著者
横尾 直樹 山本 和良 中村 潤一郎 本田 淳 上杉 昌章 斎藤 知行
出版者
日本腰痛学会
雑誌
日本腰痛学会雑誌 (ISSN:13459074)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.111-116, 2003 (Released:2008-06-30)
参考文献数
9

18歳以上の女性ダンサー282名(プロ109名,アマチュア173名)を対象に,腰痛に関するアンケート調査を行った.バレエ歴はプロ23年,アマ15年と有意にプロが長く,週平均レッスン時間はプロ11時間,アマ6時間,年間舞台回数はそれぞれ12回,2回と有意にプロが多かった.腰痛はプロの92%,アマの84%に認めた.プロではそのうち43%がレッスンに支障のある痛みで,10%に休職の経験があった.腰痛の部位はプロ,アマともに有意に下位腰部,左側優位が多く,腰痛を誘発する動作は腰椎伸展時が最も多かった.病院,医院への受診は10%と低率であった.プロダンサーはバレエ歴が長く,十分トレーニングを積んでいるにもかかわらず,アマチュアに比べ休職率が高いなど腰痛が重度であり,腰背部のoveruseが原因の1つと考えられた.慢性的な腰痛や強い腰痛のあるダンサーは,分離症や疲労骨折などが存在する可能性があり,整形外科医による検診や,定期的なメディカルチェックなどが必要であると考えた.
著者
木下 利喜生 橋崎 孝賢 森木 貴司 堀 晋之助 藤田 恭久 幸田 剣 中村 健 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100176, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 当院リハビリテーション(リハ)科では、リハ室で患者が急変した場合、緊急カート、心電図モニター(ECG)、パルスオキシメーター、血圧計、ストレッチャーなどの準備、装着を現場スタッフで行う。同時に他のスタッフがリハ医へ報告、現場での診察を依頼し、身体所見やモニターなどの情報をもとに対応の指示を仰ぐまでの一連の流れを救急時対応とし、全スタッフを対象にトレーニングを実施している。そのため、当科では、これまでにも幾度となく血圧や意識レベル低下などの急変が発生しているが、全ての案件において対応が可能であった。 今回、リハ実施時において、開設から始めて患者が心肺停止となる状況に直面した。その際にリハ科で対応可能であったこと、またシステム上の不備や対応不足が明らかとなったことを情報の共有のために報告する。【方法】 10時20分頃、理学療法室で立位練習開始、血圧低下認めないため、平行棒内での歩行練習をこの日より開始する。平行棒内での歩行練習後もバイタルの著明な変動ないため、10時40分頃に歩行器での歩行練習を行う。歩行器歩行10m程度で両下肢の脱力、意識消失を認め、理学療法士数名でベッドへ寝かせている間に、リハ医と外来看護師に連絡、ECG、パルスオキシメーター、血圧計を装着した。ECG上60台でサイナスリズム、酸素飽和度98%、血圧測定行えないためベッド上で下肢挙上する。10時45分頃リハ医・看護師到着、何度か血圧測定するも測定できず、病棟に連絡し、ストレッチャーでの迎えを要請する。その後、意識レベル改善認めず、徐々に酸素飽和度が低下し始めたため、10時48分にホワイトコール(救急対応依頼の全館放送)を要請する。リハ医と看護師により酸素投与開始し、アンビューバックを準備している際に多数の医師、看護師到着。頚動脈も触知困難のため救急医師により、心臓マッサージ、挿管により気道確保され、救急処置室へ搬送される。その後の検査の結果、急変原因は肺血栓塞栓症であることが判明した。【倫理的配慮、説明と同意】 本症例の情報は、医療記録から特定できないよう匿名化し、プライバシーに配慮した。また、今回の発表にあたり当大学医療安全推進部に発表内容および目的を十分に説明し、発表の了承を得た。【結果】 初期対応は、手順通り実施できており問題ないと思われた。しかし、多数の医師、看護師が到着、理学療法室内が騒然とし、リハ中の患者を移動するなどの対応をとるべきであったが、これまでに心肺停止でのホワイトコール経験がなく、迅速な対応が行えず、駆け付けた看護師の判断により、病棟へ帰室するかたちとなった。 また、当科では酸素配管はあるがボンベを常備しておらず、リハ室から救急対応室へ搬送する際の酸素ボンベを救急部に借りに行く必要があった。