著者
黒川 雅幸 三島 浩路 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.32-39, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

本研究の主な目的は,小学校高学年児童を対象に,異性への寛容性尺度を作成することであった。小学生を対象とするので,できる限り少ない項目数で実施できるように,6項目からなる尺度を作成した。休み時間や昼休みによく一緒に過ごす仲間の人数を性別ごとに回答してもらったところ,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間も1人以上いる児童の方が,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間がいない児童よりも,異性への寛容性尺度得点は有意に高く,妥当性が示された。また,異性への寛容性尺度得点には性差がないことも示された。同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間も1人以上いる児童の方が,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間がいない児童よりも,級友適応得点は有意に高く,異性との仲間関係が級友適応に影響する可能性が示された。
著者
山本 美紀 Miki YAMAMOTO
出版者
創価大学日本語日本文学会
雑誌
日本語日本文学 = Studies in Japanese Language and Japanese Literature (ISSN:09171762)
巻号頁・発行日
no.28, pp.1-12, 2018-03-18

藤原定家は、歌の創作においては本歌取りを得意とし、多くの歌を残している。彼は本歌取りの重要を「本歌取りだと分かるように創作することである」とした。つまり、本歌は想起されるべきものであり、本歌取りの歌はその本歌の読みを内包して創作されているということになる。本歌取りと同じ創作手法を用いられているのが、「物語二百番歌合」である。物語歌を番えて成っているこの作品もまた、もとになった物語を想起することが想定されているかのような方法が採られており、それが歌を読む際のガイドとして機能しているかのようである。一方、本歌取りの歌も「物語二百番歌合」もその作品だけで読むことが可能であり、もとになった歌や読みを想起することが必須ということではない。想起しても想起しなくても、本歌取りの歌には本歌やその読みが、「物語二百番歌合」の歌にはその歌の収められていた物語内容が内包されている。本歌取りの歌を読むということ、「物語二百番歌合」を読むということはつまり、すでにそのもととなった歌と物語を読んでいるということなのだ。
著者
田島 和雄 MUNOZ Ivan NUNES Lautar CARTIER Luis 宝来 聡 渡辺 英伸 園田 俊郎 CARTIER Lui
出版者
愛知県がんセンター
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

