著者
早藤 史恵 ハヤフジ フミエ Hayafuji Fumie
出版者
同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
雑誌
一神教世界 = The world of monotheistic religions (ISSN:21850380)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.19-34, 2018-03-31

マルコ14章3-9節、マタイ26章6-13節に記される「イエスに香油を注いだ女」の物語で、イエスは女の行為に対し「わたしに良いことをしてくれたのだ」と告げる。一般に、ギリシア語で「良い」を表す語はagathosやkalosである。この物語では、両福音書とも、kalosが使われている。kalosは古典ギリシア語においては、主に美しさを指すことばであり、非常に重要な意味を持つ。一方、七十人訳聖書においては、耽美的な側面が退くとともに、そのことばの持つ意味合いも、古典ギリシアほどの重要性はないといわれてきている。本稿では、七十人訳聖書におけるkalosの使用法を探ることにより、従来の語義的説明の妥当性を再検討し、kalosの持つ意味の広がりや深さについて論考する。その中で、同義語であるagathosとの違い、kalosと「真」、「神の喜び」との関係を明らかにし、さらには、七十人訳聖書におけるkalosの重要性にも言及する。これらを通して、上掲の物語を解釈する手がかりをつかむ。In the story "A Woman who Anoints Jesus" (MK14:3-9, MT26:6-13), Jesus says, "She has done a good thing to me." Generally speaking, in Greek, the words which denote "good" are agathos and kalos. In this story, kalos is used. In the ancient Greek, kalos is the word which mainly means "beauty," and it has a very important meaning. On the other hand, in LXX, they say that the aesthetic aspect is not emphasized; moreover the meaning and the role of the word becomes less important. In this thesis, I review the usual semantic explanations by studying the use of kalos in LXX, and I argue about the extent and depth of the meaning of kalos. I reveal how kalos differs from agathos. I also expand the relationship between the word kalos and "truth" and "joy of God." Moreover, I refer to the importance of kalos in LXX. From this, I look for clues to interpret the story.
著者
小木曽 左枝子 大西 吉之
出版者
富山大学国際機構
雑誌
富山大学国際機構紀要 = Journal of the Organization for International Education and Exchange, University of Toyama (ISSN:2434642X)
巻号頁・発行日
no.1, pp.34-43, 2018-12

本稿は,中級レベルのオランダ人留学生と日本人学生による合同授業の実践報告を目的とする。同性婚をテーマとしたテレビ番組のビデオを見た後,グループディスカッションで自由に話す形式で合同授業を試行し,そのディスカッション授業についての質問紙調査を行った。そのアンケート結果をもとに,参加学生のディスカッションに対する満足度,ディスカッションを通しての学びや発見,ディスカッション授業の評価できる点や問題点をまとめ,今後の課題について考える。
著者
田中 信之
出版者
富山大学国際機構
雑誌
富山大学国際機構紀要 = Journal of the Organization for International Education and Exchange, University of Toyama (ISSN:2434642X)
巻号頁・発行日
no.1, pp.1-11, 2018-12

本研究では初級文法クラスにおける授業引継ぎの授業記録の分析により,教師が共有しようとする中身を明らかにした。テキストマイニングにより授業記録を分析した結果,「授業の様子」では日本語学習や体調や態度について,どのような学生が多かったかを記述していた。また,文型や会話の練習に関する記述があり,そこには教師の振り返りも見られた。「学生の様子」では,理解と形の頻度が高かった。理解は文法や文型と共起し,形は活用形として使用される場合や,変換や間違えるなどの語と共起していた。これには文法積み上げ型の授業の実施が背景にあると考えられる。授業記録と講師ミーティング議事録と比較した結果,語の一致率が低く,両者は異なる役割があることが確認された。その一方で,どちらにも教師の内省があまり見られなかった。今後,授業引継ぎや講師ミーティングは教師が振り返り,それを教師間で共有していく場としていく必要がある。
著者
糸川 昌成 瀧澤 俊也 新井 誠
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

