著者
石田 惣 若ごぼう市民調査グループ
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
no.77, pp.11-27, 2023-03-31

大阪府八尾市の伝統野菜である葉ごぼうを対象として,市民に呼びかけて販売店舗(または非販売店舗)と産地の情報を提供してもらい,産地ごとの販売地点の分布を調査した.販売店舗報告943件のうち,大阪府産は741件(78.6%)を占め,大阪府産のうち八尾市産は少なくとも642件(86.6%)を占めていた.大阪府産の大半は大阪府だけでなく隣接府県でも販売され,その大半の市区町で大阪府産は80%以上のシェアを占めていた.全報告件数に占める販売店舗の報告件数の割合は,大阪府,阪神間,奈良県北西部で比較的高く,主産地の八尾市では89%だった.大阪府の葉ごぼうの主な生産地は依然として八尾市域であり,地元で消費される傾向は強いものの,消費地は拡大していると考えられた.大阪府の隣接府県における葉ごぼうの消費は旧来の伝世によるものとは異なる食文化であり,この形成には大手系列スーパーの商品展開が関わっているのかもしれない.本稿ではSNSを用いた調査手法の有効性,大阪府内の小規模産地の地域消費,及び他県産葉ごぼうの流通についても若干の考察を加える.
著者
鈴木 雄太
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.622-623, 2023-10-15

優れた材料を開発するためには,高精度なシミュレーション技術が重要ですが,膨大な計算コストが課題となります.もし物理法則の計算を機械学習で代替したら,シミュレーションを高速化できないでしょうか?本稿では,グラフニューラルネットワークを用いた予測によって材料の原子レベルのシミュレーションを超高速化する技術であるM3GNetを取りあげ,背景およびその後とともにナナメ読みします.
著者
椎橋 章夫 大橋 克弘 山名 基晴 森 欣司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.791-801, 2007-02-15

鉄道の自動出改札システム(AFC: Automatic Fare Collection system)は,高密度輸送におけるピーク時の乗降客に対応するための高速性と金券である乗車券を処理するため高信頼性が不可欠である.しかし,無線通信方式のIC カード乗車券は旅客の使用方法に依存するため,データの読み取りの不確実,不完全が発生する(これを「データ抜け」と呼ぶ).東日本旅客鉄道株式会社のSuicaシステムでは「データ抜け」が発生してもシステムを止めることなく,データの信頼性を確保できるように「自律分散整合化技術」を導入していたが,その有効性を評価する手法を持たなかった.そこで,東京工業大学森研究室との連携のもと,自律分散整合化技術の有効性を評価する手法として,機能信頼性評価法を研究し,その評価技術を確立した.この結果,得られた最適パラメータをSuica システムに導入し,その有効性を実証した.
著者
板橋 春夫
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.205, pp.81-155, 2017-03-31

産屋が利用されなくなって久しい。産屋が遅くまで残った地域でも昭和三〇年代がおおむね終焉時期となっている。産屋習俗の終焉の要因は一様ではない。本研究のテーマは、なぜ産屋習俗は終焉を迎えたのかという根源的な問いである。私たちは、産屋とは主屋と別に小さな建物を建て、そこに産婦が血の穢れのために家族と隔離されて食事も別にする施設であると学び、産屋を穢れからの隔離・別火というステレオタイプ化された視点で認識してきた。しかし出産の穢れからの隔離・別火が所与のものでないとすれば、産屋の本質はいったいどこにあるのであろうか。本論文が産屋習俗の終焉過程に注目する理由の第一点は、現在(=平成二〇年代)が産屋体験者から直接話を聞ける最後の機会であること。産屋体験者からの聞き書きは緊急性を有し詳細な記録化が望まれる。第二点は産屋の終焉から過去に遡れば当該地域における産屋の変遷過程を明らかにできると考えた。現時点で伝承者からきちんと聞き書きを行うことは重要であり、産屋習俗の終焉過程の研究にも資するのである。先行研究では、産屋の発生は神の加護を得る籠もりにあるとされる。牧田茂・高取正男・谷川健一の所説は、産屋の原初的形態に視点を置いた論理である。実際に原初的形態を彷彿とさせる民俗事例が各地に伝承されているが、それをもって現行習俗を古代へ飛躍させるのは論理的に危険が伴うであろう。事例で取り上げた山形県小国町大宮のコヤバは、明治二二年以前は出産の都度小屋を建てていたが、警察署長の意見で常設のコヤバになったとされる。仮設から常設へ変化する傾向は、福井県敦賀市池河内の事例からも明らかである。福井県敦賀市白木のサンゴヤは、昭和五〇年代まで使用されており全国で最も遅くまで利用されていた。常設化の産屋は伝統を守りながらも、滞在期間の短縮化、休養の場の拡大化など、地域に応じた多様なあり方をみせている。
著者
三浦 勉
出版者
亜細亜大学アジア研究所
雑誌
アジア研究所紀要
巻号頁・発行日
vol.24, pp.166-147, 1997
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
「国際日本研究」の新展開 : ヨーロッパとの対話から
巻号頁・発行日
2023-03-31

2022 年1月に開催されたシンポジウム「「国際日本研究」の新展開 : ヨーロッパとの対話から」の記録
著者
森田 弘行
出版者
北海道文教大学
雑誌
北海道文教大学論集 = Journal of Hokkaido Bunkyo University (ISSN:13454242)
巻号頁・発行日
no.21, pp.17-28, 2020-03-20

新美南吉の「ごんぎつね」は,現在小学校4 年生の国語の教科書にすべて掲載され,数多くの授業実践が行われている.しかしながら,子供たちが教科書で学んでいる「ごんぎつね」は,草稿の「権狐」と,同じものではない.なぜなら,教科書に掲載されている「ごんぎつね」は,鈴木三重吉の添削によって,大幅に改変された「ごん狐」とほぼ同じものだからである.そこで,本論文では「ごんぎつね」「ごん狐」「権狐」の三つの作品を比較,検討しながら,子供の素朴な疑問に焦点を当て,教師に必要な素材研究について論じた.また,新美南吉の生い立ちや生まれ育った愛知県半田市岩滑の地域社会における伝承や歴史などにも言及しながら論を展開した.
著者
酒井 董美
出版者
鳥取短期大学
雑誌
鳥取短期大学研究紀要 = MEMOIRS OF TOTTORI COLLEGE (ISSN:13463365)
巻号頁・発行日
no.46, pp.21-38, 2002-12-01

わが国には「八百比丘尼」に関する伝説が多く,27都府県にわたって存在していることが,これまでの文献から明らかになっている.要旨は,漁師たちが竜宮に招かれて,人魚の肉を料理に出されるがだれも食べない.たまたま一人がそれを持ち帰り,そこの娘が食べたところ八百歳の長寿を得,しかも容姿は若い娘のままである.娘は比丘尼となって諸国を行脚し,植樹をしたり橋などを建立したりするが,最後は若狭の国で入定するというのが一般的な形である.本稿ではこの説話と「浦島太郎」の説話を対比させながら,人々の長寿を願う気持ちを背景に,祖霊信仰を踏まえて成立したものであることを,民俗学の立場から考察したものである.