アンデス先住民族(コロンビア南部からチリ北部に居住)には南西日本に多いヒト白血病ウイルス(HTLV-I)感染者が高頻度(5〜10%)に出現し、しかも彼らは南西日本人と類似したHLA遺伝子を有しており、両者の遺伝学的背景やがん罹患分布には類似性が見られ、両者の民族疫学的関連性について興味が持たれている。また、ペル-南部やチリ北部の砂漠地帯には現在でも数千体のミイラが比較的好条件で残存している。これら先住民族のミイラを保存しているサンミグエル博物館(チリ第1州のアリカ市)、サンペドロ博物館(チリ第2州)、イロ博物館(ペル-南部)の考古学者らの協力を得てミイラ150個体(アリカ市96体、サンペドロ市42体、イロ市12体)から組織(骨、および骨髄)を採取した。これらのミイラはC^<14>の判定により約8000年から500年前に住んでいた先住民族のものとされている。これらの検体を日本に持ち帰り、遺伝子のDNA断片の増幅方法(PCA法)により核の白血球抗原(HLA)とベータグロビンの遺伝子のDNA断片、およびミトコンドリアDNAの抽出を試みた。さらに、南太平洋地域のポリネシア人が定着してきたイ-スター島(チリ共和国所属)を訪問し、同島の先住民族であるラパヌイから132個体粉の血液(各30cc)を採取し、日本に持ち帰ってリンパ球と血漿を分離し、リンパ球の核からは各種遺伝子のDNAを検索し、血漿を用いてHTLV-Iの抗体を検索した。イ-スター島の132人のHTLV-I抗体を検索した結果、1人のHTLV-I感染者(58歳の女、抗体価はPA法により256倍、WB法によりp28、p24、p19、GD21などが陽性)を発見した。彼女はリンパ球の核DNAの特性から、パプアニューギニアの先住民に由来するものではなく、むしろアンデス先住民族に由来することが判明した。次に、アフカの73検体とサンペドロアタカマの14検体のミイラのDNA検索の結果、3検体からHLA-DRDQ遺伝子のDNA断片、4検体からβグロビン遺伝子のDNA断片、3検体からHTLV-IのプロウイルスDNAのpX遺伝子の断片がそれぞれ検出された。現在はそれらの抽出された遺伝子の塩基配列を同定中である。一方、ミトコンドリアのDNAについてはD-loop領域の遺伝子の検索が、チリ北部の3先住民族(アイマラ族、アタカマ族、ケチュア族)の110個体、およびアリカとサンペドロアタカマのミイラ46個体(32個体と14個体)について終了した。その中で最も古いミイラは約8000年前のチンチョロ族と言われており、新しいものでは500年前のインカ族が含まれている。それらの遺伝子の塩基配列の同定により各グループのミイラの遺伝学的特徴が明らかになってきた。その結果、言語学的に全く異なるアイマラ族とケチュア族との間には遺伝学的に差が見られなかった。また、ミイラ集団のミトコンドリアDNAにも現存の南米先住民族にみられる4つのクラスターが現れ、その分布特性は現先住民族とやや異なることも明らかになった。これらの遺伝学的な分析結果がさらに進めていくとモンゴロイド集団である南米先住民族と日本人を含むアジア民族の遺伝学的関連性、現存の先住民族とミイラとの人類学的つながり、さらに各時代のミイラ集団におけるDNA特性の経時間的変動、などが明らかになってくる。また、それらの結果と従来から得られている考古学的、人類学的情報とを総合的に比較検討していくことにより、南米モンゴロイドの移動史をより深く探っていくことも可能となる。今後も南米アンデス地域における同様の研究を進展させるため約2年の期間を設定し、すでに採取された検体の遺伝子解析、および新しく発掘されたミイラの検体採取につとめ、それらのDNA特性を明らかにしていきながら、アンデス先住民族と日本民族のDNAの比較研究により、民族疫学的、免疫遺伝学的、人類学的、考古学的に有用となる両者のDNA情報を構築していく。
著者
紀本 創兵
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.192-198, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
33

統合失調症の認知機能障害には,背外側前頭前皮質(前頭前野)における GABA 合成酵素である 67- kDa isoform of glutamic acid decarboxylase(GAD67)の発現量低下,それに続く抑制性神経伝達の異常が関与していることが想定されている。GAD67 は神経活動依存性に発現が誘導されるが,この転写調節領域に同じく神経活動依存性に発現される Zif268 の結合部位があり,Zif268 の結合および発現量の変化に一致して GAD67 発現が変化することが知られている。今回は統合失調症患者の前頭前野で Zif268 の発現変化が GAD67 発現の変化に関与しているのかを,ピッツバーグ大学精神科の脳バンクに保存されている統合失調症患者と健常対照被験者をマッチさせた 62 ペアの死後脳を用い,GAD67 および Zif268 の mRNA の発現量を測定した。結果,統合失調症患者の前頭前野内において,GAD67 および Zif268 の mRNA 量は有意に低下しており,その発現量は正の相関を示した。またこれらの変化は,病気の経過,病歴などの交絡因子の影響は本質的に関与していなかった。これらの結果は,統合失調症における抑制性神経伝達の異常,および認知機能障害を引き起こす分子メカニズムの一つを明らかにする所見と考えている。
著者
藤間 達哉 Matthew Logan Justin Du Bois
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 56 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral26, 2014 (Released:2018-07-19)

