著者
杉谷 幸太
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.18-34, 2011-11-25

80年代の中国文学・映画において,「知識青年」作家たちは革命中国の支配的叙述を脱構築するために「農村」の「ルーツ」に注目し始めた。だがレイ・チョウは,この「プリミティヴへの情熱」が,作者の意図とは逆に,共産党の支配的イデオロギーと共犯関係を持つことを批判している。この難問に直面した「知識青年」作家の李鋭は,『厚土』において知識青年の農村共同体からの疎外感を描くことで,意識的にこの共犯関係を回避しようとした。陳凱歌の『黄色い大地』との比較からは,『厚土』は事実上,革命中国の歴史叙述と,対抗的な「農村中国」の叙述が共通に持っている,農村に対する搾取性を指摘していることが明らかになる。
著者
多田 邦尚 一見 和彦 山口 一岩 石塚 正秀 本城 凡夫 樽谷 賢治
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

瀬戸内海東部海域における近年の栄養塩低下とその原因について研究した。瀬戸内海では高度経済成長期に富栄養化が著しく赤潮も多発していた。その後、水質は改善されたが、逆に近年では養殖ノリの色落ち等の被害が出ている。栄養塩の減少原因には、陸域からの窒素負荷量の減少だけでなく、堆積物からの栄養塩溶出量の低下も大きく影響していると考えられた。栄養塩濃度と赤潮発生件数等との関係についても検討した。
著者
藤目 ゆき 山本 ベバリー 南田 みどり 今岡 良子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

大規模な国際組織であるWIDF(国際民主女性連盟)による世界平和運動の取り組み、またアジア各地の女性運動の展開を調査し、朝鮮戦争真相調査団の活動をはじめとして冷戦時代の国際女性運動の諸相を明らかにした。
著者
後藤 浩一 工藤 勝弘 奥村 誠崇
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.358-362, 2002-11-30
被引用文献数
1 1

自然の復元を目指した緑化対策の現状を把握するために,近年竣工した3箇所のダム原石山跡地で植生調査等を実施した。その結果,厚層基材吹付工を実施した箇所では実施しなかった箇所より在来種の進入種数が少なかった。また,厚層基材吹付工に在来木本種子を混ぜて播種した箇所で播種した在来木本の植被率は,草本種子量を減じた箇所の方が高かった。小段部の植裁工については,成長した植栽木からの種子の散布による周辺のり面への定着を図ることを主眼として,厳しい立地環境である原石山跡地においても定着が可能なアカマツなどの先駆性の木本を中心に樹種を選定することが望ましいと考えられた。
著者
藤枝 崇史 新井 淳也 大村 圭 藤田 智成
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.7, pp.1-8, 2012-02-21

近年,多数のコンピュータを組み合わせることで性能のスケールアウトや冗長化を実現する分散システムの需要が高まっている.分散システムを開発する際には一貫性の保証が焦点となる.強い一貫性は可用性を犠牲にするため,応答速度が重視される Web サービス等のシステムとの相性が悪い.この問題を解決する一貫性に,結果整合性というモデルが存在する.しかし,結果整合性を利用する分散システムの開発は困難である.本論文で紹介する Bloom は,分散システム開発をターゲットとしたプログラミング言語である.Bloom には,結果整合性を利用する処理を簡便に記述できる,一貫性を厳密に保証すべき処理と結果整合性を利用しても良い処理の判別を自動的に行うことが可能である,などの特徴がある.本論文では,Bloom の処理系である Bud の内部実装の解析と,実行速度の評価を行った.評価の結果,Bloom のプログラム内で扱うデータ量が増えるほどにアクセス速度が増加するため,1000 個のデータを扱う場合,Bud のプログラムの処理速度は Ruby の 100 倍前後遅いという結果が得られた.Recently, we have seen a growing demand for distributed systems to achieve scale-out performance and availability by many computers. Tha main focus is ensuring consistency in distributed systems. Strong consistency sacrifice availability. Therefore strong consistency is unfit for the systems that require a high-speed response such as web services. Eventual consistency solves the problem. However development of distributed systems are difficult by using eventual consistency. Bloom is a programming language for distributed systems development. Bloom simplifies a distributed program to use in eventual consistency, and it is possible to automatically analysis whether to use strong consistency or eventual consistency. In this paper, we analyzed Bud, Bloom interpreter implementation, and evaluated of Bud processing speed. As a experimental result, processing speed to access objects increased linearly with increasing amount of objects handled by Bloom program. For example, If Bud program handle 1,000 objects, processing speed of Bud program is 100 times as slow as that of Ruby program.
著者
緒方 広明 矢野 米雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-情報処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.874-883, 1997-04-25
被引用文献数
40

