著者
中野 浩志 常盤 直孝
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CdPF1027-CdPF1027, 2011

【目的】<BR>アキレス腱断裂術後の足関節可動域に関する報告や,跛行に関する報告は緒家により様々な報告がなされているが,足関節運動の質が跛行に及ぼす影響についての報告は少ない.今回,アキレス腱断裂術後約10週経過したにも関わらず跛行を呈した症例を経験し,足関節背屈時の距骨下関節に着目して理学療法を行った結果,良好な改善が得られた.今回の報告の目的は,その経験を通して評価体系についての研究を進めることである.<BR><BR>【方法】<BR>対象は20歳代,男性.剣道で踏み込んだ際に左アキレス腱を断裂し,他院にてOpe施行.その後経過良好のため退院するが,術後約10週経過したにも関わらず,歩行時の疼痛と上手く歩けないとの主訴で来院された.初期評価時では,歩行時のinitial contact(以下IC)時に踵骨への疼痛,terminal stance(以下TSt)時に断裂部位への疼痛があり,さらに歩いても前へ進まないという訴えがあった.歩行時の左立脚相では常に距骨下関節(以下ST関節)回内,下腿内旋であり,身体重心は右側へ偏位していた.各関節の可動域において著名な左右差はなかった.しかし,足関節背屈において過度なST関節回内を呈した背屈であり,ST関節中間位にて背屈を行うと可動域制限が著明に現れた.MMTに関しては左側の腓骨筋群,脛骨筋群,殿筋群が3,腓腹筋,ヒラメ筋で2と筋力低下を認めた.activeSLRにおいても,左側で陽性となった.立位アライメントは,左側のST関節回内位,下腿内旋が見られ,骨盤左回旋,体幹右回旋であった.なお,右側のPSISとASISの差2横指,左側のPSISとASISの差1横指と左側の骨盤後傾が見られた.身体重心は右側へ偏位していた.<BR><BR>【説明と同意】<BR>本研究は症例の同意を得て,ヘルシンキ宣言に基づいて行った.<BR><BR>【結果】<BR>理学療法アプローチをST関節内側後方への滑り込み制限に対して徒手療法を行い,ST関節を安定させる目的で後脛骨筋,腓骨筋群の筋力トレーニング行った.その結果,再評価時ではST関節中間位での足関節背屈可動域は改善し,歩行時の疼痛,前方への推進力も改善した.歩行時,左立脚相でのST関節回内,下腿内旋は改善し身体重心の位置も正中位へ近づいた.MMTに関しても左側の腓骨筋群,脛骨筋群,殿筋群が4,腓腹筋,ヒラメ筋で3と筋力が改善し,activeSLRも陰性と改善が得られた.立位アライメントでは,左側のST関節が中間位へ近づき,下腿内旋の改善が得られた.骨盤,体幹の回旋においても改善が得られ,左側のPSISとASISの差も1横指半と改善された.なお,身体重心も正中位へ近づいた.<BR><BR>【考察】<BR>今回,症例の主訴であった歩行時の疼痛,前方への推進力低下をST関節に着目して理学療法アプローチを行った結果,良好な改善が得られた.IC時の疼痛に関しては初期評価時に足関節背屈でST関節の内側後方への滑りが見られず,その結果過度なST関節回内を呈した背屈となっていた.そのため,IC時の衝撃吸収が行えず踵骨部に疼痛が生じていたと考えた.また,TSt時の疼痛においてはST関節回内位であることに加え,ST関節回内位により生じる前足部の不安定性に対して足底筋が過剰収縮する2つの要因により下腿三頭筋に牽引力が生じ,その状態で前方への推進力を得るため,努力性の蹴り出しを行った結果ではないかと考えた.なお,初期歩行時に前方への推進力が得られなかったのは,loading responseからmid stance時に前足部が早期に回内することで重心が正常よりも早い段階で内側へ偏位したためだと考えた.前足部が早期より回内する要因としては,立位時における身体重心右側偏位,長腓骨筋の機能不全により長腓骨筋と筋連結をしている前脛骨筋の筋力低下,さらに,足部から起こる上行性運動連鎖により骨盤後傾位となり,殿筋群の筋力低下によって,右側の骨盤が下制することで身体重心が右側に偏位したことが考えられた.以上のことから,初期評価時では足関節背屈時におけるST関節内測後方への滑り込み制限がダイナミックアライメントに影響を及ぼし,各関節の筋力を低下させ,歩行時の疼痛,前方への推進力低下を招いていたと考えた.したがって,理学療法アプローチによりST関節の後方内側への滑り込み,安定性が改善されたことで,再評価時ではダイナミックアライメントが改善し,各関節の筋力が改善したことなどに伴い,歩行時の疼痛,前方への推進力が改善したと考える.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>今回の結果から,理学療法評価を行う際には量だけでなく運動の質の評価も行い,他関節への影響も考慮する必要があることを再確認できた.今後の展望としては,各関節の可動性の違いによる筋活動の変化を筋電図等を用いて臨床の場で研究を行っていきたい.
著者
栗﨑 宏 藤井 義久 簗瀬 佳之 西川 智子 中野 ひとみ 瀬川 真未 清水 秀丸
出版者
公益社団法人 日本木材保存協会
雑誌
木材保存 (ISSN:02879255)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.256-263, 2015 (Released:2016-02-01)
参考文献数
7