GLO1のrare variantから同定された統合失調症のカルボニルストレスは、一般症例の40%でも検出された。カルボニルストレス陽性症例の臨床特徴については、カルボニルストレスを反映する二つの有力なバイオマーカー候補分子であるペントシジンとビタミンB6を用いて163名の統合失調症患者を4群に分類し、統合失調症の精神症状評価尺度である PANSS を実施して臨床特徴を比較検討した。その結果、カルボニルストレスを呈する患者群では、カルボニルストレスの無い患者群と比較して、入院患者の割合が高く、入院期間が4.2倍と長期に及び、投与されている抗精神病薬の量が多いという特徴が明らかになった。
著者
内藤 広志 齊藤 隆
雑誌
情報処理学会研究報告コンピュータと教育(CE)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.13(2008-CE-093), pp.33-40, 2008-02-16

プログラミング演習で学生のプログラムを採点する負荷を軽減するためにコンピュータ支援評価(Computer-Aided Assessment CAA)システムが利用されている.CAAシステムではソフトウェア工学で提案された様々な技法を用いて複数の観点からプログラムを評価し,その評価値の合計を課題の点数とする分析的な採点法をとっている.しかし,この方法では学生の誤りを発見し指導に役立てるのは困難である.本稿では,演習中の学生の進捗状況を把握するために開発したHerculesの機能とGUI,検査項目の記述法を述べる.Herculesは400人規模の演習で利用している.Herculesの機能について教員にアンケート調査をおこない演習の効果的な実施に有効であると評価を得た.
著者
中里 雅光
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.100, no.4, pp.928-933, 2011 (Released:2013-04-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1

近年,肥満者の増加と,肥満を基礎にして発症する糖尿病,脂質代謝異常,高血圧症などの肥満症やメタボリックシンドロームを呈する患者数が増加している.生活習慣病の根底にある肥満の治療は食事療法や運動療法といった生活習慣の変容が基本であるが,現実的には困難であり,減量に成功する症例は少ない.最近,さまざまな摂食調節ペプチドの同定や各因子間のネットワークを含めた摂食調節機構の解析が進んでおり,摂食調節物質そのものや受容体をターゲットにした創薬により,新しい抗肥満薬が開発され実用化されつつある.
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.599-604, 2015 (Released:2015-11-10)

リハビリテーション科医としての開業-在宅医療に特化したクリニックという選択-…神山 一行 599リハビリテーション科単科である当院の歩みと現状…水野 雅康 602
著者
風間 健太郎
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.3-23, 2015 (Released:2015-04-28)
参考文献数
169
被引用文献数
1 5

鳥類が担う多様な生態系機能の大部分は,生態系サービスとして人間に利益をもたらす.そのうち供給サービスや文化サービスは古くから人間に認知されてきたが,基盤サービスや調整サービスの認知度は低く,その価値評価も不十分である.鳥類は捕食,移動,および排泄を通じて,種子散布・花粉媒介,餌生物の個体数抑制,死体の分解・除去,および栄養塩類の循環などの多様な生態系機能を担う.これらは,有用植物の生産性向上,有害生物の防除,生息環境の創成・維持などの利益を人間にもたらす.近年ではこれら生態系サービスの価値を経済的に評価する試みがなされているが,その実例は少ない.主に農耕地生態系において古くから鳥類の生態系サービスを享受してきた日本においては,その理解と価値評価がとくに必要とされる.

2 0 0 0 OA 尺八史考

著者
栗原広太 著
出版者
竹友社
巻号頁・発行日
1918
著者
伊藤 ゆり 中村 正和
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.613-618, 2013-09-15
参考文献数
12

