著者
松永 康史
出版者
桜花学園大学
雑誌
桜花学園大学保育学部研究紀要 = BULLETIN OF SCHOOL OF EARLY CHILDFOOD EDUCATION AND CARE OHKAGAKUEN UNIVERSITY (ISSN:13483641)
巻号頁・発行日
no.20, pp.159-174, 2019-11-30

本稿では、武富健治によるマンガ『鈴木先生』の第1,2話を対象とし、教師の「自己理解」を射程に入れた「子ども理解」について考察・教材化し、授業の構想を試みる。考察では、教師自身がこれまでの生活の中で築いてきた自分の見方や考え方があり、そのフィルターを通してしか子どもを理解できていないことを示し、教師の「自己理解」の必要性を記した。そのことを踏まえ、子ども理解と学生自身が自らを見つめ直す機会としての授業を構想した。
著者
山田 唐波里
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.128-145, 2019 (Released:2020-11-13)
参考文献数
45

本稿の課題は,現代の日本社会において人口政策を規定している規範を取り上げ,その編成過程を政治権力との関連のなかで検討することである.特に,ミシェル・フーコーの「統治性研究」を参考に,これまでの研究では扱われてこなかった近代的人口論に基づく人口政策規範に注目した.現代の人口政策論では,人口と諸要素間の均衡が破られた際に人口問題が生じるとされており,均衡の維持/回復を目指すことが人口政策を導く規範となっている.本稿ではこの規範を〈均衡化〉と呼ぶことにした.〈均衡化〉は,1918 年の米騒動を契機として隆盛した過剰人口をめぐる議論のなかで編成された.人口と食糧の不均衡によって米騒動が生じたと考えられたからである.しかし,そうした人口と食糧の関係を主題化したマルサス的な人口論に対抗する形で,人口に関連する他の諸要素を主題化した人口論が登場してくる.このいわゆる「大正昭和初期の人口論争」を通じて,最終的にそれぞれの人口論を総合する形で「人口方程式」が定式化された.さらに,この人口方程式の均衡という枠組みは,論壇における抽象的な議論で終わることはなく,政策論の理論的基盤に据えられることになる.米騒動に代表される秩序問題への対応として,政策論の領域に,暴力による抑圧や監視による規律化とは異なる,人口の水準に作用することで人びとのふるまいを導く統治性に基づいた戦略が導入されたことを意味している.
著者
数永 信徳
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.134-152, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

ブロードバンドの普及や映像配信技術の進展による人々の視聴習慣の変化に対応するため、インターネットを活用した放送コンテンツの同時配信に期待が寄せられている。その一方で、放送コンテンツの同時配信については、同一のコンテンツであっても、著作権法上の課題から、放送と同じコンテンツを視聴できないことがあるという指摘がある。そこで、本稿では、IPマルチキャスト放送に著作隣接権(送信可能化権)の制限が認められる著作権法の法的解釈と実務上の運用実態を再検証し、放送コンテンツの同時配信への、レコード製作者等の著作隣接権の制限の適用の可否について考察していくこととする。はじめに、著作権法と放送法で異なる「放送」の定義について概観し、次に、IPマルチキャスト放送の法的位置付けについて確認していく。その上で、メディアを巡る新たな技術の進展との関係における著作権法上の課題について、「時間」、「空間」、「内容」の要素に分けて、法制度と実務上の運用実態について分析を行っていく。
著者
栁川 鋭士
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.47-63, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

改正された道路交通法及び道路運送車両法並びに保安基準が2020年4月1日に施行され、日本において、いわゆるレベル3の自動運転車の公道での実用化が法律上可能となった。レベル3の自動運転車の事故における民事裁判においては、事故発生時の運転状況を記録した証拠が特に重要となる。道路運送車両法は作動状態記録装置の設置を義務付けており、ドライブレコーダー、EDRと共に事故状況を再現するための重要な電子証拠となる。これらの電子証拠は、自動運転車の事故状況の立証において決定的に重要となり得ることから、証拠調べ手続における当該証拠の取扱い、とりわけ、その証拠の同一性及び正確な再現性の確保が必要である。そこで、本稿では、刑事訴訟における「証拠の関連性」概念を参考にして、民事訴訟においても、「証拠の関連性」概念による裁判所の裁量規制(考慮要素の提示)を行うことによって、適正な事実認定が確保されることを提唱する。
著者
朝倉 俊成 中野 玲子 浅田 真一 和田 幹子
出版者
一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会
雑誌
くすりと糖尿病 (ISSN:21876967)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.104-113, 2020-06-20 (Released:2020-08-24)
参考文献数
34