【考察】 今回の対応の不備は、これまでに心肺停止によるホワイトコールの経験がなく、我々の想定していない状況下に陥った事が背景にある。これを受けて、ボンベの常備を早急に行い、ホワイトコール時は、一旦、リハ中の患者を発生現場以外の訓練室に移動したのち、病棟へ搬送すると決定した。また、シミュレーションをホワイトコールまでを想定したものに変更し、すぐに全体研修を実施、また人事異動のある4月初旬に必ず全体研修を実施すると決めた。 院内対応としては、長期臥床患者のリハを開始する際は、下肢深部静脈血栓症・肺梗塞のリスク因子を評価し、必要があれば下肢静脈エコーを行うなど早期発見・早期予防に務めるよう全科へ指導が行われた。当科でも下肢の腫脹などの身体所見の確認だけでなく、Dダイマー、FDPなどの血液データの確認を指導した。またリハ科で行える静脈血栓塞栓症の予防として、早期からの歩行および積極的な運動が重要であることを再教育し、早期離床を再度徹底した。 今回の案件を経験し、考えうる最悪の状況を想定した急変時対応を常に考えていく重要性を痛感した。本案件だけでなく、ひとつひとつの事例背景を分析し、対応マニュアルの強化、更新が必要であり、また積極的に文献抄読や学会参加をすることで、常に新しい情報を収集しておくことも重要であると感じた。【理学療法学研究としての意義】 最も重篤な急変の1つである心肺停止事例における、対応時の問題、さらにその解決策を報告することは、今後のリハ室での急変時対応マニュアル作成や強化などをする際の貴重な情報になると考えられる。
著者
保本 孝利 中 徹 實延 靖 北川 雅巳 中村 晋一郎 岡田 和義 横山 大輔 速水 明香 谷山 貴宏 中嶋 正明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3145, 2009

【目的】スパズムが生じた筋に対して圧迫によるストレッチ(PS)を加えると,スパズムが緩和することはよく経験するところである.しかし PSを施行する際の有効な施行時間についてはあまり明らかではない.そこで今回,筋スパズム緩和に有効なPS施行時間について,筋硬度,筋組織酸素飽和度(StO<SUB>2</SUB>)などの諸点から比較検討したので報告する.<BR><BR>【方法】対象は立ち仕事の多い健常成人男性6名(29.0±4.2歳)とし,就業後に同一施術者が被検者の腓腹筋中央部に対してPSを腹臥位にて行った.PS時間は10,20,30,60秒とし,各施行は異なる日に行った.各施行の直前,直後,一時間後に,筋硬度,StO<SUB>2</SUB>,組織内ヘモグロビン量(Total Hb)を測定した.筋硬度はASKER社製・DUROMETERを,StO<SUB>2</SUB>およびTotal Hbは近赤外線分光器(オメガウェーブ社製,BOM-L1TR)を用いた.併せて,足関節の背屈のROMを用手計測,筋疲労度(MF)を主観的評価VASにて調べた.統計処理にはフリードマン検定を使用し有意水準5%とした.なお,全ての被験者には本研究の趣旨を説明し,同意を得た上で実施した.<BR><BR>【結果】筋硬度については10,20秒では変化がなく,30秒では,直後で減少(p<0.05)し,一時間後は直前の状態に戻った.60秒の場合は,直後で減少(p<0.01)し,一時間後は直前よりも減少傾向(直前や直後との間に有意差が無い状態)にあった.StO<SUB>2</SUB>は全ての施行時間で直後に増加傾向にあるが有意差は無く,一時間後は直前の状態に戻った.Total Hbは全ての施行時間で変化は無かった.ROMは直後で増加傾向にあるが有意差は無く,一時間後では直前の状態に戻る傾向にあった.MFは全ての施行時間で直後のみ減少(10,20,60秒:p<0.01,30秒:p<0.05)した.<BR><BR>【考察】筋スパズム緩和に有効なPS施行時間としては,筋の柔軟性を短期的に向上させるには30秒間が必要であること,60秒間では施行直後に筋の柔軟性を持続させる可能性があることが今回の研究により示唆された.また,結果は以下についても示唆している.1-筋の柔軟性の変化は血流動態のみで規定されない.2-下腿三頭筋へのPSは短期的に足関節背屈の可動域を増加させる可能性はあるが,持続効果は無い.3-PSは刺激時間に関係なく施行直後に心的なリラクセーションを与える.
