著者
五十嵐 元道
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_76-1_95, 2019 (Released:2020-06-21)

本稿は、主権概念を手掛かりに、国際社会における近年の介入の在り方について分析する。とりわけ、2010年代のリビア紛争とシリア紛争を事例として、オバマ政権期のアメリカによる介入政策を中心に検討する。リビアとシリアへの介入は、いかなる主権領域での、いかなる介入だったのか。本稿は、この時期のアメリカの介入政策が以下のような特徴を備えていたことを明らかにする。この介入政策は、 (1) 反政府勢力が結集し一体化するよう促し、 (2) 国際的な政治的承認を与えて段階的に外的主権を移行させ、 (3) 最終的に反政府勢力が現政権を倒し、新しい安定した統一政府 (国内主権) を樹立するよう助力するものである。本稿はこの政策をその特徴から 「及び腰の介入」 (reluctant intervention) と呼ぶが、これは現地勢力 (エージェンシー) の特質にその成否を依存するものだった。リビアとシリアの事例は、アフガニスタン戦争とイラク戦争後の世界で、欧米諸国が選択可能な介入政策の限界を示唆している。以下では、介入と主権についての先行研究を概観し (第1節) 、主権概念をもとにリビアとシリアにおける介入の特徴を明らかにする (第2節、第3節)。そして、最後に結論と示唆について論じる。
著者
小野 正文 西原 利治
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.1, pp.47-55, 2016-01-10 (Released:2017-01-10)
参考文献数
19

患者数のさらなる増加が予想される非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)患者の中から治療が必要な非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)や肝線維化進展症例を見つけ出すのは容易ではない.肝臓の組織診断がNASHと非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver:NAFL)を鑑別できる唯一の方法であるものの,NASHや肝線維化進展の可能性が高い症例を画像検査,スコアリングシステムならびにバイオマーカーなどを用いて診断し,適切な時期に肝臓専門医に紹介することが重要である.今後,有用な血液バイオマーカーの登場も期待されており,肝不全や肝細胞癌の高発症リスク症例の早期診断が内科医には求められる.
著者
松永 和剛 松崎 昭夫 荒牧 保弘
出版者
West-Japanese Society of Orthopedics & Traumatology
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.838-840, 1997-09-25 (Released:2010-02-25)
参考文献数
6

The authors studied the course of the infrapatellar branch of the saphenous nerve in 36 cadaver legs, with particular reference to its relationship to the sartorius muscle. In 19 (52.8%) the infrapatellar nerve passed through the sartorius, in 15 (41.7%) it passed over the sartorius before distributing to the antero-medial aspect of the knee. In two the nerve branched: in one both branches penetrated the sartorius and in the other, one branch penetrated and the other passed over the sartorius. The authors could not find any case in which the nerve passed through the tendon of the sartorius or passed under the sartorius. These findings explain why few cases of entrapment neuropathy of the infrapatellar branch clinically need surgical treatment.
著者
田中 邦煕 新谷 洋二 山田 清臣
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.1999, no.631, pp.383-396, 1999-09-21 (Released:2010-08-24)
参考文献数
16
被引用文献数
1

近世城郭石垣には反りなどの三次元的な独特の形態が認められ, 視覚的に安定感を与えかつ工学的観点からも合理的な形態と考えられる. しかしこの形態の発生起源などは不明な点が多い. 筆者らは現存石垣の観察計測結果から, 石垣普請時に基礎や背面地盤等でかなり大きな沈下や変位が生じこれが石垣面に現れて, 石垣師たちがこの自然発生的な形態に対してより安定化し美的にも高度化する努力を続けるうちに, 高度な三次元形態へと進歩したと考えた. そして石垣断面解析にFEMなどを適用する手法を検討した後これを応用して, 石垣構築時に反りなどの形態と類似した形態が得られることなどを示し, 「石垣の三次元形態の起源は石垣普請時の変位変形であろう」とする一つの考え方を説明した.
著者
中垣 正幸 嶋林 三郎 早川 栄治 小槻 節
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.618-627, 1979-06-25 (Released:2008-05-30)
参考文献数
11
被引用文献数
5 3

