著者
植木 利彦
出版者
岡山理科大学
雑誌
岡山理科大学紀要 (ISSN:02856646)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.189-196, 1980

個人と社会の関連性という問題は, コンラッドが作家となった当初から晩年に至るまで常に彼を虜にしてきた主要な問題であった。時にはリンガード(Captain Lingard)やジム(Jim), ノストローモ(Nostromo)のように個人的な夢想の世界における自己の理想像を現実の社会において実現しようとした男達, また, ヘイスト(Heyst), ラズモフ(Razumov)やバーロック(Verloc)のように現実社会から逃避しながら自分の行動を観念的に正当化しようとした男達もいた。彼等に共通する点は, 積極的であれ, 消極的であれ, 現実社会との関りにおいて, 常に自己中心的な考え方や行動が多分に見うけられるのである。その結果, 彼等は, 愛する者を亡くしたり, 自らの生命を落したり, あるいは自己の世界の崩壊を目の当りに見るといった, ある意味において, 自己の性格的欠点に起因する苦い人生経験を味わった人物である。『放浪者』におけるペロール(Peyrol)は, 先に述べた人物とは一風かわった人物であり, コンラッドの作出した人物の中では最も現実的, 中庸を心得た人物であると思われる。そこで, この小論ではペロールなる人物に視点を置き, コンラッドの個人と社会に対する考え方を, そして革命についての考え方を考察してみたい。
著者
船渡川 伊久子 船渡川 隆
出版者
日本計量生物学会
雑誌
計量生物学 (ISSN:09184430)
巻号頁・発行日
vol.36, no.Special_Issue, pp.S33-S48, 2015-06-30 (Released:2015-09-08)
参考文献数
42

Longitudinal data are data collected repeatedly from each subject for a particular response variable over a certain time period. Specifically, in longitudinal data analysis, the researchers are interested in changes in the response levels over time and the differences in these changes among factor levels or covariates. Because of within-subject correlations, analysis methods considering the correlations or variance-covariance structures have been developed. One of the approaches is the use of mixed effects models that take into account between-subject heterogeneity by random effects. In population pharmacokinetics, the response variable corresponds to drug concentration and is analysed typically using nonlinear mixed effects models. In this article, longitudinal data analysis with a continuous response variable is introduced focusing on population pharmacokinetics. Longitudinal data analysis, linear mixed effects models, nonlinear mixed effects models, and population pharmacokinetics are discussed from a biostatistical point of view. This article is expected to be of interest to biostatisticians, pharmacologists, pharmacokineticists, and those in related fields.
著者
真鍋 恭弘 木村 幸弘 冨田 かおり
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.60-63, 2011 (Released:2013-05-17)
参考文献数
12

ステロイドの重度副作用の一つである精神症状、いわゆるステロイド精神病は、よく知られているが、耳鼻咽喉科領域での報告は少ない。今回、突発性難聴の治療直後に発症したステロイド精神病の症例を経験した。ステロイド精神病は、ステロイド治療患者の約5%に発症すると言われている。1日のプレドニゾロン投与量が40mgを超えると、発症率が高まるが、投与量や投与期間は、その重症度とは関係しない。また、ほとんどの場合、過去に精神疾患の既往歴はないので、事前に発症を予測することは困難である。したがって、軽微な徴候を早期に発見し、対応することが重要である。
著者
江刺 正喜 浅見 直樹
出版者
日経BP社
雑誌
日経エレクトロニクス (ISSN:03851680)
巻号頁・発行日
no.867, pp.162-164, 2004-02-16

電子回路に微細な機能素子を加工するMEMS技術は,欧米企業が自動車用加速度センサやプロジェクタ素子などを実用化し,日本メーカーに先行している。こうした中,東北大学 未来科学技術共同研究センター 教授の江刺正喜氏は,MEMS分野における日本の進むべき道を模索し続けている。同氏が欧米のモノマネではない日本の産学連携について語った。
著者
村井 源 松本 斉子 佐藤 知恵 徃住 彰文
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
pp.1101130023, (Released:2011-01-25)
参考文献数
16
被引用文献数
8 1

本論文では,計量的な物語構造の分析を実現するために,人文的な物語分析の古典的手法であるプロット分析を援用し,分析結果に対する計量的解析を行った.プロット分析は人文学的手法であるが,一致度の計算を実施することでプロット分割と分類の正当性の数値的評価を行った.プロット分類の結果に対してn-gram分析を行うことで物語構造の連続的パターンを抽出した.また同様にχ二乗検定を用いて頻出プロットの時代的変化を抽出した.さらに,テーマとプロットの関係を分析するために計量的手法で物語のテーマ語を抽出し,作品をテーマごとに分類した.このテーマの分類結果を用いて,各テーマのプロット的な特徴を抽出した.本論文での分析はプロットへの分割と分類を計量的指標を用いつつも人手で行うという点で,完全な自動化の実現ではないが,本論文の成果は将来的な物語分析の完全な自動化の基礎になると期待される.
著者
駒井 匠
出版者
立命館大学
巻号頁・発行日
2014-03-31
著者
池谷 美奈子
出版者
北日本病害虫研究会
雑誌
北日本病害虫研究会報 (ISSN:0368623X)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.53, pp.95-98, 2002-11-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
17
被引用文献数
1

