著者
筒井 淳也
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.572-588, 2013 (Released:2015-03-31)
参考文献数
45

本稿では, ポスト工業化社会における排他的親密性の現状と行く末について, おもに経験的研究の成果に依拠しつつ論じている. 戦後の工業化と経済発展に伴う男性稼ぎ手夫婦の段階を経て, 現在女性の再労働力化が進んでいる. おもな先進社会のなかでも各国ごとにバラつきがあるとはいえ, 女性の所得水準が全体的に上昇していくなかで見られるのは, カップル関係の衰退ではなく維持である. しかしその内実には, 同棲の広がりに代表される深刻な変化が生じている. この変化について, 関係性は外部の社会的要因から自由になっていくのか, 持続的関係は衰退するのか, 排他性は弱まっていくのかという3点について, おもに同棲についての欧米社会における実証研究を手がかりとしつつ検討を行った. さらに, 男女の経済状態が均等化するなかで, 人々が自発的に関係構築をするための生活条件が整備されていくと, 関係性やそれから得られる満足は自発的選択の結果として理解されていくのか, という問いを立て, 必ずしも自己責任論が徹底されるとは限らないこと, しかし親密な関係性を首尾よく構築できないことに対して公的な補償が充てられることは考えにくいことを論じた. 他方で日本社会はこういった生活条件が整備されつつある段階であり, 関係性の実践が男女で非対称的な経済的条件にいまだに強く拘束されている段階である, といえる.
著者
ビンステッド キム 滝澤 修
出版者
社団法人人工知能学会
雑誌
人工知能学会誌 (ISSN:09128085)
巻号頁・発行日
vol.13, no.6, pp.920-927, 1998-11-01
被引用文献数
8

We have implemented a simple model of puns in a program (BOKE) which generates puns in Japanese, using linguistic information from a general-purpose lexicon. Our rough evaluation indicates that the puns generated by the program are of comparable quality to those generated by humans. BOKE differs from an earlier English-language system (JAPE) only in the lexicon and the templates used to generate the surface text-the punning mechanisms are the same. This suggests that our model of puns is language independent.

30 0 0 0 OA 算法少女

著者
千葉, 桃三
出版者
山崎金兵衛
巻号頁・発行日
1775

タイトルの奇抜さに、まず目がとまる和算書である。序文によると壺中隠者(千葉桃三)が娘(章子)に手ほどきした数学の内容を、章子自身がまとめたものが本書である。
著者
呉座 勇一
出版者
神奈川大学日本常民文化研究所
雑誌
神奈川大学日本常民文化研究所調査報告 = Maritime History of Kumano : A Comprehensive Study of Koyama Family Papers
巻号頁・発行日
vol.29, pp.115-129, 2021-03-26

色川文書は、那智山西方の山間部の色川郷(現在の和歌山県那智勝浦町色川地区)を拠点とした熊野水軍色川氏に関わる計八通の文書群である。近代から現代にかけて、色川文書の中で最も注目されてきたのは、忠義王発給文書である。忠義王は長禄の変によって吉野で命を落とした南朝の末裔とみなされ、彼の発給文書は貴重・稀少な後南朝文書として関心を集めてきた。一方で同文書は、様式の不自然さから、後世の偽作ではないかと疑われてもきた。本稿では、真偽に関する議論には深入りせず、同文書が近世の地域社会においてどのように受容されたか、また近世の後南朝史研究でいかに扱われたかを解明した。 同文書を後世の偽作と仮定すると、その作成者は忠義王を長禄の変の被害者と認識していなかったと考えられる。後南朝の嫡流とされる自天王の文書ではなく、彼の弟とされる忠義王の文書が作られた不自然さは、文書作成時には忠義王が弟宮と位置づけられていなかったと想定することで解消される。 また奥吉野には南朝関連史跡は存在したが、江戸前期には後南朝関連史跡は未成立で、忠義王の名を知る人もいなかった。吉野に忠義王文書が残っていないのは、このためである。 ところが『大日本史』編纂のための水戸藩の史料採訪が、熊野に残る忠義王文書と、かつて吉野で起こった長禄の変を結びつけた。吉野郡川上郷では自天王・忠義王の位牌が作られ、長禄の変で命を落とした二皇子として両人の名前が川上郷で浸透していく。南朝関連史跡は後南朝関連史跡へと改変された。川上郷が両人に関わる由緒書や旧記を多数作成して先祖の後南朝への忠節を喧伝した結果、後南朝伝説は外部に拡散されていった。これらの伝説は国学者が編んだ後南朝史に採り入れられることで信頼性と権威を獲得し、近代以降の後南朝研究の前提となった。
著者
岩井 聡美
出版者
一般社団法人 日本臓器保存生物医学会
雑誌
Organ Biology (ISSN:13405152)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.109-112, 2012-07-10 (Released:2014-11-26)
参考文献数
11
著者
渡辺 守之 三浦 雅彦 茂田 洋史
出版者
Japan Poultry Science Association
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.23-29, 1970-01-25 (Released:2008-11-12)
参考文献数
29