著者
中山 達貴 中村 俊之 宇野 伸宏 Schmöcker Jan-Dirk
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.I_1093-I_1104, 2017

本研究では,速度超過による交通事故発生が多い名阪国道を対象にプローブデータを用いた潜在的な事故危険性の把握手法を構築するものである.本研究では特に商用車の走行軌跡データから速度推移に基づき,潜在的な事故危険性を伴う走行をクラスター分析により分類し,潜在的事故危険性を誘発している区間の抽出に二項ロジスティック回帰分析を適用した.分析の結果,当該路線における潜在的事故危険性の高い走行は安全な走行と比較して,速度推移に差異が生じる地点が実際の事故多発区間よりも上流側に存在してことが明らかになった.本研究で得られた知見を踏まえ,今後の交通安全対策の実施が期待される.
著者
鈴木 悟史 中村 俊之 吉井 正広 中島 正勝 中西 洋喜 本田 瑛彦 小田 光茂
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集C編 (ISSN:18848354)
巻号頁・発行日
vol.79, no.807, pp.4233-4248, 2013 (Released:2013-11-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

Generally, many space satellites have large solar array panels for power generation and large antennas for observation and communication. The panels and antennas must be lightweight because of the payload weight limit of the launch vehicle. So, they are very flexible, with little damping ability. This results in vibrations cause serious problems. When the thermal environment around a flexible structure on orbit such as a solar array panel changes to cold or hot, the flexible structure produces its own deformation or vibration. These occur most often during rapid temperature changes called thermal snap or thermally-induced vibration, which has been known to cause attitude disturbance in Low Earth Orbit (LEO) satellites. Thermal snap vibration occurring on a flexible solar array panel is very slow. It is very difficult to measure thermal snap motion by sensors such as accelerometer. The behavior of a space structure affected by thermal snap has never been observed directly in space so far. This report presents the measurement results of “IBUKI” solar array panel's behavior using monitor camera.
著者
中村 克明
出版者
関東学院大学文学部人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.128, pp.73-86, 2013

平和的生存権(平和に生きる権利)は,1962(昭和37)年に星野安三郎によって提唱された"新しい人権"である.平和的生存権の法的性格・意味内容に確立した学説は存しないが,この権利の中核に徴兵制の否定があることは大方の承認するところである.国民を強制的に軍隊に徴収し,一定期間,軍事訓練させ,戦争に備えるための徴兵制が,人命・人権尊重の観点からはもとより,平和主義その他の諸点からみても,野蛮で非人道的な制度であることは明白である.今日,軍隊を有する国家において,徴兵制廃止の動きがみられるのも,当然のことといってよいのである.そもそも軍隊は,その目的が何であれ,"破壊と殺戮"を本務とする戦争のための暴力装置である.軍隊は平和を保障するものではなく,戦争を保障するものである.軍隊の保有と徴兵制の制定を望む勢力が現在,政財界において中枢を占めるに至っているが,この制度の復活は国際的潮流に逆行するだけでなく,我が国が戦後培ってきた民主主義体制を崩壊させる危険性が極めて大きい.平和的生存権論のより一層の進展が,強く望まれる所以である.