糖尿病療養指導では患者の簡便性や実践度にも配慮してインスリン製剤の保管に関する留意点として,「原則として使用前は2〜8℃(凍結を避けて冷蔵庫内)保管,使用開始後は(冷蔵庫には入れずに)室温保管」と説明している.しかし,近年,市街地でのヒートアイランド現象や気候変動などにより世界各地の環境温度の上昇が見られ,高温環境下での適正な保管に関した不安から,患者が保管温度に配慮するも品質を維持するために苦慮していることが伺える.基礎試験からは,高温状態でのインスリンの立体構造の変化とそれによる薬理活性を減弱させる恐れが排除できないため,インスリン製剤の保管は可能な限り4℃付近の冷蔵保存が推奨されるべきである.近年,日本各地において30℃以上(真夏日)の日数が増加しており,これからも増加傾向にある.そこで,高温対策のひとつとして,これまで指摘されてきた使用中の注入器を冷蔵庫内に保管した場合の問題点には十分配慮し,室温が30℃を超える場合は,使用中のプレフィルド(キット)型のインスリン製剤は,(注射針を取り外した上で)冷蔵庫に保管し,注射の前には常温(15〜25℃)程度に戻すことを推奨する.
著者
時井 真
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.153-166, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

特許進歩性の判断においては、①主引用例を提出し請求項発明と主引用例の間の相違点を認定した上で(第一ステップ)、次いで②当業者が請求項発明を容易に想到することができたかという手順を経る(第二ステップ)。現在、ITや検索エンジンの進展により急速に引用例検索技術が進展して第一ステップの難度が下がり、その結果、相対的に第二ステップの判断の重要性が増している。本稿の第一の目的は、第二ステップの判断の主役の一つである「示唆」の概念の現況を、直近の裁判例から明らかにすることにある。その結果、日本の裁判例では、従来技術に主引用例と副引用例を結びつけ請求項発明を想到する動機付けとなる示唆以外に、逆に引用例と副引用例との結びつきを妨げ、動機付けを否定する逆示唆の裁判例が多数存在することが判明した。最後に補論としてこの第二ステップ(示唆及び逆示唆)と情報ネットワーク社会との関係についても若干考察した。
著者
植田 康成
雑誌
かいろす
巻号頁・発行日
no.43, pp.30-57, 2005-12-10

Das Ziel der vorliegenden Arbeit besteht darin, Benennungsmotivationen oder Bilder, die den deutschen und japanischen Ausdrücken zugrundeliegen, deutsch-japanisch kontrastiv herauszuarbeiten, um dadurch interkulturelle Aspekte bewusst zu machen. Dabei werden Ausdrücke auf der Ebene der sprachlichen Einheit des Simplex, des Kompositums, der Phrase, des Satzes und des Textes als Vergleichsbeispiele aus den beiden Sprachen herangezogen. Beispiele aus anderen Sprachen (Englisch, Italienisch, Dänisch u. a. ) werden auch mancherorts berücksichtigt. Auf diese Weise will die vorliegende Arbeit einen Beitrag zur interkulturellen Verständigung und zur Diskussion über die Methodik in interkulturellen Forschungen leisten. Darüberhinaus wird die Universalität der metaphorischen Auffassungsweise in der menschlichen Sprache und die Plausibilität des Dreischichtenmodells, das sich auf die Beobachtungen der Benennungsmotivationen in verschiedenen europäischen Dialekten stützt (Alinei 1991, Viereck 2003), untermauert.
著者
吉積 一真 熊倉 啓人 藤浪 未沙 細谷 孝博 熊澤 茂則 堀 由美子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.237-245, 2020 (Released:2020-12-26)
参考文献数
34

