著者
高田 祥司
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.32-47, 2008-10-01 (Released:2017-07-28)

日本語東北方言と韓国語には,過去形として,「〜タ」/-ess-ta(過去形1)の他に,「〜タッタ」/-essess-ta(過去形2)という形式が存在する。後者は前者と異なり,(1)現在との断絶性,(2)直接体験・認識の解釈,(3)トキ節/ttay節で<限界達成後>を表さない,(4)反事実条件文への使用という特徴を持つ。これは,<過去>の<継続性>を表す「〜テアッタ」/-e iss-ess-taを出自とし,その文脈的意味を受け継ぐためだと説明される。-essess-taは,より原形に近い古い用法を保ち,<継続性>やその派生的意味<過去パーフェクト><発見>を表し,存在動詞への使用は難しい。一方,「〜タッタ」は形容詞・名詞述語に用いにくい。また,両言語の回想表現「ケ」/-te-も(1),(2)を持つが,話し手の行為の体験は表さず,過去形2とは逆に(2)(認識)に基づき,文脈的に<過去>や<継続性>を表す。両言語では,過去形1が現在の状態を表すことと関わり,(1)を持つ過去形2や回想表現が<過去>を現在から明確に区別している。
著者
小松 寛
出版者
北東アジア学会
雑誌
北東アジア地域研究 (ISSN:1882692X)
巻号頁・発行日
no.15, pp.51-64, 2009-10-01

The aim of this essay is to consider the impact of Japanese intellectual thought on the "anti-reversion debate" in Okinawa. The anti-reversion debate not only opposed the reversion of Okinawa to Japan, but also rejected the idea of Okinawan independence. This is because the anti-reversion debate was an ideological endeavor that refused a state model based on national identity. The essay proceeds by analyzing two strains of thought considered to have exerted substantial influence on the anti-reversion debate: Shimao Toshio's `Yaponesia' writings, and Japanese anarchism of the 1960s. I discuss how these influences from mainland Japan were actually received, in particular by Arakawa Akira, commonly regarded to be the central figure of the anti-reversion debate. Finally, I show how these two ideologies influenced the anti-reversion debate, concluding that while Shimao's Yaponesia writings provided a positive appraisal of national identity, anarchism contributed to a rejection of the state. Furthermore, I highlight the potential value of considering the anti-reversion debate in future discussions on Northeast Asia.
著者
平山 琢二 北内 毅 眞榮田 知美 藤原 望 平川 守彦 及川 卓郎
出版者
日本暖地畜産学会
雑誌
日本暖地畜産学会報 (ISSN:2185081X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.67-71, 2013-03-29 (Released:2013-07-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本試験では,食味試験に関して予備知識ならびに特に訓練を受けていない男性および女性を含めた 一般消費者を対象に,一般的な肥育期間で飼養された和牛,長期肥育で飼養された和牛さらにホルスタイン牛の脂肪交雑の極めて少ないランプ部位の赤身肉を供試肉として,官能試験を実施し実際の牛肉の赤身肉の美味しさに対する評価について検討した.供試牛肉の食感は,男女間で有意な差はなく,男女ともに柔らかさ,弾力およびあぶらっこさの3項目において,一般牛肉(ホルスタイン)<通常牛肉<長期牛肉の順に有意に良いと評価された.一方,供試牛肉の多汁性について,男性では一般牛肉<通常牛肉<長期牛肉の順に有意に良いと評価したのに対し,女性の場合,いずれの牛肉間でも有意な差は認められなかった.供試牛肉の食味および総合評価では,男女間で有意な差はなく,男女ともに全ての項目において,一般牛肉<通常牛肉<長期牛肉の順に有意に良いと評価された.供試牛肉の食感,食味および総合評価の年代差について,いずれの項目においても,年代間の有意な差は認められなかったものの,若者に比べ成人が牛肉間の評価差が明確であった.本試験において,牛肉の赤身肉の美味しさに関する感じ方は,多汁性には男女間差があったものの,ほぼ同様に判別し,長期肥育した和牛肉をもっとも美味しいと評価した.また,年齢層において牛肉の美味しさに関する感じ方に大きな差は認められず,長期肥育した和牛肉をもっとも美味しいと評価した.
著者
村上 聖一
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.40-57, 2021 (Released:2021-04-20)