著者
結城 由恵 村瀬 明世 上田 真意子 香西 夏子 中村 賢治 廣田 憲威 山﨑 義光
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-9, 2017

<p>インスリンないし経口血糖降下剤治療あるいは併用治療中の日本人2型糖尿病患者34名に,GLP-1受容体作動薬リラグルチド0.9 mg/日投与し,投与前後のグルカゴン負荷試験を用いた内因性インスリン分泌能(<i>Δ</i>CPR)とCPI(空腹時Cペプチド分泌指標)を計測した.また24カ月までの血糖管理指標との関連性を検討した.HbA1cは3ヵ月後に有意に低下し,その後の変化は少なかった.導入前の<i>Δ</i>CPRと24カ月後のHbA1c変化量に負の相関を認めた.導入後12カ月のCPIは有意に改善し,<i>Δ</i>CPRは導入前に比し有意に低下を認めた.これらの結果から,日本人2型糖尿病患者に対するGLP-1受容体作動薬導入前のグルカゴン負荷を用いた内因性インスリン分泌能検索は,リラグルチド有効症例の事前判別に有効である可能性を示した.またリラグルチド投与により,空腹時内因性インスリン分泌の増加が示唆された.</p>
著者
木下 裕介 増田 拓真 中村 秀規 青木 一益
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富大経済論集 = The journal of economic studies, University of Toyama : 富山大学紀要 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.127-152, 2018-07

近年,持続可能な社会や都市への移行に向けて,日本の地方自治体(以下,自治体)においては,社会・経済の低炭素化や加速化する少子化・高齢化を含む,各種課題への対応が求められている。これは中長期にわたる包括・包摂的視座の下,既存施策・政策の再編を必須とする構造的変革(structural transformation) の可否を問うものであり,自治体にとっては,地域やコミュニティにおける集合的意思決定を如何にして行い課題解決をはかるのかという,ガバナンスにかかわる問題も含んでいる(Bulkeley et al. 2011; Hodson and Marvin 2010)。これらの点に関連する直近の政策動向としては,SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の達成をはかるため,2017年12月に国が打ち出した「地方公共団体における持続可能な開発目標(SDGs) の達成に向けた取組の推進」を挙げることができる。この施策は,「まち・ひと・しごと創生総合戦略2017改訂版」(2017(平成29)年12 月22 日・閣議決定)および「SDGsアクションプラン2018」(2017(平成29)年12月26日・持続可能な開発目標(SDGs) 推進本部決定)における,「『日本のSDGsモデル』の方向性」において取り決められたものである。このことは,SDGsの達成が,日本の都市・まちづくりを通じた地域・コミュニティの再興(すなわち,地方創生)に資するとの命題が,政府の政策体系に位置づけられたことを意味する。また,ここでの命題を具体化する事業として,国(内閣府地方創生推進事務局)は,2018年2月,自治体によるSDGsの達成に向けた取り組みを公募し,優れた取り組みを提案した最大30程度の都市を「SGDs未来都市」として選定の上,SDGs推進関係省庁タスクフォースによる支援提供を行うとした。上記政策展開において特筆すべきは,SDGsの達成に向けて,自治体が取り組むべき課題・対応策等をめぐり当事者・ステークホルダーが意思決定を行う際の手法として,「バックキャスティング(backcasting)」が明示的に採用された点である。将来シナリオの策定におけるバックキャスティングとは,予測を表すフォアキャスティング(forecasting) と対をなす用語として理解され,通常,あるべき将来を始点としてそこから現在を振り返る方法と定義される(Robinson 1990)。また,一般にバックキャスティングシナリオは,比較的遠い未来(例えば,2050年)のあるべき姿(ビジョン)を設定した後,その達成のために何をすればよいか(パス)を未来から現在まで時間的逆方向に考えるというプロセスで生成するものを指す(Kishita et al. 2016)。バックキャスティングを用いた将来シナリオの作成は,社会・経済を規定する制度・構造にまで踏み込んだ,イノベーションを伴う抜本的変革が求められる課題遂行において有効とされる。