著者
鈴木 俊哉
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告デジタルドキュメント(DD) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.7, pp.1-8, 2009-07-23

昨年、7 年間の作業を経た CJK 統合漢字拡張 C が ISO/IEC 10646:2003 の Amd.5 として正式に発表された。拡張 C ははじめて原規格分離を適用せずに整理された漢字集合である。拡張 C への中華人民共和国からの申請は辞典類から収集された漢字が大半である。本発表では、その中で最大の収集元である「殷周金文集成引得」に由来する 1800 字程度の図形集合について、典拠を再調査した結果を報告する。拡張 C の統合作業中に提出された典拠確認資料を見ると、この収集は「殷周金文集成引得」の総画索引から、拡張Bまでで符号化済みと思われるものを削って選定したと思われる。しかし、選定された漢字を本文中で確認すると、総画索引には出現するが、釈文では使われていないものも少なくないため、それらを全て申請することの妥当性には疑問がある。また、金石学の分野では「古文字字形表」や「金文編」など過去にいくつもの字書が出版されているが、「殷周金文集成引得」の特徴の一つに、見出し字の大半を宋体 (風の図形) にしている点がある。金文字形に対する宋体 (風の図形) が一意的に定まる、言い換えれば「殷周金文集成引得」で導入された図形文字が (この字書の外部でも) 金文字形に対する識別子として機能するのであれば、他の金石学の字書類と整合する筈である。そこで、代表的な金石学字書である「金文編」と「殷周金文集成引得」の比較を行ない、この結果を報告する。また、これらの結果を踏まえ、「殷周金文集成引得」典拠情報の今後の管理方法について考察したい。After the long efforts during 7 years, finally ISO/IEC 10646:2008 has included CJK Unified Ideographs Extension C. This is the first Hanzi collection which is standardized after the expire of the source code separation rule which was introduced for existing regional character encodings. There are 2 large groups of the sources: Hanzi for personal names (especially from TCA) and Hanzi for post-kaisu palaeographic documents (especially from ROK).In Ext. C, PRC submitted 366 glyphs taken from "Index to Collections of the Inscriptions in Yin-Zhou period" (殷周金文集成引得, I2CIYZ). The book is used to lookup Bronze objects (collected in "Collections of the Inscriptions in Yin-Zhou period" (殷周金文集成引得, CIYZ) including a specified Old Hanzi. Most of 366 glyphs taken from I2CIYZ are suspected to be the glyphs invented only for the specification of Old Hanzi.In this report, the submission by PRC and that by UTC are investigated for their original glyphs based on Bronze or Seal scripts (篆文, Zhuan Wen), and their original shapes (in references and evidences) and modernized shapes (in proposal and submission documents) are compared. The unification rules of CJK Unified Ideographs (ISO/IEC 10646 Annex S) are under revision process, but the discussion is based on the information interchange by the stabilized shapes of Hanzi current in use. The glyphs to specify Bronze script shape can be synthesized by different granurality. In fact, the identification rule by IRG Old Hanzi group for Oracle Bone script (甲骨文, Jia Gu Wen) is incompatible with ISO/IEC 10646 Annex S.
著者
福井 康貴
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.198-215, 2008-06-30

本稿は,戦前日本の大卒者の就職において〈自己の力で職に就く〉という自己志向的なルールが登場するまでのプロセスを明らかにする.明治・大正期の就職は紹介者や学校成績の影響力が非常に強かったのだが,従来の研究はこうした事態を現代的な価値観点を投影して理解しがちであり,両者の担う意味を十分に捉えていなかった.本稿では,当時の人々の認識に定位することでこの事態をより正確に把握し,それが自己志向的なルールの登場とともに背景化したことを指摘する.<br>最初に,近世商家の職業観と対照する形で,戦前における職業選択の自由を検討し,それを職業選択の可能性として社会学的に概念化する.つぎに,この可能性に対処するために,就職が紹介者と学校成績への信頼という2つの形式をとったことを指摘したうえで,人々が両者を正当なものとして考えていたことを明らかにする.最後に,大正期後半から昭和初期に両者が非正当化すると同時に,志望者の「人物」に注目する面接試験が登場する経緯を描きだす.その過程は,「自己/他者」および「個人/制度」という行為主体に関する区別に「正当/不当」という道徳的な区別を重ねることで,自己本位の職業選択のあり方を導くものだった.
著者
鈴木 克彦
出版者
名古屋大学
雑誌
名古屋大学教育学部附属中高等学校紀要 (ISSN:03874761)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.78-94, 1991-08-15

世界27ヵ国の91人へのアンケート調査をもとに日本の学校数育における生徒指導との違いを比較研究した。その結果、西洋個人主義にもとづく生徒指導との大きな相違点やアジア各国の生徒指導とのいくつかの共通点を見いだした。また、日本の生徒指導を見る各国人の「目」には興味深い意見を得ることができた。今後、国際化をめぎした学校教育を行なう揚合、参考となることが多々あると思われる。
著者
波多野 哲朗
出版者
日本大学
雑誌
日本大学芸術学部紀要 (ISSN:03855910)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.5-14, 2005

