著者
下田 尊久 石橋 映里
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.47-63, 2019 (Released:2019-03-25)

地方における民間放送会社制作のラジオ・テレビ番組作成過程で作られた原資料、とくにドラマ放映後の台本・脚本等について、社内保存の可能性を検討した。すなわち、これら資料の一次情報資源としての自社内アーカイブズの有用性と、その検証プロセスが記録管理を学ぶ学生にとって社会貢献を可能にする実務研修課題であると仮定した。そこで大学の図書館情報学課程が実施している放送脚本等を教材としたアーカイブズ構築の可能性を求める産学連携プログラムに注目した。 本研究が対象とした大学と地方企業の連携による協働プログラムでは、図書館情報学課程の学生による番組制作過程の一次資料の整理とアクセス環境整備のためのデータベース準備作業、さらに活用のためのアイデアの提供がなされていた。本プロジェクト研究は、このプログラムによる活動が、記録管理の理解と普及にとって有効であることを明らかにする試みである。
著者
加藤 淳 後藤 真孝
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2023-MUS-138, no.7, pp.1-21, 2023-08-20

音楽に合わせてタイミングよく歌詞が動くリリックビデオは楽曲のプロモーション手段として一般化したが,いつ再生されても同じ内容を提示するため,視聴者は受動的に楽しむしかない.そこで我々は,ユーザとのインタラクションにより歌詞のテキストを再生のたびに異なる方法で提示でき,静的メディアの制約を取り払える歌詞駆動型のインタラクティブな視覚表現を「リリックアプリ」と定義する.そして,この表現形式をプログラマやミュージシャンに開放するため,リリックアプリを開発・配信できる Web ベースのフレームワーク「Lyric App Framework」を提案する.当該フレームワークは,我々が研究・開発・運営してきたリリックビデオ制作支援サービス「TextAlive」の Web インタフェースと,歌詞駆動の表現を開発できる機能をプログラマ向けに開放する「TextAlive App API」で構成される.当 API は,既存の,プログラマが使い慣れたクリエイティブコーディングのためのライブラリと相補的な役割を果たし,インタラクティブなリリックアプリをすぐに開発可能である.我々は,2020 年に当 API を一般公開し,新たな表現形式の可能性を探ってきた.とくに,創作文化に関するイベント「マジカルミライ」ではプログラミング・コンテストが毎年開催され,最初の 2 回で 52 作品が集まった.これらの作品を分析して得られたリリックアプリのカテゴリ 8 種類と,音楽とプログラミングの未来に関する示唆を報告する.
著者
加藤淳 中野倫靖 後藤真孝
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2014-MUS-104, no.15, pp.1-7, 2014-08-18

本稿では、歌詞を歌声と同期してアニメーションさせる Kinetic Typography と呼ばれる動画表現の制作環境 TextAlive を提案する。既存の制作ツールでは、歌詞と歌声の同期を手作業で取り、文字や単語、複数単語から成るフレーズに対して個別に望みの動きを設計する必要があった。その際は、動きを規定するアルゴリズムのパラメタを、スライダーなどの汎用 GUI で調整して試行錯誤を重ねていた。一方、本制作環境では、歌詞と音楽の時間的対応付けを自動で推定し、動きのアルゴリズムに対する初期パラメタを自動生成する。さらに、動きのアルゴリズムを編集できるコードエディタを備え、プログラマがパラメタ調整に適した専用 GUI を容易に提供できるフレームワークを提供する。これにより、TextAlive のユーザは Kinetic Typography を一から作る必要がなくなり、初めに時間合わせなどを行う手間をかけずに済む。また、歌詞の動きをインタラクティブかつグラフィカルに設計できるようになる。
著者
山崎 歌織 河村 フジ子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.122-126, 1997-05-20 (Released:2013-04-26)
参考文献数
15
被引用文献数
2

We evaluated the quality of fish preserved in white miso, red miso or single soybean miso, keeping the sodium chloride and water contents of miso at definite levels. The results were summarized as follows:The percentage of decrease in the weight of miso-preserved fish was highest in single soybean miso, and lowest in white miso. There were no differences in the quantity of sodium chloride permeated into fish and the hardness of fish in different kinds of miso. The reducing sugar level was markedly high or for the fish preserved in white miso, which was followed by the fish in red miso and then by the fish in single soybean miso. Formol nitrogen level for the fish preserved in single soybean or red miso, was twice as high as for fish in white miso.when the fish was preserved in miso, its protein changed to low molecular weight protein regardless of the kinds of miso. A marked lipid oxidation-inhibiting effect was noted, with single soybean miso showing the highest inhibitory effect, followed by red miso and white miso in order.
著者
吉武 由彩
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.159-180, 2020-05-31 (Released:2021-06-23)
参考文献数
32
被引用文献数
1