太平洋戦争下、日本の陸海軍は「南方」と呼ばれた東南アジアの占領地に30以上の放送局を開設した。これらの放送局の活動については、1950年代にNHKによる資料収集や聞き取り調査が行われ、成果が取りまとめられたが、その後の軍政全般に関する研究も踏まえ、改めて検証を行う余地があると考えられる。このため、今号から3回シリーズで南方放送史について再考することにした。 南方地域で行われた放送の目的は、▽日本人向けの情報伝達、▽対敵宣伝、▽現地住民の民心安定の3つに分けられるが、本シリーズは、大東亜共栄圏構想を浸透させるうえで放送が果たした役割を検証する観点から、現地住民向け放送に焦点を当てる。シリーズでは、放送の概要を確認したうえで(第1回)、地域別に蘭印(第2回)、フィリピン・ビルマ(第3回)で行われた放送について検討する。 このうち今回は、放送実施までの過程を中心に、陸海軍、日本放送協会の文書に基づきつつ検証した。その結果、南方地域を軍事占領する構想が現れたのが1940年以降だったこともあり、放送に関しても開戦数か月前になって放送協会が南方の放送事情の調査を本格化させるなど、戦前にはほとんど検討がなされていなかったことがわかった。 また、開戦後も、運営主体を軍にするか放送協会にするかで議論になるなど実施の枠組みが定まらず、番組内容も放送局の設置と並行して検討が進むなど、準備不足の中で放送が始まったことが資料から浮かび上がった。長期的展望に立った計画が存在しない中、南方での放送が始まっていったことになる。
著者
阿部 正幸
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.438-442, 2020-04-01

本稿は,私の担当医である国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神科の松本俊彦先生からの依頼による。ほとんど経験者のいない医療用麻薬の長期常用者として,生々しく書いてほしい,とのことであったので,赤裸々な実体験を記載させていただく。 私は循環器内科専門医として,ある地方自治体総合病院(以下,病院)に勤務していたところ,オピオイドの適応外使用により麻薬・向精神薬取締法違反で起訴され実刑判決を受けた。現在は刑期満了し無職である。 本稿の内容は私の体験談として,①オピオイド使用に至った経緯,②オピオイドの効果,③離脱の難しさ,④再使用しないための努力,⑤現在直面している困難,⑥医学教育と偏見,に分けて順に述べることとする。
著者
廣瀬 英雄 松隈 和広 作村 建紀
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.102-109, 2011-07-20

感染症拡大を予測するパンデミックシミュレーションはシナリオによるシミュレーションとして取り扱われてきたが,実際にパンデミックが起こり始めると,観測データを使いながら将来どのようになるかを予測できるかということが重要になってくる.モデルの構造を仮定し,観測データを利用してモデルのパラメータを同定しながら予測を進める方法論は,データ同化とかグレーボックスとも呼ばれているが,パンデミック予測を行ううえでもこのことが必要になってくる.ここでは,微分方程式によるSIRモデルのパラメータを観測データから精確に推定するBBS法を提案し,またこれまで実際に観測された,SARS,口蹄疫のデータを用いて予測を行った結果について議論する.また,これをtruncatedモデルによる予測結果とも比較する.比較の結果,SIRモデルは最悪のケースを早期に予測する可能性があるが,truncatedモデルはかなり無力であることが分かった.

3 0 0 0 OA 電気年鑑

著者
電気之友社 編
出版者
電気之友社
巻号頁・発行日
vol.昭和17年版(27回), 1944
著者
岩尾 修 橋詰 良樹
出版者
一般社団法人 軽金属学会
雑誌
軽金属 (ISSN:04515994)
巻号頁・発行日
vol.32, no.11, pp.622-631, 1982-11-30 (Released:2008-07-23)
参考文献数
27
被引用文献数
5 4
著者
国中 優治 壇 順司 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0884, 2007