サステナビリティ・サイエンス(Sustainability Science)の分野では,2000年代以降,気候変動,エネルギー,SDGsといった政策課題への対応において,バックキャスティングを用いた将来シナリオがさかんに作成されるようになってきた(Kishita et al. 2016)。持続可能な社会への移行を企図したシナリオ作成に孕む困難な問題として,各自治体が目指すべき都市や地域に関する理想の将来像(ビジョン)が必ずしもステークホルダー間で共有されていない点が挙げられる。この問題の解決に向けたより民主的な政策立案の手法として,サステナビリティ・サイエンスの分野では参加型アプローチ(participatory approach) が注目を集めている(Lang et al. 2012; Kasemir et al. 2003)。その具体的な事例は欧州でさかんに見られるが,日本でもここ最近は行政や専門家が参画した市民ワークショップの開催という形態を中心として,さかんに実践されている(Kishita et al.2016; McLellan et al. 2016; 木下・渡辺 2015)。しかしながら,自治体や都市・地域の将来ビジョンを作成するための理論や方法論は,いまだ確立されていないのが現状である。また,ビジョン作成をどのように政策立案プロセスあるいは合意形成プロセスに反映させるべきかといったガバナンス問題に関する調査研究も,依然として萌芽段階である。そこで,本稿では,上記の研究課題の解決に向けたアプローチのひとつとして,市民ワークショップ(以下,WS)を用いたバックキャスティングシナリオ作成手法を提案する。本稿で提案する手法では,ロジックツリーと呼ばれるツールを用いて市民WSでの議論を因果関係に沿って構造化した上で,ビジョンに関する重要なキーワード(キーファクター)の抽出に基づいて複数のビジョンを作成する。さらに,シナリオの作成過程でWS参加者が議論した内容の論理構造を分析するため,持続可能社会シミュレータ(以下,3S シミュレータ)という計算機システムを用いる(Umeda et al. 2009)。このシステムは,持続可能社会シナリオの理解・作成・分析を統合的に支援することを目的として筆者らが開発してきたシステムであり,ビジョンとパスから構成されるシナリオの論理構造を可視化することができる(Umeda et al. 2009)。本研究では,以上の手法を,2064年の富山市における持続可能社会のシナリオを描くことを目的とした市民参加型WSに適用した。そこでは,年齢・性別・職業が多様になるように,10~70代の男女,合計16名を集めたWSを,全3回にわたって富山市で開催した。WSでは,参加市民を同様の人員構成となるよう2つのグループ(各8名)に分け,中立的ファシリテーションの下で対話・討議し,そこで示された様々なアイディアを記した文章と録音による発話データに基づいて,バックキャスティングシナリオを作成した。本稿の主たる目的は,市民WSを用いて得られた2本のシナリオのコンテンツおよびシナリオ作成のプロセスを通して,ビジョンの実現のために満足すべき目標と,とりうる政策オプションやその他の手段との関係性を分析することにある。さらに,本稿では,筆者らが提案したシナリオ作成プロセスが,ステークホルダー間の合意形成や自治体における政策立案に対してどのように資するのかという,ガバナンス問題についても考察を行う。
著者
井垣 宏 齊藤 俊 井上 亮文 中村 亮太 楠本 真二
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.330-339, 2013-01-15

我々は受講生のプログラミング演習時におけるコーディング過程を記録し,可視化して講師に提示するシステムC3PVを提案する.本システムは,ウェブ上で動作するオンラインエディタとコーディング過程ビューから構成されている.オンラインエディタは受講生のコーディングプロセスにおける,文字入力,コンパイル,実行,提出といったすべての行動を記録する.コーディング過程ビューは課題の進み具合いや受講者の相対的な進捗遅れを可視化して講師に提示する.講師はあるエラーに関して長時間悩んでいる受講生や全体の進捗と比較して遅れている受講生をC3PVによって確認し,個別指導といった支援につなげることができる.本研究では実際にC3PVを学部1年生が受講するJavaプログラミング演習に適用し,C3PVによって可視化されたコーディング過程を利用した受講生対応を行った.その結果,コーディング過程ビューに基づいて対応した45件中38件(約84%)において,実際に受講生がサポートを必要としていたことが確認できた.
