著者
Kenth Gustafsson Antoine Durrbach Robert M. Seymour Andrew Pomiankowski 隈本 洋介
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.17, no.98, pp.285-294, 2005-11-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
48
被引用文献数
3 4

タンパク質や核酸と比べて、糖鎖は潜在的により大きな多様性を持つことができる。末端糖鎖の多様性は、バクテリアとヒトのように離れた種間にも、また同一種の中でも存在する。このような広い多様性が存在する理由については依然として不明である。この中には、多型性を示す糖鎖末端のグリコシレーションのうち最も良く知られた例であるABO式組織-血液型抗原がある。粘膜表面のABO抗原に対して各々の病原体が異なった結合性を示すことに着目して、感染症と血液型抗原との関係が多数報告されている。しかし、宿主の細胞と同様の組織-血液型抗原は、宿主によって決定される抗原としてウィルス上にも存在することがある。新たな宿主に侵入すると、ウィルスは自身の持つ組織-血液型抗原に特異的な自然抗体と遭遇するようである。これによってウィルスの直接的な中和が増強されるのみならず、ウィルスに対する特異的な免疫応答も増強されるものと我々は考えている。モデル化研究の際にこのような病原体との相互作用を考慮すると、ヒトの集団で特徴的に見られるABO血液型の頻度を2種類の選択圧によって説明することができ、さらに末端糖鎖の多型が進化してきた様式と原因を説明できる。
著者
遠田 晋次
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.105-123, 2013-02-15 (Released:2013-05-28)
参考文献数
97
被引用文献数
6 6

1995年兵庫県南部地震以降,地震発生確率の低い地域で内陸被害地震が続発した.この事実は,活断層の調査結果を反映した確率予測図が必ずしも有効に機能しているわけではないことを示す.そのため,著者1923年以降の内陸地震と地震断層出現率を再検討した.その結果,震源の把握につながる地震断層の出現率はM6.5以上で20%,M7.0以上で44%となった.したがって,地震断層の同一パターンの変位の累積が活断層と等価であると仮定すると,活断層情報のみによる地震評価に過小見積もりが生じる.また,既知の活断層と確率値からの計算でも,観測された地震数の2–7割程度までしか再現できず,多数の活断層が潜在する可能性がある.一方,活断層分布・内陸地震には顕著な地域性や偏在性がある.これは断層成熟度や応力解放システムの違いを反映し,地震発生の時系列的特徴までもコントロールする.地震サイクルの理解が進んでいる海溝型地震では更新過程を考慮した確率算定が有効だが,内帯では活断層情報だけではなく広域地殻変形等を考慮した確率算定が必要であろう.
著者
木野 民奈 丸山 康世 中川 沙綾子 山本 賢史 中島 文香 小河原 由貴 平吹 知雄 宮城 悦子
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.309-314, 2021 (Released:2021-09-06)
参考文献数
19

当院で分娩した妊産婦の風疹抗体保有率と産後の風疹ワクチン接種状況について,後方視的研究を行ったため報告する.2014年1月から2017年12月までに生産児を分娩した妊産婦3,322名を対象とした.妊娠初期の血液検査で風疹抗体価HI ≦ 16倍を低抗体価とし,経産回数や不妊治療の有無,年齢別に,低抗体価の割合と産褥入院中の風疹ワクチン接種の有無を検討した.低抗体価の妊産婦の割合は31.5%,その中で風疹ワクチン接種率は43.6%であった.35歳未満の妊産婦に比べ,35歳以上の妊産婦は抗体保有率が高く,年齢と共に上昇した.また,初産婦は経産婦に比べワクチン接種率が高かった.さらに,不妊治療後の妊産婦でも低抗体価の妊産婦が一定数存在した.風疹・先天性風疹症候群予防のための妊産婦における風疹ワクチン接種率は依然として低く,官民一体となった施策が必要である.
著者
山本 晃輔
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.65-73, 2008-08-31 (Released:2010-07-09)
参考文献数
28
被引用文献数
4 2 6

本研究では日誌法を用い,“プルースト現象”——におい手がかりによって自伝的記憶が無意図的に想起される現象——の調査を行った.30名の参加者は1カ月間,プルースト現象が生起したときに記憶の内容およびその想起状況について記録するように求められた.その結果,ほとんどの記憶が古く,快でかつ情動性が高く,特定的で追体験感覚を伴った出来事であることが示された.加えて,手がかりとなったにおいは快でかつ感情喚起度が高く,命名が容易であった.また,想起状況の分析から,想起時の活動が副次的な手がかりとして作用することはまれであった.さらに,感情一致効果が見られた.これらの結果はにおい手がかりによって喚起された感情がプルースト現象の生起に影響することを示唆している.
著者
西村 卓也
出版者
一般社団法人 日本活断層学会
雑誌
活断層研究 (ISSN:09181024)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.46, pp.33-39, 2017-03-31 (Released:2018-03-29)
参考文献数
26