日系キューバ移民については、その存在にたいする注目度が極めて低く、研究者の数も極めて少ない。これは日系キューバ移民のほとんどが、日本から直接キューバに向かった移民ではなくて、それまでは他国で働いていて、1920年代の砂糖産業全盛期に再移住した人たちだからである。したがってその全体的な把握がむずかしい上に、移民としての流動性も極めて高い。とくに1929年の恐慌で砂糖ブームが終ると、人びとはさまざまな仕事に離散して、相互の関係が稀薄になってしまう。すなわちキューバ移民は、日系としてのアイデンティティが弱く、独自のコミュニティを形成することがなかった。しかしこのことが、移民研究一般ではとかくマイナス的な評価をうける。しかし本論では、日系キューバ移民の現地文化への溶解度をかえって高く評価し、歴史の闇に埋没する離散者たち、ディアスポラの存在に照明をあてる。
著者
太田 修
出版者
佛教大学
雑誌
歴史学部論集 (ISSN:21854203)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.83-110, 2015-03-01

本資料は、日韓会談文書全面公開(「日韓会談文書開示決定処分取消等請求控訴事件」)について東京高等裁判所で行われた裁判のために書いた陳述書である。最初に、日韓国交正常化交渉の歴史をふり返り、植民地支配・戦争被害が清算されなかったことを論じた。次に、この植民地支配・戦争被害を不問にする枠組みは、その後もそのまま維持されたわけではなく、1990年前後の東西冷戦の崩壊後には、日本政府の立場は、植民地支配不当論へと変化したことを明らかにし、その上で、今日の日韓間、および日朝間の植民地支配・戦争被害の問題における現状と課題について述べた。最後に、日韓会談文書非開示の問題点とその公開の公益性および必要性について論じ、日韓間、および日朝間にある植民地支配・戦争被害の問題を真に解決するためにも、日韓会談文書の全面公開が必要であることを訴えた。
著者
椋木 大地 今村 俊幸
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.26, pp.1-6, 2014-12-02

NVIDIA が 2014 年にリリースした Maxwell アーキテクチャの GM107・GM204 コア搭載 GPU は,浮動小数点演算の理論ピーク演算性能比が倍精度:単精度 =1:32 である.このような環境ではソフトウェアで実装した疑似倍精度演算を用いた方が,倍精度の計算を高速に行える可能性がある.本稿では GM204 コアを搭載する GeForce GTX 980 を対象に,単精度型を 2 個連結して倍精度型を表現し,単精度演算で疑似的な倍精度演算を実現する double-float 演算 (DF 演算) を用いて,倍精度行列積を計算する BLAS ルーチンである DGEMM を実装した.その結果,ハードウェアの倍精度演算による通常の DGEMM と比べて,DF 演算を用いた DGEMM は約 2 倍の性能が得られた.
著者
山下 澄枝 川喜田 佑介 鈴木 悦子 今田 美幸 神山 和人 市川 晴久
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. AI, 人工知能と知識処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.301, pp.7-11, 2010-11-12
参考文献数
9

Twitterは経営者や政治家も多く利用しており,趣味や挨拶,新製品の発表や政策への意見など公私様々なツイートを投稿している.しかし,大量のツイートにより利用者にとって有益なツイートが埋もれてしまうことがある.そのため,Twitterの情報収集ツールとしての利用には,有益なツイートのみを取得する機能が必要となる.本研究では,ツイートの参照数と単語の出現頻度から,対象とするツイートの有益度を推定する手法を提案する.
著者
丸山 恭司
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.111-119, 2000-03

<他者>あるいは他者性は現代思想のみならず、教育研究においても重要な概念である。この概念に着目することによって、抑圧された人々を不当に扱うことを避けることができる。研究者は<他者>承認の可能性を問うてきた。しかしながら、教える者と学習者の教育的関係は他の人間関係とは異なっているため、<他者>の一般概念を教育の文脈に応用するとき、誤謬が生じることになる。しかし、一方で、教育的関係において<他者>が何を意味するかは決して明確ではない。よって、本論の目的は、教育的関係に現れる<他者>の特性を明らかにし、学習者の他者性を問うことの意味を探ることである。第1節では、まず「他者」概念と他者問題の歴史を概観したうえで、現代思想において問われる<他者>と教育関係における<他者>の相違が考察される。<他者>をめぐる現代の思想家の関心は哲学的であると同時に論理的-政治的なものである。それは、抑圧された人々の解放である。一方、教育的関係において<他者>は必ずしも抑圧されているわけではない。抑圧と解放の図式に囚われてしまうと、教育的関係において現れる<他者>の特性を見落としてしまいやすい。教育的関係において学習者の他者性がいかに現れ、消滅するのかを明らかにするために、第二節では、ヘーゲルとウィトゲンシュタインの他者論を比較する。ヘーゲルの他者概念ではなく、ウィトゲンシュタインの他者概念によって教育的関係における<他者>の特性が説明されることが示される。ヘーゲルおよびその継承者は主人と奴隷の関係が逆転する主奴の弁証法に関心があり、自己意識は初めから承認を求めて闘争する者として描かれている。一方、ウィトゲンシュタインは、<他者>を戦士としても、被抑圧者としても描かない。彼は教育的関係における<他者>の文法的特性に明らかにする。学習者の他者性はその技術と知識の欠如ゆえに言語ゲームの進行を妨げる者として現れ、実践ないし生活形式における一致のうちに解消されるけれども、また顕在するかもしれないものなのである。教育的関係において<他者>を承認する可能性を探るために、学習者の他者性を問うことの意味が、最後に明らかにされる。ウィトゲンシュタインの議論は教育の概念を制限づける。教育は学習者の心性を制御することでも彼らを放置することでもありえない。それは実践における一致として終了する。教育はユートピアを実現するための手段ではなく、われわれは学習者の潜在的な他者性を引き受けるねばならないのである。
著者
崎濱 秀行
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.62-73, 2005-03-31
被引用文献数
3 4