The amounts of both Ca2+ and Na+, x and y, respectively, bound to C-type chondroitin sulfate (Chs) from an aqueous solution of CaCl2 mixed with NaCl were obtained by the membrane equilibrium method. To estimate x and y under the effect of the Donnan equilibrium, [Ca2+] and [Cl-] for both sides of the dialysing tube and [Chs] for the inner side were analysed. The binding isotherm for Ca2+ was of the Langmuir type, and both x and kCa2+, the binding constant for Ca2+, decreased with ionic strength, J. On the other hand, the binding isotherm for Na+ was not of the Langmuir type but its shape was explained as the competitive adsorption of the two components, Na+ and Ca2+, because Ca2+ binds more strongly to Chs than Na+ and, therefore, the effect of coexistence of Ca2+ with Na+ cannot be neglected when the Na+ binding is examined. It was also suggested that y and kNa+ decreases with J when the amount of the occupied site by the Ca2+ is kept constant at x. The degree of the ionization, z, of Chs was found to be 0.40-0.41 for Na2Chs and 0.20-0.21 for CaChs by this membrane equilibrium method assuming x+y+z=1. These values coincide with those obtained from the vapour pressure osmometry by the authors and with the literature values calculated with considering the Manning theory.

2 0 0 0 OA 3.運動療法

著者
能勢 博
出版者
日本循環制御医学会
雑誌
循環制御 (ISSN:03891844)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.121-139, 2014 (Released:2015-03-26)
著者
高橋 礼子 近藤 久禎 中川 隆 小澤 和弘 小井土 雄一
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.644-652, 2017-10-31 (Released:2017-10-31)
参考文献数
11

目的:大規模災害時には巨大な医療ニーズが発生するが,被災地内では十分な病床数が確保できず被災地外への搬送にも限界がある。今回,実際の地域での傷病者収容能力の確認を行うべく災害拠点病院の休眠病床・災害時拡張可能病床の実態調査を行った。方法:全災害拠点病院686施設に対し,許可病床・休眠病床・休眠病床の内すぐに使用可能な病床・災害時拡張可能病床についてアンケート調査を実施した。結果:回収率82.1%(許可病床258,975床/563施設),休眠病床7,558床/179施設,すぐに使用可能な休眠病床3,751床/126施設,災害時拡張可能病床22,649床/339施設であった。考察:いずれの病床使用時にもハード面・ソフト面での制約はあるが,被災地外への搬送に限界があるため,地域の収容能力を拡大するためには,休眠病床・災害時拡張可能病床は有用な資源である。今後,休眠病床の活用や災害拠点病院への拡張可能病床の普及を進めると共に,各種制約も踏まえた医療戦略の検討が課題である。
著者
名古屋 祐子 宮下 光令 入江 亘 余谷 暢之 塩飽 仁
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.53-64, 2020 (Released:2020-04-07)
参考文献数
38

【目的】看護師による代理評価を用いて終末期にある小児がん患者のQuality of Life(QOL)とその関連要因を検証する.【方法】2015年10月〜2016年2月に国内の小児がん治療施設に勤務し,終末期にある小児がん患者を担当した看護師を対象とし,看護師によるQOL代理評価尺度(Good Death Inventory for Pediatrics: GDI-P)22項目とその関連要因を調査した.【結果】18施設から患者53名分の代理評価を得た.GDI-P8下位尺度のうち「からだや心の苦痛が緩和されていること」が最も平均が低かった.GDI-Pの総得点は,ケアの構造・プロセスの評価と正の相関がみられ(r=0.58),死亡場所は症例数に偏りがあったが集中治療室の場合は自宅や病棟より得点が低かった.【結論】苦痛緩和が最優先課題であるとともに,ケアの構造・プロセスの評価がQOLと関連している可能性が示唆された.
著者
遠藤 太佳嗣 西川 惠子
出版者
日本結晶学会
雑誌
日本結晶学会誌 (ISSN:03694585)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.7-12, 2016-02-29 (Released:2016-03-02)
参考文献数
29

