- 著者
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小串 直也
中川 佳久
宮田 信彦
羽崎 完
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.0712, 2016 (Released:2016-04-28)
【はじめに,目的】高齢者の多くは加齢に伴い特有の不良姿勢をとり,その中でも頭部前方突出姿勢は臨床において頻繁に観察される。頭頸部は嚥下機能と強く関係していることから,頭部前方突出姿勢は嚥下機能に影響を与えると考える。また,嚥下時の食塊移送には舌の運動が重要であり,舌筋力の低下は嚥下障害の原因のひとつである。しかし,高齢者の頭部前方突出姿勢が舌筋力に与える影響についての報告はない。そこで,本研究は高齢者の頭部前方突出姿勢が舌筋力に与える影響について検討した。【方法】対象はデイサービスを利用している神経疾患の既往のない虚弱高齢者16名(平均年齢85.6±7.7歳)とした。使用機器は舌筋力計(竹井機器工業株式会社製)と舌圧子(メディポートホック有限会社製)を用いた。測定は舌突出力と舌挙上力の2項目とし,各2回ずつ測定した。舌突出力の測定は口唇に舌圧子を当て,舌を最大の力で突き出させた。舌挙上力の測定はまず被験者に開口させ,口腔内で舌圧子を固定し,舌を最大の力で押し上げさせた。また,被験者の第7頸椎棘突起にマーカーを貼り付け,測定中の頭頸部をデジタルビデオカメラ(SONY社製)により撮影した。その後,Image Jにて第7頸椎棘突起を通る床との水平線と第7頸椎棘突起と耳珠中央を結んだ線のなす角を計測し,舌突出力測定中および舌挙上力測定中の頭蓋脊椎角(以下CV角)を算出した。測定肢位は端座位とし,頭部をアゴ台(竹井機器工業株式会社製)に固定した。分析は各々2回の平均値を代表値とし,舌筋力とCV角の関係を明らかにするために,Spearmanの順位相関係数を求めた。【結果】舌突出力は平均値0.23±0.10kg,舌突出力測定中のCV角は平均値29.50±5.79°となり,相関係数R=0.70で有意な正の相関を認めた(p<0.01)。舌挙上力は平均値0.22±0.09kg,舌挙上力測定中のCV角は平均値29.57±5.74°となり,相関係数R=0.72で有意な正の相関を認めた(p<0.01)。【結論】今回,高齢者の舌筋力とCV角の間に有意な正の相関を認めた(p<0.01)。このことから,高齢者の舌筋力と頭部前方突出姿勢は関係していることが明らかになった。舌筋力の低下は嚥下障害における原因のひとつであり,実際に嚥下障害患者に対して舌負荷運動が実施される。また,舌と姿勢の関係について頸部の屈伸や回旋が舌運動や舌圧に与える影響については報告されてきた。しかし,高齢者の頭部前方突出姿勢と舌筋力の関係については報告されていなかった。CV角は頭部前方突出の程度を表現しており,加齢とともに小さくなる。頸椎の過剰な前彎を伴う頭部前方突出姿勢では舌骨下筋群が伸張され,舌骨を下方に引くと考える。舌骨には舌筋の一つである舌骨舌筋が付着しており,舌骨の下方偏位は舌の運動を阻害するため,舌筋力とCV角の間に有意な相関を認めたと考える。したがって,舌筋力の向上には姿勢の改善が必要であると考える。