献血により提供された血液は,検査・加工されて各種血液製剤になり,医療機関において患者の治療に用いられる.このとき,血液製剤を使用する患者は「受血者」と呼ばれる.先行研究では,家族や友人など周囲に受血者がいることが,献血を促すという指摘がなされることが多い.他方で,家族や友人に受血者がいない場合でも,献血を重ねる人々がいるが,このような人々に着目した研究はほとんど見られない.そこで,本研究では,家族や友人に受血者がいない人々(「受血者不在」の場合)を対象に,献血動機の分析を行うことを目的とする. 聞き取り調査の結果,初回献血動機と献血継続動機において共通して,献血によって「役に立つ」,家族や友人等における献血者や医療関係者の存在,いつか自身や家族が輸血を受ける時のために,といった動機が語られた.献血継続動機としては,健康管理も語られた.また,初回献血動機として「なんとなく」や「興味本位」と語る場合が見られたが(消極的献血層),これらの人々は,献血継続動機としては,「役に立つ」や健康管理へと変化していた.献血を重ねる人々を増やすには,人々が「なんとなく」であっても,献血へのきっかけを持てるようにすることが重要と考えられる.加えて,今回の対象者の初回献血時の年齢は,その多くが24 歳以下であったことから,24 歳以下の人々をターゲットとした献血推進も重要と考えられる.
著者
飯高 京子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.4-17, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
34

日系移住労働者子女の言語やコミュニケーション発達の遅れは,人生の最も大切な初期母子交流不足から生じやすい。その結果,認知発達や自己像形成も遅れる。さらに幼児期の養育環境が貧しいと,相手の話を注意して聞く態度や一定時間集中して課題に取り組む姿勢が育ちにくい問題がある。したがって子どもたちは就学後の学習活動に適応することが難しい。彼らの落ち着きのなさや学習効果の欠如は,神経学的素因による発達障害の臨床像に類似して誤解されやすく,専門家の助言が必要な場合も多い。彼らは不登校になりやすく日本語読み書き能力も不足しており,就職はきびしい。日本社会への適応も困難になる。ゆえに就学前の子どもたちへの指導は非常に大切である。日本語だけでなく,学習活動準備や認知発達促進を意図したプレスクール実施指導書の紹介がなされた。同時に日本語教師の待遇改善と外国人移住労働者子女への支援システム形成の重要性も強調された。
著者
長屋 尚典
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.156, pp.47-66, 2019 (Released:2020-04-14)
参考文献数
39

日本語の「は」で標示された主題名詞句とタガログ語などのフィリピン諸語のangで標示された主題名詞句(あるいは主格名詞句)の間に興味深い共通点があることはこれまでに何度も指摘されてきた(Shibatani 1988, 1991; Katagiri 2004, 2006)。その背景には,感嘆文,気候・天候文,存在文など,日本語で主題の「は」が用いられにくい環境で,angもまた使われないという観察がある。さらに近年,Santiago(2013)によって,タガログ語の主題名詞句の分布がthetic/categoricalという判断の区別(Kuroda 1972)で説明できるという説が提案された。本論文では,タガログ語の主題名詞句と日本語の主題名詞句の対照研究を行い,thetic/categoricalの区別でタガログ語と日本語の平行性を捉える仮説に異議を唱える。具体的には,先行研究で既に議論されているデータを再分析し,新しいデータを提示することによって,タガログ語において(i)theticな文における非主題標示はタガログ語に特殊な要因によって説明できること,(ii)theticな文に主題名詞句が出現することも可能であること,さらに(iii)categoricalな文のなかには主題標示が必須ではない文もあることを示す。このように,タガログ語と日本語の共通点は表面的なものであり偶然の産物である。日本語で指摘されるthetic/categoricalという判断の違いによって,タガログ語の主題名詞句の出現・非出現を予測することはできない。
出版者
『遡航』刊行委員会
雑誌
遡航 (ISSN:27581993)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.2, pp.2-21, 2022-06-30 (Released:2023-04-23)

本稿では 1970 年代後半に青い芝の会が主張した「健全者手足論」と呼ばれる言説について、会の障害者らがそれをどのように議論していたのかを一次資料を用いて検討した。「健全者手足論」とは、青い芝の会の活動への健全者組織による介入を完全に退けるために、健全者(組織)の口出しを一切禁じようとしたものである。 健全者手足論を巡る主たる争点は2つあった。第一に、健全者をどのように位置づけるのかという点であった。これには告発糾弾型の闘争か、そうではない別のあり方かという運動の方向性の違いが背景にあったと考えられる。第二に、「運動」と「生活」をどのように位置づけるのかということである。健全者手足論の肯定派は「運動」と「生活」を切り分けて考えようとしたが、それをどのように位置づけているのかという質問やそれはそもそも切り分け得ないものだとする主張が懐疑派によってなされた。
著者
竹下 徹 山下 喜久
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.3-9, 2016-03-15 (Released:2017-04-26)
参考文献数
19
被引用文献数
4 2