Many previous studies have revealed distribution of strain rates in the Japanese Islands using data of continuous GNSS station installed since mid 1990’s. They discovered “strain concentration zones” including the Niigata-Kobe Tectonic Zone and the Ou backbone Range in inland and a side of Sea of Japan away from major plate boundaries including the Nankai Trough and Japan Trench. We used GNSS data after the increase of GNSS stations in 2002 and examined distribution of site velocities and strain rates during 2005-2009 with higher spatial resolution. And then, we compared it with major active faults and found that many active faults locate in regions where maximum shear strain rates were high. We also removed elastic deformation due to interplate coupling on the subducting plate interface along the Nankai Trough and compared between distribution of the corrected strain rates and shallow seismicity. The comparison suggests a tendency that the higher maximum shear strain rates, the more frequent shallow M >_ 6 earthquakes occur. We, therefore, suggest that the GNSS data is incorporated into long-term evaluation of large inland earthquakes.
著者
松山 麻珠 池内 淳
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. HCI, ヒューマンコンピュータインタラクション研究会報告 (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.2, pp.1-8, 2015-03-06

本稿では,校正を行う場面での読みにおける作業効率の差や校正者が受ける影響を測定するとともに,その要因を考察することを目的として二つの実験を行った.実験 1 では,24 名の被験者に対して,2 種類の問題を用いて実験を行い,校正作業の効率,正解率,主観評価いずれにおいても液晶ディスプレイに比べ,紙の方が優れていた.実験1の結果を踏まえ,その違いとなる具体的な要因を探るため,反射光と透過光の違いに着目した実験を 20 名の被験者を対象として実施した.その結果,誤り発見数・誤回答数・読書時間・主観評価について差は認められなかったものの,誤り発見数の平均値,校正作業の精度と再現率について反射光のほうが優位であった.
著者
田中 武夫 岡田 次郎
出版者
低温生物工学会
雑誌
凍結及び乾燥研究会会誌 (ISSN:02888297)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.71-75, 1969-09-30

透過型光学顕微鏡に装着できる冷凍顕微鏡(簡易型)を試作し,魚肉の凍結-解凍過程の直接観察ならびに魚の寄生虫(アニサキス)の低温側での致死温度の測定を試み,次の結果を得た.(1)魚肉の組織片,単離した筋細胞を用いての凍結-解凍過程の観察から,今までに得られている間接的な観察結果がほぼ誤りないことを確かめた.(2)アニサキスの致死温度はその凍る温度,すなわち-3.5〜-8.5℃(とくに-8℃前後)にあるとみなされた.
著者
中泉 明彦 田中 幸子
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.594-602, 2009 (Released:2009-11-02)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1 1

大阪府立成人病センターで行っている膵がん検診の概要について述べた.膵嚢胞や膵管拡張を伴う膵がん検診経過観察例は一般市民に比べ約9.2倍膵癌発症のリスクが高いことが判明した.さらに膵癌発症のリスクは膵嚢胞を伴う膵管拡張群が最も高く,ついで膵嚢胞のみ群で高いことが判明した.経過観察中に発症した通常型膵癌は早期診断困難で,腹部超音波検査で腫瘤が検出できなかったか,膵液細胞診で確定診断ができなかったことに原因があった.2007年から開始した新膵がん検診ではMRCPやEUS-FNA,米国製セクレチンを導入し,早期診断を目指している.
著者
吉岡 誠記 横山 真太郎 小口 智
出版者
公益社団法人 空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会 論文集 (ISSN:0385275X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.146, pp.13-21, 2009-05-05 (Released:2017-09-05)
参考文献数
24
被引用文献数
2

わが国では人口構成の高齢化が進んでおり、今後、社会福祉施設を利用する数の増加が予想される。一方、近年では室内環境における微生物汚染が着目されており、例えば一般に易感染者とされる高齢者を中心とする社会福祉施設においては、重症かつ大規模な被害の可能性も考えられる。そこで、我々は札幌市東区にある老人保健施設を対象に、ビル管法で室内における濃度基準が定められている項目に加え、一般に室内空気汚染の指標として取り上げられることが多いと思われる室内浮遊微生物や自然放射性物質などを加えた項目を主要室内空気質として、その測定調査を実施し、その実態の調査を行った。この結果、冬期では非常に低湿度傾向にあることが確認された。続いて、このような低湿環境においては細菌やウィルスに対する抵抗力が低下すること多くなることが考えられるため、施設内感染対策に関連した室内空気環境における微生物制御を念頭に、加湿・滅菌複合システムの開発を行った。そして本システムの有効性の考察およびその活用法の具体的手順の提示を目的とし、同施設での導入実験を行い、湿度レベルの保持とともに浮遊微生物数の減少に効果がみられることを確認した。
著者
三島 亜紀子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.307-320, 2010-12-31

