著者
マリアンヌ・シモン=及川 中地 義和 鈴木 雅生 畑 浩一郎 月村 辰雄 塚本 昌則 野崎 歓 塩川 徹也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

『イーリアス』第18歌でアキレスの盾を描写したホメロス以来、芸術作品、特に絵画をめぐる文章を著してきた文学者は枚挙にいとまがない。西欧文学では、絵画の描写はひとつの伝統として捉えられてきた。フランスにおいて文学者の絵画に対する関心がとりわけ顕著になるのは19世紀であり、絵画をめぐるテクストの質も多様化するが、本研究は、19-20世紀のさまざまジャンルのテクストを選択し、絵の様相と意味とを多元的に考察しながら、これまであまり研究の対象になっていなかった作品について検討し、文学と絵画の関係という分野において新しい成果を出した。
著者
吉野 正敏 岩田 修二 藤田 佳久 吉村 稔
出版者
愛知大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

今年度は東アジアにおける歴史時代の中で特に温暖であった8〜9世紀と寒冷であった18〜19世紀の気候特性を明らかにし、その機構を明らかにした。そしてそれぞれの時代における気候が人間活動に及ぼすインパクトについて考察した。(1)中国東北部に8〜10世紀前半に栄えた渤海国をとりあげ、日本との間の渤海使・遺渤海史について考察した。その結果、季節性が極めて明瞭で、冬の季節風の利用、最も強い危険性をもつ期間をさけたことなどが考えられた。また、多少高湿であったため、牧草の生育には好条件で牧蓄業を背景とする国家経済の安定が国家成立を支えたと思われる。(2)華南の人口は上述の寒冷な小氷期には急激な上昇を示めす。また、反対に古代の暖った期間には華北や、現在のモンゴル地域には人口増加が明らかであった。(3)中国の清代の長江流域の洪水記録によると1736年〜1911年に多く、例えば長江の洪水流域には、1700年代中期、1820〜1850年、1880〜1990年の3つのピークがある。多雨であったばかりでなく、地方経済の弱体化にともなう堤防管理の悪化も原因の一つであったと考えられる。(4)古日記を利用して江戸時代の日本の天候を復元してその経年変化をみると、天保期の変動は近畿地方が東日本より顕著である。そしてその変動傾向は逆である。また、飢饉年でも日本全体がひと夏中同じ傾向を示す場合は少なく、季節の前半と後半で差がある年が多かった。(5)東ヒマラヤ・東南チベット・雲南省などでも5,000〜4,000年前は高温多湿であった。その後、1200〜700年前にも温暖な時代があったがチベット文化圏の拡大によって人間活動が活発化し、森林が破壊された。
著者
柴田 政子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究最終年度の今年度の成果は、ロンドン大学教育大学院図書館(英)及びゲオルク・エッカート・インスティテュート(独)において、初年度に調査した教科書と、二年目に行った教科書内容に重要に関わる政府による指導指針の文書について、不足していた部分や補足したい資料について集中的に調査したことである。このことで、技術的問題等で欠損していた部分や、コピーやスキャン文書が不鮮明であった部分、また調査の当時に文書が不在であったなどの理由で欠けていた箇所を補充することができた。この研究の意義は、ヨーロッパにおける第二次世界大戦の戦勝国と敗戦国が、各々いかなるアプローチでその歴史を公教育という場で解釈し伝えてきたかということを探るとともに、両国の事例を比較検討することを通して、アジアにおける歴史対話という重要な政治的・教育的課題を抱えるわが国の歴史教育のあり方について再考するひとつの手がかりを提示することであった。よって、本年度の論文・口頭での研究発表は、上記調査結果を踏まえ、日本の歴史教育への取り組みについて議論をする内容となった。この三年間の研究を通して発見できたことは、当初の予想とほぼ同様で、ドイツの教科書記述の詳細さ・綿密さ・分量の多さからして歴史教育に対する重点政策が読み取れ、イギリスに関しては第二次世界大戦とはナチス・ドイツが中心的アクターとして理解できる記述がほとんどであった。独英両国の大戦に関わる歴史教育の実態を詳細に調べられたことは、全体として大きな成果であったと考えるが、一方で、前期・後期中等教育の教諭であった本研究者は、活字で認識する歴史としての教科書が、各学校・各教室・各教員により様々な環境・解釈で用いられ、当然のことながら教育内容を把握する上ではひとつの方法・側面に過ぎないことを現場で強く認識してきた。よって、本研究に今後つながる研究として、学校の教室外であるが広い意味で公の場で行われている歴史教育について、本件と同様とくた第二次世界大戦の歴史において、わが国と深く関わる国々を対象に調査したいと考える。
著者
高岡 治
