著者
西 敏行 花岡 良一
出版者
富山工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

高圧架空配電系統において、絶縁電線は、電柱にがいしとバインド線により支持されている。配電線の近傍に落雷が発生した場合、電線の心線には誘導雷サージ電圧が侵入する。このサージ電圧が、電線の支持点に到達すると、がいしの絶縁破壊に続きバインド線先端から電線表面に沿って沿面放電が進展する。この沿面放電が、電線溶断事故などの原因となる。このような災害を未然に防ぐためには、沿面放電現象の特性解明が重要となるが、現在では未解明な点が多く存在している。本研究では、誘導雷サージの波高値V_m(V_m=±90、±100kV)、波頭長T_f(1.2≦T_f≦100.0μs)が、電線表面を進展する正、負極性沿面放電にどのような影響を及ぼすかを観測し、以下のような新しい知見を得た。1、正極性沿面放電(1)進展長について波頭長T_f=1.2〜8.0μsでは、波高値の上昇とともに単調に増加し、進展長に相違は見られない。しかし、波頭長T_f=10.0〜100.0μsでは、波高値の上昇とともに進展長は単調に増加するが、波頭長が長い場合ほど短くなる。T_f=1.2、100.0μsにおける進展長をV_m=-100kVの場合について比較すると、T_f=100.0μsでは、T_f=1.2μsの場合より、約30%に減少する。(2)進展様相について 波高値、波頭長が変化しても影響を受けず、電線表面をジャンプしながら進展する。2、負極性沿面放電(1)進展長についてT_f=1.2〜20.0μsでは、V_mの上昇と共に進展長の増加、減少領域が現れる。しかし、T_fの増加と共に、進展長の減少領域は縮減する。T_f=50.0、100.0μsでは、V_mの上昇と共に進展長は単調に増加するようになる。しかし、T_fの増加と共に進展長は抑制される傾向を示す。(2)進展様相についてV_m≦100kVでは、T_fの増加とともに放電先端で発生する離散的なジャンプ現象が抑制される。負極性沿面放電では、放電先端におけるジャンプ現象の衰退が進展長を助長することが明確になった。
著者
広瀬 茂男 PAULO Cesar Debenest
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

2006年の11月から2007年の1月の間、我々のロボットは、カンボジアでテストを行った。カンボジアの組織CMACが、シュリムアップ近くの実験場を供給してくれた。ここでは、位置の認識できるところ(キャリブレーション地区)と位置のわかっていない地区(テスト地区)とに地雷が埋められていた。クロアチアとの実験とは異なり、我々自身ではロボットは使用せず、現地作業員に操作方法を教え、我々は技術的問題の補助を行った。トレーニングの期間、我々の部隊は、キャリブレーション地区でテストを行い、ソフトと機構上の調整をおこなった。クロアチアでの実験以降に改良した点は、ペンキとプラスチック円盤を用いたマーキング機構を追加したところであり、両者とも良好に動いた。GPSデータを用いた地図座標の取り入れ機構も導入し、1cmの精度で計測できた。操作者と評価者の為のユーザーインタフェースの改良も行った。言語の違いとコンピュータ操作の不足があったが、現地作業員は、操作手順を早く習得し、簡単な問題点は、自分達で解決することができた。カンボジアでは、2つのロボットを同時に操作させる事も行った。それぞれのロボットは、金属探知機および、GPRを装備した二種類がある。マーキングも別々のものを装備した。第一次実験の結果から、金属探知機のみを装置したロボットが人間作業者よりも早く作業をすることができた。地雷を間違って認識することは特別な状況以外はなかった。金属探知機を、GPR機を装備したロボットはGPRの検出速度の制限からスピードは、はるかに遅かった。また地雷検出能力も高くはなかった。GPRデータは、岩石等と地雷を判別する事ができなかった。我々は現在、核磁気共鳴型装置を用いたセンサーで火薬そのものを検出するセンサーを開発中である。センサーは、今迄のものよりもはるかに重いため、新しいマニュピュレーターを作る必要がある。現在、その実験は大阪大学にて実施している途中である。
著者
青木 淳賢
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

