著者
小島 俊樹
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.177-190, 2011-02-01

名古屋市立高校における学校納入金の未納者数は、09年度6月において前年度の5倍以上となった。この原因は不景気を背景として、高校生の世帯に貧困層が拡大しているためと推測した。子どもの貧困率として相対的貧困率がよく採用されるが、これでは高校生のように養育費がかかる年齢には低すぎる基準と思われる。むしろ、自治体が用いる基準である、給与所得控除を足し夫婦2人世帯で年収450万円(2005年)が妥当な基準と考える。これを基準とすると、高校生世帯の約30%が貧困層であると推定される。授業料減免者数の生徒総数に対する割合の推移(1996年~2006年)をみると、11年間で約3倍になっており、貧困層の拡大が急激にすすんでいる。名古屋市立の全高校を対象にした調査から、授業料減免者を普通科・職業科・定時制で分けてみると、職業科・定時制に集中していることが明らかになった。さらに、授業料減免の対象者が市民税非課税で、ほぼ相対的貧困基準に相当するため、そこから高校生世帯の貧困基準に基づき推定してみると、職業科・定時制生徒の世帯の半数前後が貧困層に該当すると考えられる。最後に、学校納入金未納者の担任への調査を通じて、高校生の貧困世帯は、今回の不景気により親の失業などで新たに貧困層へ加わる世帯と、すでに貧困世帯であったがリストラや賃下げなど今回の不景気のしわ寄せで更に貧困となった世帯、これらの2類型があると思われる。
著者
阪口 翔太 藤木 大介 井上 みずき 山崎 理正 福島 慶太郎 高柳 敦
出版者
京都大学大学院農学研究科附属演習林
雑誌
森林研究 = Forest research, Kyoto (ISSN:13444174)
巻号頁・発行日
no.78, pp.71-80, 2012-09 (Released:2013-10-08)

ニホンジカ(シカ)の森林植生への影響が懸念されている京都大学芦生研究林において,主要植物種に対するシカの嗜好性を調査した。嗜好性を把握できた90種の植物のうち,嗜好性が高いと判断された種は74種に上った。この結果は,本地域の植物群集の種のプールの大部分が,シカに嗜好されやすい種によって担われていることを示唆している。よって,シカの採食圧が本地域で持続する限り,多くの種で個体群が衰退し,地域のフロラが貧弱化する可能性がある。残りの16種については,シカの食痕をほとんど確認できず,かつ個体の矮小化現象が見られなかったことから,シカの嗜好性が低い種であると判断された。これらの種は,シカの採食によって嗜好性種が消失した後に分布を拡大し,種多様性・機能的多様性の低い群集を再構築する可能性が高い。しかし,シカの嗜好性が状況依存的に変化しうるという側面を考慮すれば,本論文で挙げた低嗜好性種も将来的にはシカに嗜好される可能性もある。今後,芦生地域の豊かなフロラを保全するためには,シカの生息密度と植物群集の変化をモニタリングしながら,シカの生息密度を適切なレベルで管理する努力が必要になるだろう。
著者
及川 佐枝子
出版者
三重大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

食品に含有するナノ粒子の消化器系における炎症反応の誘導作用を解明するため、ヒトマクロファージ様細胞THP-1および大腸腺癌細胞Caco-2を用い、ナノ粒子曝露による生存率の変化、活性酸素種(ROS)および炎症性サイトカインの産生について解析を行った。二酸化チタンのナノ粒子曝露により、ROSおよび炎症性サイトカインIL-1βの産生が増加する傾向が認められた。また一次粒径が同程度でも、酸化亜鉛の方が二酸化チタンより細胞の生存率の低下およびROSの産生を誘導する事が認められ、粒子の種類により細胞毒性作用、炎症反応誘導の機構に違いがあることが示唆された。

5 0 0 0 OA 本草図譜

著者
岩崎常正<岩崎潅園>//著
巻号頁・発行日
vol.第6冊 巻40穀部1,
著者
田伏 未来 萩原 将文
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
日本ファジィ学会誌 (ISSN:0915647X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.6, pp.1089-1097, 1999
参考文献数
18