<b>目的</b> 1998年にたばこ特別税が創設されて以来,2003年,2006年,2010年と過去 3 回のたばこ税•価格の引き上げが実施された。我が国におけるたばこ販売数量および販売代金に関する統計データの年次推移を用いて,過去のたばこ税•価格引き上げの影響を評価する。<br/><b>方法</b> (社)日本たばこ協会による紙巻たばこ統計データより,平成 2 年~平成22年度(1990~2010年)の年度別販売実績(数量および代金)をそれぞれ,Joinpoint Regression Model に適用し,年次推移を分析した。また,過去三回のたばこ税•価格引き上げの影響を平野らの方法を用いて,たばこ価格引き上げ前の販売数量の減少(税•価格引き上げ以外の要因による減少)を考慮した上で,価格引き上げによる販売数量減少効果を推定した。<br/><b>結果</b> Joinpoint Regression Model により,1998年度以降たばこ販売数量は減少に転じ,2005年度以降は年率平均 5%で減少傾向にあることがわかった。また,2003年度,2006年度,2010年度のたばこ税•価格引き上げ年度における減少効果はそれぞれ−2.4%,−2.9%,−10.1%(震災影響の補正後)であり,価格弾力性はそれぞれ−0.30,−0.27,−0.28(同補正後)であった。2010年度の大幅値上げ時に販売数量の減少効果がもっとも大きくなった。一方,価格弾力性は2003年度,2006年度とほぼ同レベルで,税•価格を大幅にあげても販売代金および税収への影響は小さいことが示唆された。<br/><b>結論</b> 2010年度におけるたばこ税•価格の大幅引き上げは,たばこ販売数量を大きく減少させたが,価格弾力性は2003年度,2006年度とさほど変わらなかった。今後我が国における喫煙の被害を減少させるためにも,さらに大幅なたばこ価格の引き上げが必要であることが示唆された。
出版者
日経BP社
雑誌
日経メディカル (ISSN:03851699)
巻号頁・発行日
vol.39, no.9, pp.24-26, 2010-09

患者団体の要望に応え厚生労働相が治療法の保険適用を検討すると明言した「脳脊髄液減少症」。だが、診断基準は確立されておらず、髄液漏れを止める治療(ブラッドパッチ)が効かない患者も多い。 今年4月、長妻昭厚労相は、脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)について、「2年後の診療報酬改定で治療法の保険適用を検討する」と明言した。
著者
皆川 厚一 Minagawa Koichi
出版者
神奈川大学 国際常民文化研究機構
雑誌
国際常民文化研究叢書7 -アジア祭祀芸能の比較研究-=International Center for Folk Culture Studies Monographs 7 -Comparative Study of Asian Ritual Performing Arts-
巻号頁・発行日
vol.7, pp.115-138, 2014-10-01

バリ島は、イスラム教徒が圧倒的多数を占めるインドネシア共和国にあって唯一ヒンドゥ教徒人口の多い島であり、歴史的にもイスラム伝来以前のヒンドゥ=ジャワ文化を継承し、同時に中国文化の影響を含むヒンドゥ以外の文化的事例も多く現存する地域である。 本論文ではそのバリ島の文化的事例のなかから3 例をとりあげる。これらはいずれも現地バリ島社会において「中国から伝わった」という認識が定説化しているものである。 ( 1 )中国銭 中国銭は紀元前後から広く東南アジア地域で流通していたとみられる。インドネシアでは13 世紀以降、東ジャワに興ったマジャパイト朝時代に宋・明との貿易を通じて大量の中国貨幣が流通していった。これらは当初、国際貿易上の通貨として用いられていたわけであるが、バリ島では歴史のある時点からそれが儀礼のアイテムとしてその価値と重要性を増していった。この穴あき中国銭のバリ社会における意味と儀礼的機能を考察する。( 2 )バロン・ランドゥンバロンは観光芸能としても有名であるが、獅子型だけでなく、人間型のものも存在する。それはバロン・ランドゥンと呼ばれバリ社会では祖先のトーテムでと考えられている。 これは夫妻一対の巨大な人形で、その妻のキャラクターが中国由来と信じられている。即ちバリ人は先祖に既に中国人の血が入っていることを認めているわけである。その由来に関する伝説等を検討し、バリ島民の祖先に対する認識の中にある「中国」を探る。( 3 )ガムラン・ゴング・ベリとバリス・チナ バリ島南部のルノン地区には中国起源とされるガムランの一種ゴング・ベリが伝承されている。これは一般的なガムランと異なり、太鼓、シンバルなどの打楽器を中心としたアンサンブルで、儀礼の際にはそれに法螺貝などが加わる。 このガムランによって伴奏される儀礼が、バリス・チナすなわち「中国のバリス」と呼ばれるもので、神懸かりを伴う祭祀芸能である。これを伝承する人々はいわゆる華人・華僑ではなく、何世代もバリに暮らすバリ人でありヒンドゥ教徒である。この音楽と儀礼の由来を調べることでバリ社会の中の中国文化の古層を探る。