- 著者
-
中島 一敏
- 出版者
- 一般社団法人 日本内科学会
- 雑誌
- 日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
- 巻号頁・発行日
- vol.105, no.3, pp.547-552, 2016-03-10 (Released:2017-03-10)
- 参考文献数
- 16
中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome:MERS)は,2012年から3年以上,サウジアラビアを中心に患者発生が継続し,2015年8月27日までに,世界26カ国から1,511人の患者が報告されている.アラビア半島以外での患者発生は小規模にとどまっていたが,2015年5~7月に韓国で発生したアウトブレイクでは186人が感染した.MERSは,重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS)と比較し,ヒトコブラクダでウイルスが維持されている動物由来感染症であり,同時多発的な国際伝播,航空機内での感染,市中感染などが起こっていないことなどの特徴があり,SARSで2~3とされている基本再生産数は1未満と推定されている.現在,SARSのように大規模で国際的な拡大の予兆は認められていないが,未知なことも多く,今後,ウイルスの変異に伴い,感染性が高まる可能性も否定できない.動物からの感染予防,院内感染対策などを強化するとともに,発生動向の国際的な監視が必要である.