【はじめに】膝屈曲時における膝窩部痛は膝関節疾患に多く見られ、その原因の探索は臨床上重要である。我々は膝関節運動に伴う組織の位置変化や筋の形状変化を機能解剖学的にとらえ、その原因を腓腹筋内側頭起始部の折りたたみによる圧迫、もしくは膝窩筋の伸張によるものであると報告した。しかし臨床上膝窩外側部の疼痛を訴えるケースもまれにみられるため再度膝屈曲時における膝窩部の観察を遺体にて行った。<BR>【対象】熊本大学形態構築学分野の遺体で、大腿骨・脛骨の可動性が充分保証されている4体の膝4関節及び観察用に22体膝44関節を用いた。<BR>【方法】可動性の充分保証された膝4関節において伸展位から最大屈曲位まで可動し膝窩部の様子を観察した。また、22体膝44関節においては膝窩関節包の一部に存在するファベラの有無の確認を行った。なお観察したモデルは組織の動態が確認できるように表皮及び結合組織、脈管系を除去し、筋、関節包を剖出した。<BR>【結果】可動した4関節においてはこれまで報告した通り膝屈曲角度が進むにつれ腓腹筋内側頭が起始部にて折りたたまれ圧迫され、膝窩筋は伸張された。外側においては屈曲角度が進むにつれて足底筋が折りたたまれると同時に深部の関節包は蛇腹状になり撓みが見られたが大腿骨と脛骨による圧迫は軽微であった。腓腹筋外側頭においては起始部が足底筋より末梢であるため、折りたたまれることはなかった。次に4関節の内2関節においてはファベラが存在した。ファベラの存在した関節は屈曲にて関節包が後方に緩み腓骨頭上方に位置する膝窩筋にファベラが接触した。それは角度が進むにつれて圧迫強度が増加した。ファベラの存在する関節は44関節中7関節(15.9%)に確認された。<BR>【考察】外側課部関節包の一部であり、腓腹筋外側頭の起始腱の内部に存在するファベラは大豆状の種子骨である。その出現率はGillesらが8~10% 、J.Langらが10%と報告しているが今回の遺体解剖においても15.9%のファベラ出現例が確認できた。屈曲することにより後課部関節包は蛇腹状に折りたたまれることでコンパクトに収納される。しかしファベラが存在する例においては関節包の一部とはいえ種子骨であるためにその部位が後方に突出し腓骨頭上方に位置する膝窩筋(膝窩筋も含む)を圧迫していた。第38回の学術大会にて膝屈曲時には腓腹筋内側頭が圧迫を受けやすくそれが原因で疼痛を発する可能性があり、外側に関しては機械的な圧迫は起きないということを報告した。しかしファベラの存在する例においてはそれによる膝窩筋および周囲の軟部組織に圧迫を加えることが確認できた。ゆえにその部位においても疼痛を発する可能性が示唆された。またファベラの確認はレントゲン撮影にて容易に確認出来るため、評価において早期に疼痛部位を推察することも可能ではなかろうか。<BR>
著者
東長 靖
出版者
一般社団法人 日本オリエント学会
雑誌
オリエント (ISSN:00305219)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.64-79, 1990

In my last paper [in <i>The World of Islam</i>, Nos. 33/34, 1990] on the controversies over the orthodoxy of <i>Wahdah al-wujud</i> in the late Mamluk period, I pointed out that most of the sufis were within the &lsquo;orthodox&rsquo; and that in this period we find no &lsquo;<i>ulama</i>&rsquo; vs <i>sufi</i> schema.<br>In this article I take up Ibn Taymiyah's comprehension of <i>tasawwuf</i> for enlargement of my last study. It is fact that Ibn Taymiyah, who belongs to the early Mamluk period, severely criticized <i>Wahdah al-wujud</i> and some popular sufi practices, but he was not against <i>tasawwuf</i> itself.<br>He divides sufis into three groups as follows; (1) &lsquo;true&rsquo; sufis who worship only Allah, (2) sufis who observe legal (<i>shar'i</i>) manners in their practices, and (3) superficial sufis who follow some customs without understanding of their true meaning. He puts his own position in the first group, and from this inner standpoint he criticizes other sufis such as those of <i>Ahmadiyah-Rifa'iyah Tariqah</i>, who belong to the third group, for their innovation and deviation from <i>shari'ah</i>, and demands their repentance. According to his view, <i>Wahdah al-wujud</i> goes outside of this framework of sufis. So his criticism on <i>Wahdah al-wujud</i> was not against <i>tasawwuf</i>, rather his aim was to defend &lsquo;true&rsquo; <i>tasawwuf</i> as he thinks it.<br>From this and the last study, we can conclude that nobody was against <i>tasawwuf</i> itself in the Mamluk period with the only exception of <i>Wahdah al-wujud</i>, which was criticized as philosophy by some, not all, thinkers.
著者
西崎 光弘
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.549-557, 2011-12-28 (Released:2012-08-03)
参考文献数
31
被引用文献数
3
著者
加藤 元一郎
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.277-285, 2009
参考文献数
18
被引用文献数
1