パルミラヤシ由来の含蜜糖であるパームシュガーは, ポリフェノールやミネラルを多く含むことから, 上白糖の代替品としてだけでなく, 生活習慣病に対する有用性が期待されている。そこで, パームシュガーの総ポリフェノール含量と抗酸化活性を評価し, 実験動物を用いたパームシュガーの単回・長期摂取が血糖応答に及ぼす影響について検証した。その結果, パームシュガーの総ポリフェノール含量は黒砂糖と同程度に高含量であり, 抗酸化活性 (ORAC値) は黒砂糖より低いものの, ココナツシュガーやメープルシロップより高い値を示した。パームシュガーのマウスへの単回投与は, 上白糖と比較して投与後30, 120, 180分のΔ血糖値が有意に低かった (30分: p < 0.01, 120, 180分: p < 0.05) 。また, 曲線下面積 (ΔAUC) も, 上白糖と比べて有意に低値であった (p < 0.01) 。約3カ月間のパームシュガーの継続的な投与による空腹時血糖値の上昇は認められなかった。以上の結果から, パームシュガーは血糖上昇が緩やかな甘味料であることが示唆された。
著者
木原 稔 神部 飛雄 北村 真人 渡辺 亮太
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.247-253, 2020 (Released:2020-12-26)
参考文献数
23

廃棄される未利用資源であるオホーツクホンヤドカリPagurus ochotensisを食品として利用するために, 丸ごと外骨格ごと一般成分, 重金属を, 部位別に外骨格ごと遊離アミノ酸ならびに脂肪酸を分析した。その結果, 脂質が多く, 外骨格を含むために灰分, 炭水化物が多く, 水分が低かった。総水銀, 鉛, カドミウムは検出されず, 総ヒ素は0.77 ppmであった。遊離アミノ酸総量及びタウリンはズワイガニの値よりも多く, アンセリンやカルノシンが含まれていた。腹部の脂肪酸は, エイコサペンタエン酸 (EPA) 及びドコサヘキサエン酸 (DHA) 含量が高く (100 gあたりEPA 1,600 mg, DHA 800 mg) , 季節変動するが, EPAは主な青魚類よりも多かった。オホーツクホンヤドカリの重金属類含有量は食品として問題になるレベルではないこと, 食経験の報告もあることから, 食品として利用可能と判断できた。また, 遊離アミノ酸が多く, タウリン, アンセリン, カルノシン, EPA及びDHA含量が多いことが食品としての特徴である。
著者
渡辺 宗孝
出版者
東京動物學會
雑誌
動物学雑誌
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.76-77, 1959
著者
飯田 英男
出版者
判例タイムズ社
雑誌
判例タイムズ (ISSN:04385896)
巻号頁・発行日
vol.39, no.29, pp.p41-72, 1988-12-15
被引用文献数
1
著者
春日井 昇平
出版者
一般社団法人 日本炎症・再生医学会
雑誌
炎症・再生 (ISSN:13468022)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.34-38, 2003 (Released:2006-12-01)
参考文献数
14
被引用文献数
4 3

Periodontal ligament (PDL) is a thin non-mineralized connective tissue between two mineralized tissues: alveolar bone and cementum. PDL keeps its function under enormous mechanical stress. In this article, I will introduce our studies characterizing the uniqueness of PDL and then discuss regeneration of periodontal tissue. S100A4 is a small Ca binding protein and we found high expression level of S100A4 in PDL. Histologically S100A4 localized on extracellular matrix and analysis of culture medium of PDL fibroblasts revealed secretion of S100A4 and recombinant S100A4 protein inhibited mineralization of osteoblastic culture. MC3T3-E1 cells (mouse osteoblastic cell line) expressed S100A4 at very low level and inhibition of S100A4 with a retroviral vector containing S100A4 antisense enhanced the mineralization of MC3T3-E1 cell culture. Finally, when PDL cells were exposed under mechanical stress in culture, expression level of S100A4 increased. These results indicate that S100A4 acts as a mineralization inhibitor in PDL and also bone; and that this protein plays a role in keeping its function under enormous mechanical stress. Although PDL is a non-mineralized tissue, it contains progenitors of osteoblasts and cementoblasts. Indeed, PDL is prerequisite for periodontal tissue regeneration. Application of guided tissue regeneration (GTR) and/or enamel matrix derivative (EMDOGAIN) promote periodontal tissue regeneration. Treatment with a dental implant, which is inserted to edentulous bone, is clinically acceptptable; however, a dental implant with PDL like a natural tooth would be more ideal.