本研究では, 大学生・大学院生を対象として, 文章を書く際に産出字数を短く制限することにより, 書き手の文章は必要な情報がコンパクトにまとまったエッセンスの詰まったものになるのかどうかを検討した。45人の大学生・大学院生が, モーリタニア国の資料を基に, この国を知らない仲間に向けて国を紹介する文章を産出した(字数は200字, 400字, 字数無制限のいずれか。被験者間計画)。その結果, 200字群における重要な情報(核情報)の使用個数が400字群および字数無制限群に比べて少なくなったが, 使用情報総数に占める核情報の使用割合は200字群の方が字数無制限群よりも高くなった。また, 一情報あたりの使用字数は, 字数制限を行った方が字数無制限群よりも少なくなった。さらに, 文章に書く内容の構成について考える度合いは群によって異ならなかったが, 200字群において, 下書きをして情報量の調整をしていた人数が有意に多かった。これらの結果から, 字数を短く制限することにより, 産出された文章は, 必要な情報がコンパクトにまとまった, エッセンスの詰まったものになることが示された。
著者
長谷部 陽一郎
出版者
同志社大学
雑誌
言語文化 (ISSN:13441418)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.373-403, 2006-12
被引用文献数
1 2

近年、コーパスを用いた言語研究の手法に多くの注目が集まっている。英語に関しては以前から、British National Corpusをはじめ、大規模なコーパスが複数存在している。また日本語を含む他のいくつかの言語に関しても、これらに匹敵する規模のコーパスの構築が進められている。しかし現時点で、研究者が自由に利用できる日本語コーパスの選択の幅は非常に限られている。要因としては、テキストデータの著作権に関する問題と、それに付随する様々な制約といったものが挙げられる。 このような状況を鑑み、本稿ではオープンソース-すなわち著作権フリーで再配布・改良自由の形式-で提供されるインターネット百科事典サイトWikipedia日本語版のデータをコーパスとして用いることを提案する。また、Wikipediaのアーカイブファイルから言語学的に有用なデータを抽出するために筆者が開発したツールキットを紹介し、解説を行う。本稿で解説するツールキットはプログラミング言語Rubyを用いて作成されており、2つのプログラムから成る。第1のプログラムwp2txt.rbは、オリジナルのXMLデータから各種のタグ類を除去するとともに、指定されたサイズのテキストファイルにデータを分割する。第2のプログラムmconc.rbは、入力ファイル中のデータを文ごとに分割するとともに、オープンソースの形態素解析システムMeCabを用いて、あらかじめ正規表現(Regular Expressions)で指定された形態素パターンとマッチするものだけをCSV形式で出力する。これにより、例えば「このツールは言語分析にかかる時間と労力を省く」といった文字列を抽出するのに、〈時間と労力を省く〉のような表層形式だけでなく、〈名詞+助詞+名詞+助詞+動詞〉のような品詞の並びによる指定や、〈時間と労力+助詞+動詞〉といったミックス形式での指定が可能になる。 Wikipedia日本語版を活用することにより、最低限の環境を整えるだけで、用例採取や言語現象の定量的分析のための大規模コーパスが得られる。また、同一の言語データを異なる研究者やプロジェクト間で共有することができる。つまり、Wikipediaコーパスは、追試・修正・拡張・応用といった試みに対し、完全に開かれた研究資源を提供するのである。このことは、日本語を対象とする様々な言語研究の可能性を大きく広げると考えられる。
著者
菅 さやか 唐沢 穣 服部 陽介
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.21-29, 2009

People often infer the causes of observed actions and events, and explain the causes to others through communication. The present study examined the effects of a communicative goal on the causal explanation of criminal cases. Japanese college students were presented with a criminal case, along with an equal number of potential internal causes and external causes. The extremity of the crime (i.e., murder vs. robbery) was manipulated. Participants were asked to explain what led the protagonist to commit the crime, either in order to help another participant make judgments about the criminal person (i.e., communicative goal condition) or to use the explanation as a basis for their own judgments (i.e., individual goal condition). Participants then responded to a free re- call task. The results revealed that the communicative goal facilitated the use of both internal and external causal information in explanations. Path analyses indicated that causal explanation mediated the effect of the communicative goal on the memory of stimulus information. The importance of communication in the study of causal attribution and related domains were discussed.