これまでのノックアウトマウスを用いた解析により、オートタキシンは発生段階の血管形成過程に重要な役割を有することが明らかになっている。しかしながらその詳細な作用機構は明らかでなかった。この問いに答えるために我々はゼブラフィッシュに着目した。ゼブラフィッシュは分子レベルでも哺乳類と血管形成過程が類似していることが示されている。我々は、オートタキシンが、ゼブラフィッシュにも高度に保存されていること、および、in vitroで発現させたとき、リゾホスファチジン酸産生活性(リゾホスホリパーゼD活性)を示すことを確認した。さらにオートタキシンに対するアンチセンスオリゴ(MO)を投与することでオートタキシンの機能抑制を行ったところ、ゼブラフィッシュにおいても顕著な血管形成異常が観察された。今後は各LPA受容体、並びにオートタキシンの基質産生酵素候補遺伝子に関して、血管形成異常を指標として機能的関連性を明らかにし、オートタキシンの血管形成過程における役割を分子レベルで明らかにされることが期待される。
著者
永井 健治
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、光照射によって、蛍光活性化する生理機能センサータンパク質を開発することで、生きた細胞内や個体内の、ナノからマクロに及ぶ、様々な空間スケールにおける生理機能を高感度に観察する手法を構築することを目的とした。昨年度に作製したPA-GFPとDsRedをFRETのドナー・アクセプターとして利用した光活性化型Ca^<2+>指示薬PA-cameleonは光活性化前の状態でもDsRedによる青色励起光の吸収により蛍光が観察されたため、光活性化の利点の1つである高いコントラストを実現することができなかった。その一方で、405nmのレーザーを照射し、PA-GFPを活性化すると、緑色の蛍光が現れ、リガンド刺激に伴う細胞内Ca^<2+>濃度の変化を捉えることができた。本年度はDsRed以外の赤色蛍光タンパク質や緑色光を吸収するが蛍光性の無い色素タンパク質を用いる事で光活性化によるコントラストのさらなる増加が実現できないかを検討した。その結果、試験管内、細胞内のいずれにおいても405nmの刺激光照射によって不可逆的に無蛍光状態から蛍光性を獲得することが確認され、刺激光の照射範囲をガルバノミラーなどで制御することで、培養ディッシュ上の特定の細胞にPA-cameleonを出現させ、その細胞内のCa^<2+>動態を高いコントラストで可視化することに成功した。さらに、ゼブラフィッシュ幼魚における特定の筋細胞の自発的収縮とCa^<2+>濃度の変化を同時に観察することにも成功した。本方法はCa^<2+>指示薬以外のFRET指示薬にも原理的には応用可能であるため、光活性化指示薬開発のための汎用的指針として、その利用が期待される。
著者
泉田 啓 飯間 信 平井 規央
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

蝶の羽ばたき飛翔は,生成される流場を環境とする,移動知の一例である.本研究では特に,羽ばたきにより創成される渦列流場という環境が安定化とマヌーバに与える影響という観点から,飛翔における蝶の適応的行動能力を発現するメカニズムを解析し,他の移動知にも共通する移動知発現の力学的共通原理の解明に貢献することを目指す.具体的には,(1)生体の蝶の感覚器(センサ)入力および身体の応答動作との関係,(2)蝶の安定飛行と状態間遷移飛行を実現する制御機構に環境(流れ場)がどのように影響するか,という2点を研究期間にわたり調査した.A. 生物学的アプローチアサギマダラ蝶を経常的に供給できるようにした.実験装置を構築して観測実験を行い,蝶の運動と空気力を計測した.可能な能動的動作を知るために,マイクロCTを用いて解剖学的理解を進めた.B. 工学的アプローチ飛翔安定化およびマヌーバビリティ(状態遷移能力)を探るために2次元数値モデルを構築し,大摂動に対する回復過程と、飛翔の数理構造の解析に基づいた遷移制御の研究を行っている.3次元数値モデルを構築し,実験観測データと比較して,数値モデルの妥当性や精度を検討した.また,羽ばたき飛翔の周期解の探索,渦列流場と翅の柔軟性が安定性に及ぼす影響について検討した.その結果,渦列流場と柔軟性が移動知の共通原理の陰的制御と捉えることができることが明らかになった.
著者
細谷 裕 波場 直之 尾田 欣也
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

