著者
森田 裕一
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.383-387, 2016

白板紙を生産する大竹工場8マシンは食品容器用途の製品を抄造しており,製品への虫混入はユーザーからの信用を失墜しかねない致命的な問題となる。8マシン建屋内で捕獲した虫を分析したところ,外部侵入由来の虫が全数の3/4以上を占めており,虫の侵入防止対策が重大な課題となっていた。外部からの虫侵入は建屋の陰圧が高いことが主原因と考えられたため,給気バランス改善による陰圧改善に取り組んだ。防虫効果としては「陽圧化」が理想的であるが,給気ダクト敷設等の設置スペース確保が困難であり,また設備費が高額であったため,「差圧ゼロ化」案を採用した。なお,給気ユニットのタイプとしてはダクト敷設を要さないものを選定し,室内の空気流れを考慮して12台を配置した。またフィルタ連続洗浄機能付給気ユニットとしたことで,フィルタ目詰まり掃除の手間を省けており,安定した給気が継続できている。差圧ゼロ化の工事後,虫の室内捕獲数を激減させることに成功し期待以上の効果を上げている。また虫捕獲数がピーク値を示していた春から梅雨時期および秋時期においても大幅に削減できており,年間を通して低いレベルまで抑えることができている。本稿では,工事前に行った調査内容,給気ユニット配置検討の考え方および工事効果について報告する。
著者
益田 昭彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. R, 信頼性 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.161, pp.41-45, 2009-07-24
参考文献数
7

人間・機械系では,人間による系の任務を損なう事象には意図せぬ行為だけでなく,意図的な行為が含まれる.この中で確信的な行為はもたらされる影響を予期して行う行為である.「うそ」は代表的な行為で,結果は有益にも有害にもなりうる.この発表では確信的人為事象の心理的な原因を探り,さらに以心伝心の間柄に起きるサービス不具合やドッキリ行為におけるサービス効果と不具合について考察する.
著者
早田 保義 坂本 隆行 河塚 寛 坂本 宏司 筬島 豊
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.517-525, 2002-07-15
被引用文献数
2 7

メロンの香気成分分析においてPorapak Qカラム濃縮法(PQM)の有効性を明らかにするため, 従来の抽出方法である直接ヘッドスペースガス採取法(DHSM)および減圧連続蒸留抽出法(SDEM)と成分の回収量や回収率および再現性等について比較・検討した.検出された揮発成分数はPQMが103成分で最も多く, 次いでSDEMが66成分, DHSMが8成分であった.同定された揮発性成分は76成分であり, アルコール類では, 2-Methyl-1-propanol, 2-Methyl butanol, 1-Hexanol, 1-Heptanol, 1-Nonanol, (Z)-3-Nonen-1-ol, (Z)-6-Nnen-1-ol, (Z, Z)-3, 6-Nonadien-1-ol, Benzyl alcoholおよび2-Phenethyl alcoholなどがPQMで比較的多量に検出された.アルデヒド類では2-Methyl butanal, 3-Methyl butanal, Nonanal, (E, Z)-2, 6-NonadienalおよびDodecanalが, PQMで多く回収された.エステル類では両抽出法でPropyl acetate, 2-Methylpropyl acetate, Butyl acetateおよびBenzyl acetateが比較的多量に回収されたが, 回収効率はEthyl propionateおよびMethyl butyrateなど低沸点成分の多くがほぼ同程度であり, 中高沸点成分はPQMが良好であった.含硫化合物はEthyl (methylthio) acetateおよび2-(Methylthio) ethyl acetateがPQM, SDEM共に, Ethyl 3-(methylthio) propionate, 3-(Methylthio) propyl acetateがPQMでのみ検出された.成分の抽出変動係数はPQMでは平均11.90%であったが, SDEMでは平均37.13%とPQMの安定的な再現性が得られた.また, PQMで得られた香気濃縮物そのものの香りはメロン特有の自然な香りであったが, SDEでは煮え立ったような重い匂いに変性した.PQMは従来の抽出方法に比べ操作が簡便・迅速に行え, 更に幅広い沸点範囲の香気成分を変性させること無く回収でき, 再現性が高いことからメロンの香気抽出法として優れた方法であると判断された.
著者
高橋 守 伊藤 正道 山本 裕子 高橋 等 高野 俊彦 高野 弘彦 高橋 朋枝
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.51-71, 1978

