著者
アフェルト レナルド
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.2_64-2_74, 2017-04-26 (Released:2017-06-26)

コンピュータのプログラムと数学の証明の間に密な関係があることはよく知られている.1969年に発見されたCurry-Howard同型対応により,プログラムの型を言明(statement)として見れば,プログラム自体はその言明の証明として見られる.これにより,数学の証明の検査はプログラムの型付けに帰着する.この発想に基づいて,定理証明支援系という検証ツールの開発が行われてきた.近年,定理証明支援系を用いて,ようやく現実的なプログラムと証明の検証が可能となっている.現実的な証明の一例として,2005年から2012年までマイクロソフト・INRIAの共同研究組織で形式化された奇数位数定理が挙げられる.奇数位数定理は膨大な証明により示された重要な群論の定理であるため,その形式化は大きなマイルストーンとなっている.加えて,その形式化の基盤であるMathematical Componentsもまた,形式数学におけるライブラリとして重要な成果である.我々のデジタル社会を支える基本的なコンピュータプログラムであるRSA暗号や楕円曲線暗号や符号などは,整数論や群論や線形代数などの数学に基づいているが,Mathematical Componentsを用いることで,これらのプログラムの厳密な仕様の記述ができるようになった.しかし,Mathematical Componentsのような大規模なライブラリの利用には専門知識が不可欠である.本解説では,Mathematical Componentsによる形式化を紹介する.群論のラグランジュ定理を用いて,そのライブラリの基本的な使い方を説明する.
著者
横山 顕子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.251-257, 2019 (Released:2019-04-01)
参考文献数
16

過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome : IBS) に対して腸管に焦点を当てた催眠療法 (gut-directed hypnotherapy : GDH) の有効性が欧米などから多く報告されているが, 本報告では, GDHではなく, 単回の年齢退行催眠療法で1年にわたり有効であった男性の下痢型患者の1例を報告する. 症例は49歳, 男性. Rome Ⅳ基準下痢型IBS. 8歳の頃に実母が病死後, IBSを発症. 母親が亡くなる前後の場面を催眠下で想起し, その場面に対する認知の変容を導いたところ, セッション後IBS症状は軽快した. セッション前後の心理検査ではうつと不安の尺度が軽減し生活の質が高まったと評価された. 少ない来院回数を望む患者やGDHに反応しない患者, 幼少時のトラウマの関与が疑われる患者に対しては, 退行療法が治療の選択肢の一つになると考える. なお, 退行療法を行う際には, クライアント自らの気づきを尊重することが重要と考える.
著者
佐藤 克文 木下 千尋
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.29-35, 2018-12-20 (Released:2019-12-20)
参考文献数
18

小型の記録計を対象動物に搭載し,動物の行動や生理,あるいはその周辺環境を測定する手法が注目を浴びている.直接観察が難しい海洋動物を対象として始まったこの手法には,バイオロギング(biologging)という名前が付けられ,現在広く野生動物調査に用いられている.たとえば,鳥類であるペンギンが,餌を捕るために深度300 mへの潜水を繰り返す間に,その体深部温度が平熱の38℃から10℃以上も低下するなど,主に陸上動物を対象とした研究で構築されてきた従来の常識を覆すような発見が相次いでいる.本稿では,爬虫類であるウミガメ類の体温とその特徴に関連した生活史について,バイオロギングによって明らかになった成果を紹介する.
著者
金子 道郎
出版者
一般社団法人 溶接学会
雑誌
溶接学会誌 (ISSN:00214787)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.193-196, 2006 (Released:2011-07-25)
参考文献数
18
著者
若園 吉一 小川 輝繁
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.138, 1968-06-15 (Released:2018-11-08)
著者
坂木 孝輔 高島 尚美
出版者
日本クリティカルケア看護学会
雑誌
日本クリティカルケア看護学会誌 (ISSN:18808913)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.57-65, 2018-03-01 (Released:2018-08-07)
参考文献数
21