本論文では, ネットワークを利用した開放型グループ学習支援システムにおいて, 協調学習の誘発を支援する Knowledge Awareness (KA) を提案し, その試作システムであるSharlok (<Shar>_____-ing, L__-inking, and Lo__-oking-for K__-nowledge) について述べる. Sharlokは, ネットワークで結ばれた各学習者が, 知識を蓄積しあい, それに関して討論が行えるオープンな学習環境である. KAは, "知識に気づく" という意味であり, 共有データベースにおける学習者の行動履歴を利用して, 討論のきっかけとなる知識の存在や学習者の存在に気づかせる. KAを提供し, 討論を誘発することにより, 学習者は, 意欲的に学習し, 共有データベースは洗練化され, 成長していく最後に, 本論文では, 試作システムの評価を通じて, KAの有効性を示す.
著者
山本 ベバリーアン (2010) 山本 Beverley Anne (2009) DALES Laura
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究では,日本の男女共同センターや女性センターを中心とする女性運動について、主に結婚していない女性達の多様な経験を考察することによって、男女共同参画政策が想定しているのが「結婚して子どもがいる働く女性」であり、彼女達がこのディスコースの枠を意識的あるいは無意識的に越えている'unconventional'な存在である点をまず明らかにした。その上で、少子化・高齢化社会における彼女達の存在を考察するとともに、同政策を批判的に再考した。研究では20-40代の結婚していない女性33名(平成22年度は21名)に対して、ライフスタイルや結婚観、仕事観、社会観1、将来の展望等について綿密なインタビュー調査を実施した。その結果、彼女達の多くが結婚制度そのものを否定しているわけではなく、仕事と家庭の両立の問題や社会から「嫁」として期待されること、家制度などの社会的な理由から非婚を選択しているに過ぎないことが明らかになった。彼女達は現代日本の社会システムの中での婚姻制度とその期待に当てはまらない存在なのである。また、現在の男女共同参画社会の対策には彼女たちも含まれるごく一部の長時間勤務する専門職の独身女性を支援するものはあっても、依然として家族と仕事への責任をともに果たすことを可能にするようなものではない。このような状況下において仕事と結婚の二者択一を迫られ、女性達は働くことを選んできたのである。ただ彼女達自身の家族とのつながりは強く、多くが親の介護について責任をもっていると感じている。こうした女性達にとって男女共同センターはむしろ同じような立場の女性達とのネットワーキングの場であり、独身生活を支える原動力として機能している。以上の研究によって、女性達の多様な経験をもとにこの少子化・高齢化社会において国の男女共同参画政策はより現実に即した観点から再考することが求められていると指摘した。
著者
古川 明徳 曹 銀春 大熊 九州男 眺野 貴裕 渡邊 聡
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集. B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.67, no.657, pp.1184-1190, 2001-05-25
被引用文献数
11

Demands for higher performance of axial flow pumps have led pump designers to consider the creative strategies for the new type. As a solution, contra-rotating rotors might be applied to a pump. Comparative experiments were conducted for two types, consisting of contra-rotating rotors and a rotor and a stator respectively, which were designed under the same specifications of pump head, flow rate and rotor specific speed. The measured pump performances and flow distributions are shown and the advantages of using contra-rotating type are clarlfied as follows. Contra-rotating type is superior in pump efficiency and cavitation performance in range of partial flow rates to conventional one though the specified pump head and maximum efficiency were not satisfied at design point in the case of contra-rotating test rotors. Results demonstrate that the rear rotor design is important to improve the pump efficiency.
著者
山口 淳 加藤 敬行 菅 裕明
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.584-592, 2011-11-30 (Released:2012-02-29)
参考文献数
29