これまで著者らの行なって来た Dry ice alcohol および液体窒素 (LN2) による鶏精液の凍結保存においてはすでに報告した如く, 融解後かなり活発な運動力を示しているにもかかわらずその受精率は30%を越えず, 融解後の精子を顕微鏡下で詳細に観察すれば頸曲り現象を呈するものが非常に多いことがわかった。凍結過程において生ずると思われるこれら頸曲りを含む異常精子を少なくすることが受精率向上の一因と考えられるので, 若し鶏精子にDE SILVA (1961), 突永 (1968) らの報告している如く採取直後約15分間は温度の急激な変化にあってもショックを受けにくい前段の時期所謂 pre-shocking があるとすれば, この時期に凍結処理操作を完了することが必要であり, さらに渡辺 (1966) の成績ではグリセリン平衡時間は15分間の場合に64.2%と最高の蘇生率を示していることから, ここに以下のような新急速凍結法による保存試験を試みた。方法: 精液の採取に使用した雄鶏は7内至9ケ月令のWhite Leghorn 種の若雄5羽で, 採取法は山根ら (1962) の腹部マッサージ法により朝7時から8時の間に行なった。採取精液は直ちに含グリセリン7%稀釈液Aで4倍に稀釈して5°Cに15分間保持し, この間にストロー管に移して同管の閉封も行なう。その後LN2気化蒸気中に2分間予凍した後LN2中に浸漬して凍結を完了する。すなわち採精より凍結完了まで約17分間で処理完了するようにした。かような新急速凍結法と従来の旧凍結法により7日から62日間にわたる6回の凍結試験後それぞれ各サンプルを融解してその活力, 頸曲りを含む異常精子の出現状況につき500ケの精子について算定した。さらにこの新急速凍結法によって35日から95日間にわたって保存した精液を用いて授精実験を実施した。人工授精に使用した雌鶏は9内至10ケ月令の産卵成績良好な White Leghorn 種11羽である。結果: 上述の実験結果は次の如く要約される。1) 精液採取から凍結完了までわずか17分で完了する新急速凍結法によって7, 41, 46, 55及び62日間凍結した精子の融解後の平均活力は88.3%で, これは同じ操作を完了するのに約87分もかかった従来の方法により同期間凍結した精子の融解後の平均活力80.7%にくらべるとより活発である。2) 上述の融解精子の実験で本急速凍結法による neck-bending spermatozoa の平均出現率は14.9%で従来の凍結法による平均出現率29.0%にくらべると明らかな差異が認められた。3) 本法による1週目受精率は60.0%で従来の凍結法による30%以下の受精成績にくらべると飛躍的な向上を示し人工授精への実用化が期待される。4) 本法による受精卵の持続日数は平均6日, 最長10日であった。
著者
富山 貴子 桂木 奈巳 酒井 哲也 酒井 豊子
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.749-755, 2003-09-15

Various kinds of periodical phenomena are observed in the natural world and in the social systems. Even in apparel fashion trends, people feel some periodical changes exist. This paper presented a trial to qualitatively characterize such a periodicity which appeared in apparel fashion trends. For this purpose, numerical data for the length of ladies jackets and skirts proposed in a popular fashion magazine published in Japan from 1960 to 1998 were used. Data were treated with some mathematical techniques including Fourier transformation analysis, self-correlation analysis and common statistical methods. Results obtained are as follows; 1) Comparing the distribution of length for clothes proposed in a given year with the length of the clothing selected by a person as being representative of the year, it was clarified that the length of the representative clothing selected by the person coincided with the mode value for the distribution. 2) Three major changes in the length of jackets and skirts were found over the years, the first change after a periodic time of 10 years, the second after 20 years and the third after 40 years. The change which occurred after 10 years periodicity was the most profound one. 3)The 10-year periodicity may be correlated with the period of use of apparel, while 20-year periodicity may be connected to the length of time which takes for women to develop a mature fashion sense. The 40-year periodicity remains unclear, but it covers two generations and, therefore, is long enough for the revival of an old fashion as a new fashion.
著者
Hiroshi Takahashi Tomohisa Yukawa Masayuki Maki
出版者
The Japanese Society for Plant Systematics
雑誌
Acta Phytotaxonomica et Geobotanica (ISSN:13467565)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.265-274, 2021-10-31 (Released:2021-11-27)