【研究背景】 Batrachotoxin(1)はコロンビア産矢毒蛙から単離されたステロイドアルカロイドであり、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)に選択的に作用する強力な神経毒である(Figure 1)1)。Navは興奮性神経細胞における活動電位の発生と伝導において中心的な役割を果たし、てんかん、不整脈、無痛覚症等の疾患にも関わりが深いことから、Navを標的分子に含む医薬品が数多く開発されてきた。しかし、巨大な膜タンパク質であるNavと小分子との相互作用はX線結晶構造が解明されていない現状では予測が困難であり、合理的なデザインによる医薬品創出の障害となっている。本天然物はNavに結合することで、不活性化機構の消失、活性化の膜電位依存性の変化、シングルチャネルコンダクタンスの低下、イオン選択性の変化等、独特かつ多様な機能変化をもたらすことから、古くから研究対象とされてきた2)。しかし、乱獲によって産生する矢毒蛙が絶滅危惧種に指定されたことでその供給が困難となり、Navに機能変化をもたらす詳細な作用機序は明らかとなっていない。このような背景に加え、ステロイド骨格にホモモルホリン環が形成された特徴的な縮環構造は他に類を見ず、合成化学における格好の研究対象とされてきた。生合成前駆体であるbatrachotoxinin A(2)のprogesteroneからの半合成がWehrliら(1972年)により3)、全合成が岸ら(1998年)により報告されたが4)、いずれも40工程を越える長大な合成経路であり、天然物やその類縁体供給に活用するには十分なものではなかった。当研究室においても合成研究が行われてきたものの、CDE環を有する中間体の合成経路は既に30段階程度となり、合成を継続するのは合理的ではなかった5)。そこで、合成経路を一新し、batrachotoxin(1)の実用的な合成経路の開発を目指した研究を行った。【合成計画】 Batrachotoxin(1)はbatrachotoxinin A(2, Figure 1)を経て合成することとした(Scheme 1)。その17位−20位炭素間の結合はケトンを足掛かりとした適切なカップリング反応、11位の水酸基はケトンの立体選択的還元、窒素原子はアルデヒドに対する還元的アミノ化反応を用いることでそれぞれ構築できると考え、ケトアルデヒド3を重要中間体として設定した。さらに、C環のケトン部位をアルケンの酸化的開裂により得ることとし、C 環をアルキン部位とアルケン部位を用いて環化異性化反応やラジカル環化反応等により構築できると考えることで、エンイン4をその前駆体とした。エンイン4はアルケニルブロミド5から調製した有機金属種を用い、予め17位炭素の立体 化学が制御されたエノン6に対する立体選択的な1,2-付加反応によって合成可能であると考えた。【ユニットの合成】 Scheme 1に示したエノン6、アルケニルブロミド5に相当するユニットの合成を行った(Scheme 2)。文献既知の方法により2,5-ジメトキシテトラヒドロフラン(7)から調製した光学的に純粋なアルコール8を用いてエノン10の合成を行った6)。まず、アルコール8のアルケン部位をエポキ(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
田中 詔子
出版者
心理科学研究会
雑誌
心理科学 (ISSN:03883299)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.14-19, 2021 (Released:2021-08-04)
参考文献数
21
著者
森 將豪
出版者
滋賀大学経済学会
雑誌
彦根論叢 (ISSN:03875989)
巻号頁・発行日
no.第313号, pp.19-39, 1998-06
著者
古関 啓二郎 岩佐 博人 伊藤 寿彦 柴田 忠彦 佐藤 甫夫
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.107-117, 1994-06-30 (Released:2011-01-25)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

てんかん性笑い発作の発現機序を検討する目的で, 笑い発作のみを発作症状とする1例に, 双極子追跡法 (Dipole Tracing: DT) および123I-IMP SPECTを施行した。この症例の発作間欠期脳波は, 発作の初発から間もない時期では, 右前側頭部優位の棘徐波結合であったが, 後期においては多棘徐波結合が頻発するようになった。これらの突発波のDT分析を行った結果, 早期の棘波では右側頭葉内側部に等価電流双極子 (equivalent current dipole: ECD) が推定され, 後期の多棘波の先行棘波成分は早期の棘波と同様に右側頭葉内側部に, 後発棘波成分は前頭葉内側部にそれぞれECDが推定された。また, 同時期の123I-IMP SPECTでは, 右前側頭葉および前頭葉内側部に血流増加が認められた。これらの結果は, 笑い発作の発現には側頭葉内側部のみならず隣接の大脳辺縁系が関与していることを示唆している。
著者
飛田 範夫
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.43-48, 1989-03-30 (Released:2011-07-19)
参考文献数
6