標準理論を超える物理がLHCの実験で見えるか。ヒッグス粒子、フレーバー混合、ブラックホール生成の物理を鍵に、余剰次元の存在を検証できるか。これが本研究課題で追求する中心テーマであり、ゲージ・ヒッグス統合理論、フレーバー混合、ブラックホール生成を、主に余剰次元の観点からLHC実験への帰結に焦点をあて研究する。ヒッグス場の起源については、細谷機構により電弱ゲージ対称性をダイナミカルに破るゲージ・ヒッグス統合理論を中心に調べ、暗黒物質の正体に関わる宇宙論的帰結もあきらかにした。細谷達はRandall-Sundrum時空上で、現実的なクォーク・レプトンを含むSO(5)xU(1)モデルで、W,Zボゾン、ヒッグスボゾン,クォーク・レプトンの波動関数を決定し、電弱相互作用のゲージ結合の大きさ、湯川結合の大きさを決定した。前年度に、すでに、Aharonov-Bohm位相の値が量子効果により、90度となることが示された。このことを使い、ヒッグス場との3点結合は、厳密に零になることが明らかにされた。このことより、ヒッグスボゾンが安定になるという驚くべき描像が帰結される。さらに、その結果として、現在の宇宙の暗黒物質は実はヒッグスボゾンであるという可能性が生じ、WMAPのデータから決められた宇宙の暗黒物質の質量密度から、ヒッグスボゾンの質量が約70GeVと決定される。これらは、画期的な結果であり、今後、暗黒物質探索、加速器実験で更なる検証がなされるであろう。また、波場、尾田達は、5次元オービフォルド上で、ヒッグス場がある場合、ブレーン相互作用のために湯川結合が大きくずれることを示した。
著者
西山 恭子
出版者
福島県立医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

真菌感染症の診断・治療を行ううえで病原菌の分離・同定は基本となるステップである。しかし、真菌は(1)培養しても発育しない。(2)発育までに時間がかかる。(3)特徴的な形態の発育がないと同定できない。など様々な問題がある。そこで本研究は真菌を培養せずに、DNA解析によって迅速に診断する技術を開発することを目的とした。検体は造血幹細胞移植後、発熱した患者の血液98サンプルを用いた。DNAの抽出については(1)、既存のDNA抽出キットを使用する方法。(2)、(1)のキットを使用前に超音波と酵素を使用する方法。(3)、化学的・物理的に細胞を破砕し、磁性シリカにてDNAを抽出する方法。(4)血液を化学的・物理的細胞破砕を行った後、DNAをフェノール・クロロホルム法により抽出する方法。(5)市販の検体処理剤を用いた方法など様々な方法を検討した。1番良好な結果をみとめたのは(3)の磁性シリカによる抽出であり、その方法でDNA抽出を開始した。しかし、その後磁性シリカにDNAの混入がみられ途中から(2)の方法で実施した。真菌の定量はITS2領域をターゲットにしたユニバーサルプライマーを用いてReal-time PCR(SYBR Green法)を行った。菌種同定はReal-time PCRで得られた増幅産物をT-cloning法でPCR産物をクローニングし、各検体3コロニーずつシークエンスを決定し、相同性検索によって菌種の同定を行った。98サンプル中16サンプル(16%)で増幅がみとめられた。値は4.7~58.4 copies/μlであった。1コロニーでも同定できたのは14サンプルで酵母用真菌が6菌種、糸状菌が3菌種であった。その中で特に多い菌種はTrichosporon sp.で次に多いのがCandida glabrata と Candida parapsilosisだった。敗血症の起因菌として多く報告されているCandida albicansは1サンプルから検出されたのみだった。今回検討したサンプルからは定量値が低いことより、起因菌か常在菌叢かの判断はできないが通常検出される真菌の菌種とは異なっており培養法とあわせたより詳細な検討が必要と思われた。また、市販のDNA抽出キットやPCR関連試薬には細菌・真菌のDNAのコンタミが見られることがあり、PCR感度を上げることが難しかった。この点において企業に対しDNA free資材の必要性を要望した。
著者
武藤 巧 丸山 敏毅 巽 敏隆
出版者
千葉工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