本研究はICUにおける家族にとってのベッドサイドの写真の意味を明らかにし,看護介入としての写真活用の示唆を得ることを目的とした.ベッドサイドに写真を持参した重症患者の家族を対象に写真の意味について修正版グラウンデット・セオリー・アプローチを用いてデータ収集し分析した. その結果,家族にとっての写真の意味は,《日常の世界や家族との絆を繋ぎとめる証》《写真持参に伴う苦慮》《写真をきっかけにもたらされる哀しみ》《写真をきっかけにもたらされる喜び》《回復と回復支援への願いと危惧》の5つの局面が抽出された. 写真は,家族の保証や接近のニーズを満たし予期悲嘆を促進させ,衝撃を受けている時には危機を助長させうる意味を持っていた.家族の危機の段階や家族システムによって異なる写真の意味を認識し,意図的に写真を用いることの重要性が示唆された.
著者
稲村 光郎 八木 美雄
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会研究発表会講演集 第22回廃棄物資源循環学会研究発表会
巻号頁・発行日
pp.58, 2011 (Released:2011-11-07)

わが国の本格的な集団回収は、戦時体制下に生まれ、それは主として民間団体によるもので回収業者との軋轢もあったが、1937年からの国民精神総動員運動を背景に活発化した。しかし、国は不祥事を契機に抑制方針をとったが、一部の地方では婦人層や青年層を主体とする取組みが続けられた。1941年以後の、全国的に実施された町内会等による金属類の「特別回収」は、横流しを警戒し行政末端機構として行ったものとみられる。併せて、当時、米国で行われたコンテスト方式を紹介し、多様な方法があることを示した。
著者
白石 梨紗 大江 秋津
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会 全国研究発表大会要旨集 2020年全国研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.89-92, 2021-01-28 (Released:2021-01-18)

本研究は、ハロー効果が明治時代のお雇い外国人の契約更新にもたらす影響を実証する。ハロー効果とは、既存の評価がその後の評価に与える影響である。分析は、明治7年から9年の『公私傭入外国人明細書』・『資料御雇外国人』の84件のお雇い外国人のデータにより、多変量解析を行った。その結果、来日前の学歴や業績が高評価の人は高給となるが、成果の評価時はハロー効果により期待したほどでないと判断されやすく、そうでない人はハロー効果が無いため期待値が低く、契約更新されやすかった。本研究は、ハロー効果という数値化が困難なものを実証することで、認知バイアス理論への理論的貢献と、日本史分野にも分野横断的貢献を持つ。
著者
神原 敏光 周 艶陽 川嶋 善仁 岸田 直子 水谷 健二 池田 孝夫 亀山 孝一郎
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.179-186, 2003-09-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
12
被引用文献数
1

甘草の化粧品添加物としてのさらなる利用を目的に, Glycyrrhiza inflata Batalinの根から調製したリコカルコンAを主要成分とする抽出物である油溶性甘草エキスP-Uについて, 新たな皮膚科学的有用性を検討した。その結果, 本抽出物はテストステロン5α-リダクターゼ, リパーゼおよびホスホリパーゼA2の阻害作用やアンドロゲン受容体結合阻害, 抗菌およびSOD様作用など, スキンケア, 特にニキビの形成や悪化の抑制に係わる種々の作用を示した。これらの試験結果を基に, ニキビ患者に対する油溶性甘草エキスP-Uの効果を検証し, その有効性が推定された。
著者
藤村 靖
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.5-10, 1966-05-01 (Released:2010-06-22)
参考文献数
9

2 0 0 0 OA イルカのなぞ

著者
種子田 定俊
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.28, no.7, pp.552-561, 1973-07-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
38

イルカは普通の動物の筋肉の能力から予想されるよりもはるかに速く泳ぐことで知られている. そのことから, イルカが泳ぐときの流体摩擦抵抗は, 同じ形の剛体が同じ速度で進行するときよりも, はるかに小さいのではないかと推測されている. 流体力学的に見てその可能性が存在するだろうか?
著者
Satoshi MAESAWA Daisuke NAKATSUBO Masazumi FUJII Kentaro IIJIMA Sachiko KATO Tomotaka ISHIZAKI Masashi SHIBATA Toshihiko WAKABAYASHI
出版者
The Japan Neurosurgical Society
雑誌
Neurologia medico-chirurgica (ISSN:04708105)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.442-452, 2018 (Released:2018-10-15)
参考文献数
38
被引用文献数
5 18

