- 著者
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大峰 光博
- 出版者
- 名桜大学総合研究所
- 巻号頁・発行日
- no.28, pp.127-132,
本研究では,指導者の支配欲という観点に着目して,指導者がなぜ,体罰をふるうのかを考察した。エーリッヒ・フロムの権威論を参考とし,特に,サディズムに関するフロムの所論を援用した。フロムはサディズム的傾向として,他人を絶対的に支配して搾取し,自己に依存させて道具とする点をあげていた。本研究では,運動部活動の指導者を取り巻く苛酷な勤務環境が,指導者によるサディズム的傾向の合理化を促進する点が示された。サディズム的傾向は,孤立した個人が独り立ちできない無能力と,孤独を克服するために共棲的関係を求める要求とから生じるとフロムは指摘していた。サディズム的傾向を持つ指導者は,強者であることの意識を持つために生徒の自由と独立を阻止し,支配しようとする。体罰は生徒を支配するための有効な手段となる。運動部活動における指導者のサディズム的傾向は,独り立ちできない無能力と,孤独を克服するために生徒と共棲的関係を求める要求から生じている点が示唆された。さらには,「権威主義的性格」を持つ部員から軽蔑・憎悪の対象となることを避けるために,体罰をふるうことによって指導者が権威を強化しようとする点が示された。