著者
片倉 朗
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.197-206, 2016-12-15 (Released:2016-12-29)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本学では地域の歯科医師会と共同した口腔がん検診事業を1990年から開始し,本年で25年が経過した。現在までに本学の3つの附属病院の口腔外科,歯科・口腔外科ならびに口腔がんセンターが協力して,連携する各地域の環境にあった口腔癌検診事業を継続的に行ってきた。1992年に千葉市歯科医師会と本格的に開始した口腔癌検診事業は2015年9月現在,千葉県,東京都,埼玉県の14の市に広がり,それぞれの地域性に合わせた形式で年1~3回の集団検診を行っている。1992年から2008年までの集団検診において千葉県全域では7,030名の検診を行った。その中で,口腔癌8名,前癌病変60名,検査または治療が必要な口腔粘膜疾患(良性腫瘍,扁平苔癬など)707名が抽出され,口腔癌の発見率は0.11%であった。この発見率は各年の累計でもほぼ同様であった。また,口腔癌検診の普及のために以下のことに取り組んできた。(1)市民への口腔癌の周知活動,(2)地域歯科医師会の会員をはじめとした一般の歯科医師への生涯教育活動,(3)行政への口腔癌の予防,早期発見の重要性の説明,(4)口腔癌スクリーニングのためのインフラの整備ならびに検査機器や検査方法の開発,などである。これらの活動の成果として,4つの市区では行政からの予算の補助によって恒常的に歯科診療所における任意型の検診を実施するに至った。
著者
石田 謙司 桑島 修一郎
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、有機強誘電体多層膜を用いて新たな原理の論理演算素子を創成すべく、その基本概念の取得、動作原理の探求を行うことである。本年度は分極相互作用を利用した論理演算素子の実証実験に不可欠な強誘電体論理セルとなる強誘電体多層膜をフレキシブル基板上に形成して論理動作の詳細を解析し、有機強誘電体のスイッチング機能を応用した非トランジスタ型の有機論理法の動作原理を考察した。本動作を検証するため、フッ化ビニリデンVDFオリゴマー(n=12)を用いてデバイス試作を行った。電極材料にはA1を使用し、A1配線はVDFオリゴマー薄膜を介して、3つのラインが1か所でクロスオーバーするパターンとした。クロス領域は0.25mm^2、それぞれの膜厚はA1:60nm、VDF:220nmである。作製した積層体に、プリセット用のポーリング処理を施した後、論理入力として(input1,input2)=(1,0)、(0,1)、(1,1)、(0,0)をそれぞれ印加した。本実験の場合、入力論理値"1"は、+48Vであって、"0"は-48Vであり、その矩形波を入力とした。矩形波としての印加時間は250usecである。それぞれの入力に対して観測された出力電荷の時間変化を観測したところ、(1,0)、(0,1)での出力がほぼ一致することが判り、その値は、59nCであった。この値はポーリング処理時での各層での残留分極量に一致する。また(1,1)での出力がちょうどその2倍に相当する118nCであり、分極反転に伴うスイッチング動作が実際のデバイスでも想定通りに実行できていると言える。以上の結果より、例えば出力の閾値を50nCとすれば、ORゲート、100nCとすればANDゲートとして動作、実行できることが判明し、強誘電体多層膜を用いた論理ゲート動作を実証した。
著者
藤田 葵 熊倉 克元 太田 能之 石橋 晃
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.141-144, 2015-02

水の固体は氷,液体は水,気体は水蒸気,天から降る水は雨,飲用にするものを飲料水,海にある水は海水,地下にある水は地下水,用途により農業用水,工業用水,上水,下水,不純物をほとんど含まないものは純水と呼び分けられる。飲用水は井戸水,水道水,さらに特定の地下水には温泉水,鉱泉水,湧水,井戸水,水源から採水された地下水を沈殿,濾過,加熱を施した水がナチュラルウォーター,その中で,手を加えない自然の状態でミネラルが溶け込んでいる鉱水,鉱泉水をナチュラルミネラルウォーター,原水は前者と同じで,ろ過および加熱殺菌以外に複数の原水の混合,ミネラル分の調整,オゾン殺菌,紫外線殺菌を施した水をミネラルウォーター,原水は純水,蒸留水,河川の表流水,水道水を処理方法の限定なしの水をボトルドウォーターと呼び分けている。
著者
望月 由美子
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.3-18, 2016-06-30