1987年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が制定されたことから,社会学は社会福祉士の国家資格の試験科目になった.そこで教えられる「社会学」は「社会福祉士に必要な内容」に限られているが,歴史的にみれば社会学は福祉の研究や実践のあり方を大きく方向転換させるなど大きな影響を与えてきた.<br>本稿の目的は,社会福祉士養成課程と社会福祉学における「社会学」を分析し,この領域における社会学の可能性について考察することである.<br>まず社会福祉教育の現状と,そこで社会学はどのように扱われているかについて明らかにする.つぎに,これまでに社会学が社会福祉の教育・研究・実践に与えた影響を概観する.そして今後,社会学は社会福祉の教育・研究・実践にどのような貢献ができるかを考察した.<br>近年,脱施設化がすすめられ,福祉サービスにおけるパターナリズムは否定され,「利用者」の自己決定や「物語」に敬意が払われるようになった.こうした変化にあわせて社会福祉学の理論も展開をみせており,それらの一部は「ポストモダニズム」と呼ばれる.<br>しかし,すべての場面においてこうした変化が及んだわけではなかった.現在の専門家は,「ポストモダン」的な援助をする一方で,過去のエビデンスを根拠に権力をもって介入を行う者と特徴づけられる.周辺への/周辺からの社会学を活発にするためには,こうした新しい専門職のあり方を考慮する必要がある.
著者
倉持 梨恵子 村田 祐樹 大見 卓司
出版者
一般社団法人 日本アスレティックトレーニング学会
雑誌
日本アスレティックトレーニング学会誌 (ISSN:24326623)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.109-114, 2020-04-30 (Released:2020-06-05)
参考文献数
19

In Japan, school sports club activities and safety measures are important themes in school sports. The purpose of this study is to present as much objective data as possible regarding how athletic trainers are placed and intervene in athletic club activities in junior high and high schools in Japan and to clarify the current situation. In addition, while analyzing the problems and issues related to the interventions, we tried to identify commonalities and find solutions by assessing the current situation in the United States, where trainer intervention in schools seems to be more substantial than in Japan. The participation of athletic trainers in high school athletic club activities in Japan was about 20 to 30%, but no objective data regarding junior high school were found. Athletic trainer support for athletic club activities was also desired by instructors and is clearly needed, but more data are needed to prove its involvement. Furthermore, academic discussions are also needed. The search for athletic trainers and the achievement of their placement in high schools, which has been undertaken since the early 1990s in the United States, will be an effective landmark for achieving the beneficial involvement of athletic trainers in Japanese schools.

10 0 0 0 OA 地形図の読方

著者
地理教育研究会 編
出版者
中興館
巻号頁・発行日
1932
著者
東京市教育局 編
出版者
モナス
巻号頁・発行日
vol.事実問題の部, 1933
著者
村上 公一
出版者
素粒子論グループ 素粒子論研究 編集部
雑誌
素粒子論研究 (ISSN:03711838)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.159-252, 1996-05-20 (Released:2017-10-02)

近年、超対称性理論における非摂動論的取り扱いが大きく進展している。このような進展の中で、特にdualityという手法が強力な役割を果たした。dualityという概念は様々な超対称性理論において存在することが分ってきたのであるが、本稿は、このなかで特に、物質場の結合していないN=2超対称性Yang-Mills理論におけるduality、及びN=1超対称性量子色力学におけるdualityのふたっを紹介することを目的としたreviewarticleである。本稿は二つのPartより構成されており、PartIではN=2超対称性Yang-Mills理論について述べ、PartIIではN=1超対称性量子色力学について述べる。PartIの前半ではできるだけ一般のゲージ群の場合について理論の古典的真空(古典的moduli空間)について述べ、後半ではゲージ群が特にSU(2)の場合について量子論的真空(量子論的moduli空間)を述べる。この理論のmoduli空間はSeibergとWittenによって、その厳密な構造が与えられており、それを紹介する。PartIIではゲージ群がSU(N_c)でN_fフレーバーを持つN=1超対称性量子色力学について、その低エネルギー領域にどのような相が存在するかを種々のN_fの値に対して見た後、Seibergによって3/2N_c<N_f<3N_cに存在することが示唆されているdualityを紹介する。