2000年および2001年に, バレイショの主要な栽培品種および遺伝資源, のべ35品種・系統を用いてジャガイモ粉状そうか病の発病を北海道訓子府町の汚染圃場で比較した.その結果,「トヨシロ」,「農林1号」,「アトランチック」,「ポッカイコガネ」は2年間で発病程度にばらつきが認められたが, 品種の発病度には高い相関 (寄与率R2=0.650, 相関係数r=0.806, n=18) が認められた.そこで, 主要栽培品種の抵抗性を評価すると, 弱:「キタアカリ」・「男爵薯」, やや弱:「農林1号」・「ワセシロ」, 中:「メークイン」・「コナフブキ」, やや強:「紅丸」・「サクラフブキ」・「スタークイーン」, 強:「ユキラシャ」と区分できた.なお,「トヨシロ」,「さやか」,「ムサマル」は抵抗性の評価が既往の報告と2段階以上異なったが, その原因については明らかでなかった.
著者
黒田 乃生
出版者
Japanese Institute of Landscape Architecture
雑誌
ランドスケープ研究(オンライン論文集) (ISSN:1883261X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.55-62, 2012 (Released:2012-07-24)
参考文献数
106
被引用文献数
1

This research is aimed to clarify the tourism development and history of designation as a National Park of Mt. Aso from documents survey. In the Meiji-era, several foreign nationals climbed Mt. Aso, which is the beginning of leisure activity. They followed the route from Nango-dani, on the other hand most Japanese took the route from Aso dani. From the Taisho-era to the beginning of the Showa-era Tatsuki Matsumura and others played active roles in designation of National Park, which were succeeded in 1924. During the time, Tsuyoshi Tamura visited the sites for three times. His perception of Mt. Aso had changed from admiration of the expansive scale of the natural landscape to the diversity of the cultural landscape. Mt. Aso was different from other mountains,which were discovered as “natural landscapes” at the time on the aspect of that is an active volcano, has less of forest, has grass landscape and historic religious site. Because of these points, Aso have been promoted positive developments in tourism. Though some problems occurred at a same time. Today, the relative point of view to the diverse value is necessary.
著者
小村 純江 Komura Sumie
出版者
神奈川大学日本常民文化研究所 非文字資料研究センター
雑誌
非文字資料研究 = The study of nonwritten cultural materials (ISSN:24325481)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.25-55, 2017-09-30

妙見信仰は北極星や北斗七星を神格化した信仰である。古代、中近東の遊牧民や漁民に信仰された北極星や北斗七星への信仰は、やがて中国に伝わり天文道や道教と混じり合い仏教に取り入れられて妙見菩薩への信仰となり、中国、朝鮮からの渡来人により日本に伝わったといわれる。 秩父地方も古くから妙見信仰が伝わった地域であり、その信仰体系の中には現在「屋敷神的要素」「氏神的要素」「生産神的要素」の三つの要素を認めることができる。 本稿で秩父地方を事例とし、この三つの要素を基に妙見が地域に果たす役割と地域の人々の妙見への思いについて調査したところ、次のような傾向を認めることができた。 一つ目の「屋敷神的要素」については、秩父市中宮地にある関根家の敷地内に祀られている「妙見塚」と周辺地域に伝わる妙見を調査した。その結果、「妙見塚」と宮地地域に伝わる妙見は、関根家の屋敷神的存在であるとともに地域の屋敷神的存在として代々守り伝えられていた。二つ目の「氏神的要素」については、秩父神社を災いから守るために祀られたと伝えられる「秩父七妙見」の一つである身形神社を調査したところ、妙見に対する地域の人々の意識は以前と変わらず、今後も妙見を守り伝えていく心意気を持っていた。三つ目の「生産神的要素」については、妙見の祭祀である秩父神社の「御田植際」と「秩父夜祭」を調査した。この二つの祭祀に係る人々は、現在、秩父市内で農業や商業・加工業等、主に生産業に携わっており、妙見への祈りは生産神への祈りとなっている。また、この三つの要素は互いに影響し合う一面を持っていた。 以上の調査を踏まえ、現在の秩父地方の妙見を概観すると次の二つの様相が認められた。一つは「古態の持続性を維持する」妙見であり、「屋敷神的要素」を持つ妙見と「氏神的要素」を持つ妙見の中に伝えられていた。もう一つは妙見の祭祀を媒介とし「地域振興の育成」に貢献する妙見であり、「生産神的要素」を持つ妙見の祭祀の中に伝えられていた。
著者
古賀 良彦
出版者
International Society of Life Information Science
雑誌
国際生命情報科学会誌 (ISSN:13419226)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.179-186, 2004-03-01 (Released:2019-05-03)
参考文献数
4
被引用文献数
1