認知リハビリテーションは,脳卒中,脳外傷,脳神経外科手術後の亜急性期から慢性期に認められる神経心理学的障害を,認知訓練により改善に導こうとするものである.対象となる障害には,失語・失行・失認,注意障害,記憶障害,視空間障害,遂行機能障害などが含まれる.確固としたエビデンスにはなおも乏しいものの,さまざまなトライアルが行われている.例えば,側頭葉内側部損傷の場合には,著しい記憶障害が生じ,この健忘が訓練の対象になる.そして,記憶訓練により,人の名前を忘れる,場所を忘れ道に迷う,服薬するのを忘れる,何度も同じ質問をするなどという具体的な問題行動が軽減されることが期待される.前頭葉損傷の場合には,日常生活において柔軟性の欠如,計画性のなさ,自発性の欠乏,衝動性の増大などが認められる.認知訓練では,このような障害の背後にある遂行機能障害や情動による行動制御の障害をターゲットとして,これに対して訓練が試みられる.本稿では,右側前頭前野背外側部に損傷を持つケースにおける遂行機能障害に対する,Tinker Toyを用いた訓練とハノイの塔(変法)を用いた認知リハビリテーションの方法とその結果を紹介し,生物学的ないしは神経心理学的な立場から若干め示唆を行った.
著者
田中 稔
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.404-405, 2017-08-20 (Released:2018-02-01)
参考文献数
4

肝臓は体内最大の臓器であり,代謝をはじめとした生命を維持するうえで必須の機能を数多く担っている。その中でも,三大栄養素と呼ばれる炭水化物,脂質,タンパク質のエネルギー代謝は我々が活動するためになくてはならない重要な機能である。一方,人体に有毒な物質を解毒する薬物代謝も,生命を守るためには必要な機能である。このような肝機能を十分に理解することは,健康の維持だけでなく,新薬の開発においても重要な意味を持っている。
著者
兵頭 政幸
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-20, 2014-02-01 (Released:2014-10-24)
参考文献数
101
被引用文献数
1 1

近年,地磁気逆転期の百年〜千年スケールの磁気・気候層序が明らかになってきた.大阪湾掘削コアの海水準プロキシは海洋酸素同位体ステージ(MIS)19の歳差周期シグナルをもつ.同コアでは,マツヤマ−ブリュンヌ(MB)逆転トランジションは海水準のハイスタンド19.3以前に小反転エピソードで始まり,ハイスタンド19.3とロースタンド19.2の間の海面低下期に終了する.終了直前には小反転が多発する.気候の最温暖化はMB逆転直後,最高海面の約4,000年後に起こる.同様のMB逆転磁場の特徴が中国レス,インドネシア・サンギランの更新統,歳差周期シグナルをもつ深海底堆積物の記録でも見られる.MB逆転直後の最温暖化はバイカル湖,ヨルダン峡谷,地中海沿岸でも起こっている.MIS31でも最高海面から4,000年遅れて地磁気逆転直後に最温暖化する.これら温暖化の遅れは,逆転期に増加した銀河宇宙線が誘起する寒冷化が最高海面付近で起こったことが原因の可能性が高い.
著者
川久保 佐記 和泉 潔
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.AG-D-1-10, 2016-11-01 (Released:2016-11-02)
参考文献数
29

The effect of option markets on their underlying markets has been studied intensively since the first option market launched. Despite considerable efforts, including the development of theoretical and empirical approaches, we do not yet have conclusive evidence on this effect. We investigate the effect of option markets, especially that of dynamic hedging, on their underlying markets by using an artificial market. We propose a two-market model in which an option market and its underlying market interact. We confirmed that trading behaviors on expire date are not effect on its underlying market, but dynamic hedging, arbitrage trading changed volatility on the price of underlying asset under certain conditions.
著者
石原 延啓
出版者
文芸春秋
雑誌
文芸春秋
巻号頁・発行日
vol.78, no.5, pp.122-132, 2000-04
著者
小野 隆裕 橋本 章 田中 隆光 福家 洋之 清水 敦哉 欠田 成人 中野 洋
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.62, no.11, pp.734-741, 2021-11-01 (Released:2021-11-08)
参考文献数
23
被引用文献数
1

症例は40歳代女性.風俗店勤務.外陰部腫瘤,潰瘍,体幹部丘疹,手掌足底に紅斑を認め梅毒を疑った.梅毒反応陽性,胆道系優位の肝胆道系酵素上昇を認めた.腹部超音波検査で門脈域に高エコー像を認めた.造影CTでは動脈相で肝内胆管の一部拡張と壁肥厚,肝実質に不均一な造影所見を認め,以上より胆管炎も疑われた.MRIではT1強調画像opposed-phaseで門脈域周囲低信号域を認め,MRCPで胆管の枯れ枝状変化を認めた.肝生検ではグリソン鞘と周囲組織にリンパ球浸潤と線維化を認め実質に脂肪変性を認めた.AMPC内服を開始し梅毒反応は陰性化し,肝胆道系酵素は約11カ月の経過で低下し画像所見も改善を認めた.早期梅毒肝炎の過去報告例では画像上胆道系異常を指摘した報告は少ない.この所見は胆道系優位の肝障害という早期梅毒性肝炎の特徴とも合致し,特徴的な画像所見を呈した1例として報告する.