<p>本研究では、人間が実行した操作データを用いることによりスキルを自動学習する手法を提案している。例題として、スキルの必要なゲーム、テトリスを用いている。学習、なかでもスキルの獲得や向上は人間の本質的なものである。機械学習においては、人間の学習過程を調べ計算機によりシミュレーションを行う研究が行われてきた。本研究では、ファジィ推論ニューラルネットワーク(Fuzzy Inference Neural Network:FINN)を用いて、テトリスのスキルをif-then型のルールで獲得し、検討を行うことを目的としている。学習データとして人間が実行したデータを与えることにより、ルールを自動的に生成することも可能となった。さらに学習データを追加することでスキルを向上させていくことが可能となった。また生成されたルールを調べることで獲得したスキルについて検討を行った。計算機シミュレーションにより、学習データの追加によるスキル向上が確認された。また提案システムが獲得したスキルは、生成されたルールにより明示的に表現された。また学習データ提供者の熟練度の違いを検討し、熟練者は初心者に比べ、より先を考慮しながらテトリスを実行していることが示唆された。</p>
著者
武藤 芳照
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.202-206, 2002-09-30

水中運動は,浮力により関節への負担を軽くし,全身の余分な緊張を和らげること,水の抵抗のもとでからだを動かすことで,安全にしかも確実に筋力を強化でき,水圧が胸にかかる状態で努力呼吸を行うために呼吸・循環機能を高められ,水による温熱効果あるいは寒冷効果が得られ,骨・関節・筋肉などの血液の流れを改善し,柔軟性を高めることができる.たとえば肉ばなれ・捻挫・骨折などの運動・スポーツで起きやすい傷害は,水中運動ではほとんど起きる危険性がなく,安全である.温水プールでの水中運動の場合には,スポーツ感覚の明るく軽快な雰囲気の中でからだを動かすことを楽しみ,それが結果的にリハビリテーションの効果につながる.このように水中運動は,優れた利点をいくつも有するために,関節痛の運動療法としてきわめて優れている.水中運動の主要な効果には,次のようなものがある.(1)関節の動きを改善する (2)筋力を高める (3)痛みを軽減する (4)リラクゼーション (5)バランス感覚を磨く さらには,関節痛のために,自然に落ち込むことが少なくない中高年にとって,水中運動は解放感を体験でき,自身の上達・改善の様子を理解しやすく,達成感を味わうことができるために,生きる自身と希望をもたらす効果もある.運動中や運動後に,「疲れた!」と感じたり,関節に痛みを感じたりするようならば,それは「やりすぎ!」とみられる.普段地上では思うようにからだの動きができない分だけ,水中で「こんなに動ける!」といううれしさのあまり,つい時間を長くしたり,回数を多くしたりして家に帰ったらへとへとになってしまう例もある.しかし,こうした運動の仕方ではリハビリテーションの効果も得られないばかりか,かえって関節痛を悪化させたり,他の病気・障害を招くことさえある.また,関節痛の水中運動・水泳に適したからだの動きに留意することは,傷害・事故の予防につながる.
著者
阿部 勝征
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.369-377, 1999-12-25 (Released:2010-03-11)
参考文献数
46
被引用文献数
13

A method for determining the tsunami magnitude Mt from tsunami run-up heights is developed by using the Abe's (1989) relation which has been employed for estimating run-up heights from earthquake magnitudes. The magnitude Mt is estimated from the relation, Mt=2logHm+6.6, where Hm is the maximum value of the local-mean run-up height in meters and the logarithmic mean of heights is taken over a distance of about 40km along a coast. Except for unusual events, the moment magnitude can be estimated from Mw=Mt-2C, where C=0 for tsunamis in the fore arc and C=0.2 for tsunamis in the back arc. For 12 large tsunamis that occurred around Japan from 1894 to 1998, Mw estimated from Mt is found to be essentially equivalent to that estimated from seismic waves. The present method is applied to determining Mt for 21 historical tsunamis that occurred around Japan on and after the 15th century. There are 13 large tsunamis with Mt=8 or over for the period from 1498 to 1893.
著者
小室由三 編
出版者
創生社
巻号頁・発行日
1925
著者
仙田 満
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会論文報告集 (ISSN:03871185)
巻号頁・発行日
no.322, pp.108-117, 1982-12-30
被引用文献数
13