我々は、香りが生体に与える効果を脳の機能の変化というレベルで評価する試みを行い、脳波の分析によってその変化を詳細に捉えることができることを示してきた。今回は、コーヒーの香りの効果について評価を行った結果について紹介する。コーヒーはその香りによってリラックス感を得たり、ほどよい緊張感を取り戻す効果があることが知られている。我々は、コービー豆6種を選び、脳波の分析によって豆の種類による効果の差異を検討した。リラクセーション効果の測定には、アルファ波の分析を用いた。グアテマラ呈示時のアルファ波パワー値は、マンデリン、ハワイコナに比べて有意に高く、コントロールおよびモカマタリと比較しても高い傾向がみられた。一方マンデリンは、コントロールに対しアルファ波を減少させる傾向がみられた。また、認知機能の生理学的指標としては事象関連電位P300を用いた。 P300潜時は、ブラジルサントスは無臭時、グアテマラ、モカマタリ呈示時に比べて有意に潜時が短かった。また、ブルーマウンテンよりも短い傾向がみられた。これらの結果は、コーヒーの香りは豆の種類によって影響が異なるので、目的に応じて豆を使い分けることにより、顕著な効果を得ることができることを示すものである。脳波をはじめとして、最近、目覚しい進歩を遂げた脳機能画像を利用することにより、今まで未知の部分が多かった匂いとヒトとの関わりに関する研究が飛躍的に発展することが期待される。
著者
西野 春雄
出版者
法政大学
雑誌
能楽研究 (ISSN:03899616)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.17-33, 2000-03-15

平成十年(一九九八)の能楽界は、前年度の名古屋能楽堂の竣工に続いて、豊田市能楽堂・新潟市民芸術文化会館能楽堂など、地方での能楽堂竣工があいついだことが特筆される。そして、各地に建設された能楽堂の一つのモデルともなっている国立能楽堂が開場十五周年を迎えた年でもあった。関西では大江能楽堂が築後九十周年を迎え、二月には京都の観世会館の築後四十周年記念能が行われた。人事に目を転ずれば、六年ぶりに日本能楽会会員の第十次増員が行われ、あらたに五十七名が新会員となった。また、三月十七日付で葛野流大鼓方の亀井忠雄氏が宗家預かりとなり、五月には、幸流小鼓方の噌和博朗氏と高安流大鼓方の安福建雄氏のお二人が、いわゆる人間国宝に選ばれ、十月には観世流シテ方観世榮夫氏が能楽界から久しぶりに第二十八回モービル音楽賞を受賞するなど、慶事が続いた。他方、一月に歴史家の林屋辰三郎氏、四月に能楽評論家の長尾一雄氏、五月に能楽写真家の吉越立雄氏、六月に元国立能楽堂企画制作課次長の油谷光雄氏、八月に金剛流宗家金剛巌氏、十月に能の英訳を精力的に進めた島崎千富美氏、十一月に『能楽思潮』や「東京能楽鑑賞会」の立ち上げに尽力した佐々木直氏、十二月に能や美術・工芸・紀行・古典などの随筆や評論で知られる随筆家の白州正子氏と、能役者・能楽写真家・能楽研究者・随筆家と、訃報があいついだ。春から夏にかけて喪服を着ない月はなく、詳しくは物故者の欄を読んでいただきたい。能界活動に目をやれば、各流各派の定期的な活動のほか、記念の催しや個人の会・同人会も多く、催会の数の上では盛況を呈しているように見える。しかし、忙しすぎるのも善し悪しで、ともすると惰性に流れる危険性が潜んでいる。また、これまでもしばしば言われて来たことであるが、若い人たちが稽古に充てる十分な時間が確保されているのかどうか心配でもある。流儀あげての別会といいながら、見所がやや寂しい会もあった。また、近年の傾向として、能・狂言の入門・啓蒙書の出版が目立つ。ここでは書名はあげないが、戦後の能楽出版史を概観しても、こんなに刊行が続出した年もないと思う。それに引き換え、謡本が売れなくなっているという。原因の一つにコピー全盛時代を指摘する声もあるが、それは現象面に過ぎまい。謡人口そのものが減少しているようで、根はもっと深い所にあるような気がする。以下、誠に狭い見聞で、しかも関東に傾きがちで恐縮ながら、平成十年の能楽界の出来事や事象を記録を中心に概観し、二十一世紀も間近い能界を展望することにしたい。