寺社,木橋,古民家といった日本の伝統的木構造物では,擬宝珠,端隠し,根巻き,釘隠しなどと呼ばれる銅製金物が,防水の目的で施工されてきた。これら銅金物を施工した建築物では,金物の下方の木材部材の生物劣化が強く抑制されているものがある。これは,金物から溶出した銅が部材に移行し,木材保護効果を発揮したのではないかと考えられる。銅の溶出を検証するために,三条大橋高欄の銅擬宝珠付き木柱や釘隠し付き横木の表面と,橋のたもとに設置された防腐処理支柱の表面を,ハンドヘルド型蛍光X 線分析装置を用いて分析した。得られた蛍光X 線強度値から,FP 法に基づいて各元素の含有率を算出した。その結果,擬宝珠付き支柱表面では14の全測定点から銅が検出され,うち12点では防腐処理支柱表面で検出された銅含有率0.4%を上回った。今回の調査により,銅金物からは銅が溶出して周囲木材へ移行すること,また,その銅の量は木材の生物劣化抑制に十分寄与しうるレベルであることが確かめられた。
著者
前防 昭男 松森 正温 森脇 優司 中野 孝司 山出 渉 安室 芳樹 鍋島 健治 波田 寿一 東野 一彌
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.457-461, 1985

ビルハルツ住血吸虫症は,血尿を主訴とする寄生虫疾患で,アフリカや中近東などの熱帯地方がその流行地である.今回,我々は,世界旅行中,熱帯地方滞在の際に感染したと考えられるビルハルツ住血吸虫症を経験したので報告する.患者は33才の日本人男性. 1976年より世界旅行に出発,アフリカ,東南アジア,アメリカ大陸などを旅行していた. 1983年1月,メキシコ滞在中に血尿に気づくも放置していた.同年5月,日本へ帰国後も血尿持続し,精査のため入院.尿沈渣にて多数の赤血球および寄生虫卵を認め,その虫卵よりビルハルツ住血吸虫症と診断した.血液学的には好酸球増加および血清IgEの高値を認めた.また,膀胱粘膜の生検にて粘膜内にも虫卵を認めた.治療として酒石酸アンチモン剤を投与し尿中の虫卵が陰性化し退院した.本症は,流行地では2000万~3000万人もの患者が存在してるにもかかわらず,本邦ではほとんど認めることのできないまれな輸入寄生虫疾患であるが,海外渡航が頻繁に行なわれるようになつた現在,特に本疾患流行地に滞在していた場合には,血尿を認めた時には鑑別すべき疾患の一つになりえる.
著者
米澤 隆介 河井 剛 中野 克己 廣島 拓也 前原 邦彦 宮原 拓也 山際 正博 横山 聖一 阿部 裕一 江川 俊介 山畑 史織 實 結樹 久保田 めぐみ 常名 勇気 桒原 慶太
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.80-85, 2016 (Released:2016-03-17)
参考文献数
2

