき,ゲームから与えられた主目的に一直線には繋がらないような行動が観察できることが多い.例えば,格闘ゲームで「離れた相手に弱パンチを繰り返し対戦相手を挑発する」,アクションゲームで「アイテムが落ちている場所でジャンプを繰り返し仲間にその存在を教える」といった行動である.これらの行動は,様々なゲームで頻繁に見られ,“ ゲームの目的達成のみを追求するAI ”では生まれにくい挙動である.我々は,人間らしいAI の実現には,意図の有無に関わらず現れるゲーム内行動についての議論も必要だと考える.本稿では,30 ゲームタイトル45 種類に及ぶ行動事例を収集し,収集した行動を“催促”,“挑発”,“挨拶”などの目的に応じた計7 種類に分類し,例示した行動が発生する条件や,AI による再現法について考察する.
著者
立本 博文
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.7, no.8, pp.627-632, 2008-08-25 (Released:2018-03-04)

近年の台湾・韓国に代表される東アジア新興国の成長には著しいものがある。半導体・液晶パネル産業のような設備投資競争が国際競争力の鍵となる産業において、各国の税制が果たす新しい役割について紹介を行う。1990年代以降、先進国から新興国への技術普及スピードに税制が大きく関与していると考えられている。しかし、その詳細は明らかになっていない。本稿研究では、設備投資に関わる各国の制度を整理した上で、同一事業を日本・台湾・韓国で行った場合、制度要因のみで、どの程度、企業業績に影響があるのかを推定した。