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は,体操競技の採点における分業制,および,非分業制の採点方法の違いが,演技観察の様相と演技の評価に与える影響を検討することにより,演技評価の内容的妥当性検討,さらには,審判技術指導上の基礎資料を得ることであった.被験者として,本研究の趣旨を説明し承諾を得ることができた国際体操連盟公認男子審判員資格を有する24名を選出し,無作為に三つのグループに分類した.平成14,15年度に開催された国内の競技力を代表する三つの競技会(全日本学生選手権,全日本選手権,NHK杯)において,ゆかと跳馬を除く4種目の演技をビデオカメラを用いて撮影した.これらより,各種目それぞれ4演技づつ計16演技抽出し採点資料とした.各被験者グループには,それぞれ,演技の価値点(難度,特別要求,加点の採点要素の採点結果に演技実施の配点(5.0)を加えた点数)の採点を行なう(A審判法),演技実施の採点を行う(B審判法),価値点と演技実施のいずれも行う(A・B審判法)のいずれかの採点方法を用いて,採点規則男子2001年版にしたがい演技の採点を行うよう指示した.演技の採点にあたり,各被験者にはアイマークレコーダ(nac EMR-8)を装着させた.演技観察の様相については,各種目とも特徴的な様相を示した技がみられ,特に,あん馬においては,技の成立に関わる部分への観察様相が顕著であった.しかしながら,これらと採点方法との関連については明らかにすることができなかった.一方,演技評価については,演技実施の減点において,採点方法の主効果がみられ,採点分業制は採点兼業制と比較して,演技実施の減点が約.10程度大きい値を示していた.このことは,同じ現象の同じ部分を観察しながらも,採点方法により演技評価が異なっていたことを示している.これらのことから,採点方法が演技評価の内容的妥当性に与える影響が示唆された.
著者
伊藤 佐知子 神林 崇
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高齢健常者14名を対象に、ゾルピデム(マイスリー、アステラス社)5mg,塩酸リルマザホン(リスミー、塩野義社)1mg、トリアゾラム(ハルシオン、ファイザー)0.125mgの一回服用における翌日の運動機能と認知機能について、プラセボとの比較試験を行った。その結果、客観的指標に関してはゾルピデム5mgが良好な結果を示し,主観的評価についてはトリアゾラム0.125mgが良好な結果を示していた。これにより、睡眠導入剤の就寝前一回服用における高齢健常者の運動機能と認知機能の変化について、プラセボとの二重盲ランダム比較試験によって(1)半減期においては、超短時間型で、(2)ω1選択性の有る、(3)ノンベンゾジアゼピン系の睡眠薬が高齢者に好適な薬剤である可能性が高いことが示唆された。
著者
大野 雅子
出版者
帝京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

17世紀後半に東インド会社によってイギリスに持ち込まれた紅茶や陶磁器などの茶道具は、富裕層にとっては自らが上品でポライトな階級に属していることを示すための重要な物質文化を形成した。紅茶や茶道具に熱狂する女性は17世紀から18世紀にかけての文学作品に数多く登場し、皮肉や揶揄の対象となる。さらに、女性の物欲の激しさは性欲の激しさと同一化される。聖書に始まる女性蔑視の伝統は紅茶と陶磁器という新たなメタファーを得ると同時に、「脆き器」としての女性はその激しい欲望を携えて消費文化の中を跋扈する存在となるのである。
著者
庄司 博史 渡戸 一郎 平高 史也 井上 史雄 オストハイダ テーヤ イシ アンジェロ 金 美善 藤井 久美子 バックハウス ペート 窪田 暁
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1980年代後半からの日本の急激な多民族化の進展のなか、移民とともにいくつかの移民言語が生活言語として定着しつつある。同時に日本語を母語としない移民にとって、生活、教育の面でさまざまな言語問題も生じている。本研究は、いままで日本ではあまり注目されることのなかった移民言語に焦点をあて、社会言語学的立場から、その実態、および移民にかかわる言語問題への政策に関し調査研究をおこなった。その結果、国家の移民政策、移民の地位、ホスト社会の態度とのかかわりなど、移民言語を取りまく状況は大きくことなるが、今後日本が欧米のような多民族化に向かう上で、移民、国家双方の利益にとっていくつかの示唆的な事例もみられた。
著者