尾瀬の繁殖期(5月~8月)の鳥類調査を1974年から1978年にわたり線センサス法により実施し植生環境別鳥類群集構造,垂直分布などにつき調査し,あわせて鳥類からみた尾瀬の自然保護を記し検討を行なった.得られた結果は次のとおりである.<br>1.カヤクグリ,イワヒバリなどの高山帯の鳥をはじめ総計93種が記録された.<br>2.各林相地域とも標鳥のウグイス,ヒガラ,夏鳥のメボソムシクイなどの食虫性鳥類が優占し食葉性鳥類のウソ,ホシガラス,カケスなども広く分布しており本州亜高山帯針葉樹林の特徴を示していた.<br>3.エゾムシクイとクロジの2種は亜高山帯針葉樹林と落葉広葉樹林の推移部で集中的に記録された.<br>4.尾瀬全体で最優占する種はウグイス20.0%で次にヒガラ15.8%,メボソムシクイ14.3%,コマドリ5.2%,ルリビタキ3.1%で,これら上位優占鳥種5種で全体の58.4%を占め,しかも鳥種が豊富なことから一定の鳥類群集型を保持しているといえる.<br>5.ムクドリ,センダイムシクイ,エゾムシクイは5月に生息密度が高かったのに8月では低く,すでに移動•分散していた.<br>6.ウグイス,メボソムシクイ,ヒガラ,ハシブトガラス,ミソサザイ,コマドリの6種は低山帯から高山帯にいたるまで幅広く分布しており尾瀬における夏期の基本的構成種であった.<br>7.鳥類の垂直分布の決定要因としては,鳥の選好する植生と標高が強くはたらくことを示していた.たとえばメボソムシクイ,エゾムシクイ,センダイムシクイなど.<br>8.尾瀬ヶ原の湿原にはムクドリが最優占し,ハシブトガラス,ヒバリなどヒトとの結びつきの深い<br>種が記録された.<br>9.イワツバメは1970年に約10,000羽生息していると言われたのに対し,1978年には約4,000羽と推定された.
著者
西山 孝 ニシヤマ タカシ Takashi NISHIYAMA
雑誌
南極資料
巻号頁・発行日
vol.58, pp.171-185, 1977-03

ドライバレーに産出する塩類析出物について,X線回折分析法により鉱物の同定を行い,水平的および垂直的な分布の相違を検討した.同定された鉱物は,地表からの試料では炭酸塩5種,硫酸塩5種,硝酸塩2種,ハロゲン化物2種で,ボーリソグコアーからの試料では炭酸塩1種,沸石2種,ハロゲン化物2種,緑泥石1種であった. これらの塩類析出物は産出個所により異なり,一般に炭酸塩はテイラー谷に,硫酸塩はライト谷に多い傾向があり,とくに炭酸ソーダ石,サーモナトライト,モノハイドロカルサイトの産出がテイラー谷の海岸に近い部分に限られていること,チリ硝石,ダブラスカイト,ブレーダイトがライト谷にのみ晶出していることは顕著な特徴であった. 次に塩類析出物の分布と湖水の化学成分とを比較検討した結果,一部には熱水起源と考えられる塩類析出物もあるが,多くの塩類の起源は海水あるいは風送塩によるものと推察された.The areal and vertical distributions of evaporite minerals in the Taylor Valley and the Wright Valley were studied with X-ray diffraction techniques to disclose the origins of salts. Halite, sylvite. thenardite. mirabilite. Gypsum, calcite, aragonite, trona, thermonatrite, monohydrocalcite, soda niter, bloedite, and drapskite were identified in specimens on the ground surface, and calcite, fluorite, laumontite, chahay.ite. antarcticite, and chlorite in core samples. In general, carbonate minerals predominate in the Taylor Valley, while sulphate minerals, except thenardite, predominate in the Wright Valley. Halite and thenardite are widespread in both areas. Trona, thermonatrite, and monohydrocalcite are found exclusively in the eastern Taylor Valley, and soda niter, bloedite, and drapskite in the Wright Valley. There is a general trend for sulphate minerals to be concentrated in elevated areas, and carbonate minerals in low areas. From a comparison of the distribution of these salts and the chemical composition of lake water in the area, it seems that the main sources of salts distributed in the Taylor Valley and the Wright Valley are of marine and/or wind-transported origins, and that based on the nature of minerals from core samples, a small amount of salts is formed from hydrothermal solution.
著者
林 研
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 = Journal of religious studies (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.621-645, 2014-12