本研究は15,16 世紀のイタリア・ルネサンス絵画におけるユダヤ表象について分析を行うものである.イタリアの宮廷都市を代表するマントヴァのゴンザーガ家では代々,ユダヤ人の経済・思想文化に対する寛容策がとられており,その政治経済運営の一側面を特徴づけていた.とりわけ,マントヴァ侯爵フランチェスコ二世と夫人イザベッラ・デステの治世下では異教文化に肯定的な精神思潮が開花し,著名な人文主義者ピーコ・デッラ・ミランドラ,エジディオ・ダ・ヴィテルボ,マントヴァ貴族のパリーデ・チェレザーラ等が再評価したユダヤ神秘主義思想(カバラ)もひとつの流行的な関心を集め,さらにヘブライ語もまたラテン語やギリシア語に並ぶ第三の聖なる言語として崇敬された.その文化的潮流のなかで,ゴンザーガ家の宮廷画家アンドレア・マンテーニャはヘブライ語をモティーフとする絵画制作を行っており,本論ではそれが看取できる四作品《エッケ・ホモ》,《シビュラと預言者》,《ミネルヴァ》,《聖家族と洗礼者ヨハネの家族》の図像分析を行う.分析に当たっては,マントヴァで共有されていたユダヤ文化に対する関心と,従来のユダヤ人に対するキリスト教社会の態度,すなわちユダヤ人をキリストの敵とみなす伝統的な差別の文化形式の双方を鑑みつつ行い,マンテーニャの作品に見るこの時代独特のユダヤ宗教思想に対する知的・精神的態度なるものを明らかにする.
著者
米崎 克彦
出版者
同志社大学
雑誌
經濟學論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.329-356, 2011-12

論説(Article)本稿では,国際政治経済学の分野で発展した2レベルゲームモデルに交渉代表者を選ぶ過程を追加することにより,国内の意思決定が,交渉代表者に影響を与えるモデルを考察する.先行研究において,2レベルゲームは様々な形で拡張や応用が研究されている.理論面ではPutnamの2つの仮説に対し様々な形で検証が行われている.本モデルでは,Iida-Tararモデルの結果に対し,両仮説について違う含意が得られた.第1仮説について,複数均衡が存在する条件が導かれ,より交渉が成立するケースが増えるという可能性の点から,この仮説を支持する可能性が導かれた.また,第2仮説について,交渉のアドバンテージはウインセットの大きさではなく誰を選ぶかという部分に変化している.ただし,ウインセットの変化が均衡の集合のサイズに影響を与え,自分らのとり分が相対的に少なくなる可能性のある均衡の集合範囲がなくなる場合があり,間接的に交渉力に影響を与える可能性は残されている.I examine the two-level games model with a negotiation process for the selection of representatives. Putnam (1988) has proposed two-level games and has advanced hypotheses on international bargaining with domestic constrains. Iida (1993/1996) and Tarar (2001) have examined the hypotheses using a game-theoretic model. They stressed that asymmetric information plays an important role in the hypotheses. Even if complete information is available, our model leads the conditions of the hypotheses.
著者
下河邊 美香 星 拓男 柏 旦美 上田 昌代 吉田 千賀子 吉良 淳子
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.359-363, 2016-05-01 (Released:2016-05-02)
参考文献数
10

看護師および患者家族にアンケート調査を行い,家族看護に対する看護師の自らの意識と行動の満足度と看護を受ける家族の満足度ならびに実際の面会状況を調査した。看護師24人と58人の家族から回答を得た。家族へのサポートや情報提供に関しては看護師,家族ともに高い満足度であった。面会に関しては,看護師は面会時間や面会者の制限をあまり守れていないと感じているのに対し,家族の満足度は高い結果となった。家族の面会は規定時間よりも長く滞在していた。一方,患者の傍に家族が落ち着ける場所がないと患者家族は感じており,インターホンでの対応までの時間の長さや,1回の面会時間が短すぎるなどの意見も聞かれた。この結果から今後介入策を考え,スタッフに教育的な介入ができるようにしたい。
著者
吉田 薫
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.67, no.8, pp.1-14, 2013-08-25

