著者
杉ノ原 伸夫 尹 宗煥
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

暖かい海水で満たされている南, 北両半球にまたがる海洋が, 南半球の南端域で冷たい水を形成することによって, どのように冷やされるかを調べることにより, 深層循環の基本的力学の理解を図った. 深層循環を水平対流として考えることにより, 形成される冷たい水がそれ自身の力学によってどのように深層湧昇を形成するかを理解しようとするものである. 海面では全海洋一様に暖めた. 太平洋を対象としたモデルであり, 以下のような知見が得られた.1.海洋の冷却は, 形成域から冷水がポテンシャル渦度を保存しつつケルビン波形の密度流となってもたらされることから, 赤道域及び東岸域の深層部から始まる. この東岸域の冷水は, ロスビー波型の密度流として内部領域に極向き流を形成しながら西に進み, 西岸に達して, 北半球には北向きの西岸境界流を形成する. このようにして赤道を横切る境界流が形成され, 効率よく北半球が冷やされるようになる. 北半球の北半分に反時計回りの循環が, 東岸, 北岸に沿って進ケルビン波の公課によって形成される.2.残りの海洋は内部領域及び沿岸での湧昇によって深層からより浅い層へと冷却されていく.3.上記過程において, 冷たい水がまわりの暖かい水と混合することによって温度躍層が深層域まで広がる傾向がある. これにより, 深層にも顕著な鉛直構造が存在するようになり, 求まった水平循環パターンは最深層部のみがストメルのものとなる.4.赤道域の冷え方はそれ以外の海域と異なり, 赤道に沿った東西流に"ZIGGY"構造が見られるように, 鉛直高次モードの運動が卓越する.5.循環の強さは, 等温面に直交する意味での鉛直拡散の効果に大きく存在しており, この効果が大きい程循環が活発になる.
著者
神原 ゆうこ
出版者
北九州市立大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究は、政治方針の変更に直面せざるを得ないスロヴァキアのローカルな地域社会の現場における公共性のあり方を明らかにすることを目的としている。欧米型の NGO 活動とそのネットワークは、 1990 年代以降の都市部で発展し、現在のスロヴァキア社会を支えているが、変容をめざす村落の若者のアソシエーション活動とはうまく接合できていない。自由な市民の活動が基盤であるがゆえに、現在の公共的世界のネオリベラルな限界が明らかになった。
著者
歌川 光一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は、都市新中間層生成期の「娘」教育における遊芸の位置づけ及びその機能を明らかにすることを目的とする。考察の対象としては、ピアノ、ヴァイオリンといったモダン文化との比較が可能な遊芸として、箏、三味線、琵琶といった楽器を据えた。本年度の成果は、以下の通りである。第一に、1900~1920年代の女性の職業準備としての遊芸習得について記述のある婦人・少女雑誌記事、職業案内書の内容を整理した。その結果、高収入がゆえに虚栄的なイメージもつきまとった洋楽の女流プロよりも、主婦役割を逸脱しない程度に収入を稼げる遊芸師匠の方が、良妻賢母像に親和的な職業として扱われており、その結果、「娘」期からの和楽器習得が、より修養的な役割を担わされたことが示唆された(「明治後期~大正期女子職業論における遊芸習得の位置-楽器習得に着目して-」『文化経済学』9_2、2012年ほか)第二に、婦人・少女雑誌付録の絵双六に関する所蔵状況を整理し、内容の分類を試みた。検討の結果、「娘」の将来像が良妻賢母か職業婦人かによって、また、同じ未婚女性であっても、「少女」と「令嬢」という理想像の違いによって、習得が期待される楽器の和洋が異なることが明らかとなった(「20世紀初頭の女性雑誌付録絵双六にみる『楽器定義のジェンダー化』過程-雑誌の対象年齢層に着目して-」女性と音楽研究フォーラム12月例会、於、中野区勤労福祉会館、2012年ほか)。第三に、本研究の背景となる、女性のアマチュア芸術文化活動のネットワーク化や、それに対する社会的まなざし、階層性について考察を重ねた(「女性芥川賞作家としての重兼芳子-カルチャーセンター・主婦・高女世代-」『「女性文化人」の社会的形成に関する歴史社会学的研究(稲垣恭子研究代表、平成22年度~平成24年度科学研究曹補助金(基礎研究B)研究成果報告書)』2013年ほか)。
出版者
日経BP社
雑誌
日経トップリーダー
巻号頁・発行日
no.346, pp.25-27, 2013-07