著者
中村 善行 高田 明子 藏之内 利和 増田 亮一 片山 健二
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.62-69, 2014-02-15 (Released:2014-03-18)
参考文献数
24
被引用文献数
4 6

糊化温度が通常のサツマイモ品種・系統より著しく低いデンプンを含有する品種「クイックスイート」における加熱に伴うマルトース生成の機序を通常のサツマイモ品種「ベニアズマ」と比較検討した.50°Cから100°Cまで10°C毎に変えた温度で加熱した塊根から組織液を採取し,その糖度ならびにマルトースおよびスクロース含量を測定するとともに,同じ塊根から調製した粗酵素液の β-アミラーゼ活性を可溶性デンプンを基質として定量した.また,塊根組織細胞内のデンプン粒の形態を走査型電子顕微鏡で観察し,糊化度を β-アミラーゼ-プルラナーゼ法で調べた.「クイックスイート」では β-アミラーゼが高い活性を示す60°Cから塊根細胞内のデンプンが糊化した.また,デンプンが完全に糊化する80°Cにおいても β-アミラーゼの活性は維持されていた.他方,「ベニアズマ」では加熱温度が80°C以上からデンプン糊化が確認されたが,この温度域では β-アミラーゼ活性は大きく低下していた.両品種の β-アミラーゼに対する温度の直接的影響はほぼ同じであったことから,80°Cで加熱された「クイックスイート」塊根で β-アミラーゼ活性が未加熱塊根なみに維持されたことは当品種のデンプンが温度の低い加熱早期から糊化することと密接に関連すると推察される.すなわち,「クイックスイート」では「ベニアズマ」に比べ,より低い温度約60°Cから80°Cを超える高温に至るまでの広い温度域でマルトース生成が持続するため,「ベニアズマ」より糖度が高くなると考えられた.
著者
麦島 剛 上野 行良 中村 晋介 本多 潤子
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 = Journal of the Faculty of Integrated Human Studies and Social Sciences, Fukuoka Prefectural University (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.85-91, 2006-11-30

軽微な犯罪の早期解決がそれより重大な犯罪を抑止するという考え方を割れ窓理論 (broken windows theory)という。現在では、環境悪化放置の防止が地域の犯罪の抑止となる、 という観点から議論されることも多い。この理論の実践は1990年代半ばから米国において警察主導の取り組みとして始まった。最近は、日本でも地域住民主体による落書き防止などの取り組みとして盛んになっている。本研究は、地域環境悪化の放置および地域に立地する各種施設と、中学生の非行容認度との間にどのような関係があるのかを検討し、非行防止対策への手がかりとすることを目的とした。 福岡県内の中学2年生と矯正施設入所等中学生に対し、質問紙により以下の点を調査した。1)校区の悪化環境の放置に関する認識について、2)校区に立地する各種施設について、3)非行の容認について。その結果、悪化環境が放置されていると考える中学生は非行の容認度が高いことが示唆された。いっぽう少年院等の中学生は、悪化が放置された環境で暮らしていたと考える率が低かった。自らの住む環境の悪化が放置されていると感じるとき、中学生は非行を絶対悪だと考えなくなるが、放置状態に対して無頓着になると、実際に非行を犯す可能性が高まるとも考えられる。また、校区に、ギャンブル場などがあると答えた中学生において非行を許す程度が高かった。さらに、どんな施設であっても、立地する場合に環境が悪化していると認識する率が高かった。 以上の知見を踏まえると、落書きやゴミ放置などの公衆ルール違反を即急に解決することは、中学生が非行を許さないと考えることにつながる可能性がある。犯罪の低減と同様、割れ窓理論にもとづく具体的な取り組みが非行防止の一助となると考えられる。