口腔には膨大な数の常在微生物が他の微生物や宿主と相互作用しながら複雑な生態系を構築し生息している。近年の細菌 DNA を利用した網羅的細菌群集解析手法の確立と発展によりその全体像を容易に把握することが可能になり、様々な健康状態における口腔常在微生物叢(マイクロバイオータ)の構成の特徴が報告されてきている。本総説では我々の研究成果を中心にこれまでに得られた知見を紹介しながら、口腔マイクロバイオータの捉え方について検討するとともに口腔マイクロバイオータと健康との関連について概説する。
著者
松田 亮三
出版者
日本医療経済学会
雑誌
日本医療経済学会会報 (ISSN:13449176)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.41-52, 2017 (Released:2017-03-10)

よりよき政策形成につながるような政策分析は、いかになされるべきであろうか?本論文は、政策研究という領域の概念とその類型、特に実証主義的研究とポスト実証主義的研究を概観し、さまざまな政策分析の潮流 ―― 政策への助言、民主制への貢献、難しい問題への折り合いの発見、批判―とそれがもつ政治的性格についての議論を紹介した。それをふまえて、日本での医療政策分析のあり方を検討する重要性を指摘した。
著者
木村 圭一
出版者
東北地理学会
雑誌
東北地理 (ISSN:03872777)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.78-85, 1954 (Released:2010-10-29)
参考文献数
10
著者
柴田 義貞
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.35-43, 2016 (Released:2016-09-09)
参考文献数
9
被引用文献数
1

Health effects of radiation exposure is not easy for laymen/laywomen to understand because of numerous and complicated technical terms. First, basic notions on radiation including deterministic effects and stochastic effects are introduced. Second, the long-term cohort study on radiation effects to the atomic bomb survivors' health is introduced. Third, evaluation of health effects of radiation exposure is discussed with an illustration of misuse of linear non-threshold model. Finally, we touch briefly the fundamental issues in statistics regarding the interpretation of probability, with an introduction of the journal which recently declared to ban p-value.
著者
タタウロワ ナデジダ 伊藤 幸男 山本 信次 林 雅秀 滝沢 裕子
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.105, no.8, pp.284-290, 2023-08-01 (Released:2023-08-23)
参考文献数
10

本稿の課題は,ロシア連邦の自然保護制度の根拠法である,「特別自然保護地域法」(N33-FZ)の分析から国立公園の位置付け及びその制度の特徴を明らかにすることである。2000年代以降の変化は次の通りである。2013年の法改正により,国立公園の管理・運営は連邦予算機関が担うことになった。国立公園には私有地や先住民族等の住民が存在し,その権利に配慮する条文が追加され,それらを反映した六つのゾーニングに区分されている。近年,国立公園の条文には具体的な禁止事項が複数追加され,利用圧の高まりを反映したものと思われる。一方で,個人または法人への土地の賃貸が可能になるなど,より利用を助長する方向へと制度が改正された。
著者
貝沼 やす子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.775-783, 2009-09-15 (Released:2012-06-21)
参考文献数
44
被引用文献数
4
著者
宮川 雅充 濱島 淑恵 南 多恵子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.125-135, 2022-02-15 (Released:2022-03-02)
参考文献数
29

目的 日本においても,家族のケアを担っている子ども(ヤングケアラー)が相当数存在することが指摘されている。しかしながら,ケア役割の状況が彼らの精神的健康に与える影響に関する調査研究はほとんど行われていない。本研究では,高校生を対象に,精神的苦痛とケア役割の状況との関連を分析し,ケア役割がヤングケアラーの精神的健康に与える影響について検討した。方法 埼玉県の県立高校(11校)の生徒4,550人を対象に質問紙調査を行った。調査では,家族の状況とともに,彼らの担うケア役割の状況を尋ねた。また,Kessler 6項目精神的苦痛尺度(K6)の質問も尋ねた。なお,高校生が質問内容を容易に理解できるように,K6の公式日本語版の一部に変更を加えたものを用いた。精神的苦痛とケア役割の状況との関連を,交絡因子の影響を調整した回帰分析(重回帰分析および順序ロジスティック回帰分析)により検討した。結果 本質問紙調査では,3,917人から有効回答を得た。本稿では,分析で使用する変数に欠損値がなく,年齢が15歳から25歳であった3,557人を分析対象とした。なお,3,557人のうち19歳の者は23人(0.6%),20歳以上の者は5人(0.1%)であった。34人(1.0%)が幼いきょうだい(障がいや疾病等はない)のケアを担っていた(ヤングケアラーA)。また,190人(5.3%)が,障がいや疾病等のある家族のケアを担っていた(ヤングケアラーB)。残りの3,333人(93.7%)は,家族のケアを行っていなかった(対照群)。2つの回帰分析は,同様の結果となり,いずれの分析においても精神的苦痛とケア役割の状況との間に有意な関連が認められた(それぞれ,P=0.003,P<0.001)。順序ロジスティック回帰分析の結果では,ヤングケアラーBの精神的苦痛(K6)のオッズ比は1.572であり,対照群と比較して有意に高かった(P<0.001)。一方,ヤングケアラーAの精神的苦痛(K6)のオッズ比は1.666であり,対照群との間に有意な差は認められなかった(P=0.084)が,オッズ比は対照群よりも高く,ヤングケアラーBと近い値であった。結論 ケア役割がヤングケアラーの精神的健康に影響を及ぼすことが示唆された。