- 著者
-
白波瀬 佐和子
- 出版者
- The Japan Sociological Society
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.1, pp.74-92, 2005-06-30 (Released:2009-10-19)
- 参考文献数
- 26
- 被引用文献数
-
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本稿では, 高齢社会の階層格差を所得と支援提供メカニズムに着目して, 実証データ分析を通して検討した.65歳以上高齢者のいる世帯の所得格差は, 1986年から1995年まで拡大傾向を呈したのち最近縮小傾向にある.この格差縮小の理由の1つは, 高齢層で大きく増えた夫婦のみ世帯の所得格差が低下したことによる.夫婦のみ世帯を基準 (100) とした他の世帯構造との平均可処分所得の相対的な違いは, 高齢女性単身世帯との間で縮小されたが, 高齢女性の一人くらしに伴う経済的リスクはまだ大きい.本稿の後半部は, 既婚女性から本人と母親と夫の母親への経済的支援と世話的支援に関して分析を行った.その結果, 本人の親に経済的な支援を提供するかどうかは, 母親と同居するか, 母親が一人くらしかに左右され, 世帯構造は支援ネットワークを形成する上にも重要であった.しかし一方で, 夫の母親への経済的支援については, 世帯所得に加えて夫が長男であるかどうかが重要であった.1990年代後半においても男系型直系家族規範が機能していた.3世代同居というかたちで高齢者に生活保障を提供できる状況が減り, 高齢者の一人くらしや夫婦のみ世帯の増加によって世帯のもつ生活保障機能そのものが変わっていく.世帯状況と密接に関連していた高齢者の生活に公的な保障がどう関与すべきかは, 今後の制度設計を考える上に重要な検討課題である.