複数のK^-中間子が原子核内に束縛された状態(Multi-Antikaonic Nuclei,MKN)の性質を,相対論的平均場理論にカイラル対称性を具現するK中間子ダイナミクスを取り入れた理論的枠組に基づいて検討した。特に,前年度の結果を発展させ,媒質中のK中間子の性質に重要な寄与を与えると考えられる,A(1405)(A^*)の効果,及び陽子(p),中性子(n)小さな斥力をもたらすrange term (Second-Order Effect,SOE)をK^-N散乱実験と矛盾しないように取り入れ,A^*がMKNの構造に与える効果を明らかにした。結果は,A^*-poleの存在によってK^-p間の引力が大きくなり,SOEによってMKNの中心付近に局在するK^-中間子に陽子がより強く引きつけられる。一方,中性子はrange termからの斥力効果のために,陽子よりも外側に分布が広がる。このため,束縛されるK^-中間子の個数が十分に大きい場合,核子及びK^-中間子の密度が最大で3,5ρ0(ρ0は対称核物質の飽和密度)に達する高密度物質が得られ,また,外側の領域では中性子スキン構造が現れることによって陽子数と中性子数が異なる非対称核物質の性質に関する情報が得られることを示した。結果は国内外の学会を通じて口頭発表を行った。また,学術雑誌に発表,または執筆中である。課題として,MKNの存在と上記の性質を実験的に検証するための具体的な方法を確立すること,MKNのエネルギー,崩壊幅に影響を及ぼすと考えられるK^^-+N→π+A,π+Σ等の非弾性過程との結合効果,ハイペロンがMKN中に混在することによって,K^-中間子,核子,ハイペロンから構成される,更に深い束縛状態が得られる可能性を,相対論的平均場理論を拡張することによって検討することが挙げられる。
著者
森川 正章 鷲尾 健司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

微生物が固体表面に付着して形成する高次構造体をバイオフィルムと呼ぶ。バイオフィルムでは細胞が高密度に存在するため、細胞間コミュニケーションが頻繁に起こり、個々の細胞が培養液中に浮遊した状態とは異なる挙動を示す。本研究課題では、環境微生物がバイオフィルム形成に伴って発現するユニークな特徴を発見し、その分子機構を解析した。さらに、バイオフィルム形成によって獲得するストレス耐性を各種環境汚染物質分解細菌に適用し、地球にやさしい持続的環境修復技術の基盤開発に成功した。
著者
太田 浩一 菊池 孝信
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

マイクロアレイ法による炎症関連遺伝子の検索1)ラットの足底にリポポリサッカリド(LPS)を投与し、投与後2,6,12,24時間めに、虹彩・毛様体組織(各時間8匹16眼)を切り出し、total RNAを抽出した。2)total RNA中のpoly(A)+mRNAより、2本鎖cDNAを合成し、gel matrix上のDNAオリゴヌクレオチドプローブ(UniSet Rat I Expression Bioarray chip ; Motorola Life Sciences)をハイブリダイズさせ、洗浄、streptavidin-Cy5による染色を行う。Axon GenePix Scannerでスキャン後、発現量を解析(CodeLink ; Motorola社)解析した。3)9,911遺伝子中、1,930遺伝子(約20%)の発現 がいずれかの時間において2倍以上に増加、または0.5倍以下に減少した。4)いずれかの時間において3、5、10倍以上の増減した遺伝子数はそれぞれ、(991,748),(402,327),(140,95)であった。5)増減遺伝子数は6時間、24時間後に多く、経時的な発現変化のクラスター解析中である。6)既報同様、その遺伝子発現が確認されている炎症性サイトカイン(interleukin(IL)-1beta, IL-6)ケモカイン(RANTES)、iNOS等に関しては、別個体のmRNAを抽出し、リアルタイムRT-PCRを行い、マイクロアレイの結果と同様、2ないし6時間後の発現の著増(正常眼に比し、20から500倍)が確認された。新たにimmediate early genes(Jun B,c-Fos,and c-Jun)の発現が明らかとなり、特にJunBの発現は免疫組織化学染色にて確認された。
著者
梅澤 一夫 池田 洋子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