Here we review our recent works on thermal phase behaviors of ionic liquids, 1-alkyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphates ([Cnmim]PF6, n=1~4). Their complex thermal phase behaviors observed in calorimetric measurements were investigated at the molecular level using combined techniques of Raman spectroscopy, quantum chemical calculations, X-ray analyses, and nuclear magnetic resonance spectroscopy. It was demonstrated that the conformational flexibility of the side chain in the cation played a key role for thermal phase behaviors of some ILs as represented by [C4mim]PF6, nevertheless, which was not always the case for others as evidenced in [C1mim]PF6 results.
著者
丹羽 靱負 前田 正人
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.61-71, 1983-02-28 (Released:2017-02-10)
被引用文献数
1

BCG, picibanil, levamisoleなどの免疫賦活剤は, 腫瘍や自己免疫疾患の治療に広く使用されている.これらの薬剤の薬理作用は, リンパ球の面からしばしば研究結果が報告されている.丸山ワクチンも, その薬理作用は不明であるが, 制癌剤として臨床家に使用されている.近年食細胞の産生する活性酸素(OI)が, 強力な抗菌作用を有し, 自己防衛上重要な役割を演じていることが明らかにされてきた.更に, 制癌剤Bleomycinなどの制癌作用も, OI中最も強力な作用を有するといわれているOH・の産生を増強させ, OH・が癌細胞内の核を破壊させることにより癌治療に有効であると報告されている.一方, OIの過度な増加は, SLEやリュウマチ(関節液)などにおけるリンパ球障害や異常なリンパ球の反応性の何らかの原因となっていることも証明されている.以上の事実より, われわれは, これら4剤のヒト好中球の貪食能, ライソゾーム酵素(β-glucuronidase, Lysozyme)分泌能および, OI(O^-_2, H_2O_2, OH・) およびchemiluminescence産生能に与える影響を中心に検索した.結果, BCGの使用全濃度と低濃度丸山ワクチンは著明にOIを増強させ, 一方, levamisole全濃度と高濃度丸山ワクチンは高度にOIを減産させた.
著者
小尾 公美子 籠橋 麻紀 波田 野琢 藤島 健次 北田 徹 服部 信孝 大熊 泰之
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.68-72, 2010-02-28 (Released:2014-11-21)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

破傷風は先進国では稀な疾患となったが, ひとたび発症すると致死率が高い神経緊急疾患である. 当科ではこの9年間に7例の破傷風患者を経験したが, 本稿では中高年齢で発症し示唆に富んだ4例について報告した. 開口障害より嚥下障害が目立つと, 脳卒中と誤診されやすく注意を要する. 少しでも開口障害があれば外傷歴がなくとも破傷風を考慮し, 高齢者, 重症者では合併症も多いので, 十分な全身管理が必要であると考えられた.
著者
久保田 潤平 遠藤 眞美 久保田 有香 柿木 保明
出版者
一般社団法人 日本障害者歯科学会
雑誌
日本障害者歯科学会雑誌 (ISSN:09131663)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.10-16, 2015 (Released:2015-06-30)
参考文献数
16