【目的】公益社団法人埼玉県理学療法士会(県士会)南部ブロック県央エリアの認知度と,地域で働く理学療法士(PT)の県士会活動へのニーズを把握する目的でアンケートを実施した。【方法】アンケートは県央エリアの全てのPTを対象とした。アンケートは県央エリアの認知度,研修会や研修会への参加,および県士会活動に関する情報収集に関する計7問とし,郵送にて送付と回収を行った。【結果】アンケートの回答数は274通であった。77名が県央エリアを知らないと答え,186名が県央エリアの研修会や交流会に参加経験がないと答えた。一方,218名が研修会や交流会に参加したいと答えたが,83名が県士会活動について情報収集しておらず,研修会や交流会の開催情報を知らなかったという意見が多かった。【結論】県央エリアの認知度を高めるとともに,研修会や交流会の情報を地域の隅々まで広報することで,PTの県士会活動への潜在的なニーズに応えていく必要がある。
著者
室伏 空 中野 倫靖 後藤 真孝 森島 繁生
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.21, pp.1-7, 2009-07-22
被引用文献数
1

本研究では、既存のダンス動画コンテンツの複数の動画像を分割して連結(切り貼り)することで、音楽に合ったダンス動画を自動生成するシステムを提案する。従来、切り貼りに基づいた動画の自動生成に関する研究はあったが、音楽{映像間の多様な関係性を対応付ける研究はなかった。本システムでは、そうした多様な関係性をモデル化するために、Web 上で公開されている二次創作された大量のコンテンツを利用し、クラスタリングと複数の線形回帰モデルを用いることで音楽に合う映像の素片を選択する。その際、音楽{映像間の関係だけでなく、生成される動画の時間的連続性や音楽的構造もコストとして考慮することで、動画像の生成をビタビ探索によるコスト最小化問題として解いた。This paper presents a system that automatically generates a dance video clip appropriate to music by segmenting and concatenating existing dance video clips. Although there were previous works on automatic music video creation, they did not support various associations between music and video. To model such various associations, our system uses a large amount of fan-fiction content on the web, and selects video segments appropriate to music by using linear regression models for multiple clusters. By introducing costs representing temporal continuity and music structure of the generated video clip as well as associations between music and video, this video creation problem is solved by minimizing the costs by Viterbi search.
著者
須田 義大 大口 敬 中野 公彦 大石 岳史 小野 晋太郎 吉田 秀範 杉町 敏之
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.95-98, 2016

新たなモビリティ社会の実現のためには,車両制御以外の様々な課題に対する取り組みが必要である.まず,全ての自動化のレベルでHMI が重要課題となる.次に,自動運転により人間にはできない高度な運転が実現できる一方で,一般交通への受容性評価もまた重要課題である.さらに,自動運転の実用化に向けては,自動運転に関する総合的なエコシステムを整え,社会制度との適合性を含む社会受容性を確保する必要がある.本稿では,このような自動運転により新たなモビリティ社会を築くための様々な重要課題と展望について述べる.

2 0 0 0 秋葉信仰

著者
中野東禅 吉田俊英編
出版者
雄山閣
巻号頁・発行日
1998
著者
石田 渉 横山 大作 中野 美由紀 豊田 正史 喜連川 優
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. DE, データ工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.112, no.172, pp.35-40, 2012-07-25

近年のクラウドコンピューティングでは,計算資源の管理に仮想化技術を利用している.仮想化技術の要素技術の一つであるVMライブマイグレーション等を利用することで,クラウドプロバイダではサービスを停止することなく計算資源の集約化や負荷分散が可能となる.現在,ウェブコンテンツ,センシングデータなどのデジタルデータが急増するなか,クラウドコンピューティングにおける大容量のデータを処理するアプリケーションの効率化が急務である.しかしながら,大規模I/O処理を行うVMライブマイグレーションの挙動は十分に解析されていない.本報告では,VMライブマイグレーション時の入出力挙動を実機を用いて詳細に解析し,大規模データ処理におけるVMライブマイグレーションにおける課題について明らかにする.
著者
長瀧 寛之 野部 緑 中野 由章 兼宗 進
雑誌
研究報告情報システムと社会環境(IS)
巻号頁・発行日
vol.2012-IS-121, no.4, pp.1-8, 2012-09-03