大和田 英子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ウィリアム・フォークナーは1920年代後半から1940年代前半まで映画脚本の執筆に携わっていたが、その動機は財政問題にあったため、この時期のシナリオ諸作品には、文化的・歴史的視点からのアプローチが欠けていた。しかし、フォークナーと同時期にハリウッドでシナリオ製作、あるいは、映画プロデュースに携わっていた、作家・映画監督などの動向を詳細に検討すると、当時のアメリカ政府による文化政策の影響が色濃く、フォークナーもその影響の範囲内での仕事を余儀なくされていた事実が浮かびあがる。本研究では、フォークナーがハリウッド時代、共に仕事をしたハワード・ホークス文書をユタ州ブリガム・ヤング大学図書館にて調査し、フォークナーとホークスのみならず、ガイ・エンドア、エイゼンシュテインらとの共通認識であったアメリカ海兵隊によるハイチ侵攻及びハイチからの撤退という歴史的事実が与えた映画界への影響の痕跡を探った。映画に携わった当時の映画人・作家は、表現のうえでも、思想のうえでも、アメリカの軍事行動に反発を示し、アメリカ政府がそれに対して検閲制度を強化していったが、そのような制限の中で、いかなる文学作品あるいは映画が生まれ、あるいは闇に葬られていったのかを検証した。ガイ・エンドアの『バブーク』はその好例でもあるが、エンドアとフォークナーが同時期にハリウッドで脚本制作に携わりつつ、全く異なるハイチ表象を選択した背景は、各々の思想的相違というよりは、ハイチに対するイメージの相違と考える。
著者
高木 繁光 諫早 勇一 松本 賢一 メーリニコワ イリーナ 銭 〓 大平 陽一 宮崎 克裕
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、文学作品ではナボコフの小説『絶望』、ドストエフスキイの小説『おかしな男の夢』、マラルメの『イジチュール』、中国の『紅楼夢』を、映像関係ではアレクセイ・ゲルマンなど50年代のソ連社会を舞台とした近年のロシア映画、エイゼンシュテインの映画理論、30年代から50年代のドイツ映画と親近性をもつ近いマキノ雅弘作品などを主たる分析対象として、各研究者がそれぞれの分野で、「二重世界」、「二重文化性」、「二重の知覚」といった二重性を生きる分身的主体のあり方について考察したものである。ここで分身的主体とは、ジギルとハイドのような<病的>現象としてではなく、あれでもありこれでもあるという複数的存在様態を肯定してゆく創造的エネルギーを備えたものとして捉えられている。あれかこれかという単一的世界像の見直しを促すこのような分身テーマは、複製技術時代における文学と思想と映像の相互関係を理解する上できわめて有効な手掛かりとなりうるものである。
著者
木下 央
出版者
東京都立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

<調査活動>年度前半は予備的調査を行うと同時に研究の枠組みの検討を行った。年度半ばには、前年度の調査旅行時の資料収集でカバーしきれなかった図面資料を追加すべく、Victoria & Albert Museum及びBritish Libraryにおいて資料収集を行い成果をあげた。またヴァンブラの代表作であるカッスル・ハワードを訪れランドスケープ調査および建築の調査を行った。さらに現地での調査及び資料収集で得た研究材料に加え、国内からも積極的に資料収集を行った。<分析・研究>以上の活動より得られた研究資料をもとに、ヴァンブラの建築作品に見られる平面の構成手法に関する分析を行い、成果を上げた。その一部は日本建築学会大会で発表した。また追加調査により得られた図面資料を使用した分析を行い併せて論文集に投稿を準備している。本年度は特に建築図面を用いた研究に加え、ヴァンブラの喜劇作品の分析およびヴァンブラと修道士ジェレミー・コリヤーとの論争を分析し、そこに見られる古典主義への依拠を確認した。また古典という概念と田園の風景という物が分かちがたく結びついており、古典の概念がヴァンブラをピクチャレスク建築の構想へと導いたということが推察された。更に今後の課題としてヴァンブラの建築・喜劇作品における都市と田園という位相とヴァンブラがかつて滞在したインドのスラトにおける都市計画の関係について今後一層の調査研究を行う予定である。
著者
羽渕 裕真
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、路側に設置した配信基地局から "ブロードキャスト型光無線多値変調法" により情報配信し、取得失敗した配信情報を "車々間通信を用いたスペクトル拡散変調型ランダムアクセス法" により補間する光/電波融合通信システムを構築している。特に、ユーザ間で損失パケットを補間する誤り制御法、データの価値にしたがって配信可能距離を設定する階層型情報配信法とオンオフ信号に対応できる光無線変調法を検討している。
著者
宇陀 則彦 松村 敦 寺井 仁
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は学習と情報資源(教材、図書、学術論文、Web情報)の相互作用に焦点をあてた。思考と情報資源は連動しており、理想的な環境は適切な情報資源が思考に追随してくれることである。本研究では、電子図書館システムと密に連動することで図書館の豊富な情報資源をオープンコースウェアと連携させ、学習者の思考に情報資源が追随する非定型学習環境を構築した。研究を通じて得た知見は、学習における情報資源の役割は予想以上に大きいこと、思考と情報資源の相互作用は補完的であること、情報資源を提供するサービスは学習プロセスと乖離しており、改善を要することの3点である。