1)NF-κB阻害剤DHMEQの抗癌活性と接着因子発現阻害NF-κBの阻害剤は抗炎症剤、抗癌剤として期待され、私達はepoxyquinomicinの構造をもとにNF-κB阻害剤DHMEQをデザイン・合成した。前年度DHMEQがNF-κB活性化シグナルを核移行阻害という比較的下流で阻害していることがわかったので、今年度、恒常的にNF-κBが活性化しているヒト膀胱癌由来KU-19-19細胞を用いてEMSAを行ったところ、DHMEQは処理後2-6時間で阻害作用を示し、さらに今年度KU-19-19細胞でもNF-κBの核移行を阻害していることがわかった。さらにDHMEQはNF-κBが恒常的に活性化しているヒト前立腺癌JCA-1細胞においてもNF-κBを阻害することがわかった。またJCA-1腫瘍の増殖をヌードマウスで腹腔内投与により顕著に抑制することがわかった(Cancer Res.63,107-110,2003)。一方、NF-κBは血管内皮細胞の機能にも動脈硬化や転移の原因として作用している。DHMEQをヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に作用させると、NF-κBの活性化を阻害し、ICAM-1,VCAM-1,E-selectinなどの接着因子発現を阻害した。さらにDHMEQはHUVECと初代培養ヒト白血球およびHUVECと固形癌細胞や白血病細胞の接着をshear stress(流れ)条件下でも阻害した。以上のことからDHMEQは動物実験で抗癌硬化を示し、さらに動脈硬化や転移への抑制効果が期待される。2)放線菌由来アポトーシス誘導物質IC101の生合成経路二次代謝産物生合成の研究は、遺伝子レベルの研究への発展や、新しい生理活性物質の発見に有用である。アポトーシス誘導物質IC101は異常アミノ酸を含む環状ヘキサデプシペプチド構造を有し、生産菌からどのようにIC101がつくられるのか興味深い。そこで13Cラベルアミノ酸等を用い、IC101の生合成経路の解析を行った。面白いことにC5 side chainはイソプレンの形をしているがLeuが取り込まれ、前駆体になっていることがわかった(J.Nat.Prod.65,1953-1955,2002)。
著者
川端 寛樹 田島 朋子 田島 朋子
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

1)国内分離のライム病病原体であるボレリア・ガリニゲノムからマダニ唾液腺へのボレリア接着因子として、機能未同定の遺伝子を複数検出した。表層抗原であるBB0616ホモログは、マダニ唾液腺への接着に関与していると思われる。一方、その機能ドメイン、接着リガンドなどは未同定である。2)国内分離ボレリアのマダニ中腸への接着性についても検討を行った。ボレリアの中腸組織への接着は、未吸血マダニ中腸組織で見出された。また、接着阻害実験に用いた細胞間マトリックスの一部は、その接着を阻害した。他方、これまで知られているglycosaminoglycansへの結合能は本ボレリアでは見出されなかったが、ボレリアのマダニ中腸組織への結合を阻害した。今後、これらボレリアの接着因子の同定を試みている。
著者
三嶋 雄二
出版者
(財)癌研究会
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

抗体医薬は、副作用が少なくがんの治療効果を高める反面、治療費が高額になる傾向があり、医療経済学の観点から、効果の期待のできない患者に対する投与は避けることが重要である。そのためには治療効果を正確に予測する技術が必要とされている。本課題では、各種抗体医薬の効果予測技術を確立することを目的とし、顕微鏡下で生きたがん細胞の抗体医薬に対する感受性を評価する方法を確立することで、迅速かつ被験者への負担の少ない診断法を開発した。
著者
中谷 武嗣 山岡 哲二
出版者
独立行政法人国立循環器病研究センター
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