Petrosavia amamiensis (Petrosaviaceae) is described as a new species from Amami-Oshima Island, Kagoshima Prefecture, Japan. The plants were previously identified as P. sakuraii. The flowers of P. amamiensis are autonomously self-pollinated at the beginning of anthesis, while those of P. sakuraii are self-pollinating at a later stage of anthesis. Petrosavia amamiensis has a shorter aerial stem, shorter internodes, more densely flowered inflorescence and smaller seeds than P. sakuraii. Moreover plastid and nuclear DNA differ greatly between P. amamiensis and P. sakuraii.
著者
Toshihiko Ishizaka Sachie Okada Emi Tokuyama Junji Mukai Takahiro Uchida
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Chemical and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.1395-1399, 2008-10-01 (Released:2008-10-01)
参考文献数
18
被引用文献数
9 10

The aim of the study was to suppress the bitterness and improve the palatability of pediatric prednisolone powder (PP) by the addition of simple sucrose syrup (SS) and various beverages and foods. Bitterness suppression was evaluated using the human gustatory sensory test. The suppression of the bitterness and improvement of palatability of PP by addition of SS solutions was investigated using standard taste substances: sucrose for sweetness, tartaric acid for sourness, and sodium chloride as saltiness. Dilution with SS solutions of up to 50% (w/w) was successful in bitterness-suppression and improvement of palatability, but at 80% (w/w) SS, the palatability of the diluted solution was reduced. The kinematic viscosities of SS solutions were therefore evaluated using the Uberorde viscosity meter, to see whether the high viscosity of the more concentrated solutions was responsible for the reduced palatability. The kinematic viscosity of the 80% SS was 16.60 mm2/s. Judging from above information, the palatability might become worse when the kinematic viscosity of syrup exceeded 15 mm2/s. Finally, the ability of various beverages and foods with low viscosity to suppress the bitterness and improve the palatability of PP were examined. The additions of orange juice or a carbonated lemon drink to simple syrup solution were most effective in suppressing bitterness and improving palatability of PP.
著者
木村-黒田 純子 黒田 洋一郎
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.S5-2, 2018

<p>近年、自閉症、注意欠如多動症(ADHD)など発達障害が急増しており、社会問題となっている。従来、発達障害は遺伝要因が大きいと言われてきたが、膨大な遺伝子研究が行われた結果、遺伝要因よりも環境要因が大きいことが明らかとなってきた。環境要因は多様だが、なかでも農薬など環境化学物質の曝露が疑われている。2010年頃から、有機リン系農薬(OP)曝露がADHDなど発達障害のリスクを上げることを示す論文が多数発表された。2012年、米国小児科学会は"農薬曝露は子どもに発達障害,脳腫瘍などの健康被害を起こす"と公的に警告した(Pediatrics, 130)。OECDによれば、日本の農地単位面積当たりの農薬使用量は、世界でも極めて多い。殺虫剤では、世界で規制が強まっているOPの使用がいまだに多く、ネオニコチノイド系農薬(NEO)の使用量が急増している。国内の子ども(223名、2012-3年)の尿中にはOPの代謝物やNEOが極めて高率に検出され(Environ Res, 147, 2016)、日常的な慢性複合曝露影響が危惧されている。OPはアセチルコリン分解酵素を阻害し、NEOはニコチン性アセチルコリン受容体を介したシグナル毒性(J Toxicol Sci, 41, 2016)を示し、共にコリン作動系を障害する。コリン作動系は、中枢及び末梢の脳神経系で重要であり、特に発達期の脳でシナプス・神経回路形成を担っている。NEOはヒトには安全と謳われたが、哺乳類の脳発達に悪影響を及ぼす報告が蓄積してきている。我々のラット発達期小脳培養系では、短期曝露でニコチン様の興奮作用を起こし(Plos One, 7, 2012)、長期曝露で遺伝子発現を攪乱した(IJERPH, 13, 2016)。我々のデータと共に国内外の報告から、NEOの影響を中心に、コリン作動系を介した脳発達について考察する。</p>