ジェイムズの学説「信じる意志」は、情的本性に基づく信仰を正当化する試みだが、何でも好きなように信じてよいということではない。想定されているのは「生きた」仮説を信じるか疑うかの葛藤状態であり、そこでの実践倫理が問題なのである。人間心理において、蓋然性と望ましさは分離し難く、証拠なしには信じない態度も実は誤謬への恐怖に基づく。その一方で、人間本性には証拠がなくとも信じる暗黙の合理性がある。それならば倫理的基準としては証拠よりも、プラグマティズムが要請する帰結の整合性の方が相応しいとジェイムズは考える。さらに、宗教は「事実への信仰がその事実を生み出す助けになりうる」命題であり、その真理性を検証するにはまず信じなければならない。つまり、ジェイムズの言う「信じる」は盲信ではなく、整合性を検証しつつ真理を生み出すことである。この場合、救いを求める者にとっては、信じることが懐疑に優越すると言うことも可能になる。
著者
岡田 洋平 川上 理 福田 博志 長浜 克志 斉藤 一隆 大塚 幸宏 木原 和徳 森田 隆 大島 博幸 江石 義信 菅野 純
出版者
泌尿器科紀要刊行会
雑誌
泌尿器科紀要 (ISSN:00181994)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.739-742, 1997-10
被引用文献数
2

3ヵ月前に無症候性肉眼的血尿に気づいた50歳男で,膀胱左壁の非乳頭状広基性腫瘍を認め,臨床病期はT3N0M0であった.生検材料の病理診断は小細胞癌であった.最初に行ったシスプラチン-アドリアマイシンの動注術前化学療法は無効であり,根治的膀胱摘除を行った.腫瘍組織は明らかに均質で,管状ないし索状に配列した小細胞より成り,pT3bR1L2V0N0であった.電子顕微鏡上,神経分泌顆粒を持つ小細胞癌と確認された.術後,シスプラチン,エトポシド,及びイホスファミドより成るアジュバント化学療法を4クール行った.術後26ヵ月に腫瘍再発の証拠なしに生存しているA 50-year-old man presented with asymptomatic gross hematuria which he had first noticed 3 months earlier. Clinical examinations revealed a non-papillary, broad-based tumor on the left lateral wall of the urinary bladder with a clinical stage of T3N0M0. The pathological diagnosis of a transurethral biopsy tissue specimen was small cell carcinoma. Neoadjuvant intraarterial infusion chemotherapy using cisplatin and adriamycin was initially administered but proved to be ineffective. Thus, we performed a radical cystectomy. The tumor tissue was apparently homogenous and composed of small cells arranged in sheets and solid patterns, and was staged to be pT3bR1L2V0N0. An electron microscopic study confirmed small cell carcinoma with neurosecretory granules. Postoperatively, 4 courses of adjuvant chemotherapy consisting of cisplatin, etoposide and ifosfamide were administered. The patient is alive without any evidence of tumor recurrence 26 months after the operation.
著者
佐藤 文男 百瀬 邦和 鶴見 みや古 平岡 考 三田村 あまね 馬場 孝雄
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-21_1, 1998
被引用文献数
5 6