本研究は, こどもにとってよいあそび環境とは, という問題へのアプローチとして, 大人の中に刻まれた原風景というものに着眼した。そして時がたっても強烈なイメージとして心に焼きついたあそびの風景=<あそびの原風景>の成立条件を探ることは, こどもにとってよいあそび環境の条件を探ることになるという前提に基づいて研究を進めた。方法としては, 10代後半から50代後半の108人を対象とし, 30分ずつの個別インタビューを行い, あそび場とあそびという2つの観点から分析していき, あそび空間との関係について考察した。その結果1)原風景となっているあそび空間は, 自然スペース, オープンスペース, 道スペース, 建築的スペース, アナーキースペース, アジトスペースの順である。そして, 自然, オープン, 道まで合わせると全体の80%を占める。2)自然スペースが原風景として成立するためには, 単に木や草があればよいのではなく, そこに沢山の生物が生きている事, そして泳ぐ事ができる美しい水である事, 大自然ではなく身近な自然-小川と田んぼ-であり, そこには生物がいる事が推測される。3)道が原風景として成立する場合には, 車が少なく, 道巾がヒューマンで, 電信柱とか道祖神とかがあそびのシンボルになったりする。そして家並の間に小さな路地や, すきまのあるような変化にとんで, しかも一街区をひとまわりできる道空間であることが推測される。あるいは坂道になっていて, ソリや自転車でスリルとスピードが味わえる構造もある。4)アナーキースペースの原風景のイメージでは, 原っぱと廃材の山の両方がある場所である。チャンバラや戦争ごっこなどには, こども達の創造性を刺激し, 彼らの舞台となる。5)アジトスペースは, こども達の身近な生活環境の中に馬小屋, 倉, ポンプ小屋, 廃屋-そういう, スケールが小さく, 非生活空間である事が重要である。6)オープンスペースが原風景として成立するには, そこで行われるあそびによって(A)野球のようなボールゲームは2000m^2以上。(B)鬼ごっこ, チャンバラ等が行われるオープンスペースは600m^2〜2000m^2.(C)縄とび, ままごとは50m^2〜600m^2.というような3段階のスケールをもっており, (B), (C)は, まわりに隠れる事のできる大木, 建物, 家がある空間であることが推測される。
著者
Qoosaku Moteki Atsuyoshi Manda
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
SOLA (ISSN:13496476)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.19-22, 2013 (Released:2013-03-01)
参考文献数
19
被引用文献数
9 16

We propose a new scenario for the seasonal migration of the Baiu frontal zone over the East China Sea in which this migration is affected by variations in the sea surface temperature (SST). Using atmospheric and oceanic objective analysis datasets, a relationship was determined between the seasonal migration of the Baiu frontal zone and the decaying process of the cold high over the East China Sea. Before the middle of June, the cold high, cooled by the low SST, is present over the continental shelf, and the position of the Baiu frontal zone corresponds to that of the Kuroshio Front. After the middle of June, the cold high decays and is shifted northward in association with the warming SST over the shelf. As a result, the Baiu frontal zone migrates northward and ends in the middle of July due to the dissipation of the cold high.
著者
柳井 啓司
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM) (ISSN:18827810)
巻号頁・発行日
vol.48, no.16, pp.1-24, 2007-11-15
被引用文献数
68