人口500万人強の小国で、経済成長率は1・3%(2012年)。成長力だけを見ると、ASEANの中で見劣りするシンガポールだが、物販・サービス業を中心に様々な企業が、今なお世界中から続々と集まってくる。 理由は域内で飛び抜けて高所得者が多いうえ、法人税率も低…
著者
松村 圭史朗
出版者
日経ホーム出版社
雑誌
日経マネー (ISSN:09119361)
巻号頁・発行日
no.289, pp.44-51, 2007-02

セミナーを開けば満員御礼、募集をかければ即日完売…。今年、ポストBRICsの筆頭候補として投資家の視線を一点に集めているのがベトナム株ファンドだ
著者
山下 喜代
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.77-108, 1995-04-01

小稿は, 結合形式の語構成要素を対象として取り上げ研究を進めていくために, データベース作成の目的で行っている国語辞典を資料とする語彙調査の報告である.本調査は, 『三省堂国語辞典第4版』([三国])と『小学館新選国語辞典第7版』([新選])の比較を中心にして, さらに1990年以降に刊行または改版された小型国語辞典6種と広辞苑第4版および日本国語大辞典を加えた計10種類の国語辞典を対象とした.[三国]あるいは[新選]において, 「接辞」または「造語成分」と表示されている1525語について, これらが国語辞典において, どのように扱われているかを「見出し語の立項」と「品詞表示」の二つの観点から調査した.そして, 国語辞典において語構成要素を扱ううえで考慮すべき8項目問題点を指摘した.(1)自立用法と結合用法の記述(2)見出し語の構成単位数(単位形の決定)(3)異形態の立項(4)省略形の立項(5)同一語か別語か(多義語の扱い)(6)字音語の扱い(7)品詞表示の揺れ(8)接辞と造語成分の表示の区別 さらに, これらの分析を通して, 国語辞典の品詞表示において接辞と造語成分を区別することに対し疑問を呈し, 語構成要素としての性格を用例も含め明確に記述することのほうがより重要であることを述べた.さらに, 非自立形態の性格を分析する視点として「形態的非自立性」と「意味的非自立性」また, 「品詞決定機能」と「意味添加機能」の4つを挙げ, これらの視点に立った非自立形態の分類の例を示し, このような分類をもとにして, 個々の語構成票素の性格を分析することが可能になるという考えを述べた.またこのような分類は, 何を接辞とし何を造語成分とするかといった国語辞典における品詞表示や意味記述を再考する上での基礎作業と位置づけられるものである.
著者
中島 林彦
出版者
日経サイエンス ; 1990-
雑誌
日経サイエンス (ISSN:0917009X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.42-49, 2012-11

ここ300〜400年,巨大地震はないから今後も起きないだろう──。そう思っていたところに500〜1000年間隔で起きる途方もない地震が再来した。
著者
宮本 幸一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

超弦理論に関連する宇宙モデルの観測的シグナルについて研究を行った。主な内容は以下の3点である。1:将来の観測による宇宙ひものパラメータの決定精度の推定宇宙ひもとは、宇宙論的な長さを持つ、莫大なエネルギーが凝縮した1次元的な領域である。超弦理論に基づく宇宙モデルのいくつかは、その存在を予言する。私は、将来の重力波直接検出実験、宇宙背景放射(CMB)の観測、パルサータイミング実験により、宇宙ひもを特徴付けるパラメータがどの程度の精度で決定されるかを調べた。そして、異なる実験の組み合わせによりパラメータの決定精度を改善できること、重力波直接検出実験が特に強力な手段をなることを明らかにした。2:超伝導宇宙ひもに対する観測的制限宇宙ひもの存在を予言する理論の一部においては、宇宙ひもは超伝導状態になる。このような超伝導宇宙ひもは、強力な電磁波を放出し、特異なシグナルをもたらす。私は、CMB、電波、X線、ガンマ線の観測や、ビックバン元素合成への影響を考慮して、超伝導宇宙ひもへの制限を導出し、また、将来の実験において超伝導宇宙ひもが発見される可能性を調べた。その結果、CMB非等方性の観測から最も厳しい制限が与えられること、将来の電波バーストの観測が超伝導宇宙ひもを発見する上で強力であることを明らかにした。3:初期宇宙の磁場が作るCMBエネルギースペクトルの歪みの非等方性銀河や銀河団の中の磁場の起源を説明するため、宇宙初期において磁場が作られる宇宙モデルが活発に研究されている。その中には、超弦理論に基づくモデルもある。私は、初期宇宙の磁場のシグナルとして、CMBのエネルギースペクトルの歪みに着目した。そのような歪みの空間的に一様な成分に関する先行研究を拡張し、ランダムな磁場によって作られる非一様な歪みを計算した。その結果、初期宇宙に強い磁場があれば、将来の衛星により歪みの非等方性が検出されるとわかった。
著者
澤田 充
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では戦前の銀行のデータを用いて、銀行間ネットワークの構造を明らかにし、それがどのようなインプリケーションを持つかについて実証的な観点から検証を行なった。実証分析の結果、戦前期の約半分の銀行が役員兼任を通じて他の銀行とのネットワークを構築しており、銀行間ネットワーク持つ銀行は持たない銀行と比べ、生存確率が高いことが明らかになった。また、銀行間ネットワークの質をネットワーク先の銀行の平均的なパフォーマンスで定義し、銀行間ネットワークの構造としてネットワーク統計量を用いて分析を行なった結果、ネットワークの質は銀行の生存確率に有意な影響を与えているのに対し、ネットワークの構造については銀行の生存確率に強い影響を与えていないことが実証的に確認された。さらに、昭和金融恐慌期のデータを用い、銀行間ネットワークを通じて預金の引き出しが伝播するかについて分析を行なった結果、預金の伝染効果について強い確証は得られなかった。
著者
Xu Zhongqi Doi Takayuki Timerbaev Andrei R. Hirokawa Takeshi
出版者
Elsevier Science BV
雑誌
Talanta (ISSN:00399140)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.278-281, 2008-10-19
被引用文献数
1 34 29