現在,伊豆諸島鳥島で繁殖するアホウドリは約170つがいであるが,営巣地が不安定な地形にあるため繁殖率が低下している。本研究はアホウドリの個体数回復を促進させるために,より安定した場所に新しい営巣地を作ることを目的に行なった。<br>予備調査として,1991年11月に鳥島燕崎のアホウドリ営巣地でデコイ10体と音声を用いてアホウドリを新営巣地で繁殖させるための誘致調査を行い,アホウドリがデコイと鳴き声に反応し,近づくことを確認した。引き続き,1992年4月に鳥島初寝崎の新営巣地予定地にデコイ16体を設置,音声を再生して誘致実験を4日間行なった。その結果,通常アホウドリが飛来しない地域で9個体のアホウドリをデコイ上空に飛来させるのに成功した。同年11月からはデコイ41体を継続設置した(音声なし)。<br>これらの予備調査の結果を受け,1993年3月からはデコイを50体とし,太陽電池を用いた音声システムを併用,はじめてアホウドリ5個体(重複個体を除く)を新営巣地に着地させることに成功した。1993年の繁殖期から1996年にかけて誘致調査を継続させた結果,新営巣地への着地は重複個体を除き,1994年に5個体,1995年に29個体,1996年に41個体と増加した。また,年毎のアホウドリの滞在時間を示す滞留指数は,1993年:0.31,1994年:0.86,1995年:1.64,1996年:2.37となり4年間で7.6倍になった。アホウドリの着地は1993('92~'93)年にはデコイ区域に多く見られたが(78.9%),1994年からはデコイ区域の下部一帯に広がり,デコイ区域への着地数は1993年に比較し23.1%,1995年に8.3%,1996年には31.4%と減少した。この理由として1993年10月に音声システムの一部を変更し,スピーカーの向きを変更したことが考えられた。デコイ区域内に着地したアホウドリの着地地点と着地後に歩いて近寄ったデコイの型は成鳥型が多く,亜成鳥型は少なかった。また,音声との関係ではスピーカー近くの音量の大きい地域に着地地点が集中していた。着地したアホウドリは幼鳥•亜成鳥が多く,成鳥は少なかった。成鳥の着地は1996年の調査では41個体中4個体であった。着地個体の年齢は4•5•6齢が多く,1995年2~3月の調査では60%を占めていた。<br>新営巣地では1993年に2個体によるディスプレイダンスが観察されたのを始め,1994年には複数回のダンスと夜間も滞留する個体が,1995年には特定の場所に長時間座る個体が確認された。さらに,1995年11月には6歳の雄と5歳の雌との営巣産卵が確認され,1996年2月には雛の艀化を確認,6月10日に巣立った。また,1996年11月にはデコイ地域で3つがいの巣作りが確認され,うち2つがいで産卵を確認した。初繁殖したアホウドリの年齢は,4歳11ヶ月(♀),5歳11ヶ月(♂)•6歳11ヶ月(♂)で,いずれも1990•1991年生まれであった。1990年生まれの個体は1994年1月から複数回観察されており,繁殖開始は飛来しはじめて2年から3年かかることが示唆された。これらの観察を通し、アホウドリはデコイを海上から確認して,上空に飛来し,デコイと音声の両方の効果により着地,その後,おもに音声効果によって滞留が促されていると考えられた。また,初寝崎で繁殖しているクロアシアホウドリの存在もアホウドリの定着に効果的に作用したと考えられた。
著者
石川 遥至 越川 房子
出版者
Public Health Research Foundation
雑誌
ストレス科学研究 (ISSN:13419986)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.125-130, 2015

The purpose of this study was to examine the effects of a 20-minute cutting-art task on depressive and anxious mood and on the level of self-focused attention in highly ruminative people. Participants were randomly assigned to three distractive task conditions that required attention—cutting-art, calculation, and silent reading—and engaged in each task after induced rumination. The results indicated that the level of self-focused attention reduced in all conditions after distractive tasks and showed no difference between tasks. Similarly, negative moods were reduced in all conditions and no difference was found between tasks. The paper concludes by discussing the characteristics of the state of attention generated during the cutting-art task.