新たな創薬の基盤技術として,我々は1013を超える多様性の擬天然特殊ペプチドライブラリーの構築を可能とするFIT(Flexible In-vitro Translation)システムと,生理活性を有した特殊ペプチドの迅速な探索を実現したRaPID(Random non-standard Peptides Integrated Discovery)システムを開発した.本稿ではこれら新規基盤技術の紹介と共に,特殊ペプチド創薬におけるDDSとの連携の重要性についても言及する.
著者
葛原 憲治 島本 英樹
出版者
愛知東邦大学
雑誌
東邦学誌 (ISSN:02874067)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.1-12, 2006-12-15
著者
浅井 さとみ 宮地 勇人
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

緑膿菌の抗菌薬耐性と耐性遺伝子の発現について、既存の遺伝子発現の状態を臨床分離株を用いて詳細に調査し、簡易迅速診断検査に用いるための耐性遺伝子の検索を行った。薬剤排出ポンプ機能の亢進に関与するMexEF-OprNとMexXY-OprM同時発現臨床菌株を用いて、各遺伝子発現の有無を可視的に観察するシステムや、Enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA法)による耐性遺伝子の発現検出法の開発を新たに試みた。Acinetobacter baumanniiでは、薬剤排出ポンプの関与は緑膿菌ほど強くなく、他の遺伝子発現の関与が考えられた。
著者
岡崎 隆 平野 雅宣 高柳 滋 田口 哲 高久 元
出版者
北海道教育大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

金星の太陽面通過周期の「規則性」を考える-数理融合教材の試み;ハレーは金星の太陽面通過を観測することによって地球-太陽間距離の決定が可能であることを示した。この現象は8年の短周期と百年を超す長周期を繰り返すという特異な周期性をもっておりこの現象観測の科学史上の意義とともに、理科教育の題材として興味深い内容を持つ。金星と地球の公転周期が近似的に整数比(8対13)になっていることおよびこの整数比からの僅かなずれが特異な周期性の要因である。コンピューターシミュレーションを活用しながら、周期運動の合成、惑星現象の立体幾何学的考察、有理数がもつ意味を自然現象の中で明らかにする数理融合教材として検討した。電子天秤による液体の表面張力の測定-表面張力の分子論的理解のための実験教材;「表面張力」は日常の様々な場面で見かける液体表面の振る舞いを説明する言葉として用いられる。「液体(水)=引力で引き合う分子集団」として表面張力の正体を明らかにすることを目標とした測定実験を考案しその指導法を検討した。表面張力測定法として「ジョリーのバネばかり」が知られているが、この原理に従い電子天秤を利用することによって微小な表面張力を容易に測定することができる。水の表面張力の温度依存、エタノール、オリーブ油の表面張力との比較を測定結果から考察し、液体の物性(融点、沸点、比熱)を考え合わせて物質の分子論的理解を促す教材実験とした。教材実験の解説・演示映像の編集;これまでに検討、作成した以下の理科実験教材の解説・演示映像の編集を行った。創造性を育む理科実験教材として、教育現場での活用・普及を図っている。1)ブラウン運動の観察とアボガドロ数の導出-分子運動を見る、2)電子天秤による磁気力の測定-遠隔力の規則性を測る、3)ブランコの運動とパラメーター励振、4)断熱蒸発による液体の温度低下の観察・計測-分子が運ぶエネルギー、5)金星の太陽面通過周期の「規則性」を考える-数理融合教材の試み、6)電子天秤による液体の表面張力の測定-表面張力の分子論的理解のための実験教材
著者
園正造編
出版者
至文堂
巻号頁・発行日
1924
著者
山田 盛夫
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.97-98, 1985