心筋梗塞に対するインジェクタブルゲル注入療法が注目されているが、梗塞部位リモデリングの抑制のために最適なゲル化材料の特性は明らかとなっていない。ポリアルギン酸など非分解性のインジェクタブルハイドロゲルを心筋梗塞部位へ注入することで心機能が回復することが報告されているが、長期にわたって残留するこれらの材料が最適とは考えにくい。本プロジェクトでは、さらに、炎症性が小さくてかつ分解することにより長期炎症を回避できるゲルの開発と評価を進めた。低炎症性を期待して生体内に存在するタンパク質の高次構造を模倣した自己組織化ペプチドを検討し、さらには、αヒドロキシ酸を主成分とするインジェクタブルゲルも開発し、それらの、感温性およびゲル化挙動について詳細に検討するとともに、皮下埋入試験による炎症誘起性の評価とその治癒能力について検討した。心筋梗塞モデルラットは、左冠動脈を結紮して作製した。結紮してから4週間後に心臓機能の指標である左室短縮率(% FS)を超音波エコー装置にて計測し、% FSが25%以下のものを心筋梗塞であると判断した。その後、30Gの注射針を用いて生分解性ハイドロゲルを心筋梗塞部位へ100μl注入した(n=4)。コントロール群としてアルギン酸ゲル(n=5)、または生理食塩水(n=5)を用いた。注入から4週間後に、% FSの測定ならびに摘出した心臓の組織学的評価により治療効果を検討した。生分解性ハイドロゲル注入群では、% FSは1か月間で、生理食塩水の場合と比較して有意に改善しており、、開発した生分解性ハイドロゲルは梗塞部位への注入により心機能を有意に改善できる。さらに、炎症系細胞密度は、アルギン酸注入群より有意に減少しており、新たなハイドロゲル群は高い% FSの回復と低い炎症性が達成される有用なシステムであることが示唆された。
著者
鎌形 洋一
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本課題は、生物的メタン生成を高圧下で起こす事が可能か否かを検証することによって、海洋ならびに陸地地下圏において今なお起きつつあると推定される生物学的メタンの成因解明をめざすものである。本研究ではまず生物的メタン生成を高圧下で起こす事が可能か否かを検討した。本研究において、地下圏に広く存在する典型的な高温性メタン生成古細菌である Methanothermobacter thermautotrophicus の高圧培養を試みた。その結果温度 55°C, 圧力 5MPa, 10MPa, 15MPa の条件で生育しメタン生成を行うことを捉えた。また、地下圏に広く存在する酢酸を炭素源として酢酸酸化水素生成型微生物と水素資化性メタン生成古細菌の共生高圧培養を試みた。その結果、上述のメタン生成古細菌単独の培養と同様に、5MPa, 10MPa, 15MPaの条件で生育しメタン生成を行うことを明らかにした。メタン生成古細菌のみならず酢酸酸化共生微生物もこうした圧力に耐えられることから、深部地下圏において微生物間共生によってメタン生成が起こりうることを初めて明らかにした。
著者
越後 成志 橋元 亘 森川 秀広
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

我々は、IL-18の抗腫瘍効果の詳しいエフェクター細胞に関してマウスの系を用いて解析を行い、その抗腫瘍効果のエフェクター細胞がNKT細胞ではなくNK細胞であること(論文投稿中)、またIL-18がNK細胞を活性化し腫瘍細胞をアポトーシスに陥らせる結果、樹状細胞を介して効率良く腫瘍特異的CTLを誘導すること(Tanaka et al. C. Res. 2000,60:4838-4844)などを明らかにしてきた。平成13年度は、ヒトでのIL-18の抗腫瘍効果、特にその詳しいエフェクター細胞の解析を行った。ヒト末梢血をHuIL-18で14日間刺激・培養し、リンパ球の表面マーカーの変化を解析したところ、CD3-D56+(NK)細胞が著明に増加することが分かった。また、その際の培養液中のIFN-γ産生量をELISA法にて測定したところ,IL-2単独で培養した場合と比較して、多量のIFN-γ産生がみられることを明らかにした。IL-18の添加培養でNK細胞が増加していること、またIFN-γの産生増強がみられたことより、IL-18がヒトにおいても抗腫瘍効果を発揮することが予想された。そこで次に、IL-18により活性化されたリンパ球が腫瘍細胞に対してアポトーシスを誘導するかどうかを検討した。HuIL-18を添加培養したヒト末梢血リンパ球とヒト腫瘍細胞株とを8時間共培養した後、腫瘍細胞をAnnexin-V, Phi-Phi-Lux, PI等で染色することによりアポトーシスの検出を試みた。その結果、IL-2単独で培養した場合と比べてIL-18+IL-2で培養したとき、腫瘍細胞のアポトーシスが増強された(論文準備中)。以上のことより、ヒトの系においてもIL-18が抗腫瘍効果を有することが明らかになり、ヒト悪性腫瘍治療への臨床応用の可能性が示唆された。
著者
大竹 美登利 中山 節子
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