情報システムにおいてデータベースは重要な役割を占めているにもかかわらず,高校教科 「情報」 など一般情報教育においては,演習実施への敷居が高いなどの理由で,データベースが学習トピックとしてほとんど取り上げられていないのが現状である.本研究では,一般情報教育においてデータベース学習を容易に行える環境を提供することを目的に,コンピュータにおけるデータ操作の基本を体験的に行える学習用 Web ツールを提案する.本ツールは実際の一般情報教育の現場において授業実践を行い,そのフィードバックをもとにツールの改良を続けている.本稿では本ツールの概要とその工夫点を説明し,データベース学習活動への有用性について議論する.
著者
尾崎 恵美 高尾 純子 鶴川 まどか 西 美由紀 前田 智奈 中野 正博 高松 三穂子
出版者
バイオメディカル・ファジィ・システム学会
雑誌
バイオメディカル・ファジィ・システム学会誌 (ISSN:13451537)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.41-52, 2009-10-02

妊娠・出産を控えた若い女性が持っている分娩体位の知識と分娩台に対するイメージとの関連を明らかにする目的で、看護学生2年生77名、看護学生3年生75名、助産学生165名を対象にアンケート調査を行った。その結果、1)各分娩体位の認知度は看護学生と助産学生の間に大きな差が見られる(p値=0.000)。2)看護学生と比較して知識点の高い助産学生ほど明るいイメージ・主体性に関わるイメージは低く、逆に暗いイメージは高くなっていた。3)"普通だ""当たり前である"(ともにp値=0.000)、"一般的だ"(p値=0.012)の項目で看護学生と助産学生の間に有意差が見られ、知識点が低いほど分娩台で産むことを当然であるという意識があると考えられることが明らかとなった。
著者
中野 里美
出版者
明治大学大学院
雑誌
明治大学大学院紀要 文学篇 (ISSN:03896072)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.281-290, 1993-02-15

1893年にサンフランシスコで殺人事件が起こった。「コリンズという労働者が、妻と別居中に、その妻を幼稚園の控え室で刺し殺したというもので、妻は雑役婦であったが、夫に金を渡すのを拒んだ」という内容である。この事件を基にして書かれたフランク・ノリス(1870~1902)の『マクティーグ』(1899)は、ハーヴァード大学在学中におけるゲイツ教授の授業の課題作文から生まれたものである。ノリスの属する自然主義の小説に見られる人間像は「人間存在の全体はいたずらに悲劇的だ、そう彼は言っているかに見える。人間の男女には真に選択する力はない。彼等は苦しむために生まれるが、ギリシア悲劇のヒーローのような高貴な諦念があるわけではない」と表される。なぜ自然主義小説の登場人物が悲劇的で苦悩の人生を送らねばならないか。それは「人間に自由意思はない、外部と内部の力、環境や遺伝が人間を支配し、その行動を決定する」からである。
著者
加藤 英寿 堀越 和夫 朱宮 丈晴 天野 和明 宗像 充 加藤 朗子 苅部 治紀 中野 秀人 可知 直毅
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-29, 2008-03
被引用文献数
1

2007年6月、東京都環境局と首都大学東京は南硫黄島自然環境調査を実施した。南硫黄島で山頂部を含む上陸調査が行われたのは1982年以来25年ぶり、史上3回目である。その厳しく危険な自然環境故に、調査時の安全確保が最大の課題となったが、現地情報がほとんど無い中での計画立案はほとんど手探りの状態で、準備も困難を極めた。また貴重な手つかずの自然を守るため、調査隊が南硫黄島に外来生物を持ち込まない、そして南硫黄島の生物を持ち出して父島などに放さないための対策にも細心の注意を払った。幸いにして今回の調査では事故もなく、数多くの学術成果を得て帰ってくることができたが、調査隊が経験した困難・危険は、通常の調査では考えられないことばかりであった。よって今後の調査の参考となるように、今回の調査を改めて振り返り、準備段階から調査実施までの過程について、反省点も含めてできる限り詳細に記録した。