何樹齢は清末の漢門で康有為,梁啓超らの変法運動にかかわっていた。本論では,何樹齢が岸上質軒や上野清に送った『大算盤』などの著述や上野清宛の書簡など,新資料を読み解きながら,これまでほとんど知られていなかった何樹齢の活動について検討する。何樹齢は,同門の陳栄衰と共に中国の改革に向けた活動をしていた。実学や算学の重要性を説き,慈善団体「善堂」を提唱し,初等教育に携わった。さらに算学と仏教思想を結び付けて新たな思想を提示しようと試みていた。何樹齢は自らの「宇宙」,「大同」世界の構築を試み,康有為,梁啓超とは異なった変法思想と活動を追究していた。
著者
岩永 理恵 四方 理人
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.101-113, 2013-12-30

本稿は,無料低額宿泊所(無低)等をめぐる問題の背景を読み解きながら,無低に入所する生活保護受給者の実態と必要な支援を,埼玉県の「生活保護受給者チャレンジ支援事業」(アスポート)利用者データを通して明らかにすることが目的である。住宅支援事業の背景には,路上生活者の増加や生活保護運用上の変化,無低等の社会問題化がある。このことを踏まえ,無低利用者を含む住居喪失者や住居不安定者に対する支援体制構築を試みた点にアスポートの特徴がある。分析により,無低入所のまま保護を受けている期間が長くなると,アパート等に転居するまでの日数がかかり,転居支援が困難になると推察された。無低問題や生活保護法の原理に鑑みて,そもそも無低に入らなければならなかったのかを問う必要があり,住宅支援事業により生活保護受給者が無低を経由せず居宅移行可能になることの意義は大きいと考える。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1485, pp.70-74, 2009-04-06

今後10年で環境分野に1500億ドル(約14兆7000億円)を投じ、500万人の雇用を創出する——。米オバマ政権が経済政策「オバマノミクス」の一環として掲げたグリーンニューディール政策が、いよいよ動き始めた。 グリーンニューディールは、再生可能エネルギーの導入や環境ビジネスへの参入などを政府が支援することで、環境を切り口にした21世紀型の新しい産業を起こす経済政策だ。
著者
Freedman David H.
出版者
日経サイエンス
雑誌
日経サイエンス (ISSN:0917009X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.80-87, 2011-04

米オバマ政権は,宇宙開発の戦略を大胆に転換した。国際宇宙ステーションへの往復など地球周回軌道への人や物資の輸送は民間企業に委ねて,NASAは火星への往還などより研究的なミッションに集中する。
著者
高橋 啓子 山内 博 益子 まり 山村 行夫
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.613-618, 1990-06-15 (Released:2009-02-17)
参考文献数
19
被引用文献数
3 7

We studied the role of S-adenosylmethionine (SAM) as a methyl group donor in the methylation of inorganic arsenic in mammalians.The SAM and S-adenosylhomocysteine (SAH) levels in the livers of untreated hamsters were 74.3±8.2 and 40.0±6.4nmol/g, respectively. The SAM level was 63.9±6.5nmol/g following oral administration of 1.5mg/kg of arsenic trioxide, which was 14% lower than the control level (t-test, p<0.05). This fall of the SAM level in the liver presumably derived from the SAM having acted as a methyl group donor.Oral administration of 1.5mg/kg of arsenic trioxide once only to hamsters pretreated intraperitoneally with 2.0mg/kg of SAM once only gave the following arsenic levels in the liver and urine. The dimethylated arsenic (DMA) levels in the livers of hamsters treated with SAM plus arsenic trioxide were significantly high, that is, 2 times as high as the control value at 6 hours, and 1.5 times as high as the control value at 24 hours after the administration of arsenic trioxide. The urinary DMA excretion rate in the hamsters treated with SAM plus arsenic trioxide during the first 24 hours after the administration was significantly higher, that is, higher by 36%, than the control value. The urinary DMA excretion rate following pretreatment with SAM was not dose-dependent. Pretreatment with methionine failed to exert any significant acceleratory effect on the methylation of arsenic trioxide.The decreasing pattern of the SAM level in the liver following administration of arsenic trioxide and the DMA behavior in the liver and urine following administration of SAM and arsenic trioxide revealed that SAM accelerated the methylation of inorganic arsenic. In other words, it appeared that SAM could be a very potent methyl group donor to inorganic arsenic.