インドネシアでは、インドネシア中央統計局の協力をえて、2004年9〜11月に調査を実施した。調査はアフターコード方式の日記形式とし、「ペイド/アンペイド」「誰と」等を記述させるものとした。調査対象者は、ジャカルタの5地区から200世帯ずつ抽出した10歳以上の世帯員全員である。調査の配布と回収は、各地区40人の調査員が担当した。回収された4,151人のうち集計に使用したのは、平日2,408人、土曜3,253人、日曜2,343人である。タイでは、サワポーン(カサタート大学教授)を代表とするタイ生活時間調査チームを結成し、このチームと協力して、バンコック市内に住む住民の調査を実施した。調査は2005年12月〜3月に実施された。回収された300世帯のなかで、調査に協力してくれた人は1,244人であった。なお、日本の調査は資金等の関係から、事例的な調査とした。調査の結果、ペイド・ワークの時間は男性の方が長く、アンペイド・ワークである家事・育児の時間は女性の方が長く、インドネシア、タイにおいても性別役割分業は明確であった。ただし、ペイドワークにおいても、アンペイドワークにおいても、日本とは違う特徴があった。すなわち、女性がペイド・ワークに費やす時間は日本より多く、女性が社会的経済活動に参加しているが、家事の延長線上の小規模な生産活動が多く、インフォーマルな労働に多く携わっているという傾向があった。また、アンペイドワークにも、男性は日本より長く参画していたが、その内容は地域社会との交流に関わるものが多く、女性は炊事や洗濯などの家事雑事が多いなど、その内容に性による相違があることが明らかとなった。なお、これらの結果の一部は、2006年8月にデンマークで開催された国際生活時間学会で発表した。
著者
鷲田 豊明 大沼 あゆみ 坂井 豊貴
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の主要な研究成果は次のようにまとめられる。(1)複数の地域でお金を出し合って迷惑施設を建てる問題において,効率的かつ公平な意思決定を実現するゲーム理論的なメカニズムについて,実験により実際的な性能を検証した。(2)生物が狩猟される状況の下での狩猟許可証配分の効果を、密猟を考慮した場合に分析した。(3)温暖化対策において、国家間の相互関係が環境政策に与える影響をゲーム論とシミュレーション的手法によって分析した。
著者
荻田 喜代一 米田 幸雄
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

ddY系雄性マウスにKA(30mg/kg)を複腔内投与し、一定時間経過後に海馬および大脳皮質から細胞核抽出液およびミトコンドリア抽出液を調製した。ゲル移動度シフト法によりそれぞれのAP-1DNA結合能を解析したところ、KA投与はいずれの部位でも細胞核抽出液およびミトコンドリア抽出液中のAP-1DNA結合を著しく増強させることが判明した。AP-1DNA結合能はKA投与後1時間で有意に増強し、その増強は3日後まで持続した。また、スーパーシフト法およびウエスタンブロット法により、本結合増強に関与するAP-1結合蛋白質はc-FosおよびFos-Bであることが判明した。さらに、KA投与動物で発現したc-Fos蛋白は細胞核内ばかりでなくミトコンドリアのマトリクス内にも存在することが免疫電子顕微鏡法により明らかとなった。次に、ミトコンドリアDNA(mtDNA)へのAP-1の結合について解析を進めた。mtDNAの転写調節部位と考えられる非翻訳領域についてAP-1認識配列を検索したところ、10箇所にAP-1類似配列(MT-1〜MT-9と命名)が見出された。これらの類似配列の中で、MT-9がAP-1結合に対して最も著明な拮抗作用を示した。また、放射性MT-9プローブを用いたゲル移動度シフト法は、KA投与動物から得られたミトコンドリア抽出液中にMT-9結合蛋白質が存在すること、およびそのMT-9結合蛋白質がAP-1構成蛋白質であるc-Fos、Fos-B、c-Jun、Jun-BおよびJun-Dにより構成されることを示した。さらに、ゲノム免疫沈降法によりc-Fos蛋白質がmtDNAに結合することも確認された。以上の結果より、カイニン酸シグナルにより発現した転写因子AP-1は細胞核のみならずミトコンドリア内にも移行し、mtDNAの転写調節領域に結合することが明らかとなった。これらの事実は、グルタミン酸シグナルがmtDNAの転写に影響を与えることによりミトコンドリア機能変化を起こす可能性を推察されるものである。
著者
黒澤 睦
出版者
明治大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、告訴権・親告罪制度の観点から、犯罪被害者と刑事司法過程の関係の在り方を考察するものである。告訴および親告罪は、犯罪被害者の意思を尊重しようとする制度であり、近年の犯罪被害者を重視した法政策の中では、大きく注目されるべきものである。本研究では、とりわけ、親告罪をめぐる捜査機関・訴追機関の対応、いわゆる告訴権の濫用(不当告訴・不当不告訴)とその法的対応、告訴任意代理制度と被害者支援思想などについて、歴史的・比較法的検討を行った。