A transient isotachophoresis-capillary electrophoresis (tITP-CE) system for the determination of minor inorganic anions in saliva is described. The complete separation and quantification of bromide, iodide, nitrate, nitrite, and thiocyanate has been achieved with only centrifugation and dilution of the saliva sample. In-line tITP preconcentration conditions, created by introduction of the plugs of 5 mM dithionic acid (leading electrolyte) and 10 mM formic acid (terminating electrolyte) before and after the sample zone, respectively, allowed the limits of direct UV absorption detection (at 200 nm) to be up to 50-fold improved as compared with CE without tITP. As a result, nitrate and thiocyanate were still detectable at 4.6 and 3.8 µg l-1, respectively, in 1000 times diluted saliva. The daily variations of anionic concentrations in saliva samples taken from a smoking health volunteer were discussed based on the results of tITP-CE analysis. It was confirmed that the thiocyanate concentration in saliva noticeably increased after smoking. This is apparently the first report on simultaneous quantification of more than four anionic salivary constituents using CE.
著者
京免 徹雄
出版者
郡山女子大学短期大学部
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、フランスの進路指導における多機関連携ネットワークの全体像を描き出し、教育学的観点から進路を公的に保障する仕組みを解明することである。パリおよびオルレアンで実施した実地調査の結果、2009年にサービスの範囲・対象者・内容の異なる諸機関の関係が、社会的ステータス(横軸)と社会的機能(縦軸)に従って整理されていることが明らかになった。さらに、2011年に発表された認証評価基準によって、そのネットワークの質保証が行われている。
著者
加藤 輝之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.241-245, 1995-04-25
被引用文献数
12

新たな雨滴落下スキーム(box-Lagrangianスキーム)を開発した。従来のEuler型のスキームでは、雨滴の混合比qの時間変化をδq/δt=Vδq/δzから計算しているので、タイムステップΔtを雨滴の落下に対するCFL条件(VΔt/Δz<1、ここでVは雨滴の落下速度、Δzは鉛直の格子間隔)をも満足するように決定しなければならない。そこで、新しいスキームでは1鉛直格子箱にある雨滴の総量(可降水量)が完全に保存するように雨滴の落下を考え、そうすることにより雨滴の落下に対するΔtの束縛条件を取り除くことができた。すなわち、可降水量を一定のVで落下させ、Δt後の落下位置にある格子に配分する方法である。雨滴の落下に対するCFL条件から考えられる最大のタイムステップΔt_c(=Δz/V)よりも小さいΔtに対してはbox-LagrangianスキームはEuler型のスキームと一致する。さらに、ΔtをΔt_cの数倍にした場合でもbox-Lagrangianスキームは精度良く安定に雨滴の落下を計算した。数値モデルの下部の格子間隔を大気境界層を表現するために細かく取る場合、box-Lagrangianスキームは特に有効な手段となる。