「一般物体認識」とは,制約のない実世界シーンの画像に対して計算機がその中に含まれる物体を一般的な名称で認識することで,コンピュータビジョンの究極の研究課題の1つである.人間は数万種類の対象を認識可能であるといわれるが,計算機にとっては,同一クラスに属する対象のアピアランスが大きく変化するために以前はわずか1種類の対象を認識することすら困難であった.ここ数年,新しいモデル表現の提案,機械学習法の進歩,計算機の高速化などにより,急速に研究が進展しており,現在は101種類の対象に対して6割程度の精度で認識が可能となってきている.本論文では,一般物体認識研究のサーベイを手法に加えて,データセット,評価ベンチマークについて行い,さらにその今後について展望する."Generic object recognition" aims at enabling a computer to recognize objects in images with their category names, which is one of the ultimate goals of computer vision research. The categories which are treated with in generic object recognition have broad variability regarding their appearance, which makes the problem very tough. Although human can recognizeten thousands of kinds of objects, it is extremely difficult for a computer to recognize even one kind of objects. For these several years, due to proposal of novel representation of visual models, progress of machine learning methods, and speeding-up of computers, research on generic object recognition has progressed greatly. According to the best result, the 66.23% precision for 101-class generic image recognition has been obtained so far. In this paper, we survey the current state of generic object recognition research in terms of datasets and evaluation benchmarks as well as methods, and discuss its future directions.
著者
工藤 拓 山本 薫 松本 裕治
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. NL,自然言語処理研究会報告 (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.161, pp.89-96, 2004-05-13
参考文献数
21
被引用文献数
26

本稿では,Conditonal Random Fields(CRF)に基づく日本語形態素解析を提案する.CRFを適用したこれまでの研究の多くは,単語の境界位置が既知の状況を想定していた.しかし,日本語には明示的な単語境界が無く,単語境界同定と品詞同定を同時に行うタスクである日本語形態素解析にCRFを直接適用することは困難である.本稿ではまず,単語境界が存在する問題に対するCRFの適用方法について述べる.さらに,CRFが既存手法(HMM,MEMM)の問題点を自然にかつ有効に解決することを実データを用いた実験と共に示す.CRFは,階層構造を持つ品詞体系や文字種の情報に対して柔軟な素性設計を可能にし,label biasやlength biasを低減する効果を持つ.前者はHMMの欠点であり,後者はMEMMの欠点である.また,2つの正則化手法(L1-CRF/L2-CRF)を適用し,それぞれの性質について論じる.
著者
森山 剛 小沢 慎治
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告音声言語情報処理(SLP) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.12, pp.33-38, 2008-02-08
被引用文献数
1

自分の声で好みの歌唱様式を有した歌声を作るには,歌唱を訓練し,歌唱様式を学び,さらに歌声を発する恥ずかしさを克服しなければならず,非常に困難である.そこで,歌詞を朗読するだけで,その音声と楽譜を入力とし,ユーザの声の話者性を損なわずに,自由な歌唱様式を有した歌唱を合成する手法を提案する.本手法により,楽譜さえあれば,どんな曲でも,いつでもどこでも何度でも,自分の声で歌わせることができ,さらにリズムや旋律を工夫してジャズや演歌といったジャンルを演出したり,他人の歌い方を真似したり,音痴を修正したりできる.楽譜を編集する過程で,歌唱様式をどう実現すれば良いか学習でき,また自分が歌う前に,自分が歌った場合のイメージを掴むこともできる.聴取実験により,朗読音声の話者性や歌詞の音韻性を損なわず,歌唱様式の基本となる演奏記号を合成できることが示された.We propose a method of transforming reading speech of lyrics to singing voice. It is capable of realizing favorite style in the transformation, i.e., a specific genre and an expression. Generating singing voice by one's own voice requires the person to train singing, to learn how to realize singing styles, and to overcome hesitation in singing out. The proposed method only requires the user to read the lyrics. It then allows the user to generate singing voice of any music, anytime, anywhere, and any number of times. The user can edit the music for generating a specific singing style, mimicing other's style of singing, and correcting the problematic portion of his or her singing. The user can also learn how to realize a specific style in singing and hear how it sounds when he or she sings on his or her own. Experimental results demonstrated that the proposed method was able to synthesize a comprehensive set of basic indications such as crescendo in the synthesized singing holding the voice quality of the speaker.