京都市の青蓮院は, 火災や移転などによって大きく変化している。しかし, 青蓮院の記録をまとめた『門葉記』と『華頂要略』によって, その変遷をたどることができる。13世紀前半頃の「三条房指図」を見ると建物も庭園も寝殿造の形態になっている。14世紀前半の「十楽院差図」の時代には, 園池は建物に近接するなど害院造の邸宅の影響が見られる。19世紀中頃の「御本坊総図」からは, 書院造の建築に付随した庭園の状態がうかがえる。
著者
石山 友之
出版者
日本語教育方法研究会
雑誌
日本語教育方法研究会誌 (ISSN:18813968)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.56-57, 2022 (Released:2022-06-13)
参考文献数
7

This study attempted to analyze the function of “nantoka,” which is used to ambiguously verbalize a target, in a Corpus of Everyday Japanese Conversation. The results revealed that “nantoka” has the following three functions; (i) indicating ambiguous aspects, (ii) indicating omissions of information, (iii) being used as a variable. Furthermore, in this study, we highlighted that “nantoka” can constitute an important strategy for learners to continue having interactions in Japanese.
著者
渡邉 健太郎 滝田 順子
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.370-375, 2019 (Released:2020-02-07)
参考文献数
22

高リスク神経芽腫の予後は現在の集学的治療をもってなお不良であり,また濃厚な治療による合併症も多く見られることから,基礎研究による新規治療の創出に対する要望は大きい.しかし,従来のドライバーとなる遺伝子異常を発見する戦略では,特に神経芽腫に対しては発展に限界がある.一方で,近年がん細胞には特有の細胞内代謝のパターン,すなわち「がん代謝」とよばれる特徴があることが注目されている.がん代謝はがん細胞の性質を規定するのみならず,その過剰な最適化がロバストネスの消失をもたらすことを利用した治療応用が期待されている.このような背景から,我々は神経芽腫に対してエピゲノム解析および代謝解析などを組み合わせた多層性解析を試みている.検体解析および既存のデータを併用し,PHGDH遺伝子により制御されるセリン合成経路の重要性に着目した.この経路の抑制はin vitroにおいて神経芽腫細胞の増殖抑制をもたらし,有望な治療標的候補になりうると考えられた.また,メタボローム解析による投薬時の代謝解析およびRNAシークエンスによる遺伝子発現状況の解析を複合して行うことで,アルギニン代謝・シスチン代謝への干渉を複合することがさらなる治療効果をもたらす可能性があることを示した.
著者
武谷次郎 編
出版者
磊落堂
巻号頁・発行日
vol.巻之1, 1878
著者
蔡 小瑛
出版者
日本看護倫理学会
雑誌
日本看護倫理学会誌 (ISSN:24347361)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.61-66, 2020-03-20 (Released:2020-05-13)
参考文献数
12

本稿は,筆者が参加した台湾で行ったemicなアプローチによる「既発表よい看護師研究」の結果をeticなアプローチ,つまり,トラベルビー看護理論の視点から解析し,あわせて,「よい看護師」探求の意義を考察するものである。台湾がん患者から見た「よい看護師」の特質は,ケア技術よりも患者とのよい人間関係を築くことのできる看護師であった.また,「視病猶親」(古来の諺:病人を自分の身内として接する)という大きなカテゴリーがよい看護師の要素として見られた.ケア対象者を一人の人間として見るという徳の倫理を追求する「よい看護師」を台湾の患者が求めていることがわかった.それをトラベルビー看護理論から見れば,文化の違いはあれど,文化的普遍性をもつものもあることがわかった.今後の看護教育,実践および研究において無視のできない必要不可欠な課題になるであろう.