Epilepsy surgery aims to control epilepsy by resecting the epileptogenic region while preserving function. In some patients with epileptogenic foci in and around functionally eloquent areas, awake surgery is implemented. We analyzed the surgical outcomes of such patients and discuss the clinical application of awake surgery for epilepsy. We examined five consecutive patients, in whom we performed lesionectomy for epilepsy with awake craniotomy, with postoperative follow-up > 2 years. All patients showed clear lesions on magnetic resonance imaging (MRI) in the right frontal (n = 1), left temporal (n = 1), and left parietal lobe (n = 3). Intraoperatively, under awake conditions, sensorimotor mapping was performed; primary motor and/or sensory areas were successfully identified in four cases, but not in one case of temporal craniotomy. Language mapping was performed in four cases, and language areas were identified in three cases. In one case with a left parietal arteriovenous malformation (AVM) scar, language centers were not identified, probably because of a functional shift. Electrocorticograms (ECoGs) were recorded in all cases, before and after resection. ECoG information changed surgical strategy during surgery in two of five cases. Postoperatively, no patient demonstrated neurological deterioration. Seizure disappeared in four of five cases (Engel class 1), but recurred after 2 years in the remaining patient due to tumor recurrence. Thus, for patients with epileptogenic foci in and around functionally eloquent areas, awake surgery allows maximal resection of the foci; intraoperative ECoG evaluation and functional mapping allow functional preservation. This leads to improved seizure control and functional outcomes.
著者
松宮 奈賀子 森田 愛子
出版者
小学校英語教育学会
雑誌
小学校英語教育学会誌 (ISSN:13489275)
巻号頁・発行日
vol.16, no.01, pp.196-210, 2016-03-20 (Released:2018-08-02)
参考文献数
16

本研究の目的は,教員養成課程で学ぶ大学生を対象に,英語母語話者とのティーム・ティーチング(以下T.T.)形式での模擬授業の効果を「指導への自信」「不安」「具体的な学び」の3 観点から検討することである。外国語活動の指導法を学ぶ演習科目を履修した大学生131 名を対象として,ALT との模擬授業の実施前後における「指導への自信」の変容,「指導への不安」の実態,「ALT との模擬授業からの学びの具体」を質問紙により調査した。その結果,模擬授業前の段階で特に学生が「自信がない」と評価したのがALT との指導に関する事項であり,事後には自信に関する質問項目すべてにおいて,得点の向上が見られた。また,ALT との模擬授業は全員が実施したのではなく,実施した学生と,それを観察したのみの学生がいたが,この2 群間に自信の向上に関する差異は見られず,観察によっても一定の学びを得ることができることが明らかになった。具体的には,打合せの重要性や打合せを効率的に実施する方法,授業内でのALT の役割等についての学びがあったことが自由記述より明らかになった。このようにALT とのT.T.に関し,一定の学びを得,指導への自信は高まったものの,英語力に関する不安が依然として残ることも明らかになった。そのため,ALT との模擬授業から授業づくりや協同して指導にあたる方法を学ぶことは有効であるが,合わせて英語力の向上を目指すことがALT とのT.T.指導への自信に繋がるであろうことが明らかになった。
著者
清水 潤
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.32-41, 2005-09-10 (Released:2017-08-01)

泉鏡花「龍胆と撫子」は「黒髪」と題して雑誌連載が始まったが、連載誌の変更や連載中断を経た後、前半部分のみが『りんだうとなでしこ』と題して単行本化された。この未完に終わった大作について、本論では複雑な成立過程も考慮に入れた上での作品読解の可能性を探る。成立過程での作品世界の変質や作中人物の役回りの問題(例えば、重要人物であるべき毛利が冒頭部分にしか登場しないこと)も検討しつつ、後期の鏡花文学の中での本作の存在意義を巡って再考察を試みた。