著者
朴 正洙
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、近年日系企業の課題となっている反日感情の重要性と実態について、敵対心と消費者エスノセントリズム研究を踏まえたうえ仮説モデルを構築し、日本の主要輸出相手国(アメリカ・中国・韓国・台湾)の消費者を対象に大規模な国際比較調査を実施した。その主要な研究成果として、反日感情に関連した諸概念の再構築が行われるとともに、日本の主要輸出相手国の消費者観点から反日感情の実態確認、そして反日感情モデルの信頼性と妥当性をアメリカ・中国・韓国・台湾の消費者を対象に検証したことによって、反日感情のメカニズムが明らかにされた。
著者
小栗 成子 柳 朋宏
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、セミダイレクトな添削指導のためのWebシステムERRMarkerをMoodleモジュールとして開発し、あらたな添削指導モデルを構築した。セミダイレクト手法の添削指導は、学習上の弱点に対する学習者自身の気づきを促すために有用で、英語レベルや学習動機に格差がある学習者集団においても、学習者それぞれの学習段階に応じて発生する学習ニーズを的確に把握する事を可能にしている。このセミダイレクト添削手法のMoodleモジュールは、スパイラル型指導の実践に貢献することができる。
著者
柳井 道夫
出版者
成蹊大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1970年代のタイの新聞をみると、日本に対するよりもアメリカに対する関心が強いことがわかる。英字紙も含めて、日本についての記事よりもアメリカについての記事が件数・スペースともにはるかに多い。大規模な日本製品不買運動のあった1972年や、田中首相の訪タイに反対する激しい反日デモのあった1974年においてもそうである。また1975年以降、日本がタイに対する最大の援助国となってからもそうである。その中で、きわめて厳しい対日感情が示されている。じつはこの厳しい対日感情の示される時期が、日本に対する関心の呼び覚まされる時期でもあった。日本の商品がタイに溢れんばかりに氾濫しはじめたからである。その氾濫にいたるプロセスが、日本製品不買運動を生むことになるのである。この時期のタイの新聞には、日本の商社および日本のビジネスマンに対する批判が、社説にもコラムにも頻繁に現われる。ある程度の誤解やタイの法律の不備によるところもあるのだが、日本の商社および日本のビジネスマンが不公正な手段でタイの産業を圧迫し、タイ製品を駆逐し、タイの市場を支配しつつあると論じているのである。しかし1980年代になると、日本の商社やビジネスマンの対応の仕方も変わり、ビジネス以外のさまざまな領域での日本とタイとの交流も活発化し、日本の対外援助のあり方も少しずつ変化し、対日感情も好転しながら、新聞における日本関連の記事も増えてゆく。1980年代後半の集中豪雨的な日本企業のタイ進出やODAの増加は、潜在的な批判をくすぶらせながらも、タイ社会に雇用の機会をもたらし、日本人との接触の機会を増やし、文化面での交流とあいまって、次第に好意的な対日感情を生み出してきているようである。こうした中で、日本の新聞でもタイ関連の記事が増えてきている。
著者
石井 健一
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

2005年に上海、2006年に北京および口本でアンケート調査を実施し、同時に人民日報と朝日新聞の内容分析を通して、中国のナショナリズムに関して次のようなことが明らかになった。まず、共産党が宣伝をしている愛国主義的英雄は中国人(特に高齢者)の間に浸透していた。しかし、若者の間では浸透は低かった。しかし、愛国主義教育の効果については明確な証拠は得られなかった。年齢が低いほど、また学歴が高いほど愛国心が低い傾向があった。心理尺度を用いて分析した結果、愛国心と自民族中心主義は、異なる変数として区別する必要があることがわかった。また、前者は生活満足度と正の相関があるのに対して後者は負の相関があり、両者には異なる心理的なメカニズムが背後にあることを示唆している。若者は高齢者よりも反日意識が弱い。一方、日本でも同様に若者は反中意識が弱く、この点は日中で共通であった。上海での調査からは、上海の反日デモにおいて、デモ関連の情報は、新聞やテレビではなく、インターネットや携帯電話によって伝えられたことがわかった。また、ナショナリズム意識の心理的背景として、経済発展した中国への自信や中国文化への自信があるようである。また、反日意識が日本の製品を避けるという意味での影響を持つことがわかった。ただし、通説に反してインターネット接触が、反日意識を高めるという影響も認められなかった。新聞報道の内容分析からは、2005年の新聞報道は、日中関係を歴史認識との文脈で多く取り上げているこがわかった。また、日本でのアンケート調査の結果からは、日本人の反中意識も、メディア接触の量によっては説明することはできないことがわかった。今後はこれらの分析を精緻化するとともに、調査データの分析だけでなく、時系列変化を考慮に入れた日中間の相互的な影響過程をモデル化することが必要である。