「レーマーは,木星が地球に最も近い位置での第1衛星の食から最も遠い位置での食(113回目)の時刻を予測して観測したところ,22分(正しくは16分36秒)のおくれを得た.彼は,このおくれが地球の公転軌道の直径を光が伝わる時間であると解釈して,光速度を求めることができた」という話が多くの光学の教科書に紹介されている.しかし,この結論に至るまでの過程はあまり明確ではない.ここでは,この過程を詳細に吟味した結果について報告する.
著者
西矢 貴文
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

近代日本の「国家神道」期における神道家の内実を聞明するために、明治末期から昭和戦前期に活動した神道人の一人である葦津耕次郎に焦点を当てて研究を遂行した。とりわけ、強烈な神道信仰をもつ宗教的人間として、その信仰に導かれて形成される国体観、天皇観などに基づいだ諸活動とともに、葦津の事業家としての側面も明らかにすることを目的とした。如上の目的を達成するために、今年度は、国立国会図書館、国立公文書館、外交史料館、國學院大学図書館、関西大学図書館などにおいて未見資料の調査と蒐集を行った。その成果として結実した研究論文が、「事業家としての葦津耕次郎」(『明治聖徳記念学会紀要』復刊第43号)と「大正期の葦津耕次郎」(『神道宗教』205号掲載予定)である。「事業家としての葦津耕次郎」では、葦津耕次郎が関わった事業として、満洲における鉱山業・博多湾築港事業・社寺建設業を扱い、その事業の経緯を検討することを通じて、筥崎八幡の神威高揚と天皇の皇威発揚、そして国威向上を目的とするという自らが語る事業観が、そのまま経営のありかたに反映されていることを論じた。また、「大正期の葦津耕次郎」では、明治末期から大衆社会化が進行する一方で、第一次世界大戦やロシア革命を経て日本国内でも思想悪化、共産主義の脅威が喧伝されるなか、あるべき国の姿を実現することを鋭く追求するようになってゆく葦津の思想と活動を考察した。葦津は、大正初年に出会った川面凡児の神道教学に多大な影響を受けて自らの信仰を語る言葉を得た。大正期における敬神護国団の結成と純正普選運動への関わりを通じて、そのなかで葦津が川面教学から得たタームを使用しながら語った天皇観や国体観は、危殆に瀕する国体を救済するための政治的言説に直結し、この後の葦津による神道的昭和維新案へと結実してゆく前提となることが明らかになった。
著者
香山 不二雄
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, 2005-07-20

カドミウムは急性毒性で主な標的臓器は肝臓で, 肝細胞壊死を伴う肝障害を起こす. この時, エンドトキシンを同時に投与すると炎症反応が強くなり, 肝臓から産生される炎症性サイトカインの誘導も多くなる. そのメカニズムは肝細胞壊死により, その周りに炎症細胞浸潤が起こり, 肝臓自身が炎症への反応性が昂進した状態になっていることが, 肝臓薄切切片培養法を用いて明らかとした. その過剰な反応性は抗TNF-alpha抗体で抑制することが出来たことから, 以上のことを証明することができた. 腎臓障害は, 長期間にわたりカドミウムを投与して惹起される. 長期投与していると腎重量が大きくなることが複数の研究者から報告されていた. 病理組織学的には特に正常細胞や異形性のある細胞増殖像が見られることはない. 腎臓組織から産生される炎症性サイトカインを測定するとIL-6が非常の多くなっていることが明らかとなった. このサイトカインがカドミウムで障害を受けた腎臓尿細管細胞の増殖因子として働いていることが明らかにした. 以上のように, カドミウムの毒性発現に炎症性サイトカインの関連を調べたが, 方法論としてはエンドトキシンを併用しており, 活性化された反応を見ることを解析すること研究してきた. 今後は, カドミウムによる免疫毒性の研究で残されているのは抑制系の反応を証明する方法を明らかにしていくことである.