食事は生活のなかの楽しみとなるため,味覚が障害されると食欲低下の原因となるだけでなく,精神的苦痛をこうむることにもつながる.しかし,味覚障害の原因は多岐にわたり治療に苦慮することも少なくない.また,明確な診断がつかないために特発性味覚障害と診断され,適切な治療が行われていないこともある.著者らは以前の研究で,382人の調査において水分代謝不良が味覚障害のリスクとなる可能性を明らかにした.そこで今回は,水分代謝不良と関連する味覚障害と考えられた者に対して水分代謝を改善する漢方薬である五苓散と八味地黄丸を応用した者への臨床的有用性を検討した.対象:平成23年7月~平成26年3月の間に味覚の異常感を訴えて九州歯科大学附属病院口腔環境科(以下,当科)を受診した患者で,当科受診前に他科・他院を受診し,特発性味覚障害とされた82人のうち,当科において水分代謝不良と関連する味覚障害と判断した45人を対象とした.方法:対象者の診療録から全身状態や主訴に関する項目を抽出するとともに,五苓散または八味地黄丸の服用による有効性の検討を行った.結果:服用開始6カ月以内における自覚症状の変化は“治癒”が21人(46.7%),“改善”が20人(44.4%),“不変”が4人(8.9%),“悪化”が0人(0.0%)であり,有意(p<0.01)に改善がみられた.本調査より,水分代謝不良と関連すると思われる味覚障害患者においては,水分代謝を改善する漢方薬の応用が有用であることがわかった.
著者
江川 亮
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.28-40,63, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13

1都市と農村の児童群 (各群とも小学校4年から中学校3年まで各学年25名) に鈴木治太郎氏の「実際的個別的知能測定法」を実施しその両群の比較を学年別に得点でみると, いずれの学年も都市群が優れ, 農村群が劣るのを明らかに認めることができる。この得点という全体的な表示での比較差異は, いわば量的な差異といえる。2項目の通過・非通過を検討することによつて両群各々の心的な機能を明らかにすることから, この検査での上の量的な差異の妥当性を吟味しようとするのが本研究の目的である。量に対する質の検討ということができよう。手続きは両群から39点から57点の間に分布する得点者を抽出し, 得点間隔3点で7段階に区分し, 群別段階別に標本を集めた. 検討の結果, 各段階ともいずれの項目, あるいはいずれの項目類型にも両群間に明らかな差異が認められず, また両群の項目通過の相関もきわめて高い値を示した。なお通過率の上昇, 相関傾向等によつてこの検査の両群における内的整合度の高いことを知ることができた。最終通過項目が同一の標本で集めた場合も結果は同様であつた。3上の結果より各群の特定の心的な機能の差異は, a項目群, b項目群と名付けた二類型にやや見出されるといえるにすぎなく, 明確な差異傾向を示すことができなかつた。4したがつてこめ検査では, 得点をいわゆる知能の全体的な表示とするとき, その同一水準は心的な機能のそれをも規定できるということを推論でき, 得点の低位は, 量とともに質のそれをも記述しうることを明らかにすることができる。5以上から, この検査は問題とその方法の見本が都市に偏することなく抽出されていて環境条件の相異する両児童群の共有の尺度としての信頼性をもつといえる。この見本性についての不安は標準化が都市中心であることに帰せられ, 多くの検査と同様にこの検査について注意を要する点として指摘されていた。6都市農村の分類は, 二つの環境類型化であつて, それら各々を構成する特殊的因子を捨象したいわば平均的な類型化である。著者はその特殊的因子, すなわちそれぞれの地域社会における階層類型 (29類型) を見出し, それらに帰属する児童がいかなる精神発達の段階秩序をもつか, あるいはまたそれらの段階秩序が都市から農村への移行的連続の過渡形態としていかなる類型をその間に挿入しうるかという検討を通じ, それら知能の差を生ぜしめる環境的要因の考察を試みようとした。そして「生活の差を, その生産手段の所有状態, 労働力の存在形態の差異」 (6) でとらえ, それにGoodenough (2) の分類を加味した階層類型と, この検査で測定される知能はきわめて密接に (F0=6.72) 関係するのを見出すことができた。以上における分析の詳細は省略するが, この類型化も公式的形式的類型であるというそしりをまぬかれえない。量を規定する質, その質を制約している枠組すなわち環境的要因を見出すという一連の研究がなされなければ, なんら教育の実践に貢献するものになりえないと思う。その直接的実質的な環境要因を明らかにすること, そこに心理学における階層化の目的が存すると思うが, 隣接諸科学の知見の組識的な協力をえて心理学的に抽象される環境類型が把握されなければならないと思う。