著者
渡部 淳
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

中国本土・香港を中心としたフィールドワークや、国際学会への参加・発表・交流などで以下のことが明らかになった。改革解放後の中国においては、それまで全ての組織が党・政府・国家の一部であったものが、急激な社会経済変化に伴って、様々な新しい問題や社会状況を生み出している。土地、不動産などの私有財産の所有と、業界団体の権限の増加により、党・政府の外側に多様な社会団体を生み出した。これらの新しい社会団体は、直接あるいはメディアなどを通して間接的に、政府の方針と必ずしも一致しない意見を主張し、その数と影響力は増してきている。国内のNGOは環境、貧困救済、人権といった、経済成長の歪みに関する現場の知識・情報を生かしながら、これらの社会的問題の解決を助けたり、あるいは政府に抗議・提言などを行ったりしている。NGOのように新しい組織力や知識を持った団体が政府に行政訴訟で勝訴することが多くなっている。海外からの国際NGOもこの動きに参画して、活動も多様化している。中国と韓国では、社会的議論の惹起にマスメディアが果たす役割が大きいが、特に中国ではマスメディアが社会批判や社会改善の議論のプラットフォームとなって、学者、専門家、政府のシンクタンクの研究員などの知識・思想を社会に伝達している。このマスメディアの機能は、北東アジアの社会変化のキーとなっているが、国際関係において特定の見方やトピックに偏った報道によって、北東アジア諸国のお互いのイメージを損ない歪曲する否定的な面も、中国でのサッカーでの暴動や、反日デモの報道などで確認された。日中韓の各社会には、国際協力を希求する知的センターが存在し、潜在的に地域的なネットワークやコミュニティーを形成する能力を持ち、またそのような意図を内包している。これらの知識力の地域レベルでのネットワーキングは始まったばかりであるが、将来的に影響を増すことが予想される。
著者
園田 茂人 菱田 雅晴
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

最終年度にあたる2007年度は、従来の研究成果を取りまとめ、対外的な発信を行うことに最大のエネルギーを払った。たとえば、中国社会学会第17回全国大会で"Two Types of Urban New Middle Classes in Confucian Asia?"と題する発表をし、アジア内部における中間層の2類型論を展開するとともに、今回のプロジェクトで得られた2時点データを利用して、東北大学の不平等研究拠点が主催したシンポジウムで"Social Inequality and Injustice in Developing China:Some Empirical Observations"と題する発表を行った。また、11月2日には、中国の4都市で調査を担当した海外共同研究者4名を招聘し(上海大学の仇立平氏が都合で来日できなかったため、代わりに胡申生氏を招聘した)、早稲田大学現代中国研究所と共催で国際シンポジウム「中国の階層変動と都市ガバナンス」を開催、日本の中国研究者も含めて討論を行った。これらの作業を通じて、最終的に確認できた現代中国の階層変動に関する知見は以下の通り。(1)前回調査からも、学歴別にみた月収は格差が拡大している。また、収入格差に対して不公平だとする評価が高まっており、これが全体の社会的不公平感を強めている。(2)しかし、学歴が社会的不平等を生み出しているという認識は強くなく、教育機会をめぐる不平等以上に、教育達成のもつ公平性・健全性が強く意識されている。(3)富裕層は、1990年代の外資系企業・私営企業といった周辺セクターから2000年代の国家機関・国有事業体へとシフトしており、発展の「体制内化」が急激に進んでいる。そのため、学歴(文化資本)、権力(政治資本)、収入(経済資本)の独占状態が生まれつつあり、従来の社会主義体制を否定する力学が生まれている。
著者
王 志安
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、20世紀最後の20年から今日に至るまでの中国と国際法の関係を、国際法の受容、適用および実効性にかかわる理論および実行についての体系的検証を通して、解明することを目的とするものである。3年間の間研究を通して、『中国と国際法--その開放政策30年の軌跡』という一つの研究成果をほぼ完成するに至った。具体的には、中国と国際法の基礎理論、国際法に対する中国の基本政策、中国における国際法の実行という3部構成からなる。